Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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49.キストハリウカのバンディット

 

 

 

 ファクトリーを襲撃したクリアスカイを凌ぎ、増援から隠れる為安全な場所へと退避したスキフ達。

 ガーベジ南東部に広がる森の中に一度身を隠し、アノマリーやミュータントがいない場所でキャンプを張る事にした。

 

 スキフは焚き木で暖まっているリンにZONEでの必需品を分け与え、使用方法を説明している。

 

 「これが回復キット、アーティファクトの効能が入った薬で死んでいなければ大抵の傷を治せる。

 こっちは抗侵食除去薬、エーテリアスになっていなければどんな侵食でも治すことが出来る。

 2つともZONEの中でしか使えないが、その分強力な効果を持つ必要不可欠な回復薬だ、怪我や侵食を受けたら迷わずこれを使え。」

 

 「お兄ちゃんがZONEの薬についてあれこれ言ってたけどやっぱりまだ信じられないなあ、怪我もエーテル侵食もこれ1つであっという間に治せるなんて……こんな凄い物があるのにZONEでの死傷率が零号ホロウ並みに高いのおかしくない?」

 

 「零号ホロウがどんな所か俺は知らないから何とも言えないが、ZONEでは結局薬を打つ暇も無くくたばるのが殆どだ。そう多く手に入る物でもないし。」

 

 特に回復キットは重要だ、スキフは傷を癒す力を持つZONEの至宝「ハート・オブ・チョルノービリ」を保有しているとは言え、それだけで銃撃の被弾やミュータントからの一撃を常に凌げる訳では無い。

 

 一方で最高レベルの放射線防護──もとい、この世界ではエーテル侵食防護効果があるのか、リキッドロックを所持しているお陰で抗侵食除去薬を自分に使ったことは今までで一度も無いのだが、それでも何かあった時のために幾つか常備している。

 

 かつて薬が無い状態でひぃこら言いながらZONEを歩いた経験を持つスキフは、これらを最低一つは懐やバックパックに忍ばせていなければZONEを出歩こうと思わないだろう、無いならないでしょうがないが。

 

 「その割にはスキフさんのバックの中に沢山あったけど……」

 

 「……そこらで拾ったりトレーダーの所で買い溜めしてるだけだ。沢山持ってても少し重い以外のデメリットは無いからな。」

 

 確かに弾薬補給のついでに購入したりしているが、スキフの持つ薬の大半は死んだ人間や殺した敵から手に入れた物である。

 もちろん殺した相手は襲ってきたバンディット──は碌な物を持ってないので反乱軍やTOPSが雇った傭兵、先に撃ってきたホロウレイダーばかりだし、不幸にもミュータントに襲われて亡くなった人間の持ち物なんてZONEでは万人の物だ。

 

 一人一つ持っていると仮定すると、十人の死体からは十個の薬が手に入る計算である。

 どうせZONEの大地でそのまま朽ち果てるくらいなら誰かに拾われて使われたりトレーダーに売られた方が物資も喜ぶのだ、きっとそうに違いない。

 時間が許すならファクトリーの戦いで仕留めたクリアスカイ兵を物色したかったほどだ。

 

 (まぁそんな事堂々と言って引かれても嫌だからな。ニコは自分の稼ぎになると聞いた途端、調子を良くしていたが……)

 

 殺し合い事自体はホロウの中でもよくある事だろうが、殺した相手や死んだ人間からケツの毛まで剥ぎ取っていくのはZONEの人間特有の生態なのだろうか。

 そんな事を思いながら自分のアノマリー探知機を外してリンに手渡した。

 

 「術法とやらでアノマリーがわかるようだがこれも持っておけ、万が一を防げるからな。俺は自分の経験で対応出来る。」

 

 「ありがとう、本当はお兄ちゃんがZONEから持ち帰ったやつがあったんだけどあいつらに攫われた時に捨てられちゃって、同じ時にPDAも壊されたんだ。」

 

 「どうりでそっちのPDAの逆探が出来なかった訳だ、本当にトラッパーが居なきゃリンを見つけられなかったな……」

 

 「トラッパー?スキフさんの友達?」

 

 「まぁ…戦友ってとこだ、ミュータント狩りを生業としているハンターでな、そいつが誘拐犯共の足跡を追跡してファクトリーまで連れてきてくれたんだ。」

 

 「そっかぁ…今度会ったらありがとうって伝えといて!」

 

 「ああ…分かった。」

 

 「おっすお二人さん、ただいま帰還しましたよっと。」

 

 リンの言葉にスキフが頷くと、森の中からリヒターがやって来た。

 ここにキャンプを張ってからリヒターはガーベジとレッサーゾーンの境界を調べに偵察へと出ていたのだ。

 

 「レッサーゾーンには行けないな、クリアスカイが重装備の検問敷いてしっかり封鎖してやがるせいで近づくと撃たれる。幸いと言えば地域間の移動が出来ないだけで地域内は自由に動ける様だが……」

 

 「2人共、どうしてもコルドンに戻れないかな?師匠達が居れば讃頌会との戦いで凄く頼りになるんだけど……」

 

 ZONEへ来る前に儀玄に連絡を入れ、共にアキラを取り戻す為にコルドンで合流しようとノックノックでメールを残しておいたリン。

 まさか儀玄の方は一緒にZONEに向かうつもりだったとは露知らず、コルドン前哨基地は端っこだから危険は無いだろうと先に1人でZONEに来てしまったのがリンが誘拐されかけた遠因なのだが───一先ずそれは置いておこう。

 

 メッセージを残しておいたなら連絡が取れなくともコルドンには来ている筈……そう思い、まずは儀玄や雲嶽山の門弟達と合流しようとしたのだが、リヒター曰く現在地から1番手っ取り早くコルドンに向かうルートがクリアスカイによって封鎖されてしまったらしい。

 ならばとスキフは他のルートを模索し、リヒターに問いた。

 

 「レッサーゾーンが無理ならワイルドアイランドを経由するルートはどうだ?少し危険だが俺達ならリンを連れて突破出来る。」

 

 「うんにゃ、検問のクリアスカイの会話を盗み聞きしたら連中コルドンも封鎖してるみたいだ。どうやら新エリー都から大量のトラックを運び込むからルートの安全確保の為にレッサーゾーンとコルドンに進軍したみたいでな。ファクトリーにやって来た連中もガーベジからバンディットの南下を防ぐ為にガーベジ南部に警戒線を敷きに来たんだと。

 ついでに言えば、ファクトリーの一件で奴らめちゃくちゃ殺気立ってる、突破するのは得策じゃない。」

 

 コルドンに行くのは無理か───無理やり検問を突破する事も考えたが、レッサーゾーンやコルドン全体にクリアスカイが進駐しているならば下手に喧嘩を売れば圧倒的戦力で此方が殲滅させられるだろう。

 

 そして、スキフはファクトリーを占領しようとして自分達に襲いかかって来たクリアスカイの兵士達について顎に手を添えて考えた。

 

 (奴らがファクトリーに来たのはあの傭兵達の増援じゃなくて偶然?それにしてはタイミングが良すぎるが……)

 

 クリアスカイと讃頌会の手先らしきガスマスクの傭兵に関係があるかもしれないと思ったが、証拠が見つからない以上どれだけ考えても憶測の域を出ない。

 

 「その内封鎖は解けるだろうが……アキラの安否も行方も分からない以上、雲嶽山とやらを悠長に待ってる暇は無い。」

 

 「何とかして師匠に私達のこと伝えられないかな?もしかしたらコルドンに来てるかもしれないし。」

 

 「実はさっきからコルドンの知り合いに連絡を入れてるがうんともすんとも言わないんだ。」

 

 シドロヴィッチかウルフに伝言を残そうとしたが、何故かメッセージの送信も通話も出来なくなってしまった。

 まさかクリアスカイがルーキー村に何かしたのではと勘繰ったが、リヒターはそれについても調べて来たようで、何かの紙をヒラヒラと取り出していた。

 

 「クリアスカイは襲撃対策にレッサーゾーンとコルドンで通信妨害をしてるらしいんだ、彼処で通信が出来るのはクリアスカイか駐留部隊だけ。

 駐留部隊と言えばコルドン前哨基地が壊滅したから防衛軍もめっちゃブチ切れてる。話じゃZONE外周の完全封鎖を始めたみたいでな、そのせいでクリアスカイと大揉めよ、暫く封鎖は解けないだろうね。」

 

 盗み聞きしてきただけではなく作戦指示書か何かも盗み取って来たらしい。リヒターの技能に感心しつつ、孤立無援かとスキフは心の中で毒づいた。

 リン曰く、師匠は新エリー都最強と名高い「虚狩り」級の実力の持ち主との事だが、そんな人材がいる雲嶽山の者達がこの場に居ないのなら戦力外と同義、今は自分達だけでアキラを助けるしかない。

 

 「リン、悪いが雲嶽山の連中と連絡を取り合うのも無理だ。封鎖が解けるまで俺達だけでやるしかないな。」

 

 「うん……あっそうだ、お兄ちゃんの事を知らせた人がここで合流しようって言ってたんだけど……」

 

 そう言ってリンがアキラがZONEに誘拐された事を伝えた謎の人物、その仲間との合流地点を示した座標を書いたメモを手渡す。

 だがその地点はクリアスカイによって封鎖中のレッサーゾーンの中にある上、リンが誘拐されたタイミングの良さからスキフはその情報提供者を酷く怪しんでいた。

 

 「こう言っちゃなんだが……こいつに言われてZONEに来たらすぐお前が誘拐されたんだよな?罠としか思えない。」

 

 「それにしては「虚狩りを連れてこい」なんて言ってたしなぁ……罠だとしたらそんな自分達に不利になること言うのおかしくない?」

 

 リンの言い分に罠と主張するスキフも一理あると感じる。

 リンは儀玄という虚狩り級の人間を連れてくるつもりだったのだ、これを想定に入れて彼女を誘拐するとなると讃頌会の残党は虚狩りすら相手取れる戦力を保有している事になる。

 

 そんな強い存在がZONEで活動しているならば噂くらい聞こえてくる筈なので、リンの言う通り情報提供者はシロかもしれない──だとしても合流地点がレッサーゾーンにある以上、こちらも雲嶽山と同じく接触は難しい。

 取り敢えず、手元にある確実な証拠を当てにして讃頌会を調べようとスキフは決めた。

 

 「まずは最初の手がかりを追う、ガスマスクの傭兵が引き連れていたアグロプロムのバンディットだ。俺が思うにあのバンディット共は讃頌会に深く関わってる可能性が高い。」

 

 「衛非地区の讃頌会も大きな組織と手を組んでたし、ZONEでの活動を手伝ってるのかも。」

 

 金で雇われて傭兵まがいの事をするバンディットは珍しくないが、大抵は小規模なグループが金に目が眩んで肉壁や露払い等に利用されているのが関の山だ。

 一方で大規模なバンディットの組織となると組織の維持の事も考えているので余程のことが無ければ余所者に金で雇われることはない。

 コルドンを襲い、死んでいたバンディットは数十人はいた、それ程の数の兵隊を1人の女を誘拐する為の肉壁として供給するボスは居ないだろう。

 アグロプロムのバンディット勢力が讃頌会の手下として動いているなら話は別だが。

 

 パエトーン兄妹がこれまで出会って来た讃頌会もヴィジョンやポーセルメックスといった企業を利用してきた事を考えれば、バンディットを利用していてもおかしくないとリンは結論付けた。

 

 「それじゃあスキフさん、次の目的地はアグロプロムってところ?」

 

 リンの質問にスキフは首を振った。

 

 「アグロプロムのバンディットがどうやって集まったのか不明な点が多い……だが、色々知ってそうな奴がいるんだ。

 今から「ヨーガ」って奴の所に向かう、お前が交渉してくれリヒター、奴とは顔見知りだろ?」

 

 ヨーガ、その名を聞いたリヒターは思いっきり顔を顰めた。

 

 「ヨーガとかぁ?別に構わないけどよお、俺アイツ嫌いなんだよな。アイツがガーベジで王様やってた時に何回通行料取られたことか。」

 

 「俺はザトンでの戦争でヨーガを殺し損ねた、その時に顔を覚えられた可能性があるかもしれない、余計なトラブル回避の為だ。」

 

 戦争や殺し損ねたなどの物騒な言葉が聞こえたリンは思わずスキフに聞いてしまう。

 

 「せ…戦争って何があったの?」

 

 「前にガーベジとザトンの間で派閥戦争(ファクションウォー)が起きてな、まぁ行きがけに話すよ。」

 

 そう言うとスキフ達はキャンプを離れ、目的地へと向かっていった。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 ───キストハリウカ

 

 ロストクから南に暫く行った場所にある廃村。

 

 特にアノマリーが集まるポイントでも無く、ミュータントくらいしか見当たらない場所ではあるが、現在は良からぬ連中が巣を張っているとバーキープから聞いた。

 

 敵意が無いことをポーズで示しながらスキフ達が廃村に近づくと、入口で見張りをしていたガラの悪い男が此方を睨みつけてくる。

 ZONEの何処にでもいるバンディットは粗末な武器を向け、威勢の良い声で威嚇し始めた。

 

 「それ以上近づくとブッ殺すぞ!」

 

 バンディットお決まりの脅し文句を気にせずリヒターは両手を上げながら笑顔で返答した。

 

 「お前らのボスに用があるんだ!ヨーガにリヒターが来たと伝えろ!」

 

 「リヒターだと?」

 

 バンディットは怪訝な表情をしながら自分のボスに連絡を入れる。

 暫くしてリヒターを怪しむように見たあと、廃村に入るよう促した。

 

 「ボスがお前らを入れていいとよ、だがおかしな真似をするんじゃねぇぞ。」

 

 キストハリウカに入ると数人のバンディット達が屯しており───更に反乱軍の小隊が村の中に混じっている事に気づいた。

 顔が隠れるようフードを目深に被っているスキフはバンディットと共にいる反乱軍を見て小さく舌打ちしてしまう。

 

 「反乱軍も居たとは想定外だったな……交渉が決裂したらマズイかもしれない。リン、一応備えておいてくれ。」

 

 「わかってる、万が一バンディットが襲ってきた時に反乱軍もいたら手強いって事でしょ?」

 

 「その通りだ、ヨーガは落ち目のバンディットだから手勢も僅かしかいない、襲われても返り討ちに出来るが……反乱軍の小隊まで敵に回るとかなり厄介だ。」

 

 周りに聞こえないよう、小声で話すスキフとリン。

 数人くらいのバンディットなぞ大した相手ではないがそこに完全武装の反乱軍まで加わるとスキフはともかくリンやリヒターの身が危険だ。

 せめてリンだけでも何処かに置いていくべきだったか? そう思ったがヨーガの居る家に辿り着いた為、リヒターの交渉が上手く行く事を願うしかない。

 

 キストハリウカの中心にある、周りより多少大きめの木造の家に入ると、身体をすっぽり覆う黒のロングコートに如何にも人相の悪い男が行儀悪くテーブルに足を乗せた状態でソファに座っていた。

 その近くには重厚なアーマーを着込んだ「重装砲兵」という兵種の反乱軍が腕を組んでスキフ達を睨んでいる。

 

 ロングコートを着たバンディット──ヨーガはリヒターが来るやいなやリヒターの足下に唾を吐き捨てて歓迎した。

 

 「どの面下げて俺の所に来やがったんだリヒター?“延滞金”を返しに来たってんなら歓迎するがよ。」

 

 「延滞金ってガーベジ通る度にせびられた通行料を払わなかったことかぁ?腹心に「ボタ山」から追い出されて遂にオツムもイッちまったかヨーガ。」

 

 「テメェ…!俺が一声掛ければ手下共が襲ってくるって分かってんだろうなぁ!?」

 

 リヒターの返しにカチンと来たのかテーブルを蹴り飛ばして勢い良く立ち上がる。

 思っていたよりも大柄で長身だったこともあり、リンは少しだけ威圧されるがヨーガの実情を知るスキフとリヒターからすれば単なる虚勢に過ぎない。

 

 ヨーガの脅しにリヒターは臆せず続けた。

 

 「いいか、お前はもうガーベジの王様じゃないんだ。“権威”だの手下だの当てに出来ると思うなよ。」

 

 スキフ達の目の前にいるヨーガと言うこの男。

 かつてはZONEのバンディットの大半を纏め上げ、ガーベジを完全に支配していたバンディットの王様であった。

 というのもクリアスカイとTOPSの介入でロストクからデューティと言う頂点捕食者が去り、更にガーベジで活動していた「ビス」を始めとしたホロウレイダーのベテラン達が死亡するかガーベジから去るかで出来た空白地帯をヨーガ率いる集団が瞬く間に埋めていったからだ。

 

 当時のクリアスカイやTOPSがバンディット相手に大して動きを見せないのを良い事にヨーガはガーベジ全域を支配し、地域の境界に多数の人員を配備して道行くホロウレイダー達に“通行料”の支払いか銃弾を食らうか選ばせ、多くのホロウレイダーから恨みを買っていたのは記憶に新しい。

 

 最終的にヨーガの天下は「ZONEのバンディットを統一する」という野望を掲げてザトンに侵攻し、サルタンと彼に手を貸したビアードによって撃退され、挙句に手下からクーデターを起こされ崩壊してしまったのは僅かな手勢と共に廃村に引きこもっている目の前の彼を見ればわかる事だ。

 

 「そんなお前に朗報だ、ガーベジで辛酸を舐めさせられたガイド達がお前を殺す為にばら撒いた殺しの依頼、俺がトレーダーに掛け合って取り消してやるよ。その代わりアグロプロムのバンディット共について情報を教えろ、お前の手下だった奴も多数いる筈だろ?」

 

 「はっ!お前が依頼したの間違いだろ? 俺は暗殺なんか怖かねぇ、さっさとあの時払わなかった通行料を払って出直しな、さもなくば……ハチェット!」

 

 ヨーガが指を鳴らすと、隣にいた反乱軍の重装砲兵がのっそりと武器を構え始める。

 スキフが周りに意識を向けるとこの家をバンディットと反乱軍の小隊が取り囲んでいたのに気付いた。

 スキフとリヒターは何時でも戦闘になっても良いよう武器を握り締める。

 

 だが、防衛軍のような軍事訓練を受けている筈の反乱軍達のやる気の無さそうな、のそのそした動きを奇妙に思ったリンが目の前の重装砲兵──「ハチェット」に話しかけた。

 

 「ねぇ、あんた達って何でバンディットなんかと手を組んでるの?」

 

 「……腹が減ってるからな、明日の飯の為に日銭を稼がなくちゃいけない。最近のクリアスカイの活動のせいで反乱軍は肩身が狭いんだ。ZONEから出て行きたくとも上の命令があるから帰れもしない。」

 

 「おいハチェット、余計なお喋りするんじゃねぇ。」

 

 意外にもペラペラと事情を話してくれた隣の男にヨーガが怒気を飛ばすがハチェットは鼻で笑って見せる。

 反乱軍の反応にリンはチャンスを見い出し、そのまま会話を続けた。

 

 「だったらこんな落ち目の“元”王様なんかよりもっと稼げる依頼があるんじゃない?」

 

 「このアマ……!」

 

 「こいつ(ヨーガ)がロストクに居るTOPSの役員を誘拐して身代金を手に入れるって計画を立ててな、その為に我々を雇ったって訳だ。まぁ、あーだこーだ言い訳されて一週間以上も計画が延期させられてるが。」

 

 「ハチェット!いい加減その口を閉じやがれ!」 

 

 怒鳴り散らかすバンディットのボスにハチェットはうんざりしているのが丸わかりな動きでヨーガの方へと振り向いた。

 

 「いい加減にするのはそっちだ。貴様の魂胆は分かってるぞ、我々を雇ったのは計画の人員確保ではなく暗殺者に対する身辺警護だろう。長期間雇う金が無いから誘拐計画や身代金で誤魔化そうとしている、違うか?」

 

 「ぐぅ……」

 

 図星だったのか唸るしか出来ないヨーガを見下すハチェットだが、依然としてスキフ達に武器は向けたままなのは変わらない。

 今度はリンの方に銃口を向けながらハチェットは続けた。

 

 「とは言え、安月給でも雇われの身である事には変わらん。お前達を撃とうが撃たなかろうがどうでもいいからな、必要なのは飯代だ。」

 

 (流石に口八丁だけで味方になってはくれないかあ……)

 「……それじゃあ、幾ら払えば撃たないでくれる?」

 

 「20万、これだけあれば当座を凌げる。それを払えるってならこの場から手を引こう。」

 

 「ハチェットテメェ!?」

 

 そんなお金持ってる?そんなセリフを顔に貼り付けながらリンはチラチラと2人を見るがリヒターは無念と言った表情だ。

 リヒターはそこまで纏った金を持っていないし、言わずもがなリンはZONEに於いては無一文だ。

 

 一方スキフは躊躇なくPDAを取り出し、スイスイとハチェットに向けて操作し、自分の口座から相手に送金を終わらせる。

 

 「支払いの早い奴は好きだ、これで旨い物が食える。」

 

 自分のPDAに送金された事を確認したハチェットは満足そうに頷き、家を包囲する反乱軍の小隊に手を振ると、困惑するバンディット達を置いて反乱軍は武器を下ろし何処かへ去っていく。

 

 呆気なく見捨てられたヨーガはわなわなと肩を震わせ、ハチェットを強く睨みつけ、唾を飛ばしながら叫んだ。

 

 「この野郎裏切りやがって!計画が上手く行けば大金が手に入るからそれを払うと言ったじゃねぇか!今すぐ反乱軍の連中を戻せ!」

 

 「裏切る?数千ディニーぽっちの前金と口約束の大金なんかより、即金で払ってくれたこいつらの方が優先されるに決まってるだろう。

 こっちは何度も長期間の依頼になるなら追加の金を払えと言ったのにお前は無視してきたよな?

 そんなケチくさい性格だから「ボロフ」に裏切られてボタ山から逃げ出す羽目になるんだ。」

 

 最後にそう吐き捨てるとハチェットは重たいアーマーを揺らしながら家を出ていき、他の反乱軍達へと合流していった。

 反乱軍がいなくなった家の中で、リヒターはヨーガに最初に言った提案を改めて言う。

 

 「さぁヨーガ、やっすい金でお前を守ってくれた反乱軍はもういない、大人しくアグロプロムの連中について知ってる事を吐け、そうすればお前の命を狙う奴が減るぞぉ?」

 

 反乱軍が居なくなれば残りは粗末な武器しか持たないバンディット数人だけ、こうなれば相手が襲ってきてもスキフとリヒターだけでリンを守りながらバンディット達を容易に制圧出来る。

 忌々しくリヒターを睨んだヨーガだったが、大人しく提案を飲むしか道は無かった。

 

 

 

 

 「───つまりアグロプロムのバンディットのボスについては何も知らないのかよ?」

 

 「下っ端共は俺の下にいた奴が多くいるが、ボスや幹部連中の顔は見たこと無い奴らばかりだ、バンディットなんざ殆ど新エリー都で手配されている犯罪者ばかりだから名前くらいは聞いた事あるのにアイツらの事は全く聞き覚えがない。

 それでいて豊富な資金を持ってるに違いねぇ、手下の扱いは粗末だが払いは良いって話だ。」

 

 「お前は支払い悪いし手下の扱いも雑だったしな。」

 

 リヒターの煽りにヨーガが青筋を立てるが、何かを思い出したようでそのまま話を続ける。

 

 「それと……1つ気になる事があったな。」

 

 「気になること?」

 

 リンが聞き返すと、ヨーガはその事を話し始めた。

 

 「お前達が来る少し前にアグロプロムの組織から抜け出したって野郎を捕まえてよ……まぁとっくに殺したんだが、地下で何かやってるらしい。」

 

 「………地下のX-ラボの事か?」

 

 ボソリとスキフが呟くと一瞬ヨーガは訝しんだ表情をしたが、スキフの言葉に頷く。

 

 「確か彼処の地下はそんな名前の施設だったな、知ってるだろうがアグロプロムには蜘蛛の巣みたいに地下通路が張り巡らされてる。

 抜け出した奴曰く彼処の地下で化け物作ってるのを見たんだとよ、今思えば生かしてもっと情報を搾り取ればよかったぜ。」

 

 化け物───恐らくサクリファイスの事だろうとスキフ達は推測した。

 アグロプロムの地下にはX-5という研究所が存在する、讃頌会はX-5を再利用してサクリファイスを作っているのでは無いか?

 

 リンはもっと詳しい事を聞きたがったが、それを知っていそうな人物はとっくに殺されており、それ以上ヨーガは何も知らなさそうだったのでリヒターは話を終わらせた。

 

 「情報ありがとよ、後で依頼の取り消すよう頼んどくから暫く派手に動かず大人しくしとけ。」

 

 「どうせガイド共から狙われなくたってボロフの野郎が俺を殺しに来るんだよ、さっさと出ていけクソ共が。」

 

 「よぉし君たち、さっさとこんな所から出て行こう!ここにいるとバンディットになっちまう。」

 

 「………ちょっと待て、そうお前だフードで顔を隠してる奴。」

 

 3人はキストハリウカを去ろうとするが───その前に、スキフをヨーガが呼び止めた。

 

 「………何か?」

 

 「テメェ前にどっかで会った事あるか?」

 

 「さあな、バンディットの顔なんて一々覚えてられるか。」

 

 スキフとヨーガは一度真正面から殺し合っている。

 ガーベジとザトンの戦争中、スキフはザトン側で参加していた。

 ホロウ化した沼地から帰還した実力を買ったサルタンがスキフを雇い、ザトンのバンディットやホロウレイダーと共に、この世界では完全なバンディットに支配されているボタ山にふんぞり返るヨーガを殺害しに行ったのだが……

 

 ボタ山に居た幹部や手下の大半の殺害に成功するも、肝心のヨーガだけは仕留め損ね、後を追おうとした矢先にエミッション(光熱放射)に遭遇し無念にも逃げ果せられた。

 

 とは言え、幹部達が壊滅した事とヨーガの逃走によってガーベジのバンディット達は急速に結束力を失いザトンから撤退、身を隠している最中に彼の腹心であったボロフという男に裏切られボタ山を奪われた為、敢え無くヨーガはガーベジから叩き出された。

 

 失脚の原因を作り、割と派手に殴りあい撃ち合い、逃げられる直前にナイフで肩をブッ刺した事もあってヨーガに恨まれてるんじゃ無いかとスキフは危惧していたのであまり喋らず、こうして顔を隠していたのだ。

 

 万が一顔を覚えており、尚且つ恨みを持っていたのなら───この瞬間にPTMピストルをヨーガの顔面にブチ込むつもりだ。

 

 「………いや、気の所為だ、さっさと行け。」

 

 「つまらない事で呼び止めるな。」

 

 ボロを出してもマズイので足早にその場から出ていく。

 リンとリヒターに合流したスキフは早速アグロプロムへと移動していった。

 

 






 Stalkerは戦闘がシビアなゲームだからお金で解決出来るならばそっちを選ぶタイプなのが筆者
 バンディット?お前らにくれてやるのは鉛弾だけだよこんちくしょう、Clear Skyで全財産取られ続けたこと忘れないからな
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