Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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39.沼地の大戦争

 

 

 

 巨大なホーンヘッド──“王”が率いるミュータントの軍勢が外来種のハティ達率いるエーテリアスの群れを轢き潰さんと、大地を揺らしながら突撃していく。

 

 対するエーテリアス達も炎のアーマーハティの咆哮ですぐさま防御陣形を組み、デュラハン達が盾を構え、その後ろからタナトス達がその刃から光を放出し始めた。

 

 そして、その間に取り残されたままのスキフ達は、先程のエーテリアスに包囲された絶望的な状況から、ミュータントとエーテリアスとの正面衝突に挟まれる絶望的な状況に移った事を嘆かざるを得なかった。

 

 「あっははは!俺達もうおしまいだ!このままミュータントとエーテリアスのサンドイッチになっちまうんだぁ!」

 

 「嘆いてないで全員ありったけ手榴弾を取り出せ!ミュータント共に放り投げて離脱する時間を──あだだだだ!?こんにゃろ噛みつくな!」

 

 混沌とした状況に笑うしかないリヒターを叱咤しながらスキフは手榴弾を使って、迫りくるミュータントの波を食い止めようとするが、先程まで共に戦っていたシュードドッグが、スキフが怪我しない程度に噛み付いて妨害してきた。シュードドッグの必死の表情を見たアキラとライカンはその意図を理解する。

 

 「待つんだスキフさん!あのミュータント達は敵じゃない!」

 

 「皆様!このまま動かないで下さい!」

 

 アキラとライカンはミュータントに武器を向けようとする全員を制止し、その場を動かないよう指示を飛ばす。

 2人を信じてその場で備えていると、ミュータント達はスキフ達を器用に避けながら次々とエーテリアス達に突撃していった。

 

 「こんなに無数のミュータントが……ZONEが…ZONEが俺達を助けに遣わしたのか…!?」

 

 「そんなわけないだろ!エーテリアス共をブッ殺しに来たんだよ!俺達は眼中に無いだけだ!」

 

 こんな状況で何故か目を輝かせるトラッパー、そんな彼にウルフがツッコミを入れた通り、ミュータント達はスキフ達に目もくれず、一心不乱にエーテリアスのみを目標としていた。

 

 外来種のハティ達が、戦列を組むタナトス達が、大量のアノマリーと光刃の雨を迫りくるミュータント達へ向かって放つ。

 

 先陣を切るボアとフレッシュが切り裂かれ、焼かれ、溶かされ、潰され、血を吐き、臓物を撒き散らしてバタバタと死んでいく。

 

 だがそれでいい、ボアとフレッシュの死体は後続がアノマリーを飛び越える”橋“となり、飛んでくる攻撃から小さなミュータント達を守る”盾“になる。

 

 最初の攻撃を生き延びたボアやフレッシュが次々とデュラハンの構える盾にその身を打ち付ける。

 彼らの力では上級エーテリアスたるデュラハンの戦列が繰り出す防御陣は突破出来ない。だが僅かに空いた隙間から、或いはボアやフレッシュの背中を飛び越えてブラインドドッグやバユン、オオネズミがエーテリアス達の中に入り込んで行く。

 

 小さなミュータント達がエーテリアスの集団を掻き乱し、エーテリアスの防御陣形が僅かに崩れた瞬間───ホーンヘッドの騎兵隊がエーテリアスの群れに突き刺さった。

 

 突撃によって姿勢を崩されたデュラハンのコアがホーンヘッドの蹄に踏み砕かれる。タナトスの斬撃が突撃してきたホーンヘッドの首を跳ね飛ばす。そのタナトスのコアに小さなミュータントが群がりコアを切り刻む。小さなミュータント達がファールバウティの剛腕で薙ぎ払われる。ファールバウティの胴体に次々とホーンヘッド達の角が突き刺さる。ホーンヘッドの胴体へデュラハンの剣が振り下ろされる。その直前でキメラがデュラハンのコアを引き裂いた。

 

 倒れたエーテリアスはミュータント達にコアをズタズタにされ、倒れたミュータントはエーテリアス達に踏み潰され死んでいく。

 

 一瞬にして戦場は混沌とした乱戦状態に変貌していった。

 

 スキフ達の側を“王”が悠々と歩いていく。スキフ達は身構えるが、そんな彼らを“王”は一瞥すると、外来種のハティ───炎のアーマーハティへ目標を定め、戦場へと足を進めて行った。

 

 “王”の接近に気付いたファールバウティが群がるホーンヘッド達を薙ぎ倒して“王”に向かっていく。その凄まじい力で叩き潰そうと、振り下ろされた拳が身構える事すらしない“王”の脳天へと直撃する────

 

 「なっ……」

 

 「嘘だろ…?バケモンじゃないか…!」

 

 スキフ達は唖然とするしかなかった、ファールバウティの拳が直撃したにも関わらず、“王”はビクともしなかったからだ。

 寧ろ、その角に振り下ろされたファールバウティの拳が砕け、深々と突き刺さっていた程だ。

 自慢の拳が通用しなかったファールバウティは混乱し、咄嗟に引き抜こうと全力で引っ張るが、“王”の身体は身じろぎ一つしなかった。

 

 その状態から“王”はなんてことないように、その巨大な角を振る───結果、角に突き刺さっていたファールバウティの腕が容易く引き千切られた。

 腕を失ったファールバウティが痛みに苦しむ暇もなく、そのコア目掛けて“王”の角が振り上げられ───その瞬間、巨大な体躯を持つファールバウティの身体が、空高く舞い上がった。そのコアと周辺の部位は、跡形もなく砕け散っており、地面に落ちる直前にその身体は消滅した。

 

 ファールバウティの消滅に一瞥をくれることもなく、“王”は炎のアーマーハティの下に向かっていった。

 

 「なんという………しかし……」

 

 “王”の圧倒的な力にライカンは驚嘆し、その存在に思わず見惚れてしまいながらも冷静に戦場全体を俯瞰する。

 一見ミュータントの軍勢が圧倒的な数の差でエーテリアスを押しているように見えるが、やはり小型のミュータント達が主力では外来種のハティ達や要警戒クラスのエーテリアス相手には些か分が悪いのか、キルレシオの差で言えばミュータント側が圧倒的に犠牲を出していた。

 

 これではそのうち、数の差が覆されるかもしれない。いくら“王”が強くとも、配下のミュータント達が全滅すれば、外来種と要警戒エーテリアスの集団相手に窮地に陥る可能性が高い。

 

 ふと、ライカンが側にいた沼地のシュードドッグを見ると、ライカン達に懇願するような目でこちらを見ていた事に気付き、彼は決意した。

 

 「……皆様、私たちもミュータント達に加勢しましょう、窮地を救って貰いながら、このまま黙って眺めている事はできません。」

 

 「俺は反対だ、逃げるチャンスを失う訳にはいかない。勝手に殺し合いさせておけ。」

 

 スキフが今こそ沼地を脱出できるチャンスだと言い、ライカンを止めようとするが、その肩を2人の人間が掴む。

 

 「スキフ、人間という生き物は常日頃アーティファクトを採掘し、ミュータント達を狩って暮らしている、ZONEという人ならざる者の領域に侵入してだ。俺はZONEではハンターとして、ミュータント相手に狩るか狩られるかの戦いをずっと経験してきた。」

 

 「そうかトラッパー、お前いきなりどうしたんだ。」

 

 「これはきっとZONEからのお達しだ、あのミュータントの王様と共にエーテリアスと戦う事で、遂に我々人類はZONEに認められるか否かを試されているんだ!」

 

 「頭大丈夫か?一旦スカドフスクに戻るか?」

 

 急にスピリチュアルな事を言い出したトラッパーに真顔で言い放つスキフ。彼のもう一方の肩を掴む男が身体を自分の方に振り向かせた。

 

 「考えてみろよスキフ、伝説を成し遂げるチャンスが目の前に転がっているんだぜ。」

 

 「リヒター、お前さっきもうおしまいだとか抜かしてたじゃないか。というか伝説ってなんだ伝説って。」

 

 「ああ!ミュータントの軍団と共闘してエーテリアスの軍団をブチのめすなんて今後数十年はZONEで語り継がれる事になるぜ!それにトラッパーの言う通りZONEに認められるかどうかもかかってるんだ!」

 

 「駄目だこいつら。ウルフ、お前もこいつらに何とか言ってやってくれ。」

 

 目がキラキラと光ってきたリヒターを見限り、スキフは援軍を要請するがその判断が間違っていた事を思い知らされる。

 

 「俺はビス達の仇を取るまで逃げるつもりはねぇぞスキフ、それにライカンの兄貴が戦うなら俺も付いていく。」

 

 「……その気持ちは分かるがなぁ。」

 

 スキフは天を仰いだ。何故ZONEのホロウレイダーという連中はそんな眉唾なロマンや敵討ちの為に分の悪い賭けをする人種なのか─────そこまで考えてスキフは1つの事を思い出した。

 

 (いや、ストーカーと大して変わらないじゃないか。)

 

 奇跡のアーティファクトや実在するかも分からぬ願望器(モノリス)を求めたり、ZONEという領域に何かを願ってやって来て、そこで身勝手に殺し殺される、それがストーカーという人種なのだ、世界が変わってもZONEに誘われる人間は変わらないと言う訳だ。

 

 目の前には異常領域を住処とする異形の怪物達が、己の生存を掛けた全面戦争が繰り広げられている。

 

 チョルノービリの古き良きストーカー達も、こんな光景を見たら武器を持ってこのお祭り騒ぎに殴り込みに行くだろうなという確信がスキフにあった。

 

 正直な所、現実的な判断以上にあのミュータントの“王”が本当に(・・・)ZONEとやらの意思だった場合、ミュータントの勝利で戦いが終わった後に起こりうる事が一番スキフが恐れているのだが、今考えても仕方ないと観念したスキフは思いっきりため息をついてアキラに声をかける。

 

 「はぁぁぁ………プロキシ、安全な場所にいろよ。」

 

 「分かってるよスキフさん、巻き込まれない場所に隠れてる。」

 

 スキフが腹を括ったのを見たライカンは、全員に自分達が目標とすべきエーテリアスを告げる。

 

 「優先して倒すべきは要警戒エーテリアス、そして外来種です。他の上級エーテリアスはミュータント達だけで事足りますが……先の2種はミュータントの犠牲を増やす原因となっていますので。」

 

 「全く……また(・・)ミュータントと一緒にエーテリアスと戦う事になるなんてな。」

 

 「おや、スキフ様。以前もこのような経験が?」

 

 「ああ……“奴”を思い出して嫌になる。」

 

 この世界へやって来たばかりの頃に出会った存在(外来種のブラッドサッカー)を思い出しながら、スキフはASラヴィナを構えて、ライカン達と共に異形達が争う戦場へと身を投じていった。

 

 

 

 

 “王”に向かって幾つものFireball(ファイアーボール)が飛んでくるが、角で大量の土砂を巻き上げてアノマリーを掻き消す。

 そこにVortex()が“王”の身体を轢き潰さんと出現し動きを封じられるが、あらゆる物を圧縮する重力の力は“王”の頑強な表皮をミシミシと鳴らすだけに留まっていた。

 

 炎のアーマーハティがLava Lamp(溶岩ランプ)を牙に纏わりつかせ飛び掛かってくるが、重力の拘束を振り切って“王”が角を振り回し、炎のアーマーハティの強固な鎧に盛大な火花を散らして弾き飛ばした。

 

 “王”は自身の角が僅かに欠けたのに気付き、炎のアーマーハティは己の鎧に小さな罅が入ったことに驚愕しながら地面を転がっていった。

 次の瞬間、“王”の周囲に大量のRazor(ガラス片)Vortex()が出現し、動きを阻害する。

 重力のハティがこちらに向けて駆け出してきたのを確認した“王”は迎撃体勢に入るが、そこに要警戒・タナトス達の光刃が襲い掛かってくる。

 

 嘶いて配下のミュータントにタナトス達を襲わせ、飛んで来た光刃を角ではたき落としながら、大口を開いて喉笛に噛みつこうとしてきた重力のハティを一撃で地面に叩きのめす。

 自身が纏うSpringboard(踏み台)の防御を突破された事に驚愕しながら、己の役割を果たさんと重力のハティは“王”の身体に一際大きなVortex()を出現させた。

 強烈な重力が“王”を圧縮せんと襲うが、その身体は一切揺らぐ事は無い。

 

 “王”はその脚で重力のハティの“首の付け根の後ろ”を踏みつけ、全力で押しつぶす。Springboard(踏み台)の鎧でさえ押し返せない程の力によって、重力のハティは苦しみに悶えるが、僅かに表情が笑っていたのを“王”は見逃さなかった。

 

 遠方に巨大な炎球が構築されているのが見えた、ライカン達を吹き飛ばした熱性アノマリーの集合体を炎のアーマーハティが重力のハティごと、“王”に向けて放とうとした─────

 

 その瞬間、ミュータントとエーテリアスが入り混じる戦場を弾丸の如く突き抜けて行ったライカンが、炎のアーマーハティを全力で蹴り飛ばした。

 狙いが逸れた炎球は、偶然近くにいたファールバウティに直撃して粉々に消し飛ばしてしまう。

 衝撃が響く義足のダメージに気を配りながら、ライカンは怒りに燃える炎のアーマーハティと相対する。その傍らには沼地のシュードドッグもいた。

 

 「───“王”よ、エーテリアスと同じく、貴方の領地に不躾にも侵入した私達に寛大な慈悲を与えて下さり、誠に感謝致します。窮地を救って頂いた礼と言ってはなんですが……このライカン、微力ながら貴方にお力添え致しましょう。」

 

 ライカンの言葉を聞きながら、“王”は重力のハティを踏みつけている脚へ更に力を入れる。

 重力という鎧のせいで地面にめり込み続ける重力のハティの身体が遂に踏み砕かれ、断末魔と共に周囲に大量のガラス片を撒き散らしながら外来種の一体が消滅していった。

 

 身体にかかったガラス片を振り落とし、“王”はライカンとシュードドッグの間に立つ。

 執事と猟犬をお供にした“王”は、角を振り上げ大きく嘶き、その合図でライカンと沼地のシュードドッグは炎のアーマーハティへと立ち向かっていった。

 

 

 

 

 「やっぱあいつ一匹に任せとけば良かったんじゃないか!?」

 

 「よそ見してる暇なんてないぞスキフ!酸の雨がくるぞぉ!」

 

 漁村で散々手こずらせ、無敵の防御を誇ると思われていた重力のハティを呆気なく粉砕した“王”に驚愕を飛び越えて恐怖すら覚えるスキフ。

 だがリヒターの叫び声が聞こえ、すぐさま自分達やミュータントに降りかかってくるFruit Punch(フルーツパンチ)の雨あられから全力で逃げ出す。

 

 ミュータント達が来る前は手加減していたのかと思う程、酸のハティは無数の化学アノマリーを撒き散らして迫りくるミュータント達を骨も残さず溶かし尽くそうとしていた。

 

 現在トラッパーとウルフが立ち向かっている雷のハティも同じ様にアノマリーを大量に放出しており、殆ど近づくことが出来ない有様だが、やはり力を大量に使うせいかハティ達には疲労の色が見えてくる。

 

 「スキフ危ない!」

 

 酸のハティに集中していたスキフがリヒターの声にハッと前を見ると、要警戒・デュラハンが剣を振り被っていた。

 それを棒くぐりの要領で膝を折り曲げ躱し、デュラハンの膝裏にASラヴィナの弾薬を叩き込むと同時にリヒターのアサルトライフルからの射撃がコアに突き刺さる。

 

 並みのエーテリアスならこれで倒せるだろうが、要警戒・デュラハンは一瞬怯んだだけでスキフを叩き斬らんと再度剣を振り下ろす。

 その直前でハティのような体躯のミュータントがデュラハンに掴み掛かり、そのまま周囲を飛び交う酸のアノマリーの中に放り込んでデュラハンを撃破する。

 

 「キメラと一緒に戦ってるなんて、チョルノービリの連中に言ったら詐欺師(伝説のレックス)扱いされるだろうな……!」

 

 今スキフとリヒターと共に酸のハティや要警戒エーテリアス達と戦っているのは、双頭の人面を持つライオンやバイソンに近い身体を持つミュータント「キメラ」だ。

 このキメラは小さい方の顔が焼け爛れていた。ついさっき受けた傷ではない、恐らく沼地に住まうキメラの生き残りで、“ヌシ”が死んだ戦いの時に目の前の酸のハティによって、顔の一つが酸で焼かれたのであろう。その目は酸のハティに対する復讐の炎で染まっていた。

 

 因みに、ミュータントの軍勢にいたもう一匹のキメラはトラッパー達と共に雷のハティと戦っている。

 

 キメラの援護でエーテリアスの群れと渡り合えているものの、スキフは酸のハティに対して決定打が足りないと痛感していた。

 

 (身体に酸を纏わりつかせるせいでキメラが近寄れない…!かと言ってこいつ(ASラヴィナ)じゃ火力不足だ…!)

 

 やはりガウスガンを使うべきか───2度の最大火力での射撃のせいで耐久値が低くなってしまった、動作不良の危険が高いガウスガンを持つのはどうかと思うが、他に通用する手段がない。

 

 「ポマギーチェー!」

 

 「何がどうしてそうなったんだリヒター!?」

 

 リヒターの叫び声に気付くと、大量のオオネズミに群がられ、引っ掻かれ、コアを齧られて暴走するファールバウティがリヒターを追いかけ回していた。

 

 迷ってる暇は無い、すぐにガウスガンを構えてファールバウティに向けて撃とうとした途端────

 

 「撃つな!」

 

 「撃つなったってリヒターが……誰だ?」

 

 「あっちだ!」

 

 リヒターの声では無い、トラッパーやウルフでも、ましてやライカンやアキラでもない人間の声が突然聞こえた。

 そんな声が指し示す方向には、ファールバウティの位置を確認しながら酸のハティの移動を封じるように動くキメラとホーンヘッド達がいた。

 

 スキフは“声”の意図を理解する、ファールバウティを酸のハティにぶつけろと言っているのだ。

 

 「リヒター!酸のハティに向かって走れ!」

 

 「バカ言え!俺の足は人並み───うおぉ!?」

 

 ファールバウティに追いつかれそうなリヒターを割り込んできたボア(大猪)が掬い上げ、そのまま酸のハティに向かって突き進む。突然の事に混乱しながらもリヒターはボアの毛を掴んで振り落とされないよう必死に耐えていた。

 

 「すげぇ!俺今ボアに乗ってる!」

 

 元居た世界でのZONEも含めて、ボアに乗って駆け抜けるという経験をした者は、或いは成功させた(・・・・・)者は誰一人居ないのではないか。

 

 酸のハティは接近してくるボアとリヒター、その後ろにいるファールバウティに気付き、キメラとホーンヘッドを「GAS(毒ガス)」を噴き出して追い祓い、その場を逃れようとするが────

 

 

 ─────ミャーーーーーオ!!!

 

 

 ガウスガンの一撃と同時に、周囲から猫の鳴き声の合唱が響き渡り、酸のハティとスキフは突如強烈な眠気に襲われ瞼が落ちかける。

 一瞬動きを封じられた酸のハティは、目の前で急な方向転換をしたボアに気付くのが遅れ、そのまま暴走して敵味方の区別がつかないファールバウティと戦闘状態に陥ってしまう。

 

 うっとおしいとばかりにスキフの目の前でボアに放り捨てられたリヒターを尻目に、スキフはさっきの猫の鳴き声の正体を即座に察した。人間を誘い込む為に模倣した人の声と、眠気に誘う鳴き声を使って人間を狩る猫のミュータント───

 

 「さっきの声……!バユンか!」

 

 「避けろ!」

 

 またバユンの声が聞こえ、足下のリヒターの尻を蹴り飛ばして自らは反対方向に避ける。

 先程までスキフとリヒターがいた場所に弓のような形をした刃が音もなく振り下ろされた。いつの間にか現れた要警戒・タナトスがそこにいたのだ。

 

 「来るぞ!」

 

 「Давай(こい)!」

 

 バユンの指示通り、スキフを両断せんと再度刃を振るうタナトスの攻撃を、間一髪で11号のナイフで受け止める。

 要警戒級のエーテリアスの一撃だというのに欠けることもない幅広のナイフに感激しながら、PTMピストルを引き抜き、タナトスのコア目掛けてマガジン内の弾薬を全て放つ。

 

 怯んだタナトスは一度姿を消そうとするが、そこにバユンの鳴き声が響き、一瞬混乱状態に陥る。

 そしてスキフの後ろからバユンが飛びかかり、タナトスのコアをその爪で引っ掻き続ける。

 

 バユンをはたき落とそうとタナトスが刃を振り回すが、胴体へ向けてナイフを握り絞めたスキフが接近して何度も突き刺す──ガウスガンを撃とうとしたが不発に終わった。

 苦しむタナトスが力を振り絞ってスキフとバユンを振り払い、姿を消そうとした瞬間、リヒターの銃撃がコアを貫いて要警戒・タナトスはその場に崩れ落ちた。

 

 「スキフ…!俺ボアに乗ったんだよ…!」

 

 「ああ、ちゃんと見てたぞリヒター……おいニャンコ、さっきは助かった。」

 

 興奮冷めやらずのリヒターを軽くあしらいながら、スキフは先程アシストしてくれたバユンを気にかける。バユンは振り落とされた際に出来た自らの擦り傷を舐めて癒していた。

 ふと、二度目のホロウ体験で殺されかけた所を救って貰い、そして邪兎屋へと導いてくれた黒猫を思い出した。

 

 (そう言えばあの時戦ってたエーテリアスもタナトスだったか……)

 

 この世界に来てから2週間程しか経っていないにも関わらず、懐かしくなるような感覚を味わいながら酸のハティとの戦いに戻ろうとすると、突然バユンが僅かな毛を逆立てて逃げ出した。スキフ達に警告を残して。

 

 「下がれ!」

 

 「あれっ、今の声ってまさかバユン───」

 

 「マズイ!伏せろリヒター!」

 

 スキフが叫んだその瞬間、沼地を揺らすほどの大爆発が、戦場全体を包み込んだ────────

 

 

 

 

 

 ─────少し前

 

 ライカン、沼地のシュードドッグ、“王”による炎のアーマーハティへの集中攻撃は、その強固な火山石の鎧に少しずつダメージを蓄積させていった。

 

 重力のハティが撃破され、他のエーテリアスの援護も全てライカンとシュードドッグのコンビによって容易く退けられるか、ホーンヘッド達による攻撃で支援が出来ない状況。

 

 特に“王”が、最初の激突で鎧に出来た罅を集中的に狙っている事で、鎧の罅が大きくなっていく事に炎のアーマーハティの焦りがどんどん募っていく。このままでは鎧を砕かれ、自らの身体は無防備となるだろう。

 

 意を決した炎のアーマーハティは強く吠えた、その声に応えてタナトスやデュラハンが自らの身を顧みず“王”に向かって突貫し始め、自分は全ての熱性アノマリーの力を集結し始めたのだ。

 

 炎のアーマーハティの行動に気がついたライカンとシュードドッグはすぐさま対処に動くが、突撃していったシュードドッグの分身達が次々と閃光によって消滅していく。

 

 「またこの閃光か…!」

 

 既の所でClicker(クリッカー)に気付き、更に他のエーテリアスの攻撃で距離を取らざるを得ないライカン。

 その間にも炎のアーマーハティが溜め込む炎のアノマリーはどんどん巨大化していく。

 

 「あれを起爆させる訳には…!」

 

 “アレ”の威力は何度か放たれた炎球の比ではないだろう、だが炎のアーマーハティの周囲に展開されたClicker(クリッカー)がライカンの足を阻む。

 

 自身に襲い掛かるデュラハンを倒しながら、どんどん巨大化していく炎球に危機感を募らせていると、突然ライカンとシュードドッグに大量の土砂が降りかかった。

 

 「な────!?」

 

 纏わりつくエーテリアス達を薙ぎ払った“王”が、突然ライカン達に向けて地面の土砂を放り投げたのだ。視界が狭まり、土に埋もれるライカン達を尻目に、“王”は炎のアーマーハティに向かって突貫する。

 

 Clicker(クリッカー)の閃光が次々炸裂し、“王”の身を焼いていくが、一切気に留める事なくひたすら炎のアーマーハティに向かって突き進む。

 

 そして、土の隙間からライカンが見たのは、空中に放たれた巨大な炎のアノマリーの集合体が、炸裂した光だった。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 「………貴方も無事でしたか。」

 

 焼けた土の山からライカンが身を起こすと、同じ様に土砂に埋もれていた沼地のシュードドッグも身を震わせながら土から這い出て来た。

 

 炎のアーマーハティが放った凄まじい炎の爆発から、“王”がライカン達を守る為の行動だったのは明白だった。

 それでもアーマーは焦げ付き、ライカンの全身に軽い火傷の跡が残っているくらいには凄まじい熱が襲いかかっていた。

 

 痛みを耐えながらライカンは自身に回復キットを打ち、炎のアーマーハティに突撃していった“王”の行方を探す。

 

 

 “王”は生きていた、その皮膚が焼け落ち、全身が焦げ付いて、足が震え満身創痍になりながら炎のアーマーハティの鎧、集中攻撃よって脆くなっていた箇所にその角を深々と突き刺していた。

 

 だが本体には届いてなかったのか、鎧が赤熱に輝く炎のアーマーハティが身体を捻り、“王”の身体を地面に叩き伏せる。

 その状態から爪を使って、自身に刺さる“王”の角の片方を根元からへし折った。

 “王”から漏れ出る苦しみの声に満足感を得ながら、炎のアーマーハティが止めを刺そうと、熱性アノマリーを口に集中させようとした。

 

 

 ────だが、そこに大量のシュードドッグが群がり、“王”への止めが妨害され、更に自身の鎧に突き刺さる“王”の角に凄まじい衝撃をくらい、“王”を押さえつけていた身体が離れてしまう。

 

 炎のアーマーハティは身体中からBurner(バーナー)を噴出させ、群がるシュードドッグの分身達を焼き払ってさっきの攻撃の主を探そうとした瞬間、冷気を纏った一撃が更に角を押し込み─────遂に、炎のアーマーハティの纏う火山石の鎧が砕け散った。

 

 アーマーが剥がされ、ただのハティと化した炎のハティが下手人を睨みつける。

 そこにはアーマーがボロボロになったライカンと沼地のシュードドッグが、“王”を守るように立っていた。

 

 「今は少しばかりお休み下さい……後は、私達にお任せを。」

 

 あの鎧さえなければ、十分ライカンの攻撃が通用する。身体から放出させる炎のアノマリーは、ライカンの義足のみならず肉体を焼くだろうが、自らの身を犠牲にしてまで“王”がくれたチャンスを逃してなるものか。

 

 ライカンと沼地のシュードドッグが炎のハティへ向かって行くのを見た“王”は、立ち上がるのを止めてゆっくりと身を横たえた。

 

 

 

 

 

 「─────フさん!スキフさん!大丈夫かい!?」

 

 「ああクソ……プロキシ…?お前は平気だったのか?」

 

 「僕はギリギリ巻き込まれなかったんだ!でも皆、あの凄い爆発に巻き込まれて…!急いで回復キットを持ってきたんだ。」

 

 アキラの肩を借りてスキフが身を起こすと、数多くのミュータント達が黒焦げの死体に変貌し、まだまだいた筈のエーテリアス達も殆どが消滅していた。

 どうやら炎のアーマーハティは敵味方お構いなしに吹き飛ばしたようだった。

 

 近くにいた筈のリヒターがいなかった為、慌てて探すと火傷だらけのフレッシュに引き摺られたリヒターが側まで運ばれてきた。

 どうやら無事だったボアやフレッシュが生存しているミュータントを安全な場所まで運んでいるらしい。

 リヒターの安否を確かめると、なんとか大丈夫そうだったので頬を引っ叩いて起こす。

 

 「リヒター、しっかりしろ。まだ生きてるか?」

 

 「あれ、俺フレッシュに食われて死んだんじゃ……」

 

 「そのフレッシュに助けられたんだよリヒターさん……スキフさん、外来種は?」

 

 火傷を負ってるリヒターに回復キットを投与したアキラは、スキフに外来種のハティがどうなったのか聞く。

 確か、暴走したファールバウティと戦っていたのは最後に見たが、あの爆発に諸に巻き込まれる位置にいた筈だ。

 

 何処にいるかスキフが周りを見渡すと、アノマリー探知機が鳴り響いて咄嗟にその場から離れ、近くにあった物陰に3人で隠れる。

 

 先程までいた場所にElectro(エレクトロ)が出現し、まさかと思って物陰から顔を出すと、雷のハティと戦いを繰り広げていたトラッパーとウルフ、そしてもう一匹のキメラがこちらに移動してきたのが見えた。

 見ただけで随分と消耗しているのが分かる2人にスキフは声をかける。

 

 「トラッパー!お前らさっきの爆発は大丈夫だったのか!?」

 

 「なんとかな!というかお前らはなんでキメラに隠れてるんだ!?」

 

 「なっ…!これキメラだったのか!?」

 

 トラッパーの指摘に物陰をよく見ると、焦げたキメラが倒れ伏したものであったことに気付く。

 相方が無残な姿になったことに気付いたもう一匹のキメラは怒り狂い、雷のハティに対する攻撃を強めていった。

 だが突然地面が盛り上がって飛び出してきた酸のハティがトラッパー達に強酸の猛攻を仕掛け始める。どうやらファールバウティが壁となり、地面に潜る事で爆発をしのいだようだった

 

 「二人共手を貸せ!ミュータント共が軒並みくたばって手が足りない!」

 

 「分かった!プロキシ、ここに隠れてろよ!」

 

 ウルフの要請にスキフとリヒターが二体の外来種を仕留める為に飛び出していく。

 アキラは黒焦げのキメラの身体に隠れて、流れ弾から身を隠そうとするが、キメラが僅かに呼吸していたのがわかった。その目は未だに戦意を失っていない事も。

 

 「まだ生きてる…」

 

 なんて生命力なんだ──そう思い、ふとスキフ達、そして一緒に戦うキメラを見ると、アノマリーを撒き散らす二体の外来種に苦戦している様子が見られた。

 

 「………回復キットってミュータントにも効くのかな?」

 

 少しでも、エーテリアスと戦うスキフ達の助けになるために、アキラは自分が持っている回復キットをキメラに投与する。

 一番効果が高い科学的回復キットを全て撃ち込むと、キメラの傷が少しずつ直っていき、なんとか立ち上がれるまでには回復した。

 キメラはアキラの顔を見る、はっきり言って恐ろしい形相だが、不思議とアキラは恐怖は感じなかった。今のところ敵意がないからだろうか。

 

 キメラは軽く吠える、すると酷く傷付いたブラインドドッグが、何処からか拾ってきたボロボロで切り刻まれたバックパックを引きずってきた。

 バックパックをアキラの側にまで持ってくると、力を使い果たしたのかその場に倒れて事切れてしまう。

 

 「これは、確か……」

 

 アキラはこのバックパックに見覚えがあった。重力のハティによって何処かに連れ去られた“グレネーダー”のバックパックだ。

 中を覗くと、大量のグレネード弾や爆薬が詰まっていた。ボタ山を吹っ飛ばせるというのは本人の談だが、それを言えるほどの相当な数の爆薬を持ち込んでいたらしい。

 

 何かに気付いたアキラはキメラの顔を見る、アキラを見ていたキメラは視線をそのまま二体の外来種のハティに動かした。

 

 もう一度、キメラはアキラに顔を向け、喉奥を震わせながら唸り声をあげる。

 アキラは、この双頭の片割れが焼き爛れたキメラが何を言わんとしているのかはっきりと理解した。

 

 「……僕に手を貸して欲しいんだね?本当は嫌だけど……君は言っても聞かなさそうだしね。」

 

 アキラは意を決してスキフ達に叫んだ。

 

 「スキフさん!皆!そのハティ達を一カ所に留めてくれ!僕に考えがある!」

 

 「───っ!了解だプロキシ!お前ら!このСуха(クソ犬)共を離れさせるな!」

 

 スキフ達の銃撃が激しくなり、ハティ達はお互い側に寄ってなんとか対抗し始めた。

 アキラは自らのバックパックの中身をすべて放り出して、ボロボロのバックパックに詰まる爆発物を全て移し替えていく。

 

 全て移し替えたバックパックを、多目的ロープで焦げたキメラに括り付け、バックパックを頭部近くに結び付けた。

 そして、エーテル混合爆薬の起爆スイッチを手に持ち、もう一度キメラに確認を取る。

 

 「これで準備完了だ……本当に、これでいいんだね?」

 

 キメラは頷き、外来種のハティに向かって特攻していった。

 

 アキラは起爆スイッチを握りしめ、口を固く結びながらタイミングを見計らっていた。

 

 キメラの爪が襲いかかり、スキフ達の銃撃に晒され、一カ所に固まる酸と雷のハティ達。極度の疲労状態で機敏に動けなくなっているのも、ここまで追い込まれている原因の一つであった。

 

 飛んでくるアノマリーを避けながら、スキフ達が銃撃を加えていると、その間を一匹のキメラが通り抜け、それを見たスキフは驚く。

 

 「キメラ!?さっきの奴死んでなかったのか!?」

 

 「皆!爆発に備えてくれ!」

 

 アキラの声にスキフ達は咄嗟にその場で身を屈め、もう一匹のキメラもその場から距離を取る。焦げ付いたキメラがあらん限りの叫びを上げ、二体のハティに向かって飛び込んでいった。

 

 酸のハティは焦げ付いたキメラに括り付けられたバックパックを見て、一瞬で相手の策を見抜く。だが身体の疲労とダメージで避ける時間はない。

 

 ならば────酸のハティはすぐ隣の雷のハティの胴体に食らいついた。

 突然の事に雷のハティは混乱し、味方の行動に抵抗するが、酸のハティは全く躊躇する事なく雷のハティを焦げ付いたキメラに向けて盾にした。

 

 そして、そのタイミングでアキラは起爆スイッチを押し───凄まじい爆発が外来種のハティに襲い掛かる。

 爆発が焦げ付いたキメラと二体の外来種を包み込み、片割れであったキメラの嘆きの叫びが響き渡った。

 

 スキフ達が耳鳴りを抑えながら晴れていく爆煙に目を向けると、前足と顎とコアが吹っ飛んで倒れる雷のハティと、ズタボロになってふらつきながら立っていた酸のハティがいた。

 

 「全員撃てぇ!奴はもう限界だ!」

 

 「畜生、毒ガスだ!」

 

 止めを刺そうとするスキフ達に、酸のハティは濃密なGAS(毒ガス)アノマリーを放出して対抗する。

 

 スキフ達が怯むと、毒ガスの煙を突っ切って酸のハティは力を振り絞り、戦場から逃げ出そうとしていた。

 だがその前に、殺さなければならない存在がいる。何度も何度も酸のハティに横槍を入れてきた忌々しい人間が。

 

 「なっ…!プロキシ!」

 

 「狙いは僕か…!」

 

 酸のハティが狙うのはアキラだった。逃げる前に、通りすがりにFruit Punch(フルーツパンチ)の強酸を浴びせてやる。

 そう誓って酸のハティはアキラに向けて全力で駆ける────しかし、その尻尾に怒りに燃えるキメラが喰らいつき、ハティの動きが阻害された。

 

 酸で塗れてる尻尾に必死に噛みつくキメラに強酸をかけて追い払おうとした瞬間、リヒターがスモークグレネードと閃光手榴弾を投げて怯ませる。

 その間にキメラは離脱したようで、閃光手榴弾の影響がなくなった酸のハティが放出した強酸のアノマリーは自分の尻尾に振りかかるに終わる。

 

 苛ついて仕方ないハティは煙幕を突き抜け、アキラに向けて再度駆け出すが────

 

 「こいつには酸一滴も喰らわせねぇよ───Давай(来やがれ)Суха(クソ犬)!」

 

 アキラを守るように立ち塞がるスキフが、ガウスガンの銃口に11号のナイフを装着して待ち構えていた。

 そして酸のハティの大口へ向かって、ナイフを着けたガウスガンをコアを避けて(・・・・・・)喉奥へと突き刺す。

 

 「ぐっ……おおおおおお!!!」

 

 そのままスキフは酸のハティを頭の上へと持ち上げた。酸のハティが藻掻けば藻掻くほど、ナイフと銃口が奥へ奥へと突き刺さる。

 

 奥の何か硬いものに当たった感触を得たスキフは───ニヤリと笑ってガウスガンの引き金を引いた。

 

 

 そして、酸のハティは力なく腕を垂らし、まるで血反吐のようにFruit Punch(フルーツパンチ)がハティの口からスキフの全身へと振りかかる。

 酸のハティのコアが強酸によって溶け出し、そのまま酸のハティは光の点滅を起こして消滅した。

 

 「スキフさん!」

 「スキフ!大丈夫か!?」

 

 心配して駆け寄ろうとするアキラとリヒターを手で制止する。スキフのアーマーは最早殆ど溶け切って、使い物にならなくなっていた。それでもスキフが無事なのはリキッドロックの力のお陰だろう。

 スキフは全員に、特にライカンに聞こえるよう全力で叫ぶ。

 

 「ライカァン!トラッパーァ!外来種共の弱点は、コアじゃなくてその奥にあるデカいアーティファクトだぁ!」

 

 “王”が重力のハティを踏み潰した時、コアではない場所を踏み砕いたのを見ていたスキフは、外来種のエーテリアスの弱点がコア以外の場所に移っている可能性を考えたのだ。

 

 そしてそれは正解であった。アノマリーの制御も、アノマリーへの耐性も全て体内のアーティファクトからの力であった。

 

 「────承知致しました。」

 

 炎のハティと戦うライカンは、コアではなくアーティファクトを狙う攻撃にシフトする。

 

 「丁度いい、アーティファクトが丸見えになってるぞ。」

 

 トラッパーは顎が吹き飛んでいながらも、まだ立ち上がろうとする雷のハティから露出した、体内アーティファクトに向けて武器を向ける。

 

 雷のハティが最後の力でアノマリーを放とうとするが、そのコアをウルフが2丁のアサルトライフルで粉砕して動きを止める。1丁は、ビスの持っていたサプレッサー付きアサルトカービンであった。

 

 トラッパーが向ける武器は、懐から抜いたサイドアーム。片手で持つには大きすぎるハンドキャノン「ブラックカイト」だった。彼がキメラ用の隠し武器として持っていた最後の手段。

 トラッパーのブラックカイトから放たれる大口径弾が全て雷のハティのアーティファクトに吸い込まれるように命中し、雷のハティは大量の電気を放出して消滅していった。

 

 

 ───またたく間に、2体の外来種のハティが消滅したのだった。

 

 

 

 炎のハティは追い詰められていた、自慢の鎧は既に無くなり、手下のハティ達は全滅した。

 他のエーテリアスも“王”を仕留める為に放った最大威力のアノマリーの巻き添えでほぼ消え去った。

 

 そして目の前のライカンとシュードドッグは、最後に残った己を滅ぼす為に全力を尽くしている。

 

 すぐに出せるアノマリーは殆ど躱され、的確に自分の弱点に向けて攻撃が飛んでくる始末。

 この孤立した領域(ZONE)で、せっかくここまで勢力を広げてきたのに、こんな事になってしまったのが非常に腹立たしい。

 

 だが冷静になるんだ、ここで戦い続けてもいずれ手下共のように滅ぼされるだけ。逃げるのだ、幸い手札はまだ残っている。

 

 戦いが始まる前にエーテリアスになった“奴”を差し向けて時間を稼ぐ、僅かしか持たないだろうが十分だ。

 炎のハティは大きく吠えた、最後に残った囮を呼び寄せてライカン達にぶつける為に。

 

 「くっ…!まだ生き残りのエーテリアスがいたか!」

 

 濃霧を突き抜けてやってきた強欲射手がライカンに向けて突撃しながらエーテル弾を乱射する。回避を強いられ、炎のハティが離脱する隙が出来てしまった。沼地のシュードドッグが強欲射手を拘束し、ライカンが一瞬で強欲射手を仕留めるが、既に炎のハティは動き出した後だった。

 

 炎のハティはこの場から逃げ出す為に全力で走る。ライカンとシュードドッグが追いかけるが、力の限りで逃げるハティの速さに追いつけそうになかった。

 

 逃げられる────そう思った瞬間、炎のハティの胴体に高速で投げつけられた岩石が突き刺さり、真横に吹き飛ばされた。

 ライカンは驚き、投石が来た方向を見る。そこには“王”が、一本だけになった角を器用に使い、小型のミュータントが運んできた岩石を投げつけたのだ。

 

 「全く…!ミュータントの“王”よ、貴方には助けられてばかりだ!」

 

 一足早く沼地のシュードドッグが炎のハティに分身達と共に飛びかかってその場に押し止める。

 身体中からBurner(バーナー)を放出させ、分身達が次々と消滅するがハティの頭に喰らいつく本体だけはひたすら振りかかる熱に耐えていた。

 

 自身に向かってへ全速力で突貫してくるライカンを確認した炎のハティは迎撃の為に熱性アノマリーをありったけ放出する。

 

 だが無数に襲い掛かるアノマリーをライカンは次々避け───その通り道にはClicker(クリッカー)が、ライカンを捉える事なく無駄に炸裂していった。

 

 ここまでの戦いでライカンのアノマリーに対する感覚は究極に研ぎ澄まされ、Clicker(クリッカー)の発動する位置を完璧に察知できるようになったのだ。

 

 ライカンの義足に冷気の力が集まっていく。アノマリーを避けながら加速しつづけ、大地を駆け抜けてトップスピードまで上昇する。

 

 だが一際大きなBurner(バーナー)がライカンの身体を包む、沼地のシュードドッグは思わずライカンがやられたと思ってしまったが、アーマーが限界まで焼けつきながらもライカンは炎の柱を突破していった。

 

 その義足にはアノマリーの炎が纏っていた。冷気と炎が入り混じったエネルギーが義足へと集中していく。

 

 炎のハティは自身に喰らいつく沼地のシュードドッグを焼き払おうとするが、その身に大量の猟犬が噛み付いてきた。

 

 シュードドッグの群れだ、炎で焼かれても消えない辺り、本体達だけで襲い掛かってきたらしい。

 シュードドッグ達が群がり炎のハティの動きが封じられる。最早、ライカンの攻撃から逃げる事は不可能であった。出来る抵抗と言えば、顎を閉じる事だけ。

 

 「この力で─────!」

 

 ライカンの一撃が炎のハティの顔面を直撃する。その顎を、コアを、その先にあるアーティファクトを、ライカンの義足が貫いた。

 

 衝撃でハティに食らいついていたシュードドッグ達が吹き飛ばされる、他のシュードドッグは受け身を取れたが、ハティの頭部にいた沼地のシュードドッグは高く放り投げられ、そのダメージから受け身を取れそうになかった。

 

 だが、落ちてきた沼地のシュードドッグをライカンが優しく受け止める。吹き飛ばされた炎のハティを見ると、砕けた顎を必死に掻き毟っていた。

 

 ぐちゃぐちゃになった顎から溶岩が溢れ落ちる、その身体から炎が噴き出し、袋が破けるように閃光が漏れ出て、胴体が風船のように膨らみ始めた。

 

 「────弱肉強食は自然の掟と言いますが、どうやら貴方はここの住人となるには少々不適切の様ですね。申し訳ありませんがどうかご退去願います。ここは……“王”の領地ですので。」

 

 ライカンが言い終わると同時に───体内のアノマリーを制御できなくなった炎のハティが大爆発を起こした。

 

 

 その音を最後に、沼地から戦いの音は全て消失した。

 

 

 戦争が、終わったのだ。

 

 






 何時まで経っても文字数が安定しなくてゴメンネ


 ◇パエトーン図鑑 “王”
 ZONEで確認される希少なミュータントである、ホーンヘッドの異常発達個体。その発見例はZONE制圧作戦時に、赤い森のミュータントの巣を焼却する任務を受けた制圧部隊のテューポーンを含むロボット部隊を単独で殲滅した、たった一度の事例のみであり、ZONEのホロウレイダー達にすら存在が知れていない。
 その発達した風貌から外来種の一種ではと考えられていたが、当時の任務の生存者の報告にあった身体的特徴や、ZONEが出現してから日が浅い事からその可能性は低く、純粋にZONEという環境だけで鍛え上げられた存在だと、ミュータント研究者は推測している。

「それじゃあ、あのデカい鹿がミュータントの王様だったとして、ZONEがホロウだった時は何処に暮らしていたんだ?」
「そりゃあ異世界さ、異世界からこの世界に国ごと転移してきたに違いない。この間ノット小説でそんなん見たぞ。」
「興味深い仮説だね君達、その「異世界からの転移」について僕に詳しく教えてくれないかい?」

ーー“王”について雑談するヤンター研究基地の若い科学者2人とサハロフ教授
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