Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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48.ファクトリーから脱出せよ

 

 

 

 『応答せよウェザー・リポート、こちらクラウド10。クラウド11と共に間もなく作戦空域に到着する、オーバー。』

 

 『了解だクラウド10、それぞれの目標へと迎え、他の部隊はレッサーゾーンとコルドンへの進駐を終えつつある、迅速に行動せよ、アウト。』

 

 2機のヘリが、空に点在するアノマリーを避けながらガーベジの上空を進んでいく。

 目的地が違うのか途中で1機が編隊を解き、別の方向へと飛んでいった。

 

 防衛軍が運用しているのと同型の汎用ヘリには完全武装の兵士の小隊がすし詰めになっていた。

 操縦席近くに座る指揮官らしき男が腕時計に目を通すと、立ち上がって兵士達に大声で命令を下す。

 

 「聞けお前ら!間もなくダークバレーに到着する!もう一度言うが俺達の任務はガーベジ南東部の制圧だ!

 レイン1がプラントを担当し、我々レイン2はファクトリーを確保だ!屋上に降下し建物全体を制圧するぞ!」

 

 「隊長、支援部隊の到着は?」

 

 「フォギー隊の連中が陸路で向かっているが少し遅れるそうだ!フォギー4と合流次第、周辺地域に警戒線を敷く!バンディットやホロウレイダー共は全員ダークバレーから駆除しろ!」

 

 指揮官の言葉が終わると兵士達は自分の武器のチェックに入る。

 彼らの持つエーテルエネルギーライフル「TRs 301」やエーテルショットガン「チェイサー13」の安全装置が外され、武力行使の準備が整う。

 

 淀んだ空模様から僅かに差し込む太陽の光がヘリの青と白の塗装を照らし、ゴーグルから覗かせる兵士達の鋭い目は窓から見えるガーベジの大地を、遠くに見えるファクトリーをしっかりと見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───X-18 最下層フロア 

 

 「───つまり、お前はこの制御室にずっと閉じ込められていたんだな?」

 

 「うん、それでどっか開かないかなって思ってあちこち弄ってたんだけど……」

 

 「あの如何にもな赤いボタンを押したら何かの装置が起動してPSI放射が発生、システムが止まって頭痛が治まったと思ったら俺達が部屋に入ろうとしてきたと……」

 

 X-18ラボの地下で怪奇現象に遭遇しながらも、ようやく謎の傭兵達に誘拐されたリンと合流出来たスキフとリヒター。

 

 奇妙な事に地下に逃げ込んだ後のリンはガスマスクの傭兵やスキフ達が同じフロアに辿り着いた事に全く気づいておらず、先程のPSI放射が治まってようやく此方の存在を察知したのだそうだ。

 スキフとリヒターが謎の少年やゾンビ達と激しく戦闘した事や、傭兵達が何者か──恐らく謎の少年──に惨殺されたのも今まで気づかなかった辺り、時空か何かが歪んでいたとしか思えない。

 

 背中に薄ら寒い物が走りるものの、取り敢えずリンと無事に会えた事をスキフは喜んだ。

 股間にリンによる鉄パイプ全力スイングを喰らったリヒターはまだ痛みに唸っている為、彼が起き上がるまでリンがいた制御室にて状況確認を兼ねた雑談を交えている。

 

 次にスキフはガスマスクの傭兵達を奇襲し、ファクトリーまで執拗に追撃し続けた謎の追跡者(ストーカー)について尋ねてみる。

 

 「お前を誘拐した連中を追い詰めた奴について何かわかる事はないか?」

 

 「うーん……あのサイロ?みたいなとこで攻撃受けた時は遠くから狙撃されたってことしか分からないし、私が地下に逃げ込んだ時は銃撃戦の最中だからその人の事はよく見えなかったなぁ。」

 

 「そりゃあそうか、落ち着いて見るなんて無茶な話だ。」

 

 「でもすっごいスナイパーだって事は私でもわかったよ、あいつらが私を連れて森の中走ってる中正確に当ててきたり、まるでトリガーみたいだったなぁ………まさかトリガーが…?」

 

 「確かにあいつならそう言った芸当が出来そうだが……そんな都合よくプロキシが誘拐された瞬間に立ち会うかぁ?」

 

 短い間とは言えヤンターで仕事を共にしたことでスキフもトリガーの実力はある程度分かっている。防衛軍きっての精鋭たるオボルスの狙撃手である彼女ならば長距離狙撃を熟しながら標的の追跡もお手の物だろう。

 

 とは言え、彼女の所属するオボルス小隊はオブシディアン大隊の隷下部隊であってZONE駐留部隊の指揮下には無い。

 新エリー都を取り巻く脅威は多く、オブシディアン大隊はZONE以外のあらゆる場所で任務を遂行しなければならない。ヤンターの任務だって本来はオブシディアンの管轄では無かった筈なのだ。

 たまたまZONEに居て、偶然リンの誘拐を察知し、リンを助けるべくここまでやって来たとはどうしてもスキフは思えなかった。

 

 「でもFairy曰く暇さえあればウチの近くで過ごしてるって言ってたし私がZONEに向かったのに気づいて……あっそれだったらお兄ちゃんが誘拐されて色々調べてた時にビビアンみたくいつの間にか家の中に居て情報収集とか協力してくれてた筈か、最近会えなかったし何処かで任務中だったのかも。」

 

 「聞き間違いか?トリガーが不法侵入する人間だって聞こえたんだが。」

 

 「そんな事言ってないってば! ……まぁよく考えてみれば家を出た瞬間によく鉢合わせたり同じお店に同じタイミングで来たり、私とお兄ちゃんの予定を把握してたりするからちょっと怪しいとこはあるんだけど……」

 

 「どう見ても警察に通報すべき犯罪者(ストーカー)なんだが。何をしてるんだあいつは……」

 

 「トリガーはそんな人じゃないんだってぇ〜!」

 

 スキフの中のトリガーに対するイメージがアノマリーに放り込んだボルトのように壊れていく。

 何ということだろうか、仲間思いで優しい、頼れる女スナイパーはビデオ屋の店長にストーカー行為を働くような人物だったとは。

 

 何とかトリガーの名誉を守ろうとリンがあたふたするがスキフは既に今度再会できたら警察のお世話にならないよう忠告しておくべきか、それとも11号に相談しようかと決心してしまった。

 一方でトリガーが遥々ZONEまでリンを追跡して来てくれたなら心強いと思っている。

 

 「“本当に”連中を襲ったのがトリガーだったら助かるんだがな、ファクトリーから撤退したらしい追跡者(ストーカー)の正体は未だ不明だ。」

 

 「うん、あいつらを襲った理由も分からないし、味方とは限らないから気をつけた方がいいよね。 はむっ……あっ意外と美味しい。」

 

 スキフがバックパックから取り出したエナジードリンクやパンを口にするリン。

 元気そうに見えて寝不足で割と頭が働かなくなりつつあるリンにEhn-ne-Stop(ンナ・ストップ)エナジードリンクは一時的に強い活力を与えてくれる。

 

 「とにかく、プロキシが無事で良かった。もしアノマリーを踏んでいたらどうしようかと思ってたぞ、ここにも幾つかあったのに運が良かったな。」

 

 「えっとね、私何となくアノマリーの気配が分かるみたいなの。多分この前まで雲嶽山で修行してたからかなぁ、あそこ“気”をみたり“術法”っていうエーテルの流れを操ったり出来る人達がいるんだ。まぁ私は師匠や大姉弟子達ほど凄いのは出来ないんだけどね。」

 

 「凄いな、探知機要らずじゃないか……リヒター、そろそろ大丈夫そうか?」

 

 雲嶽山の術法とやらに素直に驚いていると、ようやく調子を取り戻したのかリヒターが起き上がる。

 まだ痛むのか内股気味で立つリヒターを見てリンは罪悪感に蝕まれた。

 

 「本当にゴメンね……助けに来てくれた人に対して酷いことしちゃった。」

 

 「大丈夫よぉプロキシの妹さん、あれくらいへっちゃらだわ。」

 

 「その口調は一体なんだリヒター、頭は打ってない筈だろ。あと何だそのウザい動きは。」

 

 「何よスキフゥ、あたしの何処がおかしいのかしら?」

 

 「どうしよう…!私のせいでこの人女の子になっちゃった…!」

 

 「はぁ……Идиот(バカ野郎)、目を覚ましやがれ。」

 

 わざとらしく身体をクネクネさせるリヒターにイラッときたスキフは取り敢えず手元にあったウォッカ並みの度数のニトロフューエルをぶっかける。

 いきなり強いアルコールを顔面にかけられ、思い切り仰け反ったリヒターは頭を振って目が覚めたかのように辺りを見回した。

 

 「酒くせぇ ……俺は一体何を……」

 

 「わざとじゃないのかよ、さっきのPSIに頭をやられたか?」

 

 あまりにも間抜けな顔をしている辺り精神が女になったのは自覚していなかったらしい。

 

 「えっと…リヒターさんだっけ?私はリン、お兄ちゃんと同じプロキシだよ。スキフさんと一緒に助けに来てくれてありがとう。」

 

 「いやいや、ZONEの何処かにお兄さんが捕まってるんだろ?スキフの友達なら俺の友達だし、プロキシとは知らない仲じゃないからな、喜んで助けになるさ!」

 

 今度こそ調子を取り戻したリヒターにリンが自己紹介をする。今思えばこの2人は初対面だったことをスキフは思い出した。

 2人のちゃんとした顔合わせも終わった事で、スキフはここまでやって来た本題を切り出した。 

 

 「さてプロキシ、プロキシが誘拐された件だが……ああ、お前の兄の話だ、でもプロキシの方にも……待てよ兄妹でプロキシなんだから…………あー畜生。」

 

 プロキシ(アキラ)プロキシ(リン)でややこしくなってしまったのか目元を抑えて俯いてしまったスキフ。

 少し考えた素振りを見せたあと、改めて口を開いた。

 

 「───()()。」

 

 「は、はい。」

 

 今までプロキシと呼ばれ続けていた所にいきなり名前を言われ、思わず敬語になるリン。

 そんな彼女に構わずスキフは続けた。

 

 「俺は()()()を誘拐した連中と、コルドンでお前を誘拐した連中の主犯は同じだと推測している。何か心当たりは無いか?」

 

 六分街で大混乱を起こしてアキラを誘拐しZONEまで連れてきたらしき犯人と、それを追ってZONEまで来たリンの誘拐を試みた存在は実行犯はともかく指示役は同一であるとスキフは考えている。

 そうでなければ駐留部隊の前哨基地を全滅させてまでリンを誘拐する理由がない。

 

 リンの方も自分が誘拐されかけた事で犯人の目星のような物がついているようだった。

 

 「スキフさん、リヒターさん。あいつらが連れていた白い怪物は見た?」

 

 「見たどころか押し倒されて首を食い千切られそうになったよ。間一髪スキフが助けてくれたけどな。」

 

 「その様子だとあのエーテリアスみたいな奴の正体を知ってるんだな?」

 

 リンは頷き、そのまま続けた。

 

 「あれは間違いなく“サクリファイス”の一種だと思う。簡単に説明すれば非道い人体実験を重ねて生まれた、ホロウの外でも活動出来るエーテリアス。

 そして裏でサクリファイスを研究し、完成させた奴らが───讃煩会。」

 

 スキフは久々に聞いたその名に目を丸くした。

 ヤンターのX-ラボや沼地で聞いた組織、奴らがアキラとリンの誘拐に関わっていたと言うのか。

 

 「スキフさんは私とお兄ちゃんが最近まで衛非地区にいた事は知ってるよね?」

 

 「ああ、そこでお前達の求める情報が見つかって俺への依頼が中止になったんだよな。」

 

 「うん、それでね……衛非地区では讃煩会が裏で陰謀を企てていたんだ。その陰謀自体は雲嶽山の皆や色んな人達と一緒に防いだんたけどね。」

 

 「その言い分だとプロキシ兄妹も讃煩会と戦ったように聞こえるんだけど……」

 

 一つ一つ説明していくと長くなるので衛非地区での出来事は端的に説明するリン。

 まるで現場にいたかのようなセリフが気になったリヒターが聞くと、リンはその通りだと答えた。

 

 「そうだよ、直接相対したのは主にお兄ちゃんなんだけどね。それで讃煩会との因縁もあるし、奴らの儀式だのを阻止した恨みを買っていても不思議じゃない。だからお兄ちゃんと私を狙ったんじゃないかなって。」

 

 「相手が讃煩会だと言う根拠は?」

 

 「サクリファイスを沢山作れる技術なんて連中しか持ってないはずだし……スナイパーに狙われてる最中ガスマスクの奴らがサクリファイスの“増援”を呼ぼうとしてたのが聞こえたんだ、結局駄目だったみたいだけどね。

 讃煩会そのものが主犯じゃなくても、間違いなく関わってる可能性が高いと思う。」

 

 実際、信頼出来る者以外に語った事がはずのパエトーン兄妹の素性が讃煩会の「サラ」に筒抜けであった事を思えば、兄妹の顔を覚えて直接狙いに来てもおかしい話でもない。

 それに加えてガスマスクの傭兵達はサクリファイスを何体も保有していたのだ。

 衛非地区での戦いで組織が瓦解し残党の残党レベルに落ちたとは言え、まだ何処かに戦力を隠していたかもしれない。

 

 リンの推測を聞いたスキフは讃煩会の事で少しばかり考えた後、真剣な表情でリンの目を見ながら言った。

 

 「一先ずの目標はZONEの何処かにいる讃煩会の連中を探し出す所からだな。」

 

 「……本当にありがとう、力になってくれて。」

 

 「アキラは俺の大切な友達だし、俺の六分街での悠々自適のマイホーム生活はあいつに掛かってる。

 それにZONEでカルト連中の軍隊(モノリサー)とやり合うのは慣れてるんだ、任せてくれ。」

 

 「そんな連中とやり合ってるの俺見たことねぇぞ。」

 

 リヒターが何か言ってるが気にせずスキフは立ち上がり、リンに手を差し出す。

 

 「ZONEは俺達の庭だ、必ずアキラを助け出して、お前達兄妹を家まで送ってやる……約束だ。」

 

 差し出されたスキフの手を、リンは取った。

 傷だらけの革手袋は、不思議と温かく感じた。

 

 「うん…!頼りにしてるからね「ローナーストーカー」!」

 

 かつて兄妹と始めて会った時に名前と一緒に自身の素性代わりに伝えた言葉を覚えていたのかと内心驚きつつ、普段アキラや友人達に見せているような可愛らしい笑顔に戻ったリンに一瞬こそばゆくなりながらもスキフもハーフマスクの下で笑顔を返した。

 

 リンの手を引っ張って立ち上がらせ、X-18から離れる準備をする。

 

 「さぁ休憩は終わりだ、ここから出よう。」

 「さっきのお化けが出てこないといいけどな……」

 「えっ待って二人共、お化けって何の……」

 「リヒターさっきのはPSIの幻覚に決まってる、いいな?」

 

 また怪奇現象に巻き込まれる前に地下研究所から抜け出そうと、エレベーターホールへ三人で歩いて────ホールに入る直前で足を止めた。

 

 

 ────階段を降りてくる足音だ。

 

 

 スキフの脳裏に、培養室の手前で死んでいた傭兵の記録が蘇る。確かあのガスマスクの傭兵は増援を要請していたと記録に残していた筈だ。

 

 (増援か……それとも酔狂なホロウレイダーか。)

 

 間違いなく前者の可能性が高いとスキフは判断するが、万が一後者だった時の事を考えて自分からは撃たない。

 リンとリヒターを前の部屋まで静かに戻らせ、自分はホールまでの長い廊下に陣取る。

 

 自分が装備する防御力を高める改造を施した「サンライズスーツ」とアーティファクト「コンパス」の物理防護力ならば50口径弾の直撃だって耐えられるのだ、多数の敵に先手を取られてもスキフならば容易く返り討ちに出来る実力もある。

 

 自らの能力と装備を信じ、近づいてくる足音に備える。

 

 数は2人、固まって移動している、ライトが見えない辺り暗視装置を使用しているのか?

 

 廊下の先に人影が見えた、スキフは武器を下ろし、自分から見て左側の壁に寄り掛かりながら、人影に対して友好的な声を掛けた。

 

 「そこのアンタ!助けがほし──────」

 

 「──っ!ホロウレイダーだ!排除しろ!」

 

 この野郎、問答無用かよ。

 心の中で毒づきながらスキフは武器を構え直して寄りかかっていた左の壁を蹴り、右の壁に向けて身体をぶつける。

 事前に相手が撃ってくることを予測していた為、瞬時に対応したスキフの動きに相手は反応出来ず、放たれた銃弾は誰もいない壁を削るに終わる。

 

 すぐさま“敵”は照準を再度スキフに向けようとするが時すでに遅し。

 先に敵の黒いヘルメットと暗視装置にASラヴィナの9x39mm弾が突き刺さり、膝から崩れ落ちる様を見せた。

 

 「レイン2全隊、接敵した(コンタクト)!レイン2-8がKI───」

 

 死んだ敵の相方を排除する為に廊下を一気に駆け抜け、ホールで待ち構えていたもう一人が手に持つTRs 301の引き金を引く直前、静かな地下空間にサプレッサーと排莢音が地下空間に反響する。

 

 音が静まり、たった今排除した敵を改めて見ると───その正体にスキフの表情は苦い物に変わっていく。

 特徴的なスカイブルーの迷彩服に太陽を模したマークは見間違える筈がない。

 

 「クリアスカイ……!」

 

 現在のZONE全域で幅を利かせる大企業──クリアスカイ・コーポレーション。

 その私設軍隊がX-18に入り込み、こちらに容赦無く襲いかかって来たことに、スキフは驚愕を隠せなかった。

 

 (まさかこいつらがガスマスクの傭兵の増援……?)

 

 「大丈夫かスキフ! ……って、こいつらクリアスカイじゃねぇか、厄介な事になるぞ。」

 

 駆けつけたリヒターも意外な相手の正体に驚いている。

 撃ち殺された死体を見てリンは胸の内に嫌悪感が一瞬湧いてくるが、すぐに調子を取り戻す。パエトーンの片割れである彼女はこれまでの人生伊達に修羅場はくぐっていないのだ。

 

 「この人達そんなに手を出したらマズイ人達なの?」

 

 「ZONEで平和維持軍を気取ってる連中だ、手を出した事が知れたら容赦無く報復に動いてくるぞ。」

 

 リンの質問に簡単に応えるスキフ。

 最初に撃ってきたのは向こうなのだからクリアスカイの人間を殺した事に後悔は毛ほども無いが、デューティやフリーダムを上回るZONE最大勢力に向けて銃を撃った事実は変わらない。

 

 倒れたクリアスカイの無線機を取ると、指揮官らしき男が部下に指示を飛ばしていた。

 

 『B3Fの2-7と2-8との通信が途絶した、レイン2全隊は地下にいる敵との交戦に備えろ!』

 

 「向こうは大分お怒りの様だな。リヒター、俺が先行するからお前はリンと守れ。リン、リヒターの背中に隠れてろよ。」

 

 リヒターとリンは頷き、クリアスカイの通信機を懐に突っ込んだスキフは地下2階への長い階段を上っていく。

 

 

 

 

 地下2階と地下3階を繋ぐ階段。

 一番上の踊り場には鉄の柵が設けられており、そこから下を覗き込める構造だった。

 

 2人のクリアスカイが踊り場に陣取り、下からやって来るであろう敵を待ち伏せしていた。

 仲間を殺した敵への警戒と、このフロアを巡回するアノマリー「Lightning Ball(ライトニングボール)」への恐れで額に嫌な汗が流れていく。

 撃たれる危険を考慮して自分からは覗かない──チカチカと辛うじてついていた蛍光灯を破壊し、暗がりでただ只管待ち構えてる戦法を選んだ2人のクリアスカイは、暗視装置の向こう側に敵の頭が覗いて来るのを今か今かと待っている。

 

 

 ───だが、2人の暗視装置に映ったのは、高濃度のミアズマの強烈な光だった。

 

 

 スキフが階段の上で待ち伏せする敵に使ったのは、ガスマスクの傭兵が持っていた回転式弾倉を持つショットガン「エリミネーター」

 

 例の幻覚?の中で襲ってきた謎の少年に撃ったのと同じ物が装填されていたらしく、数発のドラゴンブレスのようなミアズマ弾の雨がクリアスカイ兵を包み込む。

 一発目は暗視装置の視界を潰すのに天井に向けて使用し、二発目以降は怯んだ隙を突いて直接胴体に撃ち込んだ。

 

 スキフは知る余地も無いが、ミアズマ弾はただエーテル侵食を引き起こす兵器では無い、侵食と同時に特殊な配合によって侵食した部位が即座に崩壊を起こし、エーテリアスになる前に死に追い込む弾頭だ。

 仮に助かったとしても致命的なミアズマの侵食が肉体に不治の症状を残していく。

 何と凶悪な兵器であろうか、ガスマスクの傭兵達はこんな物をコルドンの防衛軍に対して容赦無く使用した事にスキフはぞっとした。

 とは言え、人を殺すことに関してはかなり素晴らしい兵器ではあると認めざるを得ないが。

 

 バチバチバチ……

 

 2人のクリアスカイが叫び声を上げながら倒れていくのを一瞥し、踊り場へ上がるとエーテル濃度検出器がガリガリと音を立てていた。

 スキフの放ったミアズマ弾の影響だろうがどうせ「リキッドロック」の効果や「抗侵食除去薬」で侵食が防げるので気にせずスキフは地下2階のフロアを覗き込んだ瞬間────

 

 「くたばれクソったれ!」

 

 「クソっ!?ドラゴンブレスかよ!」

 

 もう一人、反対側にある地下1階に続く階段への出入り口からクリアスカイ兵がチェイサー13をスキフ目掛けてブッ放し、熱と炎の散弾が襲いかかってくる。

 エーテル燃焼剤を詰め込んだ対ミュータント用のドラゴンブレス焼夷弾を装填していたようで堪らず隠れて回避し、エリミネーターだけを外に出してミアズマ弾をお見舞いするが、同じ様に身を隠して回避される。

 

 バチバチバチ……

 

 そこまで広くない部屋でドラゴンブレスとミアズマの応酬が中央のエレベーターを挟んで繰り広げられる。

 ミアズマ弾の特性からして向こうの扉周辺はミアズマの汚染がかなり酷くなっている筈だが、直撃しなければ大した効果が無いのか、それともアーマーの対侵食性能が良いのか、少なくとも相手が勝手に倒れる事は期待出来ない。

 

 バチバチバチ……!

 

 スキフのエリミネーターからカチッという音が鳴る。

 同時に向こうからドラゴンブレス弾の攻撃が来なくなった。

 二人共弾切れだ────スキフは鈍器と化したエリミネーターを抱えたまま踊り場を飛び出し、部屋の反対、ショットガンを持つクリアスカイが隠れている地下1階への階段へと突撃した。

 

 クリアスカイの兵士は結構訓練されているらしい。

 スキフが突貫してきたのを認識すると装填しかけのチェイサー13を捨て、即座に腰のハンドガンを抜いて発砲してきた。

 スキフは顔だけ腕で庇い、その他の被弾はコンパスの効果で無理やり耐え抜く。

 数発命中したのにも関わらず突っ込んで来るスキフに狼狽したクリアスカイを弾無しエリミネーターで顔面を殴りつけ────そのまま階段の奥の方へ飛び込む。

 

 殴られたクリアスカイは踏ん張って倒れるのを耐え抜き、割れた黒いゴーグルから覗かせる軽度のミアズマ侵食を受けた血走った目が、背を向けて伏せているスキフの頭部にハンドガンの狙いを定めた。

 

 バチバチバチィ!!!

 

 「あ───が、が、アアア!!!」

 

 殴られた上仲間を殺された怒りと侵食の影響で背中に意識を向けるのが遅れたのだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()このフロアを根城にするLightning Ball(ライトニングボール)が、階段の出入り口に立っていたクリアスカイに直撃したのだ。

 

 凄まじい電流によって全身からプスプスと焦げた匂いを漂わせたクリアスカイ兵はそのまま倒れ伏し、二度と起き上がることは無かった。

 

 「Давай(今だ)!またアノマリーが来る前に行くぞ!」

 

 すかさずスキフがリヒターとリンを呼び付ける。

 リンは通りすがりにミアズマ弾とアノマリーで酷い死に方をしたクリアスカイを見てしまい吐き気が湧いてくるが必死に押し込んで耐えきった。

 

 『レイン2-4?応答しろレイン2-4!2-5に2-6!? ……畜生め!』

 

 クリアスカイの通信機から歯を食いしばる声が聞こえたと同時に、上の階からも微かな、そして全く同じ声が聞こえて来た。

 

 (待ち伏せしてやがるな……)

 

 足音が聞こえないと言う事は、撤退せずに地下1階の狭い部屋に陣取っているのは明らかだ。

 エリミネーターの残弾が尽き、ミアズマ弾が使えない以上有効な手は1つだけだ。

 

 地下1階への扉近くまで接近し、手榴弾を取り出してピンを抜く。時間を測り、起爆まであと一秒と言う所で部屋に手榴弾を放り込んだ。

 

 「グ────」

 

 敵が最初の一文字を言い終わる前に手榴弾が起爆。

 破片と爆圧がエレベーターと小さな詰所しかない部屋を揺らすと同時にスキフが部屋に突入した。

 

 狭い部屋とは言え中央部にエレベーターがある以上、加害範囲から逃れられるスペースがある。

 そこに向けてスキフは銃を構えると、爆発の耳鳴りで混乱しながらも既にスキフに武器を向けていたクリアスカイが待ち構えていた。

 

 銃声が二種類。

 ASラヴィナとTRs 301の発砲音が同時に響き、ゴーグルが粉砕されたクリアスカイがぐにゃりと倒れこんだ。

 スキフも胸に1発貰ったがアーマーとアーティファクトによって致命傷にすらならないのでこっちの完勝だ───そうスキフは得意げに鼻を鳴らした。

 

 どうやら手榴弾でクリアスカイの1人を派手に吹っ飛ばしたらしい。手足が吹っ飛んだ死体が爆発の跡の近くに散乱していた。

 クリアスカイの通信機からは何も聞こえない───敵は全滅したのだろうか。

 

 「いや、そこか。」

 

 スキフは片手でASラヴィナを小さな詰所に向けて引き金を引く。それと同時に潜んでいたクリアスカイ兵が飛び出し───タイミングよく胴体・首・ヘルメットに風穴を穿ち、そのまま兵士は崩れ落ちた。

 

 「地下に突入してきた連中はもういないみたいだが……上に残りがいるかも知れない、気を抜くなよ。」

 

 あっという間にクリアスカイを制圧したスキフを見て、リンはリヒターに思わず聞いてしまう。

 

 「何となく予想していたけどスキフさんって、かなり強い人……?」

 

 「この際言わせてもらうが対人戦闘はめちゃくちゃヤバいぞこいつ。バンディット数十人を鼻歌交じりで殲滅してくるからな。」

 

 「自分に結構な実力があるのは自負してるけどな、蹴りでミュータント仕留めたり銃弾をナタで弾くような奴を見ればそんな自惚れ吹っ飛ぶんだよ。」

 

 邪兎屋の面々、11号やトリガー、ライカンと言ったこの世界に来てから出会った“強者”と比べれば自分はまだまだアーティファクト頼り──そうスキフは思っている。

 元居た世界だってアーティファクトが無ければ旅路の後半で相対したウォードやモノリスの軍勢を前に蜂の巣にされていただろう。更にはミュータントやアノマリーに殺されかけた瞬間は数知れずだ。

 

 自分は所詮、軍隊経験のある常人に過ぎない───自らへの戒めと共にそう2人に言いつつも、内心悪い気はしないスキフだった。

 

 

 

 地下から抜け出したスキフ達を待ち伏せする兵士も居らずクリアスカイから抜き取ったPDAのIFF反応も無かった事から、どうやらファクトリーに突入してきたクリアスカイはあれで全員だったらしい。

 

 地下へ続く階段がある部屋には外の敷地に繋がる閉じられた鉄の扉が複数あり、内側からなら開くことが出来たのでその内の1つをこじ開け、スキフが外の様子を伺う。

 

 ファクトリーの敷地は変わらず。

 錆びた正門、大きなクレーン、廃車両、オールクリア、目視で敵が居ないことを確認。

 スキフは2人にここを抜けたら何処に向かうか相談した。

 

 「外には敵は居ないな……リヒター、一旦何処かに落ち着ける場所──────」

 

 ブロロ…というエンジンの音が聞こえた、クリアスカイの通信機からつんざくような声が響いた、そして─────

 

 

 ドガァン!!!

 

 

 『フォギー4現着した!小隊展開せよ!』

 

 

 半開きの正門を突き破り、目の前にあった廃車両がひしゃげて横転する。

 ファクトリーの敷地内にスカイブルー迷彩の8輪駆動APCが突入してきた事に、思わずスキフはその名を叫んだ。

 

 「BTR!」

 

 主に東欧諸国でよく使われ、チョルノービリのZONEにもその残骸や一部勢力が運用するのを見かける旧ソ連製の装甲車「BTR-70」ではなく、「Battle(戦闘) Tactics(戦術) Rover(車両)」の略称らしい、クリアスカイが運用するTOPS製の装甲兵員輸送車である。

 

 見た目だけは何処となくBTR-70に似ているクリアスカイBTRの砲塔が、身を隠そうとしたスキフをはっきりと捉えていた。

 

 『動体目標確認、IFFシグナル反応なし、敵と断定、交戦開始(エンゲージ)!』

 

 「伏せろぉ!」

 「うおぉぉぉ!?」

 「わあああ!?」

 

 小型のエーテリアスの群れなら容易く殲滅可能なエーテル機関砲がファクトリーに向けて射撃を開始した。

 機関砲相手にレンガとコンクリートの壁はあまりにも脆く、次々と貫通し弾頭が中のスキフ達に襲いかかる。

 

 スキフは咄嗟にリンを押し倒し、リヒターも頭を抱えてその場に伏せた。

 壁が崩落し、外の光が機関砲弾と共に内部に差し込んでくる。更にはBTRの下部にある昇降ハッチからクリアスカイの小隊がわらわらと降車しスキフ達に銃撃を加え始めた。

 

 このままでは頭を上げるどころか禄に動くことすらままならない。

 スキフはガウスガンを取り出してクリアスカイのBTRに撃ち込むチャンスを伺うが、猛烈な制圧射撃のせいで狙いを定める事が出来ない。

 

 「スキフさ…ごめ……おもいよ……!」

 

 「ぐっ……我慢しろ!今動いたら死ぬぞ!」

 

 「いってぇ!?動かなくてもその内死にそうだよ俺達ぃ!」

 

 スキフの下敷き……もとい覆い被さられているリンが苦しそうに藻掻いているが、機関砲と銃弾の雨が降り注ぐ状況でアーマーもアーティファクトも無いリンが身を起こせば悲惨な事になるだろう。現に銃弾が数発、伏せているスキフとリヒターに当たっているのだ、リンを守るための致し方ない処置である。

 

 だがリヒターの言う通り、このままではジリ貧、何とかしてこの場を凌ぐ方法は─────

 

 

 

 「フォギー4-3、ランチャーを使え!」

 

 「イエッサー!」

 

 クリアスカイの隊長が部下に命じると、背中に背負ったロケットランチャーを担ぎ始める。

 狙いはスキフ達が伏せている壁が崩落した部屋、爆発物で諸共吹き飛ばすつもりだった。

 

 ランチャーを肩に担ぎ、照準スコープを部屋の中に定める。

 そしてランチャーのトリガーを押した瞬間───クリアスカイ兵の後頭部から強く殴られた感覚が襲ってきた。

 

 頭がガクンと下がり、ヘルメットの後ろには穴が空き、ゴーグルからは血を噴き出していた。

 その状態でトリガーが押されたロケットランチャーは地面に向かって放たれたが、安全装置のお陰でその場で起爆せず、地面をバウンドして()()()()()()()()()()()()()()爆発を起こす。

 

 ロケット弾頭が一部の骨組みを吹き飛ばし、ギギギと大きく軋んでいく。

 クリアスカイ達は呆気に取られクレーンを眺めていたが、その内の一人が頭を撃たれた事で我に返った。

 

 「4-7が撃たれ───ガッ!」

 「また殺られた!何処だ、何処から撃ってきてる!?」

 「後方だ!スナイパーが狙ってる!」

 「こっちにクレーンが倒れてくるぞぉ!」

 

 『ドライバー後退しろ!下がれぇ!』

 

 倒れゆくクレーンを避けるため、射撃を止めたクリアスカイとBTRが後退を始める。

 凄まじい音を立ててクレーンはファクトリーの外側に倒壊し、巻き上がった粉塵が辺りを包み込んだ。

 

 『スモーク散布!』

 

 BTRの砲塔に設置されたスモークディスチャージャーが後方に向けて広く煙幕を展開する。

 これで暫く狙撃は来ない筈────そうクリアスカイ車長が判断し、キューポラから敵が隠れているであろうファクトリーの建物に意識を向けた瞬間、車長の目が大きく見開いた。

 

 

 粉塵の向こうで何かが光り輝いていた。

 

 

 急いで砲塔を建物に向けるよう砲手に命じたが、それよりも早く閃光が粉塵に大穴を空ける。

 

 閃光はBTRの前面装甲を貫通し、内部の乗員全員を引き裂き、エーテル動力炉を粉砕してBTRの尻まで通り抜けた挙句、後方のスモークすら貫いた。

 動力炉が破壊された事でエーテルエネルギーが炸裂し、BTRの砲塔と全てのハッチ、周囲のクリアスカイ諸共吹き飛ばして爆散する。

 

 粉塵が引いていくと、崩落した建物からガウスガンをフルチャージで放ったスキフがそこに立っていた。

 炎が上がるBTRを一瞥すると、ヘリが近づいてくる音が聞こえて来た。

 

 『レイン2、フォギー4応答せよ。こちらクラウド10、何が起きた、誰か残っていないのか!?クソっ………レイン1、フォギー3、今すぐファクトリーに迎え!』

 

 「ちっ……どれだけ投入してるんだよ。」

 

 クリアスカイの通信機から此方に向かえとの指令が聞こえ、今すぐ離脱する判断をスキフは下した。

 

 「リン、リヒター、怪我は?」

 

 「私は大丈夫…でも2人共凄い撃たれてるよ!何処かで治療しないと!」

 

 「大丈夫だって妹さんよ、これくらいかすり傷だっていちち……」

 

 心配するリンをよそにスキフとリヒターが回復キットを撃ち込むとすぐに銃創が塞がる。それを見たリンは回復キットの効能に目を丸くしていた。

 

 「えっ嘘、どうやって……そう言えばお兄ちゃんがZONEの薬は凄いって言ってたような……」

 

 「久しぶりに見た新鮮な反応だな……だが驚いている暇は無いぞ。増援が来る、すぐにここから離れよう!」

 

 3人は急いでファクトリーから出ていく。

 目を避けるため表の道路ではなく裏の森に向かって移動していった。

 その前に、スキフは正門があった場所の更に向こう、クリアスカイに混乱を巻き起こした“誰か”を睨みつける。

 何とか見つけ出そうとしたものの、クリアスカイの増援が来る為諦めてさっさと離脱していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファクトリーから遥か西。

 「デポ」と呼ばれる列車倉庫の東側にある、廃車両や鉄屑が捨てられた小高い丘。

 遥か遠く、木々に遮られながらも辛うじてファクトリーを見渡せるその地点に、スキフ達をスコープに捉えたスナイパーが居た。

 

 怪我をしているのか血が滲んだアーマーを来ているスナイパーはリン、リヒターと照準を移動させ、此方を睨んでいたスキフを収めた途端に手が止まる。

 

 「まさか………」

 

 スナイパーの小さな呟きは風のさざめきの中に消えていった。

 

 

 






 酷い目に合わせてゴメンねクリアスカイ……でもStalkerで2番目に好きな勢力だからもっと出すよ君たち(1番はモノリス)


 今話に出てきたミアズマ弾のイメージはFalloutに登場するガンマ線銃みたいなもんだと思って下さい


 本文にクリアスカイの小隊と出てきますがゼンゼロやってると防衛軍の小隊の規模がいいとこ分隊レベルの人数っぽく見えるので、1個小隊5〜10人規模のつもりで書いています
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