Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
赤い嵐が収まり、この地が霧に包まれ始めた時、最初に感じたのは言葉に言い表せない嫌悪感と───本能に訴えかける懐かしさであった。
今まで自由に駆け抜ける事が出来たこの沼地は、霧のせいで容易く迷う地へと変貌し、1人で狩りに出かけた時に巣に戻れない事が幾度も起きた。
その度に生みの親や群れの大人達は霧の中から自分を連れ戻し、
そしてこの地が霧に包まれて幾日……“
あの辺りは
たくさん殺された、奴らは強く、強力で、無慈悲だった。
中でも恐ろしかったのはあの4足の、この地の
自分の群れも襲われた、生みの親も、群れの大人達も、群れの
逃げるしかなかった、まだ小さく、他よりも弱かった自分は、群れの仲間に守られながら、なんとかその場から逃げる事が出来た───生き残れたのは自分だけだった。
だが、この地を侵し続ける黒い奴らを駆逐せんと、遂に
“ヌシ”が率いるキメラ達は狡猾に立ち回った、徹底的に潜み、臆病なほどに隠れ、必ず全員で少数を襲う。
そうしてキメラ達は一匹の犠牲も出さず、逆に黒い奴らを次々仕留めていった。
自分はそれを遠くから眺めていた、彼らの戦い方を学ぶ為に。彼らはこちらに気付いていたが、以前のように別種に対する敵意を向けることなく、自分を群れに迎え入れて、自らの戦い方を近くで学ばせてくれた。
────しかし、“ヌシ”の戦い方を学んでいたのは自分だけではなかった。
キメラの群れと黒い奴らの大集団が、あの地で壮絶な戦いを繰り広げたが、“黒い獣達”にとってそれすら罠の1つだった。
“黒い獣達”は仲間である筈の黒い奴らごと、
たくさんの閃光から始まり、電球と火球、毒の雲が黒い奴らを巻き込んでキメラ達を襲い、倒れていった。
奇襲を受けてなお、“ヌシ”は死力を尽くして戦った。黒い奴らに手傷を負わせ、“黒い獣達”に一歩も引かず戦ったが、最初に受けた傷が酷く、そのうち倒れ、二度と起き上がる事はなかった。
その瞬間、“黒い獣達”は、新たにこの地の“ヌシ達”になったのだ。
キメラの群れの内、二匹がなんとか生き残った。この二匹は黒い奴らに恐れをなして、この地から逃げ出そうとしていた。
このまま逃げるのか───なんとかして二匹を止めようとしたが、力が違いすぎて止められなかった。
これ以降、自分はこの地でたった一匹、黒い奴らに追われながら生き抜く事になった。
必死に学んだ事を思い出しながら、霧の中を進み、奴らに見つからないよう潜み続け、止むなく戦うときは相手が一匹の時に
キメラ達が死んだ後、人間の群れが入り込んでくる事があったが、全て黒い奴らに狩られてしまった。だが偶に人間の肉片が落ちてることがあったので、隙を見計らいそれを食らって腹を満たした。
それ以外の食い物になりうる死肉は、黒い奴らが常に罠として利用していたから食うのは得策ではなかった。
そんな中、同族と似た匂いの白い毛の人間が率いる群れが入ってきた。彼らは強く、黒い奴らの奇襲を跳ね除けて見せた。キメラ達が死んだ場所で“黒い獣”に襲われた時は一匹やられたが、ほかの人間達は奴相手に生き残って見せた。前に来た人間の群れは奴一匹に大勢殺されたと言うのに。
彼らは“黒い獣達”の縄張りに入っていった。自らを支配者と誇示する為に、こっちの嗅覚を潰す為に、無数の死骸がかき集められた処刑場へ。
人間達は恐れる事なく戦う道を選んだ。
だが彼らは罠にかかってしまった、あれはキメラの群れが、“ヌシ”がやられた罠と全く同じだった。
自らの群れがやられた時、己は弱く逃げるしかなかった。キメラの群れが倒された時、自分は奴らの罠に気づけず、またもや逃げるしかなかった。
今の自分はあの時より強くなった、あの罠に
ならば今度は、今度こそは──────
小さな影は全力で駆け出した、あの群れを助ける為に。沼地を支配した虐殺者に立ち向かう為に。
◆ ◆ ◆
「なっ────」
ライカンは驚愕した、回避不能な距離まで迫っていた
自己犠牲ではない、アノマリーに飛び込んだ小さな影達は、その死体を晒す事なく消滅した───幻影…否、分身だとライカンはすぐさま理解した。
自分だけでは無い、一行に向かって飛んできたアノマリー全てに小さな影達が突っ込んで、アノマリーをわざと作動させてライカン達を守り抜いたのだ。
ライカンの危機を救った恩人は、いつの間にか自分の側までやって来て目の前のハティと向かい合っていた。
「ミュ…ミュータント…?」
そのミュータントは一見、普通の犬に見えた。だがブラインドドッグよりも濃い毛並みで体格が良く、その顔はまるで人そっくりだ。
鋭い牙を剥き出しにし、その表情には怒りと闘志を滲ませ、犬では無く人に近い平坦な顔つきでハティを睨み付けていた。
「
「待て、まさか俺達を助けたのか?こいつが?」
トラッパーはミュータントの生き残りがいた事に驚き、喜びを露わにしていた。スキフはエーテリアスの攻撃からミュータントが守ってくれた事に驚愕し、信じられないという表情であった。
「シュードドッグ……と言う種族なのですか。」
ライカンは膝をつき、シュードドッグと顔を合わせる。シュードドッグの表情には、こちらに対する敵意は見られなかった。
このミュータントの気配に、ライカンは覚えがあった。
「感謝します、貴方のお陰で命拾いしました……心より感謝致します。
古い教会で感じ取った気配……あれは貴方だったのですね?」
シュードドッグは頷いた、まるで人間の言葉を理解しているようであった。
そうすると、すぐに正面のハティに向かって吠え始めた、まるで隠れてないで出てこいと言っているように。
無数に積み重なるミュータントの死骸の丘──その上に立つ外来種のハティの側に、新たに3匹の黒き獣が姿を現す。
それらのハティは、重力アノマリーを身に纏うハティと同じ様に、
漁村でライカン達を襲撃した、銃弾を弾く無数のガラス片と近接攻撃を無効化する重力反射の壁を身に纏う「重力のハティ」
人を容易く死に至らしめる、弾ける電気が縞模様のように絶えず身体に迸らせる「雷のハティ」
体から生物を容易く死に至らしめる猛毒のガスを噴出し、涎のように強酸を垂れ流す「酸のハティ」
そして、恐らくこのハティ達のリーダーであろう一際大きな個体。まるでアーマーハティのように身体が溶岩が固まった火山石で包まれた、炎が揺らめく灼熱の重装甲を纏った「炎のアーマーハティ」
4体の“外来種”のハティが、目が無いにも関わらず、こちらを──特にシュードドッグを忌々しく睨み、唸り声を響かせていた。
「………予想通り、外来種は複数いたな。」
「当たって欲しくなかったぜそんなもん……」
漁村でトラッパーが予測した通り、キメラの傷口と、重力アノマリーを操るハティの存在から、外来種が4匹いると予想していたスキフや他の者達。リヒターは絶望的な予想が的中したことを嘆く。
ライカンはただ一人、シュードドッグとハティ達を見て、あることに気がついた。
「……なるほど、貴方は随分と彼らを手こずらせていたようだ……そしてその表情、あの外来種達が貴方の仲間達を手にかけたと。」
そうだと言わんばかりにシュードドッグの表情が怒りに歪む、対する外来種のハティ達もシュードドッグを見て苛立ちを隠せない様子だった。
恐らくこのシュードドッグをエーテリアス達は延々と追撃していたのだろう。だが逃げられ、隠れられ、今まで仕留める事が出来なかった。
シュードドッグは己が力不足が故に逃げ続け、エーテリアスは沼地最後の生き残りが一向に捕まらない状況。
だが、それも今日で終わる。シュードドッグもエーテリアスも、これまで続いて来た沼地の生存競争を終わらせるつもりであった。
ハティとシュードドッグが同時に遠吠えを放つ、すると周囲に逃げ道を封じるかのようにアノマリーの壁が現れ、ライカン達の側には20体ものシュードドッグの分身が出現した。
「スキフさん、このミュータントは分身が使えるのか!?」
「確かにシュードドッグは分身が使えるがなプロキシ、一度にここまで出現させるのは見たことないぞ!」
通常のシュードドッグは殺傷能力を持つ分身体を多数召喚できるミュータントだ。
だが体力的な問題か、一回に4〜5体ずつしか召喚する所しかスキフは見たことは無い、こんな大量に分身を出せる程このシュードドッグは強力な個体だと言うのか。
ライカンはシュードドッグに、優しく語りかける。
「私達と共に、戦ってくれるのですね……トラッパー様、予定通り、あの重力アノマリーを操るハティをお願いできますか?」
「任せろ、奴は俺が引き付ける。」
弾数を確認しながらトラッパーが上下2連ライフルを構える。
「スキフ様、ガウスガンの最大火力での射撃はあと何回撃てますでしょうか。」
「一発は確実に撃てるが、二発目は分からないな。」
「あの炎を迸せる外来種のアーマーハティ……恐らく高い防御力を持つと思われます。スキフ様、私があのアーマーハティを抑えるので、重力のハティと炎のアーマーハティのどちらかを、臨機応変に戦闘を行いながら脅威を見極めて撃って頂きたいのです。」
「エーテリアスやアノマリーが飛んでくる中、チャンスを見計らって正確に狙い撃つってか…責任重大だな。」
ため息をつきながら、スキフは
「他の皆様はプロキシ様をお守りしながら、他の2体の足止め、或いは撃破をお願い致します。」
他の2体───雷のハティと酸のハティの事だ。
「そりゃあ
「文句言うなリヒター、兄貴達3人は一番厄介そうな奴と戦うんだからな。」
「連れ去られた
「「応!」」
リヒター、ウルフ、ビスとガーベジのホロウレイダーはアキラを囲いながらそれぞれの武器を構える。
「回復キットはたくさん持ってる、必要ならすぐに手渡すよ。」
戦う術を持たないアキラはせめてもの手助けとして、余分に持っている回復キットを持ち出した。
外来種のエーテリアスが呼び出したアノマリーがまるで闘技場のように展開されている。通常のアノマリーに加え、移動型アノマリーが決して逃さないと周りを周回している。
外来種のハティ達が死骸の丘から降りて、ゆっくりと囲むように展開し、シュードドッグの唸り声が最高潮に達する
まるでゴングの音が鳴るように、アノマリー探知機が戦場に鳴り響いた。
探知機が作動した事でスキフ達は全力でその場から飛び退いた。漁村を見るに探知機がアノマリーを検知してからその場に出現するまで多少のタイムラグがあると判断し、予想通りスキフ達の足下にアノマリーが出現する。
シュードドッグの分身達がハティ達へと全力で飛び掛かり、ライカンとトラッパーがそれぞれ目標とする外来種のハティへ向かっていく。
スキフは牽制と陽動の為にガウスガンを雷のハティと酸のハティへと放ち、想定通り、雷のハティと酸のハティはスキフの方へと狙いを定め、その牙で噛み砕かんと大口を開け始めた。
「やっぱり…!これだけ大量のアノマリーを操っていればこっちに向ける力はそこまで残ってないか!」
動かせるアノマリーの数に限度があるのか、それとも使うまでも無いと判断したのか、アノマリーを飛ばしてくるのではなく物理攻撃でかかってきた2体のハティ。
だがその牙には間違いなくアノマリーの力が宿っており、一撃を食らえば即死級のダメージなのは一目瞭然だ。
「ライカン達は…!」
横目でライカンとトラッパー、そしてシュードドッグを見ると、既に向こうは炎と重力のハティ達と激闘を繰り広げていた。
向こうの戦況の把握、ガウスガンのチャージ時間、こちらに向かってくるハティの対処、アキラの護衛、最大火力の投射のタイミング。
(全部考えながらやらなくちゃいけないのが辛い所だ…!)
戦局がどう転ぶかは、チームで最大の火力を持つスキフにかかっている。
外来種特有の頭の良さなら一度ガウスガンの最大出力を見せてしまえば間違いなく対策されるだろう、それも念頭に入れて置かなければ。
「スキフを援護しろ!」
リヒターの掛け声と共に、ホロウレイダー達の銃撃が2体のハティに襲いかかる。スキフもガウスガンを雷のハティの胴体に命中させるが、やはり通常火力では上級エーテリアス以上のタフさを持つこのハティを仕留めるにはまだまだ足りないようだ。
スキフは舌打ちをしながら、もう一度ガウスガンを目の前に迫る外来種へと向け直した。
「ハァッ──────!!」
シュードドッグの分身達に群がられ、動きが鈍った炎のアーマーハティにライカンが渾身の一撃を与える。
だがその火山石の鎧はビクともせず、その硬度と発せられる熱でライカンの義足に逆にダメージを与えるほどであった。
(思っていた以上に硬い!これが外来種の力……!幸い、攻撃自体は見極められる範疇だ!)
ライカンの部下であるヴィクトリア家政のメイド達と共に、総出で当たったとしても傷一つ付くか怪しいレベルの強固な装甲に驚愕するライカン。
ただ時折アノマリーが飛んでくる以外の攻撃パターンは通常のアーマーハティの域を出ないため、相手の攻撃を回避する事は十分可能であった。
(トラッパー様は……あちらは大丈夫そうですね。流石“ハンター”、ハティの動きに的確に対応しています。)
ちらりとトラッパーを見ると、“ヌシ”と戦い続けてきたと豪語するだけあって重力のハティの猛攻に対処しながら、的確にガラス片に守られるコアに炸裂弾を撃ち込み続けていた。
(この小さなミュータントも何と勇敢な事か、これほど体格差のある相手に立ち向かい、更には私達の援護も欠かさないとは……共に戦う身として、私も彼の期待に応えなくては。)
ライカンと共闘しているシュードドッグは、その力の弱さを補うように的確に外来種のハティの妨害に徹している。
ライカンだけではなく、トラッパーやスキフ達にも何体か援護に差し向け、隙を見てハティ達にその爪と牙を勇敢に振るっていた。
そうして炎のアーマーハティと相対している最中、ライカンのアノマリー探知機が大きく鳴り響く。
アノマリーが来る────そう予測し、近くにアノマリーが出現する事に備えるが、全く違った光景を目にした。
炎のアーマーハティの口元に熱性アノマリーが集結していく。巨大な
咄嗟にライカンは、戦場となっている地域を囲んでいるアノマリーの壁を見る。すると、壁として塞いでいた熱性アノマリーの幾つかが無くなっていた。力をこちらに振り分けたのだ。
炎の砲弾がライカンへ向けて放たれる。地面を削り、凄まじい勢いで転がりながら迫る炎球にシュードドッグが分身達に突貫を命じ、多数の分身体がアノマリーを途中で発動させようと突っ込むが、アノマリーの塊は消える事なく突き進んでいく。
迎撃は不可能と判断し、シュードドッグとライカンは高速で飛んでくる炎球を避けるが、炎球の向かう先にスキフ達がいる事に気付き、急いで警告する。
「皆さん!アノマリーが来ます!避けてください!」
ライカンの警告が聞こえ、スキフ達が振り向くと巨大な炎球がすぐそこまで迫って来ていた。気が付けば酸と雷のハティはとっくに安全圏へと退避している。
アノマリー探知機がうるさく響き、回避を試みるが目の前に
スキフ達は咄嗟に避けるか、飛び越えて足下のアノマリーを回避するが、1人だけアノマリーを飛び越えられなかった不幸な人物がいた。
「があぁぁぁぁぁ!」
「ああクソっ“ガンナー”!」
「手を掴め!」
機関銃に予備弾薬を多量に持ち込んでいた“ガンナー”はその重量からアノマリーを飛び越えきれず、
近くにいたビスが助けようと手を伸ばすが、それより早く炎球がスキフ達の中心で爆発を起こし、“ガンナー”はその身を跡形もなく焼きつくされてしまった。
まるで榴弾砲が着弾したかのような爆発にスキフ達は吹き飛ばされてしまう。スキフ達を援護していたシュードドッグの分身数体も消え失せてしまった。
スキフの身が宙に浮き、地面に叩きつけられ、痛みに悶えながら身を起こすと、雷のハティが倒れているリヒターに噛み付かんと迫っていたのが見えた。
「リヒターァ!」
即座にガウスガンを撃ち、雷のハティの胴体に命中させて体勢を崩し、リヒターが退避する時間を稼ぐ。
だがスキフの方へ酸のハティが突撃してきたのを確認し、ガウスガンを口の中に突き刺そうとするが、目前で酸のハティが横に一回転し、その尻尾でスキフのガウスガンをあらぬ方向へ薙ぎ払ってしまった。
「
何故、外来種というのはこうした小賢しい手を容赦なく使って来るのか────大口を開けてスキフの頭を齧ろうとする酸のハティに対し、咄嗟にスキフは
スキフの上にのしかかった体勢で
装甲車ですら一瞬で溶かしてしまう強酸のアノマリーだが、スキフが持つ伝説級アーティファクトの一つ「リキッドロック」の最高クラスの装備保護と化学防護のお陰で何とかサイガD-12もスキフのアーマーも強酸に耐えることが出来ていた。
「スキフ!今助け──うわぁ!こっち来るな!」
「俺はいい!
スキフを助けようとするリヒターに
(ナイフを抜こうにも片手じゃ力負けする…!)
この姿勢と力の差では片手を離した途端、サイガD-12を何処かへ投げられ、すぐさま強酸の牙が容赦なくスキフの頭を砕くであろう。
ジリ貧……そう思われた時、酸のハティの身体を一閃が貫き、サイガD-12を咥えたままハティがスキフの上から吹き飛ばされる。
「は───?」
発砲音からしてガウスガンの一撃だ。だがさっきハティのせいで何処かに行ってしまった───誰かが拾った?
その相手を見つけたスキフは目を丸くして驚いた。
「う…撃てた…当たった…出来た…!」
「プロキシ!?畜生、お前は最高だ!」
アノマリーが飛び交う中、スキフのガウスガンを拾い、スキフに覆い被さる酸のハティへ一撃を食らわしたのは───アキラであった。
控えめに言って武器の持ち方は不格好、ストックを脇で挟み、そして銃の反動で尻もちをついた体勢でアキラは自らの活躍に呆然としていた。
撃たれた酸のハティは怒り狂い、口に咥えたままのサイガD-12を強酸で溶かして噛み砕き、アキラを次のターゲットに決め駆け出す。だがそれを見逃すスキフではない。
「この
手放す事でリキッドロックの加護から外れた武器は簡単に壊される。元居た世界のザトンで手に入れ、それからずっとスキフの戦いを支えてきた古株を奪われたスキフは怒りのままにナイフを抜き、酸のハティのコア目掛けて全力で突き刺し、そのままハティの突撃を食い止める。
「くっ……そがぁ!プロキシ!もう一発だ!もう一発撃てぇ!」
「わ…分かった!ええっと……狙うのは……」
「プロキシそのままだ!俺が狙う!」
雷のハティをウルフ達に任せ、リヒターがアキラの補助にやって来る。共にガウスガンを構え、スキフと格闘中の酸のハティが横顔を見せた瞬間、コア目掛けて狙い撃つ。
見事、ガウスガンの弾頭はハティのコアを撃ち抜いて、酸のハティはその場に倒れ伏した。
沈黙した酸のハティのコアからナイフを抜いて、急いでスキフはアキラの下に向かう。
「よくやったプロキシ!後でウォッカを奢ってやる!ガウスガンをこっちに!最大火力で奴を撃つ!」
「あ…ああ、スキフさん!狙う目標は……」
「炎のアーマーハティだ!奴の火力を野放しにするのはマズイ!」
先程とんでもない火力を見せてきた炎のアーマーハティ、最大火力をぶつけるなら奴だと判断し、ガウスガンのチャージ準備に取り掛かる。その間に、ライカンにガウスガンの準備をすると伝えなければ。
「ライカン!ガウスガンは炎のアーマーハティに────」
その途中、視界の端で
ガウスガンに撃ち抜かれ、ナイフで串刺しにされたコアを、
コアを完全に復活させた酸のハティは、その口に
「な…んで死んでないんだ!?リヒター!エーテリアスはコアが弱点じゃないのか!」
「知らねぇよ!伏せろプロキシ!」
スキフとリヒターはアキラを伏せさせ、高速で飛んでくる
だがアノマリーはそのままカーブし、雷のハティと戦っているウルフ達に襲いかかった。
「ウルフゥ!そっちにアノマリーが行くぞぉ!」
リヒターの警告でウルフとビスが回避行動に移る、“ライフルマン”もアノマリーを避けようとするが、雷のハティがそれを許さなかった。
「あああ!脚がぁ!」
「なっ……そいつを離せぇ!」
「やめろビス!アノマリーが来るぞ!」
“ライフルマン”の脚に噛みつき、振り上げる雷のハティは、そのまま“ライフルマン”を迫りくる
「ああああ──!─あ─ぎ─」
「ぐぅ……───がぁぁぁ!」
有毒物質で充満する
投げられた“ライフルマン”にぶつかったビスは胴体の右半分を
「ウルフさん!ビスさんにこれを!」
「すまんプロキシ!」
咄嗟にアキラはウルフに「科学的回復キット」を投げ渡し、ウルフはすぐさまビスに投与する、少なくともこれで死の淵から助かるだろう。
スキフはガウスガンを構え直し、リヒターとウルフに指示する。
「リヒター!ウルフ!そのハティ共を死ぬ気で抑えろ!」
「あいよ相棒!死んでも噛み付いてやる!」
「よくもビス達を…!野郎ぶっ殺してやる!」
リヒターは酸のハティに、ウルフは雷のハティにそれぞれ立ち向かっていく。その間にスキフはガウスガンのチャージを開始した。
「ライカァン!そいつの動きを鈍らせろぉ!」
「─────承知!」
炎のアーマーハティと戦うライカンの攻撃力がより一層激しくなる。シュードドッグもアーマーハティの脚部に纏わりつくように襲いかかり、炎のアーマーハティはダメージこそ無いものの、その猛攻に思わず動きを鈍らせていく。
エーテルとアノマリーの力が銃身に満たされていくガウスガンがじゃじゃ馬のように暴れ出す。スキフはそれを必死に押さえつけながら、離れた場所にいる炎のアーマーハティに照準を合わせる。
─────
視界の先で光り輝くガウスガンを認識した炎のアーマーハティは、あれが自身の装甲を穿つ事ができる物だと本能で理解した。
スキフは動くわけにはいかなかった、下手に動けば照準がより一層ふらついて、最大火力の一撃を盛大に外すと確信していた。ならば───死ぬ気で留まるだけだ。
それならばと多数の
だが1個だけ、
迫る火球にスキフは片手で器用に回復キットを自身に撃ち込んで一か八か死ぬ気で耐えようとするが─────
「させるかぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なっ……おいバカ!やめろ!」
「ビス!?よせぇ!」
身体の半分がケロイドまみれになったビスがその身を
スキフとウルフの制止も虚しく、アノマリーからスキフを守り抜いたビスは、その身が炭化するまで焼き尽くされ、その場に崩れ落ちる。
アノマリーが消え、アキラがビスに駆け寄って回復キットを打ち込もうとするが、既に息途絶えた者には効果がなかった。
「そんな……間に合わなかった……!」
「……離れてろプロキシ。」
ガウスガンのチャージを完了させたスキフが、ライカンとシュードドッグに抑えられる炎のアーマーハティに照準を向ける。
「いい加減……一匹くらいくたばりやがれ!」
ガウスガンのトリガーが引かれる直前、ライカンとシュードドッグがその場を飛び退いて射線を通す、炎のアーマーハティはガウスガンの閃光から逃れようとするが、ハティと違ってその装甲の重量から動きは鈍く、スキフの照準はしっかりアーマーハティの脳天を捉えていた。
放たれたガウスガンの弾頭は戦場を切り裂いて、炎のアーマーハティの脳天に直撃する──────
───事は無く、
「………え?」
「な………」
「そんな……」
スキフも、ライカンも、アキラも、その場にいた生き残り全員が驚愕した。
どう見ても回避できる位置ではなく、避けられるほど炎のアーマーハティは俊敏ではなかった。
なのに、瞬間移動するかのような速さで炎のアーマーハティは射線から避けた……否、避けさせられた。
ガウスガンの直撃から、炎のアーマーハティを
炎のアーマーハティが吠えると、他のハティはすぐさま戦闘を止めて、アーマーハティの側に集結する。
ライカン達も一度体勢を立て直す為にハティ達と距離を取り、シュードドッグもライカン達に続いた。
「…………すまない、特製弾が尽きた。」
トラッパーが歯を食いしばりながら、スキフ達に謝罪する。
炸裂弾が尽きてしまった事で、重力のハティがアノマリーを使う余力を生み出してしまったのだ。
誰も責める者はいない、今まで重力アノマリーが飛んでこなかったのは彼がほぼ1人で、重力のハティを抑えていたからだ。
「クソ……俺が当ててさえいれば……」
スキフはオーバーヒートしたガウスガンを抱え、ビスの犠牲で得たチャンスを自身が狙いを外した事で不意にしたことを呪う。もう一度撃てるかは怪しいだろう。
こちらも誰も責められない、アノマリーさえなければ、間違いなく直撃していた筈だったのだ。
「……次の手を考えましょう、ハティ達は何故一度距離を────」
ライカンはどうすればいいか脳をフル回転させて次の案を考える。
不思議なのはなぜ外来種のハティ達は一度戦闘止めたのか、まるで何かを待っているように────
その瞬間、濃霧の先からライカン達目掛けて光刃の雨が振り注いだ。
「皆さん!防御体勢を────!」
エーテルの光刃が次々とライカン達のいる場所へと着弾し、巻き上げられた土煙が辺りを覆う。
煙が晴れると、重症を負ったライカン達の姿がそこにはあった。
「み…皆!大丈夫かい!すぐに回復を……」
咄嗟にライカンとスキフによって庇われたアキラは何とか無事だった。血だらけになった全員に回復キットを打ち込んで傷を治す。
「プロキシ様……ご無事で安心しました……貴方も怪我が無い様ですね……気にしないで下さい、私をアノマリーから助けてくれたお返しです。」
驚いたようにシュードドッグが、自分を抱きかかえるライカンを見る。心配そうに鳴き声を上げ、ライカンの傷口を舐めていた。
「すまんプロキシ……さっきの包囲攻撃は何処から…」
「今の攻撃…恐らくタナトスの……」
アキラに回復キットを打ってもらい、なんとか体力を回復させるスキフは、今の攻撃が全周囲から来たことに驚いていた。
一方アキラは今の攻撃は上級エーテリアス「タナトス」の物だと判断する。
「なぁ君達……周りを見てみろよ。」
「あ…兄貴……最悪の展開だ……」
リヒターとウルフの震えた声でスキフ達は周囲を見渡す、すると絶望的な光景が目の前に広がっていた。
「これは、上級エーテリアスの集団…!」
「沼地の連中が居なくなる訳だ……要警戒級の
ライカン達を包囲するのは、60体以上にも及ぶデュラハンやタナトス、ファールバウティの群れ。
しかもそのうち20体近くは要警戒級のデュラハンやタナトスの集団で構成されていた。
勝負あった───そうせせら笑うように外来種のハティ達が嗤うと、エーテリアス達が自身の武器を構えてゆっくり包囲を狭めてくる。
ライカンは既に判断を下した、もはやこれまでだと。
「プロキシ様、これより全力で離脱を試みます、私達が突破口を開いた瞬間、直ちに沼地からお逃げ下さい。追撃は出来る限り私達で食い止めます。」
「えっ……待ってくれ!ライカンさ──」
「スキフ様、トラッパー様、ウルフ、どうか私と共に命の限りを尽くして殿を務めて頂きたい。リヒター様、プロキシ様を無事に沼地より連れ出して貰えますか?」
「分かった、リヒター、プロキシを必ず家に返してやれよ。」
「ああ、お別れだ相棒。よし、全速力だぞプロキシ、戦闘が始まったらスモークと閃光弾を撒き散らして離脱する。」
「全く……死ぬならキメラに食い殺される最後が良かったんだがなぁ。」
「兄貴、最後をお供できて光栄だ、俺は何時でも動けるぜ。」
「そんな……こんなのって…!」
淡々と、あっさり自分たちの命を捨てる判断を下したライカン達を前に、アキラは必死に皆が助かる方法を考える。
だが無理だ、外来種のハティの内2体はこちらの攻撃が全く通用せず、恐らくコアを破壊しても自己再生して復活してしまうだろう。
それに要警戒級が数十体もいる上級エーテリアスの群れが加わっているのだ。これを相手にするには「虚狩り」級の人間でなければ生き残れない。
だがそんな都合良く「虚狩り」級の力の持ち主が空から降って来ることなどあり得ないのだ。
かつてビビアンと共に、ホロウの中でタナトスに包囲された時に窮地を救ってくれた雲嶽山の宗主「儀玄」の事を思い出すが、まさかZONEで偶然出会う事なんてないだろう。
皆をここで置いていくなんて────歯がゆい気持ちを抑えて、アキラは一縷の希望が残っていないか考える。
どうすればこのエーテリアス達から皆を救い出せる───?
誰か、誰かこのZONEで助けになってくれる存在は───
すると、ライカンの側でエーテリアス達を睨み付けていたシュードドッグが、驚愕した表情で、自分達の遥か後方を眺めていた事に気付いた。
ふと、周りを見渡すと、包囲を狭めていたエーテリアス達が足を止めていた。
突然動きを止めたエーテリアス達をライカン達が不審に思っていると、シュードドッグが遠吠えを沼地に響かせ始めた。
─────すると、
その遠吠えが聞こえた瞬間、エーテリアス達はライカン達の包囲を解いて、外来種のハティの近くに陣取り始める。
ライカン達がその動きに驚愕し、遠吠えが聞こえてきた方向に向くと──────無数の影が濃霧の先から姿を現し始めた。
目が潰れた犬───ブラインドドッグの群れがいた。
より鋭利な爪と歯を持った鼠───オオネズミの群れがいた。
三つ目の肉塊───フレッシュの群れがいた。
巨大な大猪───ボアの群れがいた。
下顎が膨れた恐ろしい外見の猫───バユンの群れがいた。
人の顔を持つ狼───シュードドッグの群れがいた。
それらを率いるは悪魔のような双頭を持つ、ZONEの頂点捕食者───
────違う、キメラは大群の中央からやって来る
まるで───王の凱旋を迎える騎士のように。
沼地のシュードドッグは漸く理解した、“ヌシ”が倒れた後、生き延びた2体のキメラは逃げ出したのでは無い、助けを呼びに行ったのだと。
中央から新たな群れが姿を現す───ハルバートの如く掲げられた角、鎧の如く強固に固まった苔むした皮膚、地面を打ち鳴らす無数の蹄の音───!
その光景を見たトラッパーは驚愕のあまり、ヘルメットを取って、直に目に焼き付けようとした程だ。
「ホーンヘッドの群れ……!間違いない……俺が追いかけていた奴らだ!」
「奥から一匹、デカいのが来るぞ…!なんだこの威圧感は…!」
スキフはホーンヘッドの群れの奥に、更に巨大な影がやって来たのを見つける。
ZONEで散々ミュータント相手に戦ってきたスキフだが、あんなミュータントは見たことなんてなかった。
その大きな影の姿がはっきりと見えた時───ライカンは思わず口に漏らしてしまった。
「───美しい。」
威風堂々とした巨大な角、雄大な自然を思い起こさせる体躯、何よりその黒く澄んだ瞳。
周りのホーンヘッドを遥かに超える体躯を持つ更に巨大なホーンヘッド。
その巨大さは、アカシカから変異した他のホーンヘッドと違い、最大のシカであるヘラジカから変異したのではないかと思われる程の巨大な角と肉体を持っていた。
まさしく、ZONEに存在する動物系ミュータントの“王”
そう称する他ない、圧倒的存在が、ZONEのミュータント達を率いていた。
ミュータント達が鳴く、水場を取り戻せと。
ミュータント達が吠える、奴らを喰らえと。
ミュータント達が咆哮を上げる、縄張りを取り戻せと。
“王”が、静かに嘶く、静まれと。
ミュータント達は一斉に静まり返る。
“王”が角を掲げ、ゆっくりとエーテリアス達に向ける。
沼地に、“王”の蹄の音が響き渡る。
ライカン達にはミュータントの言葉なんて分からない。
だが、なんと言ったのかは彼らにも理解出来た。
───夷狄を倒せ。
“王”が敵に剣を向けた瞬間、数十体のエーテリアスの群れに、数百体を超えるミュータントの軍勢が、突撃を開始した。
◇シュードドッグ
初代から登場する人面犬のミュータント。ドッグとついているが実際は狼から変異した存在。
ブラインドドッグを更にタフにした能力で、旧作では分身能力を持たない個体もいたが、2では全てのシュードドッグが分身能力を持って襲い掛かってくるようになった。
何気にミュータントのなかで唯一人間と共に暮らす個体が確認されているミュータント。
1人はザトンに住むノアという変人がシュードドッグのメスを、もう1人はStalkerシリーズの重要人物である“ドクター”が、ブルドッグに顔つきが似たシュードドッグを飼っているのが確認出来る。
………ドクターが飼ってる奴ってシュードドッグだよね?