Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
まるで泡立つ様な音と、一瞬だけストンと落ちる様な感覚に襲われた後、スキフはリマンスク・ホロウの中へと侵入した。
最初に目に映った光景は、古い似たような建物に囲まれた公園の様な場所。
1950年代のキーウに近い建築様式の、如何にもソ連時代の東欧圏の住宅が建ち並ぶ、何ともクラシックで陰鬱な空間がそこにはあった。
空を見上げると、外では間違いなくまだ明るい時間帯だった筈なのに、すでに夜の様に空が暗く染まっていた。何故か電気が通ってるので、町や建物を照らす電灯が何とも言えない気味悪さを生み出している。
「なんだか懐かしくなる光景だな……」
「ここがリマンスク……ZONEの出現以来、誰も生きて帰れなかった謎多きホロウでありますか。なんか、薄気味悪いでありますぅ……」
リマンスクをまじまじと眺めるスキフとオルペウス。前者は妙なノスタルジックさを感じ、後者は誰も中を探索出来なかった──ヤンター調査員やクリアスカイは別とする──ホロウを物珍しさからである。
「……よし、キャロットは使える。コンパスはちゃんと機能している様だな……あれ?」
キャロットとコンパスを両手にアキラはこの中でもプロキシとしての役目が果たせる事を確認して、辺りを見回して困惑した。
『観光しに来た訳ではないぞオルペウス。各員警戒しろ、何が待ち受けているか分からないからな。シード、取り敢えずレーダーを作動させて周囲をスキャンしろ……シード?』
「あ……あれ?トリガーさん?11号さん?他のみんなは何処に……?」
「リヒター?ストライダー?シュルガ中佐?!ロキ!?デューティとフリーダムの連中は何処に消えた……?」
鬼火とオルペウス、スキフがアキラと共に周囲を見渡すが、誰も居ない。
同時にホロウへと入った筈の、リヒターやストライダー、オボルス小隊の他の隊員、デューティとフリーダムの面々が何処にも見当たらない。
「分断された?おかしい、全員で同じ場所から、ほぼ同じタイミングでホロウに入った筈……」
アキラが不可解な現象を前に、彼が持つホロウの知識を総動員する。
多人数でホロウに侵入した場合、入った時間や位置に大きなズレが無ければ、“基本的”にはホロウ内の同じ場所に出る事が可能だ。
でなければ、ホロウにチームで入る度に全員ホロウ内のあちこちに離散し、頑張って集結しなければならなくなる。これではホロウレイダー業は疎か、産業や軍事、調査や救助活動もままならない。
入ったタイミングや場所の一定以上のズレ、突発的ホロウ災害や急速な活性化による拡大で飲み込まれたりして、同じ場所から入った集団が内部でバラバラに配置されるケースはかなり多いが、長年ホロウと接して来た新エリー都は、対抗策を幾つも保有している。
代表的なのが「NAR社」のエーテルブライトとポータル装置によるホロウ内外の裂け目の固定化だ。
話は戻るが、クルグロフの用意した観測機器と、リマンスクに囚われていたヤンター調査員のデータからは、リマンスク・ホロウの活性化は見られず、「穏やかな状態」のホロウに見えた。
つまり、同じタイミングでホロウに侵入した混成部隊が、バラバラになるなんて事は通常起きる事はないし、トポル達ヤンター調査員がホロウ内を集団で行動出来たのはおかしい。キャロットが使えない状況でホロウの中で集まれるとも思えない。
「こんな事になると事前にリヒターさんが伝え忘れるとは思えない。恐らくこのリマンスクは大人数で入ると、皆バラバラの地点に飛ばされるんだと思う」
「という事は、自分達より大部隊で侵入したクリアスカイの方が影響が大きそうですね。ある意味ではチャンスと言えるであります」
『うむ、連中も我々と同じリマンスクを進めるアーティファクトを所有しているが、部隊規模が大きければ大きいほど再集結に手間が掛かる筈だ。上手く行けば各個撃破出来るかもしれん……』
だがここに居るのは数々のホロウを踏破し、多くの仕事を熟してきた歴戦の軍人にプロキシ。こんな状況でも慌てず、ホロウの特性を冷静に分析し、予測を立てていた。
落ち着いて未知のホロウに対処するその様は、ホロウに関しては全くの素人であるスキフから見て非常に頼もしい限りである。
「アキラ、コンパスがあるなら万が一でも通信が出来る筈だ。他の連中と連絡をとってくれないか?」
「分かった、少し待ってくれ」
アキラはアーティファクト片手に通信機を使い、この場に居ない者達との連絡を取り始め、すぐに11号とトリガーとの連絡が付いた。
『こちら11号、ストライダーやフリーダムの隊長と共にいるわ。どうやらそっちと離れた場所に飛ばされたみたいね……工事現場みたいな場所にいるわ』
『隊長共々無事で良かったですプロキシさん、私の方はシードにリヒターさん、シュルガ中佐と行動しています……リヒターさんはこの現象について知らなかったと』
ホロウの中で離れ離れになってしまった者達に取り敢えず問題は無い事が分かってホッとするアキラ。
11号、ストライダー、ロキの部隊とトリガー、シード、リヒター、シュルガの部隊に分けられてしまったようだ。デューティとフリーダムの兵士達はそれぞれの部隊にバラバラにいるらしい。
だが安否はともかく、コンパスを持ってるプロキシはスキフ達と居るアキラ1人である。
ここはキャロットが使えないリマンスク・ホロウ、このままだとコンパスが手元に無い向こうが移動する事は出来ない。
「早速合流しに行くであります!プロキシ殿やキャロット無しでは向こうはホロウの中は進めません!自分達が向かわないと!」
「待ってくれオルペウス、川での戦闘もあって既に時間のロスが大きすぎる。レベデフ達が何処まで進んでるか分からないんだ」
出発しようとしたオルペウスをアキラが引き止める。彼の言い分に鬼火はスキフは怪訝な表情になった。
「確かに俺達はクリアスカイに遅れを取ってるが……だからと言ってあいつらをそのままにしておけないぞ」
「だから皆と合流を目指しつつレベデフ達を追う、11号やトリガー達を僕が導きつつね」
『待てプロキシ君、まさか君は3部隊分のプロキシを一度に務めると?確かにあっちにキャロットデータを送れば可能だが……』
驚いた鬼火の言葉にアキラは頷いた。
「はっきり言って僕でもかなりキツい、でもゆっくり進む時間は僕達には無い。うかうかしてるとレベデフの計画が成就してしまう」
「それで3チーム同時案内をすると……お前の腕は信頼しているが、本当に大丈夫なのか?」
「確実に導く為にキャロットと睨めっこしなきゃいけないだろうね。その分周りが見えなくなるから、皆には苦労をかけることになるかな」
そう言ってアキラは苦笑した。つまりこの何が待ち受けてるか分からないホロウの中で、とにかく道案内に集中し続けねばならないアキラを、他の3人は気を使いながら守らなければならない。
『仕方ない、軍事作戦と言うのは迅速さが求められる物だ。プロキシ君には頑張って貰おう。その代わり……』
「クリアスカイだろうとエーテリアスだろうとプロキシ殿には指一本触れさせないであります!」
「鬼火隊長とオルペウスはアキラを守ってくれ、俺が先頭に立つ。アキラ、道案内頼むぞ」
スキフと鬼火とオルペウスは嫌な顔一つせず、寧ろ胸を張って役目を引き受ける。
目の前の3人を頼もしく思いながら、分断された他の部隊と連絡を取りつつ、アキラはプロキシとして行く道を指し示した。
リマンスク内のとある場所にある屋敷の中で、讃煩会の異端者“シン”の実働部隊──ダークストーカー部隊は一時の休息を取っていた。
この部隊の指揮官である“ウルフハウンド”と言うコードネームを持つダークストーカーは、無線機片手にイライラとした口調を隠さず、無線機の向こうにいる自分達の指導者──ナタリア・レベデフへ状況を報告していた。
『───了解。引き続き輸送部隊の捜索救難を続ける、アウト………クソったれ!リマンスクがこんなに厄介は場所とはな!』
乱暴に無線機を切り、埃が積もった木のテーブルに拳を叩きつける。テーブルの上にあった古ぼけたランタンが倒れ、放置されていたコップは地面に落ちてパリンと割れた。
傍で見ていた部下は屋敷の外に注意を向けながら、恐る恐る指揮官へと話しかける。
『ウルフハウンド、司教は何をしているんだ、まだ先に進もうとしないのか?』
『散らばったオブスキュラを出来る限り回収するまで計画を進めるつもりは無い、だとよ』
『他の逸れた味方は見殺しか?自力で来いと?』
『戦車以外はな、戦車隊とオブスキュラがあれば計画はギリギリ遂行出来るらしい。俺達はそれをかき集めろって命令だ』
それを聞いた部下は舌打ちをし、我慢の限界だと言わんばかりにレベデフへの疑問をウルフハウンドへぶつけ始めた。
『一体この計画は何が目的なんだ?ホロウの浄化、その方法を手に入れる為にZONEの奥に辿り着くのが目的だった筈だろ』
『ああ、人類の”贖罪“と“再創”の為にな』
讃煩会として始まりの主に対する崇拝と、“シン”特有の教義である人類がホロウへ与えた罪の贖罪。これが讃煩会の異端者と呼ばれ続けた彼らの教義である。
何時からこんな教義が存在し、何の意味があるのかは彼らは全く知らない。ただ百年前から“シン”に代々伝わってるから子孫である自分達は信じるべき、そう盲目的に思っているだけだ。
とは言え盲目的なのは教義についてのみ、自分達の指導者に関してはその限りではない。
『本当に司教は……レベデフは我らの悲願を成就する気があるのか?ホロウの浄化なんて興味がないのでは?』
『何が言いたい』
『衛非地区の“本派”と合流してから、レベデフの護衛には“本派”の元戦闘員が付いている。一方俺達元のメンバーはこうして奴の下から離れて任務に送り出されてるじゃないか』
『司教の思想が“本派”に染まっていると?』
『そもそも奴は“伝道者”の一族じゃない、血族と婚約していたそうだが子も成していない。本来ならば俺達への命令権は無いだろう?』
部下の疑念にウルフハウンドは、他の隊員に気づかれないよう声を落とせとジェスチャーする。
彼の言う通り、部下は声を小さくして話を続けた。
『プロジェクト・モノリスを手に入れた所で、それが“シン”の為に使われる保証が無い。我らの百年続く贖罪の為じゃなくて、“本派”の言う拝謁だのに利用されるくらいなら………これは?』
そう言って武器を掲げる部下に、ウルフハウンドは小さな録音機を投げ渡した。
ガスマスク内蔵型のイヤホンに接続し、中身を聞いて見るがレベデフの独り言が続くのみ。
『……司教は誰と話してる?』
『確証は無いが、始まりの主らしい。司教は始まりの主の命令で“シン”を動かしている』
それを聞いた部下は驚きの余り、振り向いた瞬間に壁に銃を引っ掛けて大きな音を鳴らしてしまう。
他の部屋にいるダークストーカーが一瞬此方に注意を向けるが、ウルフハウンドは手で制した。
『お前の懸念は最もだが、これが始まりの主の意志ならば話は別だ。異端者である“シン”と“本派”の対立など意味がなくなる───俺達は始まりの主の赦しを得られたのだからな』
『だからお前は、今まで大人しくレベデフに従っていたのか……!』
『数年前の“大遠征”でダークストーカーの大半は当時の伝道者と共にタルタロス・ホロウへと消えていった。どの道俺達はレベデフが居なければ再編すらままならなかった以上、レベデフと始まりの主に賭けるしかないんだ』
言い終えたウルフハウンドは腕時計を見て、部下全員に指示を飛ばした。
『休憩は終わりだ、オブスキュラと戦車を探しに─────伏せろ!』
彼が叫んだ瞬間、屋敷の窓ガラスから多数の銃弾が飛び込んでくる。
ダークストーカー達は一斉に戦闘体勢に入り、襲撃者に応戦し始めた。
『チッ……!撒いたと思ったら追跡されていたか!反撃しろ!』
『また奴らか!一体全体、どうやってリマンスクに潜んでやがったんだ!?』
『さぁな、だがリマンスクに入ってからエーテリアスをほぼ見かけてない。恐らく奴らに狩られ尽くしたか……早く部隊を結集させないと、クリアスカイの連中が全員皆殺しにされる!』
焦りを感じながらウルフハウンドは手持ちの「FT200M」を窓の外へ向けて撃ち放つ。
他のダークストーカーも持ちうる武器で屋敷を取り囲む謎の敵に向かって攻撃を行った。
霧が疎らに立ち込める屋敷の外には、ダークストーカーからの銃撃を物ともせず、不気味な言葉を呟きながら戦術的に包囲する多数の兵士の姿が幾つも現れていた。
「ガイド殿が言っていた“霧”と言うのはこれでありますかね?」
『触るなよオルペウス、リヒター曰くここの霧は人を食ってしまうようだからな』
「触るわけないじゃないですか!自分はまだ手を失いたくないであります!」
暗いリマンスクの通りを進むスキフ達。
オルペウスは通りすがりの建物の中が霧に包まれて居るのを見て、興味深そうに観察していたのを鬼火に突っつかれる。
こんな様子の2人だが、キャロットを真剣な表情で動かしているアキラの周囲をしっかり固めている。奇襲を受けても即座に対処できるであろう。
エーテルシールド付きのブルムバー・エクソスケルトンを装備しているスキフは、前衛として警戒しながら先を進んでいたが、リマンスクの異様な光景に目が引かれていた。
「そこら中の地面が浮いて地面は果ての無い底なし、ZONEでも中々お目にかかれない景色だな」
『そうか?零号ホロウの様な空間が大きく変質しているホロウではそこまで珍しくないが』
「隊長……零号ホロウ見たいなホロウが沢山あったら困るでありますよお……」
おもむろにスキフはポケットからボルトを取り出し、近くの建物の中を包む“霧”へ放り投げる。ZONEでは一般的なアノマリーの反応を確かめる行為だが、どう言う影響があるのか確認するには一番の方法だ。
何か反応が起きるかと思ったが、“霧”の中に入ったボルトはコロコロと転がっていく音が聞こえただけで何も起きない。
人を喰らうらしいが、どう見てもただの“霧”にしか見えなかった。
(クリアスカイ兵を仕留めたら死体でも放り込んでみるか?)
未知の
アキラの誘導どおりに道を進み、集合住宅の中を通り抜ける。階段を上がって数階分登って、“霧”が充満する部屋が並ぶ通路を進み、唯一“霧”が無い部屋に入ろうとして、スキフは足を止めた。
「止まれ、ワイヤートラップだ」
ZONEでもよく見られるトラップだ、ワイヤーの先には手榴弾が仕掛けられていた。その場にしゃがみ込んでワイヤーを切って、手榴弾を回収しておく。
ワイヤーと手榴弾は真新しく見えた。ここを通ったクリアスカイが仕掛けたのだろうかと思ったが、どうやらその予測は当たっていたようだ。
「死体だ、死んでから間もない」
スキフが視線を動かすと、部屋の隅に血だらけの腹を押さえたまま事切れたクリアスカイ兵が横たわっていた。恐らくトラップを仕掛けた後に力尽きたのだろう。
死体を調べて見るが、壊れたPDAには何も情報が無く、包帯や予備のマガジンも尽きていた。
『失血死だな、味方と逸れたのか?』
「エーテリアスの仕業……にしては、銃創が見られるであります。傷の跡からして、遠距離攻撃型のエーテリアスにやられた訳では無さそうですね」
「銃を使うエーテリアスって居るのか?ZONEのゾンビみたいな奴とか」
スキフの疑問に鬼火とオルペウスは頭を捻り出す。
『それっぽいのは居るには居るが……』
「果たしてここに居るのかと言われると……」
2人が思い浮かべるのはオボルス小隊の“元”上官であったイゾルデ大佐──もとい司教メヴォラクがミアズマの力で生み出した旧防衛軍の兵士達。
エーテリアスに分類して良いのかはともかく、スキフのイメージ通りの銃を持った存在なのは間違いない。
兵士の血は部屋のベランダまで続いていた。そこにもワイヤートラップが仕掛けられており、解除して外に出ようとすると、住宅地の広い通りに続いていた。明らかに構造がおかしいがホロウではこんな事は茶飯事だ。
「この先を進めば、まず11号達と合流出来る筈だ」
アキラが自分達が進むルートと11号達が進むルートが重なる地点を示す。
やはり伝説のプロキシと言えど三つのルートを同時に案内するのはかなり負担となっている様で、手元の機器を動かす手を一切止められず、軽く汗をかいていた。
その負担も味方と合流できれば終わるだろう。周囲を警戒しながら通りを進むと、十字路に辿り着き、そこで大破したBTRが3台が見えた。
車体には大口径の弾丸が穿った跡が幾つもあり、兵員室を除いて見ると数人の兵士が席に座ったまま息途絶えている。
「……エーテリアスがやったのか?」
『このレベルのAPCなら、ハティを何台轢こうとも平気な筈なんだがな……』
「他の兵士は何処に……?」
オルペウスが周りを見渡すが、BTRに搭乗可能な人数より死体の数は少ない、ドライバーや砲手、車長の姿が無い車両もあるのだ。スキフはFT200Mを構えながら、消えた他の兵士の行方を探し始める。
「移動中にここで奇襲を受けて、急いで降車して、そいつ等は何処に────」
辺りを睨みながら視線を動かすと、建物の窓の中で何かが動いた。
「────敵だ!」
「奴らを殺せぇ!」
スキフが叫んだ瞬間、正面の建物からクリアスカイ兵が飛び出して攻撃を仕掛けてきた。
『オルペウス!戦闘体勢!』
「隠れるでありますプロキシ殿!」
「分かった!皆気を付けてくれ!」
飛んできた銃撃をBTRに隠れて回避して、影からクリアスカイの人数を確認する。
此方から見て十字路の正面、左の建物に4人、右の建物から4人が発砲していた。
スキフは先程手に入れた手榴弾のピンを引き抜き、身を飛び出して右の建物へ向けて放り投げた。
放物線を描きながら手榴弾は上手い具合に建物の窓に吸い込まれていき、クリアスカイの喚く声が聞こえたと同時に爆発と悲鳴が鳴り響いた。
外にいたクリアスカイ兵2名が爆発に怯んだのを見てすぐさまFT200Mを発砲。
狙うは頭、引金を小刻みに引いて数発づつ頭に5.56x45mm弾が叩き込まれた右側のクリアスカイ兵は倒れ伏す。
「畜生味方が───あがっ……」
『よく当てたなオルペウス!褒めてやるぞ!』
「光栄であります!」
左の建物の2階から銃撃していたクリアスカイ兵に、鬼火を構えたオルペウスが放ったレーザーが突き刺さる。
後3人────一気に勝負を決めようとスキフは背中に背負っていたショットガン「エリミネーター」を取り出して中にミアズマブレス弾が装填されている事を確認した。
「突撃する!援護射撃頼む!」
『了解した!行ってこい!』
現在
「1人飛び出して来たぞ!」
スキフが突撃してきたのを発見したクリアスカイが発砲するが、アーマーとエーテルシールドに阻まれて銃弾がスキフに届く事は無い。更に鬼火のレーザーが飛んできたのでやむなく身を隠す事を強いられる。
敵が隠れてる建物に向かってエリミネーターを撃つ。ミアズマブレス焼夷弾が建物の中に飛び込み、強烈な侵食が室内を一気に充満する。
6発ほど中に撃ち込むと、玄関や一階の窓からたまらず3人のクリアスカイが逃げ出し、玄関から出てきた2名の敵にすかさずミアズマブレス弾を浴びせた。
あと1人───悲鳴を上げて転げ回る敵を前にそう思った所で、鬼火を構えたオルペウスの射撃が窓から逃走したクリアスカイ兵の足を貫く。
スキフはオルペウスにサムズアップし、オルペウスも同じくサムズアップで返した。
『よし!良くやったぞ2人共』
「アキラ、怪我は無いか!?」
「僕は無事だ、2人がしっかり守ってくれたからね」
鬼火は2人の活躍に満足し、アキラは戦闘での負傷は無いことをスキフに示す。
無事に戦闘を終えた事に安心したスキフは、足を撃たれてうめき声を上げるクリアスカイの生き残りに近寄り、エクソスケルトンのパワーで無理やり持ち上げる。
「ぐぅぅ……ひぃっ…!」
「起きろ、ここで何があったのか教えるんだ。さもなきゃ“霧”の中に放り込んでやるぞ」
クリアスカイ兵は一瞬恐怖に顔を歪めるが、スキフの顔を見て驚いた様な表情へ変わった。
「お…お前ら、奴らじゃないのか……?」
「奴らって何だ、エーテリアスか?お前らの部隊を奇襲したのは」
スキフの言葉に、クリアスカイは首を横に振る。
「エ……エーテリアスじゃない……!リマンスクに入ってからエーテリアスは殆ど見かけてないんだ……!」
「エーテリアスを見かけない?一体どう言う事だ?」
「俺が知るかよ…!機甲部隊がバラバラに分断されて、本隊と合流する為に移動してたらいきなりあちこちから撃たれたんだ……生き残った皆で立て籠もって、奴らに備えてたらお前らが来て……頼む、足の止血をさせてくれ……!」
スキフは眉を顰めながらアキラ達に振り返った。
アキラ達もクリアスカイを襲った“犯人”が誰なのか、全く持って見当がつかない。
「そう言えば……僕達がリマンスクに入ってからも、エーテリアスは一度も見てないな……」
『厄介な事になったぞ……装甲車部隊を壊滅させられる敵が居ると言う事だ。この場合友好的な存在だった試しが無い』
「他の皆にもこの事を伝えるであります!何も知らずに襲われたら……」
「その通りだオルペウス、11号やトリガー達の部隊に連絡を─────」
アキラが通信機に手をやったの同時に、ポンッと言う音が全員の耳に入った。
アキラは何の音か判断に迷ったが、軍人である鬼火とオルペウス、元兵士でありZONEでもよく聞いた
オルペウスは咄嗟にアキラを掴み、鬼火は2人を近くの遮蔽物へ潜り込ませようと引っ張る。
スキフは掴んでいたクリアスカイ兵を盾にする形で、3人を庇う体勢に入った。
「なっ、やめ────」
クリアスカイ兵の懇願も虚しく、スキフの至近距離で榴弾が炸裂、破片と爆発がクリアスカイをズタズタに引き裂き、それすら貫通した破片と熱がスキフ自身にも襲い掛かった。
「スキフさん!」
「スキフ殿!」
『頭を出すな!屋根の上!敵多数!』
その瞬間、十字路にある建物の屋根から人影が姿を現し、先程のクリアスカイを遥かに凌ぐ猛烈な弾幕がアキラ達へと降り注ぐ。
「俺達が潰しあいするのを待っていたのかこいつら……!」
無残な姿となったクリアスカイを盾にしたまま、スキフは敵の正体を見極めようとするが、唯でさえ暗く、電灯が僅かしかないリマンスクの闇に潜む相手の姿は、僅かに発砲炎で照らされるのみで禄に見えやしない。
「鬼火隊長!オルペウス!引き付けるからアキラを連れて建物の中に───ぐおぉ!?」
『スキフ───上から来るぞオルペウス!』
「な…何者でありますか彼らはぁ!?」
突如、スキフの頭上から2人がナイフを手に飛び降りてきた。オルペウスの方にも1人、屋根の上から人間が飛びかかってくる。
ナイフがエーテルシールドを貫通し、肩のアーマーに突き刺さる感触を味わいながら、拳を握り絞めたスキフは目の前の人間の顔面に一撃を食らわせる。
エクソスケルトンによる一撃でうめき声もなく吹き飛ばされた仲間に構わず、もう1人は懐から手榴弾を手に取りスキフ諸共自爆を試みていた。
「さ……せるかぁ!」
片手でナイフを、もう片方の手でPTMピストルを取り出し、相手の手榴弾を持つ腕にナイフを刺し込んで頭に数発ピストルを撃ち込む。
死ぬ間際に外された安全ピンとレバーを失った手榴弾が地面に落ちるが、すかさず手に取ってスキフの正面にある建物の屋根へ向かって放り投げた。
爆発と共に数人が屋根の上から落ちて地面に叩きつけられ、スキフは容赦無くPTMピストルで彼らの頭を全て撃ち抜き──────相手の正体をはっきりと確認し、唖然としてしまう。
「なっ……こいつら……!」
『ボサッとするなスキフ!早く隠れ………何だこいつは!?ちっとも怯みやしないじゃないか!』
「ち……力が強いでありますぅ…!」
未だに屋根から銃撃が降り注ぐ中、炎で顔面を炙られながらも鬼火を掴み、オルペウスのナイフを抑え込んでいた人間が突然後ろから頭を強く殴られる。
「今だ2人共!」
『ナイスだプロキシ君!』
「こ……のおぉぉ!」
アキラが手頃な瓦礫で相手を殴り飛ばし、その隙を狙ってオルペウスが相手の首をかき切った。
首を切られた相手は最後まで戦意を失う事は無かったが、噴水の様に湧き出る出血に力尽きてその場に倒れた。
丁度スキフが3人が隠れる遮蔽物に滑り込む。
アキラ達はスキフが無事な事に安心するが、スキフはそれに構わず死体の検分を始めた。
クリアスカイを、そしてスキフ達を襲った襲撃者の装備と肩章に描かれたマークを目にし、歯を食いしばった。
「……そうだよな。ZONEが、モノリスが存在するなら、“こいつら”もいるよなぁ……!」
スキフの呟きに、アキラ達は驚きの表情に染まる。
「彼らの正体を知ってるのかい……!?」
『こいつらは何者なんだスキフ!何故リマンスク・ホロウに居る!?』
「こいつらは───クソッ!」
「こ……ここは危険であります!もっと頑丈な場所に隠れないと!」
「話は後だ!奴らほど
スキフが“彼ら”の正体を口にしようとした瞬間、スキフ達が隠れる遮蔽物を閃光が貫いた。誰も負傷する事は無かったが、隠れる場所を失い急いで離れる事にする。
スモークグレネードを取り出したスキフは煙幕を張ってその場から逃走を開始した。
「───おお、
屋根の上、
黒いガスマスクに隠れた視線は、死んだ仲間達に向けられている。
「あなたの“再臨”の為、命を捧げた勇敢なる兵達が、モノリスの光に召されますように」
まるで説教師の様な口調で青いエネルギーが輝くリアクターを胸に照らすエクソスケルトン兵の傍に、似たような服装と装備の兵士達が次々と姿を現した。
フードにバラクラバに白いガスマスク、都市迷彩の軍服、緑のボディアーマーに肩や手足を保護する茶色のレザーアーマーを着た、異様な雰囲気を放つ兵士達。
「前進せよモノリスの戦士たちよ。汚れし“簒奪者”を信仰する異教徒を、聖なる世界を踏みにじる無知なる者達を、我らの銃弾、我らの刃、我らの拳で討ち倒せ!」
エクソスケルトン兵が背中に付属している装置を起動した瞬間、彼らの背に
兵士達はぞろぞろとその中に入っていき、エクソスケルトン兵の視界の先で同じ様な裂け目が次々と発生し、地面に降り立った兵士達がスキフ達の追跡を始めた。
エクソスケルトン兵はガウスガンを構え、スコープでスキフ達が逃げて行った先に照準を向ける。
「
ガウスガンの引き金が引かれた瞬間、暗闇に包まれるリマンスクの町を、青いエネルギーの閃光が照らし出した。