Zenless Zone Zero The S.T.A.L.K.E.R Who Wandered In 作:路肩の石ころ
新エリー都で唯一、この特殊な機材を使いこなせるプロキシ兄妹のアキラとリンは早速準備を終わらせる。これがあれば何時でもホロウに入りZONEへのルートを謎の超高性能スーパーAIのFairyと共に算出出来る…が。
普段、端から見て非常に仲の良い兄妹は少々言い争いをしていた。
「駄目だよお兄ちゃん。自分でZONEに行くのは危な過ぎるよ。」
「そうは言ってもニコ達をZONEから返すには帰り道の誘導も必要だ。外からは連絡が取れない上、ZONEには殆どプロキシが居ないと言うしね。最新のキャロットデータの算出も現地じゃ上手く行ってないと聞く。」
「だからってわざわざお兄ちゃんがついて行く事ないよ!ZONEはある意味ホロウの中よりすっごい危険な場所だって「トリガー」から聞いたじゃん!」
兄妹と親しい間柄にある防衛軍に所属する女性から、一年程前に出現したZONEに対する制圧作戦を行った当時の防衛軍の末路を聞かされた事がある。
新エリー都防衛軍、H.A.N.D、
だが、ZONEに存在した物は、零号ホロウの様な危険な環境で任務を経験した精鋭の人員が多く含まれていた筈のZONE制圧部隊にとって…余りにも未知の存在であった。
ミュータントはまだいい、確かに凶暴で強力な謎の生命体だが、大抵のエーテリアスと同じく対処可能な脅威だ。だがアノマリー、ZONEの異常現象は無数の人命を瞬く間に奪って行った。
曰く、進軍していた防衛軍の小隊が一瞬で一つに圧縮され、血肉の塊となった。
曰く、防衛軍の誇る戦闘ロボットが数秒で跡形も無く溶ける酸の沼が突如目の前に出現した。
曰く、ZONE内の施設に駐留していた者達が忽然と消え、通信機からは彼らが何処かに閉じ込められ、助けを求め、消耗し、そして発狂していく声が永遠と繰り返されていた。
ホロウには存在しない──否、特殊なホロウで偶に遭遇するかもという異常現象がZONEでは日常的に、ホロウよりも直接的に襲い掛かり、制圧部隊を食い散らかしていった。
極めつけは、それでも犠牲を乗り越えてZONEの奥地にたどり着いた制圧部隊を襲い、ZONEに駐留していた人員の殆どを壊滅させたあらゆる物を焼き尽くす死と破滅の赤い嵐───
これらの存在により制圧部隊はZONE掌握を諦め、逃げる様に撤退しZONEの境界線を監視するに留まるという事実上の白旗が上げられた結果、世間の一部から旧都陥落後の防衛軍に匹敵するようなバッシングが、制圧部隊に向けられていたのは未だ兄妹の記憶に残っている。
幸いにも二人にこの顛末を話したトリガーが所属しているらしい部隊や、普段プロキシ兄妹と懇意にしている対ホロウ六課の面々は、当時別のホロウ災害に対処しておりZONEの惨劇を回避出来た。
「リン、前に一度、ちょっとだけZONEに踏み込もうとした事を覚えているかい?その時H.D.Dシステムに異常が発生して何とか戻って来たことも。」
「覚えてるけどさぁ…」
そう、かつて兄妹は興味本位でZONEに向かったことがある。特殊なボンプ、イアスに同期してホロウで活動するパエトーンはH.D.Dシステムを使う事により、新エリー都で唯一ラグ無しでホロウ内通信が可能だ。
そんなイアスを操作しながら、ZONEを囲う共生ホロウでの仕事の帰り道、偶然ZONEへの亀裂を発見した。以前からZONEに興味を持っていたアキラとリンは、少しだけ、本当にちょっとだけZONEを見て帰ろうとしたのだが…
亀裂を覗いてZONEの景色をみた瞬間、悲鳴の様な通信の雑音が鳴り響き、H.D.Dシステムがダウンしイアスとの接続が切れたのだ。まるで、ZONEがH.D.Dシステムを激しく拒絶する様に。
結局、アキラ達との接続が切れたイアスが慌ててホロウ内に戻ると幸運にも接続が回復し、必死にホロウから脱出する羽目になったのは苦い思い出である。その後、ZONEに向かうという依頼は全て避ける様になったのだ。ニコ達にZONE行きの依頼をされた時に少し消極的だったのもこれが理由の一部だ。
「あの時のイアス、すっごい怯えてたでしょ?だから何か…何かが
「それだよリン。僕達はZONEについて何も知らないからこそ、知識を得る必要がある。………
「うぅ…あぁもう分かった!でもお兄ちゃん、絶対生きて帰って来てよ!もしもの事があったら化けて出てやるんだから!ニコ達と行って!」
「化けて出るなら僕の方じゃ無いかな……でも大丈夫だと思うんだ。
プロキシである二人はここ一年、かなり個性的な面々との付き合いが多くなった。その殆どは大きな陰謀等に巻き込まれたりする事のオマケ付きで。
この前など、H.D.Dシステムのアップデートによるホロウの立ち入りが可能になった事と同じ時に知り合ったパエトーンの
だからこそ、個性豊かな様々な人物と出会いで培った兄妹の人物眼はスキフが間違いなくZONEで生き抜いて来たベテランだと気付いた。
一見そこら辺の、何処にでもいる青年に見える彼は、狂った異常空間で無数の戦いと死を経験してきた人間なのを兄妹は感じとった。それでいて、スキフが友情に厚い男だと言う事も。
まぁ実際スキフはこの世界に友人と言える程の付き合いのある人間は一切居らず、前の世界でも俗っぽい言葉でいうとぼっちに相当する人間だと言うのは知る余地もない。だがリヒターを助けたいという思いは紛れもなく本物だ。
「何よ、リンの事説得出来たの?」
「ああ、僕もZONEに興味があるんだ。スキフさん、構わないかい?」
「分かった、時間が惜しい。行こう。」
そう言ってアキラは、スキフと邪兎屋の面々と共に、ZONEの周囲を囲む様に存在する共生ホロウへと向かって行った。
◆ ◆ ◆
結論から言うと、邪兎屋の腕前と、彼女達が雇ったプロキシの能力はスキフの想像以上であった。
あれ程スキフが彷徨い、エーテリアス共と苦労して戦い、何度も死にかけたホロウを呆気なく突破していったのだから。
(こいつらならプリピャチですら簡単に生き抜けるのでは?)
前の世界のZONEで最も危険な箇所の一つである
『うーん、待って……よしっ!この先だよ皆。ZONEの亀裂を見つけた!』
『亀裂の安定度は良好。閉じるまでの時間的猶予は十分にあると思われます。』
(それにしても…随分と高性能なロボットだな…この世界の技術は俺の世界よりも上みたいだ……だがなんでブラウン管テレビだったりビデオだったり所々レトロなんだ?)
スキフはもちもちと歩く目の前のイアスを見ながらこの世界の技術と
ビデオ屋の店先で待機していた時に目の前のCDショップから
(まぁ…ZONEに行けばそんな物、関係無くなる。この世界の人間じゃない俺は新エリー都に居場所なんて無いだろうな…どうせ前の世界の
ふとスキフは、異世界に来た自分の居場所について考える。ZONEの解放を願い、その為に戦い抜いたとは言え。スキフはZONEこそ自らの家などと思っている訳では無い。良くも悪くも、ZONEに対して自らの望みや愛着自体は持っていないのだ。
だからこそ、純粋にZONEの事だけを想い。ZONEの解放を成し遂げられる唯一の人間だったのだが。
そう考えている内に、ホロウの中のZONEへの亀裂にたどり着いていた事に気付く。目の前の亀裂は、リヒターと共にくぐった時や、ブラッドサッカーとの戦いで放り込まれたのと同じ様に揺らめいていた。
『到着!Fairy、ZONEの何処らへんに続いてるとか分かる?』
『申し訳ありません助手二号。ZONEに対するデータや観測情報は現状不足しており、何処に到達するかは分かりません。』
「大丈夫、僕達には頼れるガイドがいるからね。スキフさん、入った先が何処にあるか見れば分かるかい?」
「勿論だ、こっちにはPDAもある。俺が先に行って偵察してこよう。」
「うおおお!それ、TOPSがZONE専用に開発した多目的デバイスじゃねぇか!」
「何よビリー。このタブレットそんなに凄いやつなの?」
「凄いなんてもんじゃねぇ親分!ZONEで活動する人員用にTOPSが技術の粋を集めて作った奴だ!これ一枚で結構な金額するぞ!」
「ホントに〜?あたしにはただの古くて汚いタブレットにしか見えないぞ?」
そんな会話を尻目にスキフは息を吐いてから、ゆっくり亀裂へと進んで行った。
◆ ◆ ◆
亀裂を抜けるとZONEでよく見かける廃村の様な場所にたどり着く。スキフは自分に残された、唯一残弾が残っている銃であるPTMピストルを抜き、亀裂の周囲を警戒した。どうやら敵は居ないらしく、亀裂に手を突っ込み向こう側にサムズアップする。
「オッケー、安全みたいね。それじゃああんた達!我らが邪兎屋の、ZONEへの記念すべき第一歩を踏み出すわよ!」
「うおぉぉ…なんかめっちゃ緊張してきたぜ…ZONEのバケモンとかに俺の銃通用するっかなぁ!?」
「ZONEの怪物は機械人は食べないって言うからビリーは平気でしょ〜?」
「ええ、でも猫又は小さいから伝説のキング・ZONE・ミュータントに丸呑みにされてしまう。」
「いやいや!この素早い猫又サマが食べられるなんてあり得ないから!というかそれあの超低予算映画に出てきた奴だし!」
「そんな筈は無いわ、あれはZONEに迷い込んでしまった学生達が手持ち式カメラで記録したノンフィクション……」
邪兎屋がぞろぞろと亀裂に入って行く。アキラもそれに続いて行くが…
『お兄ちゃん。』 『マスター。』
リンとFairyからの呼びかけにアキラはイアスへ振り向く。
『行ってらっしゃい。絶対無事に帰ってきてね。』
『マスターの無事な帰還を、助手二号と共にお待ちしております。』
「ああ、絶対無事に帰って来る。約束だ…行ってくるよ。」
最愛の妹と頼れる電子の相棒の声を背に、アキラはZONEへの第一歩を踏み出して行った。