Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
───アグロプロム工場
スキフがX-ラボを調査する間、リンとリヒターは
偵察で見つけられなかったバンディットが潜んでいるのではと2人は警戒したが、幸運な事に内部にはバンディットは人っ子1人もおらず、強いて言えば慌てて工場を飛び出した跡が見つかっただけであった。
安心したリヒターは、工場のあちこちに巧妙に隠したスタッシュを回収し、何かのパーツや装備を取り出してその一部をリンに渡す。
1つはフード付きのゴム製作業服に外付けの防弾装備を備えた物。
もう1つは映画に出てくる古い軍隊がよく被っている、耳まですっぽり覆うタイプのスチール製のヘルメットだ。
「妹さん、こいつはZONEのホロウレイダーが使う装備だ。以前科学者と仕事をした時に追加報酬として貰ってな、まぁ売っても大した金にならないし、非常時の装備として隠しておいたんだ。」
「ここバンディットの拠点だよね?そんな所に隠したの?」
「そん時はバンディットの拠点じゃ無かったんだよ……ZONEの脅威はミュータントやアノマリーだけじゃ無い、なんだかんだ言って銃を持った人間が1番危害を加えてくる。銃弾が飛んできても良いように最低限のアーマーを着ておくべきだ。ついでにヘルメットもね。」
リンが今まで鉄火場を経験した事は一度や二度では無いが、こんな物々しい装備を利用した経験は殆ど無い。
かつてはイアスを通してホロウを潜り、ホロウの中に入れるようになってからは基本的に頼りになる仲間が身近で守ってくれた事もあってそこまでの装備を必要としていなかった────そう言えばパエトーンの友人達は揃いも揃ってエーテリアスや戦闘ロボットの様な相手に“ラフな”格好で渡り合う猛者ばかりだなと思い出す。
だがファクトリーでのクリアスカイとの銃撃戦。
装甲車と武装した兵士の攻撃からスキフが身を挺して守ってくれなかったらリンは銃弾によって穴だらけにされるか、跳弾か破片で負傷していたかもしれない。
リンがZONEに来てまだ一日ほど、その程度の体感だがホロウよりもZONEの方が銃火器を使って来る割合が非常に高く感じる。
いくら回復キットの様な凄い薬があるとは言え、自分の身を守る事を疎かにしてはいけない。自分には最愛の兄を救うという目的があるのだ、アキラの行方すらまだ分かって無いのにリンが大怪我してしまっては意味が無い。
「うん!ありがとうリヒターさん、使わせて貰うね。」
「そこの小部屋で着替えるといいぜ、その間に俺は武器を組み立ててるから。」
そうしてリンは「OZK 探索者スーツ」に「防弾ヘルメット」を身に着け、いっぱしの
「着替えたけど……かなり重いね。」
「まぁ着慣れてないとそうだよな。高性能なアーマーほど重量はクソ重たくなる、サイズは大丈夫かな?」
「うーん…少しブカブカかなぁ、でも全然大丈夫だよ!」
「辛かったら言ってくれよ、重量軽減のアーティファクト探すから。」
ZONEのアーマーは基本的に男性用のサイズしか無い為、丈が余って萌え袖の様になってはいるが動く分には問題無いとリンは答える。
それを聞いたリヒターは組み立て終わった武器を掲げた。
「さぁ妹さん!こいつを見てくれ!どう思う?」
「……グレネードランチャー?」
リヒターが組み立てたのは如何にもなリボルバー式グレネードランチャーの様な武器。この武器を早く使いたいとばかりに頬ずりまでしている。
讃頌会と戦う為に必要と言っていたが、この武器がそれだったらしい。
「こいつの名前は「ブルドッグ6」という試作エーテルグレネードランチャー!これがあればシュードジャイアントやキメラだってイチコロだって話だ!たまたま手に入れてどうしようか悩んでたが、遂に使い時が来たぜ!!」
「これが讃頌会やサクリファイスと戦うのに必要な武器なの?」
「俺はガイドとして道案内や危険を避ける能力はあっても戦いの実力はそこそこくらいだ。スキフみたいに戦闘能力が高い訳じゃないからあいつに頼りきりになるんだよなぁ。もっと激しい戦いが待ってるなら、せめてこうした強力な武器で親友や君の助けになりたいんだ。」
「リヒターさん……」
興奮したような表情から一転、真剣な眼差しで語るリヒター。
そんな彼を見て、どこかプロキシとしての──特にアキラが自らホロウに潜るようになったのをイアスから眺める事が多くなった最近の──自分と重ねるリン。
役割分担と言ってしまえばそれまでだが、ホロウにその身を投じる兄や友人達にもっと自分も何か出来ないだろうかと何度も人知れず思った物だ。
そう思っていると、工場の中でもその存在が分かる程の低空飛行で飛んでいるであろうヘリの音が近づいてきた。
「この音……ヘリコプター?」
「何処のヘリだ?一回屋上に行ってみよう。」
ここまで低空飛行で飛ぶなんてただ事じゃ無い。
最悪工場に降下してくる可能性も考えて、屋上で様子見を見ることにした。
屋上に出ると丁度ヘリが2人の頭の上を通過し、激しい風圧が2人に振り注ぐ。
それと同時にどこか遠くで爆発音と発砲音が微かに鳴っているのが分かった。
リヒターは双眼鏡を取り出し、音が聞こえて来る方向に向ける。
「あっちはアグロプロム調査研究所の方向だ、バンディットの拠点でも攻撃してんのか……?というかあのヘリ、クリアスカイの奴じゃねぇか、なんでここに………そう言えばこの辺りマラカイトのすぐ近くだったな、奴らの縄張りの真隣だ。今更バンディット退治に来たのか?」
「うわぁ凄い……機銃やミサイルまで撃って────」
攻撃機動に移行し、地上へ猛烈な爆撃を行うクリアスカイのヘリをリンが目を細めながら見ていると、突然、地上から飛び上がった機影が放ったミサイルがヘリのテールローターを破壊し、制御を失ったヘリはきりもみを起こしながら墜落していった。
バンディットがヘリを落としたと思っているリヒターはそれを見て驚愕する。
「マジかバンディットめ、あんな兵器持って───」
「リヒターさん、ちょっと双眼鏡貸してもらっていい?」
「え?ああ、いいけど……」
何かに気付いたリンがリヒターから双眼鏡を受け取り、ヘリを撃墜した“機影”を探す。
だが一瞬のうちに“機影”は姿を消してしまった、まるでステルス能力を使ったかのように。
「消えちゃった……でも“あれ”って……」
「あースキフ?たった今アグロプロムにクリアスカイのヘリが飛んできてしかも撃墜された、きな臭くなってきたから一旦別の場所に……スキフ?おいスキフ?応答してくれスキフ!」
どこか見覚えのある機影にリンが正体を探ろうとする隣で、いつの間にかスキフへの通信が通じなくなっている事に焦るリヒター。
分かれる前にスキフが言った事を思い出し、すぐさまリンを連れてこの場を離れようと動き出す。
「ヤバいぞ妹さん、スキフとの連絡が途絶えた。一旦ロストクに行こう。」
「待ってリヒターさん、誰かこっちに来るよ!赤い装備を来た人達!クリアスカイの軍隊に追われてる!」
「赤い装備ぃ?デューティがクリアスカイとやりあってるのか? ……ともかく!戦争に巻き込まれる前にさっさと──」
「うそ……あの
リヒターが肩を掴むが、構わず覗く双眼鏡に映ったクリアスカイの追撃から必死に逃げるデューティ達に混ざる2人のホロウレイダーから目を離せないリン。
その内の1人は銀と黄色のキックボードで軽快に走っている。よく見ればもう1人のホロウレイダーも見覚えのありすぎるスナイパーライフルを抱えていた。
「シード!それにトリガー!?」
軍人であり、見知った友人達がクリアスカイによって激しい攻撃を受けているのを目の当たりにし、リンは唖然とした表情を浮かべるしかなかった。
始まりは突然だった。
バンディットの拠点であったアグロプロム調査研究所を協力して制圧したオボルス小隊とデューティの小隊。
捕虜や讃頌会に繋がる情報を捜索中、地下に秘密の研究施設があると分かり鬼火とオルペウス、11号にデューティの突撃隊員2名が地下の探索を、残りは地上で接近してくるバンディットの増援部隊に対処するという配分になり、奪還部隊を退けて丁度一段落ついた所だった。
突然、調査研究所に砲撃が振り注いだのだ。
ビック・シードに搭載されている高度な警戒システムのお陰でギリギリ退避が間に合ったのも束の間、クリアスカイのヘリによる空爆や機械化部隊による強襲、更には毒ガス攻撃すら行われ、負傷者も出て堪らず調査研究所を放棄。
そして現在、こうしてデューティと共にクリアスカイの追撃から必死に逃走を図っているのだ。
「鬼火隊長!オルペウス!11号!応答して下さい!シード!そっちの無線は!?」
「ダメ、こっちも全部ダウンしてる!」
「オボルス!側面に敵車両!」
「皆さんはそのまま走って下さい!私とシードで排除します!」
負傷者を抱えて全速力でZONEを駆けるトリガーとシード、そしてデューティの兵士達。
そんな彼女らの行手を阻まんと、クリアスカイの運用する
「させないよ!」
デューティやトリガーを守る様にシードが浮遊ビットで機関銃の射撃を防ぐ。
トリガーが一瞬立ち止まり、冷静にMRAPの前輪タイヤを撃ち抜く。装甲化された車体と防弾ガラスでは一発で貫通出来ないと見抜いたのだ。
前輪が破壊され、ガタガタと車体が揺れて制御と照準が不安定になった所にシードの浮遊ビットから放たれたビームが直撃しMRAPは爆散する。
だが、敵を排除して安心する暇も無く後方から更にBTR装甲車や“ガーディアン”等の戦闘ロボット達がワラワラと現れトリガー達にを攻撃を加え始めた。
「また来たよ!ねぇデューティのおじさん、デューティってクリアスカイとすごく仲が悪いの?」
「仲は良くないが問答無用で撃たれる程敵対もしてない!そりゃあロストクを明け渡す時に色々あったがな──うおぉ!?」
キックボードで走るシードの質問に息を切らしながら応えるデューティの曹長、その2人の間を機関砲の射撃が地面を抉りながら通り過ぎる。
デューティ達がスモークを投げて錯乱した所にトリガーが気付いた事を言った。
「クリアスカイの兵士が調査研究所に乗り込んできた際、私達の事を“バンディット”と呼んでいるのが聞こえました…!」
「どう言うコト?僕たちバンディットに間違われてるの?」
「ここまで執拗に追撃してきてそれはあり得ないだろう!?我々の姿ははっきりと認識している筈だ!間違い無く我々をデューティだと知って攻撃してる!」
デューティの言葉にトリガーも頷く。
「考えられるのは私達をバンディット“と言う事”にしておきたいから……でも何故……?」
「皆!アグロプロム工場が見えてきた!あそこで体勢を……ぐあっ!」
「マンダウン!畜生追いつかれた!」
トリガー達のすぐ後ろに3体の戦闘ロボット“ガーディアン”が迫り、搭載兵器を容赦無く放ってデューティの1人が銃撃に倒れる。
先程からシードが遠隔でビック・シードを動かし、ステルス迷彩を巧みに利用しながらその火力を持ってしてクリアスカイの機械化部隊を抑えているのだが、それでもクリアスカイの連携と圧倒的な戦力差でこうして突破されてしまう。
「シード!ビック・シードを戻して下さい!」
「ごめんちょっとだけ時間頂戴!」
「両側面に敵車両だぁ!」
デューティが叫んだのと同時に側面を囲い込む様にMRAPが複数台現れ、工場までもう少しという所で半包囲されたトリガー達。
MRAPのガンナーが此方に照準を向け、彼女達を引き裂かんと引き金を引こうとした瞬間、MRAPがクリアスカイ諸共次々と吹っ飛んだ。
突然の事に目を丸くしていると、工場の方からトリガーの耳に聞き間違える筈の無い声が聞こえて来る。
「トリガー!シード!援護するから走ってぇー!」
「こ…この声は…!プロキシさん!?」
「え〜!?なんでプロキシ君がここにいるの〜?」
トリガーとシードが見たのは、工場の屋上から手を振るリンの姿。
その隣でリヒターが迫撃砲の様に“ブルドッグ6”エーテルグレネードランチャーをクリアスカイに向けて撃ち込んでいる。
「そこのお嬢さん達!ついでにデューティも!早くこっち来い!俺一人じゃ抑えきれないからなぁ!」
リヒターが狙いを定めてガーディアンにエーテルグレネードを直撃させ、破損状態に追い込む。
彼の援護を受けながらトリガー達は急いでアグロプロム工場へと飛び込んでいった。
ポンッポンッと軽快な音を立てながら発射されるエーテルグレネード。
見た目こそ普通のグレネードランチャーに見えるブルドッグ6だが、内部に装填されているのは強力なエーテル・グレネード弾だ。
それらを撒き散らしてクリアスカイの追撃を一時的に退けたリヒターは武器を下ろして下に向かおうとする。
「よーし一旦この程度で良かろう!連中と合流するぞ!」
「………ごめんリヒターさん、逃げようって言ってたのに私のわがままでトリガー達のこと助けてもらって……」
屋上を降りて下に向かおうとした途中、突然リンが謝罪を始める。
騒動に巻き込まれる前に撤退しようとしたリヒターを止め、自分達もクリアスカイに攻撃を受ける事を覚悟でトリガー達の援護をさせたリン。
トリガーやシードを見捨てる選択肢は最初から彼女に無かったが、それでも自らの判断がリヒターの身を危険に晒す事になってしまったのは事実だ。
だがリヒターは問題無いとばかりに言う。
「わがまま?違うね。ZONEで味方が殆どいない上、スキフとも連絡が取れなくなっちまったんだ、味方は多い方がいい。それにその2人は友達なんだろ?まぁ……包囲されちまったのは、友達を助ける必要経費だと思えばいい。」
リヒターが空を見上げると、工場を包囲する様に現れたクリアスカイのヘリが歩兵小隊を降下させている。
これでリンとリヒターだけ工場から気づかれずに抜け出すというのは難しくなるだろう。
こっからは籠城戦だ。
リン曰くあの2人は軍人でかなりの実力者、更にはデューティの小隊まで揃っている。援軍の当ては無し……そう言えばスキフは無事なのか。
対して向こうはたかが装甲車や戦闘ロボットを揃えた軍隊だ、なんと対等な戦力差だろうか。
「あとはZONEの思し召し次第……!」
ZONEで長く暮らしているリヒターは人並み以上の度胸はあるが、恐れを知らない訳では無い。
虚勢を張ってはいるが内心では最悪の結末を思い浮かべつつ、自分に出来ることを成そうとトリガー達に合流しに行った。
「トリガー!シード!大丈夫!?」
「わぁ〜本当にもう1人のプロキシ君だ〜」
「プロキシさん!何故あなたがZONEに……!?」
「話は後だバイザーのお嬢さん!クリアスカイの奴ら工場を包囲しに来るぞ!物資が足りないならバンディットの奴らが溜め込んだ物があるからそれを使え!」
工場に到達したトリガー達をリンとリヒターが出迎える。
アグロプロム工場は敷地中央と東西にそれぞれ存在する3つの2〜3階建ての建物で構成されており、リヒター達は中央の棟に立て籠もる事にした。
中央棟は西棟とも繋がっており、窓がない西棟は中央棟2階の連絡通路からしか入ることが出来ない、つまり最も籠城に向いている箇所だ。先程リヒターがブルドッグ6を撃ったのも西棟の屋上である。
工場中央棟に入ったデューティ達は負傷者を置いた後にバンディットの物資から使えるものを引っ張り出す。流石にロケットランチャーなどの重火器は無かったが、手榴弾や機関銃などの武器を持ち出し、そこらの物を使って入口に即席のバリケードを構築し始める。
「負傷者をここに寝かせろ!」
「私も何か手伝うよ!」
「バンディットの物資から回復キットか包帯を探してくれ!我々のはほぼ尽きたんだ!」
「わかった!回復キットと包帯だね!」
デューティの1人は負傷者の介抱に入り、リンもそれに加わっる。
鬼火に次いで軍人としてのキャリアがあるトリガーがテキパキと指示を飛ばし始めた。
「シード、ビック・シードに搭乗して、工場内への敵の侵入を防いで下さい。」
「りょーかいだよトリガー。」
「ええっと…プロキシさんと共にいたあなたは……何処かで会ったような?」
「奇遇だなバイザーのお嬢さん、俺もなんか見覚えがあるぜ。」
「まぁ一旦置いときましょう……あなたが先程支援してくれた棟の屋上まで案内を、そこで防御陣地を構築します。デューティの皆さんは半分付いてきて下さい!残りはここで負傷者と
「了解だオボルス、お前達!彼女について行け!」
「サーイエッサー!」
ビック・シードにシードが搭乗し、ステルス迷彩を起動して姿を消す。
リヒターとトリガー、数人のデューティは西棟の屋上に向かい、陣地を敷いてクリアスカイに反撃を始めた。
『此方はクリアスカイ!アグロプロムを占領するバンディトに告ぐ!貴様らの長きに渡る犯罪行為に対し、平和維持活動に基づき、武力行使を────』
そして現在、トリガー達は工場の屋上から包囲するクリアスカイ目掛けて、持ちうる全ての武器を使ってクリアスカイの接近を阻んでいた。
クリアスカイのヘリから銃撃するドアガンナーをトリガーが正確無比な狙撃で仕留め、ヘリを後退させる。
工場を囲むコンクリート塀を突き破ったガーディアン戦闘ロボットにビック・シードのミサイルが叩き込まれ、ダメ押しに鋼鉄の拳の一撃が振り下ろされて粉砕。
味方を守りながら接近してきたBTR装甲車にリヒターがブルドッグ6を直撃させて足止めをし、工場内に突撃してきたクリアスカイ兵をデューティ達が撃退する。
だが彼女達の奮戦にも関わらず、クリアスカイは攻撃の手を緩める事なく更なる増援を投入して包囲網をジリジリと狭めていく。
『レーダーに新しい反応、道路の向こうから敵の増援だよトリガー!』
「了解ですシード……敵砲兵排除、このままじゃきりが無いですね……!」
「どれだけいるんだクリアスカイは!1個中隊はいるんじゃねぇか?」
エーテルサイトに捉えたクリアスカイのロケット兵の頭を撃ち抜きながら呟くトリガーに弾切れとなったブルドッグ6をリロードするリヒターが続いて言う。
圧倒的にジリ貧なのもさることながら、トリガーは連絡が途絶えた鬼火達の事が気がかりで仕方なかった。
「地下に居る鬼火隊長たちは大丈夫でしょうか……」
「俺の仲間もここの地下に行ったっきりなんだよなぁ、スキフの奴がくたばるとは思えないけど。」
「……
聞き覚えのある名前が出てきたトリガーは、敵兵の頭に風穴を開けながら自分の知る人物と同一人物かリヒターに聞こうとした瞬間、工場の南側から攻撃を行なっていた2台のMRAPが大破する。
トリガーとリヒターがそちらに意識を向けるが、ビック・シードは別の方角を防衛しており、南側に機関銃を向けていたデューティ兵は首を横に振って自分では無いと否定した。
じゃあ誰が────そう思って大破したクリアスカイの車両を見ると、4人と一機の集団がクリアスカイ兵をなぎ倒しながらアグロプロム工場へと突撃しているのを発見する。
彼らを見つけたトリガーとリヒターの表情は、一気に明るい物と化した。
「こ…こちらスノー6!?後方から敵が──ぎゃああ!!」
『邪魔だぁ!戦術プラン「中央突破」ァ!!』
「トリガーさん達の救援を急ぐでありますぅ!」
レーザーでMRAPを真っ二つにしながら、鬼火と彼女に引っ張られるオルペウスが先陣を切り、少し遅れて11号、スキフ、シュルガ中佐が後に続く。
「9時の方向にBTR!」
「俺に任せろ!」
シュルガ中佐がスキフ達に突撃してくるBTRを確認し、スキフが
弾頭は砲塔へと命中し、機関砲が破壊されるが内部まで貫通出来なかったらしく、BTRはそのまま足を止めることなく同軸機銃で攻撃してきた。
「私の後ろに!第二射用意!」
「わかっ……クッソ、
BTRの同軸機銃からの射撃を11号が弾いてスキフとシュルガ中佐を守る。
その間にスキフはガウスガンの第二射を放とうとするが、ファクトリーから一切修理していないガウスガンが遂に給弾不良を起こす。
耐久値を大幅に減らすフルチャージを2度も使用しており、ガウスガンの損耗度はかなり高く──具体的には耐久値20%以下──故障のリスクが頻繁してしまうのだ。
何とか給弾不良を直してもう一度BTRを狙おうとした瞬間、側面装甲を貫通する程の高出力レーザーがBTRに直撃し、弾薬庫が炎上して爆発を起こす。
「敵APC撃破であります!!」
『走れ!足を止める暇はないぞ!』
BTRを破壊したのは鬼火を構えたオルペウスだ。
スキフが彼女達に礼を言おうとすると、低空飛行してきたクリアスカイのヘリが2人に向かって機銃掃射を仕掛ける。
「うわぁ!?」
『伏せろオルペウス!』
「二人とも!」
「11号先に行って2人を!シュルガ中佐!ヘリに向かって撃て!」
「了解した!」
スキフとシュルガ中佐がヘリに向かって手持ちの武器で反撃するがそうそう当たるはずもなく、再度戦闘機動を取ったヘリが今度はスキフへ照準を向ける。
『こちらクラウド8、もう一度攻げっ──────』
だが、突然ヘリのコックピットの窓が赤く染まり、フラフラと飛びながらスキフ達を攻撃することなく地面に滑り込むように墜落した。
「な…何が起きた?」
「多分トリガーだな、いいスナイプだ。」
突然落ちたヘリにシュルガ中佐が驚いている一方、スキフはヘリのパイロットが撃ち抜かれたと気付いた。
トリガーが助けてくれたと思い、工場の屋上にいるトリガーに向かって手を振り、11号達と共に移動を再開する。
「間一髪だったなバイザーのお嬢さん!あとはスキフ達がこっちに来てくれれば百人力だ!」
「今のは、一体誰が……」
リヒターがトリガーの技量を称賛する一方でトリガーはヘリが
スキフ達をヘリの攻撃から助ける為に、ヘリを撃墜しようとコックピットに照準を捉え、引き金を引いたのは確かだ。
だが、トリガーの弾が命中する前に、別の所から飛来した狙撃が高速機動するヘリのパイロットを正確無比に撃ち抜いた。
一流の狙撃手であるトリガーだからこそ分かった“狙撃の割り込み”。
誰の仕業なのか、味方なのかと思いながらスキフ達に狙撃支援を行おうとした瞬間、エーテルサイトに捉えたクリアスカイ兵が次々と撃ち抜かれて倒れ行く様を目撃する。
(私達ではなくクリアスカイを狙っている?耳を澄ませば……戦闘音に混じって狙撃銃の発砲音が少し聞こえる………間違いない、このスナイパーの腕前、少なくとも私と同等……!)
トリガーから見てもクリアスカイを次々と仕留める謎のスナイパーの技量は凄まじい物だった。
戦闘が激しく、トリガー以外にその狙撃に気づいている者は存在しないが、間違い無くトリガーは自分以外の凄腕のスナイパーの存在に気づいていた。
だが敵か味方か分からない以上、友軍にこの事を報告しなければ。
「……皆さん、先程から────」
「お…おい!なんだあの
「なんだデューティ、装甲車くらいで何騒いで───」
デューティの1人が見慣れぬ兵器を発見して思わず叫ぶ。
リヒターとトリガーがその方向、西に伸びる工場と調査研究所を繋ぐ道路を見ると、BTR装甲車よりも遥かに重武装の、煙を吐きながら姿を現した鋼鉄の獣が、巨大な砲身を此方に向けていた。
─────死、トリガーの軍人としての直感、リヒターのZONEのガイドとしての経験、デューティ達の人間としての本能が、全く同じ事を思い浮かべる。
『トリガー!そこから逃げて!』
いつも以上に声を荒げたシードがビック・シードのミサイルを
大量のミサイルがその兵器に降り注ぐが、砲塔側面に設置された2門の大口径機関砲と砲塔上部の機関砲が火を吹き、対空射撃の雨がミサイルの大半を撃墜する。
それでも機関砲弾を雨を潜り抜けた数発のミサイルが直撃するが、直撃した瞬間、強固なエーテルシールドが車体を覆うように出現しビック・シードの攻撃が無力化された。
砲身はそのまま、工場西棟へと向けられたまま、自身のエーテルサイトにまじまじと映っていた。
「皆、伏せて────!」
「うああああ!!」
トリガーが叫ぶ、リヒターやデューティ達も悲鳴を上げながらその場を離れようとする。
そして、空気を揺らす重エーテルカノンの一撃が、退避が終わっていないトリガー達の居る西棟を、粉々に吹き飛ばした。
「トリガーさぁん!!」
「トリガー!」
「リヒター……!」
オルペウスの悲痛な叫び、表情を大きく崩した11号、スキフの呆然とした呟き。
工場まであと数十mという所で、トリガー達のいた建物が崩れ落ちていった。
「どうしてあんな物を奴らが……!」
シュルガ中佐は、新エリー都防衛軍が1台も保有していないその兵器を見て驚愕する。
『クリアスカイめ……!』
まるで歯を食いしばっているような音を出しながら鬼火がその兵器を睨む。
車高はBTRより高いが、ガーディアン戦闘ロボットと比べれば低い。
だが砲塔から伸びる砲身は、ガーディアンの右腕に搭載されるカノン砲よりも大口径だ。その上、砲塔両側面と上部にそれぞれ機関砲が設置されている。
その車体は厚い複合装甲と爆発反応装甲で覆われ、更に高エーテルエネルギーシールドによる3重の防御装甲を兼ね揃えていた。
進路上にあった、ビック・シードによって破壊されたガーディアンがまるで玩具のように道路脇に押しのけられ、鋼鉄の手足が履帯によって轢き潰される。
『まさか旧時代の遺物でも掘り出したのか!?』
「こっちにも存在するとは思わなかったよ…!」
その兵器の形状は、ウクライナ軍に所属し、チョルノービリでも多くの残骸を見かけたスキフには見慣れた物だった一方で、その大きさはスキフが知るどの同系統の兵器より一回り大きかった。
「『───戦車!』」
クリアスカイの「Tー64バトル・タンク」が、地面を踏みしめながらスキフ達へと標的を定め、車長が乗員に命令を下す。
『ストーム4、戦車前進、目標、前方の敵集団!』
出したい物出していこうぜの精神。
本作に出てくる兵器の名称はStalkerシリーズに登場する兵器から取っています。
まぁ大半オブジェクトとして動く事が無いんだけどね!(例外としてSOCやCSでは装甲車や攻撃ヘリと戦う事ができる)
戦車の外見イメージはUBIの「エンド ウォー」というゲームに登場する架空のロシア戦車「T-100 Ogre」と、現実のスロヴァキア軍が運用する「T-72M2 MODERNA」から
ゼンゼロ世界の戦車ってとっくの昔に廃れたんじゃないかなって妄想、探せばホロウの中とか郊外に残骸が転がってそう。
◇パエトーン図鑑 「Tー64バトル・タンク」
今や過去の記録か、旧都時代の映画でしか見ることが出来ない旧時代の軍隊が運用していた陸戦の王者──戦車。
大昔、ホロウ災害の初期には多くの戦車が投入されたがその殆どがエーテルの海に沈み、同時にロボット技術の急速な発展によって運用コストの逆転現象が発生し、次第に戦場からその姿を消していった。
正式名称「Type64 重戦闘装甲車両」もとい「Tー64」は、エリー都時代に防衛軍による火力支援兵器プログラムに基づき、とある企業が戦車の復活を目指して開発した試作重戦車である。
搭載された兵器と装甲は防衛軍が運用するどのロボットよりも強力な物を兼ね揃えた3人乗りの本車は試験でも良好な数値を見せ、防衛軍でも運用コスト以外は好意的な声が上がる程だった。
だが折り悪く、開発工場、技術者やデータ、試作された幾つかの車両がホロウに飲み込まれ、その全てが失われた事で計画は立ち消えとなり、ホロウの底に沈んだまま歴史の影に埋もれる筈であった───とある目的の為、クリアスカイがホロウから引き摺り起こすまでは。
「やられ役とは、言わせない!」ーークリアスカイ・コーポレーション警備隊機甲部隊所属、ストーム3搭乗車の車体側面に刻まれた言葉