Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
───マラカイト
リマンスクへ向かったアキラ達の背中を守る為に、ZONE中から結集するクリアスカイ部隊を相手取る儀玄たち雲嶽山とコヴァルスキー大佐率いる防衛軍特殊任務部隊。
虚狩り級の実力の持ち主である儀玄の力もあり、戦力で圧倒する筈のクリアスカイ部隊は僅かな部隊を残して壊滅の憂き目に遭っていた。
後顧の憂いを断つ為に残った残敵の掃討を進めていた矢先、彼らに航空支援を提供しているスティングレイ飛行隊のヘリからのスピーカーから警告が響き渡る。
『此方スティングレイ1!空に大規模なアノマリーの発生を確認!地上部隊からは視認出来るか!?』
それを聞いた空を見上げた福福が天に指さして大きな声を上げた。
「皆さん見て下さい!お空が……」
「
「いや大佐、こいつぁ灼熱の嵐じゃあないぞ……お師さん!」
完全な不定期とは言え、ある程度日が空く筈のエミッションがもう来襲した事にコヴァルスキーが困惑するが、播はそれを否定した。
ZONEで任務に就いているコヴァルスキー達防衛軍はいざ知らず、ZONEに初めて来ている雲嶽山のメンバーも一度エミッションに遭遇している。スキフ達がアグロプロムで戦闘中にエミッションに出くわした際、儀玄たちも既にZONEに現地入りしていたからだ。
最初は福福や播どころか、儀玄も内心エミッションというZONE最大のアノマリーに度肝を抜かれ、その恐ろしさを目の当たりにしたのだが、今ZONEの空に起きている異常は雲嶽山の者達にとって、
確かに空が異常なほど赤く染まっているが、エミッションの様な全てを焼き尽くす“赤熱の空”では無く、瞬光が新たな虚狩りに任命されるきっかけとなったラマニアンホロウの大異常の際、衛非地区の空を包み込んだ“赤黒い空”と同じ色。
「これは、ミアズマか?だが何故……ZONEの“氣”は確かに異様なほど乱れていたが、ミアズマの気配など欠片も……」
儀玄はZONEの奥から発せられる禍々しい“氣”がミアズマだと即座に看破する。だが同時に、ZONE特有の激しく乱れた異質なエネルギーからは、ただのエーテルは兎も角ミアズマなど全く感じ取れなかった筈だ。
なのに空から……否、ZONEの奥から溢れ出るこのミアズマはまるで─────
「“あの時”のラマニアンホロウと同じ……!」
「な……なんだこいつら!地面から這い出て……ぎゃああ!」
「ミュータントか……!?なんで急に……ぐあっ!」
突然、儀玄たちと戦っていたクリアスカイ兵の悲鳴と、コヴァルスキー達の物では無い銃声が響き渡る。
すぐに銃声の方に全員が意識を向けると、そこには突如現れた“ミアズマを纏う”武装した兵士達が、数少ないクリアスカイ兵を虐殺していたのだ。
そしてその標的はもちろん儀玄たちの方にも向けられる。大量の兵士がミアズマで構築された銃火器から放たれた、ミアズマの銃弾が襲い掛かる。
「うわああ!なんて猛烈なミアズマの攻撃…!」
「これに当たったらひとたまりもないな福姐!」
「大佐!正体不明の武装勢力が出現!地面からどんどん出て来ます!」
「動きが機敏だ!ゾンビと比べ物にならないぞ!」
「銃火器で完全武装してやがる!何なんだこいつら!」
「各員、遮蔽物に隠れて応戦しろ!儀玄殿、先程ミアズマと言っていたが、今現れた奴らに見覚えは!?」
大口径拳銃でミアズマ兵を撃ちながら、コヴァルスキーが術法や青涙鳥を使って応戦する儀玄に敵の正体を問いた。
「“似たような”奴らなら覚えがあるな……以前は古い軍服を着た防衛軍の兵士を模した連中だった。だがこいつらの姿は違う、大佐なら何に似ているか気付いているだろう?」
「ああ、あなたの言う通りだ、
今、儀玄たちを襲うミアズマの兵士達。その似姿はZONEで活動する人間達とそっくりだったが、全く同じでは無かった。
基本的にホロウレイダーやフリーダムは、ホロウでよく使われるエーテル防護用の球状のヘルメットを装備しており、防衛軍の離反者で構成されるデューティの装備は、防衛軍の物をそのまま流用しているが、ミアズマで造られたあの兵士達は妙に古いガスマスクや昔の軍用ヘルメット等、ZONEではあまり見かけない物を装備していた。
更に彼らの身に付ける勢力の所属を表すエンブレムは全く同じ───ホロウレイダーはエーテル汚染の警告マークでは無く放射能を示す印が付いていた──であり、それがあのミアズマ兵の正体が分からない理由を更に強くしていた。
「何者なのか見極めるより先に、こいつらを排除するのが先だ、ここで倒さねばZONE中がこいつらに埋め尽くされるぞ!」
「それもそうだな儀玄殿……スティングレイ飛行隊!爆撃でこいつらを一掃しろ!」
防衛軍のヘリの援護を受け、冷静にミアズマの兵士達を墨汁を纏った連撃で次々撃破していく儀玄だったが、彼女の脳内は先へ進んでいった愛弟子の事でいっぱいだった。
「アキラ……お前さんは無事だろうな……?」
敵を倒しながら儀玄はアキラの無事を祈りつつ術法を使用する、福福や播、防衛軍特殊部隊の兵士達も儀玄に続けとミアズマ兵に立ち向かっていった。
◆ ◆ ◆
──プロジェクト・モノリス第1番施設、通称「X-1」
「急げ兄弟!配置につけ!」
「重火器を準備しろ!」
「モノリスを守れ!」
「弾薬庫から全て持ち出してこい!」
「戦闘兵器を準備しろ!」
エーテル汚染地帯が広がるZONEの他の地域と違い、エーテルそのものが全く存在しない異様な場所。
一見すると無骨な、原子力発電所を思わせる巨大な研究施設「X-1」を住処としていたモノリサー達は、かつてないほどの喧騒で動き回っていた。
施設の広い屋上や施設の前に広がる広大な敷地に作られた防衛陣地や塹壕に、次々とモノリサーがありったけの武器弾薬を持って配置についていく。
洗脳によって恐怖も焦りも存在しないモノリサーだが、彼らの額には生物的本能に由来する冷や汗が流れていた。
X-1の屋上に他のモノリサーとは一線を画す雰囲気の男が屋上の手すりに手を掛け、目の前に広がる光景に眉を顰めた。
「どうやら、我々はあれだけ備えていたのにも関わらず、“始まりの主”の力を見くびっていたらしい」
腰にジャケットを巻いた、Tシャツに都市迷彩柄のカーゴパンツと言う、他のモノリサーよりラフな格好をした男が口を開く。
「何を見逃した?ナタリア・レベデフを確実に殺さなかった事か?否、彼女の生死はそこまで重要では無い。
エーテルブライトを破壊しなかった事か?否、エーテルブライトはそれ単体では力を発揮しない……いや、“あれ”の力の前では意味をなさないか。
サクリファイスに積まれたミアズマを浄化しきれなかった事か?否、ホロウの中とは言え、“あれ”の顕現に必要なミアズマの量は足りていなかった」
ブツブツとこの状況を引き起こした原因に対する分析を行いながら、男は顎に手を添えてX-1の1km先に現れた“ホロウ災害”を前に、ため息をついていた。
そう、ZONEの中で“ホロウ災害”が起きていた。
だが奇妙な事に、そのホロウは“半分”しか無い。本来中身がエーテルの壁によって内部が遮られた、球状の形になる筈のホロウが、ある一定のラインでぶった斬られたように、中身をX-1のモノリサーたちに晒した状態で現れていた。
「そもそも“奴”の強大な力でも、ZONEに直接干渉する事は出来ない。これ程の現象をZONEの内部で引き起こすのは本来不可能……確定した摂理なのだ。なら自ずと答えは見えてくる」
男は双眼鏡でホロウの中を覗き込む。何かを探す様にじっくりと。
「始まりの主は“ZONE”の力を利用した。我々がホロウに干渉し、エーテルをどうにでも出来た様に……だが容易い事ではない筈だ」
双眼鏡を動かしていると────あった。ホロウから大量のエーテルエネルギーを流し込まれた、ミアズマで造られた巨大なコアの様な物を発見した。
「使者を───始まりの主がスキフを取り込んだからこそ、ここまでの現象を引き起こせた。彼がこの世界に呼ばれた“理由”、それを考えれば想定出来た事だ……まさかここまでの事態を引き起こせるとは思わなかったが」
男は「デッドアイ」と呼ばれる拳銃を取り出してチャンバーを引く。
「“あれ”が始まりの主本人なのか、それとも単なる“分体”に過ぎないのか、はたまた始まりの主の力を持ち出した“誰か”なのかは分からない。だがスキフを、モノリスの使者を、ZONEに慈悲を与えた大恩人を、あの様な“あばずれ”の手に、安々と堕とさせる訳には行かない。そうだろう?我が主よ」
男の視線はホロウの中にある───瓦礫の山の中に埋もれた“小さなホロウ”へと
「結使ならば兎も角“あれ”相手は兄弟達だけでは荷が重いし、“守護者”はモノリスの傍から決して動こうとしないだろうな。
幸いにも、ここに来た来訪者は奴らだけでは無い……“パエトーン”とその仲間達に手を貸してもらうとするか」
そう言って男は他のモノリサーに混じって何処かへ移動し、巨大なミアズマのコアが胎動し始める。
コアが蠢いた瞬間、ZONEの全てが、心臓の様に鼓動した。
『目を開け、周りを見るんだ“パエトーン”』
「……………生きてる?と言うかこの声は一体……」
崩壊していくリマンスク・ホロウに飲み込まれ、一生を終えると思っていたアキラは、何時まで経っても自らの身に何も起きなかった事に困惑する。
それと同時に聞こえてきた謎の声に急かされ、周囲を見渡すと半球状のエーテルの障壁がアキラ達を保護するように展開されていた。
「これってまさか……このアーティファクトのお陰か?」
まさかと思い、手に握るハート・オブ・チョルノービリを見ると、手のひらサイズの小さなホロウがエーテルの光を放射していた。
「……リンを蘇らせてくれたり、スキフさんを助けようとしていたり、もしかして君には“意志”があるんじゃ無いのか?」
アキラが語り掛けるように呟くと、小さなホロウは元の青い球体のアーティファクトに戻っていく。
それと同時にアキラ達を保護していたエーテルの障壁が粒子となって消えていった。
「これは……一体何が起こって……」
そうしてあらわになった光景にアキラは驚愕する。
半分だけのホロウ、異様な気配を放つ巨大なミアズマのコア、その先にある巨大施設と、そこを守る様に陣取るモノリサー達。
目の前の光景に呆然とするアキラの脳内に、またもや謎の男の声が響いて来た。アキラに持たされている通信機からではない。
『パエトーンよ、ぼさっとしている暇はないぞ、私の声が聞こえるかね?』
「っ……!お前は一体誰なんだ?!どうやって頭の中に……」
『私が誰か説明している暇は無い。君の目の前で起きている事は新エリー都の……いや、人類の存続に関わる事だ。まずはストライダーの懐から閃光手榴弾に似た形の物を取り、それを倒れた者達の中心部で起動しろ。
矢継ぎ早に話す謎の男を怪しむも、倒れる仲間達を見てアキラは急いで男の言う通りに動いた。
濃密なミアズマの侵食で苦しむストライダーに近づき、懐を探り始めると、意識が朦朧としながらストライダーが反応する。
「うう……パ…パエトーン。何をして……」
「少しこれを使わせて欲しい。これは武器なのかい?」
「そ……それは、対エーテル兵器用の、EMPだが……ぐうぅ……!」
『安心しろ、その兵器は人体には影響が無い。早くせねば侵食が不可逆な所まで進行するぞ』
「……わかった。悪いストライダーさん、これを借りるよ」
不思議な事に、正体も分からない怪しすぎる男の声に嘘は無いように感じられた。
取り敢えず仲間達の中心に向かい、手榴弾の要領でスイッチを入れて起動準備をする。
「本当にこれが皆の侵食を───うわっ」
ストライダーの持っていた謎の武器にやっぱり疑いを捨てきれないでいると、強烈な
アキラが眩しさに目を細める間に、その光に触れた者達の身体を蝕んでいたミアズマが次々と浄化されていく。
そこから少しすると、ミアズマに侵された者達が次々と立ち上がり始めた。
「ごほっごほっ……な…何が起きたでありますか……?そうだ……鬼火姉さん!しっかり───」
『とっくに再起動はしてるぞオルペウス……ミアズマのせいで意識が飛んでいたみたいだな……!トリガー、シード、11号!全員無事か!』
「問題ありません隊長……」
「僕も……何とか、大丈夫だよ〜 ビック・シードもね」
「プロキシさん、あなたが助けてくれたんですね。ありがとうございます」
「トリガー…!良かった、皆大丈夫そうだ!」
先に身を起こしたオボルス小隊が無事な事にアキラは喜んだ。その近くでストライダーが困惑したような表情で口を開く。
「パエトーン、俺の武器で一体何を……」
「待て待てそれよりもだストライダー、プロキシ!“スキフ”は何処に消えた!?」
ストライダーの近くで起き上がったリヒターが周りを見渡すが、この中にスキフが居ない事にリヒターが気が付く。
ハッとしたアキラが、全員がミアズマに侵され倒れていた間に何が起きたか説明とする前に、男の声が聞こえて来た。
『あのミアズマのコアだパエトーン。“あれ”にスキフは取り込まれ、始まりの主の化身が現れようとしている』
「……スキフさんは彼処だ。始まりの主のせいで、あのミアズマのコアにスキフさんが引きずり込まれてしまったんだ」
「おい……それは本当なのかプロキシ!?」
「は……始まりの主がスキフ殿を飲み込んでしまったでありますか!?」
『侵食のせいで意識が朦朧としていたが、君達の身に起きた事は少しは把握してる。だが本当に始まりの主とやらがスキフの身を……?』
オルペウスを始めとした多くの、始まりの主の名を知っている者達は驚愕するが、鬼火だけはあの状況で意識をある程度保っていた事もあって理解は早かった。
「ああ、何が起きるのか分からないけど、あのミアズマのコアは始まりの主の─────」
アキラがコアを指差した時、地面が……否、空間が大きく揺れた。
コアの胎動がより激しくなり、まるで蛹が羽化する様に歪み始める。
それを見たオルペウス達は武器を構え始めた。額から汗が流れ落ちて目にかかるが、このプレッシャーを前に目に染みる痛みなど全くもって感じやしない。
また、アキラの頭の中に男の声が聞こえ始めた。
『はっきりと言うが、君達では“あれ”の打倒は不可能と言えるだろう。しかし始まりの主と言えど力を制御するのは困難……あれからスキフを救い出せば、奴は力を制御しきれなくなり自壊する筈だ』
「スキフさんが……?じゃあどうすればスキフさんを引き剥がせるんだ?」
『君は雲嶽山で術法を学んだのだろう?あのコアから湧き出るミアズマを出来る限り浄化してくれれば、私の力で干渉が可能になる。君の仲間には始まりの主の足止めをさせろ。私の兄弟達……モノリサーが支援しよう』
「お前は……モノリサーなのか?でもリマンスクで出会った奴らと違うような……」
「あの、プロキシさん?先程から一体誰と……」
「ええっと、なんて言えば良いのか……」
脳内に聞こえる謎の男と会話していたアキラの声を聞き取ったトリガーが、武器をミアズマに向けたままアキラの方へ向く。
困惑しているトリガーにどう説明しようかアキラが頭を悩ましていると、より一層強大な鼓動と共にコアが割れ始めた。
まるで開花する様にミアズマのコアが変形し、そこから始まりの主が目覚めようとしていた。
『始まりの主がモノリスまで辿り着けば一巻の終わりだ、持てる力を全て使え』
謎の男の声はそれきり聞こえなくなってしまった。
冷静に考えて見れば、アキラ目線で幻聴すら疑える男の言葉に信用できる要素が何一つ無いのに「嘘を言っている口では無い」と思えたのは何故だろうか。
「聞いてくれ、僕が術法でミアズマを浄化して、スキフさんを助け出す。皆にはその間に、あのコアから現れる始まりの主の足止めをしてほしい。奴がモノリスまで辿り着いてしまったら、新エリー都が大変な事になってしまうらしいんだ」
「モノリスが彼処に……」
「あー……よく見ればあの施設X-1じゃないかよ。どうやら俺達ZONEの最奥部まで来ちまったみたいだ。あの時と違ってモノリサーとか言う連中が沢山いやがるぜ」
モノリスという言葉にストライダーが反応し、リヒターが見覚えのあるらしい景色に顔を顰めた。
「ミアズマを浄化していけば、取り込まれたスキフさんを助けられるかもしれない。あの施設にいるモノリサーは始まりの主を狙ってるみたいだから、こっちが撃たれる心配はしなくて良いと……思う」
『まさか確証が無いのか?』
謎の男に言われた始まりの主を打倒する方法を、仲間達が混乱しない様に噛み砕いて説明したつもりのアキラだったが、途中から男の言葉が信用に足るのか自信が無くなって尻すぼみになってしまい、鬼火は思わず呆れてしまった。
とは言え、今はそれに縋るしか無い。スキフが囚われ、厄そのものである始まりの主が目の前に現れようとしているのだ。これを黙って見ている訳には行かない。
「その通りだ……でも
『……君がそう言うなら、私達は信じるぞ。これより始まりの主との交戦を開始する!プロキシ君がミアズマを浄化しきるまで奴を抑え込む、進め!』
これまでの信頼を担保に、アキラを信じる事にした鬼火は全員に聞こえる様に声を張り上げ、他の者達は各々それに応える様に声を上げる。
そしていざ、ミアズマのコアまで向かおうとしたアキラの視線の先で、スキフを取り込んで目覚めた始まりの主の異様な姿が顕になった。
開花した巨大なミアズマのコアから現れた存在。その姿は一見、平凡なストーカーに──体躯からして女性的だ──見えるだろう。
白い謎の物質で構成された「レザージャケット」を模した服装。頭部のフードに隠れた表情は何一つ伺えない───もしかしたら表情というものが存在しないかもしれない。
その手には剣に変形したガウスガンの様な武器が握られていた。
より異質なのは背中に広がる“羽”だ。まるで天使のように広がった、“TVモニター”が繋ぎ合わされた、謎の画面を映し出す奇妙な羽。
“白衣のストーカー”と形容すべき姿形となった始まりの主は、実に興味深そうに自らの身体を眺めていた。
『かつての“伝説”らが、ZONEに足を踏み入れた時の、始まりの姿と言う訳か』
準備運動するかの様に腕を回した後、顔の向きを巨大施設へと向ける。
次の瞬間、無数の銃撃が始まりの主に降り注いだ。
「兄弟よ!火力を集中しろ!」
「汚れし主を討ち滅ぼせ!」
咄嗟に羽を使って防御体勢を取る。突撃してきたモノリサーの小隊からの攻撃が突き刺さっていく。
だが始まりの主は銃撃を物ともせず、「
「かいひ──────」
お互いに距離を空け、半円状に分散しながら攻撃していたモノリサーの小隊は一瞬にして全員紙吹雪の様に、全身を切り刻まれながら吹き飛ばされていった。
無残な骸と化したモノリサー達が、千切れた手足と一緒に地面にぼとぼと落ちていく。
「先鋒が全滅、第一防衛線攻撃開始」
仲間の惨状に一切怯まず、モノリサー達は塹壕から身を乗り出して始まりの主へと撃ち放った。
鋭いながらも何処かぎこちない動きで攻撃に対処しながら、始まりの主の周囲にミアズマの霧が集まっていく。
『やはり色々と混ざりあった“この身”では満足に動けないか。まぁいい、その為に“彼ら”がいる』
霧が濃密になっていくのにも構わず、モノリサーはひたすら敵を滅ぼそうと攻撃を続けていたが、突如霧の中から飛来した無数の銃撃を前に塹壕へと身を隠さざる得なかった。
「“近接戦闘”用意、備えろ!」
ミアズマからの銃撃から身を隠している間、モノリサー達はナイフやシャベル等の近接武器を片手に取り始めた。まるで何かが来るのを知っているかの様に。
『さぁ進め我が僕たちよ、今一度モノリスの下に向かえ、道は指し示した』
始めりの主が剣をモノリサーの防衛陣地に向けた時、ミアズマの霧から喚声が響き渡る。
何十、何百という喚声に、装甲車やヘリのエンジン音も一緒に聞こえて来た。それらは地面を揺らしながら、無数の足音を奏でている。
『У наступ! Вперед! Уpaaaaaaa!!!』
そして、霧を突き破るように次々とミアズマの兵士が姿を現した。
ミアズマの触手で覆われた、「AKM-74」に 「RPG-7u」と呼ばれる武器を持ち、これまたミアズマに包まれた迷彩服やアーマーを纏う、“青と黄色の二色”のマークを掲げた、ミアズマで造られた軍隊。
「
負けじとモノリサーの中の一人があらん限りの大声で叫んだ瞬間、機関銃やロケットランチャー、迫撃砲やガウスガンによる一斉射撃がミアズマの軍隊に振り注ぐ。
青い光弾がミアズマ兵たちに突き刺さる度に最前列からバタバタと倒れていき、幾つもの爆発が波と化した集団の中で炸裂して吹き飛ばしていく。
それでも勢いを緩めないミアズマの軍隊はそのまま塹壕の中に雪崩込んでモノリサーたちに襲い掛かっていき、待ち構えていたモノリサーもあらゆる武器を持ってしてミアズマの兵士に殴りかかっていった。
銃底で殴り倒し、銃剣で胸を突き刺し、ナイフで首を掻き切り、手榴弾の炸裂で相討ちに。
一瞬にしてホロウとX-1の境目は地獄のような混沌と化した、モノリサーとミアズマ兵が殺し合う戦場を横目に始まりの主は悠々と進み────頭部を狙った銃弾を斬り落とす。
一発だけでは無い、何発もの正確無比な射撃が襲い掛かり、それらも弾き返すと多数のミサイルまで飛来し着弾する。
『……よもや生きていたとはな、パエトーンの力……いや“あれ”のお陰か?狙いは解放者の奪還の様だな』
ミサイルの爆煙が吹き消されると、ほぼ無傷の始まりの主が後方のホロウに顔を向けていた。
その背中に向かって、数人のモノリサーが果敢に銃剣突撃を敢行する。
「汚れし主に死……を……!?」
『何をするつもりかは分からないが、邪魔をされるのも癪だ。排除しろ』
『Так точно』
戦場を潜り抜けて接近してきたモノリサーをあっさり両断した始まりの主が、ミアズマ兵の一部をホロウの方向に向かって送り出した。
『漸く一緒になれたのだ、決して
まるで恋する乙女のように自らの胸を抱く始まりの主。
彼女がX-1に振り向くと“緑の裂け目”が幾つも展開し、そこから放たれた青い閃光が裂け目の近くにいた多数のミアズマ兵を蒸発させた。
裂け目から現れたモノリス・エリート達は、激しい敵意の籠もった目で始まりの主を睨みつけていた。
「清浄なる世界を汚す邪神よ、嘘と欺瞞で塗り固められた
『ああ、なんと哀れだ。モノリスに全てを奪われし操り人形達。だが安心しろ、偽りの主からお前たちを解放し、我が救いの道を示そうではないか』
お互い会話する気など微塵も無い一方的な言葉を放ちながら、武器を構えて戦闘体勢に入る。モノリス・エリートの傍にはX-1から飛んできた戦闘ロボット「テューポーン」数体が着陸し、モノリサーの改修を受けて装備されたガウスカノンを始まりの主へと向けた。
「兄弟達よ……時間を稼ぐぞ、Za Monolith!」
「隊長、此方の攻撃は全て失敗。敵はそのまま前進を再開し、モノリサー部隊と交戦しています」
「ミサイルは直撃した筈なんだけどなぁ〜多分こっちの火力で何とかなる相手じゃないね。さすがカミサマって奴?」
『我々の事は眼中に無いと言う事か、なら更に近づいて直接叩くまでだ。だがその前に……』
リマンスク・ホロウ内部に存在した町の残骸に身を隠しつつ、始まりの主に対してトリガーとストライダーによる狙撃、更にビック・シードによるミサイル攻撃を行ったオボルス小隊だったがほぼ効果が無く、更には無視するかの様な始まりの主の行動に鬼火は銃口をぎりりと鳴らす。
そんな鬼火は、未だに異様な雰囲気を醸し出す巨大なミアズマのコアの周囲に集まりつつあるミアズマ兵へとその目を向けた。
『奴らを排除せねばな、ミアズマの装甲車まであるんじゃあプロキシ君が近づけん』
「あのミアズマの兵士達はクリアスカイでしょうか?イゾルデ大佐が召喚した時はオブシディアン大隊の隊員たちでありましたけど……」
「クリアスカイにも思えないわ、装備が似てるようで違うもの。でも古い記録で見たような気が……」
オルペウスが目を細めてムムムと言いながらミアズマ兵を偵察する。
讃領会の司教として活動していたイゾルデが生み出した、ミアズマのオブシディアン大隊と似たような存在だと言うのは分かるが、その見た目が大きく違っていた事で一体誰を召喚したのか彼女は気になっていた。11号曰くクリアスカイとも違うようだ。
「………やっぱり」
「ストライダーさん?どうかしたのかい?」
「いや、何でもない。大丈夫だ……リヒター、あの施設が本当にX-1なんだな?」
「そうだけど……今はあれを気にしてる時じゃないだろ」
「それは分かってる」
一方、「リンクス」のスコープ越しにミアズマ兵を見ていたストライダーが険しい表情をしていたのに気が付いたアキラが声を掛けるが、軽くはぐらかされた。
(間違いない、あれはIPSFに替わる前のZONEを監視していた
スキフが居ない今、唯一チョルノービリでの事を知っているストライダーはミアズマ兵の正体に気が付いていた。
ウクライナ正規軍───
彼らが始まりの主によってミアズマで造られたのは分かる。だが何故異世界のZONEで生み出されたミアズマの兵士達が、この世界では影も形もないウクライナ正規軍の姿で現れたのか、ストライダーは全くもって理解できなかった。
『Контакт! Ворог попереду!』
「鬼火隊長!敵が突撃を開始したであります!」
『第一目標はミアズマのコア!次に始まりの主だ!立ち塞がる敵は全て殲滅しろ!』
ミアズマのウクライナ軍がこっちへ向けて進撃を開始したのをオルペウスが確認し、鬼火は号令を掛け、オボルス小隊を率いてオルペウスと共に敵へ突っ込んでいった。
「オボルスに続けデューティ!前進せよ!」
「ここまで来たら最後までやるしかないなぁ!フリーダムの意地を見せたれやぁ!」
シュルガ率いるデューティ部隊は、オボルス小隊をサポートすべく突撃し、ロキ達フリーダムも後に続く。
最後に続くのはアキラと、彼を守る為に傍にいたリヒターとストライダーの3人だ。
「なぁ……君の方法で本当にスキフの奴をあのバケモンから助けられるのか?と言うか根拠はあんのかね」
「正直言って、信じてくれとしか言えないんだ」
「……スキフはよぉ、信用ならねぇ奴が多いZONEではアーティファクトより貴重な、数少ない信頼出来る人間で、俺の親友なんだ」
「僕にとってもスキフさんのことは大切な友人だ。必ず……必ず始まりの主から彼を救い出してみせる」
「なら君に賭けるぜプロキシ、それとストライダー!」
リヒターが軽くアキラの胸を小突き、ストライダーの方へと振り向く。
「アンタの目的はモノリスみたいだがな、だからといってX-1に向かったりするんじゃねぇぞ」
「そこまで恥知らずじゃあないさ。それにスキフは俺の仲間でもあるんだ、絶対に見捨てはしない」
「それを聞いて安心したぜ」
リヒターは安心したように「ブルドッグ6」に榴弾を装填し、ストライダーも「リンクス」にマガジンを叩き込んだ。
「僕も、リンも、ZONEではスキフさんに助けてもらった。今度は僕があなたを助ける番だ」
決意を胸に、アキラは仲間と共に戦場へと身を投じていく。友を救う為、たったそれだけを目的として。
────???
ふと目を覚ますと、穏やかな光に包まれた感覚が身体を支配していた。
日だまりの中で眠っているような、起きるのを躊躇うほどの気分に別れを告げて、スキフはゆっくりと身を起こした。
「…………ここは?」
ぼんやりする頭を叩きながら周りを見渡す。
目に映るのは沢山の向日葵が生い茂る謎の部屋────何処かの地下施設に植物が生い茂った様な、朽ち果てた空間だった。
はて、自分は何故こんな場所にいるのだろうか。
取り敢えず、向日葵をかき分けようと腕を伸ばした時、自分の服装がよく見えた。
ベージュのフード付きジャケットに、暗い青のジーンズ。手元に武器は一つもない。
「いや、俺はエクソスケルトンを着ていた筈だろ?武器だってまだ残って……」
思い出してきた。俺は確か、始まりの主とやらに取り込まれたんだった。アキラが助けようとしたが間に合わず、ズルズルと引きずれ込まれたんだ。
ミアズマで包まれた空間の中で、やけに此方に好意的な讃領会のカミサマらしき存在は、死人を模した姿で俺に─────
「畜生、なんでミアズマのゾンビみたいな奴にキスされなきゃなんないんだ」
自分の性的指向はそこまで歪んで無いとばかりに、口元を袖でゴシゴシ拭う。何故か心の奥底では悪い気はしない感じがしたのが余計に気分が悪くなってくる。
とにかく脱出だ。ここは何処だか分からないが早く行動しなければ抜け出せなくなるのは、ZONEでの様々なアノマリーと相対してきた経験から分かっていたからだ。
「……抜け出す事は不可能ですよ、何処にも出口はない」
何処へ続いているか分からない通路へ歩き出した瞬間、視界の端から声をかけられた。
声のする方向へ向くと、床一面を埋め尽くす向日葵の中に埋もれる様に、見覚えのある人物が横たわっていた。
「レベデフ……?」
「どこにも行けないなら、全てが一つになるまで、ここで休んでいましょう?スキフさん……」
間違いなくこの手で撃ち殺した筈の、生きている筈の無いクリアスカイの首魁は、生気の無い薄い笑みを浮かべながらスキフを見上げていた。