Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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42.自らの意思で

 

 

 

 スキフが目を覚まし、虚ろな眼で時間を見ると朝日が出るかどうかの時刻であった。

 ZONEに足を踏み入れて以降、割と眠りが浅くなったスキフだが、昨日眠りについた時は日が沈んでそこまで時間が経ってなかったのを鑑みればだいぶ深く眠ったようだ。

 

 身体が食事と水分を要求しているのを一旦脇に置きながら視線を動かすと、まだ眠っているアキラの寝床の側でライカンが騎士のように控えていた。まさか一晩中、アキラに万が一がないよう突っ立っていたのだろうか。

 

 「ようライカン、まさかずっと起きてたんじゃないだろうな。」

 

 「おはようございますスキフ様。ご心配なく、十分な睡眠は取れました。」

 

 特殊部隊等がやるような脳の半分だけ休ませる方法じゃ無いだろうな──そう思いながらスキフは身を起こす。

 自分のバックパックから水入り瓶と缶詰を取り出し、ナイフで蓋をこじ開け中身を口に放り込む。

 

 (そう言えば……エーテリアスをぶっ刺してから洗ってなかったな。エーテル侵食とかの影響は大丈夫なのか?)

 

 少なくともスキフが戦ったエーテリアスには出血する体質の物は見られなかった。まぁミュータントや人間を刺した血だらけのナイフを使うよりか大丈夫だろうと思い、缶詰の肉を水で流し込む。

 

 酸のハティを刺した時に垂れ流されたFruit Punch(フルーツパンチ)がナイフに付着したのを思い出したが、すぐに記憶から消した。

 

 「ふぅ……そう言えばライカン、リヒター達は見たか?」

 

 「少なくとも上の階に上がってきた所は見てませんね。」

 

 自分達が疲れ果てて休もうとしているのを尻目に、リヒター達が酒場で沼地の戦争について熱く語っていたのを思い出す。

 挙句に酒盛りまで始めてどんちゃん騒ぎをしていたのだが、宿泊部屋にいないと言う事は酒場で酔い潰れてる可能性が高い。

 

 起き上がってリヒター達の様子を見に行こうとした時、下からトラッパーが部屋にやって来た。

 

 「おうお前等、もう起きていたんだな。」

 

 「トラッパー、お前酒に強かったのか。」

 「おはようございますトラッパー様。」

 

 防護マスクを脱いだトラッパーの顔には酒に酔った様子は見受けられなかった。

 

 「酒の匂いが付着するから大して飲んでないんだ、リヒター達はまだ下で寝くたばってる。ありゃあ2日酔いコースだな……俺はライカンに用事があって来たんだ。」

 

 「私にですか?」

 

 「ああ、俺の報酬……沼地で消費した弾代を受け取りにな。そろそろ出発しようと思ってるんだ。」

 

 そう言えばこのハンターはそれ以外の報酬は要らないと言っていたのを思い出した。だがこんな早い時間にスカドフスクを発つとはどう言う事なのか、スキフは意図を問いただした。

 

 「まだこんな時間だぞ、もう出発するのか。」

 

 「ああ、“王”を追う為にな。」

 

 その言葉に思わずスキフとライカンは顔を見合わせる。トラッパーはミュータント狩りのハンターだ。そんな彼があの“王”を追いかける理由は恐らく1つ。

 

 「狩人として……あのミュータントを仕留めるおつもりですか?」

 

 ライカンの目つきが軽く変わる。彼にとって“王”は自分達を助けてくれた偉大なミュータントの長だ。そんな存在を自分から狩るために探し出そうとするのはライカン個人としては余りいただけない。

 とは言え、ライカン自身には止める権利も理由も無い。あくまで個人的なわがままでトラッパーが“王”を追うのを止めるつもりはライカンには無いし、ZONEでの生き方を否定するつもりも無い。

 

 しかし、トラッパーの口から出たのは違う理由だった。

 

 「違う、もう一度あの“姿”を見たいんだよ俺は。命の掛け合いはどうでもいい、あの存在をもう一回目に焼き付けたいんだ、その為に奴を追う。」

 

 「ミュータントハンターのお前だったらアイツの首を狙いに行くと思ったんだがな。」

 

 金やアーティファクトよりもミュータントを狩ることに執着していたトラッパー、そんな彼なら“王”を最高の獲物として狙ってもおかしくないとスキフは考えていた。

 

 「自由に生きている“王”に会いたいんだ、例え狩ろうとしてもアレは誰かに首級をくれてやる口じゃないし、大人しく捕まるような存在じゃない。

 俺はあのミュータントの王様がどんな風にZONEで生きているのか知りたい、だから追う。」

 

 「つまり、ハンターを止めて研究者にでもなるって訳か。」

 

 「スキフ、ミュータントと相対した時にお前が言ったことを自分なりに考えてみてな、ミュータントとの付き合い方を少し変えてみるつもりだ。」

 

 スキフがアキラに語ったZONEに生きる存在の性質を、横で聞いていたトラッパーは何かが変わったようだ。それに対しスキフは微妙に渋い表情をしているが。

 

 「あの時も言ったが、こっちが歩み寄ってもミュータントはそれに応えない生き物だぞ。“王”やあのシュードドッグは例外中の例外だ、共存や保護しようなんて考えは……」

 

 「そこまでおかしくなっちゃいない、別にミュータント共と仲良く暮らしたいって訳じゃないからな。一先ずトロフィー目的で狩るのを止めるってだけだ。」

 

 まさかミュータント愛護に目覚めたのではとスキフは危惧したが杞憂だったようだ。ライカンはトラッパーに渡す報酬を持って彼に手渡そうとすると、トラッパーは手を差し出して来た。

 

 「お前と仕事が出来て良かったよライカン。無事にZONEから出れるよう祈ってるぞ。」

 

 「こちらもですトラッパー様……もし“王”に出会えたら宜しく伝えておいて貰えますか?」

 

 「ハッ…人間の言葉が通じたらな。」

 

 自分の報酬を受け取ったトラッパーは部屋を出ていこうとする。そんな彼をスキフは呼び止めた。

 

 「おいおい、俺への別れの言葉は無いのか?」

 

 「どうせお前やリヒター達はZONEに留まるだろう?またどっかで出会えるんだから別にいらないかと思ってな、何処かでまた会おう。」

 

 スキフに対する短い別れの言葉と共に、トラッパーは部屋から出ていった。

 

 トラッパーが去ってからすぐ、アキラが瞼を擦りながら起き上がってくる。粗末なベットとマットレスで固まった身体を軽くほぐした後、寝ぼけまなこでスキフとライカンに向く。

 

 「二人共おはよう……」

 

 「おはようございますプロキシ様、飲み物と濡れタオルをどうぞ。」

 

 「ふぁ……ありがとうライカンさん。」

 

 ライカンが綺麗なボトルに入った水と飲料水を軽く湿らせた綺麗なタオルを手渡す。一応スカドフスクにも貯水タンクを使った水道設備があるのだが、都市部で育ったアキラが口に含めば腹を下すかもしれない程度には浄化設備に難がある。

 

 エーテル侵食を除去できるアーティファクトを放り込んでいるらしいので侵食症状は問題ないが、大腸菌等を殺菌する力は無いためスラムや郊外出身、ZONEの住人でもなければ利用するのはオススメ出来ない。

 

 顔を拭き、喉の渇きを潤すと、アキラの腹が盛大に鳴る。気恥ずかしそうに腹を抑えるアキラを見て、スキフは一度下の酒場に行くことにした。

 

 「おはようプロキシ、下の酒場で何か食いに行こう。飲んだくれ共も起こしに行かないとな。」

 

 

 

 下に降りると数人のホロウレイダーが酒瓶を抱えたまま寝くたばっていた。スキフ達が沼地から生還するかどうかの賭けで勝利した者達が気前よく飲んでいたのだろう。

 

 その中にリヒターとウルフも混ざっており、いびきをかきながら床に寝ていた。リヒターの方は軽くうなされている。

 スキフは2人を横目に階段横のカウンターにいるビアードに何か朝食とコップ一杯の水を頼んでおき、リヒターの下に行ってその顔に水を掛けた。

 

 「うあっぷ…!溺れ……スキフ?お前ワイルドアイランドの湖に沈んだんじゃ……」

 

 「なんて夢見てるんだ……起きろ、まだ依頼は終わってないぞ。飲み明かすならコルドンに戻ってからだ。」

 

 縁起でもない夢を見ていたらしきリヒターに呆れながら、同じ手段でウルフも叩き起こす。トラッパーの言う通り、2人は揃って2日酔いに苦しみながら起き上がった。

 

 その後はアキラとライカンを含めた5人で朝食を取りながらコルドンまでのルートの選定をリヒターが行う。

 

 「……とは言ってもエミッション(光熱放射)は起きてないからアノマリーの位置は変わって無いはずだ。行きと同じルートになると思う。」

 

 「そこはリヒターさんに任せるよ。」

 

 「了解だプロキシ、流石に帰り道で外来種みたいな怪物に出会う事はない筈……多分。」

 

 段々と自身が無くなってきたリヒター。外来種のミュータントやエーテリアスというのは非常に珍しい存在である筈なのに、スキフやリヒター、そしてアキラも何故か幾度に渡ってそんな怪物達と遭遇し、戦闘になっている。

 

 二度あることは三度あると言うが、まさか四度目は無いだろうなとリヒターは内心思いつつ、帰り道のルートを全員に共有した。

 

 

 腹ごしらえを終え、スキフ達は昨日スカドフスクのメカニックに預けた装備を回収する。一晩掛けて武器は完璧に整備されていたが、流石にアーマーに関しては最低限の手入れだけに留まっていた。

 そもそもスキフのアーマーは完全に廃棄されるレベルの損傷だった為、当座のアーマーとして安いアーマーを買ったのだ。ちゃんとしたものはコルドンへ辿り着いてからシドロヴィッチから手に入れるつもりだった。

 

 ザトンのトレーダーも悪くないが、やはり良いアーマーを手に入れるにはシドロヴィッチに金を積んだ方が早いのはこの世界に来てからの経験で分かった。

 

 装備を整え、スカドフスクを発とうとした時、ウルフが口を開いた。

 

 「そう言えばトラッパーの奴はどうしたんだ?船の何処にも見当たらないが。」

 

 「もう出発したぞ、あのミュータントの王様を追いかけるそうだ。」

 

 「なんでぃ、外来種とやり合ってる時に助けて貰ったから礼を言いたかったのに。」

 

 「飲んだくれて無かったら言えてたかもな、出発しよう。」

 

 飲んで何が悪いという表情のウルフを尻目に一行はスカドフスクを出発し、コルドンへと歩みを進めていった。

 

 遠くでローターが高速回転する音が聞こえたのでその方向に振り向くと、沼地の方角へ向けて何機かのヘリが編隊を組んで飛んでいくのが見えた。

 この距離では機影は小さく、何処の所属かは一目で分からないが、空に溶け込む色合いからしてクリアスカイのヘリだろうか。

 

 目を細くし眺めながらも、それ以上は意識を払うことなくスキフはアキラ達に遅れないようザトンを進んでいった。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 行きとほぼ同じルートでの帰り道、時折遭遇する数体のミュータントや少数のバンディットを排除しつつ、特に問題もなくコルドンへ到着した。

 

 この地をを通る時に毎度の如く立ち塞がるのは、コルドン中央部の崩落した鉄橋に敷かれた防衛軍の検問である。ここの腐敗した駐留部隊の兵士達は悪名高く、“安全な道”を通ろうとする者達に賄賂を要求してくる。

 

 コルドンを通る道路を歩きながら、アキラとライカンは既に正式許可証を準備しているが、ライカンはあそこの検問を通る事に軽い警戒心を抱いていた。

 

 (さて……前回は数の差もあって難なく通過する事が出来ましたが……今回はどうなるか。)

 

 ビス達も加わっていた行きの道では、正式許可証を提示しただけで大人しく通してくれた。

 だがビス達が死亡し、5人に減った今のメンバーでは駐留部隊の兵士達は何かたかってくるかもしれない。

 とは言え、賄賂を握らせれば問題なく通行出来るであろう。金でトラブルを回避できるなら安い物だ。

 

 そう思い、ライカンはリヒターにどれくらいの通行料が必要になりそうか聞こうとした瞬間、視界の先から幾つかのトラックが走ってきたのを確認した。

 

 道路に点在するアノマリーを踏まぬよう、ゆっくりと蛇行運転をしながらスキフ達の側を数台のトラックの列が通る。

 一瞬、ZONE駐留部隊の車列かと思われたが、スカイブルー迷彩で塗装された車両と、ぴったり張られた幌シートに描かれた日の出のマークを見て一行は驚愕する。

 

 「クリアスカイの連中じゃないか、何処に向かうんだこいつら。」

 

 「アノマリー探知機があるとは言え度胸あんなぁ……」

 

 スキフとリヒターがクリアスカイの車両隊を眺めていると、最後尾のトラックの荷台からクリアスカイ兵が睨んで来たのを見て咄嗟に目線を逸らす。下手すれば威嚇射撃を撃ち込まれる可能性があるからだ。

 

 「皆見ろ、また向こうから車列が来るぞ!」

 

 更に向こうからクリアスカイの車両隊がやって来た事にウルフが気付く。

 それを見てアキラとライカンは沼地を出る際に話した事について思い出していた。

 

 「……この車列、もしかするとライカンさんの予想が的中するかもしれないな。」

 

 「クリアスカイ・コーポレーションはZONEに本格的に介入───単にZONEの利権目当てか、それとも噂通りTOPSの先鋒としてかは不明ですが、この規模の車両隊を投入するのですから間違いなくZONEに大きな足掛かりを築こうとしているのは確かでしょう。」

 

 「装甲車まで持ち出してる……どう見ても単なる調査や研究目的じゃないだろうね。」

 

 車列を護衛し、脅威を警戒してキューポラを忙しなく動かしながら機関砲塔を搭載した8輪駆動の装甲車が目の前を通り過ぎる。

 ZONE駐留部隊と同等クラスの兵器を持ち込んでる辺り、上層部の方で何か取り引きでもあったのだろうか。

 

 道路の脇に避けつつ、鉄橋のある場所までやって来ると、明らかに何時もと様子が違うのが一目で分かった。

 本来あそこに配備されている防衛軍の小隊は居らず、代わりにクリアスカイの兵士達が鉄橋を封鎖し、やって来た自社の車両の通過を見守っていた。

 

 どうした物かと立ち往生していると、鉄橋を警備していたクリアスカイ兵が1人近づいて来る。

 スキフ達は警戒するが、このクリアスカイの兵士は此方に気安く話しかけてきた。

 

 「ここを通りたいのかホロウレイダー?丁度良かったな、防衛軍の連中は今居ないんだ。最後の車列がもうすぐ到着するから今のうちに通った方がいいぞ。」

 

 レベデフの警護兵やトラックに乗っていた兵士からしてクリアスカイには物々しい雰囲気を感じていたスキフ達だったが、どうやら全員そうだとは限らなかったようだ。

 

 そのクリアスカイ兵に連れられ、鉄橋を通り過ぎる。近くに装甲車が配備されていたので精神的余裕があったのだろう、何時もの駐留部隊の兵士達と違って大して警戒はされてなかった。

 

 そう言えばここにいた駐留部隊の兵士達はどうしたのか、気になったスキフは最初に自分達に話しかけたクリアスカイ兵に行方を尋ねる。

 

 「ここにいた防衛軍の連中は何処に行ったんだ?」

 

 「すぐ近くの製粉所で俺達が通り過ぎるのを待ってるよ、あいつら、上で話がついてるのに俺達に賄賂をせびって来やがったんだ。装甲車がやって来たらそそくさと検問を明け渡したけどな。」

 

 「流石の奴らも機関砲の前じゃ大人しくなるようだな……ありがとな、助かったよ。」

 

 企業の私兵部隊にすら金をせびるとは、ZONE駐留部隊は肝が据わってるのかそれともただの愚か者(Идиот)なのか。

 そこまで安月給なのかとスキフはそんな駐留部隊に呆れながら、自分達を通してくれたクリアスカイ兵に感謝し、別れを告げる。

 

 スキフ達が鉄橋を越えてルーキー村に向かって少しすると、クリアスカイの最後の車列がやって来た。その車列が通り過ぎると鉄橋に配備されていた装甲車から車長が現れ、鉄橋の警備をしていた兵士達に指示を出す。

 

 「出発だ!レベデフ代表が俺達を待ってるぞ!早く乗り込め!」

 

 車体側面の昇降用ハッチが空けられ、次々と鉄橋を警備していたクリアスカイ達が乗り込んでいく。スキフ達と話していたクリアスカイの兵士は狭いハッチに入るのがもたつき、車長から思い切りどやされる。

 

 「ハッチが狭いし中も窮屈だから入りたくねぇんだよなぁ……」

 

 「ニンブル(・・・・)ぼさっとするな!早く乗れ!」

 

 「ラジャラジャ……」

 

 最後の人員を乗せた装甲車のハッチが閉じられ、車列に追いつかんとエンジンが唸りを上げた。

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 「ああ、懐かしいルーキー村!生きて帰ってきたぞ!」

 

 ルーキー村に到着して開口一番、ZONEにおける自分の故郷となっているウルフが喜びの声を上げる。

 ただ遠出しただけではなく、危険な沼地から生還出来た事もあって喜びもひとしおだ。 

 

 「ウルフ、仕事を手伝ってくれて感謝する。今回の報酬だ、遠慮なく受け取ってくれ。」

 

 「へへっありがとなライカンの兄貴……それと、俺の仲間の分の報酬をこの住所に送って欲しいんだ。」

 

 「構わないが……それは?」

 

 「新エリー都に家族を残してる仲間が死んだら、そいつの遺産や稼ぎを送ってやるって仲間内で決めてあるんだ。街に戻るんだったら報酬をあいつらの家族に渡してやって欲しい。」

 

 「……分かった、必ず送り届ける。」

 

 ホロウと同じく毎日が生きるか死ぬかの連続、そしてホロウより出入りが難しいZONEで信頼のおける仲間に遺言等を託すのはそれなりにある。

 誰も彼もメインランド(ZONEの外側)での人生を捨てて来ている訳ではないのだ。

 

 やる事は終わったとばかりにウルフはルーキー村の人々に顔を見せに行く。ルーキー達はウルフの帰還を歓迎し、彼から土産話を聞こうと群がっていった。

 

 それを見届けたライカンはスキフとリヒターを少し待たせ、アキラと共にシドロヴィッチの下に向かっていった。

 

 

 地下の防爆扉を開くと、カウンターの向こうでヨレヨレの雑誌を読んでいたシドロヴィッチが片眉を上げて出迎えた。

 

 「無事に帰ってきて嬉しいぞ、お前達が死んだらメイフラワーの奴にどやされるだろうからな……その調子じゃ何回か死にかけたようだが。」

 

 読んでいた雑誌を足下のゴミ箱に放り込み、顎の前に両手を組んだポーズでシドロヴィッチが2人の生還を喜ぶ。

 表情がカモを見つけた悪党にしか見えないのは彼の顔の悪さが原因だろうか。

 

 「貴方様の用意してくれた装備のお陰で何とか窮地を切り抜けられました、心より感謝致します。」

 

 「僕からも礼を言わせてくれシドロヴィッチさん、あなたのくれた医薬品が無かったら死者が多く出ていたはずだ。」

 

 「それがトレーダーたる俺の仕事だ。お前達が預けた装備はしっかり預かってあるぞ、アーマーは同じ所に置いといてくれ、アーティファクトもな。」

 

 カウンター横の扉が開けられ、アキラとライカンは更衣室代りの部屋に入る。そこにはZONEにやって来たばかりの服がそのまま置かれていた。

 

 手早く着替えを済ませ、アキラは何時もの服装、ライカンは制服たる執事服に着替える。重たいアーマーやバックパックから解放された気分を存分に味わいながらシドロヴィッチの下に戻った。

 シドロヴィッチはバックパックから回収した装備から探知機やPDAを取り出し、2人に差し出す

 

 「こいつは持っておけ、……特にプロキシ、お前はまたZONEに来るだろうしな。」

 

 「今のところZONEに戻る予定は無いかな……でも受け取っておくよ。」

 

 どの道このPDAにはスキフの連絡先が入っている。またZONEに来た時に彼とすぐに連絡を取れるなら必要な物になるだろう。ZONEの外では使えないが、ZONEの中では非常に役に立つのがこの機器だ。

 

 最後にシドロヴィッチは2人に忠告するように言う。

 

 「もう遭遇したと思うがクリアスカイが大勢我が物顔でコルドンを通ってる。そのせいで駐留部隊の奴らが少しイライラしているからな、帰り道は気をつけろ。」

 

 クリアスカイの行動は既にZONEで噂になっているようだ。アキラとライカンはコルドンの前哨地で問題が起きないか今から辟易している。

 

 「承知しました、ではこれにて失礼致します。」

 「さようなら、シドロヴィッチさん。」

 

 「メイフラワーの奴に宜しくな。」

 

 帰り支度を済ませたアキラとライカンは防爆扉が閉められる音を背に地上へと戻っていった。

 

 

 バンカーの外で2人を待っていたスキフとリヒター、ライカンは彼らにも報酬を手渡し、依頼をこなしてくれた事への感謝を述べた。

 

 「お待たせしました、お二人へ支払う報酬となります。お二人のお陰でプロキシ様も私も無事に調査を終える事が出来ました。誠に感謝します。」

 

 「雇われた以上、依頼をきっちりやっただけさ。外来種の時もお前が一番身体を張っていたしな。一緒に仕事が出来て良かった。」

 「そうそう!ライカンさんがいたお陰で俺達も何とか……うお報酬スッゲ、流石市長からの依頼。」

 

 スキフとリヒターは報酬の金額が予想より多かったことに驚いていた。前金の段階でも十分な金額だったのだが、これだけあれば暫くは遊んで暮らせる程の稼ぎだ。

 残念な事にZONEには遊んで暮らせる場所がほぼ存在しないのが欠点なのだが。

 

 受け取った報酬を一部はアーマー代に、残りは“目的”の為の貯金に回すかと考えながらスキフはアキラに話しかける。

 

 「プロキシ、あの取引……頼んだからな。それまで俺はお前の依頼をしっかりこなしてやる。」

 

 「わかったよスキフさん、僕に任せて欲しい。何か進捗があったら連絡をしてくれ。」

 

 取引とはもちろん、新エリー都に家を買うのでその物件探しをアキラに頼んだ事だ。その代わりにビデオ屋の常連になる事と引き換えに。

 

 「ZONEに来たらまた俺を頼ってくれよ、何時でも力になるからな。」

 

 「もちろんさ。じゃあまた、会う日まで。」

 

 最後に握手を交わしてアキラとライカンを見送るスキフとリヒター。コルドン前哨基地までは大したアノマリーも無く、沼地を突破した2人なら万が一も起きないだろう。

 

 スキフがアキラと交わした取引の内容が気になったリヒターがそれとなく内容を聞き出そうとした。

 

 「なぁスキフ、プロキシに何か頼んだのか?」

 

 「ZONEに骨を埋めるであろうお前と違って将来の事について考えてるんだよ俺は……さてと、シドロヴィッチの所に行ってアーマーを新調しないとな、ついてくるか?」

 

 「おうよ、それが終わったら生還祝いでロストクまで飲み行こうぜ!報酬もあるしな!」

 

 「ザトンで飲み明かしたのにまだ飲み足りないのか……」

 

 「だってZONEの娯楽なんて酒かアリーナ(闘技場)しかねぇじゃん。」

 

 朝は2日酔い状態だった事をもう忘れたのか、もう一度酒盛りをしようとするリヒターに、スキフは困った表情を向けた。

 

 

 

 

 

 

 コルドン前哨地まで歩くアキラとライカン。この辺りには大した脅威は無いが、それでもミュータントを警戒して周辺に注意しながら進んでいた。

 そんな中、近くの草むらから何かがこちらの様子を伺っている気配をライカンが感じとった。

 

 「……プロキシ様、近くにミュータントの気配があります。こちらを追跡しているようですね、お気を付け下さい。」

 

 「本当かい?この辺りだと…ブラインドドッグかな。」

 

 ライカンは何時でも戦えるように臨戦体勢を取る。コルドンに生息しているミュータントはブラインドドッグやフレッシュ、ボア等の弱めのミュータントだ。

 とは言えミュータントはミュータント、スキフ達と別れた今アキラを守れるのはライカンしかいない。アキラに万が一が無いよう油断せず、これから飛び出してくる存在に備える。

 

 だが目の前に現れた存在はコルドンには殆ど居ないミュータントだった。

 人に近い顔を持った、茶色い毛皮の犬のようなミュータント──シュードドッグ。

 

 アキラとライカンを襲う気も無く、草むらから飛び出したミュータントはゆっくり近づいてくる。

 

 「シュードドッグ?確かコルドンには居ないミュータントの筈じゃ……いや、まさか……」

 

 「貴方は……沼地で私達に味方してくれたシュードドッグなのですか…?」

 

 一切の敵意が見られないシュードドッグはライカンの前で止まり、その顔をライカンに向けじっと見つめている。

 その目、表情、身体に刻まれた傷跡。確証は無いが、このシュードドッグが沼地で共に戦った個体だという確信があった。

 ライカンは片膝をついてシュードドッグに出来るだけ目線を合わせ、何故彼がここにいるのかを考える。

 

 「わざわざ別れを言いに来てくれたのでしょうか……」

 

 「でもライカンさん、あの時このミュータントは他の仲間達と一緒に去った筈だ。群れの仲間達は見当たらないよ……まさか。」

 

 アキラが周りを見渡してシュードドッグの群れを探すが何処にも居ない。そしてこのシュードドッグ、どう見ても別れを言いに来た訳では無さそうだった。アキラは1つ、思い当たる理由を考えついた。

 

 「このミュータントは……ライカンさんについて行きたいんじゃないかな?」

 

 ライカンが驚いてシュードドッグの顔を見る。アキラの言う通りだと言わんばかりにその首を縦に振った。

 

 「いや……しかし、彼はミュータント、ZONEで生きる存在です、不用意に街に連れ出すのは……」

 

 「エーテリアスじゃないんだしZONEの外でも生きられる筈だよ。それに、スキフさん曰くこのミュータントは他と違って“例外”みたいだしね。」

 

 このシュードドッグは普通のミュータントと違って人間に対する害意は何故か持っていない。スキフに言わせれば“自由意思”を持った特別な存在だ、ライカンだけではなくアキラにも敵意を持っていない事から人との共存も出来るだろう。

 未だに未知の部分が多い生命体であるミュータントだが、それなりに研究は進んでおり、ライカンもZONEに来る前にそういった情報を市長経由で手に入れてある。

 

 そのお陰で病原体や寄生虫の問題などもいわば野生動物……野良犬や野良猫と同じ範疇であるのは判明している。

 更に表向きにはZONEは「特殊なホロウ」と扱われている。その為、生きたミュータントを街に入れないように規制する法などは現在は無い。基本的に研究者達はZONEの中で研究している為そういった問題も今の所起きてないのだ。

 

 「ですが……むぅぅ……」

 

 ライカンとしても外来種との戦いで助け合った友が望むなら連れて行く事もやぶさかでは無い……がそれはあくまで個人的な物だ。

 

 悩むライカンの目をシュードドッグがしっかりと見つめる。その目はライカンを群れの“アルファ”として完全に認めた目だ。

 同種の仲間達を捨ててライカンを選んだのだ、突き放したら恐らくこのシュードドッグは孤独になってしまう。外来種のエーテリアス達によってミュータントが滅ぼされ、たった1匹生き残った沼地の時に逆戻りしてしまう。

 

 悩みに悩んで───遂にライカンは決心した。

 

 「………法の隙間を突くようですが、問題が起きたら閣下にお願いして力を貸して貰いましょう。」 

 

 「それじゃあ……!」

 

 アキラとシュードドッグの表情が明るくなる。ライカンは真剣な目でシュードドッグにこれからの事を伝えた。

 

 「私は貴方をペットとして扱うつもりはありません。共に来ると言うなら、ヴィクトリア家政の一員として相応しい振る舞いや作法を身に着けて貰います。貴方にそれが出来ますか?」

 

 言葉を完璧に理解しているようにシュードドッグは頷いた、やはりミュータントという存在は普通の動物よりも知能が高い。

 これならば単なるしつけに留まらず、ヴィクトリア家政の仕事内容すら覚えられるかもしれない。

 

 「では行きましょう、街に戻ったら紹介したい者達もいます……皆きっと、貴方を受け入れてくれるでしょう。」

 

 ライカンはシュードドッグを抱き上げ、共に歩む仲間としてこのミュータントに笑いかけた。それに応えるようにシュードドッグも遠吠えを響かせる。アキラはそれを見て微笑んでいたが、この先に立ち塞がる問題をどうするか悩み始めた。

 

 「そう言えばライカンさん……」

 「分かっておりますプロキシ様。」

 

 「前哨基地はどうやって突破しようか……車もあそこに置きっぱなしだし。」

 「………ここら一帯の境界線は鉄条網が敷かれているだけです。何処かに抜け道があると良いのですが……」

 

 シドロヴィッチ曰く現在イライラしているらしきZONE駐留部隊、彼らの目に映らぬようにどうやってミュータントを連れて突破するか、色々苦戦しながらシュードドッグを新エリー都に連れ帰る事になるのだった。

 

 

 

 

 

 「はぁ……やっと愛しの我が家に帰ってこれた。」

 

 『お帰りなさいませマスター、ZONEから無事に帰還したことを喜ばしく感じています。』

 

 「ただいまFairy、心配かけさせたね。」

 

 自宅兼ビデオ屋「Random Play」に戻って来たアキラ。少々トラブルが起きながらも何とかシュードドッグをZONEから連れ出す事に成功し、無事に新エリー都へと帰還を果たすことが出来た。

 車の窓から飛び出す勢いで新エリー都を驚愕の目で見るシュードドッグを抑えたり、市長への報告等を挟み、六分街の近くまでライカンに送って貰ったのだ。

 

 Fairyから出迎えの言葉を受け取りながら店のドアを開けると、レジに居る「トワ(18号)」がンナンナとアキラに喜びの表情を向ける。

 それを笑顔で返しながら、裏のスタッフルームに入るが、リンの姿は見えなかった。二階にいるのかと思い、Fairyにリンの居場所を聞く。

 

 「Fairy、リンは二階にいるのかい?ノック・ノックで新エリー都に戻った事を伝えたんだけど既読無視されてね。」

 

 『現在、助手2号はマスターからの連絡が入った直後、自室のソファで食べていた菓子類を起き、ベットにて布団を被った状態になりました。推測、助手2号は「拗ねてる」モードに移行し、マスターに見せつけるのが目的と思われます。』

 

 「やれやれ、随分とご機嫌斜めなようだね……ありがとうFairy。」

 

 レジ袋を持ちながら苦笑するアキラ。

 ZONEに行く前、身を案じてリンを置いていく事に決めたアキラ。足手まといにならないと、自分もZONEに行くと言うリンと少々喧嘩になってしまった為、家に帰る前にプリン等の甘い物をお土産として買って来たのだ。

 

 二階に上がり、リンの部屋の前に立つ。数回ノックをすると、ドアが開いて口を尖らせ、わざとらしく頬を膨らませたリンが現れる。

 アキラはレジ袋を掲げ、口を開いた。

 

 「ただいま、リン。プリンやゼリーを買ってきたんだ、一緒に食べるかい?」

 

 「…………怪我は無い?危険な目に遭った?」

 

 「怪我はないけどすごく危険な目には遭ったかな、でもライカンさんやスキフさんが守って─────」

 

 突然、リンが抱きついてきて驚くアキラ。だがすぐに背中に手を回して優しく背中を撫でる。

 

 「………お帰り、プリンはアタシが食べる。」

 

 「うん、それと…明日の予定はあるかな?なかったら2人で何処かに出かけようか。」

 

 「絶対行く……あとお兄ちゃん、クサいからお風呂入って。」

 

 「その為にはまず手を離してくれると助かるかな。」

 

 リンの頭を撫でながら、暫くプロキシ業は休もうかと考えるアキラ。ホロウと違ってZONEに行くと確実に数日間は滞在する事になるので疲労もかなり溜まるし、家族の時間が取れなくなる。

 

 ちょっとの間仕事をしないで愛する妹と出かけたってバチは当たらないさ───そう思いながらアキラは家に帰ってこれた事実をしっかりと味わうのであった。

 

 だが暫く休むと決めた数日後、市長からカローレ・アルナの写真が送られ、雲嶽山の宗主「儀玄」と共に衛非地区に向かう事になり、そこで多くの陰謀や衛非地区を蝕む讃煩会との戦いにアキラは巻き込まれる事になるのは別のお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アキラとリンが雲嶽山の弟子となり衛非地区に一時的に拠点を移してから暫く、正確にはオボルス小隊と共に讃煩会の牲祭と呼ばれる計画を阻止してから少しした時。

 

 アキラはちょっとした野暮用を済ませにルミナススクエアへとやって来ていた。

 

 野暮用自体はすぐに終えたのだが、最近は衛非地区の周辺から離れる事が少なくなったのでこれを期に久々のルミナススクエアを散歩する事にしたのだ。

 

 この際だから普段あまり近寄らない公園の方にも行こうとアキラが向かうと、見知った顔がいることに気付いた。

 

 ヴィクトリア家政に所属する大きなサメの尻尾を持ったシリオン「エレン」、普段のメイド服ではなく、パーカー付きの私服を着込んでいた少女が公園を囲む手すりに背中を預けていたのを見て、アキラは声を掛ける。

 

 「やぁエレン、こんな所で奇遇だね。」

 

 「ん……店長じゃん、久しぶり。」

 

 エレンは振り向き、気だるそうな声を上げる。だがその声質には喜びの感情が含まれていた。尻尾も結構揺れているのだから内心アキラに会えて嬉しいのだろう。

 

 「公園で遊んでる……って感じじゃ無さそうだね。」

 

 「そんな歳じゃないし……あたしはコイツの付き添い。」

 

 ルミナス公園への階段を登り、エレンが指を差した先を見ると。犬のような生物が公園内に置かれたタイヤやベンチを利用して作られた即席のランニングコースを走り回っていた。

 

 「シュードドッグじゃないか!エレンが散歩してあげてるのかい?」

 

 アキラは見覚えのある存在に驚いた。公園内にZONEのミュータントがいるのだ。

 本来ならば異常な光景だろうがアキラはあのシュードドッグがヴィクトリア家政の一員としてライカンに迎えられた事は知っているのでそこは気にしていない。

 

 「普段はアイツ1人で散歩も済ませるんだけどね、今は皆で交代しながら付き添ってるんだ。」

 

 「へぇ…彼はヴィクトリア家政で上手くやっているのかい?」

 

 「うん、アイツボスの言う事は絶対に守るし凄く頭も良いから仕事も一緒に来てちゃんと熟してくれるんだ。

 まぁ流石に掃除とかは難しいけどね、番犬だったりホロウの中での仕事だったら問題ないってボスのお墨付き。」

 

 アキラは驚愕する。確かに頭が良いとは思ってたがそこまで仕事が出来るとは思わなかったのだ。

 身体的構造上、難しい事もあるだろうがそれでもライカンから仕事ぶりを評価されているのは凄い。

 

 「あんな顔してるからカリンちゃんも最初怖がってたんだけど、最近慣れて一緒に寝るようになったし、リナもアイツの事は凄く気に入ってる。ボスは言わずもがなかな。」

 

 「エレンは彼の事はどう思ってるんだい?」

 

 「んー……ブサカワ?」

 

 ミュータント特有の恐ろしい顔つきだが女子高生には「カワイイ」の範疇に入るのか……とアキラは内心思いながら公園を走り回るシュードドッグを見る。

 効果音をつけるならドタドタと走り回るその姿に違和感を感じた。

 

 「あのシュードドッグ、なんか…ちょっと体型が……」

 

 「気付いた?なんであたしが散歩に付き添ってるのか。」

 

 よく見ればシュードドッグは最後に見た時の姿から様変わりしていた。

 

 ライカンやリナによって手入れされたであろう毛並みはピカピカになり、ヴィクトリア家政の一員である事を示すように、動物用の特注された執事服を着ている。

 

 だが一番の変化は体型だ、食料に乏しいZONEでのやせた姿では無い、肉がついて丸くなっている。

 

 否、丸くなりすぎている。恐ろしい顔つきは頬が膨らみ、二重あごがついている。身体に至ってはなんとまぁパンパンに肥えていることか。

 

 エレンが言っている事が分かった───このシュードドッグはダイエットをしているのだ。

 

 「あんだけ太ってダイエットに勤しんでいるのは分かるけど……どうしてここまで放っておいたんだ?」

 

 普段から身だしなみに厳しいライカンの性格からして、これだけ太るまで何もしないというのは考えられない。

 どうしてこんな事になったのかエレンに問いた。

 

 「さっきあたし、リナがアイツの事を凄く気に入ってるって言ったでしょ?その理由がさ……アイツ、リナの料理が大の好物だからなんだ。」

 

 アキラは目を見開いて驚いた、リナの料理が壊滅的なのは彼女を知ってる者からすれば有名である。

 それこそ完食できるのは目の前のエレンか、対ホロウ六課の蒼角くらいであるが、前者は雑食を極めたが故、後者は故郷の味を思い出すが故である。

 

 「自分の料理が大好物なのが分かってからリナが張り切っちゃってさ、とにかく沢山作るんだよ。ついでにあたし達の分も含めてずーっと毎日。」

 

 「そ…それは……ご愁傷さまだね……」

 

 アキラは自分から血の気が退くのが分かった。一口食べれば意識を失う料理が毎日毎日提供されるなんて冗談じゃない。

 

 「流石のあたしも食べ切れない量でさ、進退窮まったボスとカリンちゃんがとにかくリナの料理をアイツに押し付けたんだ………あたしも残した分回してたし。」

 

 「その生活を続けてたらシュードドッグがあんなに太ってしまったと……」

 

 「皆でアイツにものすごい量のご飯をあげてたら普段の仕事じゃ消費しきれないほど太って健康に問題が出そうでさ、こうして皆でダイエット作戦を始める事にしたわけ。」

 

 リナは自分の料理が高カロリー過ぎた?事を反省し大量に作るのを控えるようになり、自分達の過失でまん丸となってしまったシュードドッグを見て、ライカンとカリンはリナの料理を出来るだけ自分で処理する覚悟を決めた。

 ついでに言えばエレンは自身のお腹と尻尾を擦って脂肪がついていないか確かめている。彼女もここ最近はリナの手料理を沢山食していたからだ。

 

 シュードドッグはひぃひぃと重くなった自分の身体を必死に動かしているが、ベンチからすっ転んでボヨンと軽く跳ねる。それを見てため息をついたエレンがシュードドッグを休ませる。沢山の脂肪がついたミュータントの表情はZONEにいた時よりずっと穏やかだ。

 

 「まぁ……彼が受け入れられて良かったよ。」

 

 自由意思を持ってして、新しい群れに加わり、その生活を謳歌しているであろうシュードドッグ。アキラは新エリー都に馴染むミュータントを見つめていた。

 

 

 

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