Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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53.VS ダークストーカー

 

 

 

 遥か昔に存在したと言われる讃頌会の異端者「シン(SIN)

 彼らがアキラを攫い、衛非地区の讃頌会の残党をZONEに集め、何かを企んでいる事は分かったが事態は何も進展していないどころか悪化しつつある。

 

 何せ真犯人の名前だけしか分からず、どんな計画を企てているのか未だに判明していない上、地上で待機中のリヒターとリン、トリガーとシード、デューティの小隊と通信が途絶し、目の前の捕虜となっている讃頌会は既に“シン”の傭兵に始末され、自分達も同じ目に遭うぞとほざく始末。

 

 そう簡単に仲間達がやられるとは微塵も思っていないスキフ達は待機組なら上手く対応出来るだろうと信じ、一先ずアグロプロムの地下から脱出する事を決めた。

 

 「この讃頌会……まだ使える情報を持っているかもしれない。一応連れて行きたい、ポーセルメックスの科学者もな。」

 

 『まぁ良いだろう……私達はトリガー達との合流を目指すが、プロキシ君は何処にいるんだ?』

 

 「最後に別れたのがアグロプロム工場だ。優秀なガイドも一緒にいる、何かあっても安全な場所に逃げている筈だ。」

 

 『通信が妨害されている状況では確認も取れん、お前も共に来てもらうぞ、異端者の傭兵も接近しつつあるようだからな。』

 

 「分かった、鬼火隊長。」

 

 相手の戦力が未知数である以上、スキフ単独で動くよりオボルス小隊やデューティ達と行動した方が良い。

 捕虜となっている讃頌会の構成員や元ポーセルメックスの科学者はシュルガ中佐達3人のデューティが連行する事になった。

 

 「お前達!その2人から目を離すなよ!」

 

 「「了解!」」

 

 すっかり体力を回復させたシュルガ中佐からの命令に元気よく応える鬼火達とやって来た2人のデューティ突撃隊員。

 怯える科学者と俯いたままの讃頌会の腕を掴み、連行しようと少々乱暴に引っ張り上げた。

 

 「おら立て!」

 「い…言う通りにするから優しく……」

 「運が良かったなカルト野郎、まだ死なずに済むぞ。」

 「…………」

 

 デューティ達が捕虜を連れて行こうとする間、11号は自分達が入ってきた扉から異端者の傭兵が侵入して来るのを警戒している。

 スキフもそれに加わりつつ、気になっていた事を彼女に聞いてみた。

 

 「そう言えば11号、お前達が地下を制圧中に戦闘の音が俺と中佐には聞こえてこなかった、そんなにスムーズに制圧出来たのか?」

 

 「それなりに戦闘は起こったわ……科学者の捕虜曰くこの試験場は強固な防音設備が整ってるらしいの。この部屋での戦闘も私達には殆ど聞こえなかった、地響きは感じたのだけれど……」

 

 「つまり今異端者の傭兵がどれだけ近づいて来るのか分からな─────」

 

 ボゴォォォン!!!

 

 途端、試験場の上部──X-ラボ地下2階と丁度同じ位置──に存在するキャットウォークの一部が盛大に吹き飛び、そこから瓦礫と共に複数のグレネードが投げ込まれた。

 

 「グレネードォ!!」

 

 『伏せろオルペウスゥ!』

 「回避行動であります!」

 

 「こっちだ!」

 「動きやがれ……クソッ!」

 

 シュルガ中佐が叫び、飛んできたグレネードを避けるため付近にいた鬼火とオルペウス、デューティ達が咄嗟に回避する。

 なんとか捕虜を引きずったデューティ兵によって讃頌会の方は安全圏に退避出来たが、腰が抜けて禄に動けなかった科学者は助けられないと判断されその場に捨て置かれた。

 

 「ひっ─────」

 

 腰が抜けながらも必死に逃れようとした科学者の努力も虚しく、彼を引き裂く様にグレネードが起爆し、周囲に破片と多量の()()()()が巻き散らかされる。 

 

 『っ!?総員退避!』

 

 「これは……ミアズマか!?」

 

 破片から生き延びた人間を侵食で殺す事しか考えてないとしか思えないミアズマ・グレネードの威力に、それなりの対侵食アーティファクトしか所有していていない鬼火達はおろか、そこまでのアーティファクトを持たないデューティ達も慌てて部屋の端に退避を余儀なくされる。

 

 ミアズマの瘴気が試験場の中央を包もうとする中、キャットウォークごと吹き飛んだ穴から“透明な何か”が複数体、音もなく降りてきたのを離れた位置にいた11号とスキフは辛うじて認識出来た。

 

 「鬼火隊長!何かがそっちに───」

 

 「───っ!11号!受け身を取れ!」

 

 鬼火達の援護に向かおうとした11号をスキフは突き飛ばす。その瞬間、()()()()を含んだ銃弾の雨が2人の間に割り込んで来た。

 

 「11号さん!スキフ殿!」

 『余所見するなオルペウス!来るぞ!』

 

 「デューティ!交戦開始!」

 

 11号の呼びかけで透明な何かを認知出来た鬼火はレーザーを吐いて敵を迎撃する。

 シュルガ中佐も同様に部下に交戦を指示し、2人のデューティ突撃隊員も降りてきた透明な相手と交戦しようとするが……

 

 「始まりの主よ───再創を!」

 

 「がっ!?きっ…貴様───ゴボッ……!?」

 

 捕虜となっている讃頌会が自分の近くにいたデューティにタックルを食らわし、そのまま縺れる様に転倒する。

 逃走では無い突然の行動に混乱したそのデューティは何とか退けようとした瞬間、胸に強烈な熱さを感じたと同時に口から血を吐き出した。

 

 「アルテュノフ軍曹!?」

 

 驚愕したシュルガ中佐が部下を見ると、透明な何かに乗りかかられた讃頌会の背中に赤い刺し傷が幾つも浮かび上がっている。デューティの兵士は讃頌会ごと貫かれたのだ。

 

 透明、傷跡、辛うじて見えるシルエット、ZONEで生き抜く者なら誰しも見慣れた存在(ミュータント)

 そしてこのX-ラボで行われていた実験を鑑みて、シュルガ中佐は透明な敵の正体に見当がつく。

 

 「間違いない!コイツら“ハイブリッド”だ!多分ブラッドサッカーのサクリファイス!」

 

 「こ…こいつがサクリファイス…!」

 

 「め…目です!目だけが光っているであります隊長!」

 

 『ビビるな!ZONEに来てから似たような奴(ブラッドサッカー)と何回も出くわしてるだろう!戦術プラン「血が出るなら倒せる」だ!』

 

 シュルガ中佐が周囲に警告すると同時に「ハイブリッド・ブラッドサッカー」が、唸り声も上げず、透明化を維持したまま、強化された爪を振り上げて音も無く鬼火達とデューティに襲いかかっていく。

 

 「鬼火隊長!オルペウス!」

 

 「俺達はこっちだ11号!来るぞ!」

 

 スキフと11号の動きを阻む銃撃と共に誰かが接近して来る足音が2人の耳に入ってくる。

 11号はナタを、スキフはASラヴィナを構え、試験場の出入口近くの壁際で突入して来るであろう敵に備えた。

 

 

 ─────が、銃撃が飛んでくる防護扉の向こう側から飛び込んで来たミアズマの炎が2人を一瞬怯ませる。

 

 「くっ……またミアズマ……!」

 「クソッこれは……!?」

 

 ファクトリーで鹵獲した「エリミネーター」に装填され、スキフがクリアスカイに対して使用した、ミアズマブレス弾と同様の攻撃にスキフは驚いたが、同時にこの武器を持った存在を思い出した。

 

 『アサルトチーム、突入しろ!』

 

 「()()()()お前等か!ガスマスク共!」

 

 ガスマスク、グレーのアーマー、ダークブルーの軍服。

 チョルノービリのZONEで傭兵と呼ばれる者達とそっくりな装備、そしてコルドン前哨基地襲撃の犯人、リンの誘拐犯、ミアズマが装填された武器。

 

 たった今突入してきた“異端者の傭兵(ダークストーカー)”こそ、これまでスキフが見つけて来たガスマスクの傭兵の正体である事は明白であった。

 

 『エネミーコンタクト!』

 

 スキフと11号が出入り口付近で待ち伏せしていたのを予測していたのか、突入早々銃ではなくハンドアックスで近接戦闘を仕掛けてくる傭兵。

 

 ミアズマの瘴気を潜り抜けて3人が突入し、11号に2人、スキフに1人が襲いかかっていく。

 

 先手を取られたスキフは咄嗟にASラヴィナで振り下ろされた攻撃を受け止めようとしたが、ハンドアックスが妖しく赤い光を放った瞬間、ミアズマによって強化された一撃がASラヴィナの銃身を破壊し、スキフの装備する“サンライズスーツ”の肩アーマーに僅かに食い込む。

 

 「なぁ──!?」

 『なん……だとぉ!?』

 

 スキフと傭兵はお互いに驚愕する。

 

 スキフは元居た世界からずっと連れ添ってきたメインウェポンが盛大に破壊された事に。

 

 異端者の傭兵は相手の武器ごとアーマーを砕き、内臓を蝕むミアズマ侵食と共にそのまま身体を袈裟斬りにする筈だった攻撃が平然と受け止められた事に。

 

 スキフの持つ伝説級アーティファクト“リキッドロック(装備保護)”と“コンパス(物理防護)”の合わせ技によって、ASラヴィナが破壊された時点で攻撃の威力が大幅に削られた上、最高レベルの対侵食効果も持つ“リキッドロック”のお陰でミアズマの侵食もほぼ無力化された結果だった。

 

 「Сука Браят(クソ野郎がぁ)こいつ(ASラヴィナ)の維持整備に幾らかけてたと思ってんだぁ!」

 

 『な…何を───がぁ!?』

 

 “ハイパーキューブ(止血効果)”によって僅かな出血も止まり、ほぼ無傷と言ったスキフであったが、だからと言って元居た世界からここまで付き添ってきた相棒とも言える武器を失った怒りは計り知れない。

 

 以前、沼地でサイガD-12(ショットガン)を破壊した外来種のハティに向けたのと同等の殺意を胸に片手で肩に食い込むハンドアックスを抑え、もう片方の手で無残な姿となったASラヴィナの残骸を傭兵の頭部に叩きつける。

 

 ガスマスクが歪み、レンズが粉砕されて傭兵の武器を握る力が弱ったのを見計らってハンドアックスを奪い取り、渾身の力で傭兵の脇腹へと深くめり込ませた。

 

 『がっ……ぷ……』

 

 電子加工された悲鳴が漏れ、止めを刺す為にハンドアックスを引き抜いて、今度は首筋に叩き込もうとした瞬間、本能が警告を発し傭兵の身体を出入口の方へ向ける。

 

 「あっつ!?」

 

 試験場の出入口から放たれた銃撃がスキフへ襲いかかる。

 死にかけた傭兵を盾にしたお陰で直撃は防げたが、それでも貫通した弾頭がスキフの身を掠めた。

 

 だが怯んでいる暇は無い、傭兵を盾にしながらハンドアックス片手に出入り口に突撃する。

 

 突撃ついでにちらりと11号を見ると2人がかりの傭兵に互角以上に渡り合っている。

 相手を倒すのに時間が掛かっているのは傭兵の兵器によるミアズマ侵食の影響を出来る限り避けているからだろう。

 

 向こうは大丈夫。彼女はスキフよりもずっと強いのだ、ミュータントやアノマリー相手ならともかく対人戦で後れを取るとは思えない。

 

 出入口を飛び出す直前、全力で死体を突き飛ばす。

 傭兵達もバカじゃない、近づかれる前に距離を取って試験場から突入してくるスキフに十字砲火を食らわせられる位置に陣取っていた。

 

 滅多撃ちにされ穴だらけと化した死体が地面に転がる────その瞬間、死体が炸裂し、フロアにミアズマの瘴気が巻き散らかされる。

 

 『ちっ……こけおどしか!』

 

 傭兵が装備していた“ミアズマグレネード”だ。讃頌会の異端者である彼らにとってエーテル侵食なぞ気に留める事ではないが、それでも霧の様な瘴気が視界を阻む。

 

 『制圧射げ────』

 

 「ypaaaaa!!!!」

 

 ミアズマグレネードの起爆に傭兵が一瞬意識を取られた隙に、ハンドアックスとファクトリーで鹵獲し、弾切れによって鈍器となっている“エリミネーター”を手に持つスキフが叫びながらミアズマの瘴気に突っ込んでいく。

 

 フロアに陣取る敵の人数を把握、正面に1人、左右に2人。

 

 正面の傭兵に向けてハンドアックスを投擲。銃のトリガーを引く前に相手の肩に突き刺さり、そのまま後ろに転倒させた。

 

 続けてエリミネーターを全力で右側の傭兵へぶん投げる。未装填でも3kgに及ぶ金属の塊がガスマスクに命中し、砕けたレンズを飛散させながら傭兵は昏倒する。

 

 スキフの背中に衝撃。左側にいた傭兵の装備するミアズマエネルギー銃「FT200M」の銃弾がスキフに直撃したのだ。

 だが想定通りだ、“コンパス(物理防護)”のお陰で致命傷には至らない。倒れるふりをしながらPTMピストルを引き抜いて背中を撃ってきた傭兵の全身に9x18MM弾をお返しする。

 

 衝撃を逃がす為に地面に受け身を取ると、エリミネーターを投げつけた傭兵が意識を取り戻そうとしていたのでピストルの残弾を頭と股間に撃ち込んでおく。

 

 残敵────正面の傭兵に意識を向けた瞬間、肩にハンドアックスを刺したままの傭兵がエリミネーターの銃口をスキフに向けていたのを認識し、咄嗟にフロアの右側にあった1番近い木箱の山へと身を隠した。

 

 放たれたミアズマブレス弾が木箱へと振りかかりバキバキと音を立てて壊れていく。

 相手が弾切れを起こすより木箱の山が壊れる方が早い。実のところ、アーティファクトのお陰でこの世界に来てからエーテル侵食というものに縁がないスキフだったが、流石にアレの直撃を喰らったらどうなるか分からない。

 

 『ミアズマに焼かれろ!』

 

 「クソっ!そう言えばエーテル侵食って放射線障害とは違うよ……な!?」

 

 スキフが遮蔽物が粉砕される前に反撃すべく身を乗り出た瞬間、試験場の出入口からかなりの勢いで投擲されたハンドアックスがエリミネーターを乱射する傭兵の腹に直撃し、刃が深々と食い込んだ。

 

 『ぐ……おおお!! ─────あぐ……!』

 

 倒れそうになるのを踏ん張り、ハンドアックスが飛んできた方向へ傭兵がエリミネーターを発砲しようとするが、その前に死んだ傭兵から“FT200M”を拾い上げたスキフがヘッドショットを喰らわし敢え無く崩れ落ちる。

 

 スキフが出入口の方に視線を向けると、自身に襲いかかった傭兵を排除し、奪い取ったハンドアックスを投げた姿勢の11号がそこにいた。

 あの距離で正確かつスキフ以上の威力で投擲したのを見るに、控えめに言って少女にしか見えないあの体躯や細腕には軍人として鍛え上げられた筋肉と技術がしっかり詰まっているようだ。

 

 「トーチ・スラグ、侵食は受けてな───」

 

 11号が言い終わる前に、スキフは()()()()()()()FT200Mを発砲。

 スキフの発砲と同時に11号は身を屈めて()()()()一閃。

 

 頭部への銃撃と腹部を両断され、音もなく彼女の背後に忍び寄った“ハイブリッド・ブラッドサッカー”は断末魔の叫びやその死体を晒す事なくエーテルの光だけを残して消滅した。

 

 軽く息を吐いたスキフが口を開く。

 

 「お見事……なんか懐かしいな、この感じ。」

 

 「奇遇ね、私も同じ気持ちよ。」

 

 11号との共闘はヤンターでの調査任務を思い出す、あの時もお互い助け合ったりしたものだ。

 試験場の方でもサクリファイスを排除出来たようで、鬼火とオルペウス、シュルガ中佐とデューティ兵が合流してきた。

 

 「な……なんとかやっつけられたでありますぅ……」

 

 『そっちは大丈夫か11号?』

 

 「クリアです隊長、デューティの方は……」

 

 「此方も問題ないオボルス……1人やられたがな。」

 

 倒れたデューティからアーティファクト等の装備を回収し、サクリファイスとの戦闘で負った傷に包帯を巻きながら、犠牲を嘆く暇はないとシュルガ中佐は続けた。

 

 「捕虜も死んだ以上、一刻も早く脱出した方がいい。奴らの装備……その内地下全体がミアズマで覆われるぞ。」

 

 『同感だな……全く、単純な脅威度は置いといて、衛非地区で戦った讃頌会共でさえミアズマをここまで兵器化はしていなかったぞ。』

 

 デューティやオボルス小隊が装備している軍用レベルの対侵食防護装備が意味を成さない異端者のミアズマ兵器、アーティファクトや抗侵食除去薬が無ければ間違い無く試験場で全滅してもおかしくなかった。

 

 オボルス小隊やデューティが体内に入り込んだミアズマをアーティファクトや薬で除去している間、スキフは傭兵からFT200Mやエリミネーター用の弾薬を回収していた。

 ショットガン用の弾薬に関してはミアズマブレス弾の他に通常のバックショット弾も見つけたのでそれも幾つかバックパックに放り込んでおく。

 

 敵に思い切り投げつけたエリミネーターは捨て置き、代わりに敵が使っていたものを持っていく事にした。

 他にも通信機やPDAを見つけたが、残念な事にどれも所有者が死亡した時点で使えなくなるよう細工がされていたので放置する。

 

 敵の装備のチェックをしていたスキフを見ていたオルペウスが讃頌会の武器を使うのかと問いた。

 

 「スキフ殿……その兵器の運用に問題は無いのでありますか…?」

 

 「銃が壊されたからな、ガウスガンは取り回しに難があるし俺の拳銃は威力が低い、使えるものは使わないと。」

 

 「オルペウスはあなたがミアズマに侵食されないか心配しているのよ。敵の…それも讃頌会の兵器を使うのは通常、リスクが高すぎるわ。」

 

 11号の横でオルペウスがフンフンと頷く。

 讃頌会が使う武器なんて一体どんなデメリットが隠れているか分かったものじゃない。アレだけミアズマを巻き散らかす兵器なのだ、使っているだけで侵食が起きるかもしれない───が、スキフにとっては大したリスクではなかった。

 

 「もし侵食の副作用があっても平気だ、俺の持つアーティファクトはエーテル侵食なんか完全に打ち消す代物だからな。」

 

 『本当なら頼もしいことだが……閉所での使用は出来るだけ避けろ、お前は平気でもこっちのアーティファクトじゃ侵食を防ぎきれないんだからな。』

 

 鬼火が釘を刺すように言う。確かにエリミネーターのミアズマブレス弾は強力であるがミアズマの瘴気がその場に残る。

 オボルス小隊やデューティの保有するアーティファクトでは、汚染範囲内での侵食を完全に防ぐ事は出来ないだろう。

 抗侵食除去薬があるからと言って、結局は消耗品だ。

 

 「………了解だ、胸に刻んでおく。」

 

 スキフとて自分はともかく仲間を巻き添えにはしたくない。

 鬼火の言葉を真剣に受け止め、エリミネーターへの装弾を終わらせた。

 

 

 

 

 

 『“スキッパー”、アサルトチームが全滅。ハイブリッドもやられた…!』

 

 『クソ、奴ら只者じゃないな……作戦変更だ、総員────』

 

 

 

 

 

 アグロプロム地下のX-ラボは地下3階建てとなっている。

 基本的に階層間の移動はフロア中央の螺旋階段か、貨物用エレベーターだ。

 

 スキフ達は螺旋階段を慎重に登っていき、敵の待ち伏せがないか確かめながら進んでいたが地下一階に登るまでの間、奇妙な事に試験場以降、敵の襲撃は全く無かった。

 

 「奴らがアレだけとは思えないんだけどな……」

 

 「フン!敵軍は此方の強さに慄いて尻尾を巻いて逃げたに違いない!であります!」

 

 『オルペウス……衛非地区の讃頌会を忘れたのか?あのカルト共は死ぬまで突っ込んで来るイカれた連中だった。異端者だのなんだの言ってるが精神性は変わらん……そもそも戦場で油断は禁物───』

 

 「うぅ……鬼火隊長のモノマネをしてみただけなのに……」

 

 『は?』

 

 スキフを先頭に地下一階へ上がる一行。

 地下一階のX-ラボのエントランスがあるフロアは中央のコンクリートで囲まれた制御室と、その周りの地下2階の檻──或いは牢獄を天井から監視できる区画で分けられている。

 円形状のフロアはコンクリート柱や機材を除けば中央の部屋以外に壁等の遮蔽物はあまり無い。

 

 制御室を出たスキフ達はX-ラボの出入口である防護扉へと歩みを進める。

 

 「……そう言えば、11号達が降りてきたのは防護扉の先にあるエレベーターだったよな?」

 

 「そうよ、アグロプロム調査研究所のエレベーターから地下通路を通った先にまたエレベーターがあって、それがここに繋がっていたわ。」

 

 「俺の知らないルートだな………スモーク!」

 

 オボルス小隊が来たルートを確認していると、防護扉からスモークグレネードが投げ込まれ、それぞれが近くの遮蔽物へと身を隠し、出入口から異端者の傭兵が突入してくるのを警戒する。

 

 「………なかなか出てこないでありますね。」

 『よく聞けオルペウス、何か足音が……』

 

 「中佐、煙幕が赤く光って……」

 「またミアズマ……か?」

 

 「待って、この駆動音……!」

 「冗談だろ…ゲームの中だけにしろそんなもん……!」

 

 分厚いブーツの音を響かせ、防護扉を包むスモークから見えてきた大きな影。

 

 スキフやデューティ達より遥かに大柄な肉体を守る、異端者の傭兵専用の「ブルムバー・エクソスケルトン(強化外骨格)

 アーマー背面のシールド発生機から展開される強固な多層ミアズマシールド。

 ()()()()()()()腕に持つは、子供以上の大きさを誇る、三銃身の肉厚なバレルを持つ巨大な“GAU-19”によく似たガトリングガンと背中に続く弾薬ベルト。

 

 かつて、「火を帯びし先導者」という名で衛非地区で暴れ回った讃頌会の戦士は、今や異端者の傭兵へと姿を変えその邪悪な暴力性をスキフ達に振るわんとしていた。

 

 

 『始まりの主よ──奴らに神罰をぉ!!』

 

 

 『やらせるな!撃てぇ!』

 

 鬼火の号令と共に、彼女を両手で構えたオルペウスが、自動小銃を構えるシュルガ中佐とデューティ兵が、ガウスガンに持ち替えたスキフがそれぞれの武器を異端者のエクソスケルトン兵に放つ。

 

 だが彼らのレーザー、銃弾、ガウス弾頭は全てミアズマシールドに阻まれ、相手の身体を多少揺らしただけで致命傷には至らない。

 

 お返しにとエクソスケルトン兵は巨大な大口径ガトリングガンのトリガーを引き、毎分二千発もの弾丸の雨を撒き散らす。

 不運にも最初の餌食になったのはデューティの突撃隊員だった。

 

 盾にしていたコンクリート柱は一瞬で砕け散り、断末魔を上げる暇すら無くデューティ兵は血煙へと姿を変える。

 

 「ソロキン!クソォォォ!!」

 

 自身の救出に来てくれた部下を失ったシュルガ中佐の叫びをかき消すように、目に付く柱や機材、中央制御室の壁を次々と粉砕しながらガトリングを振り回すエクソスケルトン兵。

 スキフ達は当たらない事を祈りつつ段差に身を隠すか、フロアの奥へと後退を余儀なくされていた。

 

 これがただのガトリングガンだったならオボルス小隊ほどの実力者なら普通に対処出来たかもしれない。

 だが異端者のエクソスケルトン兵が振り回すあのガトリングから、銃弾一発一発に()()()()()()()()が籠められていたのがマズかった。

 

 アーティファクトのお陰で侵食による昏倒やエーテリアス化は防げる。だがあまりにも濃密過ぎるミアズマがフロアを満たし始め、反撃を困難にしていた。

 

 『クソ…!活性化中のラマニアンホロウかここは!?大丈夫かオルペウス!』

 

 「ごほっごほっ……!だ…大丈夫…であります…!ですがシュルガ中佐が……!」

 

 「近づくなオボルス!私はいい……!自分の身を守れ!」

 

 『ちぃ……!11号!スキフ!お前達は無事か!?』

 

 銃撃の中に取り残されたシュルガ中佐がミアズマのせいで苦しそうに息を切らす。

 鬼火は歯がゆい気持ちでそれを眺めながら自分達と反対側にいる2人を心配した風に呼びかける。

 

 「此方は無事です隊長!私達で奴に攻撃するので、合図をしたら敵の気を逸らして下さい!」

 

 『何か案があるんだな!?頼んだぞ!』

 

 11号は隣にいるスキフを見る。

 スキフはガウスガンのリミッターを外し、チャージ体勢に移行していた。

 

 「コロボーグ・プラズマ、あなたのガウスガン……以前より強化されているようね。」

 

 「ああ、奴をシールドごとブチ抜けるが……奴もバカじゃないからこっちに火力を集中してくるだろう。ただでさえチャージ中はじゃじゃ馬になるのに、この猛射じゃだからな……俺がしくじったら……」

 

 「私が奴に止めを刺す。少なくともあのミアズマシールドは剥がせるのでしょう?」

 

 「多分な……ほら、アーティファクト交換だ。」

 

 そう言うとスキフは11号に“リキッドロック”を、11号は軍から支給された対侵食アーティファクトをスキフに渡す。

 これで11号は致死量のミアズマの中でも自由自在に動きまわれるようになった。

 

 スキフがガウスガンのチャージを始めると、ガトリングガンの発砲音が響く中でもバチバチとうるさく聞こえ、同時にスキフの隠れている位置が光り始める。

 それに気付いたエクソスケルトン兵はスキフの方への銃撃を厚くした。

 

 『ブチかますぞオルペウス!』

 「りょう……かいぃ!」

 

 「ついでだ持っていけ!」

 

 11号は鬼火に合図すると、ミアズマ侵食によって少しふらつきながらオルペウスが鬼火を構えて強力なレーザーをエクソスケルトン兵に放ち、続いてシュルガ中佐も敵の頭部目掛けて射撃を行い、ミアズマシールドを削り取っていく。

 

 『小癪なぁ!』

 

 猛烈な反撃によろめきながら、エクソスケルトン兵は鬼火達に射線を向け、無数の銃弾とミアズマが彼女達に襲い掛かる。

 一瞬の隙、待ってましたと言わんばかりにスキフがエクソスケルトン兵を照準に捉え、チャージを終えたガウスガンの引き金を引こうとするが……

 

 『────“炎”よぉ!!』

 

 「は───?」

 

 その瞬間、スキフの視界───否、全身が“炎”に包まれた。

 

 「火を帯びし先導者」はその名の通り「火」を司る讃頌会の導師。

 かつてその導師だったエクソスケルトン兵は以前の力を使い、ガトリングガンを操作しながら片手でミアズマの炎球をスキフ目掛けて放ったのだ。

 

 だがスキフは歯を食いしばって耐える。全身が熱に焼かれながら、視界が炎で見えなくなろうとも気合で耐えた。

 

 「こんなもん……アノマリーに比べればなぁぁ!」

 

 炎に包まれながら、大型エーテリアスやAPC(装甲兵員輸送車)を粉砕するガウスガンのフルチャージ弾が放たれる。

 

 閃光が暗い地下空間を照らし、耳を劈くような甲高い発砲音がフロアに響き渡る。

 

 しかし、全身が焼かれている影響で僅かに射線が逸れてしまった。

 

 弾頭は多層ミアズマシールドを容易く貫通し、ガトリング本体と引き金を引く腕、エクソスケルトン兵の脇腹と外骨格の一部を消し飛ばす()()()()()()

 

 『グ……オォォォォ!』

 

 身体が引き裂かれながらもギリギリ持ち堪えた狂信者は、自分に残る最後の武器であるミアズマの術を放とうとする───事は叶わなかった。

 

 「終わりよ!」

 

 致死量のミアズマの瘴気を飛び越えて、一気に距離を詰めた11号の炎を纏いし刃が、ひび割れたミアズマシールドごとエクソスケルトン兵を両断した。

 

 「ミートチャンク・バッテリー!鬼火隊長!オルペウス!シュルガ中佐!皆無事!?」

 

 エクソスケルトンを撃破した11号はすぐに他の者達の安否を確認する。

 鬼火、オルペウス、シュルガ中佐はミアズマ侵食のせいで頭を抑え、咳込みながらも何とか無事だった。時間が経てばアーティファクトで侵食の影響を無くせるだろう。

 

 だがスキフ、全身がミアズマの炎に焼かれた彼は大丈夫なのか───急いで彼の下に向かおうとすると、全身から焦げた匂いを漂わせるスキフがフラフラと歩いてくる。

 

 その手には、リキッドロックの代わりに11号が渡した赤いアーティファクトが握られていた。

 

 「……丁度、お前が“プラズマ”持ってたお陰で焼け死ぬのは回避出来たぞ………」

 

 「ええっと……無事、で良いのかしら?」

 

 「ヤンターを思い出せ、俺結構頑丈だったろ?」

 

 「そう……これ、返すわね。」

 

 スキフにリキッドロックを返し、代わりに渡した“プラズマ”をスキフから受け取る。

 11号が軍から支給されたこの珍しいアーティファクトはそこそこの侵食防護とそこそこの()()()効果を持つ。これのお陰でミアズマの炎が直撃しても死なずに済んだのだ。

 

 「うぅ……頭がクラクラするであります……」

 

 『踏ん張れ、地上に出るまで休む暇は無いぞ。』

 

 「その通りだオルペウス隊員、讃頌会の奴らがどれだけ戦力を送っているかまだ分からない、一刻も早く友軍と合流しなければ……」

 

 シュルガ中佐が懸念している通り、こんな閉鎖空間でまたあんな讃頌会のエクソスケルトン兵と出くわしたら身体が幾つあっても足りない。

 手早く抗侵食除去薬を身体に打って足早にX-ラボを出たスキフ達は、地上への脱出を目指そうとした途端────

 

 爆発音と地響きが地下全体を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 『聞こえたかあの音?奴ら強力な兵器を持ち込んでやがる。ルーキーの奴は死んだな、結構イイ奴だったのに。』

 

 『作戦に変更無しだ、ここで奴らを確実に仕留める。エレベーターは破壊したな?』

 

 『はい、奴らが脱出するにはこのルートしかありません…………“スキッパー”、排水システムの細工は終わったそうです。』

 

 『よし、何とか間に合ったな……起爆しろ!』

 

 異端者の傭兵(ダークストーカー)達は地上へと続く地下道でスキフ達を待ち伏せしていた。

 ここは最初、スキフがX-ラボに侵入を試みた際に、ラボへ続く穴がコンクリートで塗り固められていた為、通る事が出来なかった場所である。

 今は傭兵達の侵入口として利用され、再度通行用の穴を開けられていた。

 

 “スキッパー”と呼ばれた傭兵の指揮官が通信で合図を出すと、アグロプロム地下の各所で爆発と同時に大量の水が流れ込んでくる。元々、証拠隠滅用にある程度細工をしておいたのだ。

 アグロプロムの近くに大きな川が流れている事もあり、数分もすれば完全に地下全体がほぼ水没するだろう。

 

 だが傭兵達は動かない、このままでは彼らも巻き込まれると言うのにだ。

 

 彼らに与えられた任務は生存者の()()

 自分達の命を賭して生存者を地下から生きて帰さないこと。

 

 “シン”と言う異端者の“教義”や再創に関するスタンスが“本派”と違えども、彼ら自身も狂信者である事には変わりない。

 

 既に地下道が崩落を始め、水で満たされるまで数分。

 

 残された脱出ルートはここだけ、後はここに来る者達を死ぬまで押し止めるのみ。

 

 ミアズマ兵器を構え、残存するハイブリッド・サクリファイスを待機させる。

 

 照明が落ち、薄暗い地下道で逃げ惑う敵を今か今かと待ち構えていた。

 

 

 その後ろに、迫りくる水流から逃れてきた()()()が近づいている事に気付かずに。

 

 

 

 

 

 「Давай Давай(走れ 走れ)!もうすぐ地下が埋まっちまうぞ!」

 

 『クソォ!あのイカれたカルト共ならこう言う手を使って来ることを予測すべきだった!』

 

 「あわわわ!もう既に水が来ているでありますぅ!」

 

 エクソスケルトン兵を倒して一段落、その瞬間にX-ラボの崩落と同時に天井から大量の水が流れ込んで来たので慌てて逃げ出したスキフ達。

 

 鬼火達が来たエレベーターは破壊されており、代替ルートとしてスキフの知る道に希望を見出して地下道を進んでいくと、激しい銃声と怒号が耳に入ってくる。

 

 「前方で戦闘音!恐らく讃頌会よ!」

 

 「え…?傭兵達は何と戦っているんでありますか!?」

 

 「この状況だ!少なくとも味方だとは思えないな!」

 

 スキフ達がより広い地下道へと飛び出すと、そこでは凄まじい殺し合いが繰り広げられていた。

 

 『撃て撃て撃てぇ!バケモノ共を排除しろ!』

 

 「はっ!あいつらバカだ!水没なんてやったせいでミュータント共を誘き寄せやがった!」

 

 『丁度いい!総員!混乱に乗じて突っ切るぞ!』

 

 地下道では水没によって追い立てられたアグロプロムを巣にしていたであろうブラッドサッカーやスノークの群れが異端者の傭兵やハイブリッドへと襲いかかっていた。

 住処を破壊されたからか、或いは邪悪な異物(サクリファイス)を排除する為か、どちらにせよ、異形の怪物達が激しい怒りを抱いているのは見て分かる。

 

 『チィ!だからアレほど定期的にミュータントは掃除しておけと────なっ!?』

 

 ブラッドサッカーの頭をハンドアックスで叩き割った傭兵がスキフ達を発見し、驚愕の表情を浮かべる。

 

 『スキッパー!奴らがもう────がぁ!』

 

 「敵一名排除!」

 

 『クソ!“オペレーター”!ハイブリッドを奴らにぶつけろ!』

 

 『了解です!』

 

 その傭兵を11号が容赦無く斬り捨て、慌てた他の傭兵が味方に指示を出す。

 ダークブルー色の「SEVAスーツ」を着込んだその異端者の傭兵は、ミュータントからの攻撃を防弾盾で防ぎつつ背中の無線機の様なバックパックから伸びるジョイスティックを操作する。

 

 すると、ミュータントをねじ伏せていた数体のハイブリッド達が脇目も振らずにスキフ達へと向かって行った。

 妙に統制の取れたハイブリッドの動きに鬼火が目標を定める。

 

 『アイツがサクリファイスを操っているのか!オルペウス!11号!優先目標!サクリファイス操縦者!』

 

 「「了解!」であります!」

 

 「援護する! シュルガ中佐!」

 

 「言われずとも!」

 

 スキフとシュルガ中佐の援護射撃を受けながらオルペウス達は突撃を開始。

 ハイブリッドが斬り割かれ、傭兵が撃ち抜かれ、飛び掛かって来たミュータントがレーザーで両断される。

 サクリファイスや傭兵、ミュータントを殲滅しながらあっという間に地下道の奥に居るサクリファイスのオペレーターまで辿り着ついた。

 

 『ク…クソ!』

 

 オペレーターは盾を構えながら拳銃で抵抗するが、そんなもので止められる3人では無い。

 11号に盾を弾かれ、ナイフを装着した鬼火の斬撃をモロにくらい、壁に吹き飛ばされバックパックが破壊される。

 

 オペレーターのバックパックが破壊された途端、生き残っていたハイブリッド達の動きが目に見えて鈍くなり、それまで圧倒していたミュータントに逆襲され排除されていった。

 

 『………後退だ!』

 

 ハイブリッドが全滅し、状況の不利を悟った傭兵の指揮官は残存する部下と共に更に奥へと引っ込んでいく。

 スキフ達も追撃しようと、崩落した壁を越えて、最初にスキフが通ったカーブが掛かったFruit Punch(フルーツパンチ)が点在する地下道へと入っていった。

 

 だが隣の地下道に突入した瞬間、傭兵達の銃撃が行く手を阻む。咄嗟に遮蔽物へと身を隠したスキフ、鬼火、シュルガ中佐の反撃で傭兵達が撃ち倒されていく。

 

 残る1人、アグロプロム工場への出口に通じる入口に立つ傭兵の指揮官は、武器を捨ててまるで降伏したかの様に両手を上げ──その手には何かの起爆装置が握られていた。

 

 「Нет Нет Нет(待て 待て 待て)、お前まさか───」

 

 『始まりの主よ……そして“伝道者”よ……!我らが贖罪と、再創を────!』

 

 傭兵の指揮官が起爆装置を押した瞬間、彼を中心に盛大に爆薬が爆ぜ、アグロプロム工場に続く道が完全に崩落して進む事が出来なくなってしまった。

 

 「У, мать вашу(マツオバショー)!ふっざけるなあのイカれ野郎!」

 

 『おいスキフ!他に出口は無いのか!』

 

 「調査研究所に繋がる出口がある!まだ崩落してなければの話だがな!」

 

 「マズイわ…!水が膝丈まできてる!」

 

 急いで別の道に向かうスキフ達。

 X-ラボに侵入した“抜け穴が”ある道を通り過ぎ、狭い入り組んだ通路を水をかき分けながら急いで進む。その後ろでは水没から逃れようとミュータントも逃げ惑っている。

 

 必死に通路を進んでいくと、空から光が差し込む円柱状の換気口の様な部屋に出る。

 壁に沿うように存在する螺旋階段を登って、何とか水を抜け出す。階段を登る途中にある扉があるのでそれにスキフは手を掛けた。

 

 「ここだ!この先が調査研究所の………あれ?」

 

 『おいスキフ、まさか開かないとか言うなよ?』

 

 「………ドアを破るから手を貸してくれ。」

 

 『はぁ……そこを退け、私が開ける。』

 

 鬼火が扉の前に来ると、ドアのヒンジと蝶番にレーザーを当ててドアを破壊する。

 それをスキフが蹴り破ると、扉の向こうにある通路が瓦礫の山で封鎖されていた事に驚愕する。

 

 「嘘だろ……!ここも崩落してたのか!?」

 

 「エーテル爆薬の匂い……あの傭兵達の仕業ね、先手を取られてたんだわ。」

 

 11号の言う通り、スキフ達の脱出経路を潰す為に異端者の傭兵が既に道を崩落させていたのだろう。

 こうなると最早どうやって地下から出るか、後戻りするには通路はほぼ水没してしまって不可能、先に進む道も無く、地上に出るには─────

 

 「………なぁ、空から光が差し込んでいるなら彼処から出られるんじゃないのか?」

 

 上を見ていたシュルガ中佐が天井を指差す。

 確かに地上へと続いていそうだったが、辿り着くにはあまりにも高すぎる様に見える。

 一応、螺旋階段の最上階までやって来たが、やはり天井まで遠すぎる。

 

 「梯子はあるけどボロボロで千切れてるわね。」

 

 「あれに掴まるのは無理そうだな……」

 

 どうやって全員をあの天井まで引き上げるか……悩んでいると、鬼火が何かを思いついたのか11号とオルペウスに指示を出す。

 

 『11号、お前のラペリング(降下用)ロープをオルペウスに渡せ。』

 「了解です。」

 『オルペウス、上を向いて私を構えろ。』

 「はい…?であります。」

 

 言われた通りにオルペウスは鬼火を天井に向けると、鬼火がレーザーを放って天井の鉄格子を溶断して穴を開ける。

 

 「あの〜穴を開けたとしても彼処まで登る手段が無いのでは…?」

 

 『お前達、壁際に寄るんだ。オルペウス、私を階段の下に向けた姿勢で手を離すな、しっかり持てよ、さもなくば死ぬぞ。』

 

 「お……鬼火隊長?なんか自分すっごい嫌な予感がするのでありまああああああああ!!!!!

 

 身体構造上必要無いのに何回か深呼吸をした後、凄まじいまでの火力の炎を下方へ吐き出した鬼火。

 すると彼女を保持するオルペウスの叫びと共に、まるでロケットの様に2人は天井へ打ち上げられていった。

 

 「……すげぇ、空を飛んでる。」

 「二人共飛べたのね……始めて知ったわ。」

 「これがオボルス小隊か……!」

 

 スキフ達が感嘆の声を上げ、舞い上がって行った2人を見上げる。

 暫くして、天井から微かにオルペウスの怒りの声が聞こえて来た後、スキフ達の下にラペリングロープが降ろされてきた。

 

 これで地上へと抜け出せる。

 11号、シュルガ中佐、スキフの順でロープを使って登っていく。

 ロープを離さぬよう力を込めながら、スキフは何とか地上まで這い上がって漸くあの地下空間から脱出する事が出来た。

 

 「はぁ…はぁ…やっと日の光……待て、なんだこの銃声は?」

 

 『……スキフ、プロキシ君と何処で別れたと言った?』

 

 地上に出ると同時に聞こえて来た、遠くで鳴り響く激しい銃声。

 更に鬼火が険しい表情でスキフに問いかけてくる。

 

 「リンと別れたのはアグロプロム工場……まさか!」

 

 嫌な予感がして立ち上がると、上空をヘリの編隊が飛んで行った。

 ヘリが向かう先にはアグロプロム工場、スキフ達が出てきた場所は、アグロプロム工場の南西部を進んだ場所にある小高い丘だった。

 

 「………私の部下だ、デューティが工場にいる。」

 

 双眼鏡で工場を眺めるシュルガ中佐の表情は暗い。

 

 「隊長、工場の敷地内に戦闘中のビック・シードを確認しました。」

 「屋上にトリガーさんもいます……!」

 

 同じく双眼鏡で偵察する11号とオルペウスも、同じオボルス小隊の仲間を工場で見つける。

 

 スキフは急いで自らもアグロプロム工場を確認する。シュルガ中佐が気を利かせて双眼鏡を貸してくれたのでそれを使い、工場の周囲を偵察する。

 

 「リヒター……!」

 

 親友が、オボルス小隊やデューティと共に工場内に立て籠もっていた。彼が彼処にいると言う事は、間違い無くリンもいる筈だ。

 

 ヘリの編隊が工場を囲む様に旋回し、銃撃を加えながらスピーカーで警告を発する。

 

 

 『此方はクリアスカイ!アグロプロムを占領する()()()()()()に告ぐ!貴様らの長きに渡る犯罪行為に対し、平和維持活動に基づき、武力行使を────』

 

 

 大音量でデューティ達や見た目ホロウレイダーのオボルス小隊を“バンディット”と呼ぶクリアスカイのBTRや戦闘ロボットの大部隊が、アグロプロム工場を包囲し、内部の人間に対し猛烈な攻撃を加えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「聞こえるか?マズイ事になった。そっちでも分かる筈だ。」

 

 『──────!?』

 

 「分かってる、恐らく“彼女”はあそこだ。すぐに助けに向かう……ついでにデューティも助けてやるか。」

 

 『────……───!』

 

 「……あまり過信しないでくれよ、もう俺は歳なんだ“ドクター”。」

 

 

 







◇パエトーン図鑑 「ダークストーカー」
ZONEのあちこちに広がる廃工事や謎多き秘密研究所の跡地に訪れると、稀にそこをひっそりと占領し何かを捜索しているガスマスクを身に着けた兵士達を見かけるだろう。
普通のホロウレイダーは触らぬ神に祟り無しと決して近づく事はしないが、ミュータントの大群に追いかけ回されたあるホロウレイダー達はやむなくその施設の敷地内に逃げ込んでしまった。
仕方無く、ホロウレイダーとガスマスクの兵士達は迫りくるミュータントの大群を前に共闘を強いられる。
何とかミュータントを撃退し、ホロウレイダーの1人が彼らに礼を言おうと施設に入った瞬間、彼を容赦無い銃撃が貫いた。
───結局このホロウレイダー達は、今度は謎の兵士達に追われる羽目になったのだ。

「ありゃあミアズマだ!ラマニアンで鉱夫やってる時に散々見たぞ!と言うかなんで俺達を追ってくるんだ!何をあんなに怒ってる!?」
「知るか!二手に分かれるぞ若いの!運が良ければどっちかがロストクまで辿り着ける!流石にあそこまでは追っかけて来ない筈だ!」 
「生き残ったら100rads barで浴びるほど飲んでやる!ロストクで会おうぜアンクル!」

ーーロストクから150mの位置で発見された、ミアズマに侵食されたバックパックから見つかったPDAの記録。


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