Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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60.マラカイト強襲

 

 

 

 

 「変装作戦を提案しといて何だが……多分STCマラカイトで確実にバレる。」

 

 クリアスカイに成り済まし、マラカイトへ潜入作戦を行う事を決めて準備を始めた途端、作戦の提案者であるミクルハからいきなり梯子を外されたスキフ達。

 いきなりの事に鬼火が軽くキレながらミクルハに詰め寄った。

 

 『ちょっと待てぇ!貴様が奴らの根城まで忍び込めるって言ったんだろうが!』

 

 「そりゃあ言ったさ、だがレベデフの奴は用意周到、あの回線を使った以上、確実に俺達の作戦を察知するだろうな。」

 

 「ええっと……どういう事?この回線を使えばクリアスカイの通信妨害を回避出来るんだよね?」

 

 リンの疑問にミクルハは耳を掻きながら言う。

 

 「クリアスカイだってバカじゃない、自分達以外の連中が通信出来ない状況で通信している奴が居れば即気付く。何せ向こうも俺達が色々盗んで行った事知ってるからな。

 フリーダム同士の通信なら見逃されるかもしれないが、デューティやら他の連中やらと話してたら、何か企んでいると思うに決まってるだろ?だから多分もうある程度バレてる。」

 

 『そうか貴様は情報を敵に齎すクリアスカイのスパイか!KILL・You(ブッ殺ス)!』

 

 「隊長ステイ!ステイ!」

 

 怒髪天に達した鬼火が炎を纏ってミクルハに突撃する。

 鬼火と繋がっているオルペウスは必死に彼女を抑え込み、自らも声に怒気を含ませながらミクルハを問い詰めた。

 

 「ミクルハ殿!みすみす敵に情報が渡るリスクを黙っていた事に対し!納得の行く説明を求めるであります!さもなければ自分はこの手を離すでありますよ!」

 

 「やれやれ……せっかちなお嬢さん達だ。」

 

 鬼火から放たれる炎を回避しながら、ミクルハは肩を竦めて説明を始めた。

 

 「別に大した情報は言ってねぇじゃんか、あんたらが通信で言ったのはデューティや“ミリタリー”のお仲間へのお助け電話。

 そいつはとっくのとうにクリアスカイが先手を打ってたんだろ?奴らが分かって居るのは、あんた達がチンケな戦力でマラカイトに何かを仕掛けようとしている事だけ。」

 

 『ううむ……それは確かに……だが敵に襲撃の情報が渡ってる事には変わりないぞ!』

 

 「言われてみれば潜入する事は通信で話して無かったでありますね……でも最初から言ってくれれば奇襲できたかもしれないのに!」

 

 一応の説明に、一先ず怒りを収めて再度問い詰める鬼火とオルペウス。そこでミクルハは先ほど提案した作戦を切り出す。

 

 「STCマラカイトの設備じゃPDAのIFFだけ

じゃなく、生体認証やら脳波やらで正体がバレて奇襲が絶対露見する。

 相手が何も知らない状態じゃ、検問で即座に囲まれてジ・エンドさ。だから、敵にこっちの襲撃を察知させて置く必要がある。それとパエトーンが身体を張るのもな。」

 

 「さっきも言ってたけど私はどう身体を張れば良いの?」

 

 「攻撃を察知させておく必要もあるとはどういう事だミクルハ、わざわざ奇襲効果を無くすんだぞ?」

 

 リンとスキフがどういう作戦を考えて居るのかミクルハに問う。

 

 「ただクリアスカイに成り済まして潜入させるんじゃ無い、パエトーンを捕まえたとか言って、STCマラカイトに侵入するんだ。」

 

 「でもさっき検問でどうしてもバレるって……」

 

 「ナタリア・レベデフは嫌味な女だ、相手が知らずにトラップにノコノコ入って行くのを見るのが大好きな女。

 襲撃がある事を知っている状態でパエトーンをわざと引き渡そうとすれば……奴は必ず、誰にも邪魔されない兄妹の感動のご対面という“演出”を作り上げるだろう、罠を仕掛けてな。それを利用してやれ。」

 

 つまりリンを餌にアキラをスキフ達の目の前に釣り上げると言う事だ。

 

 ミクルハはどういう手順で行くのかまでは考えておらず、「後は自分達で考えろ」と言い残してその場を去る。

 スキフ達はミクルハの案を元に作戦の動きを決め、ドクターとも連絡を取り合い、STCマラカイト潜入作戦の詳細を詰めるのであった。

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 相手の仕掛けた罠を突破し、見事レベデフの護衛を全滅させ、敵の首魁を捕らえた上アキラを取り戻したスキフ達。

 室内はスキフとアキラ、スキフに制圧されたレベデフが居る場所とリン達が居る場所がエネルギーシールドで隔てられており、リン達は何とかシールドを解除しようと四苦八苦していた。

 

 「アキラ、拘束を外せそうか?」

 

 「駄目だ、金属製の手錠を掛けられてる。」

 

 「そうか……おい、鍵を持ってるなら渡せ。」

 

 そう言ってスキフはPTMピストルをレベデフのこめかみに強く押し付ける。グリップで殴られたせいで頭部から軽く出血しているレベデフは、何も言わずに懐から手錠の鍵を渡した。

 

 それを受け取るとアキラを近くに呼び寄せ手錠を外す。

 両手が自由になったアキラはいの一番にシールドの向こう側にいるリンの近くへと向かった。

 

 「リン……!」

 「お兄ちゃん……!」

 

 シールドのせいで弾かれる為、互いの掌の位置を合わせるアキラとリン。

 直接触れ合っては居ないが、間違い無く家族の温もりを感じる事が出来た。

 

 スキフはレベデフを制圧したまま、こっち側の扉の近くにいる都市迷彩柄のボンプ───恐らく内通者たる“ドクター”に言った。

 

 「そこのボンプ、扉をロックしてこっちに来るんだ。」

 

 ドクターは言われた通りに行動し、レベデフの隣へやってくる。軽くドクターを蹴ると、レベデフが強く睨んで言う。

 

 「“この子”に触るな……!」

 

 『ンナ……』

 

 「お互い妙な事をしたらすぐに殺す、黙って座ってろ。」

 

 レベデフはともかくドクターに関しては演技だ、彼はスキフの突入前にこう言った。

 

 『現場にいるからボクの正体が分かると思うけど、パエトーンを完全に逃がすまではボクが内通者だと言う事を隠して欲しい。』

 

 もし作戦に不具合が出て相手に逃げられたとしても、ドクターが居れば相手の動きを知る事が出来る。最後の最後までスパイとして役目を果たすつもりのようだ。

 

 スキフが意外に思ったのは、レベデフにとってもドクターと名乗るこのボンプの事を想っている様子を見せた事だった。

 ドクターもレベデフを殺さないでくれと懇願していたのを見るに、お互い大切な関係性だったのだろうか。

 

 とは言えスキフ達を助け、クリアスカイに不利益を齎し続けたスパイはドクターである。

 彼は複雑な表情で、裏切り者だとは知らずにドクターの身を案じるレベデフから目を逸らす。

 

 レベデフは視線をスキフからクリアスカイの裏切り者の1人──ニンブルという兵士に向ける。

 

 「ニンブル、貴方が裏切るとは……!」

 

 「はっ、衛非地区には俺の兄弟が住んでたんだ、あそこで騒動起こした讃煩会のせいで兄弟が酷い目に遭わされてんだよ!奴らと手を組んだ悪因悪果を呪いな、レベデフ代表!」

 

 吐き捨てるニンブルにレベデフは睨むことしか出来ないが、無理やり笑みを作ってスキフ達を嘲笑う。

 

 「これからどうするおつもりで?ここはZONEにおけるクリアスカイの本部ですよ?すぐに私の部下がやって来ます。」

 

 「お前は殺されない事だけを考えてろ。」

 

 適当にあしらうスキフだが彼女の言う通りだ、計画ではこのままSTCマラカイトの何処かに立て籠もるつもりであったが、では何処に立て籠もるか。

 

 既に鬼火たち強襲チームへの“合図”は済ませてあるが、この部屋に立て籠もり続けるのは得策ではないだろう。

 

 エネルギーシールドは後どれくらいで解除出来そうか────そう向こう側に聞こうとした時、()()から物音が聞こえた。

 

 

 「そうそう、言い忘れてましたが……」

 

 

 レベデフが天井の方を向いた。

 

 

 「貴方が飛び降りてきたダクト……私達も即応展開用の通路としての利用を想定していまして。」

 

 

 そう言った瞬間、換気ダクトからスキフの様に“異形の怪物”達が飛び降りてきた。

 白い体躯にZONEのミュータントの特徴を捉えた、ZONEで讃煩会と“シン”が生み出したサクリファイス───“ハイブリッド”

 

 「───サクリファイスだ!アキラ!俺の後ろに!」

 

 「わ…分かった!」

 

 こちら側に降りてきたのは永続的な透明化と足音等の静音性が高められた、“ブラッドサッカー型”のハイブリッド。

 透明とは言え、辛うじてシルエットが見えるのは通常のブラッドサッカーと変わらない。

 アキラを背に、レベデフを盾にしつつ、片手でTRs 301を制御しながら突っ込んで来るぼやけたシルエットに銃撃する。

 

 サクリファイスに作り変えられたとは言え、ブラッドサッカーは星の数ほど仕留めて来た。

 エーテルが込められた5.56x45mm弾がハイブリッドの視えない頭部に集中的に直撃し、その鋭利な透明の爪が目前に来た所で頭部が粉砕されてエーテルの光となって消滅していった。

 

 「─────リン!そっちは大丈夫か!」

 

 「なんとか───「伏せなさい!」ひゃあ!?あ…ありがと11号!」

 

 リロードを行いつつ、シールドの向こう側を確認すると多数の“スノーク型”のハイブリッドがリン達に襲い掛かっていた。数は多いが11号たちが次々と仕留めて居るので大丈夫そうか。

 

 ───ゴォン!

 

 「増援────槍だとぉ!?」

 

 突然、換気ダクトが崩壊したと思いきや、宙に浮いたエーテル合金で作られた槍が何本も天井から部屋の内部に突入して来た。

 それと同時に変な仮面を着けた、下半身がタコになって浮いている槍を何本も持つ白いヒトガタも入り込み、テレキネシスを使いスキフに向けて槍の穂先を向ける。

 

 「こいつ“ポルターガイスト”か!?伏せろアキラ!」

 

 アキラを背中に庇って飛んでくる槍を撃ち落とそうとするが、穂先を向けてくるので表面積が小さく当たらない。

 だがレベデフを盾にしているお陰か、スキフ達の周りを囲む様に床に突き刺さる。

 

 「ハッ!下手く────」

 

 「ハアァァ──!」

 

 「なっ!?このアマ……!」

 

 自らの近くに突き刺さった槍の一本を手に取りスキフに攻撃を仕掛けるレベデフ。

 その振り方は彼女がある程度戦闘訓練を受けている証拠であったが、寧ろそれがスキフの“スイッチ”を入れてしまう。

 

 “ポルターガイスト型”のハイブリッドがレベデフの後方に控えながら槍を飛ばし、目の前には槍を持って此方を殺しに掛かってくる敵の首魁、そして自分の背中にはアキラを庇っている。

 

 軍人としての訓練とZONEでの殺し合いを経験したスキフの本能は、レベデフという対象の生け捕りを止めて即座に排除する事を決定する。

 

 槍の一振りを回避し、TRs 301のアイアンサイトでレベデフの頭部に狙いを付ける。

 レベデフは咄嗟に槍の持ち手で防ごうとするが、格闘戦に関してはダークストーカー以下である彼女の技量では小さな5.56x45mmの弾頭を弾く事は出来ない───容赦なく、スキフはレベデフの額に向けて引き金を引いた。

 

 

 『───ダメ!』

 

 「ぐぅお!?」

 

 「スキフさん!?」

 

 ────ガキィィン!

 

 

 その瞬間、それまで脇で頭を抱えて伏せていた都市迷彩柄のボンプ──ドクターがスキフの身体に体当たりする。

 発砲の直前に突き飛ばされて僅かに逸れた狙い、レベデフの頭を確実に貫く筈だった弾頭は、彼女が防御している槍の持ち手部分にたまたま命中し───粉砕された弾頭の破片が、レベデフの顔面を切り裂いた。

 

 「っ!?───あああああ!!」

 

 激痛が襲い、その場に槍を落として顔面から流れ落ちる多量の出血を片手で押さえる。

 だか、痛みで叫びながらもう一方の手でアキラを指差すと、ハイブリッドがテレキネシスでエーテル合金の槍をアキラの周囲に浮遊させ、それらを格子状に組み合わせてアキラの身体を拘束し、レベデフの方へと引き寄せる。

 

 「ぐっ……!離せ……!」

 

 「アキラ!クソッそいつを離し────」

 

 アキラは必死に藻掻くが槍一本動かす事が出来ない。

 体勢を立て直したスキフがハイブリッドへ向けて銃撃しようとした途端、3本の槍が高速で飛んでくる。

 

 ───1本目。

 

 全力で金属製の槍の柄に向かって腕を振るって軌道を逸らす。痛みが走るがその程度だ。

 

 ───2本目。

 

 CS-1 ボディアーマーを貫通して右脇腹に思い切り突き刺さる。姿勢が崩れるが気合で照準をハイブリッドに向けて引き金を引く。

 

 ───3本目。

 

 左肩に命中し、テレキネシスの力で壁に叩きつけられた上、槍が貫通して壁に磔にされる。だが銃は手放さず、マガジンが空になるまでハイブリッドに撃ち続ける。

 

 撃たれ続けてフヨフヨと浮きながらテレキネシスを操っていた“ポルターガイスト型”のハイブリッドは、スキフにとどめを刺そうと槍をふらふらと宙に浮かせたが力尽き、全ての槍をその場に落として消滅する。

 

 同時に、アキラの拘束も解かれて槍と共にその場に落ちた。

 

 「いたっ…!た…助かった……」

 

 「Давай(逃げろ)アキラ!」

 

 「え──────」

 

 尻もちをついたアキラがスキフの声で何かを察し、思わず後ろを振り向く。

 

 そこには、エーテル合金の槍を振り上げた、顔面を血に染めるレベデフがいた。

 

 「っ!?───あぐぅ!」

 

 「アキラぁ!」

 「え…!?嘘……お兄ちゃん!」

 

 「おい!向こうがヤバいぞクリアスカイ!シールドはまだ解除出来ないのかよ!」

 「こう言う仕事は技術班のやる事なんだよ……!」

 

 金属の槍、その石突の部分で殴られたアキラはその場で気絶してしまう。

 壁に磔にされたスキフと此方の状況に気付いたリンが叫び、ハイブリッドを始末しながらリヒターは未だにシールドの解除に悪戦苦闘するニンブルを急かす。

 

 スキフはすぐさまレベデフを射殺しようと磔にされたままTRs 301を構えるが、ハイブリッドを倒す際に弾切れになった事を思い出す。

 マガジンポーチに必死に手を伸ばしてリロードしようとした瞬間、レベデフがスキフを睨んでいたのに気付いた。

 

 

 

 顔に大きな(スカー)が刻まれた、レベデフの狂気の目がスキフの目を捉える。

 

 

 

 その目で睨んだまま、彼女は全力でスキフ目掛けて槍を投擲した。

 

 リロードを中止し、咄嗟にTRs 301を盾にして槍を防ぐがその拍子に銃本体が破壊されてしまう。

 即座にTRs 301を投げ捨て、PTMピストルを取り出してレベデフを撃とうとするが─────こちら側の扉が爆発し、多数の閃光手榴弾と発煙手榴弾が室内に投げ込まれ、強烈な光と音が炸裂してスキフの目を潰し、煙幕が部屋の半分を包み込む。

 

 煙が充満する部屋にクリアスカイの部隊が入り込んできた。

 

 「代表!ご無事ですか……その傷は…!」

 

 「遅い、何をしていたんです。」

 

 「数名の技術者が反乱を!施設内のシステムに干渉して防護シャッターなどを操作して……更に敵と思われる勢力が巡回部隊を撃破しつつSTCマラカイトに接近してきています!」

 

 「……パエトーンを運びなさい、“貴方”も早く逃げますよ………それと、あの男を殺せ。」

 

 レベデフの命令で、クリアスカイは気絶するアキラを抱えて部屋から出ていく。

 煙幕に包まれたせいでアキラに流れ弾が当たるのを恐れたスキフは撃つことが出来なかった。

 

 目の前でみすみすアキラを連れ戻される様を見せられ、自分の不甲斐なさを呪いながら、PTMピストルを握り締めてスキフを殺しに近づいてくるクリアスカイ兵を待ち構えた─────

 

 

 「シールド解除ぉ!」

 「おっしゃあ突っ込めぇ!」

 

 「クソ!ハイブリッド共がやられ────ぎゃあ!」

 

 「ファイアーボール・クリスタルが負傷しているわ!」

 「俺が行く!お前達はクリアスカイ兵を!」

 「私も行くよ!」

 

 その瞬間、漸く部屋を隔てるシールドをニンブルが解除し、リヒターが雄叫びを上げながら散弾をクリアスカイ兵に撃ち込み、11号が煙幕の中を突っ切って敵を斬り裂いていく。

 

 リンとストライダーは壁に磔にされたスキフに駆け寄り、深く刺さった槍を抜いて解放する。

 脇腹と肩に深い傷を負ったスキフは膝をつきそうになるが気合で耐え、リンに謝罪の言葉を放った。

 

 「すまないリン……俺のせいでアキラが……」

 

 「スキフさん……」

 

 「………ストライダー、お前の通信機を貸せ。」

 

 「分かってる、ドクターと話すんだろ。」

 

 怒気を含んだスキフの頼みにストライダーが自分の通信機を差し出すと、半ばひったくる様に受け取ってドクターへと通信を繋いだ。

 すると、明らかに申し訳なさそうな声でドクターが応答する。

 

 『ス…スキフ、さっきは本当にごめ────』

 

 「どういうつもりだドクター!お陰でレベデフがアキラが連れ去りやがったんだぞ!」

 

 『さ…さっきも言ったけど、ボクは彼女には死んで欲しく無くて……事前に生かして置いて欲しいとちゃんと───』

 

 「他にやりようがあったんじゃ無いのか!?お前はアキラを助ける気が本当に─────」

 

 「2人共言い合いはあとにして!ドクター!レベデフはお兄ちゃんを連れて何処に向かってるの!?」

 

 レベデフの生死を巡って怒鳴るスキフと言い訳をするドクターの間にリンが割って入る。

 彼女としてもドクターに言いたい事は山程あるが、自分よりも激しくキレているスキフを見て寧ろ冷静になり、状況を把握する為に問いた。

 

 『た……多分彼女は地下に向かっている!ここの地下には地下鉄があって、それでパエトーンを連れて脱出するつもりだ!』

 

 「ZONEに稼働する地下鉄なんてあんのかよ……」

 

 『キミ達の仲間が地上を攻撃してきてるのは向こうも分かってる!一番安全に逃げ出せるのは地下しかない!』

 

 「ならそれを鬼火隊長たちにも伝えて!」

 

 『分かった…!ごめんナタリアにバレそうだ、道案内はニンブルに!』

 

 ドクターからの通信が切れ、スキフは再度リンに向かって謝罪する。

 

 「リン、さっきは─────」

 

 「反省会はお兄ちゃんを助けたあと!今はあいつらを追いかけるのが先!はいこれ!」

 

 「……助かる。」

 

 スキフの謝罪を掌で止めて、代わりに回復キットを渡すリン。

 

 彼女だって冷静でいられる筈が無いのに、せっかくのチャンスを失って落ち着いていられないのに、それでも彼女は前を向いて成すべきことを成そうとしている。

 

 リンから回復キットを受け取ったスキフは自身に投与して傷を回復させる。

 既に煙幕が晴れ、クリアスカイ部隊を倒した11号がスキフに鹵獲したTRs 301を差し出した。

 

 「バッテリー・シェル、作戦に想定外の事態が発生する事は多々あるわ、その様な状況が起きた時こそ軍人としての本領を問われるのよ。」

 

 「そうだな………了解だ11号。」

 

 11号の喝を胸に刻み、渡されたTRs 301を受け取り銃の状態をチェック。どうせ自分の武器やアーマーでは無いのだ、とことん使い潰そう。

 

 聞き覚えがありすぎる名前を持つクリアスカイの裏切者に道案内の事を聞く。

 

 「ニンブルと言ったな、レベデフ達の行き先を案内してくれ。」

 

 「任せろ、ノビコフ達が施設の隔壁を弄くり回して時間稼ぎをしている。トラブルが無きゃ先回り出来るぞ。」

 

 途端、施設に響く爆発音が断続して鳴り響く。外では激しい戦闘が起こっているようだった。

 

 「頼んだぞオボルス小隊にデューティ……」

 

 現在地上を攻撃している強襲チームを信じながら、スキフ達はレベデフとアキラに追いつく為に動き出した。

 

 

 

 

 ─────少し前、マラカイト上空にて

 

 『隊長〜潜入チームからの“合図”が見えたよ〜』

 

 『良し!作戦開始だ!ソコロフ中尉!』

 

 「了解、スティングレイ4突入する。」

 

 ステルスモードを起動中のビック・シードのカメラに、STCマラカイトの一角が大爆発を起こす瞬間が映る。

 

 潜入中のスキフが仕掛けた“合図”だ。

 

 エンジンとローターが唸りを上げ、オボルス小隊とデューティ兵を腹に詰め込んだヘリコプターが森の中から飛翔してSTCマラカイトへと突き進む。

 

 元々オボルス小隊用の補給物資を詰め込んでいたスティングレイ4の機内は、現在20数名の乗員を乗せており内部ではシュルガ中佐率いるデューティ兵達が緊張の面立ちで武器や装備のチェックを行なっていた。

 

 パイロットであるソコロフ中尉の隣に座るオルペウスは鬼火の補佐でヘリの搭載武装を操作する役目を担い、トリガーは側面の搭乗口のドアを開けて愛銃である「プレゲトーン」を構えて眼下の敵を見据えていた。

 

 「アテンション・プリーズ!これからマラカイト空域に侵入しますが、敵の対空砲火や空中のアノマリーを回避する為に激しく揺れる事がございま〜す。吐きそうな時は地上の敵に向かって吐くよーに、掃除が面倒いからなぁ!」

 

 ソコロフ中尉がそう言った瞬間、ヘリの操縦桿を横に動かして地上からの攻撃を回避する。

 

 本部での謎の大爆発、混乱する通信、レベデフが敵に捕まっただの混乱の極みにあったクリアスカイ警備部隊であったが、それでも自らの役割を果たす為、空域に侵入して来た未確認機に対し攻撃を開始する。

 

 大半は小火器やMRAP(耐地雷・伏撃防護車両)に搭載される重機関銃、巡回警備ロボによる必死の対空射撃であるが、一部の陣地には一体何を想定していたのか対空砲塔や対空ミサイルまで持ち出してスティングレイ4を撃ち落とそうと試みる。

 

 「敵対空兵器!頼むぞシード隊員!」

 

 『了解ンナ〜』

 

 だがヘリを捉えた対空兵器は既に上空に忍び寄っていたビック・シードによって次々破壊されていった。

 想定される定員をほんの少しオーバーする程詰め込んだスティングレイ4はその機動力が落ちている、それをカバーする為にビック・シードが不可欠なのだ。

 

 突如現れたビック・シードによって対空兵器を粉砕されたクリアスカイは悲鳴じみた救援要請を無線機に飛ばす。

 

 「サニー12から全てのマラカイト基地へ!現在未確認機による攻撃を受けている!奴らの目的は本部だ!近くの基地はすぐに救援を────」

 

 『このホロウレイダー共どっからやって来た!?基地の中に侵入してきて……畜生!南部基地は応援がいる!誰か───』

 

 『こ…こちらヘリ・ステーション・アルファ!待機中のヘリが全て砲撃を喰らって全滅した!現在迫撃砲の攻撃を───』

 

 「嘘だろ…?一体何が起きて……クソったれ!おい!ロケットランチャーを持ってこい!せめてヘリだけでも────」

 

 返ってくる返事は全て阿鼻叫喚、本部も混乱でまともに機能していない。

 自分は金で雇われた傭兵に過ぎないが……それでも給料分の働きをしなければ。

 そう自身を奮い立たせ、攻撃を生き残った部下に反撃を命じた瞬間、彼らの部隊に空からロケットと機関砲が振り注いだ。

 

 

 「対空ベース破壊、よくやったオルペウス隊員!」

 『どうだオルペウス!訓練を思い出して来たか?』

 

 「いいい今は集中しているので自分に話し掛けないで欲しいであります!」

 

 『………お前が座っているのはガンナー席だろ……なに免許取りたてのドライバーみたいな事言ってるんだ。』

 「………俺が操縦してるんだからもう少し気楽に行こうや。」

 

 兵器の操作レバーを握りながら小刻みに震えるオルペウスに呆れる鬼火とソコロフ中尉。

 軍人であるオルペウスは地上車両ならば一通りの操縦は出来るが、ヘリは専門外───講習は受けたが何年も前に一度きりである。

 

 何となくガンナー席に座らされたオルペウスは今、自分が攻撃を外せばヘリの中にいる20数名の命がお陀仏になるかもしれない───そんなプレッシャーと必死に戦っていた。

 

 仲間のそんな反応を横で聞き、軽く苦笑していたトリガーが自分達の乗るヘリとは別のローター音を察知する。

 

 「ソコロフ中尉!側面からクリアスカイのヘリが接近!」

 

 『僕が対処しようか〜?』

 

 「いいや、シード隊員はそのまま対空兵器の排除を優先してくれ、こっちでやる。おいデューティ!暇してんならドア開けて迎撃しろ!」

 

 「聞いたな!機関銃持ちはドアガンナーにつけ!」

 

 シュルガ中佐の命令で機関銃を装備したデューティ兵がヘリの両側にある搭乗口に向かい、接近して来たクリアスカイのヘリに対して引き金を引く。

 曳光弾の軌跡を認識したクリアスカイのヘリは一度大きく旋回し、後方に回り込んでからスティングレイ4の撃墜を試みた。

 

 『ソコロフ!後ろに回り込まれてるぞ!』

 「か…回避して迎撃するのでは!?」

 

 「唯でさえ定員オーバーなんだ!ヘリ同士のドッグファイトは無理に決まってるだろ!トリガー隊員!デューティ!今からヘリを傾けるぞぉ!」

 

 ソコロフ中尉がそう言うと、スティングレイ4の側面を相手のヘリに晒す様に動かす。

 また機関銃の迎撃を受ける前にクリアスカイのヘリはスティングレイ4を先に撃ち落とそうと機体の正面を向けた。

 

 「曹長、肩を貸して下さい。」

 

 「わ…分かったぞ!」

 

 「そのまま動かないで、 スゥゥゥ………狙撃の信条は、一撃必殺────」

 

 そう呟きながら、プレゲトーンの()()()()を引き、放たれた弾頭は吸い込まれる様に、ヘリに乗った状態で1km近くは離れているクリアスカイのヘリパイロットを正確に撃ち抜き、操縦桿を握る者が誰も居なくなったヘリはそのまま地面に墜落していった。

 

 「おぉ…!何という……」

 

 「はい!もういいですよ!」

 

 にっこりとデューティに笑いかけるトリガー。

 彼女の狙撃技術にデューティ兵は感嘆するほか無かった。

 

 ミリタリーレイダー達のお陰で前哨基地は麻痺させているとは言え、巡回部隊も馬鹿に出来ない数がいるので無視出来る標的は無視して突き進むスティングレイ4とビック・シード。

 

 あっという間にSTCマラカイトを目視で確認出来る距離まで2機は到着した。

 エーテル燃料貯蔵タンクが爆発し、未だにその対処に追われるSTCマラカイトの警備兵達は接近してくるヘリを確認し、すぐに迎撃体勢に入る。

 

 南側のゲートでは対空ミサイルが動き出し、ゲートの前に陣取る様にBTR装甲車が数台現れ、ヘリに向けて機関砲の狙いをつけた。

 

 「シード隊員!防壁上に対空兵器!」

 

 『まっかせて〜!』

 

 『オルペウス!ゲート前の装甲車を吹き飛ばせ!』

 

 「あ…当たれぇぇぇ!!」

 

 噴煙がヘリの視界を埋め尽くしながらロケットが次々と南ゲートに突き刺さり、BTRやクリアスカイ兵を木っ端微塵に吹き飛ばしていく。

 防壁上の対空ミサイルは発射される前にビック・シードによって鉄屑へと変えられていった。

 

 「あ…当たったぁ…!良かったでありますぅ……!」

 

 「よくやったな!今度基地でビールでも奢ってやるから、空いてる時間を───」

 

 『おい、作戦中に私の部下をナンパするのか中尉?』

 

 「まっさかあ、俺は彼女をスティングレイ隊に勧誘したいなーと思ってたりするだけ───アチチチ!」

 

 「鬼火隊長!操縦席で火は厳禁であります!」

 

 スティングレイ4がロケットの斉射でズタボロになった南ゲートの上空に辿り着く。

 ヘリを撃退しようと施設屋上や防壁、更には広場からクリアスカイ兵がわらわら現れるが、ビック・シードの爆撃やトリガーの狙撃にデューティの射撃、オルペウスが操るヘリの武装によって蹴散らされていく。

 

 『敵の反応無し、オールクリア〜降りるなら今のうちだよ皆。』

 

 『よし!ソコロフ中尉!ヘリを降下させろ!』

 

 「イエッサー鬼火隊長!気をつけろよ皆、クリアスカイの兵力はZONE最大だ、攻撃体勢を解くなよ!」

 

 「ソコロフ中尉!兵装の制御をそちらに移して、自分も出るであります!」

 

 「了解!俺は弾が尽きるまで航空支援を続ける!行け!」

 

 スティングレイ4が南ゲートの近くまで降下していき、デューティによってヘリのハッチが開けられる。

 ある程度地面に近づいた時点で、オルペウスとトリガーがヘリから飛び降りて着地し、その近くにビック・シードも着陸し、浮遊ビットを出現させたシードが降りてきた。

 

 「タッチダウン!強襲部隊前進せよ!」

 

 ソコロフ中尉の掛け声でデューティ兵達がスティングレイ4から次々と出撃していく。

 

 「1チームこの場に残れ!オボルス小隊!我々はSTCマラカイトの全ゲートを確保して敵の援軍の阻止と内部からの脱出を防ぐ!」

 

 『頼んだぞシュルガ中佐!デューティの実力を私に見せてみろ!』

 

 「任せろ!行くぞデューティ!」

 

 部隊の一部を残し、シュルガ中佐率いるデューティは他のメインゲートの確保に向かって行った。

 鬼火達も動き出そうとした所で、ドクターからの通信が掛かってくる。

 

 『聞こえるか強襲チーム!ドクターだ!』

 

 『聞こえてるぞ!11号達は今どうしている!プロキシ君は確保出来たのか!』

 

 『それが……またパエトーンが捕まってレベデフに逃げられてた!潜入チームが追跡中だ!レベデフは地下の列車で逃げようとしている!広場から地下に通じる車両用通路があるからそこから追い掛けて!』

 

 『地下だな、我々も直ちに向かう、通信終了………全く、あれだけ倒したのにまだこれだけ居るのか。』

 

 オボルス小隊の目の前に、施設の中から飛び出してきたクリアスカイ部隊が多数出てくる。

 BTRや戦闘ロボットまで揃えた中々の規模の部隊だ。

 

 『お前達、11号やプロキシ君が待っている、時間は掛けられんぞ────戦術プラン「殲滅」だ!』

 

 「「「了解!」」」

 

 

 自分達の数倍の兵力を相手に、オボルス小隊は恐れず突撃していく。

 

 

 マラカイトの戦いは、まだ始まったばかりだ。

 

 







◇パエトーン図鑑「ハイブリッド」
ZONEに蔓延る異形の生命体であるミュータントが、讃煩会の異端者によってサクリファイスへと変えられた怪物。
ほぼ全てが“人間型”に分類されるミュータントを生け捕りにしてZONEの地下施設で極秘裏に生産されており、時折試験運用や脱走によって外部にいた個体がホロウレイダーに──大半は死体と化し、現場に残された記録によって──確認されることも多々ある。
人間を素体としたサクリファイスと違い、ミュータント特有の異常に高いエーテル適応体質の影響か、元となった個体がはっきりと分かるものが多い。
だがその能力は元のミュータントよりも強力な物へと変わり、傍には必ず謎のガスマスクの戦闘員も控えてる為、死体が消滅して素材を得ることが出来ないのも含めて戦闘は推奨出来ない。

「“兵器”としての評価は間違い無く高い一方、かつて我々が作って来たサクリファイスと比べると妙に中途半端な印象を受ける。試しに輝磁を剥がしてみたら、変異を起こす事なくコブから大量のミアズマをそこら中にまき散らして死んだ。異端者共はこのサクリファイスをミアズマの運搬機として使ってるのか?」ーー特殊部隊によって回収された、讃煩会の研究者の音声記録

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