Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
──そもそも思い返せば、最初からおかしかったのだ。
スキフが最初にホロウで目覚めた時、スキフが最後まで所有していた装備をそのままの状態で持っていたのは分かる。
だが、自分が集合意識体に接続してポッドの中へ入った時に、装置を起動する為にハート・オブ・チョルノービリを接続する為に手放した筈だ。武器や物資が詰まったバックパックも、ポッドに入る時に邪魔になるのでそこら辺に置いて来た。
それが何故、ホロウの中で目覚めた時に全て身につけていた?もしポッドの中から転送か何かされたのなら、スキフはホロウの中にほぼ身一つで放り込まれていた筈だ。
しかも何故かアーティファクトはZONEの外でもダミーになる事は無く、その力を発揮し続けている。
だが他のアーティファクトは違う。これは伝説級と呼ばれる程見つかりにくいだけで、幾つも手に入る事があるアーティファクトなのだから。スキフもサンダーベリーの2個目を手に入れ、トレーダーに高額で売った覚えがある。
ZONEでは人間に理解不能な現象は珍しく無いが、ZONEで生き抜いて行けばある程度察しは付く。それでもスキフがこの世界に来てその身に起きた事は、ZONE中を巡り回って様々な異常現象を経験した彼の理解を超えていた。まさかPSI放射による幻覚を今まで見ていた訳ではあるまい。
──まるで、こいつを忘れるな、と誰かから手渡された様な──
「…ぇ!ねえ!話を聞いているの!?だから俺はの次は?まさかやっぱナシとかそれこそナシよ!」
「彼、完全に停止しているわ。ニコ、ここはプランBよ。」
「プ…プランB…?そんな物あったの?」
「ふん。」
その瞬間、アンビーから斜め45度の手刀がスキフの後頭部に炸裂し、何かを考え込んでいた彼の身体はまるでお辞儀するかのように折れ曲がる。
少し痛かったのか、アンビーは手をさすっていた。一方スキフは何とも無かったかの様に顔を上げる。
「………悪かったな。少し、考え事をしていた。それで、あんた等が俺をZONEまで連れて行ったら、俺があんた等を連れてZONEでアーティファクト収集をする。俺の友人を助けた後に、だ。」
「…オーケー。交渉成立って事で、早速行くわよ!」
「ああ、今すぐZONEへ向かうぞ、急がないと。」
「まってまって!まさかホロウにプロキシ無しで突っ込む気じゃないでしょうね!?」
またスキフは外に出ようとして足を止めた。そうだ、ホロウに出入りするのにはプロキシとやらが必要だったのだ。そして合流地点まで連れてって貰い、そこからZONEからのガイドの案内で向かう必要があると最初に出会ったホロウレイダー達とリヒターは言っていた。
だが、今のスキフには時間が無いのだ。閉じ込められたリヒターがどれだけエーテル侵食に耐えられるか分からない以上、悠長にしてられない。
「……だとしても俺には時間の猶予が無いんだ、友達の下に行きたいと言ったのはあいつの命が危険な状況だからだ。侵食症状がどれくらいで限界になるかは分からない。悠長にプロキシとZONEのガイドを呼ぶ暇は残ってないかもしれない。」
「ええ、有象無象のプロキシならZONEに行くのは大変よ。でもね…」
ニコが心配いらないと言わんばかりの笑みを浮かべてスキフを見る。何か代わりにZONEへ行く手段があるのか?とスキフは考えたが、どうやらその予測は外れた様だ。
「この邪兎屋はね。新エリー都で最高のプロキシと懇意にしているの。ZONEに行くなんて朝飯前よ!」
◆ ◆ ◆
新エリー都、六分街。様々な店舗が立ち並ぶ地域の一角にある、メジャーな物からやけにマニアックな一品まで、多彩な品揃えを誇るレンタルビデオ屋「Random Play」
その店長であるアキラと同じく店長で妹のリンは、普段テレビを見て寛いだり
それは、目の前の現実を否定したいという気持ちと、それでも向き合わなければという気持ちがせめぎ合い、どちらかを選ばなければならない状況に追い込まれていた。
「お兄ちゃん……」
「リン……」
「今月めっちゃピンチだよ…!」
「ああ、このままでは我が家は破産だ…!」
兄妹は金欠に追われていた、リンの目には涙が浮かぶ程に。アキラは普段の大人びた様な雰囲気が崩れる程に。
「えーっと、まずはFairyの電気代でしょ?家賃でしょ?アストラさんのライブとグッズとかも!それとこの前のレア物のビデオの仕入れ!後それはもう色々な物!」
「困った事にその中で削れる物は何一つ無かった。こうなるのは運命だったのかもしれない…」
「そんなぁ、お兄ちゃん!」
「せめてプロキシ業がもっと順調だったら…」
二人がもう少し節制をしてれば何とかなったかもしれないがそんな事が出来る程、この兄妹は生活がなってない。
最悪な事に、生活費の大半を稼いでいるプロキシの仕事がここ最近減りつつあった事も多分に影響している。そんな折、アキラのスマホに連絡が入って来た。
「ん?………リン、ニコ達から連絡だ。僕達に用事があるそうだ、詳しい事は会って話したいって。」
「え!?あぁ…お願いします神様…どうかツケの支払いをするって言って…!」
「ツケを払うよりより新たなツケを押し付けられる可能性が高いと思うよ…リン。」
いつも自分達にツケを押し付けてくる、なんだかんだ付き合いの長い人物からの連絡に、リンは一縷の望みを賭け、アキラは端から諦めの表情を浮かべていた。
◆ ◆ ◆
「ねぇ!あんた達!紹介したい奴がい───」
「いらっしゃい、ニコ。遂にツケを払いに来てくれたのかな?そうじゃないなら帰ってくれ。」
「言っておくけど、ツケを払います以外何一つ聞くつもりはないからね。」
ニコが景気よくドアを開け、プロキシ兄妹に依頼の事を言おうとしたその瞬間。二人から盛大に拒絶反応の言葉が飛び出た事に硬直してしまう。二人の目は冷たいを通り越して絶対零度だ。
最も、健康で文化的な最低限度の生活を営む事が不可能になりそうな状況で、新たなツケを背負わされるかトラブルを持ち込まれるかなんて勘弁願いたいからでもある。
「な…な…な…何よ!折角仕事の依頼を持ってきたのに!そんな態度取ること無いじゃない!」
「悪いけど僕達は今大ピンチなんだ、ツケを払うかツケを返すか選んで欲しい。」
「それどっちも一緒じゃない!仕事よ!仕事!しかも大金が手に入るチャンスなんだから!」
「そんな事言って本当に大金が入って来たこと一度もないじゃん。付き合い長いんだからそれくらい分かるよ。」
「少しくらい話を聞きなさいよぉ!」
ニコが突入していった店先の休業の看板がぶら下げられたドアの前で邪兎屋のメンバーとスキフは押し問答の様な、一切話が進まない会話を聞いていた。スキフに至っては、自分が突入してあのプロキシらしい二人に銃を突き付けてでも話を進めてやろうかと考えている始末である。
「はぁ…分かったよ。話を聞こうじゃないか。」
「本当に、本当に私たち。今、変なトラブルに巻き込まれてる余裕無いんだからね!」
「損はさせないわ!あんた達入って来なさい!…それで仕事の依頼ってのは、ZONEの事よ!」
ZONE、その言葉を聞いてアキラとリンは複雑な表情をする。
無理もないだろう、今兄妹が金欠と破産の恐怖に震える羽目になっているのは、大体ZONEの存在のせいであるのだから。
『今のホロウレイダーとプロキシの関係は、出張先で不倫に明け暮れ豪遊する夫と誰もいない自宅で健気に帰りを待つ妻と同じである。』
とあるプロキシによってインターノットのスレに投稿されたこの言葉は瞬く間にプロキシ界隈にとって非常に有名な言葉になった。
ZONEが出現して以降、市政の情報統制にも関わらず数多くのホロウレイダーがZONEへ向かい、そのまま戻ってくる事がない状況。新エリー都ではまぁまぁ深刻なホロウレイダー不足に悩まされていた。
元よりホロウレイダーとプロキシは切っても切れない関係と言える。違法にホロウの中で活動する者と違法なデータで違法にホロウ内を案内する者。
プロキシ無しではホロウの中を進めないホロウレイダーと彼ら無しでは出来る仕事が限られてくるプロキシは新エリー都では共生関係だ、ZONEが出来る前までは。
身一つあれば事足りるZONEの存在は、プロキシの存在価値を地に落としかけている。現在、ホロウ内の仕事を請け負うより、ZONEの方が間違いなく稼げるのだ。TOPSや研究機関、名だたる資産家等々ZONEには天文学的な金額が投入されていると言われている。きっとそのお零れだけでも大した物だろう。但し、現状ZONEから生きて戻ってきたホロウレイダーは非常に少ないのだが。
「この男をZONEに連れて行って上げて欲しいの。勿論あたし達も一緒にね。あんた達ならZONEに向かう道を見つけるなんて楽勝でしょ?」
「それは別にいいんだけどさぁ…それの何処が大金が手に入る事になるの?プロキシ界隈じゃZONEの仕事は割に合わない事で有名だよ?」
割に合わない──そんなZONEへのルートは現在、三つ存在する。
一つはそのままZONEに向かえるルート。ホロウを介さずZONEに侵入可能なルートだが此方は防衛軍が徹底的に封鎖しており、防衛軍や科学者等の公的な許可を得た人間しか通れない。噂では郊外の運び屋達だけが知る秘密のルートがあるらしいが噂でしかない。
一つはホロウ内の固定されたZONEへの入り口。此方も防衛軍が凄まじい警戒網を敷いているため、殆ど使用する人間が居ない。しかも防衛軍の兵士達はホロウの外より殺意を持って排除してくるオマケ付きだ。
最後に──時たま発生するホロウとZONEの亀裂。大抵のホロウレイダーは此方から侵入を試みる。プロキシがZONE側のガイドと連絡を行い、亀裂が発生するポイントを総洗いし、その亀裂の位置をZONEのガイドと連携を取りながら調整し、ホロウの途中まではプロキシが、その後ZONEのガイドが亀裂まで案内しなければならないと言う実に面倒くさいルートだ。
しかも顧客が殆ど戻って来ない為、取引相手として付き合いが生まれる訳でもない。それでも稼ぎが減っている大半のプロキシ達はこの仕事を請け負わざるを得ない。
ただ一つ例外として───目の前の伝説のプロキシ兄妹「パエトーン」等の超一流のプロキシとなるとホロウからZONEの亀裂まで直接導ける能力があるが。
「最初に大金を払うって話もあるけど…」
「失礼かもしれないけど、そこの彼はあまりディニーを持っている様には見えないな。」
そうして兄妹は先程ビデオ屋に入って来たスキフを見る。何処にでも売っている安物のジャケットを羽織った彼はどう見ても依頼に見合う金額を払える様には見えない。
「ええ、あいつは一文無しよ。すっからかんのすっぽんぽんだから払えないって泣きついて来たんだから。でも一つだけあいつが私達に出せる物があったわ。」
「おい、俺は泣きついてなんていないぞ。」
「お黙り。その出せる物が…アーティファクトよ。」
アーティファクト。ZONEでのみ手に入る、ZONEの神秘。エーテルの侵食を完全に跳ね除ける、奇跡の物質。ホロウレイダー達が死に物狂いでZONEへ向かおうとする理由でもある。
だがニコの話を聞いたアキラとリンは少し険しい顔をしていたのをスキフは見た、アーティファクト関係で何かあったのだろうかとスキフは考える。スキフ自身もダミーを詐欺師等に売りつけたり家をふっ飛ばされたりした経験からだ。
「……ニコ、アーティファクトの件。僕達は忘れてないよ、一年程前の…」
「ZONEが出来たばっかの頃、私達に石ころ渡して「これで借金は全部チャラね!オーホッホッホ!」とか言って来たよね!?私達まだ怒ってるんだから!」
「あ…あの時はZONEの外にアーティファクトを持ち出したら「ダミー」になるなんて知らなかったの!あん時散々謝ったし、それに、一番悪いのはダミーなんかを密輸していたあの悪党共よ!」
「あたしが邪兎屋に来る前にそんな事あったのか?」
「ええ、それはもう人生で初めて、毎日色んな美味しいご飯をたくさん食べてたわ。前祝いで。」
「結局ダミーに大した価値が無くて借金が何倍にも膨れ上がったけどな…」
「うっわぁ…」
猫又が心底呆れたような声を出すのを聞きながらスキフは、ばつの悪そうな顔をする。こう言った騙されやすい連中にはダミーを高く売りつけていたのがZONEに来る前のスキフだったからだ。
その一方でニコに任せていたら話が進まないと思ったスキフは兄妹に近寄り自分で事情を話すことにする。
「聞いてくれ、俺と一緒に行動していた友達がZONEのエーテル汚染が酷い部屋に閉じ込められた。暫く持つだろうが、それもどのくらいかは分からない。力を貸してほしい、報酬はアーティファクト、ZONEで手に入れてそれを金に替えてあんた達に支払う。絶対に。」
「………分かった。その依頼、僕達が受ける事にするよ。」
「そういう事なら断れないしね。」
友達を助けたい───スキフの目は間違いなくその気持ちが真実であると語っていた。絶対に報酬も支払うという言葉も、恐らく嘘偽り無いだろう。
ニコに負けず劣らず人情家なアキラとリンはスキフを信じる事にした。なら──準備をしなければ。
「所で…君の事はなんて呼べばいい?」
「あっ!そう言えば今の今まで名前聞いてなかったじゃない!」
恐らく自分とそう年が違わないであろう
「俺は…スキフ。ただのしがない
◇ZONEのガイド
書いてそのままZONEの案内人。ゲームでは金を払うことでファストトラベルする事が可能な人材。
ゲームではそのまま瞬間移動で終わりだが設定的にはミュータントやアノマリーを最短で避けられるルートを通っている物と思われる。
本作では上記に加え、亀裂に入りホロウレイダーをZONEに招待する仕事も受けている。