Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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46.ガスマスクとストーカーとハンターと

 

 

 

 ZONEに誘拐されたアキラを救わんとスキフに助けを求めたリン。

 彼女と合流する為、ZONEへの入口の一つであるコルドン前哨基地にリヒターと共に急いで向かったスキフであったが、シドロヴィッチから前哨基地がバンディットの軍勢に襲われたと言う報告を受ける。

 

 リンの安否を確かめる為、疲れ果てたリヒターを置き去りに前哨基地へと足を進めたスキフであったが……

 

 「У, мать вашу(マツオバショー)…!誇張抜きで皆殺しかよ…」

 

 少なくとも20人は詰めていたであろうコルドン前哨基地は、ZONE駐留部隊の防衛軍兵士とバンディットの死体が折り重なる死屍累々の有様であった。

 

 血の匂いに引き寄せられた数体のブラインドドッグが死体を貪り食っていたのでASラヴィナで追い散らし、血で染まった基地の敷地内に入ると、コルドンを通る道路とは逆側、東の森林からバンディットが突撃したのが分かった。

 

 基地を囲む防壁の一部がRPGを撃ち込まれたかのように崩落していたのでそこから雪崩込んだのであろう、崩落した防壁近くに多数のバンディットの死体が積み重なっている。

 恐らく防衛軍の兵士達は即席でキルゾーンを形成して迫りくるバンディットを迎え撃ったのだ。

 

 とは言え、結局は突破されてこうして基地の内部で乱戦が繰り広げられたのが敷地内に広がる死体を見れば分かる。

 その死体の中に、どう見てもバンディットの仕業に見えない死体が多数あった。

 

 「………妙な死体が結構あるな。」

 

 「マジか、マジでバンディットが軍事基地落としたのかよ!?クズネツォフの野郎恨みでも買いやがったか…?」

 

 ようやくスキフに追いついたリヒターがコルドン前哨基地の惨状を前に驚きを隠せないでいた。

 たかがバンディット程度が規模が小さいとはいえ防衛軍の基地を総攻撃して陥落させるとは考えられなかったのだろう。

 

 「本当に“バンディット”の仕業か?リヒター。」

 

 「……?どう言うことだよスキフ。バンディット共の死体があるのに、コイツら以外がやったってか?」

 

 だがスキフは防衛軍の兵士の死体を検分して別の可能性をリヒターに提示する。

 1つは()()()()()()()()()()()()()()ような裂傷を負った者。

 もう1つは()()()()()()()()()()()()()()()ショック死したらしき者。

 そして最後に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()者。

 

 とてもじゃないがバンディットの粗末な武器や実力で殺されたとは思えない。

 

 「ここでくたばってる連中の武器じゃこんな傷は付けられない。それに防衛軍の基地を直接襲う度胸のあるバンディットなんか今までいなかったろ? こいつら別の誰かに率いられてた可能性が高い。」

 

 いかにZONE有数のロクデナシと言えど、少人数の哨戒部隊ではなく軍事基地そのものを攻撃する程バンディットは無謀な連中ではない。奴らも結局の所、雑多なギャングに過ぎないからだ。

 

 だが元居た世界では主に傭兵と呼ばれる者達が戦闘前の露払いにバンディットを使う事が多々あった。

 ならばこの襲撃も、特殊な装備を持つ“何者か”に唆されてやったのではと、スキフは推測している。

 

 「とにかく……生存者が居るか探せ。プロキシの妹が最優先だ。」

 

 「所でスキフ、プロキシの妹さんの顔知ってるのか?」

 

 「実は顔を覚えてないんだ、でも防衛軍やバンディットじゃない女を探せばいいだろう。」

 

 1年近く前に一回だけ会って僅かに顔を見た程度。その後交流も無かったのだ、流石にリンの顔はぼんやりとしか分からない。

 とは言え防衛軍やバンディットとは違う格好をしているだろうからそこは問題ない───彼女が見つかればの話ではあるが。

 

 リヒターと手分けして生存者を捜索する。

 兵舎の隣にある車両の駐車スペースに軍用車ではない車が置いてあったのを見つけた。

 「Random Play」の文字が車に貼り付けてあったのでスキフはプロキシ兄妹が経営するビデオ屋の社用車だと判断する。

 

 黒と黄色の自動車は銃撃に晒されたのか、穴だらけの無残な姿となっていた。

 この車を背にしていたのか銃創だらけの兵士が車に寄りかかった状態で事切れていたので、彼ごと車が撃たれたのだろうか。

 

 まさかと思い恐る恐る中を見てみるが、車の中にリンの姿は無かった。

 

 スキフは安堵のため息をつく。さっきから最悪の展開が頭の中をチラつくのを振り払って次に兵舎を覗くが、内部が荒れていたものの死体1つ見当たらなかった。

 敷地内を見回っていたリヒターがスキフの下に戻ってくる。

 

 「基地周りを見てきたけど女の子の姿は無いな。生きてる奴も居ない。」

 

 「後は……事務所か。」

 

 コルドン前哨基地に存在するもう1つの建物。事務室や無線室、尋問室等を兼ねそろえた建物だ。

 中に入ると案の定、撃ち殺された兵士の死体が目に入る。息があるかどうか確認するが、全て徒労に終わった。

 

 事務所内の部屋を全て回るが、やはり生きた人間は1人もいない、幸いな事に死体の中にリンの姿は無かったが。

 

 「死体が無いということは逃げたのか、それとも連れ去られたのか……なんだ?」

 

 薄々予感していた事が的中するかもしれない───そう思っていた所に、スキフが今いる部屋の隅にある、人1人入れそうな、大きな鉄製のキャビネットから物音が聴こえた。

 

 「誰だ?」

 

 キャビネットの中から返答は無い。

 近くにいるリヒターにハンドサインで援護を指示し、腰からPTMピストルを抜いて片手で構える。

 空いているもう片方の手でキャビネットの取っ手を掴み、ゆっくりと開けた─────

 

 

 その瞬間、内部から突き出された銃口から放たれた銃弾が顔面目掛けて飛んでくる。

 間一髪で交わし、銃弾はスキフの頬を掠め、壁に穴を開ける。

 

 キャビネットの中から現れた拳銃を即座にPTMピストルのグリップで叩きつけ、痛みに呻く声と同時に拳銃が地面に落ちる。

 スキフはそのままキャビネットの扉を思い切り開け、中にいた人物の額に銃口を突きつけた。

 

 

 「動くな!………クズネツォフ!?」

 

 「クソッ……奴らが戻って来たのかと思ったらお前かよ……」

 

 「よく生きていたな……」

 

 中に隠れていたのはスキフともすっかり顔見知りになった、コルドン前哨基地の司令官クズネツォフ少佐。

 “以前まで”コルドンでホロウレイダーに賄賂を要求していた、絵に描いたような腐敗した軍人だ。

 

 そんな彼は腹に血だらけになった包帯を巻き付け、身体がエーテル侵食に侵されている重症であった。酷く息を切らしているが、此方を睨みつけ、悪態をつく程度の体力は残っている。だが放っておけば手遅れになるかもしれない。

 

 スキフはここで何が起きたのかクズネツォフに尋ねた。

 

 「ここで何が起きた、基地を襲撃した連中に心当たりは?」

 

 「ゴホゴホッ……はっ…!この有様で…マトモに喋れるとでも…?」

 

 リンの手がかりが必要なので、仕方なく回復キットと抗侵食除去薬を投与してやると、傷口は塞がりエーテル侵食が治まっていく。

 何とか持ち直したクズネツォフはキャビネットから身を出し、足を引きずりながら近くの椅子に座り込んだ。

 

 「礼を言う、お前達が来なきゃ多分死んでた。哨戒の連中が戻って来なかった所を見るに既に殺られてたな。」

 

 「随分素直だなクズネツォフ、なんでバンディットがこんな大部隊でコルドンまで攻めてきた? 奴らと闇取引してて何かやらかしでもしたか?」

 

 素直に感謝を伝えるクズネツォフを意外に思いながら、リヒターがバンディットの襲撃に何か心当たりがあったのではとクズネツォフに問い詰める。

 だがクズネツォフは心外だとばかりに反論した。

 

 「カレツキーの野郎じゃねぇんだからありえねぇよ。それにだリヒター、衛非地区でロレンツだのイゾルデだの言う将校共が何かやらかしたせいで防衛軍全体が汚職に厳しくなったんだ。最近は俺達も真面目にやってたの知ってんだろ?」

 

 「今まで通りホロウレイダーを撃ったり、捕まえたりして解放されたきゃ保釈金払えってするのが“真面目”かぁ?」

 

 「お前達が本来、封鎖区域に入り込んでる不法侵入者だって事忘れてんのか…!?職務の範疇に決まってるだろあれは。」

 

 「はぁ……二人共、無駄話はそこまでだ。クズネツォフ、聞きたいことがある。」

 

 スキフが口を挟んで2人の会話を終わらせる。

 コルドン前哨基地に居た筈のリンの行方を聞こうと、クズネツォフに基地で何が起きたのか尋ねた。

 

 「外に止めてあった民間車両に乗ってきた女が居た筈だ。彼女の居場所は知らないか? それとここで何があったか話せ。」

 

 「ああ、あの疫病神、お前の知り合いか……」

 

 疫病神とは随分な言い草だ。そうスキフは内心思ったが、クズネツォフは苦々しい表情で襲撃の事を話し始めた。

 

 「あの女は俺が対応したんだ、許可証あるから通そうとしたら、雲嶽山の連中と待ち合わせしてるとか言うから基地で待機させてやった。今思えばあの時さっさとルーキー村に行かせとけば良かったよ。

 あの女が来て少ししたら奴らの襲撃が始まった。まずは監視塔の部下が撃たれた、音が聞こえなかったから多分サプレッサー使ってたな。

 次に東側の防壁がふっ飛ばされて、バンディット共がこっちの倍以上の数で突っ込んで来やがったんだ。

 何とか陣形を整えて滅多撃ちにしてたら、今度はバンディットの後ろから()()()()()と旧式のガスマスク着けた連中が現れて次々と部下が殺されていった。あいつら良く訓練されてる、反乱軍よりも遥かに強い。」

 

 やはり、バンディットだけではなく別の存在が襲撃に関与していた。

 それとは別に白い化け物という存在がスキフは気になった。

 

 「白い化け物?そいつはどんな奴だ、ミュータントなのか?」

 

 「わからん。人間の背中にでかいコブがついたような、鋭い爪を持った白い肌の怪物だ、そいつも古くて白いガスマスクを被ってたな。

 そいつらのせいで戦線が崩れた後、俺はガスマスク共が使ってた武器に撃たれてエーテル侵食まで喰らってな、必死こいてここに逃げ込んで隠れてたって訳だ。」

 

 「……それじゃあ女の行方は知らないのか?」

 

 「戦闘が始まった時に部下が兵舎の奥に押し込んだが、その後は知らん……だけど隠れてる時に連中が誰かを探していたっぽいのは聞こえてきたな。死体は見つかったか?無ければ奴らが連れ去ったに違いない、兵舎に避難してたなら逃げれないからな。」

 

 やはり襲撃者の目的はリンだ───スキフはそう確信した。

 

 「わかった。俺達はもう行くが、お前はどうする?」

 

 「本部に連絡しねぇと、前哨基地の人員が皆殺しにされるなんざ前代未聞だ……」

 

 そう言うとクズネツォフは自分のPDAを取り出して通信を始めた。スキフとリヒターが事務所から出ようとした時、クズネツォフから呼び止められたので振り向く。

 

 「どうせ偶々こっちに来たんだろうが……お前らが来てくれて本当に助かった、借りができたな。」

 

 「………クズネツォフの口からそんな言葉が出るなんて、明日は空からアーティファクトが降ってくるぞリヒター。」

 

 「本当に感謝してるなら今までお前に払ってきた通行料を返せよ、利息もつけてな!」

 

 「柄でもない事言ったら散々なお返しじゃねぇか。さっさと出てけ、援軍が来たらお前ら撃ち殺されるぞ。」

 

 しっしっと手で追い払う仕草をするクズネツォフをその場に、スキフとリヒターは外に戻る。

 情報はあったとは言え、そこまで大した手がかりが得られなかった事にリヒターは落胆していた。

 

 「プロキシの妹さんが誘拐されたっぽいのはわかったけどよぉ……じゃあ何処に連れ去られたって話だ。どうすりゃ良いんだ?」

 

 「リヒター、バンディットの懐を探ってPDAを見つけろ。それで追えるかもしれない。」

 

 「PDAで……?了解だ。」

 

 スキフとリヒターは手分けして基地に散乱するバンディットの死体を漁る。

 殆どは戦闘によって大きく破壊されていたものの、幾つか起動出来るPDAが見つかった。

 

 「そんでこれをどうするんだ?」

 

 「依頼でTOPSの人間を追いかける時にIFFシグナルを追跡するやり方を覚えたんだ。ガイドのお前にはあまり必要ない技術だけどな。」  

 

 TOPSがZONEに入り込んだ後に行われたPDAのアップデートに、ZONE内で味方のPDAの位置を把握出来る機能を持つIFFシグナルの追加がある。

 スキフはバーキープの依頼でTOPSの人間を暗殺する際に、対象が雇った反乱軍やバンディットのPDAから対象の位置を割り出す方法をヤンターのメカニックから教えてもらった事があるのだ。

 

 その方法でリンが持っているアキラのPDAを探知出来ないのかと思われるが、ZONEの外に居たアキラのPDAはアップデートされてない可能性が高く、よしんばIFFシグナルが使えても識別設定をしなければスキフのPDAで察知は不可能だ。

 ついでに言えば何度かリンのPDAに連絡を試みているが、全て不通に終わっている。

 

 死んだバンディットのPDAを起動し、生き残ったであろう他のバンディットのPDAの位置を割り出す。

 

 「………ビンゴ!見つけたぞ、位置は……レッサーゾーンじゃないか。しかもコルドンから入ってすぐの位置だ。」

 

 「えっそんな近い場所にいるのか?」

 

 「PDAの持ち主が死んで置いてかれた可能性の方が高い……が、現状俺達にとって唯一の手がかりだ、向かうぞ。」

 

 2人は前哨基地を離れ、レッサーゾーンに向かってコルドンを西に進んでいった。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 PDAから探し出したシグナルを追うと、レッサーゾーンの南東の錆びついた「浮遊サイロ」に辿り着いた。

 浮遊、とあるが別にアノマリーで浮いている訳では無い。車両等にそのまま中身を放出できるよう、サイロを柱で伸ばして排出口を高い位置に設置しただけの建造物だ。

 

 スキフとリヒターが到着すると、そこには死後1、2時間程度しか経ってないであろう死体が数体あった。

 コルドン前哨基地を襲撃したであろうバンディットの死体の中に1人だけ、黒レザーやジャージ等を着込んだバンディットとは全く違う、より優れた装備を身に着けた兵士の死体があった。

 

 その兵士の姿を見てスキフは目を見開いて驚愕する。

 

 頭を覆う防毒フードにこの世界では旧式の部類に入るガスマスク──「PA-7 ガスマスク」

 4個のマガジンポーチと多目的ポーチが1つ付いたボディアーマー──「傭兵スーツ」

 

 80年代のイギリス特殊部隊SASに酷似した装備を持つ、()()()()()()()()Z()O()N()E()で活動していた武装集団──「傭兵(Mercenary)

 

 目の前に転がる死体は、スキフの記憶と全くの瓜二つの姿形で、ZONEに野ざらしにされていた。

 

 唯一違う点があるとすれば、この傭兵が身に着ける服の迷彩がタイガーブルーではなくダークブルー、そしてアーマーはカーキ色ではなくグレーなのが違う点ではあるがそんなもの些細な差異だ。

 

 「───キフ?おいスキフ!どうしたんだボケっとして。」

 

 「……っ!すまん、ちょっとな。」

 (どうしてチョルノービリにいる筈の傭兵がこんな所に……まさか俺と同じ様に向こうの世界からやって来たのか? いや偶然装備が一致してるだけの可能性が……とにかく今はプロキシの行方だ!)

 

 リヒターが此方を心配した目で見てきたのに気付いたので、一旦傭兵の考察を脇に置いて、現場を調べる事に専念する。

 

 「………こいつら狙撃されたのか?」

 

 事切れた傭兵やバンディット達は、皆正確に頭部を撃ち抜かれていた。仲間割れや、他の武器で奇襲されたようには見えない。

 偶然通りすがりのスナイパーが彼らを襲ったのか? そう考えているとリヒターが何かを拾い上げた。

 

 「スキフ、スモークグレネードが何個か落ちてたぜ。足跡からして撃たれた後スモーク焚いて散らばって逃げたんだ。」

 

 周囲を見ると確かに多数の足跡が四方に逃げた痕跡がある。この状況はマズイな、とスキフは思った。

 

 「散らばって逃げたんじゃ誰がプロキシを連れ去ったのか分からないな。こいつらのPDAに何か残ってればいいが……」 

 

 バンディットや傭兵の懐からPDAを取り出し、誰がリンを連れ去ったのか、そもそもリンは無事なのかを確かめる為に調べる。

 

 バンディットのIFFシグナルを調べると、足跡の通りレッサーゾーンの各地に散らばっており、全ての追跡は困難だった。

 傭兵の方はそもそもシグナルを追跡出来ないように細工されている。

 

 それならばとPDAの記録を漁ると、傭兵の方はほぼ情報を残していなかったが、バンディットの1人が撃たれる直前まで何処かにメールを送っていた事が分かった。

 

 その内容からリンの行方の手がかりになりそうな物がないか調べる。

 

 

『ディマ・ドープ:これから戻る所だ、兄弟。

 

レス・ヴァンパイア:生きてたか!向こうで何があった?

 

ディマ・ドープ:奴らコルドンで俺達を盾にしやがったんだ! あれだけ仲間を死なせておいて目的は若い女1人だしよ、戦利品すら漁れなかったんだぞ。

 

レス・ヴァンパイア:そんなに死んだのか?

 

ディマ・ドープ:半分以上死んだ、最悪だ。

 

ディマ・ドープ:こんなクソ共と組み続けるボスとはおさらばだ。アグロプロムから逃げる準備しておけよ、こっちはもうすぐ回収地点に着く。奴らと別れたら連絡する。

 

レス・ヴァンパイア:分かった、俺の方はさっきデューティの間抜け共を捕まえたから地下に運ばなきゃいけない。それが終わったらすぐに動く。

 

レス・ヴァンパイア:まだ回収地点に着かないのか?

 

レス・ヴァンパイア:おい、返事してくれよ。』

 

 

 「リヒター、こいつらアグロプロムのバンディットだぞ。」

 

 「アグロプロムと言えば……最近規模が大きくなってるバンディット勢力の根城だな。構成員はかなり居るって話だ。」

 

 二ヶ月程前にアグロプロムを占領し、現在じわじわと規模を拡大させているバンディット勢力が存在する。

 コルドン前哨基地を襲撃したのはここのバンディット達の仕業だと判明したが、肝心な情報はまだ見つからない。

 スキフは一度ここまでで分かった事を簡潔に纏めてみる。

 

 「ガスマスクを着けた奴らがバンディットを率いてプロキシを誘拐した……そしてここで奇襲を受けて、散り散りになった。問題はこっからどこに逃げたかだ、足跡が多すぎて判別出来ない。」

 

 「足跡全部追ってみるか?スキフはあっち、俺はこっちって感じで手分けして……」

 

 「それじゃあ時間がかかり過ぎる、早くしないと手遅れに─────」

 

 

 「誰かと思ったらスキフにリヒターじゃないか、こんな所でバンディット狩りか?」

 

 

 突然掛けられた声に武器を構えて警戒態勢に入る2人、だが声の主は敵意が無いことを示す為に両手を挙げていたので、すぐに武器を下ろす。

 

 声の主が、2人にとって見覚えがある人物だったのもあるだろう。

 様々なミュータントの皮で作られたコートを身に纏う、異様な雰囲気のホロウレイダー────

 

 「トラッパー!」

 

 「久しぶりだな、沼地での仕事以来か?」

 

 ミュータントハンターのトラッパー。

 一年近く前、沼地で讃頌会を捜索する仕事に協力したザトンで活動していた狩人は、スキフとリヒターに偶然出会えた事を喜んでいた。

 リヒターは何故トラッパーがレッサーゾーンに居るのか問いた。

 

 「お前こそ何でここに?あのミュータントの王様を追っかけてるって聞いたが。」

 

 「ザリシアの近くに住処を張ったブーラーを駆除してくれってルーキーから頼まれてな、その帰り道って所だ。

 生憎“王”には未だに出会えて無い。痕跡は見つけられてるんだがな、まるで俺を試してるみたいだ。」

 

 彼は沼地で出会った巨大なホーンヘッド──“王”にもう一度会う為、ザトンを離れZONE中を巡っている。

 その道中で対ミュータントに精通した能力を買われ、各地でミュータント関係の依頼を受けていると風の噂で聞いた。

 

 そんなトラッパーと再会し、スキフはある案を思い付く。

 

 「トラッパー、手伝って貰いたい事があるんだが……」

 

 「久しぶりに出会えたんだ、遠慮なしに言ってくれ。」

 

 「特定の人間の足跡だけを追うことは出来るか?」

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 「…………ガスマスクの連中、統率が取れてるな。背中から狙撃が飛んでくるってのに冷静に退却している。」

 

 レッサーゾーンを北上しながら、トラッパーは地面に残った足跡の痕跡を見つけながらスキフとリヒターを先導していた。

 

 スキフがトラッパーを頼ったのには理由がある。

 トラッパーは普段からミュータントの足跡を追って狩りをしていた。その洞察力はZONE随一と言っても良いだろう、かつてスキフも間近でトラッパーの能力を見たことがある為、それに賭ける事にしたのだ。

 

 結果は上々、足跡の動きや配置を見て、トラッパーはリンを誘拐したであろう武装集団はZONEを北上していると推察した。

 何故なら、狙撃され慌てふためき散り散りに逃げ出したバンディットの足跡と違い、統制を保ちながら撤退している集団の足跡があったからだ。     

 スキフ達はバンディットの記録からその集団がリンを連れている可能性が一番高いと考えた。

 

 そして、その集団が謎の追跡者(ストーカー)によって追撃を受け続けている事も。

 

 「またガスマスク野郎の死体だ、こいつらを追っている奴は優れた追跡者(ストーカー)だな。ガスマスク共が何度も撒こうとしているのにあの手この手で接近している。」

 

 「にしたってどれだけ追撃してんだよ……もうガーベジに入っちまったぞ」

 

 リヒターがうんざりする様にPDAの地図を見る。

 リンを誘拐した武装集団と謎の追跡者の追いかけっこはレッサーゾーンを越えてガーベジ地域に突入していた。

 

 「なんで追跡者はここまで連中を追撃しているんだ…?」

 

 スキフはガスマスクの傭兵達を執拗なまでに追い続ける謎の追跡者に困惑していた。

 行く先々で狙撃によって傭兵の頭を撃ち抜いており、対する傭兵達も負けじと反撃を試みた痕跡がある。

 その執念深さからたまたま傭兵達を襲ったとは思えず、前哨基地の生き残りが復讐の為に追いかけているのではないかと思わせるほどだ。

 傭兵と追跡者の追撃戦に巻き込まれたリンは果たして無事でいるのだろうか。そもそも本当に傭兵達に捕まっているのだろうか────

 

 そうこうしている内に、トラッパーが足跡の終着点を見つけ出した。ガーベジの南部にある建物、「ファクトリー」だ。

 

 「痕跡からしてガスマスク共はここに逃げ込んだな、追跡者(ストーカー)を待ち構えようとしたんだろう。ここなら狙撃も食らわない。」

 

 「中を確かめよう、リヒターは殿を頼む。」

 

 スキフを先頭にファクトリーの敷地内へと侵入する。

 

 ファクトリーは三階建ての廃工場だ。

 外の敷地には大きなクレーンが軋みながら放置され、廃棄された車両が幾つも存在した。

 

 建物の向かって左側にコンテナトラックが入り込めそうな程の大きさの入口を慎重にクリアリングをしながら内部に入る。

 元居た世界とこの世界でスキフはこの施設に足を運んだ事は何度もある。内部構造はしっかりと把握済みだ。

 

 左棟の大きな建物の吹き抜けと半地下で構成された部屋に入ってすぐ、炎が焚かれたドラム缶を囲む数人のホロウレイダーの死体が見つかった。

 武器すら手に取れてない所を見るに、ファクトリーに逃げてきたガスマスクの傭兵に問答無用で殺されたのだろう。

 

 そのまま右棟に続く部屋に進むと、激しい戦闘の痕跡と共に、3人程の傭兵が血溜まりを作って倒れていた。スキフが近づいて調べると自動小銃で撃たれたかのような銃創があった。

 

 「追跡者(ストーカー)は中に突入した様だな……だがプロキシは何処に行った?」

 

 「スキフ、探し人の行方が分かったかもしれない。」

 

 トラッパーが何かに気付いたらしく彼の方を向くと、血溜まりから点々と続く足跡を見つけていたのが分かった。

 

 「ガスマスク共のブーツじゃない、ただのスニーカーの跡だ。サイズ的にレディースだからバンディットの物でもないだろう。

 これまでの痕跡でこの足跡は無かった……今まで抱えた状態で運ばれて、追跡者と戦う為に建物内で下ろされた。

 そしてガスマスク共と追跡者の戦いが始まり、隙を見て逃げ出そうとしてこの血溜まりを踏んだ。

 他にも血の足跡が見えるが、ガスマスク共も同じ方向に向かって行った様だな。」

 

 ZONEでスニーカーを履く者はバンディットくらいだ、そしてバンディットはほぼ男しか居ない。

 つまりこの突然現れたレディースサイズのスニーカーはリンの者の可能性が高い。

 

 スキフ達が点々と続く血の足跡を追うと、どうにもリンはファクトリーの地下へと向かって行ったようだった。

 リンが地下を逃げ場所に選んだ事にスキフだけではなくリヒターまでも顔が引き攣っていく。

 

 「なぁスキフ、ファクトリーの地下って確か……」

 

 「………Xラボがある。しかもここの地下は危険なアノマリーやスノークだらけだ。何度か来たことあるが、碌な装備無しで入っていい場所じゃない。」

 

 そう、よりにもよってリンが逃げた先はファクトリーの地下に存在するXラボ。

 しかもここの施設は元居た世界やこの世界で何度か侵入した経験のあるスキフでさえ精神を大きく削られる程の危険度を誇る死のダンジョン。そんな場所にリンは逃げ込んでしまったのだ。

 

 スキフは大きく息を吐き、ここまで導いてくれたトラッパーに礼を言う。

 

 「トラッパー、ここから先は俺とリヒターで向かう。ここまでありがとな。」

 

 「……俺も手伝うか?痕跡からしてガスマスク共も地下に向かってるぞ。」

 

 「いいや、大丈夫だ。それにお前依頼の報告済んでないだろ?」

 

 「まぁそうだが……」

 

 「お前には“王”を追いかける目的もあるからな、これ以上助けてもらうのも悪い。労働の対価だ、受け取ってくれ。」

 

 「……そうか、スキフ、リヒター。気をつけろよ、この地下はどうにも好かん。」

 

 スキフは礼として幾らかのディニーを送金し、此方の身を案じる言葉を残してトラッパーはファクトリーから去っていく。

 スキフとリヒターは顔を見合わせ、リンがいるかも知れないXラボの入口に向かう。

 

 

 

 ────実はスキフは何度か調査した事のあるこの Xラボの構造を()()()()()()()()()()()()

 そんな場所に入って行ったリンの安否、元居た世界の傭兵そっくりの兵士達、彼らを追う謎の追跡者(ストーカー)、それらに言いようのない不安を感じながら、X-18ラボに続く暗闇へと潜っていった。

 

 

 

 






 今話で死体を晒している傭兵(仮)のビジュアルは旧作仕様のモデルです。
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