Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
『あんたの守護天使ってとこさ、ほらボルトだ。』
──裸一貫でZONEに放り込まれた時に、そいつは俺を見つけてくれた。
『ここでは欲しい物が何でも手に入る... 友人に敵、金、死... 奇跡さえもな!自分探しにもうってつけだ。』
『ZONEだ!ZONEがある!ZONEは消滅していなかったんだスキフ!』
ZONEが死ぬかどうかの瀬戸際、滅んだ筈の狂信者達が復活し、命からがら逃げ出せた時に、呑気にこのバカ野郎は喜んでいた。
『あんたの言う通りだったよスキフ。ZONEでは失敗を恐れていたら何処にも行けやしない。』
俺が知る中で、ZONEで最高の
『俺はZONEが好きすぎるんだよ、強すぎる愛は人以外のものを変えちまう。俺がポッドに入ったらきっと、ZONEを俺だけのものにする。』
『お前だけだスキフ、お前だけがこのZONEに何も望んじゃいない。金も…権力も…万人の幸せだって望んじゃいない。』
『ただ…ZONEの解放だけを求めている人間なんだ。』
俺がZONEを解放する為に
そう言えばアイツは生きて帰ったらまたガイドをすると言っていた。果たして安全な場所に戻れたのだろうか…少なくとも今のスキフには知るすべは無かった。
◆ ◆ ◆
「そもそも、俺だけ名乗るのは不公平じゃないか?アンタの名前を教えてくれよ。」
「あぁ、俺はイヴェ……スキフ、俺の名前はスキフだ。」
やっとこさホロウを脱出し、ZONEを二人で進んで行きながら。ふとリヒターの口から出た問いかけに一瞬スキフは本名を名乗りかけたが、前のZONEではスキフと言う偽名を使っていた事を思い出し、そのまま使う事にした。ZONEでは本名よりも本名として馴染んでいたし、目の前の親友に雰囲気が似ている男に同じ名前で呼んでほしかったというのもある。
──どうせ、イヴェン・マルティネンコと言う青年は、アーティファクトに自宅を吹き飛ばされ、全財産を失った時に死んだのだから。
よく見れば
スキフのよく知るリヒターはスキフよりも見た感じ年上だった筈だ、髭の影響も多分にあるが、もしかしたら一回り近く年が違うかもしれない。
だが目の前のリヒターはスキフの知るリヒターと違い、髭が生えておらず非常に若い、間違いなくスキフより年下。丁度20歳くらいの年齢だろう。顔立ちも
一番似ているのは、髪の色とZONEを語っている時の良い笑顔だった。
「スキフ…いい名前だな。なぁスキフ、アンタの仲間を助けられなくてすまない。俺がもう少し早く来ていれば何人かはあの外来種に殺されなかった筈だ。依頼人を殆ど死なせちまうなんて何の為にガイドの仕事を受けたのやら…」
「………実は、俺はあいつらの仲間じゃない。ホロウで迷ってた時にあいつらに出会ってキャンプに加わってただけだ。ついでにZONEに向かう為にな。」
「なんだって!?じゃあ俺の依頼人は全滅か!?畜生、シドロヴィッチの奴になんて言えやぁいいんだ…あの外来種め…」
依頼人全員死亡によりガイドの仕事を果たせなかったリヒターがブツブツと喋る中で聞き覚えのある名前を出すがそれよりも聞きたいことがあった。
「なぁリヒター、あのブ…外来種とは一体何なんだ?ホロウの中じゃ、エーテリアスくらいにしか出くわさないと思ってたが。」
「あの、外来種のブラッドサッカーか。端的に言えば…本来いる筈の無い場所にずっと住み着いてる奴だよ。彼処の
自分の知るZONEのミュータントとこの世界のZONEのミュータントの姿と名前は一緒なのか─とスキフが思いながらリヒターが指し示した場所を見てみると、そこには二体の怪生物が一見微笑ましくなる様な争いをしていた。
一体はスキフが初めて遭遇したのと同じ種類のエーテリアス。もう一体はスキフが知るZONEでよく見る、言われなければ豚と気づけない程に醜く変化した三つ目の肉塊、フレッシュ。
それらはまるでじゃれ合うかの様に互いを傷つけ戦っていた。だがフレッシュが体当たりし、エーテリアスが吹っ飛ばされる。
エーテリアスが飛ばされた先で突然、まるで小さな台風に巻き込まれたかのように高速回転しながら浮き上がり、跡形も無く弾け飛ぶ、それに驚いたフレッシュは草むらの中に逃げていった。
「………確かエーテリアスはホロウの外では存在出来ないんじゃ無かったのか?」
「ここに元々存在したホロウに変わってZONEが生まれたからとか色んな説があるけど、何故かZONEの中だったらエーテリアスが平然と活動出来るんだ。エーテル汚染地帯に近付かなければZONEにいても人間にエーテル侵食は一切起きない程エーテル濃度は少ないのにな。
俺たちが入って来た亀裂があるだろ?稀に彼処からエーテリアスが入り込むんだ、流石に深部にいる要警戒級は入って来た事ないが。逆に亀裂を通ってホロウの中にミュータントが入り込む事もある。ただ殆どは今見たエーテリアスみたいにミュータントやアノマリーに、ホロウの中じゃエーテリアス共に襲われてすぐに死ぬ。」
「わかったぞ、そう言ったZONEやホロウに淘汰される事なく生き抜いた奴が“外来種”と呼ばれるという訳か。」
「その通り!特にZONEのミュータントは異常なエーテル適応体質を持ってるらしく全く侵食症状が出ないらしいんだ。寧ろエーテル物質を肉体の一部として取り込める様進化するらしい。一部の企業や研究機関じゃ希少なアーティファクトよりも外来種の生け捕りに大金を払うらしいぜ。俺たちが出会ったあのブラッドサッカーは多分ホロウに入り込んで何ヶ月も過ごしてる古参クラスなんじゃないのかなぁ。」
道理でスキフの知るブラッドサッカーよりも手強かった筈だ。そんな奴に偶々狙われ、奴の餌食になってしまった名前も知らないホロウレイダー達の不運さにスキフは同情した。
「所でリヒター、俺たちは何処に向かっているんだ?その…シドロヴィッチとか言う奴の下か?」
「いや、実はこの近くに予備の装備の
「大丈夫な訳があるか……いい加減弾薬もアーマーも何とかしたい。」
余りにもスキフのアーマーがボロボロな状態を見て、リヒターは予備の装備をスキフにくれてやる事にし、スキフはそれを甘んじて受け入れるのだった。
◆ ◆ ◆
「着いたぞ、ここに装備の
道中、この世界のZONEについて色々教えて貰いながらリヒターが連れて来た場所は、スキフにとって見覚えのある建物だった。ZONEの中央にあるガーベジ地域の南部、バンディットが支配していたプラントと言う建築物だ。
記憶にある物とほぼ同じ見た目な為、スキフは思わずリヒターに聞く。
「なぁ…ここは…ガーベジのプラントと言う場所か?」
「よく知ってるなスキフ…もしかして前にもZONEに来たことがあるのか?因みに防衛軍はこの辺りをダークバレーと呼んでるらしいぞ。」
「知識として知ってるだけさ。」
スキフは余りにも自分の知るZONEと同じ名前、同じ建物である事に内心非常に困惑していた。もしかしてと思い、バックパックからPDAを取り出し電源を入れる。
ホロウの中じゃ使い物にならなかった電子機器はちゃんと起動していた。しかも地図の位置情報も正常に機能している。
「どうなっているんだ…?」
PDAの地図を縮小し、ZONE全体へと広げる。すると、間違いなく周辺がホロウらしき物体に囲まれた、チョルノービリ周辺のZONEの地図がそこにはあった。
「なぁリヒター、お前ZONEの地図とか持っているか?」
「どうしたんだスキフ。そんなん持っているに決まって…スキフ、お前PDAとか持っていたんだな。そのタイプは新エリー都じゃまだZONEの中でしか手にはいらないんだぞ。どうやって手に入れたんだ。」
「あー…ちょっとしたツテでな、お前の地図と比べて自分の地図が合ってるか確かめたかったんだ。」
「ああ、合ってるぞ。しかしまぁよく入手出来たな。ZONEの中じゃ特殊な磁場かなんかでスマホや通信機が使えないからTOPSがZONE内でマトモに使える電子機器を開発して特別にZONEの連中に流しているんだ。ZONEで活動するホロウレイダーの大半はそれを持っているよ。」
自分のPDAはウクライナのZONEで広く使われるタイプの電子機器であり、決して異世界のZONEでマトモに使える訳が無い。
なのにどうしてこの世界のZONEで、しかもチョルノービリの地形と丸々同じ様な地域が現れたのか、スキフには全く理解出来なかった。
(もしかしてまだ見ぬ新エリー都とは、未来のウクライナなのでは?)
そんな珍説を思いつきながら、スキフはリヒターに続いてプラントの中に入っていった。
プラントの倉庫区画、前のZONEではヴァランと言うバンディットが根城にしていた建物に入っていく。
広く、吹き抜けとなった二階建ての倉庫はかつての記憶と同じ内装だった。ここでスキフはヴァランから探し人の情報と引き換えにガーベジの主導権を握ろうと彼からライバル暗殺の仕事を与えられ、最終的にはヴァランはバンディットらしく用済みとなったスキフを殺そうとするが、逆にスキフに手下ごと纏めて皆殺しにされたのだ。
1階の大広場にある階段を下りるとそこそこ広めの地下フロアに出る、そして一つの部屋に向かった。ヴァランが牢屋代わりに使っていた部屋が、この世界ではリヒターの秘密の
「ここだスキフ、この部屋に…なんだこりゃ!?どうしてこんなにエーテル汚染が強いんだ!?待ってろ、すぐ箱ごと持ってくるからアーマーを脱いどいてくれ。頼むから侵食だけはされないでくれよ…」
どうやらエーテル汚染とやらが非常に強い場所らしい、リヒターの持つガイガーカウンターに似たエーテル検出器が凄まじい警告音を発していた。確かに放射能汚染地帯のそばにいるような不快な感覚がするような気がする。
スキフは手持ちの武器の内、完全に弾切れとなった
スキフが後ろを見ると──ホロウへの亀裂が生まれていた。
「……なぁリヒター、ホロウの亀裂が出てきたぞ。エーテリアスは確認出来ない。」
「珍しいな…出現する亀裂は殆どZONEの南部でしか観測されないのに…ホロウの亀裂は大抵、何も出てこないんだ。エーテリアスが入って来るのは稀だからな。まぁ念の為警戒しといてくれ。」
スキフはガウスガンを亀裂に向けておく、これまでの戦績ならこいつは大半のエーテリアスに対抗出来ると考えいた。
「よし、スタッシュは無事だったぞスキフ。そっちは───」
リヒターがドアを出ようとした時、ホロウの亀裂から大量の瓦礫が真っ直ぐ飛んできた。
咄嗟にスキフは横に飛ぶ、リヒターはその場に伏せることで何とか回避したが、突然リヒターがいる部屋のドアが独りでに閉められる。閉じ込められたリヒターはドアにタックルするがびくともしない。
「……!リヒター!」
「ああクソッ!開かないぞスキフ!ヤバい、この部屋に居続けたら侵食症状がヤバくなる!エーテリアスになっちまう!」
「下がってろ!こいつで穴を開ければ──」
リヒターを助ける為、ガウスガンをドアに向けて撃とうとした時、ホロウの亀裂から怪物が飛び出し、スキフへ右爪を向けた。
スキフは咄嗟に回避し、怪物と相対する。その正体にスキフは驚愕した。
「片腕の無いブラッドサッカー…!さっきの外来種だ、俺たちを追って来やがった…!」
「何だって!?逃げろスキフ!俺の事はいい!逃げるんだ!」
そう、今しがたホロウなら飛び出してきたブラッドサッカーは…ホロウの中でスキフが片腕と鎧を奪ったあのブラッドサッカーなのだ。
血は止まっているが引きちぎれた左腕と胸のひび割れたアーマーはそのまま、エーテルで出来たヘルメットも無く、怒りに満ちた醜い顔を曝け出している。脱出する時にエーテリアスの群れにやられたのか大量の生傷が全身を覆っていた。
リヒターの閉じ込められた部屋の側…スキフとブラッドサッカーが睨み合う、ブラッドサッカーのスキフを見る目はまるで親の仇を見る目だった。
逃げろと言われても背中を見せたら一貫の終わりの為、目の前のブラッドサッカーにスキフは最大限の注意を払うが…突然、意識外から強烈な一撃がスキフを襲い、殴り飛ばされる。
スキフはやられた。と他人事の様に思いながら飛ばされた先にホロウの亀裂があった。
ホロウの中に戻される瞬間、ブラッドサッカーの目が驚きに満ちた目をしているのが見えた。
ブラッドサッカーは亀裂周辺の
ブラッドサッカーは余計な事をするな、と言わんばかりに唸り声を上げ、ホロウ内部へ続く亀裂へと戻って行った。
「スキフ!?スキフどうしたんだ!?やられたのか!?おい!返事をしてくれ!スキフ!」
たった1人取り残され、エーテル汚染に包まれた部屋に閉じ込められたリヒターを置いていきながら。
◇外来種
本作オリジナル設定。ZONEに住まうミュータントとホロウに存在するエーテリアスは本来出会うことの無い存在である。
だが時折、ZONEとホロウを繋ぐ裂け目が生まれ、ミュータント、或いはエーテリアスが向こうの世界に入り込む現象が起きるのだ。
殆どは互いの世界の持つ危険性によって僅かな時間で駆除される事になるが、そこから稀にZONEならアノマリーやミュータント、ホロウなら無数のエーテリアス相手の生存競争を生き抜き、適応する個体が現れる。
その様な個体が総じて「外来種」と名付けられ、通常の個体よりも異常に、その世界に適応した強力な存在へと変化すると言われている。
現在、外来種の存在はZONEの正式な探索が進んで無い事やそもそもの個体群の少なさから僅かな数しか確認できていない。