Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
今回の章からシーズン2間章〜シーズン2アウトロの間の時系列となります。
更にS.T.A.L.K.E.R.シリーズと同じチョルノービリを舞台にした別ゲームとのクロスも追加します。
とは言えこの作品はあくまでS.T.A.L.K.E.R.✕ゼンゼロのクロスオーバーであることには変わりないので、サブ要素としてのクロス追加という事でどうかオナシャス。
43.黄金の日の裏で
───NAR社 ホロウ内実験施設
NAR社はTOPS財政ユニオンに所属する企業の1つであり、現代の新エリー都のインフラに欠かせない
その精製物の特殊性からTOPS内でも強い自治権を有しており、他の企業からの干渉を跳ね除ける程の力を保持し続けているのだ。
その為かNAR社が管理するホロウ内に建設された、広大な実験施設にはちょっとした軍隊クラスの警備が敷かれている。ホロウに湧いて施設を襲撃するエーテリアスなど鎧袖一触にしてしまう程だ。その兵器が向けられる対象はエーテリアスだけではなく、他の企業に雇われた者達も含まれるが。
この実験施設では1年近く前に始まった
代わりの警備として戦術無人ユニットを多数配備し、普段この施設で働く職員達が黄金の日の休暇を堪能する為に帰宅し、実験施設に残る人数は最低限に絞られ、出勤した少数の職員は新エリー都の特別な祭日を仕事に費やしていた。
ある者は新プロジェクトの完了を目前にしているが故に。
ある者は特別手当を渡され、渋々仕事を受け入れたが故に。
ある者は中間管理職として強制的に出勤になったが故に。
ある者は施設に残る職員の警護の為に。
────彼らは不運だったと言わざるを得ないだろう。
世の人間が祭日を楽しんでいる時にホロウの中に出勤しているからでは無い。
突如として施設を襲撃してきた、ガスマスクを着けた武装集団に抵抗する間も無く次々と射殺されていったからだ。
NAR保安部門の警備兵も良く訓練された兵士である。だが彼らを「経験者」に例えるなら相手は「ベテラン」及び「エキスパート」、その能力の差は圧倒的であった。
音もなく侵入し、警備システムは尽く無力化され、人の少ない施設には悲鳴が響き渡る。
抵抗する間もなく撃ち殺され、自身のライフルは引き金を引くことなく床に落ち、NAR保安部門の黄色い制服を血で赤く染め上げた警備兵の生気のない眼は虚空を見つめ、その側を武装集団が駆け抜ける。
頼みの綱の戦術ユニットは未知のエーテル兵器で破壊されるか、ハッキングで機能停止に追い込まれ、鉄くずと化した。
謎の武装集団は施設の人間を皆殺しにしていった、非戦闘員も含め見つけ次第射殺された。
施設を突き進む武装集団が施設の一角にある広い倉庫に突入すると、そこには特殊な機材が多数置かれ、そしてNAR研究員の生き残りが隠れており、追い詰められた彼らは命乞いをしていた。
「ひぃ…!こ…殺さな────」
「……我々は抵抗しな─────」
間髪入れずにその研究員達の身体に風穴が空く。サプレッサーの銃口から僅かな煙を上げるエーテルエネルギー銃「FT200M」と大型の回転式弾倉を備えたショットガン「エリミネーター」を構えた武装集団の兵士達は、無抵抗の人間を殺害したことに眉一つ動かさず、倉庫の隅に埃を被っていた装置を引っ張り出す。
何処かに通信を始めた兵士。頭部に装備されたこの世界ではややレトロなデザインのガスマスクから電子処理された声が発せられる。
『こちら「スキッパー」。“蝶番”を確保した、障害は排除。』
『よし、猶予は20分だ。それまでに全て運び出せ、こっちは既に必要な分の“マスターキー”を手に入れた。』
『了解だ「ウルフハウンド」、作業に取り掛かる。』
通信が終わると、武装集団はどれもその筋に売れば間違いなく高値で売れる貴重な書類や他の機械類には目もくれず、目的の機材のみを運び出して行き、外に用意された黒い防弾車両に機材やNARと書かれた箱に入った“エーテル物質”を積んでいった。
全ての荷物を積み終わると、止めに対エーテリアス用の防護システムを根こそぎ爆破する。
エーテリアスを追い払い、撃退する防衛設備が無くなった事で次々と怪物の群れが施設に入り込んで来た。
それを見届けると、武装集団は空いている車に乗り込み颯爽と去っていった。
夜の帷に包まれたホロウを走る車の中で、武装集団の1人が指揮官らしき男に話しかける。味方しかいない空間とは言え、ガスマスクと変声機を着けたままだ。
『ウルフハウンド、俺達のチームはこのままZONEに配属か?』
『そうだ。喜べ、街や郊外での退屈な仕事は終わりだ。そろそろ作戦の実行が近い、団の比率をZONE7街3に振り分ける。』
『ようやくか…!コソコソ動くのも飽きて来た所だ、俺達の他にZONEに来るチームは?』
『「ブラック」のチームが六分街で任務を行う、あいつらが最後にZONEに来るチームになるだろうな、残りのチームは街で後始末だ。』
『居残り組は不運だな、悲願の時を現場で体験出来ないなんて。』
『ZONEに着いたら“新入り”共と合流だ、お前達仲良くしろよ。今は仲間なんだからな。』
会話を弾ませる武装集団を乗せた黒い車列は闇へと消えていく。彼らがホロウを去った後、実験施設には破壊と死の跡と、エーテリアスしか残っていなかった。
実験施設の異変に気付いたNAR社は直ちに鎮圧部隊を送り込んだ。
施設に群がるエーテリアスを殲滅し、施設を確保した後、すぐさま徹底的な情報統制が行われたのでこの事件の詳細を知るのはNARの関係者だけの筈だった。
NAR保安部門の重装部隊が施設を封鎖している中、凄惨な現場とかした倉庫で鎮圧部隊の指揮官にNAR社の幹部が禿散らかった頭を震わせ、唾を飛ばしながら叱咤していた。
「一体どうなっている!?警備員共に休暇を取らせる代わりに戦術ユニットの配備を増やしたのではなかったのか!?これは保安部門全体の責任だぞ!」
「襲撃者は我が社の警備システム全てを無力化し、戦術ユニットを未知の兵器で容易く破壊、保安部隊を一方的な奇襲で排除していきました。襲撃者は隠密能力に優れたかなりの実力者達と思われます。普段通りの警備であっても同じような結果になったでしょうな。」
「な…な…なんだその態度は!保安部門の失態を他人事のように……!そもそもこの施設の警備責任者はお前─────」
「はいはーい!そんなにガミガミ怒鳴るのはザオちゃん駄目だと思うなあ?今は一大事なんだから情報を精査して、受けた被害を鮮明にしないと、闇雲に怒るのはおバカさんでもできるんだからね?」
「誰がバカ──────へ?」
わなわなと目の前の指揮官に腹を立てる幹部、そこに子供程の背丈の小さなウサギのシリオンの女性───「照」がやって来た。
おバカさん呼ばわりされて怒りのままに振り向くが、相手の口から出た名前と、目の前にいるウサミミ少女の存在に幹部の顔が一気に青白くなる。
「くくく黒枝の裁決官!?何故ここに……?!」
「何故って、上の人達から直接被害を見てこいって言われたからだよぉ?何せNARはTOPSのホロウ内産業の生命線だからね〜。
キミ達の会社に何かあったらTOPSのみならず新エリー都全体のインフラに関わるから急いでザオちゃんが来たんだぁ。」
「クランプスの黒枝」──TOPSの内部監査を司る組織で、TOPSの定めた不文律を超えた者達を“処理”する役目を持つ存在である。
黒枝が“判決”を下した者は、例え一企業のCEOどころか企業そのものが容赦なく処断される為、TOPS関連企業からは死神呼ばわりされる存在を前に、さっきまで怒鳴り散らかしていたNARの幹部は萎縮してしまう。
そんな幹部を無視して照はニコニコ笑いながら鎮圧部隊の指揮官───もとい、実験施設の警備責任者に被害状況を確認させる。
「キミが警備責任者の人?色々聞きたいことはあるけど、まずは施設の被害を教えて欲しいなぁ。」
「はい、当時施設に残っていた研究員及び保安要員は一人除き全員死亡、警備用に配置していた戦術ユニットも全滅。対エーテリアス防護システムも全て破壊されていました……まとめると、施設の警備に関わる物は根こそぎ排除されています。」
「うんうん。その生き残りの人は何か見たのかな?出来れば直接お話をしたいんだけど。」
「防護服や抗侵食抑制剤なしにエーテル濃度が高い場所に隠れ続けたせいで現在意識不明の重体です。ですが、彼が意識を失う前に残した襲撃者の特徴に関する情報があります……逆に言えば、これだけしか手がかりがありません。」
「十分だよお。それで、何か盗られたりした物はない?」
「当施設に保管していた“エーテルブライト”と“新プロジェクト”に使う予定の新型装置の“プロトタイプ”です。それ以外には一切手が付けられていませんでした。
不思議な事に、エーテルブライトは大した量は盗られておりません。プロトタイプに関しても施設に残っている完成モデルより安定性も効果範囲も小さいモデルです。」
「警備を全て排除して、施設を制圧出来たのに、凄い価値のあるエーテル物質をちょっとしか盗らず、完成品を無視して性能の低い試作品を持っていった?不思議だよねぇ。」
照は眉を顰める、彼女から見てもNAR社の資産の価値は非常に高い。施設に保管されているエーテルブライトは新エリー都でNAR社だけが精製出来る特殊なエーテル物質だ。
単に金目当てならば、足がつくリスクが高いとは言えNAR社の殿様商売の影響もあってエーテルブライトと、それを動力とする装置を高値で買い取ろうとする者は意外と多い。
だが、わざわざ施設を完全制圧しておいて、指揮官が言った程度の物しか持っていかなかった。
つまり、何かしらの計画に必要だから少量のエーテルブライトとプロトタイプを強奪したのは明白であった。
「プロトタイプが完成モデルよりも優れている所ってあるの?」
「私は技術者では無いので詳しいことは分かりませんが……小型で少々手荒に扱っても大丈夫なほど頑丈である事と、“特定の条件下”でのみ装置の発動が完成モデルより早まるらしいですね。」
それを聞いた照は襲撃者の正体を推測する為、指揮官から渡された生存者が残した情報に目を通す。
驚いた事に、思ってた以上に詳細な襲撃者達の情報がそこにはあった。
「ふむふむ、ダークブルーの装備、電子加工された声と古いガスマスク、見たこと無いモデルの銃火器、破壊された瞬間の警備ロボットにはミアズマの痕跡あり…………ミアズマ、ねぇ。」
「裁決官殿、何か分かった事でも?」
「うーんまだまだわかんないや!でも協力してくれてザオちゃん嬉しいなあ、だって────普段キミたちってなんにも教えてくれないじゃん。今回の事件も警備の人たちから聞いたよ、「他の企業の連中に漏らすな、万が一黒枝の奴らが来たら追い返せ」って。」
にぱーっとしか笑顔から一転、見据えるように細くなった照の眼差しを向けられた、さっきから黙りっぱなしのNARの幹部は息すら出来ずに汗をだらだら垂れ流すだけだった。
確かに、TOPS関連企業から死神だの災害だのと同義として扱われる黒枝の裁決官とは言え、何故NARの幹部がここまで恐怖しているのか。
ホロウ内産業に欠かせない最重要物質の実質的な支配。
市場の独占から生まれる長年の殿様商売と驕り。
TOPSの他企業に影響されない強い自治権。
唯我独尊と評される程の身勝手な経営戦略。
秘密主義を拗らせた企業体制。
率直に言えば、NAR社はTOPSで凄まじく孤立している。
最早、長く続き過ぎて改善すら出来ない会社の体制。
横暴な態度で先行者利益を貪り続けるNAR社の玉座を、いつ堪忍袋の緒が切れたTOPSが力技で“簒奪”してくるか……それをNAR経営陣は恐れている────故にどんな些細な問題でもTOPS上層部の強制介入はそれだけで式輿の塔の爆発並みのダメージをNAR経営陣の胃に与える事になる。
エーテルブライトという重要物質を独占している大企業とは言え、流石にTOPSそのものを敵に回せる力までは持っていないのが現実だ。
「今回来たのはね、被害確認の他にNARの新プロジェクトがどんな物か興味があったからなんだあ。
皆に黙ってこーんなにおっきい“モノ”を作ってたなんてザオちゃんビックリ。どうしてもっと宣伝しないのかなあ?」
照がニコニコしながら施設の遥か奥にある建造物に目を向ける。
それは、ホロウの上空までそびえ立つ巨大な網であった。
無数の鋼鉄のフレームが格子状に編み込む形で組み合わさった“骨格標本”もしくは“金属のつる”が壁面のように広がり、それら鋼鉄のフレームに合わせて等間隔で設置された白い機器がまるで剣のように立て掛けられている。
その余りにも異様な迫力を放つ広い実験施設の全長と敷地の広さを優に超える規模の建造物を最初に目撃した時は、照でさえ思わず息を呑んだほどだ。
「最初は大々的にプロジェクトを発表してたのに、その後はなーんにも音沙汰無し。普段そういった情報を出さないキミ達がどんな事をやるのか
「あ…あ…あの、裁決官殿……?我々は決してやましい事は企てておりませんので……それにあれは機密事項……」
笑顔で迫ってくる照に対し、NARの幹部は助けを求めるように指揮官に視線を流すが、当の指揮官はこのやり取りに
「“アレ”は一体何に使うのかあ、ザオちゃん知りたいなあ〜?大丈夫だよお、ぜったいだぁれにも言わないから……お・し・え・て?」
「じ、実は私もそこまで内実は詳しくないのです!指揮官!裁決官殿を連れてほかの現場をご案内しろぉ───!」
距離を詰めていくウサギに対し、幹部が選んだのは脱兎。
他の警備兵を突き飛ばしながら、太った身体を揺らして逃げた相手を残念そうに眺めつつ、照は側にいた指揮官に話題を振った。
「ありゃありゃ、怖がらせ過ぎちゃったかな。キミはどう?“アレ”について何か知ってる事ある?」
「さぁ、技術的な事は専門外でして……唯一知っている事は通信に関する建造物だと言う事は耳に入ってます。噂ではホロウ内外の通信をラグなしで行えるレーダーアレイらしいと。」
「ホロウ内との通信をラグ無しで…?ふぅん。」
(……プロジェクトが上手く行ってないから隠している風には見えない、機密性の高い技術を使っているから進捗も隠しているのかなぁ。)
ホロウ内外の通信はどうあがいても重篤なラグに侵されるのが常識である。
表向きには新エリー都で偉業とも言える技術的な限界にNAR社が挑んでいる事に照は興味を惹かれた。
同時にそのプロジェクトの進捗をやけに隠し通しているNARへの疑問と、幹部曰く機密事項である筈の情報をべらべらと喋る目の前の警備責任者に対する疑惑の念が生まれる。
「……ザオちゃんをあっさり通してくれた警備の人もそうだけどさ、あの幹部からの命令を違反している事や会社の機密事項をペラペラ喋ったりしてるみたいだけど、上の人たちから処分される心配は無いの?」
「その時はその時です、裁決官殿が気にする必要はありません。たかが警備責任者がクビになってもあのプロジェクトに問題は出ませんから。」
「へぇ…。」
まるでなんの問題も無いかのように言ってのける指揮官に対して、照は更に目を細める。そしてそのまま視線を周囲のNAR警備員や研究員達に回し始めた。
さっきから引っ掛かる指揮官の態度、それと似ている者達を探しているのだ。
(上司に逆らうより、黒枝の要求を取ったって顔には見えないんだよね〜何処まで行っても他人事ってカンジ?。
この場にいる何人かもそう、同僚が殺されて、会社の資産が強奪されてるのに全くの平静。装ってるんじゃない、心の底からどうでもいいって感情が見えてるんだよね。
そんな人達に限って、「プロジェクトは大丈夫なのか」という心配をしている。)
TOPS関連企業の上層部なんて、下の人間に被害が出ても全く気にしない者達が吐いて捨てる程いる。
だがその精神が当の下っ端にまで浸透しているのはいくら何でも奇妙だった、別にこういった状況に慣れているという訳でもなさそうだ。
「………まぁ取り敢えずこれでいいや。ザオちゃんはもう帰るね!」
とは言え、一先ずやる事を終えた照は次の仕事に取り掛かる為に一度ここから離れる事にした。あくまで彼女の仕事は実験施設の被害確認なのだ。
NAR社の新プロジェクトに関しては本当に照が興味本位で聞いただけ。
黒枝の裁決官として詳細を聞き出すならこんなものじゃ済まない。
「もうよろしいので?」
「うん、黒枝が一番心配しているのはエーテルブライトの生産や供給に問題が出ないかって事だからね。あくまで実験施設が被害を受けただけ、人員と防衛設備以外の被害は軽微だから、これ以上ザオちゃんが心配する必要はないかな。」
「了解しました。部下に出口まで案内させましょう。生存者が意識を回復させたらご一報致します。」
「ありがとね!TOPSの人達みんなキミみたいに聞き分けの良い子ばっかりだったら良いんだけどなあ。」
NAR警備兵に連れられ、照はホロウ内実験施設の出入り口────“人工的に固定化された”ホロウの裂け目を抜けていく。
これがNAR社の生産するエーテルブライトと、それを動力とする「ポータル装置」の力だ。
ホロウ内外に安定した出入り口を作ることが出来る、ホロウ内産業に欠かせない設備。
内部が迷宮のように変動し、突如として別の場所に飛ばされる空間の裂け目が出現するホロウの中で、衛非地区からラマニアンホロウに通るロープウェイが使えるのも、ホロウから直接パイプラインやインフラを敷けるのも、エーテルブライトによって既存の出口や周辺の空間を半永久的に維持・安定化出来るからだ。
急激なエーテル活性にも強いので、産業のみならずホロウ災害時の救出活動や軍事作戦にも幅広く利用される戦略物質である───閑話休題。
ホロウを抜けた照はすぐさまスマホで電話を掛ける。
その宛先に書かれた名前は『ダイアちゃん』。
クランプスの黒枝に所属する、照の同僚「ダイアリン」という人物である。
数コールの後、電話先から呼出音が鳴り響く音と一緒に少女の声が聞こえて来た。
『モシモーシ、オペレーターバンゴー2493カスタマー───あっ…これあたしのスマホだった……照ちゃん先輩!今ちょっとクレームの電話がいっぱい来ててうるさいけど勘弁して下さいね!』
「大丈夫だよぉ、お仕事の途中ゴメンねダイアちゃん。NARの実験施設からザオちゃん戻るとこなんだけど、今手空いてるかな?」
『照ちゃん先輩の用件なら何時でもウェルカムですよ!つまんないクレームなんてポイです!……それで、NAR社は何をコソコソしていたか判明したんですか?』
疲れ果てたOLのような声、快活そうな女子の声、そして黒枝の裁決官としての真剣な声とコロコロ調子を変えながらダイアリンはNARに対して“裁定”を下す必要があるのか聞いた。
照は顎に手を当てて僅かに考えたあと、取り敢えずの判断を下す。
「うーん判断するにはまだ早計かなぁ。今のところシロにもクロにもなり得るし……それに今は別の問題に対象しなきゃ。」
適当な場所に座った照が懐から幾つかの書類を取り出し、それを一つずつ眺め始める。
その中身は全て、ここ最近TOPSの関連企業で起きている事件の目録だった。
TOPS関連企業の重役や幹部の不審死。
エーテル資源輸送車両の襲撃。
フェロクス派だった元ポーセルメックス研究員の失踪。
どれもこれも碌な証拠が残されておらず、一流の戦闘部隊が関わっているとしか思えない程の手際の良さで行われた犯行だった。
「ボスの言う通り何者かが計画的にTOPSに攻撃を仕掛けてる。雇われ傭兵じゃない、特殊部隊を使った証拠をほぼ残さない実に戦術的な犯行。だけど今回ようやく尻尾を掴めそうだよ。」
『やっとですかぁ……ホントやり口が汚いですよね。TOPSがZONEに集中してて足下見えてない隙を狙って攻撃してくるなんて。』
「だからだよ、ボスが言ってたでしょ?今奴らに対抗出来るのは黒枝だけって。盤岳先生と……プロメイアちゃんにも動いて貰うから。」
『盤岳先生だけじゃなくあの人もですか?ボスは最初から本気で行くつもりなんですねぇ。』
「何を企んでるか現状全く分かってないからね、少なくとも酔狂でTOPSを相手取ってる連中じゃない。ダイアちゃん、盤岳先生も連れて今すぐこっちに来れるかな?」
『わっかりましたー!いやークレームのお電話がたくさん鳴ってるけど仕方ありませんねぇ、大事なお仕事が入っちゃったんですし!』
全然仕方ないと思ってなさそうな声を最後にダイアリンとの通話が切れ、照はある方角を見つめる───その方角には、今現在、TOPSの各企業が我先にと向かってるZONEが存在した。
「みーんな
ひとりごちながら、それまで座っていた場所から離れ、照は都市の喧騒の中へと消えていく。
新エリー都は、先日終わったばかりの黄金の日の空気が抜けていない、平穏な日々に包まれていた。
NAR等の元ネタは「Chernobylite」というゲームから。
原発事故以降、無機物と有機物両方の特性を併せ持つ「チェルノブライト」という特異物質が現れ、超常現象や怪物が跋扈するようになったチョルノービリで、30年前に失踪した妻から届いた手紙を受け取った主人公が妻を探す為に封鎖区域に足を踏み入れるというストーリー。
各要素がS.T.A.L.K.E.R.シリーズによく似ているが、最大の違いはクラフト要素や拠点運営要素、ミッション中の死亡や特定のアイテム使用で過去改変などが独自要素としてある。
リアルに再現されたチョルノービリでS.T.A.L.K.E.R.とはまた違う作風の面白いゲームなので興味があったらぜひ。
◇NAR
Chernobyliteに登場する勢力。チェルノブライトの研究を行う為にチョルノービリを占拠した組織で、ストーリーを通して敵対勢力として関わってくる。
ストーカー達やサマショールという現地民とは対立しており、彼らの排除や拘束、ルート次第では子供がいる集落を全滅させたり等の過激な手段を取ってくる。
政府や企業に支援された研究機関とその武装部隊という設定からS.T.A.L.K.E.R.2の「ウォード」のような組織とも言える。