Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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44.開かれたZONE?

 

 

 

 

 ─────黄金の日が終わり、暫く経った後。

 

 ZONEの中心部に存在する、ZONE唯一の“街”ロストク。

 

 以前よりも人口が増えたホロウレイダー達の拠点を「サンライズスーツ」を身に纏うスキフが歩いていた。

 耳を済ませば、“TOPS”の商人達が道行くホロウレイダー達に自慢の商品を宣伝するか、TOPSの為にアーティファクトを取ってこいという不特定多数へ向けたスピーカーが鳴り響いているのが聞こえてくる。視線を動かせば商人達が壁に設置したネオンサインが盛り沢山。

 

 かつてはデューティの勧誘放送か100rads barの宣伝がロストクのBGMとして彩っていたのが嘘のようだ。

 ロストクの日常の光景であるデューティの哨戒部隊は現在何処にも見当たらず、それどころかデューティの本部にはホロウレイダーがたむろしているか、TOPSの研究員が詰めている。

 道行くホロウレイダーに出ていけと言い続けていたデューティボンプもおらず、静かな倉庫を通り抜けるだけとなった。

 

 つまるところ、今のロストクの支配者はデューティではない。

 

 ()()()()()、TOPSがZONEに堂々と入り込んだ結果、多くの変化をZONEにもたらした。その内の一つがロストクの“中立地帯化”だ。

 今や元居た世界の同じ場所のように商業地帯となったのが現在のロストクである。

 

 「はぁ……一体いつからロストクは歓楽街になっちまったんだか。」

 

 変わってしまったロストクで唯一変わらない100rads bar入り口の階段を降りると、クマのシリオンのバーキープが運営する地下のバーが何時もと変わらず広がっている─────筈だった。

 

 ポップな音楽が流れるバーの隅でホロウレイダー達が異様な空間を構築している。ニトロフューエル片手に、色々なケーブルが繋がった小さなブラウン管テレビを食い入るように見つめている。

 

 「あと何分だ…!」

 「1分…59秒…58秒。」

 「電波はOK…!」

 「来るぞぉ…!」

 

 ブツブツと何かを呟くホロウレイダー達、そして『接続中』と表示されたテレビのに色が付き、3人の少女が画面に現れた。

 

 『モーソー族のみんなやっほ〜!妄想エンジェルだよ〜。』

 『いつもウチらの配信見てくれてありがとな〜!』

 『今日は新曲発表もあるから楽しみにしててね!』

 

 「「「ypaaaaaaaa!!!!」」」

 

 一斉に沸き立つホロウレイダー達。

 最近ZONEの、特にロストクを拠点とするホロウレイダー達の一部で熱狂的な人気を誇る、新エリー都のアイドルグループ「妄想エンジェル」

 

 何故こんな無法地帯でアイドルが人気になったのかスキフはよく知らないが、彼女達が初めてライブ配信した録画映像が何故かZONEに流れ着き、それを見たホロウレイダー達が次々と妄想エンジェルに虜にされてしまったらしいとの噂だ。

 

 元々娯楽が少なく、俗世とも隔絶されているZONEで、真剣に歌に向き合う仲良し3人組のキラキラ美少女は女日照りのZONEの男達にとって劇薬であったのであろう。

 

 『今日もみんなのモーソー、コメントで教えてや!』

 

 「金ぇ!」

 「酒ぇ!」

 「アーティファクトォ!」

 「ZONEよ永遠にぃ!」

 

 可憐な少女達になんとまあ即物的な欲求をぶつけているのだろうか、幸か不幸か新エリー都のノット回線を勝手に引っ張って来ているだけなので彼らの叫びがコメントとして彼女達に届く事は無い。

 

 因みに最後のセリフは「羽ちゃん」推しらしいリヒターのセリフである。スキフがロストクの宿泊所で朝起きてからずっと、妄想エンジェルの配信の為に100rads barのテレビの前で、鉄パイプに光るアーティファクトをくっつけたお手製サイリウムを持ってテレビの前に待機していたのはバーキープがよく見ている。

 

 そんな友人に呆れながら、アイドルに興味が無いスキフはバーのカウンターで片頬をついてしかめっ面をしているバーキープの仕事で採ってきたアーティファクトを目の前に置く。

 

 「ほらよバーキープ、依頼のアーティファクトだ。ついでにロクデナシの排除もやって来たぞ。」

 

 「………良い仕事をした奴にしかめっ面はいかんな、今送金する。」

 

 表情を直したバーキープがPDAを触ると、スキフのPDAに報酬の電子マネーが送金される。もちろん通貨はディニーだ、チョルノービリの独自貨幣クーポンではない。

 

 ロストクにTOPSが入って来る前までは誰も彼も現金を持ち歩き取引をしていたのだが、いい加減無法地帯に大量の貨幣が流入し続けている現状を嫌った新エリー都の金融機関がPDAをアップデートさせ、電子マネーによる一律取引を可能にしたのだ。

 

 これのお陰でZONEでの金の流れがある程度分かりやすくなり、トレーダーやホロウレイダー達もわざわざパンパンの財布や金庫を抱えて取引を必要が無くなった為、今ではZONEの全勢力に受け入れられている。

 スキフとしても現在目的に向かって貯金している為、わざわざ現金を持って出歩かなくていいし、何よりかつて使い慣れたクーポンを思い起こさせる。

 

 支払いが終わった事を確認したバーキープが耳を抑えカウンターに突っ伏し始めた。

 

 「俺の店で毎日毎日毎日キャピキャピした声と音楽が鳴り響きやがってよぉ…!何が妄想エンジェルだ…妄想なら頭の中だけに留めて置きやがれってんだ…!」

 

 「いい歌だとは思うけどな……あっ勘違いするなよバーキープ、俺はアイツらと違ってロリコンじゃない。大体そんなに彼女達の歌が気に入らないならバーのマスター権限で音楽を止めればいいじゃないか。」

 

 「暗に止めさせる為に1時間毎の使用料を取るようにしたらアイツら必ず1日分工面してきやがる…!お陰で1日中あのガキ共の曲が流れ続けるもんだから歌詞を全部覚えちまったんだぞ!?気がついたら鼻歌歌ってる自分が信じられん!」

 

 項垂れるバーキープに対しスキフは苦笑いしか浮かべる事が出来なかった。

 店内で流れるポップな音楽は全て妄想エンジェルの曲だ、わざわざ新エリー都から持ち出して来たらしいレコードが延々と100rads barのレコードプレイヤーで再生されている。

 幾ら稼げるとは言え、そんなに嫌なら辞めればいいのにと思わないでもないが、そうは言ってられない事情がバーキープのようなトレーダーにはあるのだ。

 

 「TOPSの奴らがアーティファクトを採っていくせいでトレーダーの商売上がったりだしな、だからあいつらの払う使用料が貴重な収益になるんだよ。

 ロストクにデューティがいた時が懐かしいぜ、全くクリアスカイの連中め。」

 

 クリアスカイ、その言葉を聞いたスキフは眉を顰める。

 

 新エリー都の企業クリアスカイ・コーポレーション、現在のZONEの情勢を大きく変えた元凶。

 

 『紛争を停止し、謎に包まれたZONEを解明し、開かれたZONEを!』

 クリアスカイがZONEに大きな橋頭堡を築いた時に、ZONEにいた全ての勢力に言い放った言葉である。

 

 あの沼地での大仕事の後、クリアスカイは一企業としてはかなりの規模となる戦力をZONEに投入し、ZONE二大勢力(デューティとフリーダム)に対し武力と札束を突きつけて強制的に両勢力の紛争を終わらせ、ZONEの情勢を()()させたのだ。

 

 その後、境界線にほど近い地域の安全を確保し、TOPS傘下の企業の足掛かりを築き、クリアスカイの手助けで堂々とTOPSがZONEに介入していった。その過程でロストクにTOPSの人間が大勢入り込み、デューティを追い出して中立地帯へと変貌するなどの影響をZONEに齎している。

 

 TOPSの支援を受けたクリアスカイの私設警備部隊は「ZONE平和維持調停部隊」等という仰々しい───そして今後誰も呼ぶことはない───名前に変化し、境界線付近を始めとしたZONEにおけるTOPSの拠点の防衛などを担当しつつ、自分達はマラカイトを占領、そこを本部として彼らもZONE中で調査活動している。

 

 ロストクとマラカイトはそれぞれデューティとフリーダムの本拠地だった場所だ、だが今や両勢力共に別の場所───元居た世界で言うとデューティはセメント工場地帯に、フリーダムは各地を転々としている───に追いやられ、今では彼らの影はめっぽう薄くなっている。

 

 言ってる事とやってる事がまるでチョルノービリのウォードとスパークを足して割ったような存在────スキフはクリアスカイをそんな風に見ていた。

 

 クリアスカイとTOPSの本格介入の煽りを受け、トレーダー達はそれまで利用していたルートが潰される等の被害を受けているため、暇さえあればバーキープはTOPSに対する愚痴を言っている。

 

 「そんな事言ってる割にトレーダー業は安泰に見えるぞバーキープ。依頼や商品が何時でもあるし、仕事の報酬だって減ったりしてない。」

 

 「そりゃあお前、太客が一つ無くなったからって立ち行かなくなるようじゃトレーダー失格よ。

 TOPS以外にもアーティファクトを欲しがる連中はごまんといる、お前に頼んだ仕事だってホワイトスター学会からの依頼だ。」

 

 TOPSが自分達でアーティファクトを採る気なら、それ以外に売りつければいい。

 TOPSが直接商品を売りに来るなら、別ルートから安く仕入れた物をTOPSより安く売ればいい。

 

 TOPSが手を出してきた?ここはZONE(異常領域)だ、先達に敬意を払えない奴にはこの地の礼儀を教えてやればいい。

 

 ZONEを知り尽くした優秀なホロウレイダー達との繋がりを持つトレーダー達がTOPSという強力な競合相手が現れても巧みに生き抜いているのはバーキープやシドロヴィッチを見れば明らかだ。

 

 アーティファクトを持ってくる依頼がホワイトスター学会からの物だと知ったスキフは、興味本位からもう一つついでに受けた依頼の事を聞いてみた。

 

 「バンディットと一緒にいたTOPSっぽい奴を撃つ依頼も、そのホワイトスター学会からなのか?」

 

 「んなわきゃあるか、守秘義務があるから何処のどいつまでかは言えないが…、あれは身内かライバルからって所だな。」

 

 なるほど───やらかしたホロウレイダーの始末やバンディット退治に加えてやけにTOPSの人間を標的にした依頼がここ最近増えていると思ったらそんな理由があったのかとスキフは納得した。

 

 クリアスカイが二大勢力の紛争を調停し、情勢を安定させ、そのお陰でTOPSが安心して介入出来たと思われているが、現実は違う。

 

 確かにデューティとフリーダムは“表立った派手な抗争”は停止したが、その裏では目立たないようにこっそりやり合ってるのは一部のホロウレイダーやトレーダーに知れ渡っている。

 

 TOPSもそうだ、監査組織である黒枝の目すら届かぬこのZONEで大量の金やモノを運び込んでいる以上、ZONE駐留部隊のような腐敗や企業同士の衝突が起きるのは当然の事。

 利益を独占しようとする者や私腹を肥やそうとする者、厄介な同僚やライバルを亡き者にしようとする者は後を絶たない。

 

 内紛か自浄作用か他社の攻撃か、どちらにせよTOPSの誰かにとって不都合な人物を始末するのにZONEのトレーダーやホロウレイダーを使っているのだ。

 

 

 ──未だ変わらず、苦しみと悲しみが蔓延したままなのが現在のZONEなのだ。

 

 

 「結局、開かれたZONEも万人にじゃなくTOPS(金の亡者)にだけ……何処が開かれてんだか。」

 

 「どうしたスキフ、なんか言ったか?」

 

 「何も、別の依頼はあるか?」

 

 「全く最近働きすぎじゃないのか?悪いが他の奴の分までやらせる訳には行かないな。ヤンターの研究基地の方を当たってみたらどうだ?」

 

 「ヤンターはなぁ……TOPSの連中が自力で来てから予算がかなり削られたらしい。旨い仕事は無いみたいなんだ。」

 

 新エリー都のあらゆる機関や組織が共同で予算と人員を回していたヤンター研究基地だが、その中で最も金を出していたのがTOPSだ。

 それまでの研究の蓄積で研究基地に機材やTOPSから派遣された人員はそのまま残ってはいるが、予算削減のせいで前のように気前よく大金をバラまかなくなってしまったのだ。

 

 『そのお陰か、前みたいなドロドロした政治的な対立は収まったよ。今はもう少し気楽に研究に励んでられるさ。

 まぁ予算が少なくなったから君が気に入りそうな良い仕事が少なくなってしまったのだけどね。』

 

 前にサハロフに連絡を取った時にこんな事を言われた為、向こうはそれなりにやっているようだが、ヤンターで仕事が無いことには変わりない。

 

 ふと、バーキープは飲み物を提供しながら、スキフが前まで“やっていた仕事”の事を思い出し、その事について問いた。

 

 「そんなに仕事が欲しいならお前のプロキシからの仕事があっただろう。最近Xラボについて調べて無い様だがどうしたんだ?」

 

 「言ってなかったか?あいつからの仕事はおしまい、調査はもう無くなったんだ。だから今は金を貯める為に金払いの良い仕事を探している訳。」

 

 

 この世界に来てアキラと出会ったスキフは彼からXラボについて調べる事を頼まれていたのだが、最近……と言っても一、二ヶ月前の話だが、他ならぬアキラから調査の打ち切りを言い渡された。

 

 申し訳なさそうにアキラが言うには、「こちらで自分達の目的に繋がる重要な手がかりが見つかった」との事だ。勿論アキラの目的とはカローレ・アルナに関する事である。

 

 最近までアキラとリンは澄輝坪の適当観に滞在しており、ラマニアンホロウを巡る様々な騒動に関わっていた。

 その最中、カローレ・アルナが零号ホロウの暴走に──その真意や詳しい真実までは未だに不明だが──深く関わっていた事実が発覚し、ZONEのXラボが旧都陥落やヘーリオスの真実とは無関係である可能性が非常に高くなった。

 

 調査が進むにつれ兄妹は半ば予想していたが、ZONEでこれ以上調査をした所でカローレに繋がる物は無いと判断した為、ZONEで2人の為に働くスキフに調査を中止するよう伝えたのだ。

 

 やる事が(メインミッション)無くなってしまった以上、スキフは元居た世界で果たせなかった家を取り戻すというZONEに足を踏み入れた最初の目的をこの世界でやり遂げる事にした。

 

 (俺がこの世界に来た理由、ヤンターで見たあのモノリスや“夢”、沼地のミアズマで思い出したあの声。

 はっきり言って気になる事は色々あるが……新しい情報が見つからない以上、気にしたって仕方ない。

 プロキシも俺の家探しを手伝ってくれているし、金が貯まったらZONEを離れて、念願のマイホームで悠々自適に暮らすんだ。)

 

 スキフは元々ZONEに大した願望は持っていない、ZONEの解放を成し遂げたのも前の世界で様々な事を経験したが故、こっちでは何もしがらみがない以上、この世界のZONEの行く末を見守るつもりはない。

 

 プロキシからの仕事が無くなった事を知ったバーキープは腑に落ちたように眉を動かすが、自分でもXラボ関係について色々調査していた事を思い出した。

 

 「そうだスキフ、お前Xラボを調査していた時にやけにフリーダムの死体にでくわしたって言ってたよな、覚えてるか?」

 

 「あー……確かそうだったな、それがどうかしたのか?」

 

 「奴らが何でXラボで何をしていたのか気になって調べてたんだ、そしたら意外な奴に当たってよ。フリーダムの連中、そいつらの為にXラボを物色していたらしい。」

 

 「………何だ?」

 

 ZONEは新エリー都を救う──そう信じるフリーダムはアーティファクトにしか目が無い事で有名だ。

 そんなフリーダムが誰のためにXラボの情報を根こそぎ持っていったのか、調査の際に散々辛酸を舐めさせられたスキフとしては非常に気になる情報だ。

 

 「今ZONEで幅を広げているクリアスカイさ、フリーダムが結成されて暫くした時に奴らのスポンサーに付いて、その見返りにXラボをフリーダムに探らせていたんだ。

 ホロウレイダーが集まっただけの集団がオブシディアン上がりのデューティとやり合えるようになったのは、資金と武器をくれるクリアスカイのお陰だったのさ。

 ロストクを明け渡す時に一悶着あったデューティと違って、フリーダムが大人しくマラカイトを引き渡したのも、奴らがスポンサー様だったからだな。」

 

 バーキープの口から出た正体に、スキフは目を丸くするしかなかった。

 

 「待て、だとするとXラボの情報をかき集めていたのはクリアスカイって事になるのか!?一体どうして……」

 

 「そこまでは知らん、だがクリアスカイの連中が妙な連中なのは確かだ。

 奴らTOPSに加わる為にZONEの先陣を切って恩を売った……なんて言われてるが、その割には未だにTOPS入りの傾向すらない、まるで自分達から拒否しているみたいにな。それなのに自前で軍隊揃えてZONEでTOPSを守ってる上、見つけたアーティファクトすらタダで渡しているらしい。」

 

 確かに、クリアスカイはTOPSではないのに妙にTOPSの手助けをしているのはZONEでは有名だ。

 TOPSではない以上、クリアスカイに何があってもTOPSは責任を取らないのに、わざわざ一番金の掛かる軍隊を作ってZONEにおけるTOPSの拠点を守っている。多少支援を受けているがそれでもトントンに等しい。

 

 全てはTOPSに加わる為に────そう思うには余りにも自社の利益を度外視している様にしか見えず、経済的な「弱肉強食」を是とするTOPSが今のクリアスカイを身内に引き入れるとは思えない。

 それが無くとも当のクリアスカイが現状TOPSに加わろうとしていないのだ。

 

 そしてバーキープの話が本当なら、クリアスカイは誰よりも早くXラボに目を付け、ZONEの初期から介入していた事になる。

 

 クリアスカイの目的は、最初からXラボの情報だった?

 

 「………クリアスカイ、か。」

 

 元居た世界のZONEで活動していた秘密組織、それと同じ名前の企業に不審感を抱きながら、スキフはバーキープから出されたニトロフューエルに口をつける。

 

 ZONEのニトロフューエルは強いアルコールが多分に含まれているタイプなので、下がビリリと軽く痺れていく感覚をゆっくり味わう。

 100rads barの店内を満たす妄想エンジェルの音楽と、配信を眺めるホロウレイダー達の歓声を耳から耳へ受け流しながら、思わぬ所から見つかったXラボの手がかりをどうするかと考える。

 

 クリアスカイの本部───マラカイトを捜索すれば何か手がかりが見つかるかもしれない。

 とは言えあそこは今や要塞と化しており、許可なく近づこうものならクリアスカイに八つ裂きにされる事間違い無し……とは言え、スキフの能力なら忍び込めるか。

 

 だがアキラからの依頼はもう無い、自身も家を買うために毎日各地のトレーダーからの依頼を熟している。

 現在のZONEのあちこちで幅を利かせる大勢力相手に喧嘩を売れば、その後の活動に支障をきたすだろう。取り敢えず現状は保留しておくか。

 

 頭の片隅に置いておこう────そう思い、これを飲んだらワイルドテリトリーのバンディットや反乱軍の拠点を潰しに行こうと、ニトロフューエルを一気に飲み干す。

 酔いは回るが、ウクライナのウォッカに比べればこんなもの子供のジュースに等しい。

 

 

 空になったコップをバーキープに返し、勘定を払って立ち上がろうとした時、スキフのPDAに着信が入った。

 

 「んー…?」

 

 誰かから連絡が来る当ては無かった筈……とスキフがPDAを見ると、その相手は「プロキシ」と出ていた事にスキフは驚いた。スキフの連絡先を知るプロキシは唯一人───アキラだ。

 

 沼地での仕事の時、シドロヴィッチから自分のPDAを受け取ったアキラは、ついでにスキフと連絡先を交換したのだ。

 これにより、ZONEの中にいるなら大抵の場所で連絡を取り合える。

 

 PDAにはZONEの外に繋がる機能は無い、つまり…アキラは今ZONEにいると言う事になる。

 

 沼地で別れて以降、久々にZONEにやって来たのかと思い、スキフはすぐに応答した。

 

 「よぉプロキシ、久しぶりだな。こっち(PDA)にかかってくるって事は今ZONEにいるんだろ?誰かと一緒に来たのか?」

 

 『えっと……スキフさん……で会ってるよね?』

 

 「…………お前誰だ、プロキシじゃないな。」

 

 通話口から聞こえてきたのは、若い女の声。

 一気に警戒心を高めたスキフの声が厳しい物になる。通話先の女はアキラのPDAを奪った可能性があるからだ。

 

 明らかに警戒されていると知った女は慌てて弁明をする。

 

 『違うの!怪しいものじゃなくて、というか私のコト……分かるわけ無いよね一回会ったきりだし……』

 

 「……もう一度聞くぞ、お前は誰だ。」

 

 『───リン、アンタを雇ったお兄ちゃんの妹で同じプロキシ。一度だけスキフさんがお店に来た時に会った筈だよ。思い出した?』

 

 スキフの記憶が呼び起こされる。邪兎屋に連れられ、ビデオ屋で初めてアキラと出会った時に共にいたもう一人のプロキシ。

 邪兎屋とアキラを連れてZONEに足を踏み入れる時も、道中のホロウの案内をしてくれた人物だと思い出した。

 

 「思い出した……お前プロキシの妹か!悪い、プロキシのPDAから聞き覚えのない声が聞こえてきたから警戒してな……待て、じゃあアイツはどうした、お前はZONEに来てるんだろ?」

 

 リンがZONEに来てるならアキラはどうしているのか、そもそも何故アキラのPDAでリンが連絡を取っているのか。

 

 リンは僅かに震えた声で、スキフに事情を話した。

 

 

 

 

 『お兄ちゃんが、誘拐された。』

 

 

 喉が詰まるような、必死に絞り出したような声で伝えられた事実に、スキフの顔が険しくなる。

 

 

 『もう1週間は行方が分からないの……でも、数時間前に、お兄ちゃんがZONEに連れてかれたって情報が届いて……私、居ても立っても居られなくて。』

 

 「今何処にいる。」

 

 『前にお兄ちゃんに教えてもらった所…コルドン前哨基地って所にいる。』

 

 

 スキフはすぐさまバックパックを開いて武器弾薬その他アイテムの状態をチェックする。

 ASラヴィナとガウスガン(メインウェポン)の調子はOK、サイドアームも問題なし、残弾及び回復キットに抗侵食除去薬は十分。

 

 

 『他に助けは呼んだけど、その人達はZONEの事は分からない。だから……』

 

 

 縋るようなリンの言葉を最後まで聞く前に、既にスキフは動き出していた。

 

 

 『スキフさん、力を貸して。』

 

 「今すぐ向かう、待ってろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 通話が切れ、100rads barを飛び出す前に、スキフは配信を眺めているリヒターの首根っこを掴む。

 

 「リヒター手を貸せ、お前の力が必要になる。」

 

 「な…何だよスキフ、まだ配信が終わって───」

 

 「録画で済ませろ、非常事態だ。」

 

 「待って!せめて妄想エンジェルの新曲発表だけ聴かせて!?それだけはリアタイするってモーソー族として誓ったんだぁ─────」

 

 怖い顔にドスの効いた声で喋るスキフを前にリヒターは抗う事が出来ず、「羽ちゃん!羽ちゃぁーん!」と情けない声を上げながら地上への階段を引きずられていった。

 

 

 

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