Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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56.家族の為に

 

 

 

 コツン──コツン──

 

 冷たく暗い、コンクリートで覆われた地下をフィールドブーツが叩く音を反響させながら、青いスーツを着込んだ1人の妙齢の女と、ピョコピョコと足音を鳴らす、都市迷彩のスカーフと服を着たボンプが歩いていく。

 女が歩く地下は、長い通路に監獄さながらの小部屋が両側にずらりと並んでおり、監獄のイメージに沿うように数人のスカイブルー迷彩のアーマーを着こんだ看守が警備していた。

 

 女が部屋を通り過ぎる度に、監獄の中に閉じ込められた囚人達が、固く閉じられた格子戸から恨み辛みの籠もった目で睨みつけているが、女はそんな囚人達に一瞬も意識を向けることなく、最も奥にある頑丈な扉まで進んで行く。

 

 頑丈な扉の前には看守と違う装備を纏った、ダークブルーの服装にグレーのアーマーを身に着けたガスマスクの兵士達──異端者の傭兵(ダークストーカー)──が警備を行なっていた。

 

 彼らは電子加工された音声を発しながら、女に話しかける。

 

 『面会ですか?“司教”。』

 

 「ええ、彼の様子は?」

 

 『バイタルは安定、脱走の兆候も無し、大人しいものです。』

 

 「そう……“貴方”はここで待っていなさい。」

 

 付いてきたボンプに待機を命じ、傭兵が扉を開けると、他の囚人達が収監されている部屋とまるで違う、綺麗な家具が揃った部屋の中心にある椅子に1人の青年が本を読みながら座っていた。

 

 女が入って来たのを見て、青年は暇つぶしに読んでいた本を小さなテーブルに置くと、一切の歓迎をしていない事が分かる目付きで女を睨み付ける。

 

 傭兵から“司教”と呼ばれた女の名前を、わざとらしい仰々しい態度で青年は呼んだ。

 

 「これはこれは“ナタリア・レベデフ”、またつまらないお喋りをしに来たのかい?」

 

 「ここに来てもう1週間も経つのにそんな顔をしないで下さいよ“アキラ”さん、私は貴方を一目見て仲良くしたいとずっと思っていたのに。」

 

 「僕も沼地で初めて出会った時は、君が拉致監禁するような人間だとは思わなかったね。」

 

 「まぁ嬉しい、今回は大切なお知らせがあって来たんです。」

 

 パエトーン兄妹の片割れ、アキラは普段の彼からは想像もつかない程の敵意を、クリアスカイ・コーポレーションCEOのナタリア・レベデフに向けた。

 

 無理もない、特にトラブルの無い、いつも通りの平和な日常を送っていた所を拉致され、暴力等は振るわれていないが既にこの地下空間に1週間以上は閉じ込められている。

 そもそも自分を誘拐した相手が“讃頌会”であるならば、例えどんな理由や事情があったとしても仲良くするつもりは毛頭ない。

 

 「実は“計画”の準備が整ったんです。もうすぐここから出られますよ。」

 

 「へぇ……外の兵士が僕の事を話していたけど、どうやら僕は“生贄”にされるらしいじゃないか。この様子だと家に帰るのではなくあの世に行く羽目になりそうだ。」

 

 皮肉たっぷりに言うアキラに対し、レベデフはニコニコとした笑みを崩さないまま応える。

 

 「そう悲観に暮れないで下さい、この計画は大罪人“カローレ・アルナ”がこの街の人々に与えた苦しみと悲しみを、“罪人の子”である貴方が、彼女に代わり“(SIN)”を償い、我々と共にこの世界を再創するのですから。」

 

 「先生は大罪人なんかじゃ───」

 

 「彼女を“妄信”するのは良いですけど、残念ながら貴方の親しい友人達と違って、アキラさんの言い分を信じる人ばかりではないんですよ。」

 

 きっぱりと言うレベデフに対し、アキラは反論しようとした口を閉じてしまう。

 

 実際、カローレが旧都陥落の真犯人では無いという確固たる証拠は何も無い。アキラとリンが彼女が無実だと信じているだけだ。しかもラマニアンホロウでの出来事の最中、カローレが零号ホロウの暴走に深く関わっていた可能性を示すミアズマの記憶まで見つけてしまった有様だ。

 

 だからと言ってカローレの無実を疑うアキラでは無いが、レベデフの言う通り、カローレが大罪人であると伝えられている旧都陥落の被害者達にそれを言った所で返ってくるのは怒りの声と投げつけられる石だろう。だからこそアキラとリンはヘーリオスの遺児でありカローレの生徒である事実を隠し続けてきたのだ。

 

 だがカローレの事を知らない相手に好き勝手言われるのは非常に癪だ。それも“シン”と名乗る異端の派閥とは言え、讃頌会の司教が言ってるなら尚更である。

 何せ、ラマニアンホロウで見つけたミアズマの記憶は、讃頌会がカローレに何かを吹き込んでいた事も明らかにしているのだから。

 

 なので少しは言い返してやろうとアキラは口を開く。

 

 「始まりの主と言う得体のしれない存在を“妄信”し、新エリー都の人々を傷つけ、罪を重ねてきたお前達が偉そうに。

 罪もない人々を平然と犠牲にする手段を取る讃頌会が語る“再創”なんて、きっと碌でもない物に決まってる。」

 

 ここに監禁されてから何度か脱走を試みたものの、ネズミ一匹逃げ出す隙間も無かったのでやむを得ず大人しくするしか無かったアキラのささやかな抵抗に対し、薄く目を開いたレベデフはアキラを嘲笑う事もなく応えた。

 

 「我々異端者は“本派”とは違う……と言うのは置いといて、実はと言うと私、始まりの主の事はそこまで信じてないんですよねぇ。」

 

 「……なんだって?」

 

 「私が再創を目指すのは……“愛する家族”の夢の為なのですから。」

 

 そう言ったレベデフは、まるで演劇でもするかの様に大げさに身振り手振りを交えながら喋りだす。

 

 「旧都陥落……カローレ・アルナが零号ホロウを暴走させたあの日、私は全てを失った。

 家族も友人も、皆死に絶え、私の身体は傷つき、侵食され、死を待つだけだった哀れな少女を、ある集団が……彼らを導く“家族”が手を差し伸べ、救ってくれたんです。」

 

 その時の光景を思い出したのか、レベデフがアキラに手を差し伸べるポーズを取る。

 

 「その親子は、身寄りの無い私を家族に迎え入れてくれました。皆を導く頼れる義父と、聡明で優しい兄妹。兄の方は後に私の夫となってくれた人でした………とても、とても幸せな時間だった。」

 

 恍惚とした表情で薬指に嵌めた指輪を眺めるレベデフ。

 ここだけ見るとまるで結婚したての新妻だ。

 

 (僕は一体何の話を聞かされているんだ……?)

 

 内心思いながら、捕まっている身であるアキラはただ彼女の話を聞き続けるしか選択肢は無かった。

 

 「彼らが讃頌会の一派……“シン”と呼ばれる集団だと知ったのはずっと後……でも彼らは善良な人々でした。侵食症状に苦しむ人達に人知れず薬を分け与え、様々な機関にひっそりと命を救う為の技術を提供し、世の為になる行いをしていたのです。」

 

 「その事が本当かどうかともかく、僕の知ってる讃頌会とは随分と違うな。ついでに言えば今の“シン”とも似ても似つかない人達だ。」

 

 「彼らの活動の手伝いをしていた私はある日義父に聞きました、「どうしてこんな事を?」義父はこう言いました、「我ら“シン”の目的は、人類がホロウに与えた“罪”の贖罪を続ける事。」」

 

 「人類がホロウに与えた罪……」

 

 「「盲目に始まりの主の力を求めるのでは無い、我らの手で再創を成し遂げ、ホロウを浄化する事こそ、先祖代々伝わる“シン”の使命である」のだと……正直、どう言う事なのか今でもよく分かっていませんがね。」

 

 わざとらしく、苦笑いを浮かべて肩を竦めるレベデフ。

 

 「だから私にとって始まりの主への信仰は重要では無かった、旧都陥落の地獄から救ってくれたのは主では無く、消えてしまった私の家族なのだから。」

 

 「……消えてしまった?」

 

 「数年前に、突然彼らは姿を消しました。最初は「ようやく使命を成し遂げられる」と言って義父と“シン”の幹部が居なくなりました。

 そして、今から()()()に、今度は夫と義妹が義父の行方を見つけたと言い残して姿を消し………私に残されたのは、旧都陥落の時に彼らが救った人々と共に創り上げた、クリアスカイだけ……!

 私は悲しみに暮れました…!どうして私の愛する人達は目の前から消えてしまったのか!なんで私がこんな目に遭わなければいけないのか!おお神よ!何故ですか─────でも」

 

 近くにあったテーブルを引き寄せ、その上に乗って神に祈るようなポーズを取ったと思いきや、急に冷静になりテーブルから降りて、座るアキラを見下ろすレベデフ。

 

 あまりに奇怪な行動に、アキラは気圧されるしかなかった。

 

 「夫と義妹が失踪して暫くした後、2人がホロウの浄化を成し遂げた事を私は知る事になったのです。」

 

 「ホロウが浄化されたって一体何をしたら───」

 

 そこまで言いかけて、アキラは気付いた。

 レベデフの家族が、一体()()を浄化したのかを。

 

 何故クリアスカイが、“シン”がここにいるのか、答えは単純明快だった。

 

 「まさか……ZONEは…!」

 

 「そう、かつてこの地にあった“ホロウ”、それを浄化した結果が“ZONE”という領域みたいなんですよ。

 だから私はZONEに来た、愛する家族がやり遂げたホロウの浄化、その方法を探し求め、私が使命を受け継ぎ、彼らの贖罪を続ける為に。」

 

 アキラは愕然とするしか無かった。

 

 そもそも、新エリー都に存在する原生ホロウの1つが何故突然ZONEと言う存在に変化したのか、多くの研究者が解明しようと躍起になったが、結局アーティファクトやアノマリーの解析と比べて何一つ成果が出ることは無かった。

 

 現在殆どの研究者は──ZONEに住まうホロウレイダー達も──ホロウは超自然的現象によってZONEに変化したという仮説が界隈では主流だとアキラは何処かで聞いた事がある。

 だが目の前のレベデフ曰く、ZONEは人為的に生み出されたと言うのだ、それも讃頌会によって。

 

 「そしてアキラさん、貴方の役割は─────失礼。」

 

 突然、レベデフが自身の耳に付いているインカムに手を当て、何かの報告を聞き始めた。

 何かトラブルがあったのか、僅かに眉間に皺が寄ったのをアキラは見逃さなかった。

 

 「………残念ですがお話はここで切り上げさせて貰いますね。計画を実行する時が来たらまたお知らせします。」

 

 「大人しく協力するとでも?一体僕に何をさせるつもりなのか分からないけど──────」

 

 「ああ、もう1つ大切な事を伝え忘れていました。」

 

 また、作ったような笑みを浮かべたレベデフがアキラに顔を近づけ、囁くように言う。

 

 「貴方のご家族……1人でZONEに来ちゃったみたいなんですよね。」

 

 「───っ!?」

 

 「ですがご安心を、既に彼女を“保護”する為に兵を動かしてますから。その内会えますよ。」

 

 「リンに手を出したら───!」

 

 「彼女が“抵抗しなければ”丁重に扱うつもりですよ。貴方達ご兄妹の事は、私とても気に入ってるんですから。」

 

 「ではまた。」そう言ってレベデフは部屋から出ていく。

 その後ろ姿を、閉まりゆく扉を、心配そうに部屋を覗き込むボンプを、アキラはただ睨み付ける事しか出来なかった。

 

 扉が閉まり、再度部屋に1人となったアキラの頭の中は最愛の妹の事で一杯になる。

 

 (レベデフのあの言い分からして、リンは()()捕まって居ない筈だ。それにしても1人でZONEに来たって……?ここじゃFairyの助けだって得られないのに……

 いや、ZONEにはスキフさんがいる。僕と違ってリンは関わりが殆ど無いとは言え、彼の事は彼女も知っている筈……どうにか連絡を取って、スキフさんがリンに手を貸してくれている筈だ。)

 

 リンなら大丈夫、自慢の妹ならきっとピンチを切り抜けられるし、スキフさんが守ってくれる───一先ず、妹の安否を信じてアキラは“シン”の計画について考える。

 

 現状、アキラに分かっている情報は少なく、相手が讃頌会である事、ここがZONEだと言う事、そして自身を誘拐した彼女達は何かを企てており、自分はその計画に必要な“鍵”と言う事だけであった。

 

 (そもそもホロウを浄化してZONEに変えるのが奴らの計画らしいけど、それと僕がどう関係するんだ?ダークストーカーと言う兵士達は僕の事を“贄”と呼んでいて、レベデフは共に再創を成し遂げようとか言って────)

 

 そこまで考えて、アキラは思い出す。以前スキフに集めて貰ったZONEの情報、その中にあった重要な記録。

 

 (僕が必要……讃頌会に出来ず、僕にしか出来ないこと……)

 

 ふと、自分の目───知能水晶体に手を当てた。

 

 「X-ラボの、H.D.Dシステム……?」

 

 

 

 

 

 

 薄暗い地下の収容所から地上階のメインホールに出たレベデフ。

 彼女は先程までアキラに見せていたのと真逆の、険しい表情でメインホールから慌ただしく出ていく部下達を見渡す。

 

 ガラス張りのエントランスから外を除くと、赤い死の嵐──エミッション(光熱放射)──が空を照らしていた。

 にも関わらずレベデフの部下──クリアスカイの兵士や職員達は外に飛び出していくが、彼らの身体に異常が起きる気配は無い。

 

 彼らがエミッションの最中でも外で活動出来るのは、ZONEに於けるクリアスカイの本部「STCマラカイト」の周辺に敷設された「対エミッションシールド」が発生させるバリアのお陰である。

 この技術は新エリー都のどの勢力も持っていない、クリアスカイと“シン”だけが保有する技術だ。

 

 『医療班と全ての警備に告ぐ!至急、東ゲートの広場に集合せよ。これは命令である!』

 

 館内放送を聞きながらレベデフが外に出ると、エミッションの中を突っ切って来たクリアスカイの機械化部隊が帰還してきた所だった。

 

 エミッションの焼け跡と、無数の弾痕が刻まれたBTR装甲車から次々と兵士が降りてくる、その多くは身体を血に濡らし、兵士達の叫び声と怒号が広場に響き渡る。

 

 「スノー1-4の出血が止まらない!もっと包帯を!」

 「うあぁぁぁ!足がぁ──!」

 「衛生!衛生兵はまだか!」

 「今すぐ回復キットかアーティファクトを持ってこい!」

 「畜生……!ただのバンディット狩りじゃ無かったのかよ……!」

 

 「負傷者は全員地面に寝かせろ!軽傷者は薬を重傷者に回せ!」

 

 BTRから飛び降りたクリアスカイの中隊長が指示を飛ばしているのを見て、レベデフは彼に近づき、話し掛ける。

 

 「………中隊長、アグロプロムで何があったのか報告しなさい。」

 

 「レベデフ代表…!ご命令通り、スノー中隊はアグロプロム一帯の殲滅作戦を実施致しましたがデューティの小隊と遭遇、戦闘に……」

 

 デューティと聞いてレベデフが眉を顰めるが、中隊長に話を続けるよう促した。

 

 「アグロプロム工場に追い詰めましたが、デューティに加勢していたホロウレイダーの集団によって形勢が覆されまして……」

 

 「ホロウレイダーの集団?一体どの様な……」

 

 「軍用の知能構造体らしきロボットを含む、凄腕の連中です。そいつらによって戦車すらも……」

 

 中隊長が指を指した方向から、ズタボロになったTー64バトル・タンクがゲートを通ってくる。

 砲身は大きく裂け、機関砲は全て破壊され、ボコボコに凹んだ砲塔を晒しながらエンジン部分から黒煙を吐いて懸命に進んでいたが、遂にエンジンから火が噴き出し、乗員が慌てて戦車を捨てて脱出する。

 

 「結局エミッションのせいで退却を余儀なくされ……敵も生存者が多数残っている状況です。クリアスカイがデューティを襲った事がタチェンコに伝わるのも時間の問題かと……」

 

 溜息をついたレベデフは中隊長に対応を続けるよう命じ、何処かへと通信を始めた。

 

 「“ウルフハウンド”、X-5はどうなりました?」

 

 『アグロプロム地下、X-5の完全な水没を確認。“スキッパー”のチームは全滅した。』

 

 「………計画を前にこれ以上の損害は許されません。他の“実験場”やもう1人の“パエトーン”の行方に関して何か分かったことは?」

 

 『X-5だけじゃなく、ZONE中に散らばせた“本派”の拠点が次々襲撃されている、手際の良さからして何処かの工作員か特殊部隊の可能性が高い、現在追跡中だ。パエトーンに関しては成果無し、ファクトリー以降の行方が分からない。このまま任務を続けるか?』

 

 「いえ、今からZONEでの任務は全てクリアスカイの方で対処させます。ダークストーカーはこちらへ戻って計画の始動に備えて下さい。」

 

 『承知した、司教殿。』

 

 通信が切れると、腰に手を当てたままレベデフは眉間をつまんで先程よりも深く溜息をつき始めた。

 

 「全く次から次へと………大丈夫、戦力が足りずとも本社の部隊が到着すれば計画遂行には十分足りる。デューティはTOPSの応援を使えば抑えられる……我々を追っている者が誰であれ、クリアスカイに辿り着くまで時間はある筈です。」

 

 おもむろに、レベデフが腰のベルトに身に着けているアーティファクトコンテナから、1つのアーティファクトを取り出し、胸に抱く。

 

 黒い球体に、透明な光る結晶が幾つも生えているアーティファクト。

 

 

 その名は───「コンパス」

 

 

 スキフが元居た世界(チョルノービリ)から持ってきたのと全く同じ、強力な物理防護を齎す伝説級のアーティファクト。

 

 そして、ZONEのどの様な危険な場所でも、正しく安全に、望む場所へと導いてくれるという伝説を持っている代物だ。

 

 「大丈夫、大丈夫です。これが、これさえあれば、私を“彼処”まで導いてくれる……」

 

 『ンナ………』

 

 まるで自分に言い聞かせる様に呟くレベデフに、傍らに控えるボンプは複雑な目を向けていた。

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 クリアスカイの包囲攻撃を何とか凌いだスキフ達。

 

 エミッションは収まったが未だに通信妨害が続く状況、万が一クリアスカイが戻って来る前にとストライダーの案内で彼の隠れ家に向かっていた。

 PDAによるとアグロプロムから南、大きな川を渡った先にある「屋根付きの倉庫」がストライダーの隠れ家の1つらしい。

 

 川に架けられた大きな橋をアノマリーや敵に警戒しながら、ストライダーを先頭にスキフとリンとリヒター、オボルス小隊にシュルガ中佐率いるデューティが進んでいく。

 

 「ここは良く覚えてる、ドヴパロフ教授って奴がアーティファクトを使って魔法のウォッカを作っていてな……美味かったけどベロンベロンに酔っ払う羽目になったよ。」

 

 「残念だがウォッカの蒸留所は備えてないぞスキフ。俺が身を隠す為の必要最低限の物しか置いてない。」

 

 「()()()に教授はいなかったみたいだな、お前とアレで一杯やりたかったのに。」

 

 「……スキフ、気を悪くしないで欲しいんだが、そんな性格だったか?俺の記憶にあるお前はもっと仕事人に近いイメージがあったんだが……」

 

 「当時は俺を嵌めた奴らを探す為にZONEを旅していたからな、“ウォード”も“スパーク”も居ないここじゃあ何のしがらみもない。今の俺は自由なローナーなのさ、ストライダー。」

 

 「ふっ……お互い変わるものだな。」

 

 久しぶりの、しかも同じ世界から来た者同士の談笑に花を咲かせるスキフとストライダー。

 そんな彼らを少し遠目にリンとリヒター、オボルス小隊の面々は妙な気分で眺めていた。

 

 「あの2人共随分と仲が良いんだね、歳の離れた友人って奴かな?」

 

 「十何年ぶりって言ってたか?あのおっさんどう見ても50近いし、スキフって確か20代半ばくらいだよな……どう言う関係だったのやら。」

 

 「まさか、義理の親子だったり…!?」

 

 「いーや、俺は師匠と弟子の関係的なアレと見たね。」

 

 リンとリヒターは2人の関係に好奇の目を向けている。

 一方、オボルス小隊……と言うより主に鬼火はスキフとストライダーの会話を懐疑の目で睨んでいた。

 

 『トリガー、奴らが何を喋っているか聞こえるか?……トリガー?』

 

 「……へ? ああすみません隊長、スキフさんから直接「あまり聞かないようにしてくれ」と言われたので……」

 

 「トリガーは代わりにプロキシ君の心臓の音聞いてるんだよね〜僕も聞く〜」

 

 『それが寧ろ怪しいと言うんだ!単なる思い出話なら多少聞こえるくらい気にすることではないだろう!と言うか何を聞いてるんだお前は!?』

 

 「う〜ん、あまり知られない過去があるとか……でありますかね?」

 

 「確かに、ZONEのホロウレイダーは通常のホロウレイダーよりも過去を詮索されたくない人間の割合が多いと聞いたわ。」

 

 鬼火とて、普段ならば久しぶりにあった友人同士の談笑に聞き耳を立てる様な不粋な真似はしない。

 だがスキフがストライダーと話す前に聴力の優れたトリガーに会話を聞かないようにわざわざ頼んだのを見て、逆に彼らに疑いの目を向けてしまっているのだ。

 

 怪しいと言えば怪しいのだが、スキフとストライダーの会話で2人が元居た世界──つまり鬼火達からすれば異世界のZONEの話をしているのを聞かれでもしたら面倒だからと言うのが真実である。

 

 トリガーも別にわざわざ2人の会話の盗み聞きするつもりはないので、全聴力を警戒半分、もう半分を傍にいるリンの呼吸音と心音を聞き取るのに集中する事で対処していた。

 

 そんなこんなで話を続けるスキフは、かねてより1番聞きたかった事をストライダーに聞く。念の為少し声を落としてだ。

 

 「ストライダー、お前はいつ“こっち”に来た?」

 

 「ZONEの事か?それとも“ここ”の事か?」

 

 「後者だ、俺は1年ほど前に“向こう”から“こっち”のZONEの隣にある共生ホロウの中に放り出された。その時に世話になったのが、後ろにいる“あの”リヒターだ。」

 

 「そんな最近なのか………俺が“ここ”に来たのは11年前だな。俺とあの不思議な空間(ヌースフィア)で別れた後、お前の身に何があったんだ?」

 

 「……あの後、方向性の違いって奴で“スカー”と“スパーク”の連中が俺を殺しに掛かって来て、プリピャチまで行ってそこで“ウォード”の計画を叩き潰して、“リヒター”と一緒にレッドフォートレスに殴り込みに行って、ZONEの伝説(ストレロク)と戦って、“スカー”と殺し合って………最後にはZONEを解放した。その後、気付いたら“こっち”にいたって訳だ。」

 

 「ZONEの解放!?待ってくれ、情報が多すぎる……!」

 

 「ああ、俺もそう思う。」

 

 我ながら波乱万丈な時を過ごした物だ。

 当事者──と言うか本人だが──で無ければ自分も信じられないだろう。

 

 「次はお前の番だぞストライダー。11年前と言ったら確か……」

 

 「……お前に別れを告げた後、俺は話に聞いていたあの世とやらに旅立つのかと思ったんだ。暗闇の中に意識が溶ける様な感覚が来て……そして目が覚めたら、俺は崩壊した都市の中にいた、後に旧都陥落と呼ばれる大災害の真っ只中に俺は居たんだ。」

 

 ストライダーは、当時の事を思い出しながらこの世界に来てからの出来事を話し始めた。

 

 「俺の手元にあったのはこのアーマーだけ、武器は無かった。何がなんだか分からない内にエーテリアスに襲われてな……始めて奴らを見た時は新種のミュータントかと思ったよ。」

 

 「奇遇だな、俺も同じ事を思ったよ。」

 

 「幸いな事に、俺の身体には戦闘技術が刻み込まれていた。弱いエーテリアスならそこら辺の物でどうにか出来たが……ホロウという環境は俺にとって、あまりにも未知の世界だった。」

 

 そう言うとストライダーは手に持つ自身の狙撃銃「リンクス」を胸に掲げた。

 

 「瓦礫の山と無数の屍が広がる街を、防衛軍の死体から拾ったこいつを持って延々と彷徨い続けてたら、エーテリアスの大群に襲われる難民達を見つけてな……」

 

 そして、ネックレスとして首に掛けている一発の薬莢を握りしめる。

 

 「俺がこの世界で始めて撃った最初の一発目は、見知らぬ誰かを救う物だった。」

 

 「……確か“向こう”でも同じ物付けてたよな?」

 

 「あれは俺の忌むべき過去、敵ではない人を殺め続けた後悔と、二度と操り人形にならないと誓った決意だ……でもこれは違う。これは俺が“人間”として、成すべきことを成し遂げられた証だ。」

 

 少し誇らしげに薬莢をスキフに見せるストライダー。

 ワイルドアイランドやヌースフィアの中で薬莢のネックレスを見せた時とは大違いだ。

 

 「その後は、その難民達に加わって一緒に零号ホロウから脱出したんだが……大変なのはそこからだった。

 帰る場所を失い、生きる為の物資すら不足し、僅かな物資を狙う略奪者に怯える日々……居場所が無く、途方に暮れる難民達を見て、俺は“兄弟”を思い出したんだ。」

 

 「分かった、“ヌーン”の連中と同じ事をしたんだな。」

 

 「そうだ、彼らを放っておけなかった俺は、彼らに生き残る術を教える事にした、そうしてる内に彼らのリーダーの様な存在になってな。ZONEでの……特に“ヌーンタイド”を作った時の経験が役に立ったよ、当時のエリー都はZONEにいた時より状況は酷く、一筋縄じゃ行かなかったが……それでも何とかやっていけた。」

 

 懐かしむように空を見上げるストライダー。

 気が付くと大きな橋を渡り終えた所で、「屋根付きの倉庫」のある山へと向かう。

 

 「最初は小さな難民の集まりだったが、帰る場所を無くした者達を受け入れていく内にそれなりに大きな集団に成長した。

 丁度その時、メイフラワー家……今の新エリー都市長が都市の再建を始めたと聞いて、俺達も復興に協力する事にしたんだ。」

 

 「つまり新エリー都を作ったのはストライダー達って事か、凄いじゃないか。」

 

 「それは流石に言い過ぎだ! だがまぁ…助けを必要としている者がいるなら、あらゆる所へ向かって手を貸した。

 当時はそれなりに有名になったりしたんだぞ? この世界に、俺の存在が認められた様な気分になったさ。

 俺が“兄弟”達と成し遂げたかった“未来”を、こっちで出来た新しい“兄弟”達と創る事が出来たんだ。」

 

 まるで昨日の事のように当時を語るストライダー。

 元居た世界で“ヌーンタイド”の身に起きた事を考えれば、その喜びはひとしおだ。

 

 勿論、元居た世界の“兄弟”達が救われた訳では無いが、それでもストライダーからすれば自分の人生が報われた気持ちであっただろう。

 

 「でも復興が進むにつれて皆去っていった。生き別れた家族に出会えた者、新しい人生を歩む事にした者、自分の居場所を見つけられた者。

 引き留めはしなかった、寂しかったが“兄弟”を止める権利は俺には無いからな、喜んで一人一人全員を見送ったよ。」

 

 「……ストライダー自身はどうしたんだ。」

 

 「あー……それが、だな。」

 

 何処か恥ずかしそうに、アーマーの内ポケットから大切に仕舞われた1枚の写真を取り出したストライダー。

 そこには、ストライダーの隣に寄り添う1人の女性と、シリオンを含めた数人の子供たちが写っていた。

 

 「1人になった俺をこの女性が気にかけてくれたんだ。彼女は俺が最初にエーテリアスから助けた人でな、この子供達は難民時代に俺が色々面倒を見ていた子達だ。

 彼女が俺に言ったんだ「何処にも行く当てが無いなら、私達と一緒に暮らそう」と。」

 

 「じゃあこれは……」

 

 「俺の“家族”だ。家族だぞ? モノリスだった俺に、家族が出来たんだよスキフ…!血は繋がらないが、掛け替えの無い、愛する家族が……!」

 

 喋ってる内に感極まって来たのか涙声になってきたストライダー。

 後ろのメンバーがなんだなんだと寄ってきたのでスキフは大丈夫だと手で制した。

 

 チョルノービリでの、ストライダーの悲惨な末路を目の前で見たスキフからすれば、彼が人間としての幸せを手に入れた事を祝福したい気持ちであった。

 

 だが、スキフは素直に喜ぶことは出来ない。

 

 少し厳しい目でストライダーに問い詰める。

 

 「大切な家族が出来たのになんで“こっち”のZONEに来た? ZONEが碌でもない所ってのはお前はよく知ってるだろうに。」

 

 この世界のインフラに密接に関わるホロウに立ち入るのは仕方ないだろう。

 だがZONEは別だ、しかもクリアスカイや讃頌会と戦おうとしている、後は自分達に任せて家族の所にすぐに帰れと言いたかった。

 

 だが、涙を引っ込めたストライダーの顔つきは、酔狂でZONEに来た訳ではない事を物語っている。

 

 「………“こっち”に来て俺は、漸く“過去”と決別する事が出来たと思った。

 愛する家族、新たな人生、11年間幸せだったさ……ZONEの出現を知るまでは。」

 

 「……そう言えば、いつZONEに来たんだ?なんでクリアスカイと戦う事に?」

 

 「2…3週間ほど前だ。かつての仲間から教えられてな、新エリー都では表向きZONEは“特殊なホロウ”と教えられているから、今までその存在に気づかなかったんだ。

 詳しく調べると、俺の知るZONEと同じ物だと分かって……その日の内にZONEへ向かったよ、家族に黙ってな。」

 

 「なんで─────」

 

 「“過去”が追って来たからだ!ZONEがあるなら、“モノリス”もあるかもしれないんだぞ!」

 

 「うわぁびっくりした!ふ…2人共大丈夫? 喧嘩!?」

 『ボソボソ喋ってると思ったら急に泣き出して、今度は怒鳴り声!話を聞かれたいのか聞かれたくないのかどっちかにしろ!』

 

 大声を出したストライダーに、驚いたリンと怒った鬼火が距離を詰めてきた。

 スキフとストライダーは何とか2人をやり過ごし、話の続きをする。

 

 「すまんスキフ……」

 

 「良いんだ、俺が悪かった……話の続きだが、“今の”お前は……」

 

 「ああ、“戻っていない”……だが、間違い無く“モノリス”は存在すると“彼”が言っていた。」

 

 視界の先に、「屋根付き倉庫」が見えて来た。ストライダーの隠れ家に到着したのだ。

 

 「俺がパエトーンの救出に手を貸しているのも、クリアスカイと讃頌会の目的を防ぐ事になるからだ。」

 

 「それじゃあ、奴らの目的は……!」

 

 「……ここは異世界だ、俺が“戻っていない”のを見るに、俺達の知る“モノリス”とは違うのかもしれない。

 でもそれが思い違いだったら?俺達の知るあの“願望器”と同等の物だったら?」

 

 ストライダーはスキフに顔を向ける。

 

 恐れ、恐怖、怯え、それらを訴えるような、ネガティブな感情を内包した目であった。

 

 「俺は怖いんだ、やっと手に入れた俺の幸せが、ある日突然奪われたら……いいや、俺だけで済むのならまだいい。

 だがスキフ、お前は目の前で見たんだろう? 俺が、兄弟達が、“モノリス”の操り人形に、冷酷な殺人兵士に戻る瞬間を……!」

 

 「ストライダー……」

 

 「もし家族がそれに巻き込まれたら、俺は死んでも死にきれない……だから、俺は、俺の“未来”を奪わせない為に、家族の傍にいる資格を得る為に、今度こそ“過去”と決別する為に、俺はZONEに“戻って来たんだ”……!」

 

 ストライダーの目が、恐れに染まった物から、怒りに満ちた目になっていく。

 

 チョルノービリの時よりも、ずっと決意に染まった目に。

 

 

 「今度こそ……“モノリス”を破壊する為に……!」

 

 

 






 実はこの小説を書き始めた理由の3割くらいはストライダー君を幸せにしたいからでね……ゲーム本編があまりにも辛くてね…

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