Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
────クリアスカイ・コーポレーション本社
先代の経営者兄妹が突如失踪し、それによってあらぬ噂を立てられながらも、新たに会社の代表に就任したナタリア・レベデフの手腕でTOPSの援助を引き込み、小さな町工場程度の建物から僅か2年という短い期間で立派なビルが建つほどに急成長したクリアスカイ社は、現代のサクセスストーリーとして一部で語られていた。
良い製品を作っていた地元の中小企業が、周囲の土地を買い取り新しい社屋に建て替え、大きく綺麗なビルが建設されていくのは近隣住民にとって目を見張る物があったであろう。
もっとも、現在その立派なビルは見るも無残にボロボロとなり、敷地とビル内は戦闘を繰り広げたTOPSの私兵とクリアスカイ保安部隊の遺体が散乱し、周辺地域は破壊された車両や装甲車が煙を吐く戦場の様相を呈しているのだが。
治安局によって安全圏まで避難させられた近隣住民が遠くから銃声と爆発が鳴り響くビルを呆然と眺める一方、本社ビル手前の広場ではTOPSの部隊によって拘束されたクリアスカイの社員達が怯えて縮こまっているのを、黒と白が真ん中ではっきり分かれた髪色の少女がチャクラムを回しながら監視していた。
「こ……こんなのTOPSと言えど許されないぞ!いきなり他企業に武力行使なんて……!」
「本日クレームは一切受け付けておりませーん。今回ウチは
TOPSに対する度重なる破壊行為、そして衛非地区の讃領会に多大な支援を行なっていたのは既にバレてますから、
事も何気に言い放つ少女の眼光は、冷酷なまでに冷たく、鋭かった。
彼女はの名はTOPSの監査組織“クランブスの黒枝”の裁決官「ダイアリン」
“テロ企業”と判断されたクリアスカイ社を、これまでの報復も兼ねて制圧する為に執行部隊の1人としてこの場に送られた人物だ。
「まぁ?治安局も巻き込んでる以上、降伏してきたお利口さんはちゃんと生きてあっちに引き渡してあげます。よかったですねぇ、貴方たちの処遇を決めるのはあたし達じゃ無く新エリー都の裁判所になる“かも”しれませんよ?」
チャクラムを突きつけて“裁決”を下すダイアリンにクリアスカイの社員達は顔が青白くなっていく。
彼らは会社がそんな事をやらかしていたなんて全く知らなかった者が殆どだが、ハイそうですかとTOPSが見逃す訳がないのは彼らも知っている。
そんな時、ダイアリンの後ろでドガァンと大きな音が鳴り、地下駐車場の出入口から、無残な姿になったBTR装甲車が転がってくる。
並みのエーテリアスなら轢き潰せる重量と強力な機関砲を備えたAPCは、鋼鉄の拳による無数の連打を受けたかの様に装甲がベコベコにへこんで大破していた。
そんなBTRから這々の体で這い出てきたクリアスカイ兵をTOPSの兵士が拘束する。
そして、先程BTRが吹っ飛んできた地下駐車場から、負傷者 を抱えたTOPSの部隊を引き連れた、非常に大柄な体躯の獅子を思わせるような知能構造体が姿を現した。
「さぁ、医療班まで負傷者を運び、急ぎ手当てを。後は我輩に任せよ」
「は……はい、“盤岳”様。助かりました!」
TOPSの部隊が離脱して行くのを見届けた黒枝に所属する知能構造体───「
「ダイアリン殿、地下階層の制圧は完了した。脅威は全て取り除かれたであろう」
「ご苦労さまです盤岳先生、結構手こずった様ですね?」
盤岳の身体は一見かなり傷付いているように見えた、彼は元々ミアズマを鎮圧する為に作られた強力な戦闘兵器である為、見た目ほどダメージは受けてないだろう。
とは言え、非常に高い実力を持つ盤岳とあろう者がここまで手傷を負わされている事に、ダイアリンは内心驚いていた。
「うむ……地下でミアズマの武具を振るう、精鋭の兵士達が待ち受けていたのもあるのだが……」
そう言って、僅かに俯く盤岳。
「この盤岳、不覚を取ってしまった。地下で降伏してきた筈の非戦闘員が突如奇襲を仕掛けてきたが故に、共にいた部隊の者達に怪我人が出てしまったのだ……我輩が捕虜に気を配っておかなかったばかりに」
「見た所そっちの部隊に死人は出てないみたいですし、このくらいで一々しょげてたら黒枝の仕事は努められませんよ〜」
「ううむ……すまぬ、ダイアリン殿」
気落ちしている盤岳を軽く慰めた後、ダイアリンはもう一度捕虜となったクリアスカイ社員達を見渡す。
彼らはTOPSによるクリアスカイへの攻撃が始まるや、颯爽と逃げ出し始めた者達だ。だが捕まえて見れば、何故攻撃されるんだとか、クリアスカイが何をやらかしていたのかも全く知らなかったと喚くばかり。
その一方で、
「いくら何でも会社に忠義を尽くし過ぎじゃないですか?まるで讃領会を相手にしてるみたいですよ」
「地下には大量の兵器が備えられていた、まるで何処かに攻め込むつもりとしか思えぬほどに」
「一体何処で使うつもりだったのか置いといて、それだけ戦力溜め込んでいればTOPS相手にここまで抵抗出来ますよねぇ。はぁ……保安部隊を無力化して、後は迅速にビルを制圧しておしまいかと思ったのに……」
溜息をついたダイアリンはビルを見上げた。上層階では未だ戦闘が続いている。
今回黒枝のメンバーに与えられた任務の内、地下の制圧を盤岳が担当し、ダイアリンはビル周辺の確保と逃走阻止を命じられている。そして彼女の同僚はビルの上層階で行動中だ。
「まぁ、あの二人なら大丈夫だと思いますけどね」
クリアスカイが一企業としては異常なほど兵力を保有しているとはいえ、その大半は現在新エリー都にはいない。
であれば、怒れるTOPSの報復部隊を相手に長く持ち堪える事は出来ないだろう。万が一に備えて援軍が来るルートも相手の逃げ道も完全に封じている。
制裁と言う言葉では生温い、徹底的な殲滅を命じられた黒枝の裁決官の一人は、チャクラムを回しながら周囲の警戒に戻っていった。
クリアスカイ本社ビル内部、チカチカと電灯が点滅するサーバールームで、子供ほどの背丈のウサギのシリオンがラップトップを操作していた。
傍には彼女と同じ大きさの大剣が立てかけられており、その刃には血がべっとりと付着している。
周りをよく見れば、壁には銃痕、サーバーには飛び散った血液、床には散らばる薬莢が彩りを加えた、事切れたクリアスカイの保安要員やダークストーカーが倒れ伏していた。
「間に合ってよかったあ、データが全部消されちゃったら面倒だし」
独り言を呟きながらウサギのシリオン───黒枝の裁決官「
「うわあ、真っ黒な証拠がいっぱい。“悪いコ”が沢山潜り込んでたのは知ってたけど、よくまぁTOPSに今までバレなかったよねえ」
耳を澄ませば戦闘と断末魔の叫びがうっすら聞こえて来る中で、手際よくデータを抽出していく。
大半はクリアスカイが今までTOPSに行ってきた悪事の証拠だが、彼らが持つ技術に関しても出来るだけ手に入れろとも言われていた。
ふと、サーバールームに誰か近づいてくる気配──“同僚”ではない物──がしたので、残敵を警戒して大剣に手を伸ばす。
「……おや、照様ではありませんか。お前達、警戒を解け」
「キミは……確か“NAR”の警備隊長さん?」
「覚えておいででしたか、お仕事の邪魔をして申し訳ない」
サーバールームに入ってきたのは背中に黄色いボディアーマーにバラクラバを被った武装した集団。彼らはTOPS関連企業の1つ「NAR社」保安部門の兵士達であった。
その指揮官に以前会った事がある照は、何故クリアスカイ社に居るのか聞き出そうとして、ある事を思い出した。
「何でここにって思ったけど、そう言えば襲撃部隊の編成にNARも加わってたの見たねえ。キミ達の目的は多分……」
「お察しの通り、我々の目的はクリアスカイに奪われた“エーテルブライト”と“ポータル装置”の捜索及び回収です。上からお前の失態を挽回しろと言われまして……」
NAR社はホロウ内外の裂け目を固定する事が可能なエーテルブライトと言う物質と関連器具を生産している大企業だ。
だが、以前の黄金の日に謎の武装勢力によってホロウ内実験場が襲撃され、それらが強奪される事件が発生した。
この時、被害を調査しに来た照に施設を案内したのが、目の前にいる警備隊長である。
彼らがクリアスカイへの襲撃に加わっていることから分かる通り、その犯人がクリアスカイのブラックオプス部隊──通称ダークストーカーである事は既に判明している。
「ビルの中を隈無く探しているのですが、中々見つからず……サーバールームに情報が残されて無いか確かめに来たんです」
「ご苦労さま、ザオちゃんもここで調べ物してるんだけどね。キミ達の探してる物のデータは見つかって無いなぁ、多分消されちゃったか、そもそもここに持ち込んで無いかもしれないね」
「そうですか。ならこれ以上、照様のお邪魔をする訳にはいきません。我々は建物の制圧に戻ります」
「ちょっと待ってぇ、キミ達ザオちゃんが嘘ついてる可能性とか全然考えてないのかなぁ?そっちのお仕事は奪われたNARの資産の回収でしょう?」
照の言う事をあっさりと信じ、踵を返してサーバールームから退出しようとするNAR社の部隊に思わず照は呼び止めてしまう。
現在、ビルの中のクリアスカイを一人残らず“殲滅”する事を命じられている“氷の処刑人”と同じくらい無表情な顔を照に向ける警備隊長は、首を傾げながら答えた。
「照様が仰ったじゃありませんか、
「いや、まぁそれはそうなんだけどね?一応試作品のポータル装置を黒枝が接収したりとか疑ったり……う〜ん、キミ達はTOPSでも有数の凄く聞き分けの良い人達なのに、ザオちゃんなんか複雑」
照が困惑するのも無理はない。
TOPSの内部監査組織「黒枝」の裁決官の力はTOPSに所属する者にとっては死神の鎌同然────なのだが、その権限が何時も通じる訳では無い。
ラマニアンホロウの暴走事件でアキラや瞬光と行動していた照が経験した出来事の様に、例え相手が黒枝であっても“上からの命令”があれば公然と反抗し、あまつさえ裁決官を殺害する事すら厭わない者達もそれなりにいる。
流石に全部が全部そんな感じでは無いし大半はちゃんと黒枝の命令に従うのだが、それを差し引いてもNAR保安部隊はあまりにも黒枝の命令に従順すぎるのではと逆に怪しくなってくる。
「我々はTOPSと……それも黒枝とのいざこざは出来るだけ起こしたく無い、貴方を疑わない理由はそれだけです」
NARの警備隊長はそう言うと、部下を引き連れサーバールームから出ていく。
少し困った表情で見送った照は、すぐにラップトップに向き直してデータの抽出と見分を再会した。
廊下を進みながらNAR部隊がお互いをカバーしながら進んで行き大きな部屋へと出る。
部屋には十数人はいるであろうクリアスカイ兵とダークストーカーの斬り裂かれた死体があちこちに散らばっていた。
その中央に、身体全体を覆い尽くす外套を纏った、ヴァイオレットの髪色の女性が死体に囲まれた状態で立っている。
返り血で赤く染まった外套を揺らし、冷酷無慈悲な処刑人としか思えない眼で生き残りを探す彼女は、NAR保安部隊を視界に入れる。
普通の人間なら縮み上がってしまいそうな視線を受けてもNAR部隊は何一つ臆すること無く、警備隊長が彼女に平然と話しかけた。
「“プロメイア”様、お怪我は?」
「………問題無い」
彼女の名は「プロメイア」
黒枝の裁決官の1人にして、“始末屋”や“処刑人”と呼ばれる人物である。
プロメイアが送られる任務のほぼ全てが相手の“抹殺”を前提とした任務である事から、今回の対クリアスカイ作戦がどれだけTOPSを怒らせているか分かるであろう。
「この階の生き残りはこれで最後ですか?」
「残りは上に逃げた」
「なるほど、まだ敵は居るようですね」
「そこで残存戦力が集まり、防御を固めている」
「我々が援護します」
「1人でも充分」
「なら、我々は一度下がっても?実は残弾が残り少なく……」
「好きにしろ」
死体の上でお互い眉一つ動かない会話が繰り広げられた後、プロメイアはカツカツとその場を去っていった。
プロメイアが居なくなるのを確認した警備隊長は、クリアスカイのビルのマップを広げる。
「恐らく上の階にエーテルブライトやポータル装置が隠されている可能性は低いだろう。これ以上の捜索は必要ない」
警備隊長が部下を見渡して、指示を下した。
「
「照、この階の制圧は終わった、上に向かう」
「オッケー、こっちも終わったから……ちょっと待ってねえ、ボスからお電話だ」
「標的を逃がす訳にはいかない、先に行く」
丁度データ抽出を終えた照が居るサーバールームに入り、すぐにクリアスカイの生き残りを始末しに行ってしまったプロメイア。
「プロメイアちゃん?屋上は封鎖してるし、ゆっくり行っても良いと……もう行っちゃった。珍しく皆で一緒の任務を受けてるんだから、1人で戦わなくてもいいと思うのになあ」
流石に電話片手に敵が防御を固めている場所に突っ込む訳にはいかない。
仕方無くプロメイアに先行させた照は、寒いサーバールームから廊下へ移動し、突然連絡を入れてきた自分の上司──つまり黒枝のボスとの通話を始めた。
『照、任務は順調かしら?』
「ザオちゃん達は今の所滞りはないよお。でもクリアスカイの防備が固くて、他の部隊に損害が結構出てるねえ。ところでボス、まだ任務の途中なんだけど急に連絡してくるなんて何かあったの?」
『クリアスカイ本社の掃討が終わり次第、貴方たち4人に次の任務に向かって欲しいの』
それを聞いた照は何も言わずに口をへの字に曲げる。
『どうやら不満みたいね、照』
「別にぃ?でもザオちゃんはともかく、他の皆は凄く大変な思いしてるから少し休ませた方が良いんじゃないかなって。それで、ザオちゃん達に何をさせるつもりなの?」
『TOPSに潜り込んでいたクリアスカイの内通者の対処よ、漸く彼らの正体が判明したのだけれど、ちょっと厄介な人物があまりにも多くてね』
「どういう事?確かにTOPSの目が“節穴”になるくらいスパイが潜んでいるってのは聞いたけど……厄介な人物達って?」
照の疑問に黒枝のボスは真剣な声色で答える。その声に照も一段と引き締まる程にだ。
『TOPSの上層部、名家、大企業のCEO……TOPSの中核や運営に携わっていた者達の一部が、クリアスカイに協力してTOPSを攻撃させていたのが判明したわ、はっきり言って上層部でさえ予想だにしてなかったスパイの正体よ。暫く荒れることになるわね』
それを聞いた照は耳をピンと立てて目を丸くする。小さな口は驚きで半開きになっていた。
クリアスカイがTOPSを幾度も攻撃して来た犯人だと言う事は黒枝の地道な調査で漸く判明したのだ、今回の報復作戦も信用出来る、或いはクリアスカイの被害を受けた企業によって行われた奇襲作戦である。
当然、TOPSにクリアスカイのスパイがいる事も分かってはいたが、それがどの様な人物なのか、どれ程居るのかまでは把握出来ていなかった。照がデータを抜き出していたのも、そうしたスパイを探すための行動である。
『流石のあなたも、驚いて何も言えないようね』
「……驚いたけど、同時に納得したよお。今までクリアスカイの足取りと正体を掴めなかった理由、こっちのトップの人間が妨害してたなら上手くいかなかったわけだ」
廊下で1人ウンウンと頷く照だったが、1つ別の疑問が湧いてきた。
「彼らはどうしてクリアスカイなんて一企業と組んでTOPSそのものと敵対するマネを?地位を捨てるのも同然なのに」
『照、ZONEに幾つか存在する謎の研究所……通称“X-ラボ”と、そこで行われていた極秘研究プロジェクト、「プロジェクト・モノリス」の事は知ってるかしら?』
「名前だけ。確か旧都陥落でエリー都が大変な時に、今ZONEがある辺りが大きなホロウに飲み込まれて、研究所もそこに暮らしていた人達も、研究成果も全部失ったんだよねえ?」
『そうよ、当時そのプロジェクトに無限に等しい出資を行なっていた者達やその子弟達がスパイをしていたってこと。ZONEで幅を利かせているクリアスカイを支援する代わりに、失ったプロジェクトを取り戻させようとしているみたいね』
「それでTOPSを攻撃させていた理由は?TOPSの中心にいる人達なら、そのリスクは知ってる筈だと思うけど」
『有り体に言えば、権力闘争ね』
黒枝のボスは、内心下らないと感じながら声で言った
『X-ラボとプロジェクト・モノリスの喪失は出資者である彼らにとって致命的な損害を齎した。しぶとくも権力の椅子から転げ落ちはしなかったけど、他の……高志の老人達を始めとした“ライバル”に脇に追いやられてしまったみたいね』
「それでTOPSでの権力を取り戻す為に、クリアスカイを使ってあんな事をさせていたの?そもそもどうしてクリアスカイを利用したんだろ」
『彼らがどうやってクリアスカイと接触したのか、クリアスカイは何処まで知っているのか、これは更に調査を進めないとわからないわ。
でもこれだけは言える、プロジェクト・モノリスを取り戻せば、彼らはTOPSを支配……いや、TOPSに取って代わる勢力を築くことも可能だと信じてるわ』
ボスの言葉に照は怪訝な表情をする。
「そんなに凄いの?プロジェクト・モノリスって」
『ほんの少し分かった事だけでも、現代の常識を覆す物を作ろうとしてたみたいね。エーテル活性の完全制御、侵食症状の完全除去、究極の対エーテリアス兵器……出資者はそれらを成し遂げられる、ある新エネルギーに注目していたわ』
「新エネルギー?」
『ええ、エーテルより強力で、侵食が一切起きない、人類を未来に押し上げる無限のエネルギー……その名は────』
通話の向こうで、黒枝のボスは書類に書かれたその名前を読み上げた。
『───アノマラス・エネルギー』
◆ ◆ ◆
赤い森の西端、リマンスク・ホロウへと進むクリアスカイのMRAPとトラック。
中に居るのはクリアスカイの兵士では無く、スキフ達やアキラ、オボルス小隊にデューティやフリーダムと言ったメンバー達である。
ZONEの最奥にあるモノリスを確保せんとするレベデフ達を止める為、STCマラカイトから車両を鹵獲してひたすら北上していったのだ。
スキフが
「ところでリヒター、どうしてリマンスクなんて言うんだ?」
一番先頭の車両でハンドルを握っているリヒターに、スキフがチョルノービリに存在する謎の街と同じ名前のホロウが存在するのか、その由来をそれとなく聞いてみる。
「俺も詳しくは知らないんだけどよぉ、旧都陥落より前、あの辺りに“ニューリマンスク”って住宅街がTOPSの手で作られる予定があったらしいんだ。だけど建設途中で次々不幸な事故や失踪が相次いで、建設を主導した会社も潰れて、結局街の大半が完成する前に土地自体が放棄されたって話だ」
「だからホロウが出来た時、リマンスクなんて名前が付けられたのか」
車両搭載型のアノマリー探知機に気を配りながら、リマンスク・ホロウの名前の由来を語るリヒター。
チョルノービリのリマンスクについて、スキフが知っている事は少ない。リマンスクの直前まで来たことはあるが、崩落した橋と放射能のせいで渡る手段も無く、遠目から廃墟の街を眺めるに留まったきりだ。
旧ソ連時代、CNPPの事故が起きる以前は街に住まう住人全てを対象とした秘密の実験が行われていたと噂されるが、真実は闇の中である。
「……装甲車が通った後があるな、レベデフ達は既にリマンスクの中に入ったのだろうか」
「追いつけばいいさ、僕が必ず皆を導く」
後部座席の窓の外から地面に大量のタイヤ痕が残されているのを見つけたストライダーが呟き、アキラがそれに反応する。
ガタガタと車両に揺らされながら、地面に紅葉が落ちているのが見えて来た。
「もうすぐ赤い森だな……」
『が…ガイド殿ぉ……地図を見直したのでありますが、どう見ても目的地は赤い森の中を通る事になりそうなのでありますが、ブレインスコーチャーは大丈夫なんですかねぇ…?』
『何を恐れてるオルペウス。クリアスカイの連中がその中を突っ込んでいるんだから、PSI放射の影響はない筈だぞ』
「鬼火隊長の言う通りだオルペウスさん。ブレインスコーチャーには周期があってだな、リマンスクへ続く道は普段PSI放射の範囲内に含まれる。だが今の時期は範囲が少し縮まって、PSIの影響を受ける事はない」
後続の車両に乗っているオルペウスにリヒターが安心させる様に説明する。
ZONEの大半が未だにクリアスカイによって通信妨害されているが、スキフ達はクリアスカイの通信機を鹵獲する事で互いに連絡を取れるようにしていた。ニンブルやノビコフが別れ際に手を加えた為、敵に漏洩するリスクは極力少なくしている。
周囲の景色が変わり、茶色の枯れ木や落ち葉が少なくなって赤い紅葉が一面に広がる森へと変わっていく。
視界も開けてくると、窓の外にZONEの境界線に立ち塞がる様にホロウが姿を現した。
「あれがリマンスク・ホロウだ、この先にあるトンネルを抜ければホロウに──────うおわぁ!?」
「攻撃だ!車を停めろ!」
もうすぐリマンスクへの道がある地点に到着する瞬間、スキフ達が乗る先頭車両に多数の銃撃が着弾した。
防弾ガラスに罅が走り、リヒターは咄嗟に急ブレーキを掛け、車内の全員が完成で前のめりになる。
スキフが後ろを振り向くと、ストライダーは後部ドアを開けてアキラを外に逃がしていた。
「パエトーン!ミサイルが来るかもしれない!早く出ろ!」
「わ…分かった!」
ストライダーがアキラの身を守る為に迅速に動いてくれたのを確認したスキフは、通信機で後方の車両に警告しながらMRAPの扉を盾にしつつ、銃撃が来た方向に「FT200M」を撃って反撃する。
「奇襲だ!多数の敵から銃撃を受けた!」
『オボルス小隊!展開しろ!』
『総員降車せよ!』
『ケツ蹴られたくなかったらはよ降りろや!』
別のMRAPに搭乗していたオボルス小隊や、肩を並べてトラックに乗っていたデューティとフリーダムが車両から飛び降りて展開を始める。
それを見たスキフが現在装備しているブルムバー・エクソスケルトンと、それに備えられたエーテルシールドを利用して前に出ようとした瞬間、銃撃がパタリと止んでしまった。
「攻撃がやんだ…?」
「今の攻撃、クリアスカイか?」
「わからない……リヒター、そこで待ってろ。鬼火隊長、俺が前進するから援護してくれ」
『任せろ、トリガーとシードが後ろにいる』
スキフはゆっくりとMRAPの前に立って、銃撃してきた敵を探し始めた。
てっきりクリアスカイがスキフ達を足止めする為に残した部隊かと思ったのだが……何と相手はクリアスカイでは無かった。
視線の先、リマンスクへ続くトンネルの手前にある廃墟や廃車両の影から、兵士の集団が武器を向けながら姿を現した。
その装備を見てスキフは驚愕する、新エリー都防衛軍と同じ装備を身に着けた、そして彼らから離反した者達の組織。そしてZONEに於いては傭兵紛いの仕事をこなしている連中……
「反乱軍だと……?」
『何だと!?クリアスカイめ、反乱軍とも手を組んでいたのか!』
『隊長!早とちりはいけないであります!』
『どの道反乱軍だろう!』
『反乱軍ならオレ等の方にもいるわな』
『デューティは反乱軍ではないぞフリーダム!』
『同じやんけ』
「様子が変だ、連中何をまごついているんだ?しかもトンネルから銃撃音が聞こえる」
此方を見た反乱軍がやけに困惑した様に見えたスキフ。更にはリマンスクへ続くトンネルの中では激しい戦闘が行われている音が聞こえていた。
反乱軍の指揮官らしい男が前に出て、疑問に満ちた声でスキフ達に声を掛ける。
「お前らクリアスカイじゃ──────」
その時、突如トンネルが爆発して大量の粉塵が吐き出された。
その光景にスキフやリヒターは唖然としてしまい、反乱軍の指揮官も振り返って呆然としていた。ヘルメットに隠れて表情は伺えないが、彼もスキフと同じ表情をしているのは明らかだ。
粉塵が舞うトンネルの中から、負傷した反乱軍の兵士がフラフラと肩を押さえて逃げ出して来る。
「た……隊長……間に合いませんでした。クリアスカイの連中、トンネルを……第二班は自分以外……」
「ああ畜生なんて事だ!衛生兵、あいつの手当てを!」
反乱軍は慌てて味方の負傷兵に駆け寄っていく。
それを眺めながらリヒターは顔を歪めながら言った。
「マズいぞスキフ……トンネルが崩落したら、ZONEからリマンスクに辿り着く方法が無い」
「何だって…!?」
「見てみろ、リマンスクと赤い森の間に川があるんだが、深い上に川のアノマリーとエーテル汚染が酷くて渡るのは不可能なんだ」
スキフがリマンスク・ホロウ周辺の地形を見てみると、確かに此方側とあちら側を川が分断しており、元々架かっていたであろう橋は経年劣化で崩落していた。
向こう岸に小さなクレーンがあった為、あれを何とかして倒せば渡れるのではと思ったが、残念ながら途中でクレーンがへし折れており長さが足りそうになかった。
ここで足止めか────スキフが苦々しい表情になる中、トンネルの近くにあるボロボロのレンガ造りの小屋の中から、変な機材を背負った緑色の防護服を着る人物が飛び出して反乱軍に駆け寄る。
「“レーシィ”!一体さっきの爆発は何なんだ!?」
「すまない“教授”、クリアスカイはトンネルを爆破して崩落させた。向こうに渡るのは無理だ……」
「リマンスクにはうちの調査員が居るんだ!これでは彼らがホロウから抜け出せても帰れなくなってしまう!」
喚き立てる防護服の、科学者に見える男の声を聞いたスキフはその人物の正体に気づき、思わず声を掛けた。
「まさか……“クルグロフ”教授?」
「な…なんだ君達、ホロウレイダーに……デューティとフリーダム?一体どう言う集まり……ああ!?」
どうやら彼はスキフを思い出したらしい。
防護ヘルメットの向こうに映る表情は驚きに満ちていた。
「スキフ君じゃないか!前にヤンターでよく仕事をしていた!どうしてここに?!」
彼の名前はクルグロフ。ヤンター研究基地に所属する科学者の1人であり、スキフの顔見知りでもあった。
そんな彼は、妙な機材を背負いながら何故か反乱軍の兵士に守られ、リマンスクの前で立ち往生していた。
◇アノマラス・エネルギー
S.T.A.L.K.E.R.2に登場する用語
地球の情報フィールドである
S.T.A.L.K.E.R.シリーズに、於いてZONEで発生するアノマリーやアーティファクト、そして
主要人物の1人であるドミトロ・ダリン博士曰く、このエネルギーを掌握出来れば、人類の活動圏を太陽系外縁部にまで広げる事が出来るほどのものらしい
◇リマンスク
「CS」で初登場した赤い森の端に存在する廃墟と化した街
街どころか住民も含めて旧ソ連時代から謎が多かった街と、かつてチョルノービリに住んでいた人物から語られており、彼によると街そのものを対象とした精神をコントロールする実験を行なっていたらしいが、原発事故が起きた際、住民は誰も避難すること無く街に残ったという
S.T.A.L.K.E.R.2では街に入る事は出来なかったが、DLCミッションにてある場所からリマンスクに侵入し、内部を探索する事になる