Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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32.遠征準備

 

 

 

 コルドン前哨基地を越え、ルーキー村へと向かうアキラとライカン。2人はコルドンの中心に真っ直ぐ敷かれた道路を歩いていた。

 

 比較的安全な、ルーキーがZONEを体験するのにうってつけな地域とは言えアノマリーやミュータントの脅威はしっかり存在する。ライカンはアキラの身に危険が及ばないよう、周囲に注意を払いつつ、初めて目にするZONEの景色を興味深く観察していた。

 

 「当然ではあるのですが……やはりホロウが存在しない環境にしか見えませんね。かと言って、“普通”には程遠い。私達の常識が通じない場所と言うのは本当の様です。」

 

 「そしてその一番“普通”じゃない物が見えてきたよ、ライカンさん。」

 

 「あれが噂に聞くアノマリーですか。見た目は普通のつむじ風に見えますが…」

 

 道路を進む2人の目の前に現れたのは、ZONEでは一般的なアノマリー「Whirligig(風車)

 ライカンの言う通り、ただのつむじ風にしか見えないが、実際は人間をいとも容易くにバラバラに引き裂くアノマリーだと警告するようにアノマリー探知機が強く反応していた。

 

 「でも違う。ここに何か入り込むと……」

 

 アキラは懐から錆びついたボルトを取り出す、前回ZONEに行った時に、アノマリー探知機と同じくスキフに渡されて、そのまま持ち帰ってきた物だ。

 リンとFairyからは「ゴミ」と容赦なく言われたボルトをアノマリーに放り込むと、「Whirligig(風車)」はその力を発動した。

 

 「……成る程、これが一歩でも足を踏み入れてしまえば死を免れないトラップ。やはり記録映像で見るのとは一味違いますね。」

 

 「アノマリー探知機があるとは言え、案外これが役に立つんだ。わざとアノマリーを発動させて再展開するまでに通る事も出来る……全部受け売りだけどね。」

 

 その目と肌で感じたアノマリーの力に驚くライカン。実のところ新エリー都には優れたVR技術があるので、集まった情報からZONEのアノマリーを再現したVR訓練施設が非公式に存在するのだが、ZONEを経験した防衛軍の兵士やホロウレイダーに体験させてみた所、「アノマリー特有の“気配”が全く再現されてない。」と総スカンを食らった。

 

 市長のツテで一度体験し、ある程度アノマリーに対する訓練を行ったライカンであったが、“本物”のアノマリーをその目で見るとそう言った批判の意味がなんとなく分かる。

 全くの異質な世界の力。ホロウ内の特殊なエーテルに起因する現象とも違う、そしてその殆どが人間を一瞬で死に至らしめる現象。確かにこれは現地で経験しなければ意味が無い、そうライカンは理解した。

 

 ただアキラの言う通り、ある程度アノマリーの対処法が存在する。それがボルトや小石などを投げ入れるという行為だ。

 大半のアノマリーは何かが入り込むとその力が作動する。そしてほんの僅かな時間だけ再展開するまでの“隙”が出来るのだ。この方法でZONEのホロウレイダー達は通るのに邪魔なアノマリーを避ける以外にも潜り抜ける事で対処する。

 もっとも、下手にアノマリーを作動させたせいで余計な事態になる事もしばしばあるのだが。

 

 

 

 アノマリー体験も程々に、アキラとライカンが道路を進んで行くと突然ライカンが足を止め、アキラに警戒を促す。

 

 「プロキシ様、どうやら我々を監視している者がいる様です。」

 

 「本当かい?バンディットかな。」

 

 「噂のZONEの賊ですか。しかし敵意は感じられません……恐らく数は2人、こちらに近づいて来ます。」

 

 「2人…?待ってくれライカンさん。もしかすると僕の知っている人かもしれない。」

 

 アキラには思い当たる節があるようだ。視界の先、道路脇の木々から2人の人影が現れる。

 その人物の顔が見える距離まで近づいて来ると、アキラの表情が明るくなる。その顔を見てライカンも警戒を解いた。

 2人もアキラの姿を確認すると、敵意が無いことを示す為に両手を広げ、喜びの声を上げる。

 

 「顔を合わすのは2週間ぶりだなプロキシ。会えて嬉しいぞ。」

 

 「スキフさんとはバーキープさん経由で話していたから久しぶりという感覚はあまりないけどね。僕も会えて嬉しいよ。リヒターさんは久しぶりだ。」

 

 「俺たちの力が必要みたいだからな!ヤンターから駆け付けて来たぞ!で、そっちのお方が……」

 

 「お初にお目にかかります。フォン・ライカンと申します。お二人が今回のガイドと護衛を担当するスキフ様とリヒター様でございますね、どうぞ宜しくお願い致します。」

 

 (凄い礼儀正しいなコイツ……ぱっと見隙が全く無い、かなり強いな。)

 

 ZONEにはあまりにも似合わない上品さと礼儀正しさを備えるライカンを内心珍しく思うスキフ。

 服装からしてZONEではなく金持ちの豪邸で執事をしているのが似合うライカンだが、単純な実力では間違いなく上位の強さだとスキフの勘が言っていた。

 

 「この道を通るだろうと思ってリヒターと待っていたんだ。俺たちの他にも雇う予定があるんだろ?候補が丁度ルーキー村に来ている。」

 

 「そう言えばライカンさん、現地のトレーダーに装備を用意してもらっているという話だけれど…」

 

 「ルーキー村のシドロヴィッチというトレーダーにZONEに適した装備の準備を任せております。他の候補の方もいるのであれば、ルーキー村には立ち寄った方が宜しいでしょう。」

 

 「シドロヴィッチかぁ……まぁ確かにZONEに来てすぐ世話になるならあいつしかいないけど……」

 

 スキフとリヒターはシドロヴィッチの名前を聞いて微妙な顔をする。ZONE一の狸親父はルーキーを搾取することで有名だからだ。だがライカンは恐らく問題は無いだろうと確信している。

 

 「今回の依頼を私に任した雇い主とシドロヴィッチ様はご友人でありまして、あなた方が危惧している様な事にはならないかと思われます。」

 

 「えっ」

 

 「そういう事なら安心だ。奴はお得意様とかにはしっかり義理を果たすタイプだからな。」

 

 役に立たなかったり、金の無いルーキー相手ならTOPS顔負けの搾取をしてくるシドロヴィッチだが、一度信頼を得れば非常に心強い後ろ盾になる事はスキフもリヒターも知っている。

 2人がそれならば安心だと言う一方で、驚愕の情報を知ったアキラは目を丸くしていた。

 

 ライカンの雇い主とは言わずもがな新エリー都市長である。そんな人とシドロヴィッチは友人だとはにわかに信じがたい。

 政治的に魑魅魍魎が跋扈する新エリー都の市政のトップならば表も裏にも交流関係があるだろうが、それでも驚くものは驚く。

 

 最初に会った時からどこか謎めいた雰囲気を感じ取ったシドロヴィッチは一体何者なのかと思いながら、アキラは他3人と共にルーキー村へと向かって行った。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 アキラ達がルーキー村に辿り着くと、レザージャケットや粗末な銃を持ったルーキー達の中に、高性能な装備を身に纏った明らかに熟練者の雰囲気を漂わせる集団が焚き木を囲んでいた。

 その内の1人はライカンと同じオオカミのシリオン、アキラも朧気に見覚えがあった人物で、リヒターが調子よく話しかける。

 

 「ようウルフ、暇な連中は集まったようだな!」

 

 「どいつもこいつも実力があんのにガーベジでぐうたらしている連中だぞリヒター、バンディット狩りは飽きたそうだ。」

 

 ルーキー達を世話しているベテランの「ウルフ」、彼を含めた5人のホロウレイダーが、今回の依頼に参加する予定の者達だろう。ウルフは軽く自己紹介をしようとアキラ達の方に振り向く。

 

 「アンタ等が今回の依頼人だ……な?」

 

 「その通りです、既にリヒター様から伝わっていると思いますが、今回沼地への調査の護衛を皆様方に───」

 

 「ライカンの兄貴?」

 

 ウルフが放ったその言葉に、ライカンは思わず固まってしまう。目の前の自分と同じ、オオカミのシリオンから兄貴と呼ばれたものの身に覚えが無い。自分の関係者を装っているのだろうかと疑い始めてしまう。だがウルフを見てみると、騙そうとする邪気は一切ない。

 

 「やっぱりライカンの兄貴じゃないか!モッキンバードの!俺だ、アンタの舎弟のウルフだ!」

 

 「えーっと…ライカンさん?彼とは知り合いなのかい?」

 

 「……思い出しました。モッキンバードにいた時にトラブルから助けた男がいたんですが……。」

 

 「あの時ギャングの連中に絡まれた所をアンタとヒューゴの兄貴が救ってくれたんだ!そして俺が勝手に舎弟を名乗り始めた!アンタ達にあしらわれていたけどな!俺は全部覚えているぜ!」

 

 興奮してまくし立てるウルフの側に、焚き木を囲んでいたホロウレイダーの1人が近付いて来る。他の者と同じ高性能なアーマーを身に着け、サプレッサー付きのアサルトカービンを主武装にした男だ。

 

 「何だウルフ、お前の昔話に出て来るヒーローってコイツのことだったのかよ。」

 

 「ああそうだ!紹介するよ兄貴、こいつは「ビス」。俺と同じZONEじゃ古株のホロウレイダーだ。何時もはガーベジを拠点にしているんだが今回の為に来てもらった。

 そうだ兄貴、モッキンバードはどうしたんだ?ヒューゴの兄貴は元気に───」

 

 「ん゛ん゛っ…!ウルフ、会えて嬉しいのは分かるがモッキンバードについては聞かないでくれると助かる。それよりもシドロヴィッチというトレーダーに会いに行かなければ。」

 

 モッキンバード時代の事は口にしたくないライカン、ヒューゴとの確執は最近の出来事で概ね解消されたと一応言っていいのだが、それでもあまり詮索されたくないのは確かだ。

 そんなライカンの心中を察したのか、ウルフはこれ以上の追求を止めた。

 

 「そうか…まぁ何年も経てば人間色々あるよな兄貴。シドロヴィッチならあっちのバンカーだ。」

 

 「……行きましょう、プロキシ様の装備も彼に用意して貰っております。」

 

 「そうだねライカンさん。じゃあ皆、少し待っててくれ。」

 

 どこか疲れた表情のライカンにアキラは苦笑しながら、2人はシドロヴィッチのバンカーに向かって行った。

 

 「スキフ、リヒター、どうしてライカンの兄貴が来ると言わなかったんだ!兄貴が来るなら報酬なんて要らなかったのに!ああクソもう一度会える日が来るなんて思わなかったぜ!」

 

 「おい待てウルフ、俺たちをタダ働きさせんじゃねぇ。」

 

 「ZONEに来る前のお前の兄貴分なんて知るわけないだろ、俺たちが知ってるのはあのプロキシだけだ!」

 

 「あいつが実力者なのは一目で分かるが…そんなに凄い奴なのかウルフ?というかモッキンバードってなんだ。」

 

 「お前らにも教えてやろう、ライカンの兄貴とヒューゴの兄貴、そしてモッキンバードのカッコ良さを───」

 

 ルーキー村から聞こえてくる会話を背に苦い顔をするライカン。恐らくウルフの中でのライカンとヒューゴはかなり脚色されているのでは無いかと危惧していた。

 

 「あること無いこと吹き込まなければ良いのですが……彼との付き合いは短かったもので、少しばかり心配です。」

 

 「このZONEでわざわざルーキーに生きる術を教えてくれるホロウレイダーだ、まぁ悪い人では無いんじゃないかな。」

 

 アキラもウルフの事はよく知らないが、スキフとリヒターが高く評価しているなら彼も信用出来る人物だろうと思い、バンカーの中へと入っていった。

 

 

 

 地面深く掘られたバンカーの階段を歩いて行き、最下層にある防爆扉を開けると、カウンターの向こうでシドロヴィッチがチキンを頬張っていた。

 シドロヴィッチはアキラとライカンを見ると、食べかけのチキンを皿に放り投げ、薄汚れたナプキンで手を拭く。

 

 「待っていたぞ、メイフラワーから事情は聞いている。お前らがZONEで大抵の事から生き延びられるような装備を整えてやった。」

 

 「感謝します。代金の件ですが……」

 

 「奴から既に貰っている、お前らが払う必要は無い……プロキシ、お前がメイフラワーのお気に入りとは驚いたぞ。」

 

 「僕もあなたが市長と友人だとは知らなかったよ、シドロヴィッチさん……変な仕事をさせられた時以来だね。」

 

 シドロヴィッチもアキラが市長と関わりを持っていたとは知らなかったようで、アキラの事を興味深い目で見る。

 アキラの方も目の前の闇商人のような男が本当に市長の友人なのか疑わしくなっている。

 前に会った時に強制的に彼から俺の仕事を受けろと言われ、どんな仕事をさせられるのかヒヤヒヤしたものだが、結局は何の変哲もない小荷物をホロウ経由でZONEに運ぶという簡単な仕事だったのが、彼の怪しさを増している一因だった。

 

 「大した仕事じゃ無かっただろ?あの仕事とメイフラワーのお墨付きという事が分かってお前は信用出来る奴だと判断した、俺の目に狂いは無かった訳だ。」

 

 「メイフラワー市長とはどういう関係なんだ?正直、あなたが本当に市長と友人なのか信じられない。」

 

 「まぁそうだろうな、だがあいつとは助けたり助けられたりするくらいの仲だ。付き合いが始まった経緯までは話す義理は無いな。」

 

 そう言われた為、アキラとしても深い詮索は止めることにした。シドロヴィッチはカウンターの奥、無数の武器や装備が仕舞われているコンテナからアキラとライカン用の装備を取り出す。

 その中にはスキフが装備しているようなアーティファクト用のコンテナが付けられたベルトが2つ用意されていた。

 

 「お前らはホロウじゃ百戦錬磨だろうがここはZONEだ、ここに適応した装備を身に着けていかんとあっと言う間にZONEに殺されるぞ。他でもないメイフラワーの頼みだから、お前らのスタイルに合わせた物を用意させて貰った。」

 

 「この奇妙なベルトは?」

 

 「ライカンさん、それは確かアーティファクトを入れるコンテナの筈だ、スキフさんが持っていたのを見た……待ってくれ、これ全部中身が入ってる…!」

 

 シドロヴィッチから渡されたコンテナには様々なアーティファクトが収められていた。アキラはアーティファクトの事を詳しく知らないので、これらがどれ程の力を持っているのかは分からない。それぞれアキラ用とライカン用に5つずつ用意してあった。

 

 「高純度の輝磁製だから侵食副作用は完全に防げる。アーマーの性能と合わせれば、殆どのアノマリーに突っこもうが、ミュータントどころか要警戒エーテリアスからの直撃を食らおうが死なずに済むぞ。

 ただ過信はするな、あくまで即死は防げるというだけでその次以降は保証出来ない、アーマーの耐久値にも気を付けろ。」

 

 「それ程の防護能力とは……本当なら、アーティファクトの力は噂通りの代物の様ですね。」

 

 「……PDAや回復キットや抗侵食除去薬まで沢山ある、至れり尽くせりじゃないか。」

 

 「メイフラワーからはお前達に万が一が無いよう出来る限りの装備を用意しろと言われてるからな。だが絶対に死なないという保証はZONEじゃできないからそこはお前らの実力と運に頼るしかない。」

 

 ZONE広しとは言え、これだけの装備とアーティファクトを持っている人は中々居ないのでは無いかとアキラは思った。

 シドロヴィッチはカウンター横の扉を開けると、近くの小部屋に指をさす。

 

 「そこで着替えて、お前らの服と必要じゃない物はここに置いていけ、お前達が戻ってくるまで俺が責任を持って預かっておく。」

 

 アキラとライカンは言われた通りに部屋に入り、ZONEの装備を身に着け始めた。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 バンカーから出てきたアキラとライカンを、スキフ達は驚きの声で出迎えた。

 気品に満ちた執事服と新エリー都の何処にでもいる様なジャケットを来ていたアキラとライカンは、見た目だけで言えば一流のZONEのホロウレイダーだ。

 

 アキラの方はZONEを調査する科学者達の着る防護スーツの改良型「SEVAスーツ」のヘルメット部分を取り外し可能にした物。

 ライカンは防衛軍の最新式アーマーをベースに対アノマリー性能を底上げしたZONEでは上位の高性能アーマー「PSZ-9I ファルコン」をライカンの戦闘スタイルに合わせて調整したオーダーメイド品だ。

 

 単純な防御力だけを重視するならエクソスケルトン(強化外骨格)を装備すれば良いのだが、慣れていない人間には扱うのに一苦労な上、その重量からライカンが装備しても機動力がかなり低下してしまう、その為シドロヴィッチは2人に渡す装備の選考から外していた。

 

 「凄い装備じゃないか、一式揃えるだけでかなりの金が掛かる代物だぞ。」

 

 「ふむ…私の一挙手一投足に馴染むように調整されている。シドロヴィッチ様は素晴らしい仕事をしてくれた様です。」

 

 「こんな重装備を着たのは初めてだ……長距離移動に苦労しそうだよ。」

 

 「プロキシ、俺に荷物を分けろ、お前には重すぎるだろ。」

 

 「よろしければ私の方も荷物がまだ入りますので、遠慮なさらず。」

 

 装備の着心地にそれぞれの感想を言うアキラとライカン。ライカンはともかく大量に持たされた回復キットや抗侵食除去薬だけではなく、非常用の食料もアキラのバックパックに詰められた為、控えめに言ってモヤシのアキラには少々きつい。

 そんなアキラを見かねてスキフとライカンはアキラの荷物を少し肩代わりする。

 

 「ありがとうスキフさんにライカンさん……そうだ、PDAも支給されたんだけど、スキフさんの連絡先を入れてもいいかい?」

 

 「勿論だ、これでZONEの中なら何処に居ても大抵連絡がつくぞ。使い方は………」

 

 「………通信はここだね、もう大丈夫だスキフさん、使い方は覚えた。」

 

 「シドロヴィッチの奴気前いいなぁ、明日はエミッション(光熱放射)でも来るのか?」

 

 「……リヒターさん、シドロヴィッチさんって一体何者なんだ?ZONEに来る前はどんな人物だったのか知らないかな。」

 

 かねてより疑問だったシドロヴィッチの正体をリヒターに聞くことにしてみたアキラ、以前会った時にリヒターとはZONEでかなり長い付き合いだと横で聞いていたのを思い出したのだ。

 

 「うーん……奴がどっから来たのか俺も知らないんだよなぁ、制圧作戦が失敗した後、大量の商品を抱えてふらりとZONEに来てトレーダー業を始めたのは知ってる。

 噂だと旧エリー都市政の重鎮だったとかTOPSのどっかの企業の元CEOだったとか言われてるけど本当の所は誰も知らない。

 ただ市政にもTOPSにも防衛軍にも顔が聞くから、ZONE内に物資が入って来て、弾と食いもんに困らない理由の半分はシドロヴィッチのお陰だ。」

 

 「つまり彼の過去は全く知らないと。」

 

 「噂が多すぎてどれが本当か誰も知らないんだよ、アホな噂じゃZONEが生まれたと同時にZONEに出現したとか言われてるんだぜ?」

 

 リヒターの言う通り、何処かの重鎮とかだったら何故ZONEに来たのだろうか。友人らしいメイフラワー市長に聞いてみようかなとアキラは考えるが、何故か脳内にメイフラワー市長がシドロヴィッチについて口を濁す光景が現れた為、脳の片隅に疑問を置いておくことにした。

 

 ルーキー村とシドロヴィッチのバンカーの間でライカンが咳払いをし、スキフ、リヒター、ウルフとビス等5人のホロウレイダーを集める。

 

 「さて皆さん、改めて申し上げますが、これより仕事のご依頼をお願いすることになります。沼地の現状はご存知でしょうか。」

 

 「皆知ってるぜ兄貴、確かホロウみたいな空間に戻っているとか何とか。」

 

 「ZONEにゃプロキシが殆どいねぇから誰も寄り付けないって話だったよな。」

 

 「その通り、ですが此方のプロキシ様が、ホロウと化しつつある沼地のガイドを致します。あなた方の仕事は沼地までのガイド及びにプロキシ様の護衛、これが依頼となります。」

 

 ホロウレイダー達がアキラを見る、別にZONEで戦えない人間(科学者)の護衛は珍しく無い。一瞥するとすぐにライカンに向き直した。

 

 「話に聞くことによりますと、沼地は非常に危険な地域とのこと、この時点ではまだ皆様方とは正式な雇用関係は結んでおりませんので、もし都合が合わなければ、この場を去って頂いても構いません。」

 

 「おいおい、報酬の額はいくらかまだ聞いてないぞ!」

 

 「依頼の前金、及びに成功報酬についてはこれだけお支払い致します。」

 

 ライカンから提示された金額に、ホロウレイダー達は一気に色めき立つ。市長から渡された予算はかなりの額だったのだろう、実はこれだけの金額を払ってもまだ余裕がある。

 

 「兄貴、俺は報酬が無くても───」

 

 「黙ってろウルフ!……よし交渉成立だ、俺達はアンタらを護衛する。腕に関しては信用してくれていい、こいつら皆、ZONEに来て長い連中だからな、ここらのルーキー共とは訳が違う。」

 

 咄嗟にウルフの口を塞ぐビス、彼らの実力はスキフとリヒターも認める程だ。ライカン自身はZONEに関して素人なので、ベテランと呼ばれる程にはZONEで日々を過ごしている彼らの協力は実に心強い。

 大抵のエーテリアスやミュータント相手ならばライカン一人でもアキラを守りきれる自信はあるが、ZONEで最も脅威となるのはアノマリーだ、それに対応出来る人材は何人居ても良い。

 

 (恐らく、讃頌会と戦う事になる可能性が高いですが…彼らならば十分戦えるでしょうね。)

 

 ホロウレイダー達の装備も非常に整っている上、ライカンを含めたこの人数なら並大抵の相手には遅れを取らない。

 ライカンがそう考えていると、スキフが何か質問があるらしく手を上げていた。

 

 「ところでプロキシ、ライカン。どうして沼地の調査する事になったんだ?」

 

 「それはだねスキフさん……」

 

 ちらりとアキラがライカンを見る。本当の事を伝えても良いのかと言う目だ。それに対しライカンは頷く、依頼を受けた以上情報の共有は必要な事だからだ。

 

 「皆様、讃頌会という組織はご存知でしょうか。」

 

 「讃頌会ぃ?」

 

 その名を聞いて、ホロウレイダー達が頭の上に?を浮かべる中、スキフだけは目を見開いて驚いていた。

 ヤンターのX-ラボで見た“夢”に出てきたその言葉、まさかこんな所で聞くとは思わなかったからだ。

 

 普通に生きていればあまり耳にしないような組織、更にZONEという閉鎖空間で生きているなら俗世には疎くなるのは当然だとして、アキラとライカンは簡単に讃頌会の事を説明した。

 

 「成る程、端的に言えばホロウを崇めるカルト教団か。」

 

 「そのようなご理解で十分かと、雇い主は沼地のホロウ化は彼らの仕業であると考えており、私達を派遣した次第です。」

 

 「ざっけんじゃねぇ、ZONEがホロウに戻っちまったらアーティファクトが採れなくなるかもしれないじゃねえか。やっつけるしかねぇな。」

 

 何処でそんな情報を手に入れたなど、肝心な所をぼかしながら説明をし、ホロウレイダー達は状況に納得する。ビスに至っては讃頌会と戦う決意まで固める程だ。

 

 「ではもう一度お聞きします、あなた方への依頼は沼地での調査を行うプロキシ様の護衛と、場合によっては讃頌会との戦闘が予測されます。契約成立ということで宜しいですね?」

 

 ホロウレイダー達は問題無しと言わんばかりに頷いた。それを見てライカンも頷き、ルーキー村を出発する。先頭にはリヒターが立っていた。

 

 「沼地に入るまでは俺がガイドをするぞ!まずはワイルドアイランドを通過して「イカルス」を中継する。そしてザトンの「スカドフスク」で一旦装備を整えてから向かった方が良い、それでいいか、プロキシにライカンさん。」

 

 「沼地までのルートはZONEのガイドであるリヒター様に一任致します。」

 

 「僕も依存は無いよ、宜しく頼むねリヒターさん。」

 

 リヒターが意気揚々と先頭に立ち、一行はコルドンを通る道路を歩いて行く。

 スキフはアキラとライカンの側を歩きながら、ZONEにいるかもしれない讃頌会に思考を巡らせていた。

 

 (そいつらが本当にいるのなら、“夢”の事が何か分かるかもしれない。モノリスの事も……)

 

 ZONEで何かを企んでいるかもしれない讃頌会、スキフはそんな組織に思いを馳せながら、リヒターの後ろをついていった。

 

 

 

 

 






 S.T.A.L.K.E.R2DLC夏配信!デューティとフリーダムが帰ってくるぞ!
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