Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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45.行方知れず

 

 

 

 リンがスキフに連絡を入れる数時間前……

 

 ────六分街

 

 休業中の看板が吊るされたビデオ屋「Random Play」の入口前に、袋を抱えた治安官の女性が暗い表情で立っていた。

 治安官はかれこれ十分もの間ドアの前で悩んだ末に、意を決してドアをノックする。

 

 暫くすると、ゆっくりとリンが扉を開けて女性治安官「朱鳶」を出迎えた。

 

 「……いらっしゃい、朱鳶さん。」

 

 「リンちゃん、大変な所すみません……今日は、公務では無く、貴方の友人として来ました。」

 

 そう言って朱鳶はリンに袋を渡す。その中には食料や栄養剤が入っていた。

 リンの顔はやつれ、目にクマが出来ている。

 明らかにここ数日睡眠を取らず、食事すら疎かにしている生活を物語っている。

 

 無理した笑みを浮かべてリンは袋を受け取った。

 

 「ははは…ゴメンね、心配かけさせて。友人として来たって事は……お兄ちゃんの行方について進展は無いみたいだね。」

 

 リンの言葉に朱鳶の唇が固く結ばれ、その反応を見てリンはやっぱり──と落胆してしまう。

 その姿に自らの力不足を呪いながら、1週間前に六分街を襲った“ある事件”の捜査状況を説明する。

 本来民間人に話すことは禁じられているが、目の前のリンは事件被害者の親族だ。

 例え上層部からの命令であっても、朱鳶はリンに説明する必要があると思っている。

 

 「六分街の“集団誘拐事件”の捜査自体は進んでいます。被害者の大半は既に発見、救助され犯人も殆ど捕まりました。

 まだ救助されていない他の被害者も、行方が判明しており救助されるのも時間の問題です………ただ一人、アキラくんを除いて。」

 

 

 1週間前、夜の六分街全域を停電と強力なEMPが襲い、その間に数十人の民間人が多数のギャングやホロウレイダーに誘拐されるという事件が起きた。その被害者の中にアキラがいたのだ。

 

 新エリー都を襲った大規模な誘拐事件、すぐさま治安局が動き、治安システムを無力化されたとは言え、現場に残された数多くの証拠や目撃証言から多数の犯人の逮捕と被害者の救出が現在、順調に進んでいる。

 

 ───アキラ以外は。

 

 そう、アキラだけ、彼だけが未だ手がかり一つ見つかって無い。

 他の誘拐犯が稚拙な方法で他の民間人の誘拐を実行したのは捜査で判明しているが、アキラだけ一切の証拠も目撃者も見つからないのだ。

 アキラを担当した犯人のみ、巧妙な計画と優れた能力によって、証拠一つ現場に残さず誘拐を実行したかのように。

 

 誘拐被害者に共通点は全く無く、捕まった犯人達も無数の仲介を挟んだ上で、ただ「指定した人間を誘拐し、適当な場所に運べ。」と命令されただけと判明している。

 

 このような状況証拠から、今回の誘拐事件の本命はアキラで、残りは大規模な陽動ではないかとリンと朱鳶は直感で感じ取っていた。

 何せアキラは伝説のパエトーンの片割れ、対ホロウ六課や雲嶽山とも懇意にしているプロキシにして、新エリー都を襲った数々の重大事件に望む望まないに関わらず飛び込んで来た人物だ。

 

 最近では衛非地区を巡る讃煩会との決戦もあり、アキラを──パエトーンを狙う存在が居てもおかしくはないと、リンは推測している。

 

 

 集団誘拐事件以外にも、六分街を襲った停電と電波障害による被害が大きく、手がかりが一切無いアキラの捜索を治安局は後回しにしている。

 唯一、朱鳶や特務捜査班の面々だけは捜査の合間を縫いながらアキラの行方を捜しているが、現在成果は出ていない。

 

 リンもアキラに繋がる手がかりを探してこの1週間、不眠不休で調査をしているが彼女に積み重なるのは手がかりではなく、目の隈と疲労だけが蓄積しているのが現状だ。

 

 そんな彼女を気遣い、事件が起きて以降ちょくちょく様子を見に行っている朱鳶ではあるが、その度にやつれていくリンの姿と、何も成果を持ってこれない自分に歯がゆい気持ちばかり湧いてくる。

 ならばせめて、碌な物を食べてないであろうリンの為に食べ物を持ってきたのだ。

 

 「それを食べて、よく寝て、体調を整えてくださいね。アキラくんが帰って来た時、今のリンちゃんの姿を見たらきっと怒るでしょうから。」

 

 「そうだよね……ありがとう朱鳶さん。」

 

 「では、捜査の続きがあるので私はこれで。待ってて下さい、絶対にアキラくんの行方に繋がる手がかりを見つけてみせますから。」

 

 そう言って朱鳶は仕事に戻ろうとする……が、ビデオ屋の扉を閉めようとするリンの暗い表情を見て、足を止めた。

 

 「リンちゃん。」

 

 店の扉が閉められる直前、掛けられた言葉にリンの手が止まり、朱鳶の顔を見上げる。

 

 「アキラくんが誘拐されたのはリンちゃんのせいじゃありません。この事件の責任は、無実の人々を攫った誘拐犯と、解決出来ない私達治安官にあります。

 どうか、自分を責めないで下さい。貴方は何も悪くないのだから。」

 

 「………うん。」

 

 朱鳶の慰めるような、自分に対して軽く怒っているような表情と言葉を受け止めながら、リンは扉を閉めた。

 休業中が為に静まり返った店の中で朱鳶が渡した袋を開けると、ラップに包まれたおにぎりとプラトレーに詰められた様々なおかずが入っていた。

 

 「朱鳶さんの手作りだ……」

 

 1つおにぎりを手に取り、軽く頬張る。

 あまりにも優しい味に、思わず泣きそうになってくる。

 突然アキラを奪われて憔悴しているであろうリンを想って、忙しい捜査の傍らわざわざ作ってくれたのだ。

 

 残りはソファで食べよう───そう思って裏手の工房に向かう途中、Fairyが話しかけてきた。

 

 『提案。食事を終えた後は、自室にて5時間以上の睡眠を取ることを推奨致します。』

 

 「Fairyまで……私そんなに酷い顔してるかなぁ。」

 

 『肯定。現在助手2号の顔の状態は、ブラック企業にしがみつく、長時間労働を終えた後のサラリーマンの顔より更に20%以上「酷い顔」であると申し上げます。鏡をご覧になって自らの状態を確認して下さい。』

 

 つまり、普段パエトーン兄妹を支えるスーパーAIは「これ以上マトモに休まないならブッ倒れるぞ。」と警告しているのだ。

 

 「ほんと、アンタは遠慮って物が無いよね。私のこと気遣ってるのは分かるけどさ。

 でも…どうせ眠れないなら、少しでもお兄ちゃんを探さないと…私もやらないといけないから。」

 

 今のリンはここ1週間マトモに眠ることが出来なくなっている。そんな状態でアキラを探そうとするリンを無視し、Fairyは続けた。

 

 『朱鳶の言う通り、マスターが行方不明となってしまった当該事件に関しては、助手2号の非は一切ありません。』

 

 「………違う、私が“あの時”バカみたいに寝ていなければ、お兄ちゃんと一緒に入れば、お兄ちゃんは────」

 

 『仮に当時の夜にマスターと助手2号が共に夕食の買い物に出かけていた場合、共に誘拐されていた確立は95%を超えます。

 更に、助手2号が自宅にて起床していたケースの場合、停電及びEMPによる店の被害の対処に追われ、マスターの誘拐に助手2号が単独で気付き、対応出来た可能性は著しく低いです。

 結論。当該事件における助手2号の過失は一切無く、私のような優れた人工知能が無力化されていた以上、どの可能性に於いてもマスターの誘拐を防ぐ事は状況的に不可能であったと断定します。』

 

 「ふぇ…Fairy?」

 

 たまに自分が失敗した時の誤魔化しよりも早口で捲し立てるFairyに、リンは少し呆気に取られてしまう。

 

 『助手2号、現在貴方はマスターが誘拐された事による心理的なストレス及び、睡眠不足と欠食による身体の衰弱によって正常な思考能力を保つ事が出来ておりません。

 今すぐ、直ちに、早急に寝室へと向かって下さい。貴方には休息が必要です。

 例え眠れなくともベットに寝ることによって─────』

 

 「わ…わかった!わかったから!これ食べたら寝るから落ち着いて!?」

 

 抑揚が少ない声なのにどんどん怒気を含ませてくるFairyにたまらず自室に戻ったリン。

 自室で朱鳶の料理を食べ終わり、久々の満腹感を味わえたお陰か僅かに眠気がやって来る。

 

 ベットに横になり、スマホでこの1週間でFairyが集めた集団誘拐事件に関する情報を軽く見直す。

 

 六分街を襲った事件は朱鳶が言った通り、アキラに関する手がかりだけが存在しなかった。

 他になにか関連性がありそうな、ここ最近起きている集団失踪事件もFairyが見つけて来ているので、スマホでそれを調べてみる。

 

 「郊外有数の走り屋集団「ムナイバイラ」のメンバーほぼ全員が突如として姿を消す……同時に彼らの縄張りに暮らす人間も消えてしまった……

 カンバス通り等の貧困地区で多数の住民が失踪する事件が多発……でも殆どが数日後にひょっこり戻って来た。彼らには失踪時の記憶が無い……」

 

 もしかしたら同じ人物、或いは組織がこうした事件を起こしたのではと勘繰っているが、残念ながら繋がりは一切見えてこない。

 被害規模から黄金の日の時に大きな騒動を起こそうとした謎のAIである「Youkai」が思い当たったものの、FairyによるとYoukaiが関与している可能性は低いらしい。

 

 あまりにも証拠が見つからなさすぎて逆に何でもかんでも怪しく見えてしまったので、一旦スマホを閉じることにする。

 

 「…………お兄ちゃん。」

 

 横になりながら、1週間前、アキラが消えてしまった日の事を思い出す───思い出してしまう。

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 あの日は何の変哲もない、平和な日常だった。

 この時期にしては妙に暖かい日だったせいか、夕飯を前にして私は非常に眠かった。

 だがお腹は空いている、夕飯の準備をしたかったが襲いかかる眠気がそれを許さなかった。

 

 どんどん遅くなる夕飯、お兄ちゃんは仕方ないという表情でソファでうつらうつらと船を漕ぐ私に言った。

 

 『リン、そんなに眠たいならもうベットに行ったらどうだい?』

 

 『ううん……おなかすいたぁ……』

 

 『もうこんな時間だ、食べるにしても何処かで買ってきた方がいい。一緒に行くかい?』

 

 『ねむいぃ……けどいくぅ……』

 

 『やれやれ、君を連れて行ったら道路の真ん中で寝てしまいそうじゃないか。僕が買ってくるよ、何か要望は?』

 

 何を頼んだのか覚えてない。

 でもお兄ちゃんは何時も私に向けてくれる笑顔で了承し、夕飯を買いに出かけてすぐ、睡魔が限界に達した私はソファに倒れてそのまま寝てしまったのだけは覚えている。

 

 

 ─────次に目を覚ましたのは、EMPによる機能停止から復旧したFairyが、必死に私を起こそうとしていた時だった。

 

 

 私が眠って少しした後、夜の六分街を停電とEMPが襲い、暗闇に包まれた中で大勢が誘拐された。

 後の治安局の発表で、被害者の中にお兄ちゃんの名前が現れた時は夢の中にいるんじゃ無いかと思ったほどだ。

 

 Fairyがお兄ちゃんの誘拐に対処出来なかったのもEMPのせいだ。

 六分街の電力そのものがダウンし、H.D.Dシステム用の非常用電源を使って何とかFairyは稼働出来ていたが、軍用クラスに匹敵するEMPによって六分街の治安システムごとFairyが機能停止に追い込まれた。

 Fairyだけではない、イアスやトワ(18号)レム(06号)までEMPの影響が及び、今現在に至るまでエンゾウさんの所で修理中、ビデオ屋が休業しているのもその為だ。

 

 六分街の機械人みんなが被害を受け、機械人であるティンさんやエイファさんも、身体に受けたダメージからお店の休業を余儀なくされている。

 

 みんなが大変な目に遭っている間、お兄ちゃんが連れ去られたのにも気付かず、私はバカみたいに眠っていた。

 

 Fairyの言う通り、私が起きてたからと言って誘拐を防げた訳では無いだろう。最悪、誘拐の被害者が1人増えるだけだ。

 

 それでも、何か出来たんじゃないかと後悔している。

 

 あの日から1週間、マトモに眠ることが出来なくなった。

 

 あの時眠らなければ────そんな思い込みが影響しているのか、目を瞑ってもなかなか眠れず、寝られたとしてもすぐに起きてしまう。

 

 そう言えば、朱鳶さんの持ってきた袋の中に、睡眠薬みたいな物が入ってたな─────

 

 手を伸ばして袋を漁る。

 ビタミン剤…何かの漢方…あった、睡眠薬だ。

 綺麗な文字で睡眠薬の箱に「1日1錠!用法を守る事!」と書かれたメモ用紙が貼ってある。

 

 これを飲んだら目を瞑ろう。長く眠れる筈だ。

 

 そう思った瞬間、スマホが鳴った。

 

 誰からだろうと、スマホに表示された発信者をみた瞬間、僅かに生まれつつあった眠気が完全に消え失せた。

 

 発信者は、お兄ちゃんだった。

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 「っ!? もしもしお兄ちゃん!!お兄ちゃんなの!?」

 

 誘拐されたアキラからの連絡に、ベットから飛び起きたリンはすぐさま電話を取った。

 彼女の脳裏には2つの可能性がせめぎ合っている。

 1つは本人、もう一つは誘拐犯からだ。

 

 どちらにせよ、アキラが今どこにいるのか、今どんな状態なのか、その手がかりに繋がる筈だ。

 

 『……聞こえるかい?キミがもう一人のパエトーンの妹さんで合ってるかな?』

 

 アキラの声ではない、後者───相手は誘拐犯、或いはその関係者であるとリンは取り敢えず判断した。

 

 「アンタ誘拐犯の仲間…!?お兄ちゃんを何処にやったの…!」

 

 『お兄さんを誘拐されたキミの怒りは最もだ、だけどボクも危ない橋を渡っている。全部説明したいけど長々話す時間はない、だからキミからの質問はあまり答えられない。』

 

 「………わかった。」

 

 男とも女ともつかない、電子加工されたような声で語る電話口の相手に怒りを感じつつも、情報を逃さない為にリンは冷静さを取り戻し、相手の言う通りにした。

 リンが納得してくれた事に察しつつ、相手は話を続ける。

 

 『単刀直入に言おう、キミのお兄さんはZONEにいる。』

 

 「ZONE!?」

 

 リンは驚く他なかった。()()()に現れた、ホロウとは違う異常領域。衛非地区に行く前の少しの間、兄妹がXラボを調べる為に深く関わろうとした地域。全く持って予想だにしなかった場所にアキラがいると言うのだ。

 

 『誘拐犯は“ある計画”の為にキミのお兄さんを誘拐して、ZONEに連れ去った……ボクはその居場所を知ってる。』

 

 「ZONEの何処にいるのか教えて!すぐに……」

 

 『教えるには条件がある。』

 

 相手の要求にリンは思わず身構える。

 まさか映画等でありがちな、1人で来いとか言うつもりじゃ────

 

 『パエトーンは虚狩りみたいな人達と親しい関係にあるって聞いたよ。ZONEに来る際、虚狩りかそれに近しい実力の人達……とにかく強い仲間を連れてきて欲しいんだ。』

 

 「仲間を連れて来るの?1人で来いとかじゃなくて…?」

 

 拍子抜けしたリンに対し、相手は呆れたような返答をした。

 

 『キミは1人でZONEに来て1人でパエトーンを救出するつもりだったのかい……? 相手は強力だ、お兄さんを助けるには実力者が必要になる。それが奴らの計画の阻止にも繋がるんだ。』

 

 「待って、誘拐犯とアンタって一体どんな……」

 

 『……残念だけどもう時間だ、最後に今のお兄さんの状況と、ZONEに来た時にボクの仲間と合流出来る座標を送る。彼はお兄さんの救出に協力してくれる人だ。ZONEでの合流地点に着いたらまた連絡するよ、なるべく早く……数日以内に来てくれるとありがたい。』

 

 その言葉を最後に謎の人物との通話が切れ、同時にリンのスマホにデータが送られてきた。

 

 そこには、合流地点の座標と、何処かの部屋に監禁されているらしきアキラの写真。

 誘拐され、自由を奪われた兄の姿を見て、リンは誘拐犯に改めて怒りが湧いてくると同時に、一応アキラが無事である事に安堵した。

 

 リンはすぐさまFairyに先程の電話について調べさせる。

 

 「Fairy、さっきの電話の発信元を辿れる?」

 

 『申し訳ありません助手2号。相手は高度かつ複雑な暗号回線を使用しており、厳密な特定は不可能です。

 しかし、大まかな解析によると、ZONEの何処かから助手2号のスマホに回線を繋げた事は確かであると思われます。』

 

 「そう……やっぱり、ZONEにお兄ちゃんがいるってのは本当かもしれない。全然信用出来ないけどさ。」

 

 『肯定。助手2号を手中に収める為の、罠である可能性も考えられます。』

 

 ほぼ一方的に伝えるだけ伝えて通話を切った相手なのだ、幾らアキラの情報を持ってきたとは言えそう簡単に信用出来る訳がない。

 

 とは言え、他に手がかりが無い状況で現れた一縷の希望。

 例え罠だったとしても、これに縋らない手は無かった。

 

 「仲間を連れてこいって言ってたよね……?」

 

 『相手は虚狩りか、それに準ずる戦力を連れてくることを要求していました。

 先程の電話が罠でないと過程した場合、誘拐犯はかなりの実力、或いは戦力を保有していると考えられます。』

 

 リンは考える。パエトーンの知り合いは皆実力者が多いが、実は心配をかけさせたくないというのもあってアキラの誘拐を知っている者達は一部に限られている。

 

 誘拐事件の捜査をしている特務捜査班。

 市長経由で誘拐の事を伝えたヴィクトリア家政。

 郊外で情報収集を頼んでいるカリュドーンの子。

 いつの間にかアキラの捜索に加わっていたビビアン。

 後は────

 

 事情を知っている者達の中で虚狩り並みの力を持ち、尚かつすぐに駆けつけてくれそうな者達と言えば……

 

 リンはスマホを手に取り、ノックノックである人物へと連絡を入れた。

 

 「もしもし師匠!今大丈夫!?頼みたいことがあるんだけど!」

 

 『どうしたリン、3日前に話した時と随分と様子が違うじゃないか、さては調子を持ち直したか?』

 

 「えっ?あっ…まぁ何とか体調は大丈夫だよ!」

 

 リンが頼ったのは雲嶽山──その現宗主である儀玄(イーシェン)だ。

 衛非地区にいる間、雲嶽山の門弟となった兄妹にずっと力を貸してくれた人物で、正式な虚狩りではないがその実力は紛うことなき虚狩り級の能力を持つ女性だ。

 アキラが誘拐された時に、市長と並んでリンが真っ先に助けを求めた人でもある。

 

 アキラが誘拐された後、目に見えて精神的に不安定になりつつあった愛弟子の調子が、ある程度以前と同じ様に戻りかけていると思い内心安堵する儀玄。

 果たして何用か──ある程度中身を予想しつつ、リンに要件を問いた。

 

 『今スコット前哨基地に来ていてな。それで何の用だ? お前さんの慌てようからして、アキラの件で何か進展があったと見えるが。』

 

 「実は────」

 

 リンは先程の通話の事を全て話した。

 話が進むにつれ、電話だと言うのに儀玄の目がどんどん鋭くなっていくのが分かる。

 その威圧感はスコット前哨基地で偶々儀玄の側を通りかかった防衛軍の兵士が竦み上がってしまうほどだ。

 

 『なるほどな。その“相手”が敵か味方かわからんが、アキラを助けたくば実力者を連れてZONEに来いと。お前さんを疑う訳じゃないんだが、本当にZONEにアキラがいる確証があるのか?』

 

 「少なくとも通話の発信元はZONEにある事は分かってる。それに治安局があれだけ犯人や誘拐被害者を見つけ出せているのに、お兄ちゃんだけ見つからないのはZONEのような場所に連れて行かれたからだと思うんだ。」

 

 一理あるな、と儀玄は考える。

 治安局だけではなく雲嶽山の伝手や市長や郊外の覇者の協力を得て捜査網を敷いているのに手がかり一つ見つからないのは、誰も知らない、誰も捜索していない場所があるのだ。

 そんな場所であるZONEからリンに直接情報が来たのだ。これを逃す訳にはいかない。

 

 「だから師匠…!私と一緒にZONEに来て欲しいの!やっと掴んだお兄ちゃんの手がかりを無駄にしたくない!」

 

 弟子に懇願されずとも最初から答えが決まっていた儀玄はリンを安心させるように伝える。

 

 『そう言われんとも大切な弟子を救う為なら何処にだって行ってやるさ。ZONEに足を踏み入れた事は無いが………まっ何とかなるだろう。』

 

 「ありがとう師匠!じゃあ───」

 

 『まぁ待て、さっきも言ったが私は今スコット前哨基地にいる。零号ホロウでエーテル活性が上がったからエーテリアスの掃討作戦の支援を頼まれてな。そっちを先に済ませてからお前さんに合流するつもりだ。

 時間は掛けん、速攻で終わらせてすぐに向かう。福福と播をそっちに向かわせるが私が来るまで()()()()()?』

 

 「わかった、()()()()からね師匠!」

 

 電話が終わるとリンはアキラの部屋に向かい、収納からアノマリー探知機とPDAを引っ張り出す。

 以前ZONEからアキラが持ち帰った物で、これらが現地では必須アイテムなのは知っているが、それ以外の知識はかなり少ない。

 

 アキラと違ってリンはZONEに足を踏み入れた事はないし、アキラからZONEの中の話を聞いただけに過ぎないのだから。

 

 前回は市長のお陰で色々な道具が揃えられたと言っていたが、今回はそうも行かないだろう。

 

 つまり、リンにとって殆ど未知の世界に、不十分な装備で飛び込む事になるのだ。

 

 『助手2号、ZONEでは特殊な磁場により、外部通信が可能な設備無しでは私の支援は不可能です。もう少し休息を取り、コンディションを十分に整える事を推奨致します。』

 

 「大丈夫だよ、朱鳶さんの料理食べてから元気いっぱいだもん。」

 

 Fairyに心配は要らないと気丈に振る舞うリン。

 実際には睡眠不足によって思考がぼんやりし、倦怠感が全身を覆っているが、そんなものに構ってる暇はない。

 

 「絶対にお兄ちゃんと一緒に帰ってくるから。それまで家で待っててね、Fairy。」

 

 先程まで疲れ切っていた目は、最愛の兄を救い出すという決意に満ちた目に変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンとの通話を切った儀玄はそのまま自身の一番弟子である「橘福福」に連絡を入れる。

 

 「福福、私だ。リンからアキラの行方に関する情報が………落ち着け福福、リンによるとアキラはZONEにいるやもしれんとの事だ。

 私はこれから零号ホロウに入らなきゃならん。お前さんと播は六分街のビデオ屋に行ってリンと待ってろ、こっちが終わったら“全員で”ZONEに行くぞ。

 前にアキラの行方を占ったとき凶兆が出た、ZONEにいるとすれば嫌な予感がする。」

 

 「儀玄殿、間もなく掃討作戦が始まります。」

 

 「ああ、すぐに行く……リンの所に着いたらあいつからZONEの話を聞いておけ。私達よりはZONEの事を知っているからな。」

 

 電話を切り、スコット前哨基地の防衛軍兵士に連れられ零号ホロウへと向かう儀玄。

 時間はかけない。最初から全力を出してエーテリアスを殲滅し、さっさと仕事を終わらせる。

 

 既にこの仕事が終わった後の事を考えながら、儀玄は零号ホロウへと入って行く。

 

 

 そして、異例な程のスピードで掃討作戦を終わらせ、活性化が収まった零号ホロウを出た後、儀玄のスマホが次々と通知を鳴らす。

 

 

 目を丸くして何事かと内容を見ると、ほぼ全部福福からの「お弟子さんがお店にいません!スマホも置きっぱなしです!」というDMが沢山。

 

 

 まさかと思い、ノックノックのリンのアドレスを覗くと、儀玄が零号ホロウに入る寸前に1件だけDMが入っていた。

 

 

 その文面には、「ZONEの入口にあるコルドン前哨基地という場所に集合で!そこで待ってます!」と書かれていた。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 ────コルドン

 

 リンの助けを聞いてロストクから全速力の強行軍で走って来たスキフとリヒター。

 ミュータントを突破し、バンディットを無視し、アノマリーを飛び越え、ZONE新記録を樹立しそうなタイムでコルドンへと到着した。

 

 「Давай(走れ)リヒター!遅れてるぞ!」

 

 「ひぃ…ひぃ…!なんか凄いの(サンダーベリー)持ってるお前と違ってこっちは「バッテリー」しか持ってないんだよ!」

 

 ひぃこら言いながらラベルにボンプが描かれた「Ehn-ne-Stopエナジードリンク」──有識者曰くボンプ用濃縮冷却液に味が似ているという──を走りながら飲み干してスタミナを回復させるリヒター。

 

 妄想エンジェルの配信中に100rads barから無理やり連れ出された時はそれはもう顔からエミッション(光熱放射)を吹き出すが如く怒り狂っていたが、アキラの危機を聞くと態度が180°豹変。

 そんな事なら早く言えと、共にコルドンまでの強行軍についてきてくれたのだ。

 

 TOPSが入り込んで来てから悪名高い鉄橋の防衛軍小隊は居なくなった為、このコルドンの一本道で足止めを食らう物は殆どない。

 

 コルドンに入ってからそう時間も経たない内に、ルーキー村の近くへと辿り着いた。

 流石にスタミナが限界なのか、リヒターが膝に手を当て足を止めてしまう。

 

 「ちょ……!スキ……!きゅうけ……!」

 

 「……そうだな、少し休むか。」

 

 息を切らしまくるリヒターを見て流石に小休止を挟むことにしたスキフ。

 2人して息を整えていると、スキフのPDAに連絡が入る。

 リンからと思い取り出してみるが、相手はなんとシドロヴィッチからであった。

 

 『よぉストーカー。お前今ルーキー村の近くに来てるみたいだな、リヒターも一緒に。』

 

 普段地下バンカーに籠もっているくせに何故こちらの存在を察知出来るのだろうか。

 監視カメラか何かあるんじゃないのかと思いつつ、シドロヴィッチに話してる暇はないと先んじて言っておく。

 

 「シドロヴィッチ、悪いがお前の仕事を引き受けてる余裕は無い。また今度にしてくれ、こっちを待ってる人がいるんだ。」

 

 『チッ…!まさか前哨基地で待ち合わせとは言わねぇよな? もしそうなら運が悪かったな、今あそこに近づかない方がいい。』

 

 「なんで知って……待て運が悪いって何のことだ?」

 

 コルドン前哨基地でリンと落ち合う約束を当てて見せたのは驚いたが、一体全体運が悪いとはどう言う事なのだろうか。

 舌打ちまでしてイライラしているであろうシドロヴィッチが何があったのかをスキフに教えた。

 

 

 

 

 『2時間くらい前に前哨基地をバンディットの大群が襲撃して大戦争が起きたのさ、今はもう終わってるが。

 双眼鏡で基地の方を見てみろ、駐屯部隊の連中が皆殺しにされて血の海だ。』

 

 

 

 

 信じられない情報に、スキフと横で聞いていたリヒターが目を見合わせる。

 

 2時間前、通話を終えて丁度ロストクを出た辺りだ。

 コルドン前哨基地、リンがスキフ達を待つ場所だ。

 

 そこが、バンディットに襲撃され、壊滅した?

 

 考えうる限り最悪の事態を前に、疲れ果てたリヒターを置いて、スキフは前哨基地へと駆け出した。

 

 






 ZONE豆知識
 コルドンの軍基地はよく壊滅する
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▼1:名無しのヘレティック▼ 私がニケの世界に転生してから既に90年ほど経っています。アーク近郊で何が起こらないかと彷徨っているのですが、これは私が何かいけないのでしょうか?▼※ニケに転生した前世の記憶持ちのインなんとかさんが指揮官に一目惚れして名誉カウンターズ兼専属ニンジャみたいになるお話。原作未プレイでも読めるように書いていきます。▼


総合評価:3214/評価:8.88/連載:5話/更新日時:2026年04月25日(土) 20:37 小説情報


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