Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
一話に纏めたかったけど断念……
「ここは讃頌会の拠点の筈よ、どうして貴方がここに、どうやってここまで入り込んだのかしら?」
讃頌会を探し出す為、アグロプロム地下にあるX-ラボの最下層に潜入したスキフ。
そこで讃頌会が作り上げたサクリファイスとミュータントを融合させた怪物「ハイブリッド」に殺されかけていたデューティの”シュルガ中佐“を助け、情報の確保を行おうとした矢先に強襲を受けたが───その相手はかつてヤンターで共に戦ったオボルス小隊の「11号」
共に現れた同じオボルス小隊の「オルペウス」と「鬼火」に加え、何故かデューティの突撃隊員2名まで同行していたのには驚かされた。
11号からすれば讃頌会が支配するX-ラボを上から突き進んで来たのに何故最下層にスキフが居たのか全くもって分からない……が、ZONEでの”戦友“と再会できた喜びもあって、実はそこまで気にしてはいなかった。表情では分かりづらいが。
彼女との格闘戦で床に転がされたスキフは、差し出された11号の手を取って立ち上がる。
「俺は地下道にある抜け道からここに直接入ってきた、そこであのデューティの将校を助けることになってな。」
「そんなルートがあったのね……」
「なぁ11号……オボルス小隊も讃頌会を追っているのか?」
「ええそうよ、軍の作戦でZONEにいる讃頌会を捜索しているわ。“お前も”って事は、貴方も讃頌会を探しているのかしら?」
スキフは少しだけ考える。
スキフと11号は「
「11号、アキラが讃頌会に誘拐され、ZONEの何処かにいるかも知れないんだ。」
「なっ……!」
『おい待て、お前今なんて言った!?』
「プ…プロキシ殿が、讃頌会に誘拐されたのでありますかぁ!?」
スキフの言葉に11号だけではなく横で聞いていた鬼火とオルペウスまでもが驚愕する。
「今ZONEにリンも居て俺の仲間と一緒にいる。あいつがアキラの誘拐とその場所を俺に伝えてくれたんだ。
だがZONEに来て早々、リンも讃頌会の手先と思われる連中に攫われかけた、何とか助け出せたがな。」
『クソッ、讃頌会め……』
「リン殿もZONEに……」
「どうやら事態は思っていたより深刻な状況のようね。」
オボルスの3人の反応は寝耳に水と言った反応だ。
この様子からアキラが誘拐されていた事は彼女達は知らなかったようだ。
そんな反応を見てスキフはかねてよりの疑問が浮かんで来たのでこれを気に聞いてみる。
「11号、トリガーも来ているのか?」
「ええ、トリガーと小隊のもう1人も私達と共にZONEに派遣されたわ。今は地上のアグロプロム調査研究所で他のデューティと一緒に警戒中よ。」
「………ずっと一緒に行動していたのか?」
『その通りだが、どうしてそれを聞く?プロキシ君が誘拐されたという話に気を取られていたがお前は一体何者だ?11号と親しく見えるが……』
11号とトリガーはスキフと関わりを持っているが、他の者は違う。自分から見ればいちホロウレイダーに過ぎない彼を怪しむ鬼火に11号が事情を説明をした。
「隊長、彼は怪しい者ではありません。ヤンターの調査任務の時に、自分とトリガーと共にX-ラボの調査を任されたホロウレイダーです。
彼には窮地を救って貰った事もある上、”プロキシ“が個人的な依頼を任せている信用に足る人物でもあります。」
『ヤンター?ならばこいつはあの時の臨時調査員の1人と言う訳か。』
「そう言えば当時11号さんとトリガーさんの他にもう1人ヤンターから派遣されていたでありますね。」
3人が自分の事を話している横でスキフは腕を組んで考え事をしていた。
リンを攫おうとしたガスマスクの傭兵を襲ったスナイパー。
リンと一緒にもしかしたらトリガーなのでは?と推測を立てていたが、オボルス小隊の反応とここに至るまでの行動からして違うらしい。
次にスキフの視線はデューティに映る、防衛軍とデューティは対立していた筈だ。何があって共に讃頌会の拠点に殴り込みに来たのだろうか。
「11号、防衛軍はいつから讃頌会がZONEにいると知っていた?それにデューティと共同戦線を張るなんて一体何が……」
「彼らの目的はバンディットに捕まった捕虜を解放する為よ、でもサクリファイスと思われる存在がデューティを襲撃した可能性があるから私達と一時的に協力する事にしたの。讃頌会については──────」
時はリンが“謎の人物”から連絡を受け取る前日に遡る。
レッサーゾーン最南部に位置する「中央検問所」
その名の通り、新エリー都防衛軍ZONE駐留部隊が
境界線を分け隔てる高さ20メートルのコンクリートの壁。
その壁に等間隔で並べられた監視塔に設置される
壁の近くを巡回する戦闘ロボット付きの哨戒チーム。
基地の敷地にズラリと並べられた装甲車やヘリコプター。
検問所ではなく要塞と名乗った方が適切ではと言う声が多数上がっているこの防衛軍基地に、1週間もの間VRでの対アノマリー訓練を終えた後に
「思っていたよりもしっかりした基地ね、要塞並みの戦力だわ。」
「あのロボット面白い改造してるなぁ〜ZONEの環境に合わせてたりするのかなぁ?」
「他のどの基地よりも人員に余裕がありそうですね、やはり実刑判決や不名誉除隊を受けた軍人が懲罰任務としてZONEに送り込まれているという噂は本当なのでしょうか……」
「そんな物騒な噂があるんでありますか?」
『ホロウに送り込んでエーテリアスにするよりよっぽど有効活用出来てるじゃないか。重要度は低い癖に死傷率は高いらしいからなZONEの境界線は。』
久々と言っても以前ZONEに来た時にはこの基地には殆ど立ち寄らなかった事からオボルス小隊の面々は興味深そうに基地を見回りつつ、基地の端に位置する元々ZONEの中にあった古ぼけた、普段全く使われていない村役場のような建物、その中にある会議室の扉の前までやって来た。
オボルス小隊の先頭に立つオルペウスが扉をノックし、会議室の中をおっかなびっくり覗き込む。
「失礼しまぁす……であります。」
『はぁ……オルペウス、お前は教師に呼び出しを食らった学生か?もっと堂々と入れ堂々と。駐留部隊の奴らにナメられるぞ。』
「し…しかし基地の端っこにあるこんなボロボロの建物が本当に作戦本部なのか心配でありまして……」
「今回の作戦は出来るだけ一般部隊に知られたくないのでな、椅子はガタつくし埃っぽいが勘弁してくれ。」
鬼火とオルペウスの会話に割り込んできた男の声が聞こえ、そちらの方向へ向くと会議室の奥にある真新しい大きなモニターの前に防衛軍の将校が立っていた。
男性将校が着る防衛軍の制服には多くの勲章が付いており、胸の階級章は彼の地位が大佐であると指し示している。
会議室の中には多くの兵士達がリラックスしながら待機している。
相手が上官であると気づいたオボルス小隊は姿勢を正し、敬礼を行いながら鬼火とオルペウスがはっきりとした声で応える。
『我らオボルス小隊!』
「ただいま着任致しました!」
「直れ、よく来てくれたオボルス小隊、本作戦の指揮を取るコヴァルスキー大佐だ、近くの空いている席に座ってくれ。」
コヴァルスキー大佐に言われた通り手頃な椅子に座るオルペウス達。
彼女達が視線を感じて周りを見ると、座っていた兵士達がオボルス小隊の面々をまるで値踏みするかのように見ていた。
奇異の目でも、此方を侮るような目付きでも無い。
ただ純粋に“オボルス小隊”の実力を見定めようとする目。
外にいるZONE駐留部隊の兵士達と彼らが纏う雰囲気は明らかに雲泥の差がある。
駐留部隊の殆どを占める士気と練度の低い二線級の部隊では無い、コヴァルスキー大佐を含めたこの部屋の者達は自分達と同じ歴戦の特殊部隊員だろうと鬼火は予想した。
全員揃った事を確認したコヴァルスキー大佐がオボルスに向かって話を始めた。
「さて、オボルス。既にある程度話は聞き及んでいるだろうが詳しく説明させてもらう。」
彼が手元の端末を操作すると、後ろのモニターに画像が映し出される。
その画像に映る者達を見た途端、オボルス小隊や他の兵士達の表情が引き締まっていく。
「讃頌会………」
誰かの呟きが会議室に居る全員の耳に聞こえた。
荒く、遠くから撮影した物ではあるがオボルス小隊には分かる。
数カ月前の衛非地区でのオブシディアン大隊による讃頌会殲滅作戦。作戦の中心──それはもう色々な意味で──にいたオボルス小隊にとってよく見慣れた、危険なカルト教団の構成員の姿がそこにあった。
「防衛軍は衛非地区での作戦以降、生き残った讃頌会の残党、特に幹部や研究を担当していた人材の消息を追っていた……だが最近突然その行方を追えなくなった、痕跡が途絶えてしまったんだ。」
モニターが切り替わり、讃頌会の構成員と思われる人間達の写真が映る。
「同時期にZONEで活動中の「ミリタリーレイダー」が各地で讃頌会と思われる連中を発見した。
その内の1人が防衛軍がマークしていた讃頌会の幹部だと判明し、治安局とも連携して情報を深掘りすると司教「メヴォラク」が倒された時期からそれなりの人数がZONEに入り込んでいる可能性があると分かった。」
無法地帯であるZONEに讃頌会が多数逃げ込んでいる。
衛非地区で彼らがやった事を思えば、ただ治安局や防衛軍から逃れる為にZONEという異常領域にやって来たとは思えない───直接言葉にするまでもなくオボルス小隊やコヴァルスキー大佐はこう考えている、何か企んでいると。
「そこで白羽の矢が立ったのが私が隊長を務めるZONE駐留軍「
我々の任務はZONEに潜入し、“ミリタリーレイダー”の齎した情報を下にZONEに逃げ込んだ讃頌会の残党の捜索と───奴らを1人残らず排除すること。」
一気に空気が張り詰めた物に変わる中、気まずい表情をしたオルペウスが恐る恐る手を上げる。
「あのぉ……コヴァルスキー大佐、質問宜しいでしょうか?」
「構わないよオルペウス隊員、何か分からない事が?」
「先程から話に出ている“ミリタリーレイダー”とは一体なんなのでありますか?」
全く持って聞き慣れない単語が気になってしょうがないオルペウス。
普段ならば鬼火が『そのくらい事前に調べとけ!』等と彼女を叱咤したかも知れないが、彼女を含めたオボルスの面々もオルペウスと同じような疑問を抱えていた。
よくわからない存在が讃頌会の事を伝えた“情報源”である事に対する疑いと不安をオボルス小隊が抱えているのを察したコヴァルスキー大佐は少しばかり考えた後、言葉を選びながら説明をする。
「……駐留部隊の司令部は大々的にZONEに介入する余裕も能力も無い一般部隊の代わりに、ZONEで活動し実地調査や軍の為にアーティファクト収集を担当する者達として防衛軍と専属契約を結んだホロウレイダーを送り込んだ、それが“ミリタリーレイダー”と呼ばれる者達だ。」
「んん?それは普通のホロウレイダーとあまり変わらないような……?」
『オルペウスの言う通りだ大佐、大層な名前だが単なる雇われの臨時調査員に過ぎないのでは?』
「彼らはただのホロウレイダーじゃない、軍人としての訓練と教育を受け、一般部隊に対する命令権を持つエージェント達だ。
このエージェント達には防衛軍が“もう一度”ZONEへ本格介入をする事を決めた場合、他勢力に対する工作活動や進軍する防衛軍の“
我々もただ境界線でZONEの情勢を手をこまねいて見ている訳では無いからな、“仕事”はしているのさ。」
鬼火はZONE駐留部隊に対する認識を少し改めた。
現在は多少マシになったとはいえ、やる気の無さや腐敗、低い能力からオブシディアン大隊から下に見られているZONE駐留部隊ではあるが、彼らも防衛軍の一員としてやる事はやっているのだと。
オルペウスからの質問に答え終わったコヴァルスキー大佐がモニターの画面を切り替える。
ZONE全体が映し出された地図のあちこちに印がつけられ、それぞれに小隊が割り振られていた。
「オボルス小隊及び特殊任務部隊は「スティングレイ」飛行隊のヘリで各地域に展開し、各地のミリタリーレイダーから情報を受け取った後、讃頌会の捜索を開始せよ。
本作戦の間、君たちは軍人では無くホロウレイダーとして活動してもらう事になる。その為全員にPDA等の装備品や対侵食アーティファクト及び、「サンライズスーツ」というZONEのホロウレイダーが主に身に着けている装備を支給する。」
「大佐、何故軍人としてでは無くホロウレイダーになり済ます必要が?以前の調査任務ではデューティとのいざこざがありましたが、それでも防衛軍として普通に活動出来た筈です。」
前回ZONEに来た時は防衛軍として堂々と行動出来た事を覚えていたトリガーが大佐に尋ねた。
「讃頌会に此方の作戦を気取られぬように……と言うのも理由の1つだが、腹立たしい事に現在ZONEで幅を利かせているTOPS共はZONEを自分達の物だと思い込んでいてな。
どんな形であれ駐留部隊の介入を奴らは妨害して来るんだ。デューティがロストクから去ったチャンスを狙って、我々の拠点をロストクに置こうと計画を立てたら徹底的に邪魔されたこともある。
その癖一般部隊に賄賂を流して腐敗を撒き散らしていく、せっかくある程度自浄作用を取り戻しつつあったのにTOPSのせいで台無しだ。」
実に忌々しいという表情で吐き捨てるように言うコヴァルスキー大佐に思わずトリガーも苦い顔をする。
防衛軍とTOPSの対立や癒着はここZONEに於いても問題になっているようだ。
ゴホン、と咳払いをしてコヴァルスキー大佐は話を続けた。
「まぁ何だ、ZONEは様々な勢力が蠢く無法地帯だが……その中で組織間のいざこざに囚われず自由に動ける立場なのがホロウレイダーという存在なのだ。分かってくれたかね?トリガー隊員。」
「了解です大佐。」
「宜しい、では各小隊の担当地区を通達する。私の小隊はザトンと沼地、タラソフ大尉の小隊は───」
コヴァルスキー大佐が次々と指示を下し、最後にオボルス小隊の担当地区を伝える。
「───そしてオボルス小隊、君たちには“バーントフォレスト”と“ケミカルプラント”一帯の調査をしてもらいたい。現地までは“スティングレイ4”がヘリで輸送する。」
熱性アノマリーが多く存在するZONE南部の森とその上にある廃工場が多数存在する地区。ここでオボルス小隊は讃頌会を捜索を命じられた。
「作戦中は我々とスティングレイ飛行隊以外の駐留部隊との通信は禁ずる。一般部隊からこの作戦が他勢力に漏れる可能性があるからな、そこは留意しておいてくれ。」
一拍置いて、会議室を見渡し兵士達1人1人の顔を見据えて彼は作戦の開始を告げる。
「諸君、これより讃頌会
「「「了解!」」」
コヴァルスキー大佐の命令を皮切りに、オボルス小隊と特殊任務部隊の兵士達は会議室を退出していった。
ZONE用の装備に着替えたオボルス小隊はスティングレイ4が待っている駐機場へと移動していた。
『お前達、今のうちにこの服に慣れておけよ、普段の装備とは勝手が違うからな。』
「ねぇ隊長、なんで僕だけ皆と違う服なの?仲間ハズレみたいでなんかイヤだなぁ。」
『文句を言うなシード、お前がキックボードを操作したり「ビック・シード」に乗り込んで戦う事を考慮して大佐が特別に用意したんだぞ。』
オルペウス、トリガー、11号が「サンライズスーツ」を装備している中でシードだけが「SEVA スーツ」を支給されていた。
ZONEで活動する為に必要な様々な機器や道具が外付けされている「サンライズスーツ」と違って、防護服がベースの「SEVA スーツ」はそれ単体で機能が完結するようになっている。
ビック・シードに搭乗して戦う事も多いシードの動きを極力阻害しないようにした配慮であったのだが、彼女からすればそんな物よりオボルスの皆とお揃いの装備が良かったとブーたれているのだ。
服装に慣れるために身体を動かしつつ駐機場に向かっていると、所属を分からなくするペイントが施された防衛軍のヘリに寄りかかるパイロットの姿を11号が発見した。
「やっぱり、ヘリのコールサインに聞き覚えがあると思ったら彼の機体だったようね。」
「久しぶりだなぁオボルス小隊、ヤンターでの任務以来だ。」
ヘリのパイロットはオボルス小隊を見つけるとニコニコと笑顔を見せて寄ってくる。
だが鬼火を見つけるとその笑顔がだんだんと微妙な物に変わっていくのを誰も見逃さなかった。
「そりゃあそうだよな、アナタも勿論いますよね鬼火隊長殿……」
『随分と“嬉しそう”な顔してるじゃないかソコロフ中尉?そんな私に会えて嬉しいのか。』
「それはもう、今から操縦中にも関わらず鬼火隊長と楽しく“お話”する事になると思うと嬉しくて嬉しくて……今回もしっかりお空にアノマリーが存在してそれを避けねばならない事を理解して頂きたく……」
『あの時の事は悪いとは思ってるぞ、何せお前がイゾルデ“元”大佐を口説こうとわざと遠回りのルートで時間稼ぎしていたようにしか見えなかったからなあ。』
「お二人共ぉ……どうか喧嘩はそこまでにして欲しいであります……」
オルペウスがオロオロしながら2人の仲裁をするが、ソコロフ中尉も鬼火も本気で言い合いするつもりは毛頭無く、ヘラヘラした表情から軍人らしい真剣な物に切替わった彼は自身の役目を伝える。
「今回の作戦では必要に応じて俺が航空支援をオボルスに提供する。物資もたっぷり用意した、さぁ乗ってくれ、あんた達を何処へでも乗っけてってやる。」
「僕知ってるよ、ソコロフ中尉みたいな人ってアッシーくんって言うんでしょ。」
「シード、何処でそんな言葉を覚えて来たんですか。」
「オルペちゃんの持ってた漫画〜」
『オルペウスゥ!またお前は如何わしい漫画なんぞ買って────!』
「濡れ衣であります!自分が最近購入した漫画にそのような記述は多分恐らくきっと何処にも───」
「中尉、作戦終了後にヤンターの研究基地に寄る事は可能?彼処の食堂にまだヤンター特性激辛ラーメンがあるのか確かめたいのだけれど……」
「あー…アンタはラーメン食いにZONEに来たのか?」
騒がしくしながらヘリに乗り込むオボルス小隊。
駐機場全体にローター音をかき鳴らし、スティングレイ飛行隊のヘリコプター群はそれぞれの目標へ向かって飛び立って行く。
ZONEの天気はいつも通り、曇りのちアノマリーだ。
◆ ◆ ◆
「オボルス小隊、もうすぐバーントフォレストの降下地点に到着する、降下準備。」
『了解だ、お前達!我々はこの1週間、対アノマリー訓練を積んできたが油断するなよ!「ベルズ検知器」に頼り過ぎるな!自分の感覚でアノマリーを見定めろ!』
名前の通り森全体に広がる熱性アノマリーの熱波がヘリにも届く中、ステルスモードでヘリに追従しているビック・シードのレーダーに反応が現れた事に気付いたシードが皆に伝える。
『ほうこ〜く、降下予定地点の周囲に人の反応があるよ、まるで待ち伏せしてるみたい。』
『何だと?中尉、この辺りを彷徨いていそうな連中に心当たりは?』
「ホロウレイダーにバンディット、TOPSの傭兵に反乱軍、もしくはクリアスカイかフリーダムかも。念の為暫く旋回して様子を見るか……?」
「もしかしたらミリタリーレイダーの人達だったりしないでありますか?」
「連中との合流地点は降下地点から離れているんだオルペウス隊員、何より降下地点の情報は彼らには伝えられて────」
『スティングレイ4聞こえるか、此方ミリタリーレイダー。現在そちらの着陸地点で待機中、どうぞ。』
いきなり通信に入ってきた男の声に機内の全員が固まる。ソコロフ中尉が恐る恐るその通信に応えた。
「特殊作戦用の秘密回線だぞ………此方スティングレイ4、ミリタリーレイダー、合流地点と降下地点は別々だった筈だが?」
『こっちは仕事が立て込んでいるもんでね、オボルス小隊を待つくらいだったらさっさとそっちに行った方が早い。ああ……罠を疑ってるのか、識別コードは1978-6-P……』
ヘリを操縦中のソコロフ中尉は自分の軍用PDAをオルペウスに手渡してアプリを使って照会を行うようにジェスチャーする。
オルペウスが識別コードの照会を行うと、確かに駐留部隊と契約しているミリタリーレイダーだと判明した。
「どうやってこちらの回線や降下地点を割り出したのでしょうか……」
トリガーの言う通り、何故特殊部隊が使う暗号回線に割り込めるのか───訝しむ鬼火はシードに万が一に備えろと命令する。
『シード、ステルス状態を維持したまま先に行って降下地点の上空で待機だ。何かおかしな動きが見えたら即攻撃しろ。ソコロフ中尉、そのまま降下地点まで進んでくれ。』
『りょーかい、鬼火隊長。』
「アイサー。」
非常に高度なステルス能力を持つビック・シードの援護を受けながらスティングレイ4は降下地点に着陸。
ヘリが最も無防備になる瞬間に攻撃されなかった事に安堵しつつ、オボルス小隊は最大限の警戒を保ちながらヘリの周囲に展開し、相手との接触に備える。
「…… 隊長、1人近付いてきます。」
『他の人達は動く気配ないね〜』
視力以外の五感に優れるトリガーと上空から監視しているシードが相手の接近を感じ取る。
そちらの方向に武器を構えながら相手を待ち構えていると、木々の影から如何にもZONEのホロウレイダーという格好をした男が現れた。
「驚かせてすまないなオボルス小隊、お前達に情報を渡す任務を受けた者だ。」
『近寄る前に合言葉を言え、さもなくばこの場で頭をぶち抜いてやる。』
目を赤くし、銃口から火を覗かせながら鬼火が言い放つとミリタリーレイダーらしき男は口笛を吹きながら手に持つダットサイトとサプレッサー付きのブルパップアサルトライフルを背中に回し、おどけるような動きで応えた。
「“合言葉なんて無い”。」
『………良いだろう。』
オボルス小隊が武器を下ろし、相対する男も後ろに向けて手を振ると、彼と同じミリタリーレイダーらしき者達が姿を現す。
目の前のミリタリーレイダーはPDAを取り出し、スイスイと操作するとオボルス小隊のPDAにデータが送られた。
「悪いが長々と世間話をしてる暇は無い、そちらのPDAに讃頌会の痕跡や活動している可能性の高い地点をマークしておいた。まずはそこから始めろ。」
「……作戦中、私達に同行しないの?」
間違いなく自分達よりZONEに詳しい彼らの支援は無いのかと気になった11号に、ミリタリーレイダーはその通りだと頷いた。
「俺達は戦闘部隊じゃないし通信でも言ったが他の仕事が山程ある。讃頌会だけに構ってる暇はないのさ、まぁ非常時くらいなら手を貸してやれるが。」
『フン……お前達の支援を受けたい時にはなんと呼べばいい?ミリタリーレイダーでは冗長だし素性もバレる可能性があるだろう?』
「それもそうだな、なら俺を呼ぶときは通信で“少佐”と言え、仲間からはそう呼ばれている。」
「えっ少佐殿だったのでありますか?」
上官だったのかと首を傾げたオルペウスに“少佐”軽く笑いながら首を振る。
「なに、単なる仲間内のコードネームだ。ではこれで失礼する、健闘を祈るぞオボルス小隊。」
そう言うと“少佐”達ミリタリーレイダーはバーントフォレストの森の中へと消えていった。
念の為姿が見えなくなるまで警戒をしていたトリガーの横にステルスを解除したビック・シードからシードが降りてくる。
「多分ビック・シードに気づいてた気がするなぁ、後ろにいた人達僕の方ずっと警戒していたもん。正確な位置までは分かって無さそうだったけど。」
「本当ですか?幾ら軍事訓練を受けたとは言えビック・シードのステルスを察知出来るとは……
それに、彼らが纏う気配はホロウレイダーというより、まるで……」
『そこまでだトリガー。』
トリガーが“少佐”達を色々疑っていると、鬼火は途中でその推測を打ち切らせる。
『我々の任務に連中の正体を探る事は重要ではない、奴らの情報が正しいか否か、必要なのはそれだけだ。』
「了解です、鬼火隊長。」
そう言うとオボルスの面々にヘリのローターによって巻き上げられた風が降りかかってくる。
『オボルス小隊、スティングレイ4は待機地点に移動する。航空支援が欲しい時は呼んでくれ。
そう言い残し、スティングレイ4は何処かへと飛び去って行く。残されたオボルス小隊は任務を遂行せんと、まずはバーントフォレストの各地点を捜索すべく、人生二度目のZONEを進んでいった。
◇スペツナズ
洋の東西問わず色んな作品に出てくる旧ソ連・ロシアの特殊部隊、直訳で特殊任務部隊という意味。
S.T.A.L.K.E.R.シリーズでもウクライナ正規軍の上位敵として登場するが、IPSFに取って代わられた2では登場しない。
本作でZONE駐留部隊に所属している特殊任務部隊が普段何をしているのかと言うと、設定上ZONEを取り囲むように存在する共生ホロウがZONEに拡大する事によって起きるかもしれない現象を防ぐ為に共生ホロウ内のエーテリアスを掃討し続ける部隊として配属されている……という設定。
◇ミリタリーストーカー
ウクライナ政府の工作員や軍と専属契約を結んだ元ストーカーで構成される、ZONEで政府の為に活動するエージェント。
正規軍が立ち入れないZONEの危険地帯に代わりに派遣されるエリート兵士達で、スペツナズの上位互換として主にゲームの後半に登場する。こちらも2には登場しない。
3作目CoPの主人公はミリタリーストーカーとなり、失敗に終わった軍の作戦を調査するというストーリーとなっている。