Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
えー、色々と考えた結果、本作のスキフ君はDLCの出来事を一切経験していない(メインストーリーとサブクエのみ)事にしました
と言うのも本作の序盤でスキフはデューティと関わりがほぼ無かったりヤンターの研究所に訪れた事が無いとか描写してしまったので……とは言え、DLCの要素はねじ込みたいですね、アレとかコレとか特に
65.リマンスクへ
「───表!レベデフ代表!しっかりして下さい!」
揺れる列車の中、必死に呼びかけるクリアスカイ兵の声で覚醒したレベデフは霞んだ視界を動かしながら状況を確かめようとする。
最後に覚えているのは列車の最後尾に追い詰めたパエトーン兄妹が一か八か列車から飛び降りたこと、リンが放った銃のマズルフラッシュに反応して此方もショットガンを発砲したことである。
「状況を……ぐっ…!?」
「動かないで下さい、既に回復キットを打ちましたが、何発も撃たれていたんですから」
起き上がろうとしたと同時に身体を襲った痛みに呻く。恐らくリンが破れかぶれに撃った弾が被弾したのだろう。
自分と列車で死んだ部下の血が混ざりあい、酷く不気味な色合いに変貌している青いスーツの懐に手を入れ、隠し持っていたアーティファクトを取り出した。
「壊れて無い……このアーティファクトに救われましたね」
ZONEに介入し始めて間もない頃、偶然手に入れたこのアーティファクトは、持っているだけで強力な物理防護能力が手に入る代物であり、モノリスまでの道標を指し示してくれる。
これが無ければ自分は死んでいただろう───そう言えば、パエトーンはどうなったのだろうかと思い出した。
「パエトーンはどうしたんです、あの2人は……」
「貴方を見つけた時には列車の何処にも……恐らく逃げられました」
「そう……ですか……」
「後で再確保の為に部隊を送りますか?」
「……ええ、まずは──────!?」
友人であった筈のドクターの裏切り、マラカイトに於けるパエトーンを巡った争いで受けた被害、何よりパエトーンを失った事による彼女の“目的”が失敗に終わる可能性。
思考がキャパオーバーしかけるほどの問題の多さを抱えながら、部下に指示を行おうとした瞬間、レベデフの脳内に声が響き始める。
傍にいた部下は突然黙り込んだレベデフを心配するが、レベデフが手で追い払った為、仕方無く離れる。
周りに人が居ない事を確認し、レベデフは脳内の声と会話を始めた。
「貴方の思惑通りに私が動かないのがそんなに気に入らない様ですね、“始まりの主”」
『──────────』
「最初に言った筈ですよ、私は貴方を信じていない」
『───────』
「利用するだけして最後に裏切られる可能性は十分にあります。私は貴方の信徒では無い、ZONEに
突然、頭の中に流れ込む映像。
それはレベデフ達が殺されていく光景だった。
ナタリア・レベデフが、ダークストーカー達が、彼女の築き上げたクリアスカイが、武器を持った男によって殺される瞬間がありありと鮮明に映っていた。
「はぁ…はぁ…なんです今のは……!まさか脅しのつもりですか!?」
『───────────』
「未来?私が計画を実行に移さず、パエトーンに執着し続けると、彼の手によって最後はあの様になると?」
奇妙な映像だった、レベデフを殺し、“シン”とクリアスカイを滅ぼすのは、STCマラカイトで彼女の顔を大きな傷を与えた“パエトーンのS.T.A.L.K.E.Rエージェント”と名乗った
(……他の勢力ならともかく、何故あの男に?始まりの主に認知されているなんて、あの男は一体何者………)
奇妙な人選に困惑しつつ、あの映像を見せてきた意図を考えるレベデフ。
始まりの主の事を信じていない彼女ではあるが、始まりの主が持つ力だけは疑っていない。頭の中に流れた映像も、レベデフの未来を啓示しているのは間違いないのだろう。
「………貴方が言いたい事はつまり、時間はもう残っていないと」
『────』
「わかりました、そこまで言うなら行動に移します。ただ……」
レベデフは縋るように、始まりの主へ言った。
「貴方が神さまであるなら、私の願いを聞き届けて下さい。そうすれば、私は喜んで“贄”を捧げてやります。」
決心した様に言い終わると、始まりの主からの声が聞こえなくなった。
それと同時に地下トンネルから出た列車に光が差し込む。目的地に辿り着いたのだ。
列車が辿り着いたのはSTCマラカイトの北部にある巨大な倉庫。別世界のチョルノービリでは“ブレインスコーチャー”が存在した場所だ。
巨大倉庫には、クリアスカイの誇る機甲部隊が今か今かと出撃を待ち望んでいた。
クリアスカイが主力とするBTR装甲車だけでは無い。Tー64バトル・タンクや
この部隊だけで
列車が止まり、部下に支えられながらレベデフが降りると、ダークストーカーの指揮官が近づいてきた。
ダークストーカーの指揮官はガスマスクの下で苦い表情を作りながら口を開いた。
『司教、至急報告したいことがある』
「どうしたんですか“ウルフハウンド”?」
『TOPSが我々の行ってきた
それを聞いたレベデフは酷く動揺する。
計画の実行の為に必要な物資を手に入れ、資金提供者との癒着を悟られない様に、クリアスカイはダークストーカーを使ってTOPSの設備や人員に対する攻撃を幾度も行なっていたのだ。
明らかな戦争行為ではあるが、TOPS内に
「それならば本社の部隊はどうなっているんです、ZONEに向かう事は可能なんですか」
『無理だ、クリアスカイの警備隊も街に残してきたダークストーカー部隊も本社の防衛や証拠隠滅で手一杯だろう』
ギリッと歯を食いしばる音がレベデフから聞こえた。
そこまで派手な手段を使うと言う事は、間違い無く讃煩会との関係も露呈している。TOPSは単なる制裁では無く、クリアスカイと言う企業を物理的に潰すつもりなのだろう。
こう言う事態を事前に防ぐためにTOPS内に協力者を作ってきたのだが、恐らく裏切られたか粛清されたかのどちらかが起きたに違いない。
(始まりの主が警告をしてきたのも、この様な事態が起きたからでしょうか……)
ほんの僅かに考えた後、指示を出す。
「通信機を持ってきて下さい、本社の人員を回せないならZONEにいるクリアスカイ全軍を結集します」
『機甲部隊や本社の連中と違って、ZONEに配備されている一般部隊の奴らはモノリスどころか計画も何も知らされてない雇わればかりだぞ?本当にいいのか』
ウルフハウンドの心配を余所に、レベデフは鼻を鳴らした。
「今動かなければどの道TOPSに滅ぼされます。その前に我々がモノリスを……「X-1」を確保すれば全て片がつく。本社の戦力が回せない以上、兵力は幾らいても足りません」
部下から通信機を渡されたレベデフは歩き出し、最初にその場にいるクリアスカイ機甲部隊とダークストーカーに命じる。
彼女が築き上げた全てを、彼女を信じた者達を、地獄へと送り出すために。
「これより晴天作戦を開始する。ストーム隊は直ちに出撃せよ!」
◆ ◆ ◆
『よりにもよってリマンスクだと…クリアスカイの連中、総出で自殺するつもりか?!』
「もしかしたらリマンスクを無事に進める手段を、敵が入手した可能性があるであります。だからあんな命令を出したのでは……?」
『だとしたら厄介な事になるぞオルペウス。我々は奴らを追跡する手段が無い……!ニンブルにノビコフと言ったな!奴らはどうやってリマンスクに入るつもりだ!?』
「何かしらの作戦があるのは知ってたが、詳しい内容までは……」
「ニンブルと同じだ、我々技術者も碌な内容を知らされていない」
ニンブルの持つ無線機から、レベデフがZONE中に配備されているクリアスカイ全軍にリマンスク・ホロウへの突入を命じたのを聞いた一同。
「リマンスク」という名前を聞いた瞬間、デューティやフリーダム、オボルス小隊の面々は顰めっ面へと変わっていく。
スキフも
「そのリマンスク・ホロウと言うのはどんなホロウなんだい?レベデフ達を追う手段が無いと言っていたけれど……」
アキラの疑問に、傍に居た11号が答えた。
「リマンスク・ホロウは、ZONEを取り囲む数多のホロウの1つよ。かつては特筆すべき事が無い小さなホロウだったのだけれど、2年前に原生ホロウがZONEに変わってから大きな変異が起きたの」
「変異…?」
「あらゆるキャロットが使用出来ず、一度内部に入ったら二度と出られないと言われているわ」
キャロットが使えなくなるホロウ───そんな物が存在するのかとアキラは驚いた。
ホロウのナビゲートデータであるキャロットが使えないと言う事は、ホロウの中を進む事も出ることもままならないと言う事。 キャロットデータが使用不可になるという事態がどれほどの物か、プロキシであるアキラは即座に理解した。
「ZONE制圧作戦時に、制圧部隊は周囲のホロウに何かしらの影響が起きていないか調査を行ったんです。殆どのホロウはZONEと繋がる“亀裂”が新たに現れる様になっただけで、大きな変化は見られなかったんですが……リマンスクだけは違いました。」
11号の説明を補足する様にトリガーが口を開き、そのまま続ける。
「最初にリマンスク・ホロウに入った調査隊が抜け出せなくなり、救助の為に送り込んだボンプ部隊も帰ってきませんでした。最後に送られた救助を求める通信で初めて、リマンスク内ではキャロットが使えなくなると判明したんです」
『結局、制圧作戦の失敗も重なってリマンスク・ホロウは今の今まで、生きて出られない観測不可能な謎のホロウとして立ち入りを禁じられて放ったらかしにされていたと言う訳だ……クリアスカイはリマンスクを使って赤い森を迂回する手段を見つけたみたいだがな』
如何にも苦々しいと言った声で鬼火が言った。
クリアスカイの一員であったニンブルやノビコフがリマンスクの進み方を知らない以上、下手に追撃を行えば自分達がリマンスクから出られなくなる。
かと言ってこのまま尻込みしていても、クリアスカイが戦力をかき集めてモノリスを手に入れようとするのを黙って見ている事になってしまう。
どうするか───そんな沈黙が全員を包むが、それを破った者がいた。
「リマンスクに迂回路なんてない、奴らが目指してるのはZONEの最奥までの直通便さ」
レベデフの通信が来てから神妙な面立ちをしていたリヒターが口を開き、PDAを取り出して一同の中心に立つ。
「リヒター?お前何を……」
スキフが声を掛けるが、リヒターは軽く一瞥を返して続けた。
「いいか、リマンスク・ホロウの深部にはZONEの最奥にある「X-1」と言う施設のすぐ近くに出る裂け目が存在する。だがそこまで辿り着くには特殊な機器が必要だ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待つでありますリヒター殿!どうしてその事を知っているのでありますか!?変異した後のリマンスクは誰も調査する事が出来なかったのでありますよ?!」
『そうだぞリヒター、お前が優秀なガイドである事はプロキシ君とスキフから聞いているが、誰も生きて出られた事が無いホロウの中にある物を何故知っている?』
オルペウスと鬼火がリヒターの語った情報に懐疑的な意見と疑いの目を向けるが、リヒターは「まぁそうだろうね」と言いたげな顔で答える。
「クリアスカイがどうやってリマンスクを進むつもりなのか俺は分からない。だが俺の知っているルートで確実にZONEの奥に辿り着けるのは間違いないんだ、この目で見てきた」
「この目で見てきたって……リヒター、お前は一体……」
「スキフ、俺はお前の過去について詮索してこなかったよな?だからお前も詮索しないでくれると助かる。本当は思い出したくもない話なんだ」
頼むと言った表情でリヒターが言うので、仕方無くスキフは追求を止める事にした。
リヒターの事は信頼出来る一番の友人と思ってはいるが、それはそれとして謎が多い奴だなと改めて感じる。向こうもスキフの事をそう思っているだろうが。
「リヒターさん、さっきリマンスクを進むには特殊な機器が必要だと言っていたけれど、どんな物が必要なんだ?すぐに手に入れる事が出来るのかい?」
「それだがなぁ、俺はその機器の名前が“スヴァ何とか”って事しか知らないし、それを持っていた人は多分死んで、今何処にあるのかも全く分からないんだよなぁ」
がっくしと、質問したアキラを始めとしたその場にいた者達が膝を落としかける。呆れた風に鬼火がツッコんだ
『貴様、あれだけ期待させておいて結局何も分からないと?いやまぁリマンスクから直接ZONEの奥に繋がる道がある事は知れたが……』
「まぁ待ってくれ、代替手段があるらしいんだ」
「リヒター、代替手段を教えてくれ。早くしないとレベデフ達がモノリスまで辿り着いてしまう」
急かすストライダーにリヒターが答えた。
「リマンスクの深部にZONEの奥に続く裂け目がある事を発見した“ある人”が居るんだが、その人のリマンスクの道を進む方法の1つがさっき言ったスヴァ何とか………思い出した、“スヴァログ”って名前の特殊なキャロットを使うやり方だ。」
指を一本立てたリヒターが、もう一本指を立てて2の形を作る。
「その人はスヴァログを使う方法が失敗した時用にもう1つ、予備の方法を残しておいたんだ。もしもの時に仲間に救出してもらう為にな」
PDAの地図を拡大し、リマンスク・ホロウの傍に付けられたマークを見せる。
まともにマッピングされていないのか、モザイク状態で分かりにくいが何か小さな建物がマークの中にあった。
「ここだ、リマンスクに続く橋とトンネルの手前にあるこの場所に、あの人は見たことない“アーティファクト”を埋めて隠したのさ」
「見たことないアーティファクト…?どんなやつだ」
首を傾げたスキフが聞いた。
「あんまり覚えて無いんだが……少なくともZONEでよく出回ってるアーティファクトのどれにも該当しない形だった。
そのアーティファクトと“1流のプロキシ”を組み合わせれば、普通のキャロットでもリマンスク・ホロウを導ける様になると、あの人は言っていた」
「そいつの事は信用できるのか?」
「人となりはともかく、あの人の能力や知識は信頼できる」
そう言ったリヒターは、アキラの方に視線を向ける。
アキラはその意図を察し、強く頷いた。
「僕が必要なんだね、リヒターさん」
「悪いが、おやすみ中の妹さんは1人で帰ってもらう事になる。そのアーティファクトを見つけて、パエトーンである君が使えば、リマンスクを踏破出来る筈だ」
アキラはちらりとリンを見る。一度死に?そして生き返った影響で未だに眠っている妹の頭を撫でて立ち上がる。
「ホロウの案内なら任せてくれ、僕も……レベデフを追いかけたいんだ」
自分を誘拐するだけに飽き足らず、リンを死なせかけたレベデフをアキラは許す事が出来ないが、ZONEという環境では自分に出来る事は殆ど無い。
だがホロウならば話は別だ、伝説のプロキシ“パエトーン”としての実力を存分に発揮出来る───レベデフに代償を支払わせてやるとアキラは決意していた。
一方、結局アキラが同行する事になりそうな事態に鬼火とスキフは後は任せて帰れと言った手前、ほんの少し複雑な表情をしている。
『はぁ……追撃作戦の為に拉致被害者を連れ回さないといけないとはな……』
「あはは……その代わり、プロキシとして全力で皆をサポートするよ」
「誰もお前の能力は疑っちゃいないさ、沼地の時みたく守ってやるからな」
誘拐され、殴られ、既に治ったとは言え腹を撃たれた人間を連れ回す事になるのは仕方ない、プロキシであるアキラを守りながらホロウを進むしか道は無いのだから。
そんな中、ふと思い出したかの様にストライダーが口を開いた。
「もしかしたら、レベデフはそのアーティファクトと同じ物を手に入れてる可能性があるな……」
「マジか!?いや、考えて見ればZONEの何処かで同じ物が偶然手に入る可能性があるよな」
「ストライダー、その話を聞かせてくれ」
リヒターが驚きつつも納得し、スキフが詳しい内容を聞く。
「俺が以前、クリアスカイに捕まってドクターに助けられた事は話したよな?その時奴らがモノリスを探しているのを知ったんだが、“最初”俺は情報を得る為に協力的に接していたんだ。」
当時の事を思い出しながら、ストライダーは続けた。
「モノリスの事を知っている俺に、レベデフは興味を示して俺を勧誘しようとしてな。その時モノリスまでどうやって行くのか聞いたら、特別なアーティファクトを使うと言っていた。ドクターの助けで逃げ出した時にも、そのアーティファクトがフリーダムから手に入れた物らしいと兵士が話しているのを知った」
ストライダーがそう言った瞬間、端で話を聞いていたロキ達フリーダムの何人かがピクリと反応する。
そして、冷や汗をダラダラ垂らしながらひそひそ話し始めた。
「ロキ、これって……」「ああ、やらかしたかもしれん。どないしよ」「いやいや、“アレ”じゃない可能性が……」「しゃあけど状況的に“アレ”しかないわっ」
「おいフリーダム!何をコソコソ話している!」
同じ様に脇で話を聞いていたシュルガ中佐がロキ達を怪しんで睨み付ける。彼が声を上げたのと同時に、デューティ兵がフリーダム達を取り囲み、プレッシャーをかけ始めた。
ロキは少し悩んだ末、意を決した表情でリヒターの前に出る。
「なぁリヒター、リマンスクを進めるアーティファクトがここに埋まっとるのは確かか?」
「間違い無い、“あの人”が埋めるのを見たからな」
「ホンマすまん、多分オレ等それ見つけてレベデフに渡しちまったわ」
「「「はぁ!?」」」
フリーダムを除く全員の驚愕の声が響き渡る。うるさかったのか、リンは不満げな表情で眠りながら身体を捩らせた。
心の底から気まずそうにロキは話を続ける。
「以前までフリーダムのスポンサーにクリアスカイがついてたんやけどな、連中からの仕事の一環で赤い森を越える方法を色々調べてたんや。そんである時、オレ等はリマンスクの近くに調査しに行ったんやけど……たまたまそこに居た“ボア”が何かを掘り返してたのを見つけてな、中にアーティファクトがあったから、一緒に来てたクリアスカイの科学者に追加報酬と引き換えに渡して……」
「一応聞かせてくれ……どんな物を見つけた?」
見間違いだと願いながら、口を震わせたリヒターが聞く。
「確か……“動物の牙”を模したマークが描かれた人の頭程の小さなコンテナやね、中身は壊れたビーコンと黒い球体に結晶があちこちに生えたアーティファクトだった」
「それだぁぁぁ……」
ムンクの叫びの如く両頬を押さえたリヒターが膝から崩れ落ちる。しかも身体が白くなってしまった程だ、彼は万策尽きたとばかりに項垂れてしまう。
「え……ここまで引っ張って来て、全部台無しなのでありますか?我々はクリアスカイを追う手段が無いと…?」
「万事休す、打つ手無し、ジ・エンドだね〜 見てよオルペちゃん、鬼火隊長が白目むいてフリーズしちゃってるよ」
「あわわっ鬼火姉さんしっかり!」
軽く遠い目をしながらおどけたシードが肩をすくめ、はっとしたオルペウスは固まってしまった鬼火を掴んで尻尾ごと揺さぶり始める。11号とトリガーも眉間を摘んで俯くしかなかった。
「フリーダム!何故みすみすアーティファクトを渡したんだ!だいたい貴様らは不用意にアーティファクトをばら撒いて───!」
「じゃあデューティは未来の事が分かるんか!?クリアスカイがけったいな事考えてるなんて当時のオレ等に分かるわけないやろ!」
シュルガ中佐とロキがお互い言い争い、デューティとフリーダムの兵士達が呆れた様にそれを見つめている。
実際、この件でロキを責めるのはあまりにも酷であろう。だからと言って仕方ないで済ませられる状況では無い。
「……いっその事、クリアスカイからアーティファクトを奪う事を前提としてリマンスクに突入するのはどうだ?」
「駄目だ、リマンスク・ホロウの中はある意味零号ホロウよりヤバい場所だ。あの方法無しで突っ込むのは自殺行為だよ。」
ストライダーの提案をリヒターが一蹴する。その提案はホロウにキャロット無しで突っ込んで、中でどうにかキャロットを手に入るのを祈るのと同義だ。
さっきよりも微妙な空気の中で、もう一度沈黙が場を支配する。
だが、その中でスキフとアキラだけは違った反応をしていた。
「スキフさん、実はリンを助ける為に貴方のアーティファクトを一度コンテナから取り出したんだけど……ロキさんが言った物と同じ奴を見たんだ。それで……」
「多分俺と考えてること同じだなアキラ、だが本当に“これ”がそうなのか確かめる必要がある」
スキフはリヒターとロキに呼びかけた。
「リヒター、ロキ、そのリマンスクを進むのに必要なアーティファクトは見れば分かるか?」
「うろ覚えなら……」
「オレは覚えとるで」
「じゃあ聞くぞ、お前たちの知るアーティファクトは、これと同じ物か?」
スキフは自身のアーティファクトコンテナから“コンパス”を取り出した。500g程の重さを持つ、“黒い球体に透明な結晶が幾つも生えている”伝説級のアーティファクトである。
コンパスを見た2人は暗かった表情を一変させ、スキフに詰め寄った。
「これやこれ!間違いあらへん、クリアスカイに渡したのこれや!」
「………スキフ、お前何処でこれを手に入れた?」
「何処でと言われても……重力アノマリーの密集地で見つけてな」
嘘ではない。
これを手に入れてからと言う物、裸であっても重装ボディアーマーを着込んでいるくらいには強靭な防御能力が手に入ったのだ。
ひたすら戦闘ばかりしていたスキフにとって、その物理防護効果は非常に有能であった一方、“その他の能力”については全く気に留める事はなかった。
アーティファクトを懐に忍ばせておけば、様々な特殊効果を人体に齎してくれるのはZONEでは常識だ。
身体的な強化だったり、致死レベルのアノマリーへの耐性だったり、放射能除去───この世界ではエーテル侵食の除去作用だったり、一部デメリットとして放射能汚染や侵食に弱くなったりもするが、それでも人間の身体を“奇跡”で保護してくれるのだ。
だが、アーティファクトには別の作用も存在する。
周囲の植物の成長を促進させたり、超大容量バッテリーの部品に使われたり、食せば急性食中毒と同じ症状を引き起こして60%〜90%の確率で死亡したり等々……
これらの物質としての特性はZONEの外に持ち出して力を失い、“ダミー”となっても残る場合があり、それを目当てに
コンパスの別の効果────と言うより言い伝えだが、ZONEのどんな場所でも安全に探索できる様になると言われている。
元居た世界のロストクで聞いた噂によると、アノマリーによって未知の空間に閉じ込められた傭兵団が、コンパスの力で抜け出す事が出来たらしい。
その力が本当だとしたら、このアーティファクトならキャロットが使えないこの世界のリマンスク・ホロウでも進める様になる筈だ。
リヒターはスキフがコンパスを持っていた事に口を開けて呆けていた。
「本当に“あの人”が持っていたのと同じだ、まさかお前も持っていたなんてなぁ。どうして教えてくれなかった?」
「忘れたのかリヒター、「自分のアーティファクトは友達にも見せびらかすな」とお前が言ったんじゃないか」
「そうだそうだ、お前と出会って少しした後にそんな事言ったな………だが、これでリマンスクを進めるぞ!」
両の手で頬を打ち、リヒターが気合をいれる。
『あー…なんだ、つまりクリアスカイの追撃作戦は可能だと言う事か?』
「鬼火隊長が再起動したであります!」
『再起動とはなんだ!言っておくが話はちゃんと聞いていたからな!………コホン』
気を取り直した鬼火が部下に向けてこれからの行動を伝える。
『オボルス小隊!結構時間を食ってしまったが……これより我らはクリアスカイの追撃する!目標は1つ、連中がモノリスとやらを始まりの主に捧げる前に、奴らをリマンスクで殲滅する事だ!直ちに出撃準備せよ!』
「「「「了解!」」」」
オボルス小隊の隊員達が気合の入った声で答えた。
「鬼火隊長、私達デューティも最後まで共に戦うぞ。讃煩会が大元の奴らは新エリー都の脅威、決して見逃す訳にはいかん!」
「クリアスカイをブチのめすならオレ等も付いて行くで、オレ等を奴隷の様に扱ったコト、そんで散々連中の為に働いたフリーダムを切り捨てたコト、あとさっきの汚名返上、全部後悔させたるわ!」
「……ついさっきまで全員捕虜になってた癖に戦えるのか?」
「ナメんなや中佐、フリーダムはお前らデューティより根性あるやつ結構おんねんで」
シュルガ中佐率いるデューティ部隊、ロキ率いるフリーダムの兵士達が共にリマンスクへ向かう事を決める。
「あー……悪いが俺達はここまでだ。ドクターが機能停止してる以上、手伝える事はないし、そこまで戦える訳じゃない」
ニンブルとノビコフ達技術者、クリアスカイの内通者の面々はここで別れると宣言した。
スキフは彼らがこれからどうするのか気になり、聞いてみる。
「お前達はこれからどうするんだ?クリアスカイを裏切った以上、元鞘なんて無理だろう」
「俺はもうZONEはこりごりだ、どうにかして新エリー都に帰るよ。クリアスカイとはこれっきりだ」
「実は我々技術者を受け入れてくれそうな所と連絡を取ってるんだ、そこに厄介になるつもりだよ」
「そうか……ニンブル、ノビコフ、マラカイトでは助かった。達者でな」
「じゃあなスキフ、そして皆も。レベデフをブチのめせるよう祈っとくぜ」
「ブルムバー・エクソスケルトンの修理は終えてある、存分に役立ててくれ」
軽く握手をし、ニンブルとノビコフ達はSTCマラカイトから去っていく。スキフは十分な状態になったエクソスケルトンを回収する。テキパキと着替えるスキフに、ストライダーが近寄ってエクソスケルトンを纏うのを手伝ってきた。
「スキフ、ちょっといいか。声を落としてくれ」
「……ん?ああ、いいぞ」
他の者達も戦いの為に装備を整えている中、2人は小声で会話を始めた。
「リマンスクでクリアスカイを、レベデフを排除出来たら……奴のアーティファクトを手に入れて俺に渡してくれ」
「………そのままモノリスの所まで行くつもりか」
「クリアスカイを止めた時点で皆と別れるつもりだ、リヒターの言っている事が本当なら、リマンスクの深層からモノリスがあるらしい施設まで行けるらしいからな」
他の者達はレベデフとクリアスカイを止める為に戦うが、ストライダーの目的はあくまで「モノリスを破壊する」事だ。
チョルノービリでモノリスに洗脳され、多くの人命を殺め、解放されてからも居場所を失った兄弟達を必死に導き続け、何とか作り上げた“故郷”と“自由”すらモノリスが再起動した事で奪われた。
モノリスを手に入れんとするクリアスカイを止めるのは大前提だが、それ以上にモノリスが──例え名前が同じなだけの物だとしても───ZONEにあるならば、その存在をストライダーは決して許さない。
そんなストライダーの決意を見て、スキフはある決心をしていた。
「もっといい方法があるぞストライダー、俺も行く。俺もコンパスを持っているし、レベデフの奴はアキラに渡して、俺とお前でモノリスまで殴り込みだ」
「スキフ、協力してくれるのは嬉しいが……以前と違って、こっちじゃ俺に手を貸す義理は無いだろ?」
「……SIRCAAでヌーンタイドの連中がモノリサーに戻ってしまったのが心残りになっていてな、お前を助けられず、殺すしかなかった事も。だから“今度は”やり遂げよう、一緒にモノリスをぶっ壊そうぜ」
元居た世界で最後はZONEを“解放”する為に動いたスキフだが、C-コンシャスネスの負の遺産でしかないモノリスの保全は全く考えていない。寧ろあんな物ない方がいいとさえ思っている。
それにスキフはたった1人でZONEの最奥に乗り込んで暴れ回った経験がある。リマンスクでクリアスカイから物質を略奪すれば、何が待ち受けていようと十分対処できるだろう。
ストライダーは色々感情が入り混じった複雑な表情で、共にモノリスを破壊すると言ってのけるスキフに確認した。
「本当に良いのか?片道切符になるかもしれないんだぞ」
「お前には帰りを待ってるこの世界で出来た家族が居るんだろ?まさか死にに行くつもりじゃないだろうな」
「まさか、家族を残して死ぬつもりは無いし、お前が来てくれれば百人力だ」
スキフとストライダーは笑い合う。
ストライダーとはチョルノービリでは割と短い付き合いであったが、お互いの目的の為に共に協力しあった仲だ。腹の中では何を考えて居るか分からない者だらけのZONEでは、手を貸してやりたい、純粋に良い人間なのだ。
ブレインスコーチャーによってZONEが分断されている現状、帰り道が心配であるが、リマンスクという抜け道があったなら帰り道も見つかるだろうと気楽な事を考えながら、エクソスケルトンと武器の状態をチェックする。
一方、アキラはオボルス小隊がZONEでの作戦に使っている“スティングレイ4”にリン、そして機能停止したドクターを運び込んでいた。
「よし、彼女とこの壊れたボンプは任せてくれ。必ず基地まで送り届けて保護しといてやる」
「ありがとう、安全運転で頼むよ」
パイロットであるソコロフ中尉に礼を言ったアキラは、眠るリンの髪を撫でる。
「僕を助ける為に君は危険な場所に飛び込んで来たのに、その妹を置いてもっと危険な場所に行くなんて、兄失格だな……」
軽く自嘲するが、返事は返ってこない。
「でもやる事が出来たんだ、僕の力を必要としている」
レベデフへの復讐心だけでは無い、プロキシとして皆を導かないと行けないし、始まりの主の思惑も止めねばならない。
「誘拐されていた僕が言うのは何だけれど、必ず2人で家に帰ろう。Fairyやイアス達も心配しているだろうしね」
優しく語りかけたアキラはその場を離れ、リンを乗せたヘリが飛び立って行くのを見届ける。
後ろを振り向くと、準備を終えたスキフ達が立っていた。
「アキラ、準備はいいか?」
「ああ、すぐにでも行けるよスキフさん」
アキラを皆を見渡す。
オボルス小隊は出撃準備を終え、11号もクリアスカイの制服からZONE用の装備に戻していた。リヒターとストライダーもクリアスカイの装備から元の装備に変更している。
スキフはガスマスクだけ外したブルムバー・エクソスケルトンを身に纏い、動きに支障が無いか確かめ、問題無い事を確認する。
デューティ部隊も負傷者を除く全員が次の戦いに赴く準備を終え、フリーダム達は囚人服からマラカイトの何処かに保管されていたらしい、フリーダムの証である緑の迷彩服に着替えていた。
「行こう、リマンスクへ!」
目的は1つ、所属はバラバラの奇妙な混成軍を前にして、真剣な眼差しでアキラは声を上げた。
DLC2周目別ルートクリアしたコメント「何故デューティとフリーダムは第三の選択肢パクを用意出来なかったのか」
あとウォード、ハチェットの末路は流石に許されないよ君達