Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
「
ケミカルプラント地域の南部に存在する、かつてこの地に配属されていた防衛軍の物資集積場兼前哨基地の1つと言われているこの廃墟。
広い、浅く窪んだ土地に地下トンネルへと続く──現在は崩落している──列車の発着場を中心に倉庫や兵舎等が建てられた場所である。
窪地を囲む様に、ZONEでは珍しく崩落した場所が殆ど無い銃眼付きの防壁が並び、幾つもの監視塔が建てられたこの軍事倉庫は航空戦力や砲兵戦力に乏しい勢力が大半を占めるZONEに於いて非常に強固な拠点となるだろう。
そして現在、この場所はZONEの二大派閥の片割れであったホロウレイダー集団「フリーダム」の活動拠点として運用されている。
時刻は夕暮れ終わり、既に日が落ちかけZONEに暗闇が訪れようとしていた。
唯一の入口である正門から敷地中央まで伸びる橋の手前で、監視塔からわざとらしくレーザーを照らすフリーダムのスナイパー達に狙われながら、スキフとリン、リヒターにシュルガ中佐が正門前の警備と相対していた。
「……それで?デューティの犬っころとそのお友達が何のようだ?」
「この基地の司令官と話がしたい。」
「後ろの連中が武器を向けているってのにか?デューティってのはやっぱ馬鹿だな、話し合いに銃火器を向ける必要はねぇだろ。」
「話をしたいのにレーザーを当てられている状態だと、まぁまぁ落ち着いて話が出来ないのでな。」
「そんなん知らねぇよ。俺達は暇じゃねぇんだ、さっさと帰ってタチェンコのブツでもしゃぶってろデューティ。」
額にレーザーを照らされているのにも関わらず、冷や汗1つかかずにシュルガ中佐はフリーダムの警備に言ってのける。
正門横の監視塔からスキフ達を狙うスナイパーに対し、少し離れた場所からストライダーとトリガーがスナイパーを牽制しており、他の者達も何かあれば即座にスキフ達を救出する準備を整えている。
一方で緑色の迷彩を身に纏うフリーダムの兵士達も、本職の軍人からなるデューティほどでは無いがかなり統率の取れた動きでスキフ達の後ろに控えるオボルスやデューティ達に攻撃を行える様に、壁の向こうで備えていた。
シュルガ中佐の目の前にいる警備のフリーダムは敵意を隠さない口調で“客人”を追い返そうとするが、彼の下に掛かってきた通信が表情を一変させる。
如何にも不本意という目付きでスキフ達を睨み付けた後、軍事倉庫の中に入るよう促した。
「司令がお前らと話しても良いそうだ、だが入って良いのはこの場にいる4人だけ、他は彼処で待たせてろ。武器はこの場に置いていけ。」
どうやら交渉までこぎつけられそうだ、シュルガ中佐は胸を撫で下ろし、スキフはオボルス小隊やデューティ兵にその場で待つよう合図して、武器を正門横の詰所に預ける。
だがシードのみ、ビック・シードのステルス迷彩を利用して軍事倉庫の上空で監視を行なっていた。ミサイルが無いからといってその戦闘能力は万が一の時に必要不可欠だ。
正門から敷地の中央まで真っ直ぐ伸びる橋をフリーダム兵の後に続いて渡りながら、高架下の線路や軍事倉庫内の訓練所を見渡すリン。
そこで訓練するフリーダム達を見て、以前はZONEを二分するホロウレイダー組織と噂で聞いていたリンは抱いていたイメージとは全く違う事に驚いていた。
「何というかさ、普通に軍隊だねフリーダムの人達。新エリー都のホロウレイダーとは大違いだよ。」
「ホロウレイダーとしての組織力に関しちゃ街の
「ZONEにホロウレイダー達が入り込んできた当初、奴らが結成され私達デューティと争いを始めた時に、フリーダムはただのホロウレイダーのギャングに過ぎないという思い込みは打ち砕かれた。オブシディアン大隊の元精鋭や戦闘兵器を揃えていたデューティに対し、フリーダムの奴らはゲリラ戦を徹底する事で見事に渡り合っていたのだからな。」
リンの呟きに反応するリヒターとシュルガ中佐。
スキフとしても元居た世界の商売人器質のフリーダムより軍隊然とした、尚且つ秘密組織の様に活動するこの世界のフリーダムの違いを何となしに眺めていた。
「あまりフリーダムと関わってこなかったが……案外しゃんとした連中じゃないか。伊達にZONEの二大派閥と呼ばれていないな。」
『ンナンナ(へいアショット、例のブツは何処にある?すぐに必要になったんだ。)』
『ワダワダンナ!(じぇんぶで2万ディニー!)』
『ンーナ!ナナン(金とんのかこの〇〇野郎! はぁ〜分かった、支払いについては司令官に言え。)』
『ンナナ(それじゃ、ここまで取りにこいよ
『ワッダンナ!(お前が持ってこいよ、たまには充電スタンドから出てきなおデブ!』
『ンナワダ〜♪(アンタのあんよは錆び付いてるから〜今から老後が心配なんだじょ〜♪)』
『アショット!ヤール! もう夜だってのに大音量で下らない話をするな!さっさと仕事を終わらせろ!』
「……規律はデューティより緩そうだ。」
スピーカー越しに基地全体に響き渡るフリーダムボンプの会話を他所に、橋を渡り終えると二階建ての周囲の兵舎より比較的小綺麗な建物が見えてくる。
フリーダムの旗が掛けられている辺り、あれが司令室の様な物なのだろう。
「ここだ、司令官は二階に上がって右の部屋にいる。」
フリーダム達に睨まれながらその建物へ入り、案内人に言われた通りの部屋の前までやってくる。
深呼吸を行い、正門でスナイパーに狙われている時よりも緊張したシュルガ中佐がスキフ達に言った。
「言い出しっぺは私だ、責任を持って何とかして交渉を成功させる。」
スキフ達は頷く。
アキラ救出の為のSTCマラカイトに対する攻撃。ZONE最大戦力を保有しているクリアスカイに対抗する為にはもっと戦力が必要であり、それを集めるにはクリアスカイの敷いた通信妨害を突破しなければならない。
かつてクリアスカイに協力し、そしてその技術に詳しく通信妨害を回避出来るかもしれないとこうしてやって来たのだ。
シュルガ中佐が扉を開け、中に入るとデスクに足を乗せて高級チェアに深く座り込んだフリーダムの司令官が、傍にエクソスケルトンを装備したフリーダム兵を控えさせ待ち構えていた。
そのフリーダムの司令官は、スキフと一度会ったことのある人物であった。
「これはこれは……デューティの佐官様だけでは無く、昔俺を振った
「今の俺をルーキーと呼ぶのは不適切だぞ、ミクルハ。」
フリーダムの幹部「ミクルハ」、キャロット無しでホロウを歩き回れる等の真偽不明の伝説を多く持つ一流のホロウレイダー。
かつて侵食症状によって半身不随になりホロウレイダーを引退した身ではあるが、ZONEのアーティファクトによって回復し、その奇跡に魅入られフリーダムへと加わった人物だ。
一方ミクルハはライバル関係にあるデューティと、ZONEでは顔が広いリヒターに彼とよくつるむスキフが一緒に来ているのはどういう事かと訝しんでいた。
「佐官殿はデューティを裏切って俺達の所に来たって感じじゃねぇな、特定の勢力に付かねぇ事で有名なリヒターにスキフまで雁首揃えて、一体何が目的だ?」
「クリアスカイの通信妨害についてだ、フリーダムなら妨害を突破してZONEの何処でも通信出来る筈だろう。そのくらいの技術力は持っていると確信している。」
「あっはっは!こいつは傑作だ、つまりなんだ?電話がしたくてわざわざ俺達の所に頭を下げに来たのか!」
手を叩きながらミクルハは大笑いし、護衛のフリーダム達も嘲笑を隠さない。
「そうだ、我々デューティはクリアスカイに攻撃され多数の死者を出した。問答無用でだ、奴らに然るべき対処をする為に本部へ報告しなければならない。」
その態度を前に表情を変えることなくシュルガ中佐が口を開くと、一瞬で笑い声が止まった。
ミクルハは興味深そうにスキフ達を見る、彼らの顔を見るにデューティだけの問題では無いと悟ったようだ。
「リヒター、お前が一瞬にいるって事は只事じゃねぇんだな?」
「そうだ、これは単なる勢力争いじゃねぇぞミクルハ、新エリー都を襲ったイカれたカルト教団の残党がZONEでヤバいこと企んでんだ。クリアスカイはそれにどっぷり浸かってる、デューティが襲われたのはその為だ。」
「へぇ……詳しい事を聞かせてもらおうか。」
「その前にだ、フリーダムが以前クリアスカイと組んでいたのは知ってるぞ。喧嘩別れをしたそうだが実際の所どうなんだ?」
未だにクリアスカイと繋がっているんじゃ無いかと疑うスキフの指摘に、ミクルハは眉を大きく顰めた。
ミクルハの表情は如何にも奴らとは袂を分かちましたという顔であるが、そんな物バカ正直に信じるスキフでは無い。
彼らの返答を聞き、その後の対応を見てそれが真実かどうか判断する。
もし未だにクリアスカイとフリーダムがズブズブだったならば、上空でステルスを起動中のビック・シードがこの建物に突入してくる手筈だ。
スキフが見極めようとミクルハを睨んでいると、なんてこと無いように言った。
「奴らとは確かに喧嘩別れをしたが……実際は、連中との繋がりを“まだ”持ってると言えるな。下手するとお前らの事を告げ口するかもしれねぇ。」
「そこまで正直に言っちゃうんだ。」
思わず口に出たリンにミクルハは答えた。
「お前らに良い顔して裏では……なんてやると思ったか?お嬢ちゃん。 まぁいい、仲間の一部がクリアスカイとの契約に未練タラタラ、奴らとこっそりホットラインを繋いでいるって事実はあるんだが……」
「お前は違うのか?」
「ああ、奴ら金払いは良かったがその分フリーダムの扱いが雑でな、だから俺は奴らを信用してなかったし、その上、俺達が築き上げたマラカイトを奪われ金払いも悪くなりやがった、そんで俺が幹部連中説得して、奴らに三下り半突きつけさせたのよ。」
「つまりお前は最初から反クリアスカイだったって訳か。」
「少なくとも俺はな……とは言え、わざわざ火中の栗を拾う真似はしたくない。仇敵であるデューティに手を貸さなきゃならねぇ理由を教えな。」
その言葉を信じるかどうかはさておき、下手に誤魔化されたり協力的だったりするよりは彼の態度は信用に値するだろう。
今度はスキフ達を見極めようと鋭くなったミクルハの目付きがこちらに向く。
スキフ達はモノリス関係などを隠したまま、出来る限りの情報をミクルハに伝えた。
「なるほどねぇ、アグロプロムの大騒ぎはそう言う事か……連中、実は讃煩会でZONEで企み事をしていてその上“パエトーン”まで誘拐したってか、パエトーンが2人いるってのには驚いた……あいつにこんな可愛い妹がいたなんてびっくりだ。」
「それでどうなの?クリアスカイの通信妨害をフリーダムは突破出来るの?」
「答えは“YES”だ“パエトーン”、確かにフリーダムは諸勢力の通信妨害システムを迂回してZONEの何処でも連絡を取り合える手段を持ってる………がクリアスカイから盗んだ特殊な専用機器が必要でな、それを他所の連中に明け渡すと今後この回線が筒抜けになって使えなくなるかもしれないんだなこれが。
俺達にその特別な回線を捨てさせる代わりに、お前らは何を差し出せるんだ?」
フリーダムは拒絶では無く交換条件を出してきた、つまり交渉に応じる余地があるという事だ。
シュルガ中佐、そしてリンも事前に用意していた案をミクルハに提示した。
「我々デューティがSTCマラカイトをお前達の代わりにクリアスカイから奪還し、施設と技術をフリーダムに譲渡する。」
「それと、今後“パエトーン”はフリーダムに協力する。あくまでお兄ちゃんじゃなくて私個人、そしてプロキシとして出来ることに限るけどね。」
それを聞いたミクルハは僅かばかり目を大きくする。
シュルガ中佐の思惑としては、クリアスカイが讃煩会の異端者“シン”そのものであり、その殲滅を目的とする防衛軍にデューティが力を貸せばZONEからクリアスカイを追い出せるかもしれないと睨んでの事。
リンに関しては、軍事倉庫に訪れる前にフリーダムに対しどういう手土産を持っていくかで悩んでいた時に、スキフが以前ロストクでミクルハと出会った際にアキラを勧誘していたのを覚えており、それを聞いたリンがホロウレイダー集団なら伝説のプロキシであるパエトーンが味方に付くのを歓迎するのではと思いついたからだ。
勿論身売りの様なリンの案にスキフとオボルス小隊の面々は反対したのだが、アキラを救う為ならこのくらいとリンが突っぱねた為仕方なく、シュルガ中佐の案と合わせて交渉に赴く事になった。
「話にならねぇ、デメリットしかねぇじゃねぇか。」
だがミクルハの反応は冷淡だった。
「…っ! 何が駄目なの?」
「まずは“パエトーン”、お前がフリーダムに手を貸す件だが、確かに俺は以前お前の兄貴にフリーダムに入らないか誘った事がある……が、1年も前の話だ。ZONEじゃプロキシの出番は無いし、ホロウ関連の仕事も専属のプロキシに任せりゃいい。とっておきの通信回線を捨てる程じゃないな。」
思っていたよりも“パエトーン”の存在を魅力に感じていない事に軽くショックを受けるリン。
ちらりとシュルガ中佐やスキフを見ると彼らもマズイという表情をしていた。
「そ……それじゃあ、デューティの案は…?」
「何処までデューティがやれるのか全くもって未知数過ぎる。クリアスカイの総戦力はZONEの全勢力を相手取れるほどなんて言われてるんだぞ?マラカイトの占領なんて出来るとは思わないね。それに“パエトーン”を助けたらさっさとトンズラなんて可能性を捨てきれない。そもそも中佐如きの提案なんざ、タチェンコが派兵を拒否したらどうすんだ、ええ?」
シュルガ中佐が一気に苦虫を噛み潰した表情になる。
ミクルハの言う通り、クリアスカイを倒せるかどうかは不明な上、デューティが援軍を派遣してくれるのかどうかはまだ分からないのだ。
しかも“シン”計画に“パエトーン”が必要不可欠なら、彼を助け出すだけでも十分と言えるだろう。そもそもスキフやリン、オボルス小隊はそのつもりでマラカイトでの作戦を立てている。
つまるところ、フリーダムがわざわざ手を貸してやる旨味はない、そうミクルハは言っていた。
諦めるしかない。そもそも彼らに情報を渡してしまった以上、クリアスカイに此方側のことが漏れる可能性もある。
この部屋の窓の外にステルスモードで待機している筈のビック・シードに合図して口封じ──────そんな物騒な選択肢がスキフの脳裏に浮かぶが、リヒターが口を開いた事でそんな選択肢が消える。
「よぉしミクルハ、こうしよう。
「えっ?」「何だって…?」「どういう事だリヒター?」
「……頭イカれたかリヒター、俺とお前の間には何も貸し借りは無かった筈だぞ。」
「覚えて無いとは悲しいぞ、あれは俺がZONEへの“ガイド”を始めたばかりの頃……侵食の後遺症で半身不随の上適応体質が低下しているお前をホロウ経由でZONEまで連れてきてやったじゃないか。」
ZONEに来る直前のミクルハの過去を語るリヒター。そんな彼をミクルハは疑惑の視線で睨んでいた。
「“ハティ”や“ゴブリン”に追いかけ回され、抗侵食薬を5…いや、6本はお前に投与したな。ホロウを抜ける最後の最後で駐留部隊のドローンにケツ撃たれたろ。
それでも先にZONEに来てた仲間の下へ連れてきた事にお前は感謝しまくって、「ミクルハの名にかけて、身体が治ったらどんな事でも助けになってやる」と俺に言ったよな?」
「いや、まさか……リヒターお前あん時のガイドだったのか……?」
「そうだよ、ヘルメットで顔を隠してたし当時の名前も“リヒター”じゃなかったがな。お前のケツに2発、俺の足に一発喰らったのしっかり覚えてるぞ?」
具体的過ぎる説明に当時自分をZONEへ案内した“本人”だと確信したミクルハ。
一瞬にしてこの交渉はフリーダムに利益か否かを協議する物から、ミクルハ個人のプライドを掛けた物に変化した。
「それに考えてみろ、クリアスカイはTOPSの様な連中じゃなくて所詮一企業だ。デューティとマトモにやり合えば奴らは崖を落ちる様に力を失う。フリーダムは無傷で漁夫の利を得られるぞ。
妹さんについてもだ、かの伝説の“パエトーン”が見返りにフリーダムに付いてくれるってチャンスを、ホロウレイダーがみすみす見逃すのか?」
それを聞いたミクルハが口に手を押さえ何かを考えて始めたのを見たリヒターは畳み掛ける。
「更にだ、このZONEで広域に通信妨害仕掛けてくる連中なんてクリアスカイ以外居ない。なのにお前らがそれを回避する方法を持ってるって事は……フリーダムはクリアスカイとやり合う事すら視野に入れてる。だったらこの際、連中に痛い目を見せてやれば良いじゃねぇか。どの道血を流すのはデューティだ。」
「…………確かにな、お前の言う通りだ。」
「なっ……ミクルハ本気か!?」
リヒターの言葉に肯定の意を示したミクルハに、傍のフリーダム達が思わず彼の方を向く。
「デューティに手を貸すばかりか回線まで連中に明け渡す事になれば、他の幹部がどう思うか……!」
「“チェーホフ”も“ルカシュ”も説き伏せるさ、そもそもこの基地もあの回線も俺が整備してやったんだ。あいつらにとやかく言われる筋合いは無いね。」
一拍置いて、ミクルハは続けた。
「俺達の通信装置を使いな、作戦を成功させられるように手も貸してやる。ただしマラカイトは俺達のもの、パエトーンも今後フリーダムの仕事を最優先で請け負って貰うぞ、いいな?」
「もう一度言うけど、お兄ちゃんじゃなくて私との契約だからね。」
「安心しな、兄貴の方には迷惑掛けねぇよ……クリアスカイから助け出せたらの話だがな。」
そう言うとミクルハはテーブルにあったマイクを手に取り、外へ放送を始めた。
「外でお待ちのデューティとそのお友達に告ぐ!交渉成立だ、入って来ていいぞ! 野郎共、外の奴らは今から客人だ!喧嘩売ったりするなよ!」
放送を終えるとマイクを置き、スキフ達に向き合う。
「通信装置は3番兵舎だ、デューティなり何処へなり連絡しろ。ここに援軍呼ぶなら事前に言え、じゃねぇと警備が撃つからな。」
交渉成立だ、これでアキラ奪還の為の援軍を呼べる。
スキフ達はオボルス小隊と合流する為に部屋から退出していった。
『ンナナンナ(聞いたかヤール!この基地にお客様がいらっしゃるぞ!)』
『ワダワダンナ(聞いてるぞアショット!おい客人!武器の整備なら修理工場に来い!全部お纏めで2万ディニーだ!)』
『ナンナンナ(人のネタをパクるなんてつまんないぞ!こんなつまんない奴の店よりオレの店に来な!)』
『ンーナ!(忠告だ!コイツの店は万年観光地価格!しかも“他所用”の商品の質も悪いときた!)』
『ンナワダンナ!(ポンコツ・ヤールには気をつけな!論理コアがイカれてデタラメ言ってるからな!)』
『ナナンナ!(デタラメじゃねぇよ!空に浮かぶボンプの街が会って俺はそこから落ちて来たんだぜ!)』
『ボンプ共!基地のスピーカーはお前らのセールスの為にあるんじゃない!音声モジュール引っこ抜くぞ!』
「はぁ…何とか交渉が纏って良かったぁ。」
「リン、本当に良かったのか?フリーダムのプロキシになるなんて……」
「お兄ちゃんを助ける為だもん、このくらい大丈夫だよ。ミクルハも言ってたけどZONEでの活動にプロキシは要らないし、ホロウでの仕事はいつもやってる事だしね。」
「そっちが良いならいいんだが……それとリヒター、お前がミクルハの“恩人”だったとは驚いたぞ、そのおかげで助かった。」
「へっへ〜ミクルハみたいな奴は貸し借りを絶対に忘れないタイプだからな、いざという時酒でも奢らせてやろうって思ってたのさ。後は……」
リヒターは隣でブツブツと何かを呟いているシュルガ中佐を見る。
「デューティがどれだけ兵士を送ってくれるかだ、まぁ防衛軍の特殊部隊もいるから戦力には困らなさそうだが。」
「今更だが将軍たちが話を聞いてくれるか心配になってきた、しかもフリーダムに頭を下げてだぞ?コトが収まったら私は反逆者として処刑されるかもしれん……」
「……そうなったら俺とリヒターでアンタを助けてやるよ。」
そんなやり取りをしつつ最初に通った橋に向かうと、橋向こうからオボルス小隊やデューティ達が周りのフリーダム警戒しつつ軍事倉庫に入って来たのが見えた。既に仲間の下に戻ったシードの姿も一緒だ。
「みんなー!フリーダムとの話が終わったよー!」
「皆さん無事で良かったであります!」
「まぁ何かあれば僕があいつら“ドッカーン”ってやってたしね〜」
『何はともあれ、これで友軍に連絡が取れると言うことだ。よくやったぞプロキシ君!それにお前たちもな!』
「鬼火隊長、通信装置は3番兵舎ってとこにあるんだって。援軍をここに呼ぶなら先に伝えろとフリーダムが行ってたよ。」
『ではすぐに取り掛かかるぞ。こうしている間にも“シン”の計画が進んでいるだろうからな。』
鬼火たちがフリーダムの通信機の所に向かおうとすると、スキフだけ別の方角に進んでいく。
「俺はここのメカニックに装備の修理を頼んでくる、アグロプロムの戦闘でガウスガンが吹っ飛んだからな。」
『分かった、友軍との連絡が終わり次第、マラカイトに対する作戦を立てるからな。』
「了解だ鬼火隊長、それまでにはそっちに合流する。」
スキフは入口の警備に預けた武器を回収し、先程軍事倉庫のスピーカーで散々騒いでたメカニックボンプを訪ねていった。
『ンナ、ナナン、ンーナ(アサルトライフルやショットガンはすぐ直せるけど、このガウスガンは銃身がもうダメ、内部機構もダメージが酷い。)』
「そんなもん見れば分かる、俺が聞きたいのはどれくらいで直せそうなのかって話だ。」
『ワダンナ、ンナンナ(設計図が無いからな、直すのに1週間は掛かるぞ。)』
「それじゃあ時間が掛かり過ぎる、ヤンターの研究基地まで戻る時間は無いし……」
元は装甲車用の車庫であったフリーダムの修理工場に来たスキフ。
ファクトリーからアグロプロムまで一切整備せず、3度に渡るフルチャージ弾を放ったスキフの
目の前のフリーダムのメカニックボンプ──
このガウスガンはこの世界のヤンター研究基地で改造を施された一品だ、短時間で直すには彼処に向かうしかないが、今は時間が無さすぎる。
どうするかスキフが悩んでいると、後ろから少女の声が聞こえて来た。
「ねぇ、良かったら僕がその銃見ようか?」
「うぉ!?いつの間に……ええっと、シードだったか?」
「正解〜!ビック・シードの整備しようって思ってここに道具借りに来たんだ〜」
スキフの背後に忍び寄って来たシード。
彼女はガウスガンを興味深そうに眺めると、うんうんと笑顔で頷いて続ける。
「おもしろそ……独特な設計だけど、僕だったらこのくらいちょちょいと直せるよ?」
「本当か?それだったら頼んでもいいか?」
「うん!もう1人のプロキシ君を助けてくれたお礼だよ〜おじさん。」
「お…おじ……いや、まぁお前くらいの子供から見ればおじさんだよな……うん。」
『ンーナァ!(おい!自分だけがメカニックのつもりか!)』
「仕方ないンナ〜君じゃこれを直せないンナ〜」
『ワダワダ!(ふざけるな! それで獲物を手に入れた気になって、思い通りにする為に勝手に改造するんだ! その時の長官と同じ目をしてる!』
「人聞きの悪いことをいうなぁ、ちゃんと直すって〜」
「どうせヤンターの連中に弄くり回されてんだ、撃てればそれでいいさ。」
自分の装備をシードとアンクル・ヤールに任せ、スキフは鬼火達が友軍と連絡を取っている兵舎に移動する。
修理工場では1人と一匹がああでもないこうでもないとパーツを付けたり外したりしていた。
3番兵舎……軍事倉庫の端っこにポツンと立っているレンガ造りの兵舎では、オボルス小隊やデューティ達がフリーダムの通信機を使ってクリアスカイと戦う為の援軍を要請していた。
鬼火はZONEの各地でオボルス小隊と同じ任務をこなしているコヴァルスキー大佐率いる特殊任務部隊へ、シュルガ中佐はセメント工場のデューティ本部にトリガーと一緒に連絡を取っている。
だがその雰囲気は重苦しい、少し離れた場所で眺めているリンとストライダー、監視目的で同じ部屋にいるフリーダム達が冷や汗をかくほどだ。
『─────重要な情報、よく手に入れてくれた鬼火隊長。我々もマラカイトに向かいたいが……現在クリアスカイの追撃部隊に執拗に追われて動けない。そちらに向かうのは難しいだろう。』
「そ…そんなぁ〜大佐殿の部隊もクリアスカイに襲われているのでありますか?」
『クソッ……連中、どうやって我々の情報を掴んだんだ?』
『オボルス小隊が遭遇した“ダークストーカー”なる連中には此方も遭遇した、讃煩会の拠点を掃討中にだ。奴らは最初からカウンターアタックを行う用意をしていたのだろう。
すぐには無理だが、我々も何とかクリアスカイを撒いてマラカイトへ向かう、オボルス小隊は先行し敵の計画を阻止せよ、アウト。』
コヴァルスキー大佐からの通信が切れた瞬間、目を赤くした鬼火は銃口を噛み締めながら火炎を吐き散らした。
『おのれぇぇぇ!クリアスカイめ!あの手この手で我々を邪魔するとはいい度胸じゃないかぁ!』
「鬼火隊長!ここはフリーダムの基地です!落ち着いて下さいぃぃ〜!」
「おいオレンジ髪!そのしっぽを止めろ!機材に燃え移ったらどうするんだぁ!」
オルペウスが鬼火を宥めている横で、シュルガ中佐とトリガーも神妙な顔つきで無線機の声を聞いている。
「もう一度、繰り返して頂いても宜しいですか…?」
『返事は同じだトリガー君、デューティを送ることは出来ない。』
「将軍!独断で防衛軍との同盟やフリーダムに協力を仰いだ責任は私が取ります!ですが相手は讃煩会、新エリー都の為にどうか………!」
『勘違いするな中佐、私とて讃煩会の脅威を認識している。下らない調査任務では無く、奴らの排除を目的とするなら防衛軍のZONEの介入に手を貸しても良いと思っている。』
「タチェンコ、それならば何故……」
『忌々しい事に現在セメント工場の周囲にクリアスカイの大部隊と奴らが雇ったTOPSの傭兵が集結し、此方に圧力を掛けている。どうやらデューティがクリアスカイを襲った事になっているようでな。
デューティは戦力を結集させて奴らに対抗する最中だ、軍を動かすならあの包囲網を突破する必要がある。』
「そんな……」「クリアスカイめ……」
『………だが、信頼する部下とかつての戦友に頼られて何もできませんじゃ格好がつかない。周波数を伝える、本部から離れた場所で任務を行なっていた幾つかの部隊に連絡を取り給え、数は少ないが戦力にはなるだろう。』
「感謝します……将軍」
『シュルガ中佐、防衛軍やフリーダムの件は不問とする、貴官はオボルス小隊と連携し讃煩会を叩け。トリガー君、私の部下を預けると鬼火隊長に伝えてくれ、健闘を祈る。』
「分かりました、タチェンコ。」
通信が終わり、2人は額を抑えながらその場で溜息をつく。
「クリアスカイに先手を取られていたとは……シュルガ中佐、タチェンコが伝えたこれらの部隊の規模はどの程度ですか?」
「どれもちょっとしたミュータント狩りやアノマリー調査を目的とした小チームだ。一個小隊半が集まれば良いと思うが……」
「それでも居ないよりマシです。彼らと連絡を取りましょう。」
トリガーの言葉に頷き、シュルガ中佐は援軍として来れそうなデューティに通信を送り始める。
デューティの方も期待外れになりそうな事に鬼火はイラつきを隠せないでいた。
『向こうもあまり期待は出来なさそうだな……11号。他はどうだ?マラカイトへの攻撃に参加出来そうな部隊は?』
「スティングレイ4は現在地の座標を送りました、此方に向かっているとの事です。」
『よし、次は“少佐”のチームに連絡を入れろ、彼らの助けがいるだろうからな。オルペウス!他の小隊と連絡を─────』
オボルス小隊とデューティがテキパキと通信機を操作しているのを、兵舎に入ってきたスキフは目撃する。
「リン、ストライダー、思ったより状況は芳しくないようだな。」
「スキフさん。」
「お前の言う通りだ、クリアスカイの動きが早い。」
スキフが近くにいるリンとストライダーに話しかける。
スキフの目から見ても援軍要請は上手く言っていないようだった。
アキラ救出の為の援軍が期待できないのなら、要塞並みの戦力を揃えているマラカイトに小規模な部隊で乗り込まなければならないのだ。下手にやればアグロプロムの二の舞になるだろう。
「ストライダーさん、ドクターは内通者なんでしょ?潜入とか助けてくれたり……」
「彼曰く基地の内部ならある程度助けられるそうだが、マラカイト全体に広がる警戒網はどうしようもないそうだ。“パエトーン”が捕まっている場所も地下の牢獄で、抜け出せそうな隙間は無いらしい。」
「デューティや特殊部隊の増援があれば、作戦の幅が広がるんだがな………」
「なんだなんだ、せっかく設備を貸してやってるのに浮かない顔じゃねぇか。」
「ミクルハ、それにリヒターまでなんだその荷物は。」
「こいつ曰くお楽しみだとよ。」
3人が心配そうにオボルス小隊やシュルガ中佐達デューティの背中を眺めていると兵舎にミクルハが入ってくる、その隣には何故かリヒターも居た。
リヒターは大きな箱を背負っており、ミクルハの手には地図が握られていた。
「どうやらデューティの連中、大した援軍を寄越せないと見た。」
「それがどうした、笑いものにでもしに来たのか?」
「いいや?せっかくマラカイトを取り戻せるチャンスなんだ、お前らには上手くやってくれないととっておきの通信機器を使わせてやった甲斐がない……リヒター、そこにおけ。」
「全くよぉ、呼びつけたかと思ったら何で荷物持ちなんか……」
「これは、マラカイト周辺の地図に、大きな箱───これって…!」
ミクルハが持ってきた“ブツ”が一体何なのか、リンが気になって中を覗き込んだ途端、驚きの目でミクルハを見る。
「どうしたリン、何が入ってたんだ?」
「まぁ待てスキフ、お前らの作戦次第でこいつが必要になるかどうか決まる。もし必要になるなら……“パエトーン”には身体を張って貰う必要があるな。」
「わ……私?」
「……何をやらせるつもりなんだ。」
ミクルハは愉快な目付きニヤついていた。
まるで悪いことを企む悪ガキのような表情である。
「俺達だってクリアスカイにただヘコヘコしてた訳じゃねぇ、フリーダムなりの“マラカイト奪還作戦”があったんだ。お前達がいい作戦を思いつかなきゃ、このやり方でやってみろ。」