Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
ザトンのスカドフスクを拠点とするホロレイダーとバンディットの元締め2人から「沼地へ行かない方がいい」と何一つ思惑がない表情で言われたスキフ達。
少し離れた場所で聞いていたアキラとライカンも、沼地が危険な場所だとは知っていたが、こうも直球の警告される程の物だとは思わなかった。
スキフもこの手の話で彼らのような地域のまとめ役が「危ないから行くな」と言ってくるのがあまりにも珍しく、驚きを隠せないでいた。
ZONEだけでなくホロウでもそうだが命の保証など出来ない場所なんて腐るほど存在する。
そんな所に自ら足を踏み入れる
自分の手下であれば話は別だろうがスキフ達はザトンの者達からすればよそ者だ。それなのにスキフ達の身を案じた警告をしてくるという事はそれ程までに彼らは変化してしまった沼地を恐れていると見える。
だがそう言われてハイそうですかと諦める程、彼らの肝は小さくない。アキラやライカンからすれば危険な集団である讃頌会の目的を探る為であり、雇われたホロウレイダー達からすればしっかり前金を貰って受けた依頼だ、こんな警告程度でイモを引くベテラン達ではない。
「そんなにホロウになった沼地は恐ろしいのか?ZONEが出来る前はホロウに潜ってたんじゃないのか。」
「2週間で100人近い野郎共が沼地に入って消えたんだ、そりゃあ恐ろしいに決まってる。」
「ひゃ……!?」
スキフが余計なお世話とばかりに煽ったのに対し、サルタンの口からとんでもない犠牲者数が飛び出し、思わずアキラは言葉が漏れてしまい、スキフも目を丸くしていた。
郊外よりも人口密度が低いZONEで100人という数はかなり多い部類に入る。デューティやフリーダムの総戦力より下とはいえ、それだけいればZONEの一地域を支配できる人数だ。
思わずスキフはビアードを見るが、サルタンの言っていることは真実だと頷き、後に続く。
「最初はアーティファクト目当てのホロウレイダー連中が沼地に入っては帰ってこない事が頻発してな、偶然生きて帰れた奴からホロウと同じ様に迷うと情報が入ってだな…そっからザトンの連中全員に今度何とかするから沼地に行くなと警告したんだ。」
「何とかするって……どうやるんだ。」
「どうするも何もホロウと同じさ、データスタンドを設置してキャロットデータを受け取れる様にするってだけさ。」
「丁度その時に別の地域から来た「レネゲイド」の大集団がザトンに根を張ろうとしてだな、俺の手下が沼地まで追いやったんだ。態勢を立て直される前に追撃しようとビアードからデータスタンドを受け取って、俺の手下数十人が沼地に向かった。」
データスタンドはホロウ内をスキャンして正しいルートを導く為の装置だ、アノマリーでは無くホロウで一般的に起きる現象ならば、この世界に生きる者達が対策出来ない訳がない。
一方でスキフは聞き慣れない名前が出てきたので隣のリヒターに聞いた。
「レネゲイドってなんだ?」
「バンディットを更にタチの悪くした連中だ、まぁバンディットと対して変わらないな。」
一緒にするんじゃねぇ──そんな目つきで睨みながらサルタンは話を続ける。
「俺の手下にはプロキシをやっていた奴もいたからな、手下が沼地にデータスタンドを設置して、キャロットのデータがザトンにも届くようになったんだが……」
「内部情報が届いてすぐにデータスタンドからの反応が消えた、サルタンの手下共も含めてな。その後はもうお手上げだ、情報も禄に伝わらんからどうなったのか見当もつかない。」
「ただでさえミュータント共がウジャウジャいやがるのに更にヤバい何かが絶対にいる、もしかしたらザトンにやって来るかもしれない。だから俺とビアードで話し合って沼地を封鎖する事にしたのさ。」
そう言って肩をすくめるビアードとサルタン、思った以上に沼地は厄介な場所と化しているらしい。
「つまりお前達は沼地に誰も入れさせない様にしているのか?」
「そんな所だ、まぁ封鎖というより何か出てこないか見張ってるって感じだが。その後も傭兵みたいな連中が忍び込んだり、ロストクから来たホロウレイダー共が意気揚々と入っていったが、誰も戻って来ない。せめてお前らだけでも引き返す様に言ってやってるんだ。」
「本音を言えばお前らにも暫く沼地の監視に加わって欲しい。貴重な戦力を無駄に失いたくないからな、こっちから報酬を出すぞ。」
2人からそう言われたがどうする───スキフはアキラやライカン、ウルフ達に振り向く。
「ただ呆然と見ているだけじゃ何も変わらない、異変が起きてるからこそ調査をしないと。」
「プロキシ様の言う通りです、原因の目処はこちらで分かっておりますので、上手くいけば事態の解決にも繋がるかもしれません。」
アキラとライカンの答えは変わらないのは表情を見て分かっていた。
「あにき…依頼主からは前金をたっぷり貰っているからな、受けた以上は最後まできっちりやらせてもらう。」
「命を掛けないで何がホロウレイダーだ、ここで引いたら一生ガーベジのバンディット共から笑いものにされるぜ。」
ウルフやビス達は少し話をした後、ビアードとサルタンの申し出を断る意を示した。ホロウレイダーとしての沽券に関わるのだろう。
「みんな腹は決まってるようだなスキフ、悪いなビアードにサルタン。俺たちは沼地に行くぜ。」
「お前みたいな優秀なガイドは失いたくないんだがなぁ。」
「こっちの親切を踏みにじりやがって、てめぇらなんて“ヌシ”に食われちまえ。」
サルタンが捨て台詞を吐くが、気になる事がもう一つある。“ヌシ”とはなんの事だろうか。
「“ヌシ”ってなんだ?」
「なんだスキフ、知らないのか?“ヌシ”ってのは沼地にいるって噂の───」
「噂じゃない、沼地に実在する一際デカい「キメラ」のことさ。」
その声にスカドフスクの酒場にいる全員が入り口へ振り向く。ドアが開いた先には、1人の異質なホロウレイダーらしき男が立っていた。
異質と言うのはその風貌だろう、全身が動物の──ミュータントの毛皮を縫い合わされたコートを着込んでおり、彼が被るホロウレイダーのヘルメットは様々なミュータントの牙で飾り立てられていた。その肩には上下2連の大型ライフルが掛けられ、如何にも猟師という見た目に説得力を与えている。
一目見てスキフはこの人物が元居た世界のZONEでも見かけた、アーティファクトよりもミュータント狩りに精を出す者「ハンター」だと判断した。
そしてすぐにビアードが彼の名前を喋った事でその予想は的中する。
「よう“トラッパー”、漸くザトンに帰って来たのか。狩りはどうだった?」
「駄目だ、奴ら一度も姿を見せることなく追跡を振り切りやがった、こんなのは始めてだ。」
トラッパー、その名前をスキフは聞いた覚えがある。
元居た世界のZONEのザトン、ある人物を探す途中で出会ったハンターと同じ名前だ。彼が探し人と行動していた事を知り、その行方を聞きに来た時に何故か「ホーンヘッド」と言うミュータントを共に狩る羽目になったのは覚えている。
その後別の
そんな男と別世界で同じ名前を持っているこのハンターは、スキフ達の話を聞いていたらしく興味津々で目的を問いただしてきた。
「お前ら沼地が云々と言っていたな、あそこに行きたいなら俺のガイドが助けになると思うぞ。」
「人手が増えるのは良いがガイドは俺とそこのプロキシで間に合って───」
「ZONE全体をフラフラしてるガイドよりも数え切れないほど沼地に入り込んでいる俺の方が今回プロキシと組むのに相応しいと思うが?」
「あぁ!?」
ある意味ガイドとしての誇りを侮辱されリヒターの額に青筋が浮かび上がる。だがトラッパーの言う事に一理あると思ったのか落ち着いて息を吸うと、怒りを収めて話を進めた。
「……ライカンさん、プロキシ。こいつはこう言ってるが追加で雇うか?決めるのは君たちだ、俺としては沼地の“専門家”らしいこいつを雇った方が良いと思う。」
「どうするライカンさん?僕としてはリヒターさんに賛成だけど…」
リヒターの言葉にアキラはライカンの方を向く、市長の予算を預かっているのは彼だからだ。ライカンも先程聞いた話から手練れの人間をもっと雇うべきだと判断した、彼から見てもトラッパーは無数のミュータントを狩ってきた実力者だと感じ取ったのだろう。
「……分かりました。トラッパー様、貴方様にご同行して貰っても宜しいでしょうか?報酬はご満足頂ける分をお支払いすると約束致します。」
「よし決まりだ、宜しくなお前ら。あと報酬に関しては弾代と俺が仕留めたミュータントの素材でいい。」
「承知致しました。」
「金いらねぇのかよお前。」
「俺はミュータントさえ狩れれば他になにもいらない。ビアード、データスタンドはまだ残ってるか?俺達が設置してきてやる。」
前の世界の同名の人物よりミュータントに執着していそうなトラッパーにリヒターが軽くツッコむ。
そんなリヒターをあしらいトラッパーはビアードに予備のデータスタンドがあるかと聞くが、ビアードは彼を沼地に送るのに否定的なようだった。
「予備のやつが何本かあるが……本当に行くのか?いくらお前でも今の沼地は死ぬかもしれんぞ。」
「沼地で死ねるなら本望だ、いいから残ったデータスタンドを渡せ。」
ビアードは渋々カウンターの奥からデータスタンドを4つ持ってきてスキフ達に渡した。データスタンドはかなり大きいが、背負えないほどではない。4人で1つずつ持っていけば良いだろう。
トラッパーは少し準備をしてくるといい、船の上階にいるトレーダーの元に向かう、そんな彼の後ろ姿をリヒターは眺め、何かを思い出した様に口を開いた。
「ザトンにアーティファクトに目もくれずミュータントばっか相手にしてる変人がいると耳に挟んだが、多分あいつの事だな……あんちくしょう、何がZONEをフラフラしてるだ。」
「それだけZONEを歩き回れる高い能力があるって事だリヒター。俺にとってお前はZONE一のガイドだよ。」
「彼にとっては沼地が自分の庭の様な物かもしれないけれど、リヒターさんはZONE全体が自分の庭と言えるくらい凄いガイドだと僕は思っているよ。」
「スキフゥ…プロキシィ…君たちいい奴だなぁ。」
スキフとアキラの慰めの言葉にリヒターが泣きそうになっていると、上の階からトラッパーが降りてくる。腰に巻いた弾帯が全て埋められており、銃弾の補充は済んだのであろう。
「善は急げだ、沼地に出発しようじゃないか。」
「まずは飯を食わせろ飯を、こっちはコルドンから歩いてきたばっかなんだよ。」
そう言えばそうだったな──リヒターによってスカドフスクに来た目的を思い出したスキフ達は暫く休息を取り、その間にトラッパーと軽い自己紹介をしたのだった。
◆ ◆ ◆
「本音を言えばお前らがザトンに来てくれて良かった、プロキシもキャロットも無しにホロウになった沼地に行くのは流石に無理があるからな。データスタンドを設置出来れば今後何とかなる筈だ。」
「サルタンの手下達がレネゲイドを追撃した時は何故ついて行かなかったんだ?」
「その時はザトンを離れていたんだ、今日帰ってくるまで「ホーンヘッド」の群れを追いかけていたからな。」
「おいそれマジか?本当にホーンヘッドの群れがいたのか!?」
トラッパーを加えた合計10人で沼地へと向かうスキフ達。ザトンを南下しながら、何故今になってトラッパーは沼地に向かう気になったのかスキフは気になって彼に聞いた。
するとホーンヘッドの群れを追跡していたというトラッパーにビスは驚き、アキラとライカン以外の者達も驚愕を隠せなかった。
「少し前にヤンターで活動していた知り合いから「赤い森からホーンヘッドの大群が出てきた」って連絡を受けてな、居ても立っても居られず現地に向かったんだ。」
「見間違いとかじゃ無いのか?」
「いいや、通常じゃあり得ない数のホーンヘッドの足跡が残っていた。俺は昨日までひたすら足跡を追って追跡し続けたんだが…奴さんこっちに気づいていたのかスノークやブラッドサッカーの巣穴の近くに誘導されたりしてよ、結局途中で痕跡が無くなって諦めたんだ。」
「スキフさん、そのホーンヘッドってどんなミュータントなんだ?」
「話を聞く所によりますと群れを作るのは珍しい事のようですが…」
ホーンヘッドの群れを追い続け、見失いザトンに戻って来たと言うトラッパー。ミュータントに詳しくないアキラとライカンはホーンヘッドについて質問をすると、スキフとウルフが答えた。
「ホーンヘッドはシカのミュータントだ、鋭い角で突貫して小型のミュータントを呼び寄せる能力を持っている……群れを作っている所は見たことがないな。」
「そもそもホーンヘッド自体がZONEじゃ珍しいミュータントなんだライカンの兄貴、これまで目撃件数は非常に少ないし、仕留められた奴も少ない。スキフの言う通り今まで見つかったのは全て一匹で行動している個体だ、トラッパーの言うことが本当なら定説が覆るぞ。」
スキフが自分の記憶を思い返すが、チョルノービリでもホーンヘッドは非常に珍しいミュータントだった。他のミュータントは割としょっちゅう遭遇したことがあるが、ホーンヘッドに関しては片手で足りるくらいしか出会ってないと記憶している。
そう言えば、ミュータントと言えばトラッパーにもう1つ聞きたい事があったのをスキフが思い出した。
「そう言えば沼地の“ヌシ”ってどんな奴だ?デカいキメラらしいが……」
「沼地を住処にするキメラの群れがいてだな、そこのボスが“ヌシ”って訳だ。一番デカく、一番強く、一番凶暴。文字通り沼地の主だ。」
“ヌシ”とは書いてそのままの意味だったらしい。だがリヒターの方は“ヌシ”の存在に疑惑の視線を向けているようだ。
「でも見たことのある奴はめっちゃ少ないんだよな、噂レベルでしか聞いた事ないぞ?」
「“ヌシ”は普段沼地の奥に籠っている、沼地で見かけるキメラは全て奴の群れ出身だ、いつも群れの奴に餌を集めさせている。俺は何度か奴の寝床まで行って戦ったんだ、間違いなく“ヌシ”は存在するぞ。」
「寧ろホラ話の方が良かったんだがなぁ……というかよく何度も生きて帰って来れたなお前。」
「分が悪くなればさっさと獲物を諦めるのはのは狩りの鉄則だ、まぁその度に死にかける羽目になるが。確か沼地にいるキメラは20匹以上はいるから覚悟しておけ。」
球状の防護ヘルメットの向こうに見える顔の傷からして、嘘は言ってないであろうトラッパーにリヒターがげんなりとする。
リヒターの言葉にはトラッパー以外の全員が同意していた、これからホロウになった沼地に行くのに、そこでキメラの群れを相手取る可能性が高くなったからだ。
「基本的に沼地のキメラは2、3体の集団で行動している、この人数なら油断しなければ各個撃破できる筈だ。」
「トラッパーさん、沼地には他にどんなミュータントがいるんだ?」
「他の誰よりも沼地で狩りをして来たが、ホーンヘッドと「ブーラー」と「ポルターガイスト」以外は見かけた事があるな。沼地に住むミュータントは全て複数体で行動している、他の地域みたく一匹しかいないなんて事はほぼあり得ないからそれを頭に入れておけ。」
「……研究者並みにミュータントに詳しいんだな、しかもアーティファクトにも金にも無頓着、何のためにZONEに来たんだ。」
基本的にZONEに来る人間はアーティファクトが目当てか、お尋ね者等で表や裏の世界から隔絶されたZONEに逃れる為に来る人間が大半だ。
この世界のトラッパーは何故他の物に目もくれずミュータント狩りに精を出しているのかスキフは気になった。
「ミュータントを仕留めれば最高のトロフィーになる、エーテリアスも悪くないんだが死体が消えるし、人間を殺したら結局、恨みや社会のしがらみが纏わりつくのが鬱陶しい。
何も気にせず、ミュータントと言う最高の獲物がいる世界で狩りが出来るのがZONEなんだよ。
それにだ、ミュータント共はああ見えてエーテリアスより臆病で知恵を使う。互いに死力を使って戦っている気分になれるんだ。人間と違って聞いてもいない事を一々喚かないしな。」
「横から聞いといて悪いが全く理解出来ねぇな。」
「別に理解してもらおうとは思ってない……が、仕留めたミュータントを部屋に飾って眺めるのはいい気分だぞ?」
トラッパーの言い分にスキフはともかくリヒターやウルフ達ホロウレイダーも少々引くところがあったようで、その証拠に表情が軽く引きつっている。
ホロウレイダーは金を貰えば喜んでミュータントを狩るが、何も貰わずにミュータント狩りに精を出すトラッパーを理解出来ないのだろう。
ZONEが出来てまだ1年と少し、この世界でハンターという存在がZONEの住人に認められるのはまだまだ先だろう。
そんな事を話していると、沼地の手前にある廃村に辿り着いた。本来沼地を一望できる筈の村の先は、視界を阻むかの様にエーテルの粒子が輝く濃霧によって埋め尽くされている。
付近にはビアードとサルタンによって送り込まれたであろうホロウレイダーとバンディットのチームが、簡易的なキャンプを張って沼地を監視していた。
ふと時間を見てみると既に夕暮れ時、トラッパーはアキラのような戦えない人物がいる状態で夜の沼地を進むのは危険と言い、明日明朝に出発することを提案する。
特に異論は無く、一行は焚き木を囲んで一晩廃村で過ごす事になった。
◆ ◆ ◆
近くに自分達の他にホロウレイダーやバンディットが見張りに立っている事もあって、多少気を緩める事ができた。
リヒターやトラッパー、ウルフとビス達は焚き木を囲んで軽く酒盛りをしていた。危険地帯に向かう前の最後の晩餐のつもりで酔わない程度に飲みながら談笑をしている。スキフ、アキラ、ライカンは少し離れた場所でそれを眺めていた。
ビスの仲間のホロウレイダーが何処からかギターを取り出して一曲弾き始めた、空は暗くなり、パチパチと音を立てる焚き木と共に鳴らされるギターの弦が耳に心地よく聞こえる。
アキラは静かにそれを聞いていると、ウルフがライカンを呼ぶ。どうやらライカンと色々と積もる話をしたいようだ、ライカンはアキラの護衛として側に居なければと断ろうとするが、アキラがそれを止める。
「ライカンさん、ウルフさんとは昔の知り合いなんだろう?これだけ人がいるんだし僕は大丈夫だ、彼と話して来なよ。」
「………お心遣いありがとうございますプロキシ様、お言葉に甘えて、少々失礼致します。」
そう言うとライカンはウルフの下に向かっていき、アキラはもう1人、焚き木の輪から外れているスキフの下に向かう。
スキフは木箱を背もたれにし、横から聞こえる会話とギターをBGMに瓶入りのニトロフューエルをちびちび飲みながらガウスガンの整備をしていた。
彼の横に座りながら、アキラはスキフの作業を眺めている。
「スキフさんは焚き木に入らないのかい?」
「これが終わったらな、X-ラボの調査中に壊されてからヤンターにある研究基地で直してもらったんだが……そこの科学者に色々弄くられたらしい、沼地に入る前にもう一度問題ないか確かめないと。」
スキフの
人の武器を何だと思ってやがる───直ちにクレームを叩きつけたが本人達に悪気は一切無いどころか、寧ろその性能を実戦で試してレポートにして送れと言われ、その場で“試験”してやろうかと思ったほどだ。
「今の所チャージ時間が少し短くなって改良されているが……奴ら曰く新機能まで付いてるらしい、それは見てのお楽しみだとよ。」
「ははは…だから前に見た時と形が少し変わっていたんだね。」
苦笑いを浮かべながらアキラはホロウレイダー達の会話に耳を傾ける。その内容は自分が何故ZONEに来たのかと言う話題になっていた。
名誉と冒険の為、一攫千金を夢見て、治安局から逃れる手段、手っ取り早く家族を養う為に、単にZONEが気に入ったから、十人十色の理由が語られ、誰もそれぞれの理由を茶化す者はいなく、真剣に聞いていた。
ふとアキラは隣にいるスキフが何故、ZONEにやって来たのか気になった。
「どうしてスキフさんはZONEに来たのか聞いてもいいかな?」
「ん…あぁ、突然自宅と全財産が吹っ飛んで仕方なくな。」
「えっ」
予想だにしない答えが帰って来てアキラは固まってしまう。一方スキフが語った事はほぼ事実だ、元居た世界で密輸の為に部屋に放っておいた力を失ったアーティファクト「ダミー」が突如覚醒し、スキフの狭い自宅をめちゃくちゃにした。
「ダミー」の存在を隠しつつ、かつての自分がZONEに来た理由を簡潔に語ったつもりだ。
「自宅が吹き飛ぶなんて一体何があったんだ?スキフさんの家がホロウ災害に巻き込まれてエーテリアスに襲われたりしたとか…」
「いや、別にホロウに巻き込まれたとかそんなんじゃない、仕事帰りに住んでいた集合住宅が原因不明の爆発を起こして、その場所が丁度俺の部屋だったんだ。」
そもそも別世界の話なのでホロウは一切関係ない、部屋が爆発した原因は分かっており、チョルノービリのZONEで行われていた「第二次カリブ実験」の影響によるものなのだがその事を言うつもりは無い、詳しく話せば一晩は掛かるからだ。
アキラは以前にZONEを来た際、スキフに依頼を頼んだ時に聞いた事を思い出した。
「えっと、じゃあ前に言っていた「新エリー都に帰る場所は無い」ってのは…」
「そのままだ、ずっと前から家族は居ないし、頼れそうな友人は1人もいなかった。ほぼ無一文になって思いつく手段がZONEに行くって事だったんだ。ホロウと違ってZONEなら身一つあれば事足りるしな。」
「だとすると、スキフさんはお金を稼ぐ為にZONEにやって来たって事で良いのかな?」
「うーん、最初はそうだったんだがなぁ…」
確かにスキフはスキャナーという機械で自宅を吹き飛ばした「ダミー」を復活させ、それを高く売ってその金で家を取り戻すという計画でZONEにやって来た。
だがZONEに来て早々スキャナーを奪われ、その犯人を追いかけ、ウォードとスパークの抗争に巻き込まれ、最後には真にZONEを解放する事が最終目的となってしまい、自分の家を買うという目的は何処かに行ってしまった。
ZONEの解放を成し遂げたものの、何故か別の世界のZONEにやって来てしまったスキフはこの先どうするか考えてなかった。ZONEにいるのはただ自分の知っている場所だからで、何か目的があったりZONEが好きだから居る訳ではない。
「……ZONEに来た後色々あってな、自分が何のためにZONEに来たのか分からなくなっちまった。今はお前の依頼をこなしているから当面の目標がはっきりしているが……それが終わったらこれからどうするか、全く考えていない。」
「新しい家を買うってのは考えていないのかい?スキフさんの能力なら、家が買える程のお金はすぐに貯まると思うけど……」
アキラの提案にスキフは少し考え込む。確かに、元居た世界で家を買うという目的が何処かに行ってしまったのはZONEにいる内に色んなしがらみがスキフを縛り付けてしまったのが原因だ。
だがこの世界のZONEなら何もしがらみが無い、スキフを利用し、逆にスキフが利用していた組織や人物なんていない。ZONEに縛られる必要は無いのだ。ならば、自分がZONEへと来た最初の目的を目指すのも良いかもしれないが、大きな問題があった。
「いい考えだと思うんだが……色々あって市民権が無効になっていてな、新エリー都に住みたくても無理かもしれない。」
そう、スキフはこの世界の住人では無い、つまり市民権の様な物が無い。家が欲しくても買えないか、それとも治安が悪いか法的にグレーゾーンの様な場所にしか住めないかもしれない。どうせ家を買うならいい場所に住みたいと思っているので後者はゴメンだ。
だがアキラはそんな事を心配しているのかとばかりにスキフに言う。
「だったら僕に任せてくれ、市民権を手に入れられそうな方法を幾つか知っている。合法非合法問わないルートがね。」
「なんで非合法のルートなんて知ってるんだ。」
「僕の本業は犯罪者のプロキシって事を忘れてないかい?自慢じゃ無いけど新エリー都の正式な市民を1人増やす方法くらい幾らでも知ってるんだ。」
市長を始めとした公的機関の知り合いを頼るのも良いし、プロキシとしての裏の人脈を使って用意してもらう事も出来る。
何ならFairyに市政のシステムをハッキングしてもらってスキフを正式な市民として登録してもらうのも1つの方法かもしれない。
「そうしてもらえるとありがたいが…本当に良いのか?」
「あの日ニコがスキフさんを連れてきて、ZONEを案内してもらって、今まで依頼を通して付き合いが続いているのも何かの縁だ、危険な仕事をさせてる分このくらいは頼って欲しい。」
笑顔でそんな事を言うアキラの後ろから何か光が差している様な気がした、これが後光と言うやつだろうか。
「……決めたぞ、お前の依頼が終わったら、金を貯めて街に家を買う。それで毎日TVを見ながらのんびり過ごすんだ。」
「六分街に家を買うのをおすすめするよ、住みやすい街年間ランキングの上位常連だ、近くにウチのビデオ屋もあるからぜひ利用してほしいね。」
「そう言えばそうだったな…待てよ、まさかビデオ屋に通わせる為に六分街に家を買わせようとしてるのか?」
「さぁ、どうだろうね?常連になってくれると約束するなら僕の方で良い物件を探してあげようかなと思っているんだけど。」
「商売上手め……よし分かった、お前の店に通うから良い場所を頼むぞプロキシ。」
「交渉成立だ、その時を楽しみにしておくよスキフさん。」
スキフはニトロフューエルの瓶をアキラに向け、アキラは手元にあった水入りの瓶を持ち上げる。
焚き木が弾ける音とギターの音色に混じって、瓶同士が軽くぶつかる音が、夜のザトンに響いた。
◇レネゲイド
2作目CSに登場するバンディットのコンパチ組織。
CSは色んな派閥に入って勢力を拡大する事ができる派閥戦というシステムが存在するが、その中にはバンディットも含まれる。
派閥に入ると当然バンディット達とは味方になる為、代わりにバンディット役として相手になるのがこのレネゲイドと言う連中。作中では一貫してバンディット扱いであり、多分大して設定が無い。
◇ホーンヘッド
S.T.A.L.K.E.R2から登場するシカのミュータント。普通にプレイしていたらザトンで初遭遇する事になる。
そこそこ固い上に、定期的にボアやブラインドを召喚してくる為持久戦になると戦闘の難易度が爆増する憎い敵。
フィールドにスポーン地点がほぼ見当たらず、非常に珍しいミュータントである。
◇キメラ
3作目CoPから登場した、ライオンや虎に近い体格を持つ双頭の大型ミュータント。シュードジャイアントの次にタフな体力を持ち、非常に攻撃力の高い一撃を繰り出してくる。グラフィックが進化して2では悪魔みたいな顔つきになった。