Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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 祝50話!
 えー勢いで始めたこの小説ですが50話まで行くとは思いませんでした、絶対途中でエタるかと…
 これもひとえにお気に入り登録をしてくれた人、評価をして下さった方々、感想をくれる皆様全員のお陰でごさいます

 これからもゆるゆる続けて行くつもりですのでどうか宜しくお願い致します



50.アンダーグラウンド

 

 

 

 ───アグロプロム工場

 

 アグロプロム工場から物資を運ぶ──或いは資材を運び込む為に敷かれた線路。

 工場から東側に続く線路の途中、丘をくり抜いたトンネルの上からスキフ達はヨーガから手に入れた情報を元にアグロプロム工場を偵察していた。

 

 スキフはASラヴィナのスコープで、リヒターは双眼鏡でアグロプロム工場に敵が居ないかを観察している途中、リンは反乱軍との交渉で支払った大金についてスキフに聞き出した。

 

 「ねぇスキフさん、さっき反乱軍の奴らに払ったお金なんだけど……」

 

 「……言っておくが怪しい手段で稼いだ金じゃないぞ。いや、ZONEのホロウレイダーは犯罪者だから結局怪しい手段なのか…?」

 

 「そういう事言ってるんじゃないから! ただ…結構なお金を払わせちゃったから、私が勝手に反乱軍の奴らと交渉を始めたようなもんだし。」

 

 「リン…そんな事を気にしていたのか、俺はリヒターと違ってPDAの残額が空になるまで飲み明かしたりしないから金は結構持ってるんだ。」

 

 「スキフ!最近の俺は飲み代でスったりしてないぞ!どちらかと言えば妄想エンジェルの配信と100rads barの音楽代の為にバーキープに全財産を……」

 

 いいから工場を見てろと指を指しながらリヒターを黙らせ、あの程度大した支払いではないとリンに伝える。

 

 「俺の貯金見るか?マイホーム代の為に金を貯めてるから余裕あるんだ。」

 

 「尚更悪いよ!お兄ちゃんを助けたら使わせた経費分ちゃんと払うからね! ………お兄ちゃんに要相談だけど。」

 

 「はぁ……気にするなって言ってるのに、話はアキラを助け出した後にな。」

 

 最悪戦闘になりそうな所を金で解決出来たのだ、スキフとしては必要経費の内にすら入らない。

 取り敢えず支払いの話は終わりにしてスコープ越しにアグロプロム工場をもう一度偵察する。

 

 ZONEにおいてアグロプロムと名の付く施設は2つ存在する。

 1つはスキフ達が偵察中の廃工場「アグロプロム工場」

 もう1つは工場から更に西に行った場所にある「アグロプロム調査研究所」という施設。

 

 アグロプロム一帯はバンディットの巣窟だと聞いていたが、少なくともアグロプロム工場の方には1人たりともバンディットの姿は見えない。

 

 (コルドン襲撃で数十人は死んだ筈だ、そのせいでここに人が居ないのか?それとも調査研究所の方に主力拠点を敷いているのか?)

 

 「スキフ、人っ子1人見当たらないぜ。どうやらあっちのアグロプロムにバンディット共が居るみたいだな。」

 

 「居なければ余計な戦闘が無くて済む、ヨーガの所に行ったのは無駄じゃ無かったな。わざわざバンディットの拠点を強襲しなくて良い。」

 

 「あのヨーガって奴、ここに地下施設があるって言ってたよね?スキフさんも来たことあるんだっけ。」

 

 「アグロプロムの地下にはX-ラボがある。お前とアキラの依頼で何度か調査したが……大した情報は無かった、何の研究していたのも全く分からなかったしな。」

 

 チョルノービリのアグロプロムに存在したラボX-5、彼処ではミュータントの制御を試みたり、()()()にコントローラーの能力を持たせようとしたり等、ミュータント関連の実験をしていたのが分かり、()()()と戦う為の手段を探し求め潜った経験がある。

 だがこの世界ではフリーダムが情報を殆ど持ち去ってしまっており、一体何の研究をしていたのか憶測レベルでしか分からなかった。

 

 ヨーガが手に入れた情報曰く、讃頌会はここで化け物(サクリファイス)を製造しているらしいが、実際に見てみないことには判断出来ない。

 

 「本当にバンディットが居ないな……このまま進んでも大丈夫そうだ。」

 

 「そう言えばどこが地下の入口なの?」

 

 スコープを下ろし敵が居ないことを確認すると、リンが入口の事を聞いてきたので指を指して教える。

 

 「工場の端にある4つの円筒タンクが見えるか?真ん中にマンホールがあってそこから地下に入れるが……X-ラボには俺1人で行こうと思う。」

 

 スキフが単独で行くと言うと、リンとリヒターは目を丸くした。

 

 「ここの地下は狭いし入り組んでいる、リンを守りながら進むのは難しい。1人にする訳にも行かないからリヒターは護衛だ。2人で待っててくれ。」

 

 「あいよスキフ。」

 

 「でも…!いや、うん……わかった。」

 

 一瞬自分も付いていこうとしたリンであったが、よくよく考えればZONEではプロキシとしての能力が役に立たず、大して戦えない自分は足手まといだと言う事に気付き、少し落ち込みながらスキフの言う通り待つことにした。

 

 「妹さん、実はずっと前に俺の装備のスタッシュ(隠し場所)を工場に置いたんだ、讃頌会やあの白い化け物とやり合うならもっと強い装備が必要になるからな、残ってるか分からんが一緒に取りに行こう。」

 

 「オッケー、スキフさん気を付けてね、讃頌会は本当に危険な奴らだから。」

 

 「二人共、何か起きたら直ぐに連絡を入れろいいな?あと1時間経って一つも俺から連絡が無かった場合も……分かってるよな。」

 

 こうしてスキフは地下の入口へ、リンとリヒターは工場内へと別れて行動を始めた。

 

 

 

 

 「最初に調査に来た時も思ったが……どうして別世界のZONEなのに施設の内装までそっくり何だろうな。」

 

 マンホールから地下に下りたスキフ。

 瓦礫と土で埋もれた下水道のように見える地下道から続く、大きなパイプが張られた部屋を越え、その先にある中心に小部屋がある薄暗い部屋に辿り着きながら独りごちた。

 

 ホロウという異常現象が発生する全くの異世界──かつての世界の未来の可能性もあるが──に現れたチョルノービリそっくりなZONE。

 元居た世界でのZONEの旅路で多くの施設を探検したスキフであったが、別世界にも関わらず内装まである程度似通っているのは、この世界に来てから1年近く経つ今でも不思議でたまらなかった。

 

 幸いな事に“そっくり”だからこそ全くの未知の場所が少ないと言うのは危険を避けたり対策を立てたりする点では実に助かる。

 逆に“こうだった筈”という考えに囚われて知らずに危険に飛び込む羽目になるのもまぁまぁあるのだが。

 

 部屋を進むと更に地下へ向かう螺旋階段があり、その下では強酸のアノマリー「Fruit Punch(フルーツパンチ)」が獲物を待ち構えていた。

 螺旋階段には手すりが無いのですっ転んだら一瞬で溶かされてしまうが「リキッドロック」を持つスキフなら少し踏むくらいなら大した危険は無い。

 

 それでも装備が溶けるのは出来るだけ避けたいので慎重にFruit Punch(フルーツパンチ)を避けながら下りると、3、4人が並んで歩けそうな広さの若干カーブした地下道に着く。

 

 元居た世界や、この世界で始めて来た時などブラッドサッカーやスノーク、ゾンビ等が徘徊していたのでASラヴィナを構えて警戒をしながら進んでいく。ミュータントがおらずともバンディットか讃頌会がここにいる可能性が十分にあるのだ。

 

 次の部屋はまた同じ少しカーブしたような地下道だが、この地下道はトラック2台は余裕で通れるほどの広さの地下道だ。

 かつては地下工場だったのだろうか、壊れた機材や大きなパイプが放置されているのは始めて来た時から全く変わって居ない。

 

 地下道のあちこちに点在するFruit Punch(フルーツパンチ)を避けながら進んで行くと、“前と変わってしまった”場所が目に付いた。

 

 「畜生……“道”が塞がれてやがる。讃頌会かバンディットが塗り固めたのか?」

 

 スキフの目の前にあるのはこの地下道の奥にある壁、どう見ても行き止まりだが、本当はこの先にX-ラボへと続く道があった筈だ。

 道……というより崩落して向こうのフロアへと続く穴があっただけなのだが、そこを通ればX-ラボの出入り口へと辿り着ける唯一のルートだったのだ。

 

 だが現在その穴は新しいコンクリートで塗り固められている。

 チョルノービリでもこの世界でも共通していたこのルートが使えなくなった事で、スキフは代替ルートを考えざるを得なかった。

 

 スキフの記憶ではX-ラボに入れる道はここ以外記憶にない───いや、1つだけあるがこの世界では使えなかった筈だ。

 

 強力な爆薬を持っていない今、ガウスガン(EM1)最大出力(フルチャージ)で壁をブチ抜くというのも手だが、ファクトリーでの戦いで一度使ってしまっている以上、メンテナンスしていない状態で次使ったらガウスガンの故障率が格段に跳ね上がる。

 スキフにとって戦力的に未知の存在である讃頌会とサクリファイス相手に切り札となり得るガウスガンは使えるようにしておきたい。

 

 もしかしたら“もう1つ”のルートが使えるかもと淡い期待を寄せ、スキフは来た道を少しだけ戻ると鉄格子に封鎖された扉が地下道の途中にあった。

 その丁番をガウスガンで撃って破壊し、ASラヴィナに持ち替えて敵を待ち構える。

 

 鉄格子の先にある地下道を進み続けるとアグロプロム調査研究所に出られる出入り口がある。

 その為アグロプロムのバンディットがこっちまで見張りを置いているのではと思い、ガウスガンの銃声を聞きつけてやって来る事を警戒しているが、誰も近づいてくる気配が無い。

 

 「結構響いたんだがな……何で誰も来ない?」

 

 リヒター曰くアグロプロムのバンディット勢力は100人に届く規模だと言う、コルドンで数十人死んだと言ってもまだまだ戦力は残っている筈だ。

 地下に警備を置いていてもおかしくないのに誰も来る気配は無い───妙な違和感を感じながら、すぐ近くにある筈の“もう1つのルート”に進んで行く。

 

 「よし、“穴が空いてる”!最高だ(ハラショー)!」

 

 “そこ”を見つけるとスキフは思わずほくそ笑んだ。

 地下道を構成するコンクリートの壁、その一部が剥がれ落ち、土の壁が露出しており、何処かへ続いているであろう穴が空いていた。

 穴を塞ぐ為に打ち込まれた木の板にはバンディットが貼り付けたであろうメモがあり、それに目を通す。

 

 

 

 『お前達がサボってる間にスノークがこの壁をほじくり返して“地下”に入り込んだ。ここを埋め立てるまでの間、常に地下道をチェックしてミュータントが入り込まないようにしろ。次ミュータントが侵入したら警備担当の誰かを“地下”送りにするからな。』

 

 

 

 やはり、この穴はX-ラボに通じているらしい。

 スキフがかつてチョルノービリでX-5を探索した際に、内部の崩落によって一方通行だった施設から出る手段としてこの穴を通って地下道に出ていた事を思い出す。

 この世界ではX-ラボはそこまで崩落しておらず、来た道を簡単に引き返す事が出来たので当時こっち側の穴が塞がっていたのもありルートとしては使えなかったのだ。

 

 最悪土壁を掘り進める覚悟であったがZONEのモグラことスノークが偶々ここを掘ってくれた為、苦労せず通れそうな幸運に感謝する。

 

 木の板を引っ剥がすと人1人入れそうな穴が上に向かって続いていた。

 背中に背負うガウスガンやエリミネーターを引っ掛けながら這い上がるとまたもや下水道のような小さな地下道に出てきた。

 

 ここもチョルノービリと同じだ───すっかり思い出となった過去に懐かしさを思い出しながら、地下道を進むと大きな換気口か何かの部屋に出る。

 

 この先に進むとX-ラボの最下層の広い部屋に出るはずだ。

 スキフの背より少し高い位置に先に進める通路がある為、部屋の端から助走をつけて壁を登って何とか這い上がる。

 

 元居た世界のエミッターでの最終決戦時の装備を考えると随分と荷物が軽くなったなと今更ながら思いつつ、武器を構えて換気口を進むと誰かの怒号が聞こえて来た。

 

 敵か────スキフはそう考え、手早く残弾と武器のチェックを行なって戦闘に備える。

 潜入か、奇襲か、どっちの戦術で行くかと思案していると怒号がはっきりと鮮明に聞こえて来た。

 

 「下りてこい腰抜け共め!お前らの作った怪物なぞ皆殺しにしてやる!」

 

 『戦闘能力に加え随分と威勢が良いな、お陰で“ハイブリッド”の良い戦術データが取れそうだ。』

 

 (誰か戦ってるのか…?)

 

 換気口を塞ぐ蓋まで辿り着き、ゆっくりと音を立てないように蓋を開けて部屋を覗き込む。

 アグロプロムのX-ラボの最下層には広い円形状の、まるで闘技場にも見える試験場フロアが存在し、スキフが入ってきた換気口はそこのキャットウォークに通じているのだ。

 

 慎重に換気口の側にあるキャットウォークに下り、下を覗き込むと、下から這い上がるのを阻止する為に設置されたであろう電磁フィールドの下で、ファクトリー地下で遭遇したのと同じ白い化け物──サクリファイスとナイフ一本で死闘を繰り広げている、“赤い装備”を纏った兵士がそこにいた。

 

 「なっ…デューティ!?」

 

 咄嗟に声を抑えながらスキフは驚きに満ちた声を上げる。

 何故こんな所に彼らが───そう思いながら部屋をよく見渡すと一人懸命に戦うデューティの周りにはサクリファイスに殺害されたであろう同じデューティ達の死体が散乱しており、生き残っているデューティもアーマーがボロボロであちこちから出血し、今にも倒れそうだった。

 

 部屋の様子からして死ぬまで戦いを続けさせられていたのだろう、足下すら覚束ないデューティは飛び掛かってきたスノークに似ているサクリファイスの一撃をギリギリで避け、そのまま首元にナイフを突き立て力を振り絞って思い切り頭を捩じ切ると、サクリファイスはエーテルの光を点滅させて消滅した。

 

 だがそこで力尽きたのかデューティの兵士はその場で膝を付き、立ち上がる事が出来なくなってしまった。

 そんなデューティの様子を観察している“誰か”は残念そうに語りかける。

 

 『おやおや、君にはもう一体自立型“ハイブリッド”の試験も手伝って貰いたかったのだが……もう限界か。まぁいい、後始末も兼ねて最後の仕事をしてもらおうか。』

 

 話が終わると同時に下の試験場にある多数の防護扉の一つが開き、そこから何か、大きな怪物の唸り声と共にゆっくりと近づいてくる足音が聞こえてる。

 それを聞いたデューティは何とか立ち上がろうとするも、最早自分に立つ力すら残って無いことに気付き、顔を青ざめ絶望してしまう。

 

 悔しさと恐怖を滲ませたその顔を上げ、せめてもの抵抗で自分達にこのような仕打ちをする相手を睨もうとした瞬間、キャットウォークに立つスキフと目があった。

 

 

 相手に届くかどうか分からないが、スキフはそのデューティに目線で合図した───「助けてやる」と。

 

 

 スキフが立っているキャットウォークの直ぐ側に、この部屋を見渡せる制御室のような小部屋がある。

 このような実験を続けている“誰か”の声もそこから聞こえていることから、その部屋でサクリファイスを操っている可能性が高い。

 

 スキフは制御室のドアまで近づき、軽くノックする。

 「誰だ?」と中にいる人間がドアまで近づいてきた瞬間、ドア越しにASラヴィナの銃弾をたっぷりと浴びせた。

 悲鳴と驚愕の声が聞こえたのと同時にドアを蹴り飛ばし、取り敢えず視界に映った白いローブのような服装の男の両足を撃ち抜いて無力化する。

 

 制御室にいたのは3人の白い服装の男達、1人は今両足を撃った男、もう1人はドア越しに蜂の巣にした、最後の1人は赤く光る物体を備えたステッキのような武器で殴り掛かってきた。

 その攻撃を左手でASラヴィナを鈍器のように振り回して弾き、右手でPTMピストルを引き抜いて攻撃してきた男の額に風穴を空ける。

 

 脳髄が壁一面に飛び散るのを尻目に、両足を撃った男がコンソールに腕を伸ばしていたのですかさず撃つ。

 

 「ぎゃああ!」

 

 叫び声と共に片腕を抑えて倒れた男を無視し、コンソールに駆け寄ったスキフは防護扉の開閉スイッチか電磁フィールドの解除方法のどちらかを探すが一目では分からなかったので、痛みに悶える男の頭にピストルを突きつけて聞いた。

 

 「一度しか言わないぞ、防護扉を閉めるスイッチと電磁フィールドを無効化するスイッチはどれだ。」

 

 「お…お前は「タァン!」あああ!!?防護扉は赤いスイッチ!電磁フィールドは壁のレバーだ!」

 

 唯一無事だった腕を撃ち抜いて男の両手両足全てに銃創を負わせる。

 聞き分けが良くなった男の言う通りにスイッチとレバーを押すと、下の試験場を包む電磁フィールドが消え、防護扉が閉まっていき、命拾いしたとデューティの表情が安堵の物に変わって────

 

 

 ゴォン!

 

 

 防護扉が閉め切る前に何かの巨体が押し入ろうと身体を捩じ込ませ、無理やり防護扉を開いていく。

 その馬鹿力に焦ったスキフは入ってくる怪物を何とか止められないのか倒れる男にPTMピストルを向けながら聞いた。

 

 「おい!“アレ”を止める方法は!?」

 

 「あ…あの“ハイブリッド”は試作の自立行動機構を組み込んでいる!すぐには止められな────あぐっ!?」

 

 どうやら手遅れらしいので取り敢えず電磁フィールドを再起動させられないようにストックで男の頭を殴って気絶させておく。

 スキフが突入した方と反対側にあるドアのすぐ近くにある伸縮式の梯子を下ろし、滑るように下りて唯一生き残っているデューティに駆けつける。

 デューティの怪我では2人で梯子に登るのは間に合わない、ならばここで戦うしかない。

 

 「こいつを使え!まだやれるだろ!?」

 

 「な…何者だ?…ホロウレイダーなのか?」

 

 「敵じゃないとだけ言っておく!詳しい話は後だ!」

 

 「あ……ああ!すまないホロウレイダー!」

 

 デューティに「科学的回復キット」と「Ehn-ne(ンナ)-Stop(ストップ)エナジードリンク」を渡して傷の手当てとスタミナの回復を促す。

 デューティの兵士は躊躇せず使用し、何とか立ち上がった瞬間───ひん曲げられた防護扉が破壊され、巨大な白い肉塊が触手を振り回しながら試験場に突入してきた。

 

 「背負ってる武器を貸してくれ!こんなナイフじゃアレは無理だ!」

 

 「俺がガウスガンで仕留めるからお前はこっちで援護しろ!」

 

 デューティの兵士が武器を催促してきたので手持ちのASラヴィナと予備マガジンを投げ渡す。

 そしてスキフはガウスガンを構え、 目の前の推定サクリファイス──シュードジャイアントの手を巨大な触手に変えて全身真っ白くしたようなエーテリアスに向けて一撃を放つ。

 

 が、ガウスガンの通常出力ではこのエーテリアスを貫けないのか弾頭が深めに突き刺さるだけに終わった。

 それでも痛い物は痛いのか、スキフ目掛けて伸ばした触手の一撃をスキフは間一髪で避けた。

 地面に叩き付けられた触手は凄まじい振動と衝撃を起こし、小規模な地響きを発生させるほどの威力であった。

 

 地面を抉ったその一撃に驚愕しながら触手に向けてガウスガンの2発目を発射するが触手が太すぎて千切れる様子は無い。

 

 「クソッ…シュードジャイアントよりも頑丈だな!一体何処から連れてきたんだ!?」

 

 「奴らが“ハイブリッド”と呼んでいただろう!ZONEのミュータントに“サクリファイス”というエーテリアスを掛け合わせた化け物らしい!」

 

 「何でそれを知ってる!?」

 

 「私が戦っている最中、あのクソ野郎共が冥土の土産とやらでペラペラと喋ってくれてな!」

 

 戦闘中に重要な情報を喋ったデューティが「ハイブリッド・偽の巨人」に向けて援護射撃をするが全く通じる様子が無い。

 スキフは触手を振り回すあのハイブリッドの攻撃を避けながら観察するが、デューティの言っている事が正しいならアレはシュードジャイアントに似ているエーテリアスでは無くシュードジャイアントをサクリファイスに変えてしまった怪物だと言うのか。

 

 「考えるのは後だ…今はヤツを倒す事がせんけ───うおおお!?」

 

 ハイブリッドがその触手を横に試験場目一杯に伸ばして薙ぎ払い、咄嗟に伏せて回避するスキフとデューティ。

 すぐさまデューティがハイブリッドの顔面──特に目玉付近に銃撃を加え、ハイブリッドを怯ませる。

 

 そこに3発目のガウスガンがハイブリッドに直撃する。

 ハイブリッドは大きく仰け反ったものの未だ倒れず、この時点でシュードジャイアントよりも遥かに防御力に優れていることは明らかだ。

 それに加えてあの触手、恐らく一撃食らうだけでも致命傷になる威力だ、コンパスを持っているからと言って安心出来ない。

 デューティの兵士も触手を回避しつつ戦っているが、流石に今までの怪我と疲労の蓄積で動きが鈍くなりつつある。

 

 (あと何発だ…!奴を殺せるのに何発使う必要がある…!)

 

 ガウスガンをあと1発当てれば倒せるかもしれないし、倒せないかもしれない。

 更によくよく考えたらここは讃頌会の拠点なのだ、時間を掛ければ敵の増援が来るに違いない。

 他にこいつのようなサクリファイスがいるかも知れないなら最大出力(フルチャージ)での射撃は今後のリスクが高くなる。

 

 「私が惹きつけるから背中を撃て!」

 

 そんなプレッシャーと焦燥感がスキフに伸し掛かる中、デューティの兵士が果敢にもハイブリッドの隙を作ろうと背後に回ってASラヴィナを乱射する。

 このハイブリッドに敵の脅威を正確に判別出来るほどの頭の良さは無いのか、ターゲットをデューティに変えて触手を振り回し始める。

 

 とにかくもう一発───スキフに背を向けたハイブリッドに4発目のガウスガンを撃ち込もうとした際、ハイブリッドの背中に何かの機械が埋め込まれていたのに気付いた。

 

 その白い体躯に不釣り合いなその機械に、スキフはガウスガンの照準を合わせて、機械を正確に撃ち抜いた。

 

 機械を撃ち抜かれたハイブリッドは悶え苦しみ、暴走するように触手を振り回すが明らかに攻撃のキレが悪く、触手の速度が鈍り始めていた。

 

 スキフの仕業だと気づいたハイブリッドが触手を振るうがこのスピードなら避けるのは容易だ。

 攻撃を避けたスキフは冷静に、落ち着いてハイブリッドの目に狙いを定めてガウスガンの5発目を放つ。

 

 柔らかい目玉にガウスガンの弾頭が突き刺さり、ハイブリッドの体躯が僅かに震えると、触手をあちらこちらに振り回しながら数歩後退し、断末魔の声を上げてゆっくりと倒れ、エーテルの光を放ちながら消滅していった。

 

 「デカブツ相手だと一匹仕留めるのに5発か……他の敵と一緒に出てくると厄介だな。大丈夫かデューティ?」

 

 「まさか生き残れるとは……本当に助かった。だがお前は一体何者なんだホロウレイダー、何故ここに?」

 

 何とか窮地を切り抜け、デューティの兵士と共に生き残った事に安堵するスキフ。

 デューティの兵士がこちらの素性を知りたがったので、ある程度教えてやる事にした。

 

 「俺はスキフだ、訳あって讃頌会の奴らを追っている。ここに連中の拠点があると聞いてな。潜り込んだらここに出てきたって訳だ。」

 

 「あまりに偶然過ぎて本当かどうか疑わしいが……命を救って貰ったんだ、お前を信じるよ。私はデューティの「シュルガ中佐」だ。この辺りに偵察任務で赴いたのだが、あの讃頌会の奴らとサクリファイスとやらに奇襲されてな、私と共に居た部下と一緒に捕まって、ここで「戦闘試験」用の標的にされていたんだ……私以外、皆戦死してしまった……」

 

 シュルガ中佐の悲しみの感情を含めた視線は、周囲に倒れ伏す事切れたデューティの兵士達に向けられていた。

 スキフはレッサーゾーンで手に入れたバンディットの記録に「デューティを生け捕りにした」という内容があった事を思い出し、目の前のシュルガ中佐達がそのデューティ達であったのだと理解した。

 

 それと同時にデューティが讃頌会の存在に気が付いていた事が気になったので彼に問いただした。

 

 「デューティはZONEに讃頌会がいる事を知っていたのか?」

 

 「まさか!奴らがZONEにいるなんて思いもしなかった、元防衛軍として讃頌会の存在自体は私達も認知していたがな。ここの連中が讃頌会だと分かったのも、捕まってここに連れてこられた後に始まりの主とか何とか言ってたのを聞いたからだ。」

 

 デューティがここにいたのは本当に偶然らしい、取り敢えずスキフは殺さず気絶に留めた制御室の男の所に向かう。

 梯子を登り、キャットウォークから制御室に入ると、手足から血を流す男──恐らく讃頌会の人間に近づき息があるか調べる。

 

 死んでいたら死んでいたでまぁ構わなかったが、何とか息があったので回復キットを撃ち込み失血死を防ぐ。

 後はこいつを目覚めさせて情報を───そう思った矢先、試験場の防護扉の一つにランプが付いて、ゆっくりと音を立てながら開き始めた。

 

 敵か──スキフは急いで下に戻って接敵に備え、シュルガ中佐に敵がどれだけいるのかと問いた。

 

 「シュルガ中佐、あんたが入ってきた扉は何処だ?敵の人数は分かるか?」

 

 「今開いているこの扉だ、この先が地下の研究所に繋がっている。ざっと把握した程度だが……少なくとも讃頌会の手下のバンディットが20人ほど地下研究所に居た筈だ。」 

 

 それなりに多数だが、勝てない相手じゃない。

 スキフは対人戦に備えてPTMピストルとナイフを抜く、ASラヴィナはシュルガ中佐が持ったままだ。

 周りの壁より少し窪んだ所にある防護扉の両側にスキフとシュルガ中佐が待ち伏せしながら、入ってくる敵を待ち構える。

 

 

 息を潜め、扉が開くのを待つ。

 

 電子加工された『突入!』と言う女の声と共に、複数人の足音が聞こえて来た。

 

 ナイフを握り締め、PTMピストルのトリガーに指を掛ける。

 

 そして人影が目の前を通った瞬間────ナイフで奇襲を仕掛けたのをスキフは盛大に後悔することになった。

 

 

 

 目の前に現れた人影はスキフよりも背の低いフードを被った小柄な人物だった。

 スキフがその人物の首元にナイフを突き立てようとした瞬間、相手は目にも止まらぬ疾さで()()を振り上げてスキフのナイフを上空に弾き飛ばした。

 

 その動きにスキフの背筋がぞわりと警告を発するのと同時にPTMピストルを相手の頭目掛けて引き金を引く────ことは出来ずに片手でスライドを無理やり引かれた状態でがっちり掴まれて不発に終わる。

 

 それならばとナイフが弾かれた手で相手のナタを持つ腕を押さえ込んで頭突きを食らわせようとするが、相手が一気に腰を落とし、逆に両腕を引っ張られたスキフの体勢が崩される。

 

 そのままスキフの両足を崩され地面に無様に転がされ、視界を相手に向けた矢先────落ちてきたスキフのナイフが相手にキャッチされ、ナタと共に首元に突きつけられた。

 

 「ハハッ…У, мать вашу(マツオバショー)…」

 

 乾いた笑いしか浮かばなかった。

 こんな呆気なく格闘戦に敗北するなら最初からガウスガンをブチ込めば良かったじゃないか、Идиот(間抜けめ)

 

 シュルガ中佐はどうなったのかと視線を動かすと、出るとこ出た体型の丸く曲った角を生やした女性を見事組み伏せて───否、シュルガ中佐の首元にぴったり添えられたナイフと、女性の臀部から伸びる黒い尻尾の先に装着された大口径リボルバーのような銃が側頭部に突きつけられ、ホールドアップを余儀なくされていた。

 

 更に相手の増援として防護扉から2人の赤い装備の防衛軍兵士……もといデューティが入ってくる。形勢は完全にこちらの────

 

 「いや待て、デューティだと?」

 

 「……咄嗟の反応速度は悪く無かったわ、でももう少し体術を鍛えた方がいいわね。」

 

 聞き覚えのある声に目を丸くして、スキフを制圧した相手の顔をよく見る。

 

 フードに隠れているがその顔は忘れる訳がない。

 銀髪に暖色の半透明のゴーグルの奥にある明るい色の瞳。

 ヤンターで散々見た凛々しいその表情。

 

 「久しぶりね、こんな所で再会するとは思わなかったわ。ヤンター以来だったかしら“ファイアーボール・クリスタル”。」

 

 「11号!お前……その格好は……」

 

 かつて共にヤンターのX-ラボを調査した、オボルス小隊の隊員「11号」

 

 あの時の防衛軍の装備に身を包んだ姿では無い。

 スキフの装備と同じ「サンライズスーツ」を身に纏った彼女が、何故かデューティの隊員と共に行動していた。

 

 それを見たスキフは思わず呟いてしまう。

 

 「まさか、軍を脱走してデューティに…?」

 

 『11号が反乱軍なんぞに加わるかぁ!やむを得ず共同戦線を張っているだけだ!』

 

 「ぐあああ!?耳がぁ!」

 

 「ああ!中佐ァ!?」「シュルガ中佐のお耳が!」

 

 「鬼火隊長!デューティの要救助対象の聴力に深刻なダメージが入っているであります!」

 

 こめかみに突きつけられた銃──オボルス小隊の指揮官「鬼火」から怒鳴り声が響き、シュルガ中佐は堪らず「オルペウス」の上から飛び退き、心配した2人のデューティが駆け寄っていく。

 

 それを少し呆れたような表情で見る11号はスキフにナイフを返し、その後スキフへ手を差し伸べた。

 

 「ここは讃頌会の拠点の筈よ、どうして貴方がここに、どうやってここまで入り込んだのかしら?」

 

 

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