Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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Let's go ZONE!
6.邪兎屋とStalker


 

 

 「…………夢か。」

 

 微睡みから目覚めたイヴェンは、今まで長い夢を見ていたな。と思いながら身を起こした。

 

 窓を開けるとそこはウクライナの街並みだった。ソ連時代に建てられた様な古い集合住宅が目の前に映る。いや、崩壊後に建てられたんだったか?まぁ安ければどうでもいい。

 

 そうだ、ここはウクライナだ。ZONEに行ってアノマリーやミュータントと戦って、そして異世界に行って、そこを侵食するホロウとかいう異界に行って、エーテルやお宝を手に入れたり謎の怪物と戦う?何処のコミックの話だ。

 そんな異界の話なんて現実にはZONEだけで十分だ。と洗濯物の上に無造作に置かれた、ZONEの外に持ち出してただの石ころと化したアーティファクト「ダミー」を眺める。

 

 次は何処のバカに売りつけてやろうか──そう思い、カレンダーを見るとそうだ、今日は日曜日じゃないか。しかもまだ朝の9時だ。今日くらい1日のんびり過ごしてもバチは当たらないだろう。

 

 そう思い、イヴェンは狭いキッチンに置いてあったウォッカを持ってきてソファに座る。ウォッカを呷りながらリモコンを取り出しテレビを点けた。

 

 

 『スターライトナイト、変身!』

 

 

 ウクライナの日曜朝9時には絶対やっていない番組が映った瞬間、視界が暗転した。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 「忌々しい夢だな畜生…」

 

 懐かしき、そしてスキフにとっては思い出したくもない、吹っ飛んで消滅した筈の、今は亡き自宅の景色を思い出しながら目を覚ました。近くにある随分とレトロなブラウン管テレビからスキフが見るにアメコミヒーロー?の様な番組が放映されていた。

 

 どうやら何処かの事務所のソファに寝かされていた様だ。事務机の上には書類の山…その一部は山盛りになった督促状らしき物が占めていた。らしき、と言ったのはまるで個人からの手紙の様な「金返せ」や「払うもん払って貰いまっせ」と書かれた物が殆どで、税務署の様な格式張った物は多分無い。側を見るとそれ等と同じ様な手紙が限界まで詰め込まれたゴミ箱が見える。

 

 ふと窓の外を見ると至って平和な──ウクライナの景色とは違う都市が見えた。遠くの方に恐らくホロウの様な景色が写ってるが街を歩く住民は特に気にしてなさそうな雰囲気を感じる。

 

 「まさか、ここが新エリー都か?」

 

 話にだけ聞いた事のある都市をスキフは初めて見た、ホロウに侵食された世界で唯一の都市規模の人口密集地らしいので恐らく合っているだろう。

 視点を下げて自分の服装を見ると、先程のテレビで演っていたヒーローのキャラクターが描かれたTシャツを着ていた。下は黒いズボンだが元の持ち主は明らかにスキフより丈が長い、頑張っても裾を踏みつけてしまう。

 

 (ここは何処だ…?確か俺はホロウの中でブラッドサッカーやエーテリアスと戦って…あの猫が手助けをしてくれて…)

 

 「そうだ、ZONEだ。リヒターが危ない!」

 

 またZONEからホロウに叩き出される直前、リヒターは確かエーテル汚染が酷い部屋に閉じ込められた。

 あそこに居れば侵食が進み、エーテリアスになるのだと言う。この世界のZONEはスキフの知るZONEとは違い、放射能汚染では無くエーテル汚染というのがそこかしこにあるのだが、なら防護薬の備えくらいはある筈だ。問題は何時まで持つか───

 

 「装備は!?アーティファクトもない!奪われたか!?」

 

 急いで外に出ようとして装備の事に気付く、アーマーは使い物にならないと言う言葉すら烏滸がましい程ボロボロの状態になったがそれ以外は今のスキフに必要不可欠だ。

 更にアーティファクト、最悪装備自体は最低限でも何とかなるがあのアーティファクト達は駄目だ。

 あれはスキフが、ZONE中のアノマリーと言うアノマリーの密集地点を根こそぎ探し回って手に入れた、最も希少なアーティファクト達なのだ。

 

 特に手放してはならないのはハート・オブ・チョルノービリ。あれはZONEの伝説(ストレロク)との死闘を制してスキフが手に入れた、文字通りZONEを変える力を持った伝説のアーティファクトなのである。

 スキフ自身が持っていても生命力の回復くらいにしか力を引き出せないが、それでも失ってはならない、ZONEの至宝なのだ。

 

 アーティファクトが無ければスキフは常人程度の力しか保たない。ウクライナ軍に数年従軍し、戦争で地獄を見てきた元兵士であるが結局、ZONEのミュータントやホロウのエーテリアスに比べれば余りに人間の肉体は脆弱なのだ。

 

 「畜生。何処だ、何処にある。せめてアーティファクトだけでも…何処に隠しやがったクソが…」

 

 焦ったスキフは知らない事務所をそこら中ひっくり返す、大体彼はここが新エリー都らしいと言うのは分かるが、その中の何処なのか、そもそもZONEはこの世界の何処にあるのかも知らない。

 アーティファクトも装備も取り返した所でじゃあどうするのか、スキフは何も考えていなかった。

 

 ふと隠された金庫を見つけ、手を伸ばす。まさかここに入ってるんじゃという思いで手を伸ばすが───

 

 「おっとそこまでだ兄ちゃん。そこは企業秘密だぜ。」

 

 「おとなしくお縄につくべき。」

 

 頭に銃、首にナタを突き付けられる感触がした。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 「何よ、あのヤブ医者。準備が全部無駄になったから手間賃はよこせ。ですってぇ!?」

 

 「しっかしまぁ、あの兄ちゃん一体何者なんだ?ホロウから運び出す前は間違いなく重傷だったよな?」

 

 「あれは、エーテリアス・マンよ。」

 

 「知っているのかアンビー!?」

 

 「ホロウの中で死んだ人間が、特殊なエーテル侵食を受けて人の姿のまま、身体の中だけエーテリアスとなって生き返るの。彼は人でも無く、エーテリアスでも無い曖昧な存在として他のエーテリアス・マン達と世界の命運を賭けた…」

 

 「それこの間ニコと見てた映画の内容だぞ…」

 

 漫才の様な掛け合いをしながら4人組が自らの事務所に帰って行く。その手には買い物袋が握られていた。

 

 彼女達は社長のニコ、従業員1号のアンビー、機械人のビリー、猫のシリオンの猫又で構成される「邪兎屋」と呼ばれる何でも屋であり、そのエーテル適応体質を活かした新エリー都でも実力のあるホロウレイダー集団である。

 

 そんな彼女達は先日のホロウに迷い込んだ飼い猫探しの依頼の際に偶然見つけた、全身血だらけのボロボロの男を助け出した事を思い返していた。

 誰がどう見ても凄まじい傷と出血の跡から死んでいると思われた男、しかし息がまだあったので急いでホロウから助け出し、モグリの医者に転がり込んだのだが…

 

 なんと、腕を始めとした裂傷や大火傷が綺麗さっぱり無くなっていたのである。結局、怪我は無い為にモグリの医者から追い出された邪兎屋は仕方なく事務所に匿う事にしたのだ。

 全身血塗れの男を抱えたニコ達がどっかに男を放置したら治安局から何されるか分かったもんじゃない。

 

 「あの男、流石にもう起きたのかしら……ZONE、ねぇ。」

 

 ニコは駆け寄ってきた自分に助けを求めてきた男を思い出す。うわ言の様にZONEへ、友達の下へと等言っていた男を前に、金にガメついが人情にも厚い彼女は思わず手を差し伸べてしまった。そしてZONEと言う言葉にニコはふと考える。

 

 ZONE…それはニコ達もここ数ヶ月散々聞いている名前だ。寧ろ、新エリー都で活動するホロウレイダーが知らない理由が無い。市政と防衛軍が情報統制を行っている為、一般報道では「特殊なホロウ空間」と呼ばれているが勿論、そんな物大して意味はなくあっという間に噂が広がり、ホロウとは全く違う異質なZONEの話題がインターノットを中心に語られる事は尽きない。

 

 防衛軍の必死の封鎖にも関わらず、今でも多くのホロウレイダーがZONEへと渡ろうと策を練っており、ホロウと違って滞在するだけではエーテル侵食が起きない為、エーテル適正が無く通常、ホロウにマトモに入る事が出来ない者達まで乗り込んでいる始末だ。

 

 あの男もそんな人物の一人だとニコは思っていたのだが…何か妙に違和感を感じるのだ。その違和感がどんな物かは分からなかったが。

 

 「…まぁアイツが起きたら色々聞いてやればいっか。ZONEへ行くくらい、あたし達には楽勝だしね。」

 

 ZONEに行くには単にホロウの中を進むより難しいと言われているが…邪兎屋にはそんな問題、関係無かった。

 彼女達には、新エリー都で最も優秀なガイド(プロキシ)のツテがあるのだから。

 

 そう思いながら事務所の扉を開けると───まるで泥棒が入ったかの様な惨状に、事務所は見舞われていたのである。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 「……それで、何か申し開きはあるのかしら?」

 

 「……Нет(ニェット)

 

 帰ってきたら意識不明の男が目覚めていて、そいつが自分たちの事務所をめちゃくちゃに漁っていた光景を見た邪兎屋はすぐさま男を確保した。現在、膝をついて両手を挙げた姿勢のスキフは、両脇から武器を突きつけるビリーとアンビーに挟まれていた。猫又はニコの側で威嚇のポーズをしており、そのニコはスキフの前に足を組んで座っている。

 スキフの正面に見えるニコのホットパンツは実に扇状的だが、当のスキフにそんな感情は一片も湧いていない。

 

 命を救ってやった男が泥棒行為をしていた事に怒っているニコとついでに猫又は、少し俯いているスキフの明らかに無数の命を奪って来たであろう目に気付いてなかった。もし隙を見せれば、此方の命を奪おうとして来てもおかしくない眼。

 ビリーとアンビーは一瞬見えたその目を警戒し、武器を下ろしていないのである。

 

 「あたしね、今すっごい悲しいのよ。アンタがホロウの中で血だらけになって、助けを求めてきたからわ・ざ・わ・ざここまで連れてきてあげたのよ、覚えてる?」

 

 「なんだって…?」

 

 「あたしはぜーんぶ聞いたのよ?ZONEへ行きたい。友達の所へ行きたいって。あたしに言ってきたじゃない。だからホロウの中に置き去りにしないで助けてあげたのにその恩人の家で泥棒?アンタどんな教育受けてんのよ。」

 

 顔を上げたスキフの目から急速に殺意が消えていくのが分かったビリーとアンビーは顔を合わせ武器を下ろす。どうやら彼は此方の事を誤解していた様子だった。

 

 一方スキフは必死に記憶を思い出している。確かに意識が朦朧とし、気を失う直前に、桃色の髪の人物から何か言われた様な気がする。目の前の女性はその特徴と大体一致していた。

 

 ───助けてくれた恩人に対して随分と無礼な態度を取っていたな。

 

 スキフは自らを恥じて自分の早とちりを責めた。そもそも強盗目当ての悪党なら、あの時身ぐるみ剥いでホロウに置き去りにするはずである。アーティファクトを失った事に自分でも思った以上に狼狽していたようだ。

 

 「本当にすまない、それと、助けてくれてдякую(ありがとう)。自分の装備が無くなって混乱していたんだ。」

 

 「人のもんを勝手に捨てるわけないでしょうが。あんだけ血に汚れてボロボロだから全部ビニールに突っ込んで臭わない場所に纏めてるわよ。」

 

 そう言ってニコが指を指した先に、何枚もビニールを重ねたゴミ袋が見える。血や汚れが床に付かないように大量の督促状をビニールの中と下に敷いていた。

 

 「無事な装備を回収したい、いいか?」

 

 「それならお風呂場でやってくれる?そっちの方にあるわ。」

 

 ビニールを持ち上げ、風呂場の方へ向かって行くスキフの前に、ビリーが立ちはだかった。

 

 「待ちな、兄ちゃん。」

 

 「………他に何か?」

 

 知能機械人を知らないスキフは目の前のビリーを頑なに鉄仮面を外さない変人と思っていた。鉄仮面なのに妙に目の部分が可動するな…とスキフは思いながら何か凄みを感じる様な態度を取るビリーに少し警戒する。

 

 

 「………その限定版スターライトナイトTシャツ…一回脱いでからやってくれねぇか。」

 

 「あっ忘れてたけどアンタの着替え買ってきてあげたわよ。」

 

 

 

 ビリーのそれは凄みでは無く、懇願の表情だったらしい。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 邪兎屋の事務所にある風呂場で出来る限り血を洗い流しながら装備を回収する。アーティファクトコンテナの中は開けられた様子が無い。

 安心したスキフはコンテナを着けたベルトを腰に巻く。今のスキフの服装はどう見てもZONEによく生息しているバンディットにしか見えなかった。ニコ曰く、安いのを纏めて買ってきたらしい。最早アーマーと言えない程、損傷しているX7スーツはゴミ袋の中に放り込んだ。

 

 はっきり言ってZONEではしょぼすぎる風貌だが、彼女達にはかなり世話になっているのに文句は言えない。スキフは無事な装備を身に着け、邪兎屋の前に姿を現す。

 

 「う、まだちょっと臭うぞ…」

 

 「へー、意外と様になってるじゃん。それじゃあ早速、依頼の話ね!」

 

 「ああ、俺をZONEへと連れてってくれるんだろ?」

 

 猫又が鼻を摘みながら顔を顰める。さっきのビリーもそうだがスキフはシリオンの存在も知らない為、猫又をただの猫耳コスプレ少女としか思っていない。

 ニコは依頼の話を進めようとしていた、スキフはこの世界の通貨を一切持っていない。スキフの世界のZONEの独自通貨、クーポンなら持っているがそんな物この世界ではそこらのゴミより価値がないだろう。

 だがスキフには一つ、差し出せる物があった。それが無理ならもうどうしようも無いがそれを条件にするしか無い。

 

 「生憎、俺は一文無しだ。だから俺が差し出せる物は限られる。」

 

 「ええ、見れば分かるもの。それで、あたし達に何を差し出せるって?言っとくけど誠意だけってのは無しよ。」

 

 「アーティファクトだ。」

 

 その言葉にニコ達は一瞬動きを止めた。ビンゴだ、このまま攻めるぞ。

 

 「自慢じゃないが俺はZONEの環境に慣れている。アーティファクトの集め方も知っている。アーティファクトを手に入れて、それを金に変えてあんた等に支払う。それでどうだ?」

 

 「……それをちゃんと履行するって証拠は?ZONEは完全な無法地帯よ、契約書を書いたってZONEでオサラバされればあたし達は大損。ダミーを渡されてはいおしまいって事も考えられるわ。」

 

 「なら一緒についてくると良い、俺がZONEの観光に連れて行く。あんた等の目の前でアーティファクトを取ってきて、金に変えてきてやる。ZONEで活動出来るだけの実力はあるだろう?」

 

 そう言うとスキフはビリーとアンビーを見る。先程スキフを警戒していたのを見て、この二人は相当な実力者だと確信していたのだ。恐らく、ニコと猫又も高い能力を持っている。

 

 「だから俺は……」

 

 「だから…?」

 

 そう交渉を続けようとしてスキフは口籠る、何かおかしい。ニコが怪訝な表情でスキフを見る。

 一瞬スキフは顔を青白くしてアーティファクトコンテナを開けた。邪兎屋の面々には中身を見られない様にしている。

 

 そこにはアーティファクトがあった。しっかりと力を保った伝説級のアーティファクト達が。

 

 今の今までZONEの外に居たはずだ。ホロウの中で力を保っているのはそういう物だと無意識に思っていたからだ。

 

 ならどうして、どうしてZONEとホロウの外で、力を失う筈のアーティファクトが、その力を保ったままでいられるんだ?

 

 







 果たしてゼンゼロキャラの性格をちゃんと書けるのだろうか……


 ◇ダミー
 通常、ZONEの外に持ち出したアーティファクトは全て力を失い、ただの石ころとなってしまう。
 そんな物でも色んな所に需要がある為、安価とは言え裏取引が絶えないのだ。
 スキフはそれを密輸して金を稼いでいたが…その結果、ZONEに導かれる事になるとは思いもよらなかったであろう。
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