Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In   作:路肩の石ころ

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71.廃病院の死闘

 

 

 

 「アキラ!道はこっちで合ってるのか!?この数のモ(・)ノ(・)リ(・)サ(・)ー(・)相手に囲まれるのはマズい!」

 

 「モノリサー!?奴らの名前はモノリサーと言うのかいスキフさん?!」

 

 『今は誘導に専念するんだプロキシ君!足を止めたら私達だけでは君を守りきれん……!』

 

 「うわわっ!またビームみたいなのが来たでありますぅ!」

 

 スキフの持つガウスガン(EM1)より威力の高いガウスガンの閃光が、敵から決死の逃走を試みるスキフ達の間を掠めて地面を深く抉り取った。

 それと同時に彼らの後方や周囲の建物の屋根から都市迷彩の兵士達が逃げ惑う侵入者を排除せんと、時折スキフ達が振り向きざまに放つ反撃に臆する事なく、執拗に追撃を行なっていた。

 

 (噂を全(・)く(・)聞かなかった上、この世界のモノリスは俺の知ってるのと全然違うから、もしかしたらこっちには居ないんじゃ無いかと思ったんだがな……!)

 

 心の中で毒づきながら、今まさに自分達を追撃するモノリサーと呼ばれる兵士達を忌々しく睨むスキフ。

 

 

 ────チョルノービリのZONEに於いて、モノリスと言う名が指し示す意味は2つある。

 

 1つはCNPP(チョルノービリ原子力発電所)にあると言われた、どんな願いも叶える夢の願望機。

 

 もう1つは、願望機たるモノリスを狂信的に信仰し、あらゆる存在からモノリスを守らんとZONEの奥地で活動する、死を恐れぬ狂信者の集団。

 

 前者はストーカーの憧れやロマンの象徴、後者はストーカーにとってアノマリーと同等以上の恐怖の象徴。

 

 スキフがチョルノービリへ足を踏み入れた時には10年近くの間“モノリス”と言う勢力は消滅し、“元モノリス”であるストライダー率いる“ヌーンタイド”へと変貌していたが、ストーカー達が抱く恐怖と憎悪は未だに両者の関係に尾を引く物であり、SIRCAAの第二次カリブ実験の後に“モノリス”が復活した時にはZONE中が恐怖と混乱に包まれたのは彼の記憶に刻まれている。

 

 

 「とにかく、ストライダーにこの事を伝えないと……!」

 

 スキフの様に世界を越え、新たな人生を歩んでいたがZONEとモノリスの存在を知り、破壊する為にこの世界で出来た家族を置いてZONEへやって来たストライダー。

 モノリサーが存在すると言う事は、スキフとストライダーがよく知る“モノリス”もこの世界に確実に存在すると証明された。

 

 だがその事を伝える前に、四方八方からスキフ達を殺害せんとモノリサーからの銃弾が飛び交う状況、まずはこれを何とかしなければ。

 

 「回り込んだぞ兄弟!」

 

 スキフ達の進行方向にある路地から2人のモノリサーが現れる。

 それぞれフード付きのモノリス戦闘服「ジルコンスーツ」に、ヘルメットにガスマスクを装備したモノリス強襲部隊用の重戦闘アーマー「コランダムスーツ」を纏ったモノリサーだ。

 

 「前方に2名、敵兵であります!」

 

 「俺の後ろに!こいつをブチかます!」

 

 先頭に躍り出たスキフがミアズマブレス弾が装填された“エリミネーター”を発砲。致死量のミアズマ焼夷弾が2人のモノリサーの全身に振りかかる。

 

 「なっ……」

 

 クリアスカイ相手に散々使ってきた、“シン”と讃煩会が開発した極悪非道の対人侵食兵器が直撃したモノリサー。

 だが人体を死に至らしめる筈の高濃度のミアズマは、モノリサーの身体を侵食すること無く、霧(・)散(・)す(・)る(・)という光景に、スキフは驚愕し硬直してしまった。

 

 弾薬に混合されている少しの焼夷剤こそ肉体へのダメージがあったが、常人ならまだしも死の恐怖が存在せず、痛みへの耐性が非常に高いモノリサー相手には余りにも効果が薄い。

 

 「異教徒に死を!」

 

 「ぐぁ……!」

 

 「スキフ殿!?」「スキフさん!」

 

 『あのシールドを破っただと!?』

 

 比較的軽装のジルコンスーツ装備のモノリサーすらミアズマブレス弾を物ともせずに、手持ちの「ラム2」ダブルバレルショットガンを、エリミネーターを撃ち尽くしたスキフに直撃させる。

 モノリスの銃火器から放たれた青い光を放つ散弾は、小火器の弾丸を軽く弾く筈のエーテルシールドを“容易に”貫通し、スキフのブルムバー・エクソスケルトンのアーマーに凄まじい衝撃を与える。

 

 現在リマンスク内の誘導の為にコンパス(物理防護)はアキラが保有しているのもあって、分厚いアーマーのお陰で致命傷には至らないが威力を殺しきれずに、スキフは吹き飛ばされて背中から倒れてしまった。

 

 「モノリスの光に『させるかぁ!』ぐっ……」

 

 倒れたスキフにアキラとオルペウスが意識が向いた隙を逃さないと、コランダムスーツ装備のモノリサーは「カーロド」自動小銃を放とうとした瞬間────尻尾をオルペウスごと無理やりぶん回しながら、ナイフを装着した鬼火が2人のモノリサーを切り裂いた。

 

 『こいつはオマケだ!』

 

 モノリサーが顔面を炎で炙られても怯まなかった事から、鬼火は間髪入れずにレーザーを頭に叩き込んできっちり止めを刺す。

 彼女の判断は正しかった、何せモノリサーは重傷を負っても敵を道連れにしようと自爆攻撃を試みるのだから。

 

 「アタタタ……腰を捻ったでありま────」

 

 「伏せるんだオルペウス!」

 

 「ひゃあ!ぷ…プロキシ殿ぉ!?」

 

 『チィ…!モノリサーとやらはホロウの裂け目を自在に操れる力を持ってるのか!?』

 

 涙目で腰を擦るオルペウスをアキラが押し倒した瞬間、彼らの後方、すぐ近くに出現した緑の裂け目から多数のモノリサーが現れたのと同時に放たれた弾幕が頭の上を掠めていった。

 

 「敵を追い詰め───ごふっ……」

 「兄弟が斃れ────がぁ……」

 

 しかし、次の瞬間タタタッという音と共にモノリサー達が次々と頭を撃ち抜かれて崩れ落ちていく。

 

 「───Суха(クソが)、コンパスにどれだけ頼ってたか思い出したよ」

 

 ショットガンに撃たれたスキフが、仰向けの状態でFT200Mを器用に構え、モノリサー達の頭に命中させたのだ。

 だが裂け目から飛び出したモノリサー達を倒したのも束の間、スキフの傍に青い閃光が着弾する。

 

 モノリスのガウスガンを放つモノリサーは、ストライダーやトリガー程の腕は無いようだが1発でも喰らえば致命傷になりかねない威力の攻撃なのは変わりない。

 

 至近弾で飛んできた砂利から顔を背けたスキフは、オルペウスの胸にダイブしたような体勢になってるアキラと、あわわと顔を赤面させて混乱しているオルペウスに声を掛ける。

 

 「くはっ…!急いでここから離れるぞ!あの建物に向かう!」

 

 『何時までそうしてるつもりだ2人共!さっさと立て!』

 

 「ご…ごめんオルペウス、頭から……その……突っ込んでしまって……」

 

 「い…いえ!プロキシ殿のお陰で助かったであります!あと自分は別に悪い気は全くしないので─────」

 

 「давай(動け)!」『Move it(動け)!』

 

 「「イエッサー!」であります!」

 

 スキフと鬼火はアキラとオルペウスを引っ張り上げ、近くの集合住宅に飛び込んでモノリサー達を撒こうと試みた。

 

 「反徒を追え」

 

 「……待て兄弟」

 

 彼らの後を追おうとしたモノリサー達だったが、青いリアクター付きの胸甲を装備した、ガウスガンを持つエクソスケルトン兵───モノリス・エリートは彼らを止めた。

 

 「異教徒の部隊が集結しつつある、“使者”と“パエトーン”は後回しだ。先に奴らを殲滅する」

 

 淡々とした指示にモノリサー達は一切迷う事なく追跡を止め、モノリス・エリートが出現させた緑の裂け目へと入っていった。

 

 

 

 

 

 「はぁ…はぁ…どうやら、奴らを撒けた様だね」

 

 「見逃してもらえたでありますぅ……」

 

 『誰も負傷していないな?よぉーし……』

 

 「……追手は居ない。アキラ、他の皆と連絡を取ってくれ。モノリサーの事を伝えるんだ」

 

 幾つかの集合住宅を跨いだ後、息を切らしたアキラが壁に手をつきながら、モノリサー達が追って来ない事に気が付いた。

 スキフと鬼火、オルペウスは周囲を確認してモノリサーの有無を確認しつつ、追撃が来ない事が分かって厳戒態勢を解く。

 

 スキフはすぐにアキラに、分断されている仲間との連絡を取るよう指示をする。

 まるで聞いた事のないモノリサーと言う存在の正体と、何故スキフがそれを知っているのか気になるアキラだったが、今は仲間に危険を知らせる事を優先した。

 

 「分かった、ちょっと待っててくれ────11号、トリガー、緊急で伝える事があるんだけど、現在の状況は大丈夫かい?」

 

 『こちらトリガー、合流地点へと向かっていますが特に異常はありません。道中クリアスカイと二度ほど交戦しましたが、問題無く排除しました』

 

 『こちら11号、現在廃病院の様な場所にいるわ。外に戦車を含むクリアスカイ部隊を確認して、やり過ごしてる最中よ』

 

 「まだ“奴ら”とは遭遇してないみたいだ……2人共聞いてくれ、実はさっき────」

 

 それぞれ分断された部隊を率いている11号とトリガーにモノリサーの存在と、出来る限りの情報を伝える。

 2人の反応からは驚きと困惑の感情が伝わって来たが、アキラの言う事を信じ、軍人らしく状況を飲み込んでくれた。

 

 『ちょっと待って、ストライダーが……』

 

 『すまん、通信機を貸してくれ11号。パエトーン!モノリサーがいたと言うのは本当か!?』

 

 モノリサーの事を伝え終えると、通信機越しにストライダーの慌てた様な声が聞こえて来る。

 まさか彼もモノリサーの事を知ってるのか…?とアキラが首を傾げてると、スキフが通信機をよこすよう手を伸ばしてきた。

 

 アキラは彼に通信機を手渡すと、スキフはストライダーとやり取りを始めた。

 

 「ストライダー、俺だ。間違いない、この目でしっかりと確認した。モノリスへの狂信を口にしてな、俺達の知ってる“モノリス”があるのは間違いないだろう」

 

 ストライダーが息を飲む音が聞こえる。モノリスの存在こそ予想はしていたが、それが確実に存在する事への驚愕と恐怖が感じ取れた。

 

 「奴らの事を知ってるのは俺達だけだ、だから他の連中をサポートしなきゃならないが……連中とやり合うのは大丈夫なのか?お前は……」

 

 『安心しろスキフ。モノリスから解放された後に“兄弟”と戦った経験はあるし、おそらくここのモノリサーは俺の知ってる“兄弟”とは違う筈だ、多分な』

 

 スキフはストライダーが“兄弟”と戦うのを躊躇するのではと思ったが、どうやら杞憂だったようだ。

 通信機の向こうで敵を警戒しながら、彼は続けた。

 

 『さっき11号が伝えたが、今俺達はクリアスカイの戦車と歩兵部隊に見つからないよう隠れて───今の音は?』

 

 「どうしたストライダー?」

 

 『外のクリアスカイが慌ただしくなって──クソ!』

 

 ストライダーが悪態をついた瞬間、通信機の向こうから激しい爆発音と叫び声、銃撃の音が響いてくる。

 

 「ストライダー?どうした、敵か!?」

 

 『クリアスカイが病院に入って────その後ろからモノリサーが大勢────気づかれ────』

 

 「ストライダー応答しろ!おい!………アキラ!今すぐ11号とストライダーの部隊に合流するぞ!あいつらの所にクリアスカイとモノリサーがなだれ込んできたらしい!」

 

 「なんだって!?分かった、すぐに案内する!」

 

 ストライダーの焦る声を最後に通信が途切れ、スキフは急いで救援に向かわねばとアキラに伝える。

 通信機を返されたアキラはすぐさまルートを算出し、11号達のいるリマンスクの病院までの道を導き出した。

 

 『プロキシ君、トリガー達も病院に向かわせるんだ。こちらの戦力も1つに集めるぞ』

 

 「ああ、ルートと連絡を入れておく」

 

 移動しながらアキラがトリガーの方に連絡を入れる。そして鬼火はスキフの方へと向いた。

 

 『それとスキフ!モノリサーについてお前が知ってる事を教えろ。正体などは今はいい、どれだけの脅威かが知りたい』

 

 「モノリサーは死ぬ事を恐れないカルトの軍隊だ。戦闘能力も軍人並みに高い上、どっからか仕入れた高性能な兵器と物量を持ってる」

 

 『聞いたなオルペウス、次モノリサーと戦闘になったら遮蔽物を駆使し、囲まれないように確実に仕留めるぞ!』

 

 「了解であります!」

 

 オルペウスのハキハキとした返事と共に、スキフ達は急いで病院へと足を進めていった。

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 複雑怪奇な構造の道を進み、幾つかの“裂け目”を経由した先にあったのは、リマンスクの郊外に存在する廃病院。

 ホロウの中でも負けじと生い茂る自然に飲み込まれた、所々崩落した建物が見える位置に出たスキフは、後に続いたアキラを引っ張って近くの遮蔽物へと身を隠した。オルペウスと鬼火も2人の様に隠れ、病院を偵察する。

 

 「隠れろ、モノリサーだ」

 

 「病院の中で戦闘が続いてる、11号達は大丈夫だろうか……」

 

 病院の前には数人のモノリサーが陣取っていた。彼らの傍にはモノリス軍の火力に屈し、鉄屑と化したクリアスカイのBTRやトラックが並び、クリアスカイ兵とダークストーカーの死体も散乱している。

 

 内部でも戦闘が起きてるのだろう、病院から響く銃の発砲音にアキラは11号の身を案じる。実力のある彼女の傍にはストライダーだけではなく、ロキを始めとしたフリーダムやデューティの兵士が数人共にいるので、早々やられる事はないだろうが、それでも不安は拭えない。

 

 「クリアスカイの戦車が無力化されてるであります……!一体どんな火力を撃ち込めば……」

 

 『奴ら、オブスキュラを破壊してるのか……?』

 

 驚愕するオルペウスの視界には、クリアスカイの誇る重戦車「Tー64」が、車体のあちこちに弾痕を残した状態で放置されていたのを、再利用しようとしているのかモノリサーが調べていた。中から引きずり出され、射殺されたであろう戦車兵が乱雑に車外に転がされている。

 

 一方、トラックに乗せられていたであろうオブスキュラは、クリアスカイ兵以上に無残な姿になっていた。

 

 銃撃、爆破、放火、ライフルのストックやスレッジハンマーによる殴打。

 

 まるで恨みでもあるかの様に、サクリファイスが収められた容器を一心不乱にモノリサー達は破壊しているのだ。

 

 「……仕掛けるぞ、鬼火隊長、オルペウス。準備してくれ。アキラはそこに隠れてろ」

 

 中で11号やストライダー達が戦っているのにゆっくり観察している暇は無い。スキフは手榴弾を1つ取り出し、鬼火とオルペウスは無言で頷いてナイフを構えた。

 

 手榴弾のピンを抜き、タイミングを計ってモノリサー達を巻き込める位置に放り投げた。

 

 「っ!グレネー────」

 

 ポトリと地面に落ちた時点で、オブスキュラの破壊に夢中になっていたモノリサー達は手榴弾に気付いて回避を試みる。

 思わず鬼火が感心する程の反応速度だったが、スキフが時間を調整した為に落ちた瞬間に手榴弾は起爆。破片がモノリサー達に襲いかかり、数人が吹き飛ばされた。

 

 『突撃しろオルペウス!』

 「了解!」

 

 爆発を合図に木々や車両の残骸を縫うようにオルペウスが駆け巡り、こちら側から見て右翼に突撃。

 スキフはFT200Mを構え、低倍率スコープの先に映った手榴弾の殺傷範囲外にいた左翼側のモノリサーを撃ち抜いていく。

 

 突然の奇襲に混乱すること無く対応しようとしたモノリサーだったが、結局の所モノリサーの中身は人間だ。撃たれ、身体を斬り裂かれれば死ぬ。

 左翼側のモノリサーを倒した後、手榴弾で吹き飛ばしたモノリサーに止めを刺す。重装アーマーである「コランダムスーツ」を装備していたならば、手榴弾が至近距離で起爆しても助かる可能性が高いからだ。

 

 致命傷を受ければ人間らしくちゃんと死ぬモノリサーだが、逆に言えば死ぬまでの時間で自爆なり反撃してくるのだ。モノリスへの狂信────もといモノリスの洗脳は、人間が持つ恐れを奪い去り、自己を顧みない戦術を取る最高の兵器に変貌させる。

 

 右翼側に視界をやると、破壊された装甲車やトラックを利用して射撃を回避しながら鬼火とオルペウスが人機一体の動きでモノリサー達を仕留めていく。

 Tー64の上部に立っていた2人のモノリサーのうち1人をスキフが射殺。もう1人がスキフに気を取られた瞬間、その後ろからナイフを装着した鬼火がモノリサーを斬り裂いた。

 

 「クリアであります!」

 『ふんっ……最大限警戒しておけばこんな物か』

 

 「モノリサーの一番の脅威はZONE一の物量だ、分隊程度なら腕があれば凌げる」

 

 『ほう?言い方からして、こいつらはZONEの連中と言う訳か』

 

 スキフの言葉を鬼火は聞き逃さなかった。

 モノリサーの事について隠したい訳では無いが、詳しく説明するには余りにも時間が掛かってしまう。

 

 「皆と合流したら簡潔に話す。こいつらが何処から来たのか、あんた達が知っておいて損は無い」

 

 『……楽しみにしておくぞ』

 

 病院前を制圧したスキフ達は、激しい戦闘が起きている内部へと突入していった。

 

 

 

 

 病院の中は死屍累々の地獄だった。

 

 元からボロボロだったであろう、奥に長く伸びている構造の病院の各地では、生き残る為に必死に抵抗するクリアスカイとダークストーカー、自分達以外の皆殺しを目論むモノリサー、後はたまたま巻き込まれた11号達による三つ巴の戦闘が繰り広げられていた。

 

 「クソったれ!救援はまだなのか!このままじゃ全滅する!」

 『持ちこたえろ!オブスキュラを守れ!』

 「どうしてデューティにフリーダムもいるんだ!?」

 

 「兄弟達よ、敵を全て排除しろ、モノリスの祝福を持ってして、異教徒共に断罪を下せ、前進!」

 「「「モノリスの反徒に死を!」」」

 

 残存するクリアスカイとダークストーカー達は数少ないオブスキュラを運搬し、守りながら迫りくるモノリサーに激しい銃火を浴びせるが、当のモノリサーは銃撃に一切怯むことなく、より苛烈な火力を放ちながら突撃してくる。

 

 「レンヤが撃たれた!畜生め!」

 「フリーダム!援護するから奥へ───ぐぁ!」

 「デューティが撃たれた!マズいぞロキ!負傷者が多すぎる!」

 

 「たくっ……オレ等が戦うのはクリアスカイとエーテリアスやなかったんか!?ボケカスがぁ!」

 

 フリーダムの指揮官であるロキは喚きながら通路に飛び出して来たモノリサーを自動小銃で撃ち殺し、負傷したデューティの曹長を引きずっていく。

 

 最初は病院内に逃げてきたクリアスカイを抑え込もうとしたフリーダムとデューティ達だったが、その後ろからやって来たモノリサーの大部隊を前に敢え無く後退。

 クリアスカイとモノリサーの戦闘で病院内が戦場と化す中で、ロキは仲間達を鼓舞しながら弾薬をばら撒き、嵐を凌げる場所にひぃこら言いながら逃げ込んだ。

 

 ロキ達が病院の一番奥、所々崩落したフロアに飛び込むと、少し遅れて11号が滑り込んで来る。

 彼女は一度、モノリサーからの砲撃でロキ達と分断されたが、激しい戦いを潜り抜けて返り血と汚れを纏いながらなんとか合流する事が出来たのが伺い知れた。

 

 「全員無事?」

 

 「死んだ奴はゼロや、負傷者だらけやけどな」

 

 疲れた表情で負傷者たちを見やるロキ。

 回復キットを無駄に沢山持っているスキフと違って、彼らはやや多めに持っている程度だ。

 11号は自分達のいるフロアを見渡し、敵の侵入口が一つだけであるここなら立て籠もれる事を確認する。

 

 「どうにかして離脱したいけど……これ以上奥には行けないみたいね」

 

 「向こうには“霧”があるからな、行き止まりや」

 

 ロキが指差した方向には、まるで地下に誘うトンネルが存在したが、リマンスク特有の異常現象(アノマリー)である人食い霧が行く手を阻んでいた。

 

 「所でストライダーの奴は何処に行ったんや?そっちと一緒に居たはずやろ」

 

 「彼なら私の後ろに─────」

 

 11号が自分達が逃げてきた出入口に振り返った瞬間、ストライダーが急いでこのフロアに駆け込んで来た。

 

 「クリアスカイとダークストーカーがモノリサーに押されてこっちに来る!全員備えろ!」

 

 「っ!各員配置に!動ける負傷者も武器を構えて!」

 

 「クソっ!オレ等もここで終わりかもしれへんなぁ!」

 

 11号の号令でフリーダムとデューティ達は遮蔽物へと身を隠し、ここに撤退してくる敵に備えた。

 ストライダーも吹き抜けとなっているフロアの2階に登り、自身のスナイパーライフルである「リンクス」を構える。

 

 (この世界の兄弟……彼らはどうやって“モノリス”に?スキフはモノリスの噂話はZONEでは一切聞かなかったと言っていたが……)

 

 敵が来るまでの間、ストライダーはこの世界のモノリサー達について思いを馳せる。

 この世界のX-ラボで行われてた、プロジェクト・モノリスという研究───クリアスカイや“ドクター”経由でその情報と存在を知っていたが、果たして元居た世界で自分を洗脳したあのモノリスと同じ物だという確証はなかった。

 

 この世界のZONEでもモノリス(願望器)の噂はてんで聞かず、最初にスキフが言った時と同じ様にあくまで同じ名前の別物なのでは───そんな淡い期待が彼にはあったのだが、先程のスキフからの報告と、この病院でクリアスカイを追い詰めているモノリサーの部隊を見てそんな期待は容易く打ち砕かれてしまった。最後にフロアに入って来たのも本当にモノリサーなのかを確認する為だ。

 

 同時に一つの疑問が湧いてくる。

 

 モノリサーはモノリスに洗脳された人間の成れの果てだ。

 

 チョルノービリでは、願望器の噂に引き寄せられたストーカー達が洗脳されたのが大半のモノリサーの出自だろう。最も、ストライダーを始めとした元モノリサーは洗脳以前の記憶を失ってしまったので本当の素性は誰も知らないが。

 

 だがこの世界の彼らは?元居た世界と比べて赤い森を越えようとする者はほぼ居らず、モノリスの事もクリアスカイしか把握してなかった筈だ。つまりそれはモノリサーの供給源が無いことを意味する。

 

 この世界でZONEが生まれてたった2年しか経っていない。一体モノリサー達は何処から来たのだろうか……

 

 「敵が来たわ!攻撃開始!」

 

 11号の声にストライダーはハッとする。

 

 ともかく今はこの場を凌がなければ、さもなければモノリスを破壊し、安心して家族の下に帰ることなど出来ない。

 

 間違いなくモノリスに近づきつつある事を噛み締めながら、スコープの先に現れたクリアスカイを捉え、ストライダーは引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 ブルムバー・エクソスケルトンで強化されたスキフの拳がモノリサーの白いガスマスクを思い切り吹き飛ばした。

 旧ソ連製の物によく似たガスマスクの下には、何の変哲も無い人間の素顔がひしゃげた状態で外気に晒され、潰れた鼻と砕けた顎から血を吹き出して居るのも関わらず、意識を失いかけながらも狂気の目つきがぎょろりと此方を睨みつける。

 

 ぞっとする様なモノリサーの目つきを無視し、相手の身体を掴んで別の方向へ向ける。

 その瞬間、ダークストーカーのエリミネーターから放たれたミアズマブレス弾の炎がモノリサーを盾にするスキフに降り注ぐが、致死量のミアズマは盾にされたモノリサーの謎の体質によってスキフ自身になんら効果を及ばさず無力化された。

 

 諦めの悪いダークストーカーはエリミネーターを乱射するが、スキフは焼夷弾に苦しむモノリサーの懐にある手榴弾のピンを引き抜き、モノリサーごとダークストーカーへ向かってエクソスケルトンのパワーで放り投げる。

 ダークストーカーとモノリサーはそのままもつれ合い、離れようとする間もなく手榴弾の起爆でバラバラに吹き飛んだ。

 

 それを眺める暇も無くスキフは病院を支える柱へと飛び込み、その柱に無数の銃弾が刻み込まれる。

 

 「クソ、クリアスカイもモノリサーもどれだけいやがるんだ……」

 

 スキフが毒づいた瞬間、スキフが居るフロアの2階の吹き抜けから悲鳴を上げてクリアスカイ兵が近くに落ちて来た。

 すかさず1発撃ち込んで上を見ると、オルペウスと鬼火が銃弾を躱しながら攻撃してくる敵を分け隔てなくナイフを仕留めているのが見えた。

 

 一瞬見えたオルペウスの顔つきにはけっこうな疲労が見える。

 そりゃあ病院の中に入ってからかなりの数を相手にしてるんだから疲れるよなと思いつつ、スキフを殺しに突撃してきたモノリサーの4人分隊をFT200Mで出迎える。

 

 1人目、2人目、3人目と射殺していくが、最後の1人がスキフの目の前まで辿り着き、「ラム2」ショットガンを至近距離から放とうとした瞬間、間一髪ショットガンを掴み取って射線をズラす。

 モノリサーは即座にラム2を放棄し、鋭利なナイフを引き抜いて襲いかかるが、スキフはモノリサーの首元を掴んで近くの“霧”に包まれた病室にモノリサーを放り込んだ。

 

 「ああ!あああ!ああぁぁ……────」

 

 “霧”に放り込まれた瞬間、洗脳によって痛みにかなりの耐性がある筈のモノリサーが凄まじい絶叫を上げて悶え苦しみ始める。

 モノリサーの装備がまるで何年も経過したかのように急速に朽ち果てていき、僅か数秒でモノリサーはピクリとも動かなくなった挙句、死体に“霧”が纏わりついて、元から何も無かったかのように跡形もなく消え失せてしまった。

 

 「“霧”に入るとああなるのかよ……」

 

 「スキフさん後ろだ!」

 

 リマンスクの“霧”の効果をその目で見て、背中に冷や汗が流れるスキフの耳にアキラの叫び声が聞こえた瞬間、咄嗟に横へ飛び退き、そこにミアズマの力が込められた銃弾が通り過ぎる。

 地面に肩を打ちつけながら方向を変え、FT200Mの5.56x45mm弾を瓦礫に半分埋もれたダークストーカーへ叩き込んだ。

 

 立ち上がったスキフは周りをぐるりと確認し、オルペウスが居る場所も含めてフロア全体を制圧したことを確認し、アキラを呼び付ける。

 

 「死んだふりなんかしやがって……ナイスだアキラ、こっちに来い」

 

 「最早リマンスクは戦場だな……流れ弾に注意しないと」

 

 病院を包み込む死体と硝煙の匂いに顔を顰めながら、アキラはスキフの下へ急いで駆け寄る。

 同時に2階を制圧したオルペウスと鬼火が降りてきた。

 

 『ここは制圧した!次のフロアに進むぞ!』

 

 「オルペウス、怪我は大丈夫なのかい?」 

 

 「これくらいへっちゃらでありますよプロキシ殿!11号さん達が助けを持っているんですから!」

 

 心配無いとばかりに笑顔を見せるオルペウス。彼女の頬や肩には銃弾や爆発の破片等による切傷と掠り傷などが多く見えるが、こんな物戦闘中では怪我の内に入らない。鬼火もスキフもそこは気にしていないし、回復キットがあれば簡単に治る傷だ。

 それにアキラと違って彼女はれっきとした軍人だ、本人の言う通り大した傷では無いのだろう。

 スキフも掠り傷どころか何発かダイレクトに弾が直撃しているが、ハート・オブ・チョルノービリの効果でとっくに全快している。

 

 病院内を進み、少数のクリアスカイやモノリサーを倒しながら閉じられた扉に辿り着く。扉の向こうではかなり激しい戦いが起きている音が響いていた。

 

 「アキラ、さっきと同じだ。制圧したら呼ぶから隠れてろ」

 

 「分かった」

 

 銃を使う腕が無いアキラをダークストーカーやモノリサーの集団に放り込む訳には行かない為、安全な場所に隠れさせ、フロアを制圧してから付いてこさせる方法でここまで来たスキフ達。

 

 アキラが身を隠し、オルペウスと鬼火が扉の横へ配置についた事を確認。

 スキフは扉の近くでモノリサーとの戦闘で死亡したと思われるクリアスカイ兵が持っていた防弾シールドを手に取り、PTMピストルを引き抜いた。

 

 オルペウスと鬼火の2人に目線で合図する。2人はスキフを見て頷き、ナイフと銃口が扉へと向いた。

 

 息を吸う。吐く。防弾シールドを構える。

 

 本当なら安全の為に手榴弾を投げ込みたいが、11号達が何処にいるか分からない以上、爆発物を使うのは厳禁だ。

 

 「────行くぞ!」

 

 全力で扉を蹴り破り、激しい銃声が聞こえるフロアへと突入する。

 

 「っ!敵しゅ─────」

 

 まず目についたのは2人のモノリサーだ。金属製の長テーブルを横に倒した遮蔽物に身を隠していたが、扉を破壊してきたエクソスケルトンを纏うスキフに若干驚愕したような反応を示した。

 

 すかさず、2人の内フードを被ってるモノリサーの頭にPTMピストルが2発撃ち込まれ、フードのモノリサーは崩れ落ちる。

 もう1人はヘルメットを被った、コランダムスーツを装備したモノリサーだ。

 スキフはそちらに向かって、PTMピストルで牽制しつつ防弾シールドを構えたまま突撃する。

 

 モノリサーからの射撃で防弾シールドに衝撃が襲うが、盾自身の硬さとエクソスケルトンの力で銃撃を突破し、防弾シールドを振り回してモノリサーを殴り倒す。

 地面に倒れたモノリサーの頭部が破裂するまで何発も撃った後、もう一度防弾シールドを構え直してフロアを見渡した。

 

 スキフの手前側にモノリサーの集団、フロアの奥側と中央には、オブスキュラを盾に即席のバリケードを敷設したクリアスカイとダークストーカーが固まって決死の抵抗を行なっていた。

 

 ブルムバー・エクソスケルトンを装備しているスキフを見つけたクリアスカイは、一瞬味方の増援かと思ったがその後ろから現れたオルペウスの姿を見て敵と判断し、両勢力共に戦いながらスキフ達に攻撃を開始する。

 

 「くっ……!鬼火隊長!オルペウス!手前は俺が引き付けておくから横の通路から奥に回り込め!」

 

 『了解だスキフ!踏ん張れよ!』

 

 スキフが防弾シールドで攻撃を受け止めている隙に、鬼火とオルペウスは遮蔽物に隠れながらフロア横の通路へと飛び込んで行った。

 攻撃を防ぎつつ、目の前のモノリサーを1人、また1人とPTMピストルで射殺していく。

 モノリサーの部隊はクリアスカイと挟まれている為、どちらかに背中を見せる形となってしまい、あっという間に壊滅した。

 

 『後はあの盾野郎だ!俺達の装備を奪ったハイエナを殺────あがっ…!』

 

 『戦術プラン「中央突入」!』

 「であります!」

 

 ダークストーカーがスキフへの攻撃を指示した瞬間、その身体をレーザーが貫き、ナイフを逆手に構えたオルペウスがバリケードを飛び越え、クリアスカイ部隊のド真ん中に殴り込んでくる。

 

 「側面を取られ───ぎゃあ…!」

 『クソったれ、このアマを殺せ!』

 「み…味方が射線に──ぐぁ!」

 

 クリアスカイ部隊は反撃しようにも味方との誤射を恐れ、まごついている間にオルペウスのナイフ、鬼火のレーザー、スキフの射撃によって次々と倒れていった。

 

 「はぁ……はぁ……クリアであります……」

 『良くやったなオルペウス、少し息を整えろ。』

 「は……はいぃぃ……」

 

 最後の1人が倒れた時、オルペウスは漸く一息ついて、近くのバリケードに寄りかかりナイフに付着した血を拭う。

 もう周りに敵が居ないのを確認したスキフも、ボコボコに凹んだ防弾シールドを投げ捨てて前のフロアに隠れているアキラを呼んだ。

 

 「アキラ!ここはクリアだ!来ていいぞ!」

 

 アキラが恐る恐る顔を覗かせながら、たった今制圧したフロアへと入って来る。その手には何故かモノリサーの自動小銃「カーロド」が握られていた。

 

 「あー……アキラ?それは……」

 

 「少しは自衛用の手段を持っておこうと思ってね、モノリサーの遺体から拾ったんだ」

 

 「いや、使い方は分かるのかって話だ」

 

 スキフの疑問にアキラは目を逸らして何とも言えない表情を見せてきた。

 豊富な映画の知識のお陰でこう言った武器の撃ち方は知っているつもりだが、自分で使うとなるとやはり怪しい所が目立つ。

 

 「……まぁいい、あとで使い方を教えてやる」

 

 「ははは……ご教示お願いするよ、プロキシとしての役目があるとは言え、何も武器を持たずにこの戦場を移動するのは流石にマズいと思うから……」

 

 モノリサーという裂け目を操る正体不明の第三勢力が現れてから、身を隠すだけでは身を守れないと感じたアキラは、自衛用の武器の一つくらい持っておくべきだと判断した。

 銃の扱いはルーキー並みだが、何も持たないよりかは安心は出来る。

 

 スキフはバックパックからエナジードリンクを取り出し、オルペウスへと投げ渡した。

 

 「おわわっ、ス…スキフ殿?この飲み物は?」

 

 「飲んでおけ。鬼火隊長、オルペウスを少し休ませた方がいい。俺は先行して11号達を探す、その間アキラを頼む」

 

 『任せろ、気を付けろよスキフ』

 

 「あ……ありがとうございますスキフ殿!」

 

 はっきり言ってこの中で一番動いているオルペウスは、体力をかなり消耗している。サンダーベリー(スタミナ回復)を所持しているスキフは平気だが、彼女はそこまで便利なアーティファクトを持っていない。

 

 スキフはアキラ達を置いて、病院の更に奥まで歩みを進めて行った。

 

 

 

 

 「銃声が聞こえないな、敵は皆死んだのか…?11号達がやられるとは思わないが……」

 

 警戒しながら奥へ向かって、瓦礫であちこち埋もれかけた朽ち果てるフロアを進むスキフだったが、先程までの激戦が嘘の様に周囲は静まりかえっていた。

 今いる病院のフロアに散らばるのはクリアスカイとモノリサーの死体。始まりの主を信奉するカルト教団の企業とモノリスを信奉するカルト軍団の熾烈な殺し合いは、双方にかなりの被害を出していることが分かる。

 

 「……讃煩会の技術は、モノリサー相手にクソの役にも立っていないみたいだな」

 

 ちらりとスキフが見つけたのは、アグロプロムで散々手こずらせたブルムバー・エクソスケルトンを装備したダークストーカーの重装兵の無残な死体たちだ。

 ガウスガンの直撃すら耐えうるミアズマの防御を持つ筈の彼らは、胸に大穴を空け、信じられないという表情を張り付かせながら絶命していた。

 

 「俺のこいつ(エクソスケルトン)のエーテルシールドもモノリサーの攻撃の前には無力だった……連中、エーテルを無力化する技術でも持っているのか?」

 

 元居た世界でも「プロジェクトX」由来の高度な技術を使用していたモノリサーたち。

 エミッション(光熱放射)の中を平然と進める“再生機”など、この世界でもそう言った物を保有しているのかと思っていると────頭部が無いダークストーカーの死体の1つから、雑音と共に聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。

 

 『────答しなさいウルフハウンド!オブスキュラと戦車の回収はまだなんですか!?こちらは敵勢力から攻撃を受けて─────』

 

 「よぉレベデフ、久しぶりだな。お前の部下は首から上を無くして喋れそうにないぞ」

 

 死体から無線機を取り、スキフは通信相手に向かって嫌味たっぷりに返答を行う。

 無線機の向こうの相手は動揺を隠せない声でスキフに応えた。

 

 『っ!?ダークストーカーではありませんね、一体誰ですか貴方は』

 

 「忘れたか?マラカイトで顔を合わせたストーカー(S.T.A.L.K.E.R.)だ。パエトーンが世話になったからな、お礼参りに来たんだ」

 

 『ああ、私の顔を傷付けたあの人でしたか……わざわざこんな所までご足労様です』

 

 クリアスカイのCEOにして、讃煩会の異端者“シン”の司教、ナタリア・レベデフは余裕綽々に応えるものの、僅かに震える声色と無線機から聞こえる戦闘の音から、大分追い詰められていることがはっきりと分かる。

 

 「クリアスカイご自慢の軍隊はめちゃくちゃだ、お前の計画もリマンスクで潰える。逃げられると思うなよ」

 

 『ふ…ふふふ……!やはり貴方は“あの御方”の言う通り、私の命を奪う死神の様ですね……!』

 

 突然笑い始めたレベデフに、スキフは眉を顰めた。

 

 ──“あの御方”とは始まりの主の事だろうか?讃煩会が信仰する神様が、自分を認知している?

 

 『そんなに言うなら、私の下に来るのをお待ちしていますよ“スキフ”さん………いえ、イェヴ─────』

 

 レベデフが何かを言いかけた瞬間、スキフの後ろからカチャ……と何かを構える小さな音が聞こえた。

 

 「──────うおぉぉ!!?」

 

 本能的に無線機を放り捨て、横に向かって身を投げ出した瞬間、青い閃光がダークストーカーの死体に直撃し、引きちぎられた死体が周囲に飛散する。

 

 既の所で気が付いたから良かったものの、レベデフに1言言ってやろうと気を抜いてしまったのが失敗だったと自らを恥じながら、攻撃が来た方向から身を隠せる位置に飛び込んだ。

 

 さっきの青い閃光は、間違いなくモノリサーの攻撃だと確信しながら、スキフは自身の切り札であるガウスガン(EM1)を背中から取り出して、向こうを覗き込もうとする。

 

 「立ち去れ」

 

 決して彼らが行わない筈の警告に、スキフは思わず動きを止めた。

 

 「モノリスがお前に与えた慈悲を、無駄にするな」

 

 何という事だろうか、あのモノリサーが見(・)逃(・)す(・)?

 彼らと相対し、必死に慈悲を乞うローナーを容赦なく処刑するような連中が?

 

 スキフはゆっくりとガウスガンを構えながら、緑の裂け目の前に立つモノリス・エリートと向かいあう。

 奇妙なエクソスケルトンを纏うモノリス・エリートの手には、町でスキフたちを狙い撃ちにした、EM1と似た形状のガウスガンと、血が滴り落ちるダークストーカーの頭部が吊るされていた。

 

 「悪いが俺はモノリスに用があるんだ」

 

 「モノリスの祝福を受け、我らと兄弟になるのならば、歓迎しよう」

 

 「ハハッ、ナイスジョーク」

 

 モノリス・エリートの言葉を鼻で笑う。

 まさかモノリサーから勧誘を受けるとは思っても見なかった。しかしスキフは記憶も人格も奪われて操り人形になる趣味は全く無いので、はっきりと断っておく。

 

 「最後の警告だ、立ち去れ」

 

 「こっちも最後の警告だ、俺はモノリスに……ZONEの最奥に用がある。邪魔をするなら殺すまでだ」

 

 目の前の相手から目を離さず、周囲の遮蔽物の位置を確認し、何時でも先手を取って身体を動かせる様に備える。

 

 「モノリスの慈悲を、祝福を拒絶する者には、死あるのみ」

 

 モノリス・エリートがダークストーカーの頭部を投げ捨てた瞬間、スキフの周囲に多数の緑の裂け目が現れ、裂け目を越えてきたモノリサーの増援に、スキフは顔が引きつり始める。

 

 「У, мать вашу(マツオバショー)……」

 

 銃火器を持ち、ジルコンスーツやコランダムスーツを装備した通常のモノリサーならば、囲まれても何とかなる実力と自信がスキフにはあった。

 

 だが、裂け目から出てきたモノリサー達は、目の前のモノリス・エリートと同じ、全員が青いリアクター付きのエクソスケルトンにガウスガンを持った重装兵が多数出てきたのだ。

 

 鬼火やオルペウスと一緒にいるべきだったか、いやアキラを巻き込まずに済んだと思うべきか。

 どちらにせよ、スキフはたった1人で、このモノリス精鋭部隊と戦わざるをえない。

 

 「X-7ラボを思い出すな……!」

 

 チョルノービリでの最後の戦いと似たような状況に、スキフは乾いた笑みを浮かべるしかない。

 

 

 「兄弟よ……使者を排除せよ!」

 

 

 モノリサーからの死刑宣告が、フロア全体に響き渡った。

 

 







 ◇モノリサー
 S.T.A.L.K.E.R.シリーズに登場する、おそらく一番プレイヤーからの人気がある勢力。モノリス、モノリス派、モノリサーなど色々な呼び方があるが、本作では“モノリス”との呼び分けの為にモノリサーと呼称する。

 願望器たるモノリスを信仰し、CNPPを守護する謎のカルト集団であるが、その正体はC-コンシャスネスが自分達がいる施設を守らせる為にZONEの奥に辿り着いたストーカー達を洗脳して作り上げた軍隊。
 歴代シリーズでいずれも終盤に登場し、他勢力を圧倒する物量と高性能装備を持ってして主人公の前に立ちはだかるラスボス勢力を担当する。

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