Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
視界を埋め尽くすモノリスのガウスガンによる青い閃光、閃光、閃光、閃光。
身を翻し、直撃しないことを祈りつつ、包囲されているこの状況で、唯一モノリサーが居ない方向へ向かって身を限界まで屈めながら全力で駆け出す。
「───────っ!!」
スキフの脇腹を閃光が通り過ぎた。
エクソスケルトンアーマーを容易く貫通し、肉が抉れ、声にならない絶叫を上げながら、アキラから
エーテルシールド?あんな物モノリスの武器の前には欠片も役に立ちやしない。ついでに言えばモノリサーの攻撃でシールド用のエーテルは空っぽだ。
こんな怪我でもハート・オブチョルノービリがあれば回復出来るが、筆舌に尽くしがたい痛みは耐えねばならない。
周囲は開放的な大穴が空いている天井に、床が殆ど崩落して登れそうにない吹き抜けの2階と、瓦礫と死体の山があちこちに積み上がる1階で構成される病院の広いフロア。
四方八方と上階から約10人程のエクソスケルトン装備のモノリス精鋭部隊がスキフを挽肉にしようと、包囲陣形による誤射すら恐れずガウスガンを撃ちまくる。モノリスのガウスガンは一丁の連射能力は低いが、それは数でカバーされているため大した慰めにならなかった。
何とか全身を撃ち抜かれる前に、スキフは身体を隠せる程大きい瓦礫の山へと滑り込む事が出来た。
辿り着けた───そう安心する暇を捨て、スキフ自身の
甲高い音と共に発射されたコイル弾頭は、モノリス・エリートの青く光るリアクターを備える胸甲に深々と突き刺さり、小さいうめき声を上げさせて怯ませる。
そのまま、シードの改造のお陰で連射能力が大幅に向上しているガウスガンの第二射を放ち、今度はリアクターと胸甲を粉砕してモノリス・エリートはガスマスクの下で血を吐く音を奏でながら崩れ落ちた。
「胴体2発……!」
殺せる────当たり前だが、その当たり前がスキフの心境に大きな余裕を与えてくれた。
人間としては破格の耐久力だが、強力なミュータントと比べればよっぽど殺しやすい。これならばミアズマシールドを纏うダークストーカーのエクソスケルトン兵の方がよっぽどタフだ。
「あと9人……
瓦礫の山がガウスガンの猛射で次々と削れて行く中、スキフの傍に大量の手榴弾が投げ込まれる。
急いでその場を離れるが、同時にガウスガンの制圧射撃の中に身を晒す事になってしまう。だが無策に飛び出した訳では無い、対抗策はちゃんと考えている。
飛び出す前に、瓦礫の山の近くに倒れていたダークストーカーの死体から幾つか装備を拝借したのだ。
咄嗟にその場に転がしたのは、アグロプロム地下でダークストーカーが使用したミアズマ・グレネード。
致死量の濃密なミアズマを撒き散らすそれは、モノリスが投げた手榴弾と連鎖爆発を起こし、ミアズマの濃霧がフロアの大半を包み込んだ。
何故か物凄いエーテル適正を持つ──身体が黒く変色してしまうが──スキフと、ミアズマブレス弾が通用しないモノリサーにはミアズマそのものは何の意味も為さないだろう。
だが視界を遮るミアズマの煙に紛れたお陰で、スキフはモノリスのガウスガンに当たること無く移動する事が出来た。
濃密なミアズマの中で、モノリス・エリートの人影を2人見つけたスキフは移動中にモノリサーの頭部に向けてガウスガンを放つ。
ヘルメットがひしゃげて弾ける様な音と共に頭部が吹き飛んだ仲間に気付き、隣のモノリサーが首から上を失った仲間を盾にしてスキフが攻撃してきた方向にガウスガンを連射する。
仲間が死のうが、死が目前に迫ろうが、一切の恐怖も士気が落ちる事も無く、命を落とすまで冷酷に殺戮をこなす完璧な洗脳兵士───それがモノリサーという兵士の脅威なのだ。
しかし、前にも言ったがモノリサーの中身は人間だ。傷付けば赤い血が流れる、洗脳されただけの人間だ。
死体を盾にしていたモノリス・エリートの頭が、甲高い音と共に粉砕され、その場に崩れ落ちる。
「あと7……6……5……!」
ミアズマの濃霧の中で、スキフは全力でフロアを駆け巡りながら、彼を捉えられないモノリス・エリート達を正確に、次々と撃ち抜いていく。
───なんだ、そこまでビビらなくても良かったじゃないか。
思ってたよりモノリス精鋭部隊を圧倒している自分に、スキフは驚いていた。
だが同時にガウスガンの至近弾によって常人ならば動けなくなる程の負傷を負い続けている。アーティファクトの急速な回復能力とアドレナリンで気にならないだけだ。
───更に言えば、フロアの大半がリキッドロックのエーテル浄化速度を上回る致死量の“ミアズマ”の煙に包まれ、それを直接浴びてから、マラカイト地下と同じ様に身体の一部が“黒く染まり”、
「残り4にぃん!」
6人目のモノリス・エリートの胸甲を穿ち、怯んだ所に全力で突っ込んで銃口を突き刺し、ガウスガンの零距離射撃を食らわし絶命させた。
この調子で行けば───!スキフがそう思った瞬間、モノリス・エリートの1人が口を開いた。
「戦術変更、
モノリス・エリートが、胸甲のリアクターと同じ青い光を放つ、閃光手榴弾の様な形の武器を取り出した。
スイッチを押し、ピッピッピッ…と小さな電子音が鳴ったそれを高く放り投げる。
青い光がミアズマに包まれたフロア全体を照らし出す。
青い光に触れた致死量のミアズマが、跡形も無く消滅していく。
その光を浴びたスキフの黒く染まった身体の一部が、本人の預かり知らぬ所で“元に戻っていく”。
その青い光が届く範囲に限り、リマンスク・ホロウを満たすエーテル粒子が欠片も残らず消滅し、ホロウの中にありながら、スキフとモノリス・エリートの居る場所は、一時的に“ホロウではなくなった”。
「嘘だろ……!?クソ、煙幕が……!」
スキフの視点からすれば、視界を遮る濃密なミアズマが一瞬にして消え失せてしまったのだ。その驚愕は計り知れない。ガイガーカウンター代わりのエーテル計測器が一切の反応を示さなくなった事は、戦闘に集中していて気付けなかった。
姿を晒す形となったスキフはとにかく身を隠そうとしたが、先程の現象を引き起こしたモノリス・エリートは続けて仲間達に指示を下した。
「
その瞬間、モノリス・エリート達の背中に出現した緑の裂け目に身を投じ、4人のモノリサーはスキフの目の前から姿を消してしまう。
「………逃げ………た訳じゃないよなぁ!」
スキフの経験上、多少分が悪くなった程度でモノリサーが逃走する訳がない。
背中に悪寒を感じたスキフはしゃがみこみ、後ろに開いた緑の裂け目───ポータルからぬるりと現れたモノリス・エリートの攻撃を間一髪で躱す。
だが背中からの一射を躱したのも束の間、また背中側にポータルが開き、今度は大きなスレッジハンマーを振りかぶったモノリス・エリートが視界に入った。
即座に横回転でハンマーの一撃を回避、相手の姿を捉えようとガウスガンを構えても、すぐに緑のポータルは閉じてしまう。
ポータルを開いたり閉じたりして翻弄してくる相手に、重量があって取り回しが難しいガウスガンを手放し、FT200Mかエリミネーターで戦うか一瞬の内に考える。
だが、頭を狙うならまだしも並みのエクソスケルトンより頑丈そうなアーマーを身に着けてるモノリス・エリートの防御を容易く貫通するなら、ガウスガンを持ったままの方がいいのでは─────
そんな事を考えるスキフの目の前に、ポータルが開いてモノリスのガウスガンが突き出される。
「このっ……!」
すかさずモノリスのガウスガンに掴みかかり、発射前に射線をズラして奪い取る──或いは武器の破壊を試みた。
向こうもエクソスケルトンだがスキフもエクソスケルトンを纏っている。モノリス製と讃頃会製で性能差がどれほどあるのか分からないが、少なくとも生身よりか力で負ける事は無い。
モノリスのガウスガンを殴りつけ、銃身に僅か歪みを与えると、モノリス・エリートは呆気なくガウスガンを手放してポータルの中へと引っ込み、消えてしまった。
「芸がないんだよ!」
そのままスキフはモノリスのガウスガンを全力で後方にぶん回し、ポータルを開いてスキフの背中を奇襲しようとしたモノリス・エリートの頭を殴り付ける。
エクソスケルトンのフルパワーで振られたガウスガンの部品が飛び散り、衝撃でモノリス・エリートのヘルメットとガスマスクが大きく吹き飛ぶ。
常人ならばこれで首の骨が折れるレベルの一撃だったが、モノリス・エリートは直前に身体を僅かに反らす事で死を免れた。
そして、ガスマスクが吹き飛んだ事で晒されたモノリス・エリートの素顔が、スキフの目に止まった。
「─────は?」
当然だが、リマンスクで戦った他のモノリサーはあくまで洗脳された人間の為、その素顔は何の変哲もないただの人間の素顔だった。
だが、モノリス・エリートの素顔は、人間では無いものに成りかけた、エーテル粒子やミアズマを消滅させた青い光の線に侵食され、目が青白く染まった異質なものがガスマスクの下に隠されていたのだ。
分かりやすく例えるならば───とある虚狩りが、虚狩る戎具を使用し続ける事による
もっとも、スキフはその様な情報を一切持っていないので、単にミュータントみたく変異したものとしか認識していないが。
「モノリスの反徒に死を───!」
「なっ!?このやろっ……!」
頭から血を流しながら、ギロリとモノリス・エリートの青白い眼球が此方へ向き、スキフを掴んでポータルの中へと引きずり込んだ。
そして緑のポータルの内部の光景をその目で見たスキフは、これまた驚き目を丸くする。
モノリサーがチェルノブライト・ポータルと呼んだ裂け目の内部には、ホロウと似て非なる光景が広がっていた。
緑の靄が充満する底無しの空間が上下左右に延々と続き、宙に浮かぶボロボロの地面や半壊した建物が、緑色に光る木炭の様な、エーテル結晶によく似た物質で繋がっていた。
(なんだこの空間……!?ホロウ……いや、アノマリー?だけどこの世界は……!)
スキフがよく知るZONEのアノマリーとも、回数こそ非常に少ないが今まで歩んできたホロウとも違う、“全く別の領域”が、そこにはあった。
そんなスキフに構わず、モノリス・エリートは地面と地面を繋げる緑と黒の結晶と同じ物質で出来た壁へ───よく見れば自分達が出てきた所も同じような壁だった───向けてスキフを投げ飛ばす。
ボコボコに突き出た結晶の壁に対し、スキフが少しでも受け身を取ろうとした瞬間、その壁にポータルが開き、それに驚く間も無くスキフの身体が突っ込んでいく。
ポータルを抜けた先は、先程までいた病院のフロア────それが眼下に広がる、大穴が開いた廃病院の屋上に放り出されていた。
「ああああ──────!?」
叫び声を上げながらスキフは空中で藻掻くが、ホロウ内でもしっかり作用する重力の力は、容赦無く彼の肉体を地面に叩きつけようとする。
見た所、建物の数階分の高さから落とされたスキフは、何とかエクソスケルトンの最も頑丈な背中のアーマーを下に向ける事に成功し、腕を無様に動かして頭部を守り、そのまま瓦礫の山に全身を打ち付けた。
外骨格越しに伝わる衝撃、肺の中の空気が抜ける感覚、視界と脳がぐるぐる揺れる。
「かっ……はっ………」
身体は動かず、目が霞み、声すら出ない。
コンパスがアキラの手にある以上、もしかしたら骨までダメージが行っているかもしれない。
まだ死んでいないという事は、暫くすればハート・オブ・チョルノービリが身体を全快まで回復させてくれるだろうが、その隙を逃がすモノリサーでは無い。
「終わりだ、使者よ」
変異した素顔を晒すモノリス・エリートが、仲間を携えて動けないスキフに止めを刺そうと近づいて来る。
(ああ……クソ、今になって激痛が襲ってきた)
アドレナリンが切れたのか、痛みがどんどん増していく。
頭ははっきりしているのか、思考が定まらないのか判断つかない。
全身に武器を吊り下げて居るというのに、今やPTMピストルを引き抜く事すら難しい。
モノリス・エリート達はガウスガンを構え、スキフに向けてトリガーを引く。
銃声が、フロアに響いた。
「がっ……!」
「─────スナイパー!」
モノリス・エリートの1人が、ヘルメットから血を吹き出して崩れ落ちた。
他のモノリサー達はスキフを放って即座に振り向き、ガウスガンによる射撃を後方へ放つ。
「制圧射撃!」
「野郎共ぉ!かましたれやぁ!」
「「「おおぉ───!」」」
モノリスのガウスガンの銃声の中に、凛とした女性の声がスキフの耳に入った瞬間、男達の咆哮と共に自動小銃、SMG、機関銃による一斉射撃がモノリス・エリート達に降り注いだ。
数多の銃弾がモノリスのエクソスケルトンに直撃するが、やはりガウスガンに耐えられないだけでかなりの防御力を誇るようで、銃撃を耐えつつガウスガンを乱射し続けていた。
「ターゲット……ロックオン─────!」
銀髪を揺らした小柄な女兵士が、銃弾と青い閃光で飛び交うフロアを、姿勢を地面スレスレまで低くして駆け巡る。
「突出してきた反徒を殺せ!」
2人の横並びになったモノリス・エリートが、被弾を無視して女兵士にガウスガンの狙いを付けた瞬間、1人のモノリス・エリートのガスマスクのアイレンズの片方が、正確無比な狙撃で撃ち抜かれる。
更に、間髪入れずに飛来した狙撃で肩と片膝も撃ち抜かれ、引き金を引かれたガウスガンの銃口が隣のモノリス・エリートへ向けられた。
放たれた青い閃光は敵ではなく味方の腹をアーマーごと抉り取り、焼けた臓物がまろび出る。
「─────っぁ!?」
「ぐ……お───!」
死を免れない、瀕死の重傷を負った2人のモノリス・エリートの視界には、女兵士が振りかぶったナタが映り────2人纏めて首を刎ね飛ばされた。
「残敵……1!」
2人のモノリス・エリートを屠った女兵士が真正面から来るガウスガンの射撃をサイドステップで次々回避しながら、最後のモノリス・エリートへ向かって突撃する。
最後の1人となった素顔を晒すモノリス・エリートには一切の狼狽も焦りも見当たらない。
ただ目の前の戦況を冷静に判断し、この状況を打開する事は不可能と判断し、撤退の為ポータルを起動を試みる。
「ポータルきど────っ!?」
突如、背中に何発もの9x18MMが撃ち込まれた。
「さっさと俺を殺しとけ、
この短時間で拳銃を抜いて狙いを定めるまで身体を回復させたスキフが、PTMピストルでモノリス・エリートの背中の“ある部分”目掛けて、マガジンが空になるまで撃ちまくったのだ。
モノリスのエクソスケルトンの背部に分かりやすく装着されていた、黒緑の結晶が設置された謎の装置。
スキフはそれを、モノリサーが「チェルノブライト・ポータル」と呼ぶ裂け目を生み出す、特殊な装置だと見抜いたのだ。
装置が破壊された事で、ポータルによる撤退は不可能になった。それでもモノリス・エリートには追い詰められた事による恐怖は欠片も生まれない。
その様な感情は、モノリサーとなった時に人間性と共に消え去ったのだから。
「はあぁぁぁ─────!」
女兵士が大きく炎を纏ったナタを振り上げる。それに対しモノリス・エリートはガウスガンを盾にして、攻撃を受け止める姿勢を取った。
洗脳によって戦いに支障をきたす感情が全て取り除かれたモノリサーではあるが、それでも信仰だけは、彼らの精神の拠り所として残っていた。
「
振り下ろされた斬撃は、ガウスガンとエクソスケルトンをモノリス・エリートごと溶断、真っ二つに斬り裂かれた。
「………オールクリア、生きてるかしら?」
ナタを振り払い、背中のバックパックに戻す銀髪の女兵士───11号は、未だに横たわるスキフへ話しかける。
「よぉ11号……ボロボロじゃないか」
「貴方ほどでは無いわ、立てる?」
「そろそろ回復したかもな……ぐっ…!」
スキフに負けず劣らず、返り血や硝煙で汚れた11号が差し出した手を取り、痛みを耐えながら立ち上がる。
手足の骨に罅が入ったかもしれないが、戦闘には支障は少ないだろう。
回復キットを打ってから周りを見ると、11号と行動していたフリーダムとデューティの兵士達がお互いを支えながらフロアに入ってきた。おそらく彼らも相当な激戦を潜り抜けて来たのだろう。
少し遅れてストライダーもやって来る、彼の狙撃が無ければスキフはガウスガンの一斉射撃でバラバラに引き裂かれていた。感謝しなければ。
「助けに来てくれたのね、鬼火隊長達は何処に?」
「オルペウスが八面六臂の活躍を見せたが疲労が酷くてな、休ませてる間に俺が先行したんだが……」
「このモノリサーの部隊に襲われたと……でも助かったわ、クリアスカイやモノリサーがそっちに引き寄せられたお陰で、こっちは体勢を立て直す時間が出来たもの」
「礼を言うのはこっちだ、危うく死ぬ所だった。連中の妙な技術で空から落とされてな……」
「情けない悲鳴が聞こえたから急いで向かったのよ。あれは貴方だったのね、間に合って良かった」
情けないとはなんと酷い言い草だろうか、でもそのお陰で11号達が間一髪で辿り着き、モノリス・エリートを仕留めてくれたのだから文句は言えない。
それに彼女の表情は、スキフの窮地を救えた事に安堵している笑みだ。これを見せられて嫌味など言えるものか。
気恥ずかしくなり視線を11号から逸らすと、ロキ達フリーダムとストライダーがモノリス・エリートの死体を調べていた。
「こんな状況や無かったら、根こそぎ持ち帰るんやけどなぁ……」
「流石に今の状況じゃ、戦利品より命が大事だぜロキ」
「なんだこのライフル……!クッソ重てぇ!」
「フリーダムめ、まだ戦闘は終わってないんだぞ」
ホロウレイダーであるフリーダムはモノリサーの装備を全て回収しようとしたが、リマンスクの戦いは終わっていないので、医薬品等の消耗品のみ漁っている。一方デューティはフリーダムに呆れながら休息を優先していた。
モノリスのガウスガンに関しては扱い方が分からないのと、エクソスケルトンのパワーで運用する事を前提とした重量だったため、持ち帰るのは諦めたようだ。
「兄弟、お前達は何処から来たんだ……ん?これは……!」
ストライダーはフリーダムの様に死体を漁る事していない。
複雑な表情でモノリサーの遺体を見つめるが、その懐から閃光手榴弾のような武器───大量のミアズマを消滅させたあのグレネードを手に入れると、その目が驚愕に染まり、自分の懐から“同じ物”を取り出した。
「ありがとなストライダー、お前が居なきゃモノリサーに止めを刺されてた」
「スキフ……これを見てくれ、一体なんだと思う?」
礼を伝えに来たスキフに、ストライダーは2つの手榴弾を見せた。戦闘中にモノリス・エリートによって使用されたそれを見たスキフは、謎のグレネードについて説明する。
「ミアズマの煙幕を張って戦ってたんだが、モノリサーがコイツを使ったら、ミアズマの煙が跡形も無く消えてたんだ。モノリサーはエーテルを無効化できる術を持ってるらしい。確か……アノマラス・グレネードと奴らは呼んでいたな」
「アノマラス?それは何なんだ?」
「あー……前の世界でSIRCAAの科学者が、ZONEのアノマリーやアーティファクトのエネルギー源をアノマラス・エネルギーと名付けたんだ。なんでモノリサーが知ってるのか分からないが」
地球を包む
人類をより高次な存在へ昇華させようとC-コンシャスネスが、チョルノービリに極秘裏に建設したX-ラボを使い、この領域に接続を試みたが“ある妨害”によって失敗し、生まれたのがZONEという世界だ。
現実世界とヌースフィアは本来交わる事のなかった概念だが、ZONEという特殊な領域にヌースフィアのエネルギーが現実世界へ流れ込む事でアノマリーやアーティファクトが生まれる────そんな事をかつてザトンのSIRCAAに来た時に、スキフは話半分で聞いた事があった。
スキフが記憶を掘り返していると、ストライダーは両手に持つアノマラス・グレネードの内、左手の方を差し伸ばした。
「実はなスキフ……こっちのグレネードは、俺が“ドクター”から対クリアスカイ用に貰った物なんだ。ドクターから受け取ったこれと、このモノリサーが持っていたグレネード……全く同じ物だ」
「……本当か?ドクターが、モノリスの武器を持っていただと?」
レベデフがモノリスを手に入れようとするのを阻止する為に、ストライダーに協力していた謎のボンプ───ドクター。
彼がモノリサーの兵器と、同じ物を保有していたとはどう言うことだろうかとスキフは眉を顰めた。
スキフの言わんとしている事は分かるとストライダーも頷き、説明を続ける。
「クリアスカイは高度なエーテル兵器を保有している、戦車のエーテルシールドや、ダークストーカーのミアズマ兵器等だ。それらを無効化する為の切り札として、ドクターが設計図と材料を用意して、ノビコフに作らせたらしい。そしてニンブルに
ストライダー曰く、ドクターの正体も他の協力者の存在も知らされずにクリアスカイと戦う為に活動していた時に受け取ったらしい。
マラカイトでドクターがレベデフに撃たれて機能停止した後、ニンブルやノビコフからドクターとどういった活動していたかストライダーが聞いた時に、この事を伝えられたのだと言う。
「アグロプロムでお前達を支援した時に、戦車のエーテルシールドを無効化しただろ?あれもドクターが用意させた武器なんだが……俺はてっきり、EMP兵器か何かだと思ってたんだ」
「その情報から察するに、ドクターはモノリサーと関係があると言うより……モノリスが使ってる技術を知ってる、と言うことか」
スキフの言葉にストライダーも頷いた。
「もしかしたらドクターはここらのX-ラボで作られたボンプなのかもな。それならプロジェクト・モノリスについて色々情報を持っていたのにも筋が通る」
ストライダーの推測の通り、謎めいたボンプの正体についてある程度見当がついてきたスキフ。
とは言え、現在彼は何発も銃弾を受けて機能停止状態。人間で例えるなら意識不明の危篤なのだ。
真実を問い詰めるには彼を修理しなければならないし、ドクターは現在眠っているリンと一緒に防衛軍のパイロットに基地まで運ばれている。
「2人共、そろそろ隊長達と合流しましょう」
「分かった、行こうスキフ」
「ああ、アキラを待たせてるしな」
11号の呼びかけでスキフ達は鬼火達と合流しに移動する。
全員で、モノリス・エリートの遺体が転がるフロアから出る寸前、スキフは後ろを振り向いて呟いた。
「使者……か……」
あのモノリサー達はスキフの事を“使者”と呼んだ。本来ならば、人間を反徒や異教徒と称するモノリサー達が、まるでスキフだけは特別かの様に。
そして、スキフを“使者”と呼ぶ様なモノリサーは、彼の経験上“1人”しかいなかった。
スキフをモノリスの逆鱗に触れた自分を“解放”しに来た、モノリスの使者と呼んだ男。
(もしかしたら……“奴”もいるのか?)
ZONEの解放の為にヌースフィアに接続した結果、自らの命を差し出したも同然のスキフ。
モノリスに操られるまま、元居た世界のドクターとスキフに襲いかかり、ドクターによって殺害されたストライダー。
そして───ドゥーガでの戦いで、スキフが“スパーク”と共にモノリスの軍勢と戦い、スキフ自身が殺した“あの男”。
家を吹き飛ばした“ダミー”を復活させに来たスキフを仲間に襲わせ浅からぬ因縁を作った、“コントローラー”の力を使い、ZONEの真の姿を見通せる“神の目を持つモノリサー”。
視線を正面に戻して、ストライダーを見つめる。
この事を伝えようとも思った。もしかしたら、この世界に“彼”が居るかもしれないと。
(だがこの世界に居るという証拠は何も無い。それに“あいつ”は、目的はどうあれヌーンタイドの連中をモノリサーに戻るよう“細工”してやがった。この世界に来ているとして、ストライダーに何て言えばいいんだ)
“彼”はモノリスから解放されたストライダーが最初に手を貸した兄弟であり、誰よりもモノリスの信仰を維持していた挙句、兄弟を扇動してZONEで暗躍し、SIRCAAの第二次カリブ実験を利用して、チョルノービリにモノリサーを復活させた黒幕?の様な存在である。
モノリスからの解放と自由を誰よりも受け入れたストライダーとは大違いの男であるが、彼がヌーンタイドを分断する様な行動をしてもストライダーは自由意志を尊重してその男に特に処罰などせず見逃していた────ヌーンタイドは最早モノリスの支配下に無く、どう生きるべきか自分の意志に従うべきだと。それで尚、“家”に戻りたくなったら何も言わずに受け入れてやるのだと、ストライダーはスキフに言った事がある。
ある意味、“彼”はストライダーの思いを盛大に裏切った奴なのだ。
スキフ個人としては、最後の奇妙な語り合いもあって“彼”への悪感情はそこまで無いのだが……
(まぁ……今言っても混乱させるだけだ)
何故モノリサーが自分を“使者”と呼んだのか、スキフでさえ見当が付かないのだ。居るかどうか分からない人間の事を報告するより、一先ず目の前の事を進めるべきだとスキフは判断し、アキラ達に合流するために歩みを進めていった。
◆ ◆ ◆
その後、アキラ達と合流した11号達はお互いの無事を喜んだが、アキラ達の傍らにモノリス・エリートの遺体が転がっている事にスキフは驚いた。
何と、スキフの後を追おうとしたアキラ達の前にモノリス・エリートがポータルと共に現れ、戦闘になったのだという。
幸い、1人だけしか現れなかった為、鬼火とオルペウスが排除したので大事には至らなかった。
「僕達の方には1人しか来なかったのに、モノリサーはスキフさんを殺す為に小隊を送り込んだのかい?」
『よく無事だったなスキフ?私達でも少し手こずったんだぞ』
「ガウスガンがあったからな、人間相手には過剰火力だ」
アキラと鬼火はスキフ相手に十人もモノリス・エリートが送り込まれた事に驚いていた。因みに、アキラ達の方にはスキフにやった様なモノリサーの警告は無く、問答無用で襲い掛かって来たらしい。
自分がモノリサーに特別に目を付けられている事に、スキフはぞっとしない気持ちになった。
一行は廃病院を出て、入口の方へと戻ると、丁度トリガー達の部隊が病院の前に到着していた。あちらの方もモノリサーと戦闘になったらしい。トリガーの狙撃とシードの火力で事なきを得たらしいが。
ロキ達と行動していたデューティは一目散にシュルガの所へ向かい、逆に向こうに居たフリーダムはロキの方に加わる。
「あれだけ連携して戦ってたのに、元鞘に戻る時はあっという間か」
トリガー達と行動していたリヒターが呟いた。
リマンスクに入って分断された仲間達が漸く一所に集結した所で、モノリサーの遺体を見つめるアキラが口を開いた。
「スキフさん、そろそろ教えて貰って良いかな?彼らの正体について……」
ストライダーを除く全員がスキフを見る。
誰も出られない筈のリマンスク・ホロウで、クリアスカイと自分達を分け隔てなく襲う重装備の謎の軍隊。
ホロウと言う存在と共存するこの世界の住人からしても、異質なモノリサー達の正体に全員が注目していた。
「断っておくが、どうして俺がコイツらの事を知っているのか説明するとかなり長くなる。だからそれは聞かないでくれ」
全員一瞬怪訝な表情になるが、一応頷いたのを見てスキフは続けた。
「コイツらはモノリサー、モノリスに洗脳された人間達だ」
『洗脳だと……?お前はさっき、奴らの事をカルト集団と言ったよな?』
「モノリスとは……プロジェクト・モノリスの事でありますか?」
鬼火とオルペウスの疑問に、スキフは頷く。
「モノリスに近づいた人間はモノリスを狂信する様に洗脳されて、死を恐れない兵士に変えられてしまう……つまり、モノリスと言うのは強力なマインドコントロール装置なんだ」
「マインドコントロール装置だって……!?モノリスにはホロウを浄化する力だけでは無く、そんな物まで備わっているのか…!?」
「多分……な」
アキラの表情が驚愕に染まるが、スキフもモノリスの力については疑念でいっぱいだ。
スキフの知るモノリスはマインドコントロール装置であって、ホロウをどうこう出来る力はスキフの知る限り存在しない筈。
だからこそ、スキフもはっきりとした事は言えないのだ。
『聞きたい事があるぞスキフ、何故モノリサーはリマンスクで待ち伏せをしていた?クリアスカイと私達を襲う理由は?』
「簡単さ、奴らの目的はZONEの秘密を守る事。モノリスに辿り着こうとする存在を誰であろうと排除してくるんだ」
『つまり、モノリスを手に入れようとするクリアスカイと、それを追う我々も、奴らのターゲットだと言うわけか……次にスキフ、モノリサーの存在を知っていたのに事前に言わなかった理由を言え。』
「ZONEの奥に居るんじゃ無いかと予想はしてたが、まさかホロウの中にまで潜んでいるとは思わなかったんだ」
鬼火の追求に答えたスキフは、リヒターの方に向いて口を開いた。
「リヒター、お前はリマンスクの中を知っている。以前来たことあるんだろうが……その時モノリサーは居たか?」
「すまねぇスキフ、そん時は凶暴なエーテリアスしか見かけなかった。あのモノリサーとか言う連中は1人も……と言うか俺も初めて連中の事を知った」
「いや、責めてる訳じゃない。モノリサーが何時から居るのか考えてたんだ。ZONEじゃ全く噂を聞かないほど知られていないのに、奴らは軍隊を組織している」
申し訳なさそうに言うリヒターに大丈夫だと言うスキフ。
次にデューティ隊の指揮官──シュルガに質問した。
「シュルガ中佐、デューティはZONE制圧作戦に参加した連中の集まりだ。当時、ZONEで敵対的な武装集団の情報は入って無かったのか?」
「……私の記憶では無いな。だが……当時ブレインスコーチャーが存在しなかった赤い森を越えた先に、廃墟と化した都市があってだな。そこまで到達した部隊が、都市中にアノマリーだけじゃ無くブービートラップがあって、初の
色々気になる事を言っているが、つまりZONEが出来て間もない頃にZONE中を渡った制圧部隊は、モノリサーを見かけ無かったと言う事だ。
(チョルノービリからモノリサー共が“転移”してきたって訳じゃなさそうだな)
スキフやストライダーの様にモノリサーが集団ごとこの世界にやって来たとしたら、廃墟の都市───この世界のプリピャチに相当する地域に軍隊が侵入しようものなら、全力で迎撃に当たる筈である。
じゃあ何処からモノリサーの軍隊が出来上がったんだと考え込むスキフは、今度はフリーダムのロキに視線を動かすが……
「言っとくけどな、オレ等もコイツラの事なんて全く知らなかったで?クリアスカイの連中はどうだが分からんわ」
「まぁそう思ってたよ」
フリーダムもモノリサーについて何も知らないらしい。そしてロキが言うようにクリアスカイもモノリサーの存在を完璧に認知しているか怪しい所があるだろうが、あれだけの軍隊を揃えていた辺り、対モノリサーの為だったかもしれない。
『謎の敵勢力の正体が分かった所で、我々には警戒を密にするほかあるまい。休憩は終わりだ、レベデフを追うぞ』
「隊長、その事についてお話が……」
鬼火が作戦を継続しようとすると、トリガーが待ったをかけた。
「私達が隊長と合流しようとしている時に、クリアスカイのビーコンを鹵獲したのですが、それをシードが解析して、リマンスクのクリアスカイ部隊の位置を全て判明させたんです」
『ほう?何が分かったんだシード?』
鬼火がシードに成果を聞いた。
「それがね隊長〜 リマンスクに突入したクリアスカイの部隊の殆どが全滅したみたい。後はレベデフの部隊だけど……こっちもさっき反応が消えちゃったんだ」
シードの言葉が意味するのはつまり、クリアスカイの野望は見事にリマンスクで潰えたと言う事だ。
その報告に、その場に居た者達は何とも言えない空気になる。
「どうやら……自分達の代わりにモノリサーが全部終わらせてしまったみたいでありますね……」
「レベデフ……」
気まずそうにオルペウスが呟くが、アキラはあそこまで諦めが悪く、あの手この手で行動してきたレベデフがそう簡単にやられる玉だろうかと疑っていた。
スキフはストライダーと顔を見合わせる。彼もクリアスカイの計画を止められるならそれに越した事はないが、モノリスの下まで辿り着く計画がおじゃんになる事を考えていた。
『我々の作戦はクリアスカイの計画を止める事、それにはレベデフの排除も含まれる。奴が死んだかどうか確かめる必要がある、奴の所まで移動するぞ』
微妙な空気を鬼火が吹き飛ばした。確かに本当に計画は失敗したのか確認しなければならない。
「クリアスカイが居なくなったと言う事は、生き残ってるモノリサーが俺達だけに狙いを定めるかもしれない。気は抜けないぞ」
そう言ってスキフは装備を整えた、エクソスケルトンは大分消耗しているがまだまだ戦える。
手短に準備を終えた一行は、モノリサーに警戒しながらレベデフの所へ移動していった。
「やはり彼はモノリスの所まで辿り着くつもりだ、最早ストーカーの習性と言って良いかもな」
「彼には自由と言う報酬が与えられた、だからこそ
「だが彼がモノリスを、もう一度ZONEの真実に近付こうとするならば、
「冒険にはリクスが付きものだ、彼もそれは承知しているだろう」
「我々は“再臨”を必ず成し遂げる。彼がもし真実に辿り着いたら……どの様な選択をするのか楽しみだ」
◇モノリスのテレポート能力
本作では動力源こそクロスオーバー要素させているが、実はモノリサーがテレポート技術を持っているのは設定上原作から存在しており、初代SoCではCNPPの戦いで実際にストレロクの目の前に何人もテレポートしてきて襲ってくる。
2のコンセプトアートでもモノリサーの背中に装置が存在し、どんな場所からでも強襲出来るチート技術とのこと。プレイヤーにも欲しい。