Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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63.アーティファクトの奇跡…?

 

 

 拘束から抜け出したアキラと彼を逃がしたドクターは、後部車両へ向かっていく途中、突如起きた激しい揺れと爆発に気を取られる。

 

 「今のは爆発……!?」

 

 『まさか列車を吹き飛ばしたのか!?』

 

 後ろにはリンとスキフが居た筈だ、それが爆発したと言う事は─────

 

 「2人は大丈夫なのか…?」

 

 『……よし!扉はロックした、早く後部車両に向かおう!』

 

 特殊なボンプであるドクターは自分に搭載された機能で扉を軽く溶接し、容易く開けられない様にする。

 上手い具合に自分達を探しに戻って来たクリアスカイをやり過ごした2人は、今乗ってる車両を通り過ぎて次の貨物車両へ渡る。

 荷物が置かれていない、屋根が無い車両に入った2人は先へ進もうとした瞬間、後ろの客車の屋根からリンが現れた事に気付いた。

 

 「リン!」

 

 「お兄ちゃん!」

 

 リンが屋根から飛び降りてアキラに駆け寄る。アキラはその腕を広げて妹を抱きしめた。お互いの温もりを感じる会うように力強く。

 だがアキラはもう1人居る筈の人物が居ない事に気づいて聞いた。

 

 「リン、スキフさんも一緒に助けに来てくれたとこのボンプに聞いた。彼は何処に……」

 

 「スキフさんは……あの人は……」

 

 スキフの居場所を尋ねられたリンは表情が暗くなる。

 スキフのアーティファクトコンテナと銃を抱えた彼女を見て、アキラは先ほどの爆発を思い出し、察してしまう。

 

 「まさか、彼は……」

 

 「列車に爆弾が仕掛けられてて……スキフさんが私を投げ飛ばして……すぐに爆弾が爆発して……」

 

 「それ以上言わなくていい、ごめんよリン。」

 

 目に涙を溜めながら、震える声でスキフの身に起きた事を伝えるリン。そんな妹をアキラはもう一度優しく抱きしめ、頭を撫でて慰める。

 

 一方ドクターはこちら側の扉を溶接し、前方車両と今いる車両の連結を外そうとしていた。

 

 『この…!外れろ…!』

 

 「大変そうですね?手伝いましょうか?」

 

 『そうだねパエトーン、手伝って────』

 

 リンの声では無い女性の声、ハッとしたドクターは声が聞こえて来た方を向く。

 

 

 

 そこには列車の屋根からドクターを見下ろす、レベデフとクリアスカイ兵の姿があった。

 

 

 

 『ナタリ───』

 

 何か言おうとする前に、レベデフの放ったハンドガンの弾がドクターの身体を貫きボンプのパーツが飛散する。

 

 「ドクター!」

 

 レベデフ達の存在にリンが気づき、スキフに持たされたTRs 301を向け、続いてアキラはリンを守る様に背にして庇う。だがレベデフの傍に控えるクリアスカイ兵も兄妹に銃を向け、お互い膠着状態に陥った。

 

 相手が撃ってこないのはパエトーンを確保したいからだろうか。

 アキラとリンはレベデフ達を警戒しながら、撃たれたドクターに注意を向ける。ボンプの胴体部分に被弾し、目のモニターが乱れて苦しそうにしていた。

 レベデフも今は兄妹の事は放ってドクターに意識が向かっているようだ。レベデフ達は兄妹のいる車両に降りてくる。

 

 能面の様な表情、しかしその眼は冷たく、言葉の端から怒りを滲ませて口を開く。

 

 「裏切ったのですか、“マークワン”。」

 

 『ナ……タリ、ア。』

 

 「ニンブルの様な裏切りが、どうやって今まで気付かれず敵と連携が取れていたのか気になっていましたが………貴方がX-ラボのネットワークに接続出来た事を忘れてましたよ、通りでこっちの通信傍受に引っかからない筈です。」

 

 倒れ伏すドクターに、レベデフはハンドガンを向ける。

 

 「どうしてこんな事を?貴方と私は目的を同じにする同志であり、友人ではなかったのですか?」

 

 『あ…あの計画は止めるべきだからだ!キミは騙されてる!()()()()を取り戻したいキミの想いを利用されているんだ!』

 

 音声モジュールが破損したことで激しく乱れた声でドクターは叫ぶ。撃たれた箇所からバチバチと火花が飛び散ってもお構いなしに、レベデフの説得を試みる。

 

 ドクターの説得は彼女の心に一切響かない。

 

 だが、ある一点に置いてレベデフは眉を顰め、まるで誤魔化す様に問う。

 

 「利用されてるなんて、一体何のことだか……」

 

 『“始まりの主”に吹き込まれたんだろう!?モノリスを手に入れれば、家族を取り戻せると!』

 

 讃煩会が信仰する謎の存在、始まりの主───その名前が、そしてレベデフが直接何かを言われたらしい事にアキラとリンは顔を見合わせる。一方クリアスカイ兵は何のことか分かってないようだった。

 

 レベデフはドクターの言葉に驚愕の表情を浮かべる。

 

 「何故、その事を知って……だって貴方はあの場に居なかった筈……」

 

 『ボクだってあの2人に会いたいさ!でも始まりの主に従い続ければ、きっと最後にはキミの身を滅ぼしてしまう!“ゴースト”と“ファング”は……キミの家族はそんな事は望ま────』

 

 また銃声が響き、ドクターの胴体にもう1つ穴が空いてボンプのモニターがより激しく乱れ、ボンプが故障した時のように痙攣を起こし始める。

 硝煙を吐くハンドガンを持つレベデフは、ドクターに悲しみの籠もった様な、恨みがましい様な目で彼を睨む。

 

 「……貴方が私をZONEに導いたのに、今さら止められる訳がないでしょう。」

 

 ほぼ機能停止状態になったドクターから顔を背け、レベデフはアキラとリンに降伏を促した。

 

 「アキラさんもリンさんもここまでです。どうか降伏して下さい、きちんと扱いは保証しますよ。」

 

 「僕の頭を鉄の棒で殴っておいてかい?」

 

 「あんたみたいな悪党の言う事なんて信じるもんか。」

 

 「兵はまだ残っています。後ろに逃げ道は無いし、貴方達の戦闘能力はお友達より遥かに劣っている。まさか痛めつけられてから運ばれたいって訳じゃないでしょう?」

 

 「悪いけど僕たちは諦めが悪いんだ。お前から逃げるチャンスがあるなら、例え僅かな可能性でも足掻いてみせるさ。」

 

 武装した兵士達を前にアキラがはっきりと言い放ち、その後ろでリンは後ろの客車をちらりと見る。

 爆弾でこの客車から後ろの車両は吹き飛んだ、この1両を走り抜き、列車から飛び降りれば逃げ切れるかもしれない。

 とは言え走行中の列車から飛び降りるのはリスクが高い。そこまで身体が頑丈ではないと自覚している兄妹は果たして飛び降りて無事でいられるのかという心配があった。

 

 リンの手にはスキフから託された銃とアーティファクトコンテナがある。クリアスカイ相手に武器を不格好に構えながら、スキフのアーティファクトを思い出すリン。

 銃で撃たれても平然とできるアーティファクトがあれば列車から飛び降りても何とかなるのでは………

 

 ────タタン!

 

 そう考えていたリンの思考を、自動小銃の銃声が遮断した。

 

 「あ…ぐ………!」

 

 「前に言いましたよねアキラさん、()()()()()()()()()()()()と。」

 

 「───お兄ちゃん!そんな!」

 

 レベデフの合図で容赦無くアキラの腹部にクリアスカイ兵が発砲したのだ。

 赤く染まりゆく腹部を押さえ、その場に蹲るアキラ。リンはすぐに回復キットを取り出そうとしたが、レベデフの警告がそれを拒む。

 

 「回復キットは捨てて下さい、次は彼の頭を撃ちますよ。」

 

 「お兄ちゃんを治療させて!計画にはパエトーンが必要なんでしょう!?」

 

 「“私の”計画ではパエトーンが1人いれば足りるんですよ。さぁ、持ってるを物を置いて、両手を上げて下さい。アキラさんの治療はその後です。」

 

 相手への怒りと大量に血を流す兄への焦り。表情を歪め歯を食いしばりながらリンは銃とアーティファクトコンテナを床に置いて両手を上げる。

 

 その際に、アーティファクトコンテナはアキラのすぐ側に置いておいた。

 その意図を察したアキラは震える身体でアーティファクトコンテナに足を近づかせる。アキラもリンもアーティファクトの使い方は知らないが、持っているだけで効果があるなら身体に密着させれば銃創を治せるかもしれないと踏んだのだ。

 

 「こんな事させないで下さいよ、貴方達ご兄妹には親近感を抱いているし、私だって傷つけたくないんです。」

 

 「がはっ……ど…どの口が……!」

 

 薄っぺらい言葉を並べながら、レベデフとクリアスカイが2人に近づいて来る。

 目が霞んでいくアキラも、怒りの表情でレベデフを睨むリンも、何か打開策は無いかと必死に頭を巡らせる。

 

 だが孤立し、仲間が居ない状況で武装した集団と戦える能力は()()のパエトーンには存在しない。

 

 (スキフさんに、後を託されたのに……!)

 

 アーティファクトと武器を自分に渡して、自らを犠牲にしたスキフに申し訳ない気持ちで一杯になりながら、リンは悔しさに目尻を涙で滲ませる。

 

 

 

 

 『────敵対存在による重篤な損傷を確認。防御措置を起動。』

 

 

 

 

 その時、クリアスカイの後ろで倒れていたドクターが再起動し、ゆらりと立ち上がる。

 

 一番傍にいたクリアスカイ兵が、ボロボロのボンプに気が付いて武器を向ける前にドクターのモニターが青く輝き、強烈な放射線が車両を包み込んだ。

 

 「代表!PSI放射が────ぎゃあああ!!」

 

 一番傍にいたクリアスカイ兵は脳が焼き切れるほどの多量のPSI放射が襲い掛かる。

 他の兵士も、レベデフも、アキラとリンも、その場にいた全員が突然脳みそをかき乱される様な光に苦しみ始めた。

 

 「おにい、ちゃん………!今のうちに……!」

 「わ、かった……!」

 

 その状態でもクリアスカイ達が壁になってPSI放射をある程度防げたのか、アキラはアーティファクトコンテナを身体に巻き、リンは銃を拾ってアキラを引き摺って退避を試みる。

 

 「……っ!あの2人を捕まえ──────」

 

 「ああうぁぁぁ────」

 

 2人が逃げようとしているのに気付いたレベデフが阻止を命ずるが、PSI放射が直撃した影響でゾンビ化したクリアスカイ兵が目に付く人間に銃火器を乱射する。

 傍に居た兵士が撃ち殺され、別の兵士が錯乱した仲間を押さえ込もうと動く。

 

 だがドクターのモニターから放出される光が更に強まり、無事だったクリアスカイ兵達もゾンビに変えられていった。

 

 

 「ぐぅぅ……マークワン…貴方は一体────」

 

 

 自分がゾンビになる直前に凄まじい頭痛に苛まれながらレベデフはドクターへハンドガンを何発も撃ち込んだ。銃弾はモニターにも直撃し破片を飛散させ、弾き飛ばされたボンプの身体が転がっていく。

 そのまま列車の外に落ちたドクターはボールの様に跳ねながら視界から消えていった。

 

 PSI放射が収まって車両に残るのはゾンビになった部下達。銃を構えるゾンビの標的は、目の前のレベデフ1人であった。

 

 

 

 

 

 「頭が楽になって来た……お兄ちゃん!怪我は大丈夫!?」

 

 「アーティファクトのお陰で息が楽になったし血も止まったよ……でも歩くのはまだ辛いな、肩を貸して貰えないかい。」

 

 「うん!」

 

 銃声が聞こえる貨物車両を後にし、列車から脱出を試みるアキラとリン。

 スキフの持っていた5つの伝説級のアーティファクトの効果でライフル弾による銃創が治りつつあったアキラは、リンの助けを借りながら立ち上がる。

 そして列車の最後尾───爆発によって後部車両が消えた車両の貫通路まで来れた2人はこれからどうするか考える。

 

 「後は列車から飛び降りれば……」

 

 「でもアーティファクトは2人分もカバー出来るのか?」

 

 「分からないけど、こう……私たちで抱き合って間に挟んでたら効果を分け合えたり……」

 

 

 「その方法は、上手くいかない事が多いのでお勧め出来ませんよ……!」

 

 

 「「レベデフ……!」」

 

 2人が振り向くと、銃で撃たれ、スーツを血に染めたレベデフがチェイサー13を構えて立っていた。

 ゾンビにかなりやられたのだろう、息を上げて兄妹を睨み付けるレベデフにリンはTRs 301を向ける。アキラは扉の開いた貫通路に陣取り、何時でも列車から飛び降りられる準備をしていた。

 

 「お二人……いい加減にしてくれませんか?貴方達を連れてくるだけで、どれだけの犠牲が出てると……こっちの事情も考えて下さいよ……!」

 

 「いい加減にして欲しいのはこっちだよ!なんで私たちに執着するのさ!一体何が目的なの!?」

 

 「お前の事情なんて知ったこっちゃ無いし、始まりの主の計画に協力する気は微塵も無い!僕たちは家に帰るんだ!」

 

 相対するレベデフとパエトーン兄妹。

 お互い少しでも動こう物なら脱出にしろ発砲にしろ、すぐに行動に移すつもりであった。

 

 「2人で飛び降りて無事でいられるのは厳しいですよ…アーティファクトの人体回復効果は、複数人相手では効きが悪いですからね。」

 

 「やってみなくちゃ分からないでしょ、こっちのアーティファクトは凄い奴ってスキフさんが言ってたんだから。」

 

 「ZONEに関しては貴方達は素人でしょう?アーティファクトでも死人を蘇らせる事は出来ないんですよ。それに私が引き金を引けば、どちらか1人は確実に殺せます。」

 

 「こっちだって銃があるんだ、先にあんたを撃ってやる…!」

 

 恐れず言い放つリンではあるが、生まれてこの方自動小銃なんて扱った経験は無い。腰だめで不格好に構え、銃口だって揺れている。興奮状態なのと相手への怒りで引き金は容易に引けるのだが。

 

 アキラは高速で視界を通り過ぎるレールを見ている。列車から飛び降りれば彼処に身体を打ち付けることになるだろう。

 レベデフの言う事が本当ならアーティファクトの効果は1人分しか十分に及ばない。つまりどちらかは列車の速度で地面に投げ出されて最悪死ぬ。

 

 それにアーティファクトを所持しているのはアキラで、死のリスクが高いのはリンの方だ。

 兄としてアーティファクトは妹に持たせたいが、レベデフが睨む今の状況はそれすら許さないだろう。

 

 「お兄ちゃん。」

 

 ギリギリ聞こえるような小声でリンが呼んだ。

 

 「回復キットは左の腰ポケットに入ってるから、タイミングはそっちでお願い。」

 

 「………分かった。」

 

 どうすれば妹の身を守れるかアキラが必死に考えている中で、リンはとっくに覚悟を決めていた。

 そもそもリンは兄を助け出す為にZONEに1人で飛び込んで来たのだ。列車から飛び降りる程度は恐れていない顔をしている。

 

 (やれやれ……少し会わない間に随分逞しくなったな。寧ろ僕の方が肝が小さいんじゃないか?)

 

 内心苦笑しながら、リンが身に着けるOZK 探索者スーツの一部を掴む。

 2人はお互いに頷き、リンはレベデフを見据え、アキラは扉の縁に手をかけた。

 

 「今私の部下がやって来ます、大人しく─────」

 

 もう一度、降伏を促したレベデフを無視しアキラがリンの身体を全力で引っ張りながら列車を飛び降りた。

 リンは前を向いたままTRs 301の引き金を引きつつ後ろへ飛び退き、2人が動いたのと同時に驚愕しながらもレベデフもチェイサー13を撃つ。

 

 

 自動小銃とショットガンの銃声が重なり、マズルフラッシュが車内を照らす。

 

 

 そして線路に身を投げたアキラとリンは、身体を激しく打ち付けながら転がり、2人をその場に残して列車が去っていった。

 

 

 

 

 

 (痛い──気を保て──骨が折れた?──痛い──立つんだ──立て───立て!───立て!!)

 「ああああ────!」

 

 動けなくなる程の痛みを無視してアキラは立ち上がる。

 如何にスキフのアーティファクトの中にコンパス(物理防護)が含まれているとは言え、アーマーの類を一切身に着けて居ないアキラに振りかかるダメージは馬鹿に出来ない。

 それでも既に腹に喰らった銃創に関しては全快しており、何とか立ち上がったアキラはすぐにリンの下へ向かおうとする。

 

 列車から飛び降りた瞬間にリンを抱き止めようとしたのだが、その前に地面に落ちて結局リンはアーティファクト無しで線路に転がる羽目になってしまった。

 とは言え、リンはアーマーにヘルメットまで装備しているので少しは衝撃に耐えられるかもしれない。

 

 暗いトンネルを見渡すと少し離れた場所にリンがうつ伏せで倒れていた。

 すぐに駆け寄り無事を確認しようとした瞬間、リンを中心に広がる血を見てアキラは絶句する。

 リンの胸には散弾によってできた、酷い銃創があった。

 

 「リン!」

 

 迷いなくリンを仰向けにして懐から回復キットを取り出して投与し、アーティファクトコンテナがついたベルトを外してリンの身体に置く。

 

 「頼む…間に合ってくれ…!」

 

 アキラもアーティファクトの力やその成分を使って作られた回復キットの効能を知っているし、先ほどその身で経験したばかりだ。

 ZONEの中で使う限り、撃たれたのにすぐ傷が塞がり後遺症も残らない程の凄まじい治療効果を齎す、死んでいなければどんな傷でも治る薬がきっと妹を救うと信じていた────のだが。

 

 

 「なんで……血が止まらないんだ!?」

 

 

 アキラがクリアスカイに撃たれた時はアーティファクトを身に着けて数秒であの酷い出血が止まったのに、何時まで経ってもリンの出血は止まる気配が無い。

 

 脳裏にレベデフが言った言葉が甦る───アーティファクトでも死人を蘇らせる事は出来ない。

 

 「嘘だ、リン……リン!起きてくれ!」

 

 何度も呼びかけながら最悪の可能性を否定しようとするが、呼吸は止まり、脈は無く、心臓の鼓動は聞こえない。

 追加の回復キットを探すが、最初に打った物以外は全て散弾で破損していた。

 それならばとアーティファクトコンテナを全てひっくり返して中身を取り出す。コンテナに入れてあってもその力を発揮するのは先ほど証明しているのだが、それに気づけないほど酷く焦っていた。

 

 「嫌だ、こんなの認めない、絶対に死なせない!」

 

 傷口を押さえつつ、どれにどんな効果があるか知らないアキラは手当たり次第にアーティファクトを近づかせて治癒を試みる。

 

 コンパス、ハイパーキューブ、リキッドロック、サンダーベリー、そしてハート・オブ・チョルノービリ。

 

 そのどれもが、リンの身体を治すことは無かった。

 

 冷酷にも、彼女が死んでしまった事を告げるかのように。

 

 アキラは目を覚まさぬ妹の身体に縋り付き、ハート・オブ・チョルノービリを握り締める。

 

 

 「お願いだ……誰か…誰かリンを助けてくれ……!たった1人の妹なんだ……!」

 

 

 アキラの声に答える者は誰も居ない。

 

 

 愛する家族の遺体を抱きながら、妹を失った兄の啜り泣きだけが響いていた。

 

 

 

 そんな暗いトンネルの中に、ぼんやりとした青白い光が灯される。

 

 「アーティファクトが…光って──痛っ……!?」

 

 アキラが手に持つハート・オブ・チョルノービリが光り、点滅し始めたのと同時に、アキラの目───知能水晶体に激しい痛みが襲ってきた。

 この痛みにアキラは身に覚えがあった。当時は即座に痛みが無くなり、その後も()()()()()()()()()()()為に気にすることは無かったが、異常活性を始めたラマニアンホロウで「始まりの主」───正確にはサラの身体を利用した造物を倒し、全てが一件落着したあとに急に襲ってきた目の痛みとよく似ていた。

 

 

 自分では気付いていなかったが、今のアキラの目は黄金の輝きを放ち、それに呼応する様にハート・オブ・チョルノービリが輝きを増していった。

 

 もしこの場に第三者が存在した場合、知能水晶体(アキラの目)アーティファクト(ハート・オブ・チョルノービリ)が共鳴している様に見えただろう。

 

 

 

 ────或いはお互い激しく“言い争い”している風にも感じ取れるか。

 

 

 

 目の痛みすら忘れ、アキラが輝くアーティファクトを眺めていると、その内ハート・オブ・チョルノービリの光が収まっていき────まるで果物の皮が剥かれる様に、青い外殻が剥がれ落ちていく。

 

 

 「熱っ!?」

 

 

 突如、強烈な熱を持ったハート・オブ・チョルノービリを思わず手放してしまう。

 だがアーティファクトはリンの身体の上に落ちず、そのまま浮遊を始めた。

 

 「エーテリアスの……コア?いや、これは寧ろ……ホロウ?」

 

 ベールが剥がれたハート・オブ・チョルノービリは、まるで小さなホロウの様な黒いエーテルエネルギー球へと変貌したかと思えば、リンの身体をエーテルの膜で包み込んでしまう。

 

 「───なっ!?」

 

 リンを引っ張り出そうと手を伸ばすが、エーテルの磁場によって手が弾かれる。

 痺れた手を擦りながらリンが閉じ込められた人間サイズのホロウを前に、アキラは呆然と見つめる事しか出来なかった。

 

 いつの間にか目の痛みは引いており暫くすると、エーテルの膜が消滅してリンとその胸に置かれたハート・オブ・チョルノービリが現れる。

 

 彼女の胸が僅かに上下するのを見たアキラは急いでリンの容体を確かめるが、脈拍も、心臓も、呼吸も正常に動いていた。

 恐る恐る身体を調べるが、銃創も綺麗さっぱり消えており、撃たれて大量出血していたのが嘘のようだ。

 

 

 「────リン!」

 

 「ううん……」

 

 

 感極待ったアキラはリンを抱きしめるが、当のリンは少し苦しそうに唸るだけで目覚める気配は無い。

 地面に落ちたハート・オブ・チョルノービリはコロコロと転がる。心なしか色落ちしてる様な気がした。

 

 「確か猫又もこんな感じで眠っていた……暫く目は覚まさないかもしれない。」

 

 邪兎屋と共に始めてZONEに来た際、猫又が戦闘中にアノマリーに落ちて瀕死の重傷を負った事があった。

 その時は回復キットを打つことで事なきを得たが、暫くの間昏睡状態に陥っていたのを見るに、今のリンも同じ状況だろう。

 

 「とにかく……ここから移動しないと。」

 

 アーティファクトをコンテナベルトに詰め直し、念のためリンの身体に巻いておく。

 踏ん張ってリンを抱きかかえ、来た道を戻ろうとした瞬間、後ろからコンクリートの壁を削る音が聞こえて来た。

 まさかと思い後ろを振り向くと、コンクリート壁の一部が盛り上がり、何かが掘り進んで来ているのが分かる。

 

 壁の一部が崩落して土の中から人影がぬるりと現れる。ボロボロのHIA調査員の制服を纏い、割れた防護ヘルメットから血に濡れた口元が見えた。

 

 ZONEの地中を掘り進む習性を持つミュータント────スノークだ。

 

 「ミュータント……!?」

 

 戦う手段を持っていないアキラは深く眠るリンを抱えて走り出す、リンが持っていた銃は何処かに行ってしまった。

 かなりの時間、地中を掘り進みようやく広い場所に出てこれたスノークは背を向けて逃げる獲物を発見し、唸り声を上げて追い掛け始める。

 

 「はぁ…はぁ…!マズい……追いつかれる…!」

 

 唯でさえアキラは運動神経が無い上、リンを抱えている状態では逃げ切れる物も逃げ切れない。

 それでも必死に足を動かすが、容易く追いついたスノークらアキラを喰らおうと爪を立てて飛び掛かった。

 

 せめて妹だけは守ろうとリンに覆い被さり目をつぶって身を固める。

 

 

 ───パァン!

 

 

 その爪がアキラの身体に突き立てられる直前、正確無比な射撃がスノークの頭部に直撃した。

 

 スノークは悲鳴を上げて地面に転がり込む、人間から変異したミュータントではあるが、骨や体組織は強化されているので拳銃弾1発程度では死ぬ事は無い。

 

 攻撃して来た方向を見定めたスノークはアキラを無視して、発砲して来た方角に向かって行くが、再度数発の射撃がスノークの頭を撃ち抜いて絶命させる。

 

 スノークが死んだ後、アキラは銃弾が飛んできた方から足音が近づいて来るのが聞こえて来た。

 

 トンネルの暗がりから、ミアズマの光を点滅させながら人影が現れる。

 拳銃────PTMピストルを片手で構え、反対の脇に火花を上げる都市迷彩柄のボンプを抱えた、消えかけのミアズマシールドを纏うブルムバー・エクソスケルトン。

 

 頭部に装備した双眼の暗視装置がアキラを見つけると、喜びの声を上げて走り出す。

 

 

 「アキラ!無事だったか!」

 

 「ス……スキフさん!?」

 

 

 目の前に現れたのは、列車の爆発に巻き込まれた筈のスキフ。

 彼は酷く安心した表情でアキラにゆっくりと小走りで駆け寄って来たが、アキラに抱えられたリンを見て焦り始める。

 

 「リンは!?リンは大丈夫なのか!?」

 

 「大丈夫、リンは生きてる。アーティファクトのお陰……なのかな?」

 

 「良かった、アーティファクトを投げ渡した甲斐があった……」

 

 ほっと胸を撫で下ろすスキフ、アキラは先程アーティファクトが引き起こした現象は一体何だったのか未だに検討がつかなかった。

 そう言えば、リンからスキフは列車の爆発に巻き込まれたと聞いていたがアーティファクト無しにどうやって助かったのか気になった。

 

 「スキフさん、リンを助けて爆発に巻き込まれた筈じゃ……見た所平気そうだけど……」

 

 「アーティファクトをリンに託したから俺も流石に駄目かと思ったんだ、でもこいつのミアズマシールドは爆弾も列車の脱線も耐え抜いたらしい、怪我も殆ど無かったよ。

 だからお前たちに追い付こうと徒歩で列車を追ってたら、途中でボロボロのドクターを拾ってな……さっきもトンネルの向こうで何か光ってたし、そっちは何があったんだ?」

 

 「それは……」

 

 スキフからの質問にアキラは口籠ってしまう。

 ドクターが撃たれた経緯は説明できるが、アーティファクトの事は何て言えばいいのやら。

 取り敢えず説明するだけしようとアキラは顔を上げる、丁度スキフは暗視装置を外してライトを点けた所だった。

 

 

 

 ライトに照らされたスキフの顔を見て、アキラは唖然としてしまう。

 

 

 スキフの顔は半分以上赤黒く変色しており、頬からはエーテル結晶が飛び出ていた。

 明らかにミアズマに侵食されきった、コアが無いだけの侵食末期症状としか思えない状態。

 

 

 「どうしたんだアキラ?俺の顔に何か付いてるか?」

 

 

 普通の人間なら侵食で苦しみに喘ぐ様な状況で、さも何も起きていないかの様に平然としているスキフは、逆にアキラを心配そうに見つめていた。

 

 

 

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