Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
沼地で行われた、ミュータントとエーテリアスとの壮絶な生存競争ならぬ、絶滅戦争。
外来種のエーテリアスの脅威から、間一髪の所で“王”率いるミュータント達の介入に助けられたスキフ達はミュータントと共にエーテリアスの群れと戦い、そして勝利した。
戦場は死屍累々の様相となっており、戦いで命を落としたミュータント達の亡骸が無数に散らばっている。
戦場にいたミュータントは数百体はいた筈なのだが、その殆どが倒れ、無事に動ける物は少ない、どのミュータントも満身創痍だ。
スキフ達も4人の犠牲を出し、アキラを除く全員がアーマーも武器も消耗し、疲労によってその場にへたり込みそうになっていた。
だが、休んでいる暇は無い。
“王”率いるミュータント達とスキフ達は、互いに相対し、今にも二度目の戦争を始めんとする勢いだったからだ。
スキフは敵意を向けるミュータント達にガウスガンを向け、最悪の事態に備えていた。
リヒターとウルフも同じく武器を構えており、トラッパーは武器を下ろしていないが、その銃口は地面を向いている。
ライカンだけは警戒しつつも戦闘状態を解き、ミュータント達に敵意がないことを見せている。
ガウスガンの銃口は“王”へと向けられている。何かあればすぐに撃つつもりだった。
この一触即発の状況を何とかしたいアキラはスキフとミュータントの間に割り込んだ。
「スキフさん、彼らは一緒にエーテリアスと戦ってくれたんだ。お互い酷く傷付いているし、武器を下ろして、敵意が無いと言う事を伝えるんだ。」
「奴らの目を見てみろ、次はお前達だって目をしてるんだぞ。」
アキラは気まずい表情でミュータント達に振り向く。スキフの言う通り、エーテリアス達が殲滅されてすぐ、ミュータント達のスキフ達に対する目つきが「共闘相手」から「次の敵」へと変貌したのだ。その一瞬の変わりようはアキラやライカンが驚いてしまうほどに。
唯一、沼地のシュードドッグだけはライカンの側に立っているが、その目はどっちに味方すべきか迷っているのがわかる。
そんな沼地のシュードドッグや、先程の戦闘で協力出来たミュータント達を見て、アキラはミュータントもきっと分かりあえる事が出来ると思い、敵意が無い事を伝えれば良いとアキラはスキフを説得する。
「彼らは頭が良い、ただの動物じゃない、さっきまで一緒に協力する事が出来たんだ。こっちに戦う意思がないと分かればきっと────」
「こいつらはそんな単純な頭をしていない。ミュータントってのは“こういう事”しか出来ないんだ。」
「……?」
アキラに疑念が浮かぶ。ミュータントは所詮、獣畜生なのだ──スキフの言い分はそんな風に聞こえるが、そんな単純じゃないというのはどう言う事だろうか。
「………ZONEにやって来る連中は、ZONEという世界に対して苦しみと悲しみしか与えていない。あらゆる物事の解決方は暴力ばっかりだ。俺達みんな、それしか知らないからな。
そんなZONEで生きるミュータントも一緒だ。こいつらも、ZONEに暴力を振りまく人間と同じやり方しか出来ないんだ。
邪悪で、暴力的な、破壊ばかりのZONEで生まれ育ったこいつらにとって、“分かり合う”なんて選択肢は取らない。“利用する”なら出来るがな。
だから、敵意を見せなければなんて意味が無い。俺達が慈悲を見せてもこいつらには関係無いんだ。」
アキラは、横で聞いていたリヒターやライカン達も、スキフの言葉に驚くほかなかった。何せスキフが語った言葉は、ありきたりな自然の掟や弱肉強食云々などではなく、もっと根源的な、ZONEとミュータントという性質についての物だったからだ。
まさかスキフの口からこんなセリフが出てくるとは思わなかったのだろう、誰もが意外に思っていた。
この言説は、スキフが元居た世界で“ZONEを解放する”という選択肢を取った理由である人物、「ドクター」こと「カイマノフ博士」がスキフに語った物だ。
端的に言えば、皆が共有する子供であるZONEに、誰も彼もが苦しみと悲しみしか与えてこなかったという。
だから、ZONEの人間も、ミュータントも、苦しみと悲しみしか知らないのだと。
彼は長年ブラインドドッグを飼い慣らそうとしたが、結局ZONEという世界で、痛みと苦しみしか知らないミュータントは、どれだけ愛や慈悲を与えられようと、カイマノフ博士に懐く事は無かった。
そして、それは目の前の、戦いが終わったらこちらに敵意を向けてきたミュータント達にも言える筈だ。彼らはスキフ達を救いに来たのではない、エーテリアスと戦うために来たら、たまたまスキフ達がそこにいただけなのだ。
故に、アキラがどれだけ彼らに友情を感じたところで、ミュータントはそれに応える事は決して無い。
獣の本質などというちゃちな言葉で片付けられない、ZONEに住まう生き物が持たされる、どうしようも無い性質なのだから。
スキフが武器を下ろさない理由は分かったアキラだったが、1つだけ気になる事ができた。
彼は「人間はZONEに苦しみと悲しみしか与えない」と言った。だからZONEという世界も、ミュータントも同じ事をするのだと。
(それじゃあまるで……人間の精神がZONEを形作るみたいじゃないか。)
まさか、ZONEは人間の力で生まれたと言うのか───?そんな事を考えるアキラの側に沼地のシュードドッグが寄ってきた。
彼は迷った末──“王”達に向かって吠え始めた。威嚇ではない、その様子は説得を試みてるような、懇願しているような姿であった。
「……このミュータントは、スキフさんの言うミュータントとは違うみたいだけどね。」
「何事にも例外がある。」
実はカイマノフ博士に懐くミュータントが一匹だけいた。シュードドッグに似た「タイガー」と名付けられたミュータント。
偶然、食べ物を盗もうとして出会い、博士に引っ付いて過ごし始めたこのミュータントは、人間に敵意を持たず、自分の意思で博士と暮らす事を決めた。
そのタイガーと同じような存在なのが、今スキフ達を庇おうとしている沼地のシュードドッグだ。
このミュータントはエーテリアスに支配された沼地でたった一人生き残り、そしてスキフ達を見つけ、自らの意思で、“自由意思”を持って共に戦う事を決めた。
だからこうして必死に、同胞達と敵対しかねない行動を取れるのだ。ZONEに縛られない自由な意思があるからこそ。
そして、恐らくもう一匹、ZONEに縛られない意思を持っているであろうミュータント───“王”。
その根拠として、今スキフ達が襲われていないのは、“王”が他のミュータント達に命令を下していないからだ。その目で、スキフ達を見定める為に、絶対的な統率でミュータント達を止めているのだ。
“王”の目からは、彼がスキフ達に対して敵意があるのかは分からない。まるでホロウのような揺らめきを見せる黒き眼は、ただこちらを見つめていた。
そんな“王”にスキフは銃を向けている。「やる気なら、お互いただじゃ済まないぞ」と“交渉”しているのだ。“王”ならきっと、その意図が通じるだろうと。
結局、スキフには“王”の心内は分からなかったが───沼地のシュードドッグ、ライカン、そしてスキフと見つめていき、大きく嘶いた。
スキフ達は最悪の事態に備えるが、それは杞憂に終わる。戦いはもう無いと、ミュータント達から敵意が無くなっていったからだ。スキフ達は大きく息を吐いて、武器を下ろして臨戦体勢を解く。
身を翻して“王”が去っていく直前、もう一度ライカンの方へと向き、ライカンを称えるように蹄を大きく鳴らした。
ライカンはそれに応え、まるで主君に忠誠を誓う騎士のように、深々と礼をした。
“王”が霧の中へと消えていく。生き残ったミュータント達も後に続いて濃霧の先へと進んでいった。
シュードドッグの群れだけ、沼地のシュードドッグの方へ歩いていき、群れに誘っているかのように周りを囲み始めた。
明らかに沼地のシュードドッグは迷っている、彼の目線は後ろのライカンへと向いた。
ライカンは側まで近寄り、片膝をついて優しく沼地のシュードドッグを撫で始める。
「私の窮地を救い、外来種に勇猛果敢に立ち向かい、そして同胞から私達を庇ってくれた貴方は、我々にとって大切な恩人です。どうか、仲間達と達者に暮らして下さい……友よ。」
その言葉を聞いた沼地のシュードドッグは、寂しそうな表情をしながら、他のシュードドッグに連れられ、霧の向こうへと消えていった。
その姿が消えるまで、ライカンが目を離すことは無かった。
◆ ◆ ◆
「じゃあなビス、お前の武器は貰っていくぞ……埋める暇はないから勘弁してくれよな。」
静寂が支配する戦場の跡地、犠牲となったビスや他2人のガーベジのホロウレイダーの、酷く損壊した遺体をウルフが出来る限り丁重に並べ、少ない草木を被して墓代わりとする。スキフ達も遺体の運び出しを手伝った。
こんな粗末な弔いの方法でもZONEでは上等だ、多くはその場に放置され、使える装備だけ回収し、あとは腐らせるかミュータントに食われて自然に帰るに任せるのだから。
アキラもビス達への弔いが終わった後、浅いすり鉢状に吹っ飛んだ地面がある所に近づき、黙祷を捧げる。
これは外来種を倒す為に、爆薬を背負ったキメラが特攻していった場所だ。
アキラが爆薬が詰まったバックパックを結び、起爆スイッチを押した。キメラ自身の意思であったとは言え、敵では無い存在の命を、自分の手で奪った感触は忘れられない。
スキフはZONEのミュータントは苦しみと悲しみしか知らないと言っていたが、だからあんな手段を取ったと言うのだろうか。
ZONEに引き寄せられ、ZONEに住まう人間も同じだというのなら、スキフも苦しみと悲しみしか知らないのだろうか。
(そんな筈は無い、スキフさんも、リヒターさんも、ウルフさんやトラッパーさんも、それだけしか知らない人間では決して無い筈だ。)
アキラから見たスキフは、ZONEという環境に適応した頼れる
他の人々もそうだ、彼らが苦しみと悲しみしか知らない人間な訳がないじゃいか。
暴力行為全てを肯定しているわけでは無いが。法による秩序が成り立っているならともかく、ホロウやZONEという無法地帯で、自分の身や大切な仲間を守る為の力が、単なる暴力として扱われて良い訳が無いとアキラは考えている。
スキフが自分を卑下する言い方をしていたのも引っ掛かった、アキラはその場で、スキフはそんな人間では無いと抗議したかったほどだ。
最も、スキフ自身としてはZONEに慈悲を与え、真に解放する為に立ち塞がった全てを殺してきた経験があるからこそ、ある意味自虐的に言った事なのだが。
「そろそろ行こうプロキシ、休むにしても死屍累々の死体だらけの場所じゃ休めないからな。」
「そうだねスキフさん、最後のデータスタンドがある場所に向かおうか。」
スキフがアキラを呼びに来る。ここら辺にある筈の、未起動のデータスタンドを探しに来たのだが、どうやらもっと奥にあるようだった。
休憩場所の確保も兼ねてアキラ達は出発する。後には、戦争の終わりを知る、死者のみが残されていた。
◆ ◆ ◆
外来種達が根城にしていた場所を更に進むと、朽ち果てた銃火器やアーマーなどが散乱する場所に出た。その全てが酷く侵食を受けており、ジャンクとしての価値すら見いだせないだろう。
沼地の奥にある湖──或いは大きなため池に近づくと、ZONEで使われるエーテル汚染測定装置がガリガリと音を鳴らす。水中に入ったら一瞬で侵食され、エーテリアスとなってしまうのは一目で分かる。
トラッパーの予想通り、外来種達は生け捕りにした人間をわざわざここまで連れてきて仲間を増やしていたのだろうか。
「とは言え、あんなに要警戒エーテリアスが一杯いたのはどうしてだろう……」
「ザトンの連中はよく知ってるが、そこまでの実力者がサルタンの部下やレネゲイドに何人もいたとは考えにくいな……」
アキラとトラッパーが、先程の戦いで要警戒エーテリアスが20体以上も存在し、上級エーテリアスも大量にいたことを疑問に思う。
侵食された人間が実力者であったり高いエーテル適応体質を持っていたのなら、そこから生まれるエーテリアスも強力になるケースが多い。
だが要警戒エーテリアスが何十体も生まれてくる程、サルタンのバンディット達に実力者はそんなにいなかったと、彼らを知るトラッパーは言う。
そうしていると、リヒターが朽ちた装備の山に埋もれたデータスタンドを発見する。
「見つけたぜプロキシ、運よく侵食もあまり受けてない、十分使えそうだ。」
「それじゃあ起動しようか。」
2人で手早くデータスタンドを起動し、沼地全体のスキャンデータがキャロットに転送される。
エーテリアス達も消え去った事で、沼地に人が立ち入れるようになる筈だ。
だが、今のアキラ達には残された問題が1つあった。
「……皆、讃煩会の拠点はどうしようか?」
アキラの言葉に、全員が押し黙る。
そう、元々沼地に来たのは、沼地にいる筈の讃煩会の企みを暴く為にやってきた為だ。
だが今のスキフ達は消耗しきっている、外来種4体を含めたエーテリアスの大集団との戦闘でアーマーも武器もボロボロだ。
讃煩会が沼地の何処にいるのかも見当がついておらず、もし戦闘になる事になれば苦戦が免れない。
データスタンドも全て起動出来たので、一度スカドフスクへ戻ろうとライカンは提案する。
「ここは一度戻りましょう、今の状況で讃煩会と戦うような事は避けなければ………お待ち下さい、何かが来ます。」
後方から何かが近寄ってくる気配を感じたライカン、そしてスキフ達は接敵に備えて警戒する。
エーテリアスの生き残りか、それとも敵対するミュータントか、どちらにせよ霧の向こうから来る何かに武器を向ける。
そして、霧の向こうから影がぬるりとスキフ達の前に姿を現した。
「………ホーンヘッド?さっきの連中か?」
霧から現れたのはホーンヘッドだった。スキフは生き残りの群れの中にいたホーンヘッドの一体だと見抜く。そのホーンヘッドは角が中途半端な位置で折れており、“王”率いる群れの中に同じような個体がいたのを見たからだ。
ホーンヘッドはまるでついてこいと言わんばかりに鼻を鳴らし、沼地の奥へと歩みを進んでいった。
スキフ達は顔を見合わせ、そのホーンヘッドについて行く事に決めた。
深い底なし沼、或いは湖に通る細い一本道をホーンヘッドは進んで行き、スキフ達はその後を進んでいく。
トラッパーが言うにはこの道の先には広い土地があり、周囲に人型ミュータントの巣が幾つかあると言っていた。
だがスキフはこの道に見覚えがあった。元居た世界ではこの先に、スキフの時代にはとっくに滅んだ謎の秘密組織「クリアスカイ」の放棄された拠点があった所に辿り着く道だったからだ。
そこで
スキフが思い出のような事に浸っていると、今更ながらこのままついて行って良いのか疑い始めたウルフが口を開いた。
「なぁライカンの兄貴……俺達一度帰った方が良かったんじゃねぇかな?」
「……だがこのミュータントはオレ達を何処かへと導こうとしている、もしかしたら讃煩会の居場所に繋がるかもしれない。」
「この状態でやり合うかも知れないのはちょっと心配だぜ……」
ウルフがボロボロになった全員のアーマーを見て心配になってくる、肉体的な疲労や精神的疲労もまだ安らげていないのだ。一度拠点に帰ってニトロフューエルを呷らなければと、脳が囁いている。
「拠点の場所だけ把握して、それで一度引くって手もあるさ。取り敢えずホーンヘッドについて行ってから考えてもいいんじゃないかな。」
「戦闘になっても弾はまだある、外来種どもに比べれば人間相手はまだ気が楽だ。」
讃煩会に遭遇する事に、アキラとスキフは特に問題視していないようだ。気が抜けている訳では無いが、外来種と要警戒エーテリアスの大集団との戦争をくぐり抜けたが故に、あれ程の危機は早々起きないと根拠の無い確信があった。
「沼地は俺の庭だ、非常時に隠れられる場所も沢山知ってる。幾らでも追っ手を振り切れる手段があるから安心しろ。」
「まぁ気を楽にしていこうぜウルフ、向こう岸が見えてきたぞ。」
沼地に詳しいトラッパーがウルフを安心させようとし、リヒターもそれに続くと、沼地の南東部の広い土地が見えてきた。
一本道が終わり、広い土地に辿り着くと、ホーンヘッドは鼻を鳴らして何処かへ去っていってしまった。
「もしかしたら、“王”の気遣いだったのかもしれませんね。」
そうライカンは呟いた後、スキフ達と共に警戒しながら沼地の奥へと進んでいく。
霧が晴れてきた、広い一帯に出る証拠だ。讃煩会とばったり会う可能性も考えて、アキラを背に守りながらスキフはASラヴィナを構えながら歩みを進める。
スキフ達が辿り着いたのは、この世界では何も無い土地、チョルノービリでは秘密組織クリアスカイの本拠地だった場所。
そこにあったのは、移動式のコンテナハウスやテント、様々な研究機材が積み込まれた、明らかに人が多数いた痕跡のある研究キャンプ────その残骸達。
そして、そこらに散乱する多数の人間の死体であった。
顔面を吹き飛ばされ銃弾で穴だらけにされた死体、柱に縛り付けられ生きたまま焼かれたであろう死体、絞首刑のように周辺の木々に吊るされた死体、首を切り落とされて頭が棒に串刺しにされたトーテムとなった死体。
その惨憺たる光景に、アキラは思わず吐き気を催しかけるほどであった。
どう見てもエーテリアスやミュータントの仕業では無い、凄まじい悪意と敵意を持つ存在が、見せしめにしたとしか思えない光景が、目の前に広がっていた。
「この服装……恐らく讃煩会の者達に違いありません。ですが……一体誰が…?」
市長宛に送られてきた画像と一致する服装をした遺体から発せられる腐臭に顔を顰めながら調査するライカン。
讃煩会と行動していたらしき研究者達も同じ様に殺害されており、五体満足の死体は何一つ存在しなかった。
凄惨な死体が広がる現場というのはアノマリーが犇めくZONEでは珍しく無いのだが、明らかにこの死体は人の手で行われた物なのは確かだ。
スキフは周囲を見渡す、すると
(元居た世界でカイマノフ博士の家にあった塔と似てるな……
ZONEが出来て1年程のこの世界では、地下や頑丈な建物に隠れる以外の
TOPSを始めとした組織や企業が色々と研究と対策を進めているが、やはり不定期に起きる現象への防御試験は難しく、研究がまだまだ進んでいないのだ。
カイマノフ博士が使っていた物と同じ機能があるとして、讃煩会は既に
だが、ここにある構造物は全てRPGでも撃ち込まれたかのように破壊され、その機能は停止している。
スキフ達は手分けをして讃煩会の拠点を調査し始める。大企業が運用している様な警備ロボットの残骸も多数見受けられる、拠点内部で激しい戦闘が起きたのは一目瞭然だ。
コンテナハウスの内部やテントはほぼ焼き払われており、ここで何をしていたのかと言う情報は残っていなかった。
だが、破壊されたコンテナハウスの下を覗き込んだリヒターが何かを見つけ、近くにいたスキフに知らせる。
「スキフ!本みたいなもんを見つけた……うげっ泥だらけで読めねぇし後ろは焦げてるなぁ。」
「それでも読める部分があるだろ、何か分かるかもしれない。貸してくれ。」
リヒターから本を受け取ったスキフは中を開いて解読を試みる。すると、中身は讃煩会の教徒が沼地に来てから書き残していた日記の様だった。
前半は泥に塗れてインクがぼやけ、後半は火の粉が降りかかって焼けたせいで大半が読めなくなっていた。それでも中間部分は普通に読めるし、後半部分も辛うじて解読できる。
スキフは日記の中身を呼んでみた。
▼ ▼ ▼
『◯月◯日 また1人我らの同胞が拠点の外で活動中にあの忌々しいクリーチャー共に殺された。司教様直々の命令とは言え、何時までZONEに滞在すればいいのだ。この計画だって、元々は“異端者”共の計画ではないか、奴らに手を貸したせいで始まりの主の怒りに触れなければよいが……』
『◯月△日 付近にホロウへの亀裂が現れ、偶然ハティが迷い込んできた。我々が始まりの主から承った力で制御下に置いた。異端の研究者共によると、エーテリアスが長期間ZONEにいる事で外来種なるものに変化するらしい。それを観察するとの事だ。』
『◯月✕日 あの“異端者”共め!奴らの「リバース計画」の為に我々の力を貸してやっているというのに、堂々と讃煩会の教義を侮辱するとは!異端の研究者は良い、奴らは我らに協力的だ。だがその護衛共は我慢ならん!
「ホロウに対する人類の“罪”を顧みず、始まりの主のお力に縋るばかりの愚か者の教義」だと!?奴ら“異端者”が歴代の司教から敵視され、始まりの主の恩寵すら得られなかった事を鑑みれば、奴らの教義こそ否定されるべき“罪”に他ならん!』
『◯月◇日 “異端の司教”が視察にやって来た、丁度いいので異端の護衛共が非協力だと通告してやった。異端の司教は物分かりが良く、直ちに護衛部隊を全員解任し、代わりに警備ユニットを送ると約束した、いい気味だ。所で、異端の司教が連れていたボンプがやけに拠点を見てまわ────』
『◯月□日 朝から異端の研究者が慌てていた。実験用のアーティファクトが1つ無くなっていたらしい。ケースはまるで何かに食い千切られたかのように破壊され────ハティが溶岩を吐くように───────』
『◯月▽日 「リバース計画」の前実験として、偶然拠点近くまで来ていたキメラと言う醜い怪物を3体生け捕─────によると、ミュータントはも────』
『◯月◎日 一日大変だった、ハティ達が脱走─────奴ら知能が──────アーティファ───奪わ─────』
『◯月▼日 今日は朝に日記を書いておく。遂に本日「リバース計画」を実行────成功すれ─やっとZONEから────』
▲ ▲ ▲
「……讃煩会とやらにも色々教派があるんだな。」
「というか外来種はあいつらが呼び込んだようなもんじゃねぇか……迷惑かけやがって。」
日記からは色々な情報が得られた。讃煩会とその異端者達が「リバース計画」とやらを実行に移した事、恐らく外来種のハティは元々奴らに飼われていた事などだ。
アキラとライカンにこの日記を渡そうとして、リヒターが最後に書かれた日記の日付を見て何かに気付く。
「……なぁスキフ、最後の日付見て何か思い出さないか?」
「この日付がどうかしたのか?」
スキフは日記が最後に書かれた日付を見るが、今日から2週間程前に書かれた事しか分からなかった。
だがリヒターにとっては何か引っ掛かる日付だったらしい。すぐに彼はこの日付の事を語った。
「この日付……奴らが何かの計画を実行した日と、俺とお前が初めて会った日と同じ日だ、そんでその日、ZONEでおかしい事が起きてたんだよ。」
「……それは何だ?」
スキフとリヒターが初めて出会った日。それは即ちスキフが
奇妙な一致にスキフが内心驚きながら、リヒターが言うその日のZONEで起きていた異常について聞く。
「あの時よ、俺がホロウからZONEへのガイドする依頼で、俺が予定の時間に少し遅れたの覚えているか?」
「確かエーテリアスの群れを回避していたんだったか。」
「ああ、だがあれはシドロヴィッチからの直接の依頼だ。絶対に失敗できないから、集合時間よりずっと前に着く予定だったんだが……その日のZONE、半日ずっと
スキフは目を見開いて驚いた、通常の
スキフがこの世界のホロウで目覚めてから、ホロウの中を長く放浪する事になったが、大体半日は経たないくらいの筈だ。
讃煩会が何かの実験を行った、スキフがこの世界に来た、その時ZONEで
あらゆる可能性や仮説がスキフの脳内を巡りながら、アキラとライカンに讃煩会の日記を手渡す。
日記を見たアキラとライカンは“讃煩会の異端者”と呼ばれる存在に驚いていた。何せ、よく分からない事だらけの讃煩会に、更に正体不明の派閥が現れたのだから。
2人は地下に続く階段を見つけ、そこを調査するつもりのようだ。スキフはリヒターと共に拠点の奥の探索を始める。
奥には謎の巨大装置があり、
近づこうとするスキフを手で制止し、リヒターが恐る恐る花の残骸を調べると、その正体に驚愕した。
「おいおい……これ「ミアズマ」じゃないか!?なんでこんな所にあるんだよ!」
「えーと……確かラマニアンホロウにあるエーテル物質だったか?」
「そうだ、焼かれてるから多分大丈夫だけど、ミアズマの侵食は普通のエーテル侵食よりたち悪いから気をつけろ……でもおかしいな、ラマニアンホロウとZONEはめちゃくちゃ離れているのになんでこんな所に……」
ホロウの事に詳しくないスキフは、前にエリーペディアで見た情報を思い出す。リヒターはZONEと遠く離れているラマニアンホロウにある筈のミアズマが、ZONEにどうやって持ち込まれたのか気になってしょうがなかった。
研究資材ならともかく防衛軍の封鎖を掻い潜ってこれだけ大きなミアズマをどうやって持ち込めたのか分からないからだ。
一方スキフは、焼き崩れたミアズマから目を離せなかった。
何か、何か頭の奥に引っ掛かる。
リヒターが色々調べている隙をついて、近くまでよってミアズマの残骸に触れると、スキフの記憶の、隠れた部分が鮮明になる感じがした。
(思い出した……確か、俺が目覚める前に、何か聞こえたはずなんだ。)
元居た世界で、スキフはエミッターを使ってZONEの
そしてこの世界で突然目覚めたのだが、その直前に何か声を聞いた事を思い出したのだ。
スキフがこの世界で目覚める直前、あの言葉が聞こえ、ヌースフィアに消えていく筈の意識が覚醒していったのだ。
そう…あの声が、スキフの意識を引っ張り上げたのだ。
─────
◆ ◆ ◆
スキフ達が地上を調査している間、地下へ続く階段を見つけたアキラとライカンは、地下に向かう事にした。
階段を降りていくと、更に下に続く梯子があり、ライカンが先に降りて安全を確保し、危険が無いと分かるとアキラに降りてくるよう指示をした。
ジメジメとした地下通路を進むと、色んな機材が置いてある部屋に辿り着いた。ここも地上と同じく銃撃で破壊された機材だらけであったが。
多数のモニターがある壁際のデスクに、何十発何百発も撃たれたような遺体が1つあった。
その赤黒く染まったフード付きの白いスーツのような服の形状から、讃煩会の教徒だというのが辛うじて分かる。
凄惨な死体にアキラは気分を悪くしながらも、機材を調べて何か残っていないか調べる。
すると、ここの機材はギリギリ生きていた事が分かった。これらの機材が拠点の監視システムだと分かり、すぐにアキラは残っているかもしれないデータの抽出に取り掛かる。
「ライカンさん、この監視システムに何か残っているかもしれない………よし、当時の記録映像と…最後の通信記録が見つかったよ。」
「お見事ですプロキシ様、讃煩会に何が起きたのか分かるかもしれません。」
アキラは拠点の監視システムに残っていた映像を再生する。
そこに映っていた映像は劣化によって激しく乱れていたが、何が起きていたのかだけは判明した。
「これは……」
「讃煩会が“武装した正体不明の集団”に虐殺されているところでしょう……讃煩会が危険な組織とは言え、見ていて気分の良いものではありませんね。」
映像から何とか分かるのは、讃煩会と警備ロボットが必死の抵抗虚しく、謎の武装集団に殺されて行く所だけ。
映像が乱れているせいで武装集団の姿ははっきりと分からないが、非常に重武装である事は確かだ。
次にアキラは最後の通信記録を再生する。そこには必死に助けを求める讃煩会の教徒の声が残されていた。
『はぁ……はぁ……誰か……誰でもいい!助けを……助けを寄越してくれ!我々は現在襲撃を受けている!「リバース計画」を実行したら
対
くぐもった誰かの叫び声と、足音が近づいて来るのを聞いた讃煩会の教徒の声は絶望に染まる。
『伝えなければ……!司教様に、メヴォラク様に伝えなければ!“異端者”共は地獄の釜を開けた!“異端者”共と手を切らなければ、きっと始まりの主はお怒りになり、我々の“牲祭”にも影響が───』
言い終わる前に、機関銃の発砲音が鳴り響き、悲鳴を上げて讃煩会の教徒が倒れる音がした。
次に聞こえて来たのは、ガスマスクをしているであろう男の声。
『兄弟よ、地下に逃げた
『ごぼっ……は……始まりの主よ……再そ──』
最後の言葉に、始まりの主への祈りを選んだ讃煩会の教徒。だがすぐに機関銃の発砲音がその祈りをかき消した。
『“汚れし主”に死を、“我らが主の再臨”を。』
その言葉を最後に、音声は途切れてしまった。
「………讃煩会を襲った軍隊とは一体何者なんだろう。」
「少なくとも防衛軍や反乱軍の類ではありません。音声によると、恐らく
「讃煩会が関わっているかと思いきや、“異端者”なる派閥が出てきて、更にそれらを駆逐した謎の軍隊……謎が謎を呼んで疑問が深まるばかりだよ。」
「それでも市長閣下にお伝えしなければ。“讃煩会の異端者”や、“主の再臨”を叫ぶ謎の軍隊、放っておけば、新エリー都の脅威になるやもしれません。」
ライカンの言う通りだ、様々な陰謀を企てる讃煩会の他に警戒しなくてはいけない勢力が2つも現れたのだ。今のところZONEだけでしかその存在を確認していないとは言え、新エリー都を取り巻く脅威になり得るなら調査を進める必要がありそうだ。
アキラとライカンが他にも得られそうな情報が無いか探っていると、スキフから通信が入った。
『プロキシ、ライカン、聞こえるか……問題発生だ。』
「スキフさん、何が起きたんだい!?」
『取り敢えず上に来てくれ、お前達の身分が必要だ。』
アキラとライカンは頭に疑問符を浮かべながら、急いで地上へと戻っていった。
◆ ◆ ◆
2人が階段を駆け上がると、戦闘ロボットを含む武装した兵士達と、武器を向け合って睨み合うスキフ達がいた。
「スキフさん!これは一体……」
「プロキシ様、私の後ろにお下がり下さい。」
ライカンが咄嗟にアキラを背に隠す。武装した兵士達がこちらに銃口を向けてきたからだ。
彼らの装備は実に特徴的だった。頭部には黒1色のヘルメットにゴーグル、ハーフガスマスクを装備し、グリーンのアーマーを身に着け、黒色のカーゴパンツにニーパッドを装着している。
特に目立つのはその服装、まるで晴れの日の空を思い浮かべるような
まるで何処かの私設軍隊のような装備を持つ彼らに、スキフは吐き捨てるように言う。
「武装ヘリが飛んで来たかと思えばいきなりロボットを投下して来てよ、着陸したヘリからこの兵隊共が降りてきて問答無用で武器を向けて来やがったんだ。」
そう言われ、アキラは兵士達の奥にある武装ヘリを見る。特徴的なバブルキャノピーを備えたタンデム式の操縦席と、多数の人員を収容可能な兵員室を備えた、兵士の迷彩と同じスカイブルー色の大きな武装ヘリ。
ヘリには何処かの所属を示すマークが描かれており、大地から昇る太陽のマークが描かれていた。
それを見てライカンは見覚えがあるようで、まさか…と呟いている。
ヘリの兵員室から更に人が降りてくる。最後に降りてきた人物を守る護衛の兵士は他と違って、服と同じ迷彩のフードにバラクラバを被っている。
その護衛に守られているのは若い女性で、護衛に守られながらスキフ達の前に出てきた、よく見れば兵員室のハッチからイアスに似たボンプが心配そうにこっちを覗いていたのを見つけた。
凛とした、礼儀正しい口調で女性は口を開く。
「────
賊の類かと思いまして、一応マニュアルに沿った対応をさせて頂きました。」
アキラは女性の姿をはっきりと見る。空色のロングヘアーに、ZONEに似合わぬ青いスーツに不釣り合いな、護衛と同じフィールドブーツをしっかり履いている。
年はアキラより僅かに年上、スキフと同年代くらいだろうか。薄い笑みを浮かべ、眉まで掛かる髪の下にある柔らかな目はスキフ達を見回し、最後にアキラの所で止まる。
そのままアキラを見続ける彼女は、にっこりとアキラに微笑んで自己紹介を始めた。
「我々はクリアスカイ・コーポレーション。」
その名を聞いてライカンはやはりと納得し、スキフはその名に驚愕した。
「私はクリアスカイのCEO「ナタリア・レベデフ」と申します、どうかお見知りおきを。」
チョルノービリのZONEで活動していた秘密組織と、同じ名前の企業を率いる若き女経営者は、和やかな笑みをアキラ達に見せつけた。
◇クリアスカイ
2作目である「CS」に登場する重要勢力。その後の時系列では既に存在しない、ZONEを研究を目的とした秘密組織である。
初代の前日譚である「CS」で、主人公スカーをエミッションから助け出し、ZONEを襲った未曾有の規模のエミッションの原因を探る為に共に協力する事になる。
物語序盤は、エミッションに直撃したせいで多くの人員を失っており、彼らの拠点が置いてある沼地にレネゲイドが大量に入り込んで来る程追い詰められていた。
スカーの協力で沼地を奪還した後、彼にZONE中を走り回らせながらエミッションを引き起こした犯人の情報を共に探り、クライマックスには、ZONE全てを巻き込むエミッションを食い止める為、スカーと共にCNPPへと殴り込みに行くが……
◇レベデフ
ウクライナ語ではレベジェフという。本名は「N.A.レベデフ」といい、クリアスカイのリーダーを務めている。実はラボXに所属していた研究員の1人。
スカーの持つ特別な体質に目をつけ、ZONEの全てに破壊と混乱を齎したエミッションを止める為にスカーに協力を要請する。
最後はスカーと共にクリアスカイの総戦力をもってZONEの奥へと遠征するが……
本作では女性として登場しているが、男キャラの女体化では無いと言う事を先に言っておきます。