Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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47.X-18捜索

 

 

 

 元居た世界のファクトリーの地下はスパークの秘密基地として利用されていた。

 

 リヒター(前の世界)の紹介で初めて「スパーク」のメンバーと出会ったスキフは、彼らの持つ情報を求めてウォードに占領されたファクトリーに侵入したは良いが、速攻でバレてウォードの兵士とドンパチした後、Lightning Ball(ライトニングボール)とブラッドサッカーが待ち受ける地下施設を探索したことは覚えている。

 だがあの時探索したのは地下2階まで、それっきりファクトリーには特段用事も無く、再度足を踏み入れる事はなかった。

 

 (あの時初めて移動系のアノマリーはアーティファクトを追尾するって知ったんだったか。)

 

 「スキフ……お前プロキシの依頼で何度か潜ってんだろ?中の構造はどうなってんだ?」

 

 「狭くて入り組んだ研究施設……と言っても地下2階辺りまでしか探索してない。下のフロアに行く方法が無くてな、開かずの防爆扉があるんだ。」

 

 錆びついた地下への階段を下りつつ、リヒターからの質問に自信なく応えるスキフ。

 

 こっちのファクトリーもアキラの依頼でX-ラボの調査をしに何度か探索したが、どうしても下層フロアに続く大きな防護扉が立ち塞がり、どうやっても開かなかった事から調査を断念せざる得なかった。

 バーキープ曰く、スポンサーであるクリアスカイからの指令でここを調べていたらしきフリーダムも何とかして防護扉を突破しようとした痕跡があったが諦めてしまったようだった。

 

 結局、元居た世界でもこの世界でも、スキフはファクトリー地下を深く調べることは出来ていない。

 

 「地下2階だけでも狭くて暗くて死角が多い。そしてプロキシの妹は一度もZONEに来たことは無いだろう……ここはアノマリーすら見慣れてない奴が立ち入っていい場所じゃない。」

 

 「こんな所ルーキーどころかベテランだって入りたがらねぇよ……妹さん、怪我してないと良いけど……」

 

 どんな所でも死の危険が纏わりつくZONEで特に死傷率の高い場所が洞窟や地下施設等の閉所だ。

 狭い空間で所狭しに発生するアノマリー、前後左右から奇襲してくるミュータント、いつ崩落するか分からない内部。

 こう言った場所はどれだけ経験を積んだストーカー(ホロウレイダー)であっても、僅かな隙を見せた途端に待ち構えていた死神の鎌が容赦無く振り下ろされ、犠牲となった数多の屍がZONE中の暗い迷宮に残されている。

 

 スキフの危惧している通り、リンはアキラと違ってZONEには立ち入った事が無い筈だ。

 沼地を経験したアキラならばまだ何とか出来るだろうという信用はあるが、リンはZONEではルーキー以下の経験値しかない。

 リヒターは少しでも希望を失わない為に少々楽観的な事を言っているが、碌な装備も経験も無くミュータントやアノマリーに襲われれば死しか無いのはよく理解している。

 

 スキフは思ってても口に出さないし、この目で見るまでは絶対に断定しないがリンが既に死んでいる可能性を視野に入れている。

 寧ろガスマスクの傭兵や謎の追跡者(ストーカー)に身柄を確保されるのがリンの身の安全的にそっちの方が良いとすら思っていた。

 

 

 2人が階段を下りていくと、一面コンクリートで覆われていた壁の一部だけレンガで区切られた地下研究所への入口が見えてきた。

 入口すぐの地下1階は動かないエレベーターと受付代りの詰所があるだけの小さなフロアなので、罠が仕掛けられてないかだけ確かめて、フロア奥の地下2階への階段へと向かう。

 

 

 地下1階と地下2階を繋ぐ階段はボロボロに崩れ落ちていた。

 一応下れるスペースはあるものの、足を滑らせれば大怪我間違い無しだろう。本来はここから別の上階にも登れる筈だったが、現在は階段が完全に崩落しており通行不可能だった。

 慎重に、ゆっくりと階段を下りて地下2階の入口に到着する。

 

 「気をつけろリヒター、ここは何度来てもLightning Ball(ライトニングボール)が巡回────」

 

 「………スキフ、お前ここの防護扉、ずっと開かなかったって言ってたよな?」

 

 地下2階に入ると直ぐにエレベーターと、その前にある開かずの防護扉が目に入る筈だった。

 だが、スキフの胴体くらいの幅がある重厚な鋼鉄の門が、まるで2人を地下に誘うかのように、或いは餌を待ちわびる怪物の大口のように開いていた。

 

 「………俺が調査しなくなった後に開いたのかもしれない。」

 

 「取り敢えず、このフロアを見て回ろうぜ。」

 

 リンがここを通らなかった可能性を考え、2人は先ず地下2階の探索を進める事にした。

 獲物を求めてフロアを巡回するLightning Ball(ライトニングボール)を避けながら、地下2階の入ることの出来る部屋を全て探し回ったが、リンはおろかガスマスクの傭兵の痕跡すら無かった。

 

 一旦開いている防護扉の前に戻って来た2人、やはりリンはこの下にいるのだろうか─────

 

 「俺は()()()()()()()()()()()()()()。リヒター、万が一を考えてお前は上に……」

 

 「バカ言うんじゃねぇ相棒、ZONE未経験の女の子がこの下に迷い込んじまってるんだ。ガイドとして見つけて上げないとな。」

 

 「はぁー……俺に何かあったら誘拐されたプロキシ(アキラ)を託したかったんだが。」

 

 元居た世界とこの世界で色んなXラボを回って来たスキフであったが、この地下からは言いようの知れない気配が渦巻いているのが、彼の経験と本能で感じる事ができた。

 

 とは言え、ここで退くわけには行かない。

 スキフにとってアキラはこの世界で出来た大切な友人の1人である。彼が誘拐され、その妹も同じく誘拐されて危機に陥っている以上、スキフはどんな所にでも飛び込むつもりだ。

 

 スキフは武器を構え、防護扉の先にある、深く続く階段を下りていった。

 

 

 

 

 数階分の段差は下りただろうか。

 砂利だらけの階段を下り続けた先に、地下3階への扉を発見した。

 金属で出来ているが上階の防護扉のような代物ではなく、薄い普通のドアだった。

 

 警戒しながら扉を開けると、上の階より更にひんやりとした空気が肌を出迎ええ、エレベーターを中心にした八角形のホールに出る。

 扉から出たスキフ達から見て正面と左右に廊下が伸びている構造だった。

 

 それぞれの廊下の先を確認すると、右の廊下の先は防護扉が塞いでいるのみ。

 正面の廊下も鉄格子のドアが閉じてあって先に進めない一方、左の廊下には何も道を塞ぐ物がなく、そのまま先の部屋に進めそうだった。

 

 2人は一先ず、即座に調査できる左の廊下から探索を開始した。

 左の廊下を進むと、青いタイルの壁の一面にパイプが張り巡らされた部屋に出る。

 その部屋の光景──正確には床の惨状に、思わずリヒターは口から言葉が漏れた。

 

 「ひっでぇ出血の跡だな……」

 

 瓦礫や剥がれたタイルが散乱する床に伸びる血の跡、まるで腹を掻っ捌かれた後に市中引回しの刑にされたのかと思わせるほどの血の道しるべが別の部屋へと続いていた。

 

 プロキシの妹ではありませんように────そう願いつつ、チカチカと点滅する蛍光灯に照らされた血の跡を追っていく。

 右へ左へと引きずられていただろう血痕のゴールは、無数のスイッチやレバーが付いた配電盤だらけの少し広めの部屋にたどり着いた。

 その部屋に入るや否や、顔を顰めながらスキフは呟いた。

 

 「………どうやら、素敵な趣味をお持ちの奴がいるみたいだな。」

 

 この部屋を支える4本の鉄筋コンクリートの柱、その中央部にいる血の海に沈むガスマスクの傭兵。

 

 まろび出る臓物を必死に押さえようとしたのだろう、腹を抑える両の手は真っ赤に染まっていた。

 だが抵抗虚しくボディアーマーは引き裂かれ、そこから四方に向かって臓物が無理やり引きずり出されている。身体の周りに広がる内蔵はまるで何かの絵のように綺麗に整えられていた。

 

 ZONEでも中々お目に書かれないスプラッタな光景にスキフは冷や汗が流れ、リヒターは喉から何かが込み上げてくるのを察知し、それが喉に達する前に瓶入りの水を取り出し、一本丸々飲み干して何とか気を持たせ、一息付いたリヒターが口を開いた。

 

 「誰の仕業だよ……こいつら追いかけていた奴か?それともミュータント?アノマリー?まさかプロキシの妹さんが伝説の暗殺拳を習得していて………」

 

 「その中で一番可能性が高いのが追跡者(ストーカー)がシリアルキラーだった……と考えるべきか。でもここはZONEだからなぁ……」

 

 目の前にある“コレ”は明らかに悪意を持った人間の手を加えられた殺し方だ。とは言えミュータントやアノマリーの仕業とも十分考えられるのがZONEの怖い所。

 もしスキフの思っている通り謎の追跡者(ストーカー)が犯人だった場合、軍事基地を壊滅させたガスマスクの傭兵を残虐に殺せる存在とリンが鉢合わせたら最悪の展開になる事は想像に難くない、急がなければ。

 

 リンがこの部屋に居ないことは分かったが、一応他に手がかりが無いか部屋の全体と死体の懐を探ると、ガスマスクの傭兵から血に濡れたPDAを手に入れた。

 動くかどうか確かめると電源が入ったので、画面の血を拭ってガスマスクの傭兵に関する情報が無いか探してみるが、画面の殆どが文字化けしており閲覧はほぼ不可能だった。

 

 ただ、傭兵の仲間か或いは彼らの司令部から送られてきたらしき情報の最後の1文だけ辛うじて文字の判別が可能だった。

 

 

 『旧都陥落の数日前……X-18……下層フロア……封鎖……原因不明……』

 

 

 その1文を見てX-ラボに対する不審感が大きく感じるが、今は特に必要ない情報だった為、傭兵のPDAを放り捨てて部屋を見渡す。

 この奥にも何かの実験場のような部屋があったが、よく分からない実験装置の間に、惨殺された奴の仲間であろう黒焦げになった傭兵の死体があっただけでリンは居らず、仕方なくスキフとリヒターはエレベーターのある部屋に戻る事にした。

 

 リンが見つからない事にリヒターがまさかと思いある可能性を口に出す。

 

 「もしかしてプロキシの妹さん、地下に逃げてないんじゃないか?上手いことファクトリーから抜け出して……」

 

 「じゃあなんでガスマスク共がここに入っていった?まだ三分の一を探し終えただけだ。怖いのは分かるが捜索を続けるぞ」

 

 「わーってるよ、外に逃げた方が生きてる可能性が高くなるから言っただけだ。」

 

 そんな事を口に出しながら、次に階段から向かって正面の廊下を進み、先にある鉄格子のドアをスキフはガチャガチャと揺らすが開く様子は無かった。

 

 (鍵が必要だが……時間がない、手っ取り早く済ますか。)

 

 おもむろに背中に背負うガウスガン(EM1)を取り出すスキフ。

 そのまま銃口を鍵穴の所へ差し込み、ほぼゼロ距離で引き金を引いた。 

 

 

 ─────ビシュゥゥン

 

 

 甲高い発射音が地下に響き渡る。

 並のAPC(装甲兵員輸送車)の装甲やシュードジャイアント(偽の巨人)の強固な表皮を貫けるガウスガンの弾頭は鉄格子の錠前如き容易く破壊し、その役割を終わらせる。

 ショットガンがあればそれを使っても良かったのだが、何せサイガD−12を沼地の戦いで失って以降しっくりくるショットガンと出会えて無いので今は持っていない。

 

 「他に“何か”がいるなら、今ので俺達の存在に気づいただろうな。」

 

 先んじて地下に入って行った傭兵や何処かに潜んでいるミュータントを警戒して、あまり音を立てないように行動してきたのだが、ガスマスクの傭兵があんな殺され方をしている以上悠長に鍵を探していられない。

 

 取り回しの良いASラヴィナに持ち替えて部屋をくまなくクリアリングする。

 入ってすぐ、正面にドアが見えるが案の定鍵が掛かっていたので一旦放っておいて、別の部屋を捜索する。

 

 まずスキフ達が入った部屋から左右に隣り合う部屋が2つあった。

 左の部屋は配電盤が無いだけで先程の部屋と同じ様な構造で、奥に続いていそうな通路は経年劣化の影響か崩落しており、先に進む事が出来なかった。

 右の部屋は何かの猛毒の毒々しい液体が詰まっているタンクが幾つもある保管室の様な部屋となっていた。

 

 結局どちらの部屋にもリンは居ない。

 肩を落としながら鍵が閉まったドアをガウスガンでこじ開けようと戻った時────

 

 

 キィィ────

 

 

 「……………なぁリヒター。」

 「鍵は閉まってなかったんだ、うん。」

 

 

 ひとりでに、ドアが開いた。

 スキフとリヒターがここに戻って丁度、勝手に。

 

 確実に鍵が閉まっていたのをスキフとリヒターは確認したはずだ。

 誰か、生存者が開けたのだろうか、それとも……

 

 気味の悪さを押し殺し、たった今開いたドアの先に入る。

 

 

 ドアの先はロッカーが並べられた小部屋と、更に地下へと誘う階段があった。

 階段はそこまで深くは無く、十数段ほど下りると通路に沿って普通のドアと同サイズの防護扉が2つ並んでおり、片方の防護扉は開いていた。

 

 防護扉を通ると、かなり広い空間のコンテナ集積場ようなフロアに出る。

 どうやって地下に運び入れたのだろうか、多数のコンテナが乱雑に積まれた部屋を死角と点在する電気アノマリー「Electro(エレクトロ)」に注意しながら慎重にクリアリングしていくと───

 

 コンテナを内側から叩くような音が、2人の耳に入った。

 

 音の出処を探して集積場の中央、大きな2つの柱のあたりまで進むと、壁に突き刺さったガスマスクの傭兵の死体と“傭兵を殺したであろう犯人”が見つかった。

 

 「ポルターガイスト……」

 

 「あー……ガスマスク共を殺した奴はこいつってか。」

 

 透明化し、縄張りに入った人間をテレキネシスで迎撃するZONEのミュータント「ポルターガイスト」

 

 主にこう言った建築物に住まう謎多き人型ミュータントは、銃創と何か大きな爪で切り裂かれた跡を晒して、力なく地面に横たわっていた。

 

 そして、恐らくポルターガイストによって柱に縫い付けられた2人の傭兵。

 片方はダークブルー色の「SEVAスーツ」を身に纏い、背中に野外無線機の様な大きめの機材を背負い、左腕には小さいコンソールのような腕輪が着いている。

 地面にはこの傭兵が装備していたであろう防弾盾がベコベコに凹んだ状態で落ちている。

 

 ポルターガイストやブーラー等、テレキネシスを使うミュータントが飛ばしてくるの物体にやられ、壁に磔にされる死体はZONEではさほど珍しくない────が、それにしてもこの傭兵達は実に奇妙な殺され方をしていた。

 逆さまに磔にされ両手足が伸ばされた姿勢はまるで……

 

 「聖ペトロ十字(逆十字)……?」

 

 「何だそれ?」

 

 「そう言うのがあるんだよ。」

 

 両親の影響で“昔は”正教会の熱心な信者だったが、外国の戦争やZONEでの生活ですっかり信仰心という物を失ってしまったスキフ。

 ただ宗教関係の知識はまだ頭の中に残っており、傭兵達の死体がローマによって磔刑に処された聖ペトロが、自分はキリストと同じ姿勢で処刑されるに値しないと拒否し、このような逆十字で磔にされたという話と似たようなポーズだと、思わず口から出ただけだ。

 

 話は戻るがポルターガイストはこんな人間を宙に浮かせてひっくり返し、手足を伸ばして鉄筋を撃ち込むなんて器用で遊びのある殺し方をするミュータントでは無い筈だ。

 

 さっきの内臓を引きずり出された死体も含めると、誰か人の手が加えられたような気がしてならない……そう感じたものの、かつて戦った外来種のポルターガイストを思い出す。

 あのミュータントは人間を嬲りものにするのが好きな性格の悪い個体だった。

 ならば、ここで死んでいるこのポルターガイストもそう言った変わった奴だったのだろう──スキフはそう結論付け、意識を音の出処に向けた。

 

 傭兵やポルターガイストの死体の近くにあったコンテナ。

 この中から物音がしているのが分かり、リヒターが口を開いた。

 

 「プロキシの妹さんがいる方に500ディニー……」

 

 どうせ無効になる賭けをする気はないスキフは無言でリヒターにハンドサインで援護しろと指示をする。

 コンテナドアにある開閉用のハンドルを握り、リヒターがスキフとコンテナドアに射線を向けられる位置に移動したのを確認した。

 

 (ロックは掛かってない……閉じ込められたって訳じゃなさそうだ。)

 

 ASラヴィナを片手で構え、クズネツォフの時のように内部から攻撃されないように位置取りをしながら、コンテナを開けると同時に中にいる“何か”に語りかける。

 

 「……プロキシか?俺だ、スキ───フブゥ!?」

 

 「スキフ! なっ…こいつは!?」

 

 突如、勢い良く開け放たれた鉄のドアに顔面を叩きつけられ吹き飛ぶスキフ。

 一瞬スキフに気を取られたリヒター目掛けて、コンテナから飛び出して来た“白い化け物”が飛び掛かってきた。

 

 チョルノービリのスノークが身に着けているようなソ連製ガスマスクによく似た仮面を着けた頭部。

 まるで獣のように生え揃った鋭利な牙に鋭く長い爪を持つ白い体躯。

 そして──背中に背負うように腫れ上がった巨大な腫瘍。

 

 「ミアズマのヒナ」と呼ばれる()()()()()()()に何処となく似た怪物が、目の前の獲物に襲いかかる。

 

 リヒターは咄嗟に自身の武器である自動小銃(ファルコン-MK3)を白い怪物に向けて放つが、鬱陶しいとばかりに銃弾を弾かれ、凄まじい髄力でリヒターを押し倒してその喉笛を噛み千切らんと大口を開けた。

 

 「プロキシの妹さん個性的な御姿かつ積極的ぃ──!?」

 

 シュードドッグもかくやと言う牙が首に突き立てられる寸前──甲高い音と共に白い怪物の胴体が貫かれ、力無くリヒターに倒れ込むように覆い被さる。

 

 そして、エーテルの粒子を撒き散らしながら白い化け物は点滅し消えていった。

 

 半べそかいたリヒターが視線を動かすと、顔面を強打し吹き飛ばされ、倒れたスキフが視界が揺れる頭を抑えてガウスガンをこちらに向けていたのが分かった。

 相方が無事なことに安堵しながら、スキフは冗談を口にした。

 

 「あの化け物がプロキシじゃない方に1000ディニーだ。」

 

 「後出しはずりぃぞスキフ……助かった。」

 

 2人は立ち上がって消滅してしまった白い化け物が居た場所を見る、そこには既に死体も何も残っていなかった。

 エーテル粒子の残留を眺めながらリヒターが口を開く。

 

 「スノークに似てたけどありゃあエーテリアスだ、ミュータントじゃねぇ。一体何処から……って、このガスマスク共が連れてきたのか。」

 

 「恐らくそうだろうな、クズネツォフが言っていた白い化け物はこいつの事だ。飼い主が居なくなって隠れてたんだろう。」

 

 まるでスノークのような見た目のエーテリアスが隠れていたコンテナに注意を向け、その中身を見て呆気に取られてしまう。

 

 コンテナの中には無数の人骨が詰め込まれていた。

 内部の状態からして何年も経っているだろう、少なくともさっきの白いエーテリアスが死体をかき集めていたとかでは無い。

 

 「ここで何があったんだ……」

 

 「何かっつーと……ゴミ捨てかぁ?」

 

 リヒターがコンテナに書かれていた文字を指差す。

 部屋は暗く、掠れており読み難かったがそこにはしっかりと「廃棄」と書かれていた。

 スキフが部屋にある数個のコンテナを調べると、全て同じ物が書かれている。

 

 「この研究所で人体実験でもしてたのか……?」

 

 「胸糞わりぃ……大きさからして子供の骨だぜコレ。」

 

 人骨はかなり小さく、幼児程の大きさの物もあった。リヒターの言う通り子供の可能性が大きいだろう。

 そこまで大きくないコンテナとは言え、ここに詰め込まれる程の子供の犠牲者がいたと言うのだろうか。

 気分が悪く成りつつも、部屋全体を捜索したがここにもリンは居なかった。

 

 一向にリンが見つからない事にスキフの表情には焦りが見えてくる。

 傭兵の変死体の数が多いのと、このフロアに入ってから感じ続けている気味の悪さが焦りに拍車をかけているのだ。

 

 再度エレベーターホールに戻り、最後に残った右の廊下──その先にある防護扉を調べる為に戻る事にした。

 だが最初に見た時、防護扉は固く閉じられておりキーパッドの暗証番号も見つからなかった事に2人はどうしたものかと悩んだ。

 

 「色々探したが暗証番号なんて何処にもない、俺のガウスガンでこじ開けるのも無理そうだ。」

 

 「一か八かキーパッド外して配線弄くるか?そういう経験があるからやってみるよ。」

 

 「それで開かなくなったら最悪だ、一旦どっかの通風孔から入れないか試して─────」

 

 エレベーターの所まで戻り、右の廊下の先にある防護扉を見たスキフは思わず固まってしまった。

 

 

 防護扉が、いつの間にか開いているのだ。

 

 

 (誰が?音は鳴らなかった、まさかプロキシがここを開けて脱出したのか?)

 

 頭の中をぐるぐると思考が巡っていると───フロアに残る僅かな電灯と、スキフとリヒターが装備しているライトが突然消える。

 

 一瞬の暗闇。

 暗視ゴーグルの装着や、自分のライトのスイッチを確かめる前に電灯が再度灯された。

 

 

 明かりが灯くと───先程まで無かった()()()()が廊下の床、壁、天井にくっきりと、防護扉までの道を指し示していた。

 

 

 ZONEで見慣れた異常現象(アノマリー)ではなく、未知の怪奇現象を前にしてスキフもリヒターもさっさとこのフロアから脱出したほうがいいのではと思えてくる。

 だがリンがまだ見つかって無い、この先にいるかも知れない。

 確認するまで退くつもりはない────そう決意し、スキフは最後の部屋を確認する為に足を進めた。

 

 「………リヒター、この“イタズラ”の正体はPSI放射による単なる幻覚に俺は賭けるぞ。」

 

 「じゃあこっちはポルターガイストに賭ける、ZONEの怪奇現象なんて十中八九奴の仕業だ、そうに違いない。」

 

 ZONEで起こる不可思議な現象は日常茶飯時だ。

 ホロウだったらエーテルやら何やらがあるかもしれないが、少なくともZONEに於いては大抵の現象はミュータントかアノマリーで説明がつく。

 

 全く説明の付かない存在が現れた時、人間は身勝手に、自分に都合の良いようにその存在を解釈する。

 恐怖や救いなど様々な解釈があるが……先程の現象に対するスキフやリヒターの解釈は“安心”だ。

 

 目の前の怪奇現象は、見慣れた異常現象に違いない。

 そう強く願いながら防護扉へと入っていった。

 

 

 

 右の部屋に入って目に映ったのは、ショットガンを抱えたまま絶命しているガスマスクの傭兵の死体だった。

 他の部屋で見つけた変死体と違って遺体に損壊の跡は見られない。

 

 死体を調べると点けっぱなしのPDAが見つかった。

 中を閲覧してみると、この傭兵がファクトリーに逃げてから地下に来るまでの行動を記した音声記録と暗証番号が残されていた。

 

 『ワット:ナイトハーベスト作戦実行中、HVT(高価値目標)を連れて回収地点に向かっている途中に謎のスナイパーに襲撃を受けた。

 奴は執拗に我々を追撃し、共に行動していたバンディット共は逃走、ファクトリーに籠城を余儀なくされる。

 

 我々か、それともHVTが目当てか不明だが奴はファクトリー内部に突入し、戦闘状態に突入。

 3名がやられたが“ハイブリット”の殆どを投入すると、奴は負傷しファクトリーから撤退……だがその隙を狙ってHVTが地下のX-ラボに逃走、この時点での此方の残存戦力はチームの半数である5人とハイブリット一体、増援を要請した後、HVTの再確保のため地下に突入する。』

 

 

 『ワット:下層フロアまでの道が解放されていた、ホロウレイダーがこじ開けたのだろうか、司令部にX-18の情報を要求。

 下層フロアは3方向に別れているため、分散して捜索を開始。

 

 

 

 

 

 

 最初にニコラスとトニーの連絡が途絶えた、トニーの装備が無ければハイブリットは制御不能だ。

 

 レオニードは機械の暴走に巻き込まれ死亡……退却しようとしたが、途中でクシシュトフは何かに引きずり込まれた後、悲鳴が聞こえてきた。

 

 ホールに戻ったら閉じられていた筈の左通路の防護扉が解放されていた。階段への扉は固く閉じられ、ホールから出られなかった。

 仕方なく先に進んだが……………HVTは恐らく死亡しただろう、脱出は望めない。

 司令部に増援の派遣を中止するよう要請したが通信が妨害され─────』

 

 当初は冷静に状況を記録していた傭兵だったが、最後は焦燥し、怯えながら力尽きたらしくそれ以上の記録は無かった。

 残った記録の中で傭兵の身に起きた出来事にリヒターの表情が強張っていく。

 

 「……どう見てもポルターガイストやアノマリーに殺されたって感じじゃなさそうだなこいつら。」

 

 「ああ、追撃者はファクトリーから逃げたとも言っていた……ガスマスク共は他の奴に殺された可能性が高い。」

 

 ここには確実に“何か”いる。

 アノマリーやミュータントでは無いなら一体何が……?

 

 スキフは死体が被っているガスマスクを剥いでみる、そこには恐怖に染まった青白くなった表情が貼り付けられていた。

 そんな傭兵が持っていたショットガンを手に取ると、随分と変わった型式であると気づいた。

 

 一見ドラムマガジンに見える弾倉は外せず、構造からして回転式弾倉であると分かる。

 南アフリカのRDIストライカー12というショットガンによく似た銃だ。側面には「エリミネーター」という刻印が刻まれていた。

 

 スキフは少しだけ考えた素振りを見せた後、エリミネーターをバックパックに結びつける。傭兵の懐には予備の弾が無かったが、弾倉には満タンまで散弾が詰め込まれているので撃ち切るまで使う分には十分だろう。

 

 部屋を見渡すと2つの防護扉がある事が分かる。

 1つはスキフ達が入ってきた扉、もう1つは「培養室」と看板に書かれた部屋へ続く扉だ。

 

 もう1つの方もキーパッドでロックされていたが、傭兵のPDAに四桁の暗証番号があった事を思い出し、それを入力するとギギギ…と防護扉が開いていった。

 

 リヒターと顔を合わせ、最後の部屋へと足を踏み入れて行く────

 

 

 

 

 培養室とあった部屋は半球状のそこそこ広い研究室だった。

 様々な大きい機材がそこら中に散乱し、部屋の奥には人1人入れそうな大量の壊れたポッドが並べられている。

 

 部屋の手前側だけ妙に天井が低いと思ったら実験室を一望出来る個室が飛び出しているようだった。右手に簡易的な階段が設置されていたのであれで登るのだろう。

 

 培養室とあった看板に大量のポッド。

 この世界におけるX-18の役割が何だったのか、スキフは以前見つけたX-ラボの情報を思い出してきた。

 

 「ヤンターで見つけた記録にここの事があったな……確かクローンを作ってたとか何とか。」

 

 「じゃあさっきのコンテナに詰め込まれてた骨はクローンの物だって事か?」

 

 「そうかもしれない……断言は出来ないけどな。」

 

 ヤンターのX-ラボで戦った戦闘兵器カダーヴァー。

 アレの素体はここで作られたクローン人間だった筈だ、コンテナの人骨はクローンの失敗作でも放り込んでいたのだろうか……どちらにせよ胸糞悪くなる光景であったが。

 

 スキフが壁に並ぶポッドを眺めていると、その中の1つに人が入っていた事に気付く。

 周辺の機材からして施設が放棄されて十年は経っているだろうに、そのポッドだけ妙に真新しかった。

 

 中に入っていたのは、白髪の少年で

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 「──────っ!?」

 

 スキフの背中がぞくりとした感覚が襲い、咄嗟にASラヴィナをポッドの中の少年に向けた瞬間──

 

 

 どちゃり、そんな音がスキフの背中で聞こえ、リヒターが驚く声が聞こえてきた。

 

 

 「ス…スキフ! 死体が落ちてきたぞ!?」

 

 「落ちて…………」

 

 天井を見たスキフは絶句した。

 

 先程まで無かった筈の、暗く先が見えない闇から吊るされたロープに首を括られた、研究員や警備員のような服装をした死体達。

 

 死体を吊るすロープが次々と千切れ、スキフとリヒターの上に振り注いできた。

 

 「戻れリヒター!部屋から出るぞ!」

 

 「合点……防護扉が閉まってる!音も何も無かったぞ!?」

 

 直ぐにこの部屋から逃走しようとしたが、防護扉がいつの間にか閉じられており逃げれなくなっていた。

 2人が何とか突破しようとしていると、部屋を埋め尽くす勢いで落ちてくる死体達がゆっくりと立ち上がり、スキフとリヒターに迫って来た。

 

 「上のアレ全部ゾンビかよぉ!?」

 

 「数が多い!吹っ飛ばすぞ!」

 

 ZONEに存在するゾンビと違って銃を持たないだけマシだが、ここまで大量のゾンビに取りつかれたら碌なことにならないだろう。

 数の多さから仕留めしきれないと判断し、スキフはありったけの手榴弾をゾンビ達のど真ん中に転がす。

 

 「граната(グラナータ)!」

 

 周辺の大きな機材に身を隠し、スキフが大声で叫んだ瞬間───培養室の半分近くが盛大に吹き飛んだ。

 爆圧と破片が部屋を満たし、ゾンビ達の身が引き裂かれていった。

 

 手榴弾の爆発による耳鳴りを抑えながらスキフとリヒターが飛び出し、倒れたゾンビたちの頭を撃って止めを刺していく。

 

 落ちてきたゾンビを全て掃討した事を確認したスキフは未だにポッドの中で此方を見つめている少年に武器を向けた。

 

 「おい、これはお前の仕業か?」

 

 少年は何も応えない。

 この少年がコントローラーのような存在(ミュータント)と仮定し、ガウスガンで撃つべきか悩んでいると、足を掴まれた感覚に襲われる。

 

 「なっ───!?」

 

 「こいつら死んでねぇ!?」

 

 頭や身体を粉砕されたはずのゾンビ達が立ち上がり、再度スキフとリヒターに群がってきたのだ。

 ASラヴィナを足下のゾンビ達に向けて銃撃するが全く怯まず、スキフの身体を床に押し倒そうとしていく。

 

 「うわぁ!」

 

 「リヒター!」

 

 近くの機材に上って退避しようとしたリヒターが引きずり落とされ、せめてもの抵抗として迫りくるゾンビ目掛けて自動小銃を乱射するが、虚しくゾンビの山に埋もれていった。

 スキフはライフルのストックでゾンビを殴り倒しながら横目でポッドの少年を見ると、先程まで無表情だった少年の顔が変わっていた。

 

 「この野郎……()()()()()()!!」

 

 楽しむような笑みを浮かべる表情を見たスキフは、苛つきながら少年が入るポッドに向けてASラヴィナのマガジンが空になるまで発砲する。

 ボディアーマーを貫通出来る9x39mm弾はポッドに穴を穿つが、少年は何処吹く風だ。

 それならばとガウスガンを取り出そうとするが、ゾンビ達がスリングにぶら下げたガウスガンのスリングを引き千切った。

 

 「クソッ…離しやがれ……!」

 

 遂にスキフも押し倒され、その上に大量のゾンビが伸し掛かっていく。

 武器を奪われ、押しつぶされ、群がられ、大量の腕がスキフの身体をあちこちに引き裂こうとしてきた。

 視界が暗闇に染まっていく。抜け出そうと身体に力を込めるが大量のゾンビの腕を引き剥がすにはスキフの力では足りなかった。

 

 

 動けないスキフの首にゾンビの腕が伸びる。

 殺される───そう思った瞬間、救いにも、止めにもなり得る現象が巻き起こった。

 

 

 『システム再起動。警告、防護壁に破損あり。施設全体に重篤な影響が────』

 

 

 そんな放送と共に突如脳を掻き乱される感覚に襲われる。

 この頭痛はPSI放射と似た現象だ、唯でさえゾンビに殺されかけているのに泣きっ面に蜂じゃないか────スキフが内心嘆いていると、ゾンビ達の、そしてポッドの中の少年の様子がおかしい事に気づいた。

 

 少年が、ゾンビ達が頭を抱えて苦しんでいる。

 ゾンビに至ってはスキフやリヒターに群がるのを止め、地面に転がり痙攣を起こし始めたのだ。

 

 この部屋に満たされたPSI放射にリヒターも頭を抑えて唸っている。唯一スキフだけが何とか立ち上がり、ポッドの中の少年に向けてバックパックに結んでいた「エリミネーター」を構えた。

 

 「お返しだ……クソガキ!」

 

 スキフがエリミネーターの引き金をを引くと、散弾ではなくドラゴンブレス弾のような“ミアズマ”が発射され、ポッドをエーテルの光で包み込んだ。

 

 銃弾とは打って変わって、ミアズマの侵食は効果があったのか少年は苦しみ、悶え、幼い叫び声が上がる。

 二発目、三発目と次々とエリミネーターを撃ち続け、遂にポッドが崩壊し────ゾンビ達の動きが完全に止まった。

 

 

 『防護壁に異常あり、職員の安全の為、システムの緊急停止を実行────』

 

 

 ポッドが破壊されて直ぐにPSI放射も止まったらしく、放送の後に頭の痛みも治まっていった。

 

 スキフは直ぐにリヒターの下に駆けつけ、無事かどうか確認する。

 

 「リヒター、リヒター!無事か!?」

 

 「なん……とか……危うく首が引き千切られる所だった……」

 

 自身の首を擦りながら生き延びた事に安心したリヒターはスキフが差し出した手を取って立ち上がる。

 だが周囲を見たリヒターは一転、顔を青ざめさせてスキフに言った。

 

 「な…なぁ後ろ。」

 

 「リヒター、まさかポッドの中のガキが復活してるとか言うなよ。」

 

 「逆だ……ゾ…ゾンビもガキも居ない。何も無いんだ。」

 

 「は……?」

 

 スキフは直ぐに振り向き、部屋全体を見渡す。

 

 そこには、倒れたゾンビ達も、白髪の少年が入っていたポッドも、何処にも存在しなかった。いつの間にかリヒターの周りに転がっていたゾンビも居ない。

 

 はっとしたスキフは装備を確かめる。

 ゾンビの群れに押し倒される前、ありったけの手榴弾を使い、今装填しているASラヴィナのマガジンは切れ、ガウスガンのスリングが千切られてゾンビに奪われ、エリミネーターをポッドに向けて数発撃った筈だ。

 

 だが、まるで()()()()()()()かのように武器も弾薬も元に戻っていた。

 

 「PSIの幻覚か……?」

 

 今までPSI放射による幻覚を見ていたのではとスキフは疑うが、幻覚の敵に使用し、破損した装備まで元に戻っているのはおかしい。

 夢を見ていたにしては目覚めが余りにもシームレス過ぎるし、先程結果的にスキフ達を救ったPSI放射の説明がつかない。

 

 一体さっきの少年やゾンビは何だったのだろうと、スキフは呟いた。

 

 「俺達……何に出くわしたんだろうな。」

 

 「さぁな……知りたくもない。」

 

 リヒターの呟きからは僅かな震えが見られた。

 流石にミュータントやアノマリー、エーテル侵食で説明のつかない現象はZONEのガイドと言えど恐怖が勝るようだ。

 

 いつの間にか、閉じていた防護扉は開いており、闇に染まっていた天井も切れかけた電灯が照らす古ぼけた物が存在し、首吊り死体なぞ何処にも無かった。

 さっさと逃げだしたいが、上の個室を見ておかなければならない。

 

 スキフとリヒターは部屋の右側にある階段を上ると、制御室と書かれた扉を見つけた。

 

 「ここで最後だ、あいつが見つからなかったら……」

 

 ────もうここでのリンの捜索は諦めるしかない。

 

 ドアを開け、部屋を覗く。

 制御室と言う名前の通り、下のポッド等を制御するコンソールが並んだ部屋だった。

 

 少しだけドアをくぐって部屋を覗くが、何処にもリンの姿は無かった。

 

 ここにリンは居ない。

 そう落胆し、何か情報が残ってないか部屋に踏み込んだ瞬間─────

 

 

 「えぇ───い!!!」

 

 「グワーッ!!!」

 

 

 突如後方からの女性の叫びと共に鉄パイプが後頭部に直撃し、思わずスキフは地面に倒れ伏す。

 

 スキフを奇襲した女性はすかさず追撃を加えるが、腕力が少ないのかポコポコと言う鉄パイプを振り回しているとは思えない音が鳴っていた。

 

 「このっ!このっ!このぉ!!」

 

 「痛たっ…やめっ…У, мать вашу(マツオバショー)!」

 

 「おいおいおい!やめろアンタ落ち着───」

 

 スキフを殴り続ける女性をリヒターが止めようと動き出したが、後ろに迫られた女性は鉄パイプをリヒターに向けて()()()()()

 

 「あっぴゅう。」

 

 鉄パイプは見事リヒターの金的に直撃。

 成人男性から出たとは思えない声を出しながら、リヒターはその場に崩れ落ちた。

 

 「リヒタァー!?」

 

 スキフは叫びながら興奮状態であろう女性を抑え込む。

 

 その状況で必死に藻掻く相手を仕方なくスキフは冷たい床に、頭をぶつけないよう気をつけながら押し倒す。

 

 近くで見るとまだ未成年にも見える顔立ちの女性は、男に押し倒された事で一気に恐怖の表情に染まる。

 それでも最後まで抵抗しようと暴れ出すので、スキフは仕方なくPTMピストルを抜いて天井に向けて数発放った。

 

 

 流石に銃声は効いたのか、興奮冷めやらぬものの大人しくなる女性。

 

 ZONEには似つかわないその服装、若い女性、そして朧気ながら思い出してきた顔立ち。

 

 出会い頭にトラブルがあったものの、ようやく出会えた事にスキフは薄く笑って話しかけた。

 

 「プロキシの妹だな? スキフだ、助けに来た。」

 

 「スキフ……さん?本当に、スキフさんなの?」

 

 「ああ、正真正銘本物だ。お前も本物だよな?プロキシ。」

 

 リンの方もかつて出会ったスキフの顔を思い出し始めたらしい、落ち着きを取り戻し、安堵から目に涙が滲み始めていた。

 同時に、冷静さを取り戻した事によってスキフに攻撃を加えた事を謝罪する。

 

 「あ…あのっゴメンね!てっきりあいつらがやって来たのかと思って……」

 

 「いやまぁ俺は別にいいんだよ……謝るべきは、あっち。」

 

 「あっち……?」

 

 スキフが指をさした方向にリンが振り向くと、倒れ伏して股ぐらを抑えた姿勢で固まったままのリヒターがおり、魂らしき何かが抜け出し始めていた。

 

 

 慌ててリンがリヒターの魂を身体に押し戻そうとしたのは言うまでもない。

 

 

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