幼馴染と夢の使徒   作:限界ボンバーヘッド

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どこで切ればいいのかわからなくなったので今回は長めです。
初の主人公以外の視点、今回はクライ視点です。


3.どう考えても犯人

 足跡のクランマスター室。クランマスターの席に一人の男がいて、机に突っ伏していた。

 

 

 「ペトラに悪いことしたなぁ」

 

 「悪いと思ってるなら、謝ってくれてもいいんだぞ」

 

 

 気が付けば、昨日面倒ごとを押し付けた幼馴染がクランマスター室のソファに座ってそんなことを言っていた。

 

 

 「ペトラ!帰ってきてたんだね。あの後どうしたの?」

 

 「幻術と結界で分身作って逃げてきたんだよ。今回はけっこう本気で作ったから全員騙されてくれるでしょ」

 

 

 そんな会話をしていると、副クランマスターのエヴァが扉を破るかのような勢いで駆けこんできた。

 

 

 「どうしたのエヴァ。そんなに急いで」

 

 「ペトラさんもいたんですか、ちょうどよかったです。クライさん、すっぱ抜かれてます」

 

 「あー……まじか」

 

 

 エヴァは小脇に抱えていた新聞を机に置く。

 一面に大きく取り上げられた写真は昨日メンバー募集に使った店のものだ。ただし、入り口の上に掲げられていた看板は落ち、壁に大きな穴が空いていて、そこかしこが燃えている。大きな穴から乱闘するハンター達の姿が見えた。

 紙面のタイトルは『大手クラン、メンバー募集に幻影(ファントム)発生か!』

 

 

 「えーっと?意味が分からないけど、一般人の被害者は出た?」

 

 「幸いなことに、出てないみたいですね」

 

 「ならよし。それはそうとこの幻影(ファントム)ってなにがでたの?」

 

 「はっきりとは分かっていないんですが、玉虫色の不定形なものだったそうです」

 

 

 本当に意味が分からない。外なら宝物殿から出た幻影(ファントム)がいてもおかしくないけどここは帝都の中、幻影(ファントム)どころか魔獣すら入ってこられないはずなんだけど。

 そんなとき、さっきまで話していた白髪の幼馴染が少し冷や汗をかいているのに気が付いた。

 

 

 「ねえペトラ、さっき言ってた分身ってどんな形してるの?」

 

 「……イ、いやクライ。俺は自分の分身を作ったぞ」

 

 

 絶対に嘘である。いや、自分の分身は作ったのかもしれないけど。だってペトラは一回も人型(自分の形)の分身を作ったと言ってないのだから。

 

 

 「アークはなんか言ってた?」

 

 「……さっきラウンジで会いましたが、新聞見ながらげらげら笑ってました。気にしてなさそうでした」

 

 

 本当に心が広い男である。いやもう本当に彼のパーティーが足跡のナンバー2でよかった。

 新聞を放り投げ、宝具を磨く僕にエヴァは頭を抱えて言う。

 

 

 「酒場の弁償はどうしましょう?」

 

 「請求書はアークにつけといて。しっかり機会損失も計算して補填させるんだ。そういう約束であそこ借りたんだから」

 

 「いや、俺が払う。俺にもちょっと原因があるからな」

 

 

 ちょっとどころかほぼすべての間違いではないのか?いったいどんな魔法を使えばあれだけのハンターを本気にさせることができるのか。

 

 

 「それと、単協から苦情がきてます」

 

 「ペトラ行ってきて」

 

 「クライさんにです」

 

 

 一瞬で否定されてしまった。僕何もしてないのになんで?

 

 

 「面倒臭がらず、こっちに来てちゃんと説明しろと」

 

 「あー……呼び出しか………………ゲロ吐きそう」

 

 

 帝都はトレジャーハンターの街だ。それらを管理する最も大きい団体である『探索者協会』は大きな権力を持つ。名目上は『始まりの足跡(ファースト・ステップ)』もそこに所属しており、呼び出しの拒否権はない。

 

 

 「もう慣れてるでしょう。何回目ですか」

 

 「何回きても呼び出しだけは慣れないんだよ。帝都支部長のガークさん、あの人めっちゃ怖いんだよね。絶対何人か殺してる」

 

 「……俺も一緒に行くからさ、元気だしてくれクライ」

 

 「…………仕方ない、本当は行きたくないけど行ってくるか。ペトラもいるしね。変装用の宝具もこの間壊れちゃってさぁ」

 

 

 「大丈夫ですって。帝都ですよ?」

 

 「街中で襲われたことがないからそんなこと言えるんだよ。まぁ、全部潰したから最近はないけど」

 

 

 ここは一つ、この僕の華麗なる土下座スキルを見せてやるとするか。

 

 

§

 

 

 「迷惑かけてすいませんでしたーーーーーーーーーッ!!」

 

 「ッ!?」

 

 

 これは僕の持論だが、謝罪は誠意がとても大切だ。

 表では偉そうな態度を取っていたがあれは対外的なものであって、相手がガークさんだったらプライドを投げ捨てるのに何ら躊躇いはない。何しろもう情けないところを何度も見られている。

 

 

 「お、おい、クライ……?」

 

 「わざとじゃないんです。決して悪気があるわけじゃないんですッ! 一般人に迷惑かけないようにだけは考えてたし、ちゃんと事前に店のオーナーに話して壊す許可は貰ってたんですううううううううッ!!」 

 

 

 本当である。いつこんなことになってもいいようにそこらへんはちゃんとしているのだ。

 

 

 「大体、僕だってあいつらに本当に困っていて、ねえ? 止めても止まんないし、どうせなら盛大にやらせるしかないでしょうがッ!! ねぇ、僕がどうやって止めるんですか、あいつらをッ!! 僕だって止めたい。本当は止めたいよッ! やれるもんならやってみろや、このクソ野郎がああああああああッ!!」

 

 「おい……勢いで押し切ろうとするな」

 

 「大体、建物壊しただけでしょおおおおッ!? ちょっと紙面飾っただけで被害出てないし、クレームも来てないでしょおおおおお!? いいじゃん、建物壊すくらいッ! 人間壊すより全然いいじゃんッ! 賠償するしッ!! あそこのオーナーとは付き合い長いし超いい人だから大丈夫だよッ! 笑顔で許してくれるよッ!! アイス食べたい」

 

 「ま、まぁまぁ、落ち着いて、クライ君。支部長も、そんなに叱らなくても――被害届は出ていないわけですし」

 

 

 こんな僕にも単協の副支部長のカイナさんは優しくしてくれる。聖母か?

 

 

 「まだ叱ってないんだが……まぁいい。座れ」

 

 

 大人しくふかふかのソファに腰をかける。ゲロ吐きそうな気分が少しだけ緩和する。なんでペトラはなにも言わずに僕の後ろに立ってるの?

 と、気を緩めたところでガークさんがどかんとテーブルを叩いた。不意のそれに身体を震わせる。

 

 

 「こっちだって、クライ。呼び出したくて呼び出してんじゃねえよ」

 

 

 なら呼び出さないでほしいものである。こっちも呼び出されるのは大の苦手なのだ。

 

 

 「だがな、たとえクレームがなかったとしても――新聞に載るほどの事件になったんだ。ただで許しちゃ示しがつかねえ」

 

 「……?」

 

 

 許されるはずである。僕の知ってる単協なら余裕で。なんせ被害者がいないんだし。

 新聞には載ったが、気の短いハンターはいつだって何かしら起こしている。酒場半壊なんて大人しい方である。それを尻拭いのプロであるガーク支部長がわからないわけがない。

 

 

 「まさか、罰ゲームですか?」

 

 「……それと事情聴取だ」

 

 「事情聴取って?」

 

 「あの酒場で現れたスライムみたいな形したやつのことだ。お前なら知ってるだろ」

 

 「なにも知らないけど」

 

 「お前は情報を隠しすぎだ。自分の手の内を話したくないのはわかるが、それにしても隠しすぎだ。いったいあれはなんなんだ」

 

 

 ガークさんが机を叩く。これで壊れない机ってすごいな。職人の技ってやつか

 

 

 「いや、知らないものは知らないよ。ペトラだったら知ってるんじゃない?」

 

 「俺も知らない」

 

 「お前たち、いったいなにを隠しているんだ。クライはいつもだからいいとして、ペトラはいつもクライが言ってこない忠告をしてくるじゃないか」

 

 

 知らないからしかたないよね。でも多分それの原因ペトラだけど。

 

 

 「……まぁいい、持ってこい」

 

 

 カイナさんが革張りのファイルを持ってきて、僕の前に置く。

 

 

 「……選べ」

 

 「はーい」

 

 

 パラパラとファイルを流し読みする。

 今回の件、ペトラに任せてもいいよね。あぁガークさんそんなに睨まないでよ、考えただけじゃないか。

 

 

 「よし、決めた。ガークさん、この簡単そうな『骨拾い』貰います」

 

 「…………クライッ! 縁起でもねえこと言うなッ! 骨拾いじゃねえ、『遭難救助』、だ」

 

 

 ……どうせ生きてないって

 

 

§

 

 

 まるで嵐のようだった。

 緊急依頼のファイルを小脇に抱え、ガークに苦笑いを向ける。

 

 

 「……相変わらず、嵐のような子ですね……良かったんですか?」

 

 「……いーんだよ。あいつは調子に乗ってるくらいでちょうどいいんだ」

 

 

 額を押さえ、ガーク支部長がぶっきらぼうに答える。

 

 

 「それに、一番やばい依頼を持っていきやがった」

 

 「たしか、ペトラ君が予想してた依頼ですよね」

 

 「そうだ、やっぱりあいつらはなにか知ってる。鬼が出るか蛇が出るか……まぁ、クライが持っていったなら問題ねえってことだろう。態度はともかく――奴の目は確かだからな」

 

 

§

 

 

 「え? アークいないの? なんで?」

 

 「この間攻略した『白亜の花園(プリズム・ガーデン)』の件で貴族から呼ばれたらしくて……しばらく戻ってこないらしいです」

 

 「あー、そうか。タイミング悪いなぁ」

 

 

 ペトラも足跡ついた瞬間にどっか行っちゃうし。運が悪いな。

 

 

 「まーいいや。ラウンジで適当に暇そうな人見繕って振ろっと」

 

 「……緊急依頼を他人に押し付けるの、良くないですよ」

 

 

 クラン本部の二階にはラウンジがある。

 吹き抜けの高い天井に大きな窓から陽光が燦々と差し込む広々としたスペースだ。

 

 

 「……珍しいなぁ。誰もいないじゃん」

 

 「ますたぁ! おはようございます。今日はどうしたんですか?」

 

 

 昼間なのにティノしかいない。他の連中はどうしたのだ。

 ティノがそわそわ周囲を確認して、凄く懐いている子犬みたいな雰囲気を出して聞いてくる。

 

 

 「ますたぁ……お姉さまは?」

 

 「リィズ達なら、宝物殿だよ。レベル8の『城』、だ。今度こそ奥まで潜って何か持ち帰るって意気込んでた。しばらく戻らないんじゃないかなあ」

 

 

 僕の言葉に、ティノは数度瞬きして不思議そうな表情をしていたが、すぐに笑顔に戻ってその手の平を見せつけてきた。

 

 

 「そういえば、ますたぁ。これ、ゲットしました」

 

 

 まるで見せびらかすようにティノが左手をひらひらさせる。見覚えのある宝具指が収まっていた。

 

 

 「それペトラに任せたはずなんだけど。そういやあの後なにがあったの?」

 

 「ますたぁが出て行ったあとですか?それなら、酒場の中にスライムみたいなものが出てきて、苦戦してたらなんでか消えていました。この指輪はそのときにペトラお兄様からもらいました!」

 

 「ペトラとアークがいて苦戦したの?いったいなんだったんだろうね」

 

 「いえ、ペトラお兄様はスライムが出てくると同時に消えていました。似非イケメンはひときわ大きなスライムと戦っていました」

 

 

 やっぱり犯人はペトラじゃないか。

 

 

 「ますたぁ…………これは、本当に私にくれるのですか?」

 

 「嘘はつかないよ。あげるあげる、そんなので申し訳ないけど」

 

 

 安い弾指(ショット・リング)だけどね

 ティノも使ったりしていなかったはずだが、小さな歓声をあげてくるくる回っているのを見ると気にしないらしい。安い子だ。涙が出てくる。

 

 

 「ティノって今、暇なの?」

 

 「……え?はい!暇です!今暇になりました!」

 

 「丁度いい、探協から仕事が来てたんだよ。任せようかな」

 

 「…………え」

 

 

 ティノが鳩が豆鉄砲をくらったような表情をした。

 

 

§

 

 

 「ますたぁ、私は今、人生で一番ショックを受けています。乙女心がずたずたです。ますたぁが、そんな酷いことをする人だとは思いませんでした。騙された」

 

 「騙してない騙してない」

 

 「上げて落とされた」

 

 「落としてないし上げてもない」

 

 

 ヘタっているティノにファイルをぐいぐい押し付ける。

 

 

 「ほーらー、ティノー? 楽しい楽しいお仕事だよー? よかったなー、うりうり……」

 

 「ますたぁ、私のことを、都合のいい女だと思っていませんか?」

 

 「どうやら純粋だったうちのティノを汚したやつがいるようだな」

 

 

 いったい誰なんだ。見つけたらとっちめてやる。

 ティノがぐったりしながら目だけで文字を追い始める。

 

 

 「前代未聞のクソみたいな依頼です、ますたぁ」

 

 「うん、そうだね」

 

 「ますたぁ、私のレベルはまだ4です。若輩です。私としてもますたぁの役に立ちたいのは山々ですが今回は遠慮したく……ソロで五人も救出とか無理です」

 

 「うんうん。確かにティノの言いたいこともわかる。一人では行きたくないと、そういうことだね?」

 

 

 いやー本当にわかるよその気持ち。僕は複数人でも行きたくないけど。

 

 

 「ますたぁが一緒に来てくれるなら――」

 

 「あれだ。この間メンバー募集に来たハンターで、『白狼の巣』に行きたがってた人いたから、その人誘って連れていきなよ。ルーダって言ってたかなぁ?」

 

 「……え?」

 

 「あとは……、ギルベルト君とかグレッグ様とかどう?」

 

 「ますたぁ、あんなのに様なんてつけなくていいです」

 

 

 やっぱりひどいこと言うね君。

 

 自分の采配に満足する僕を、ティノが引きつった目で見ていた。

 

 

§

 

 

 ティノは今、ますたぁにパシリにされていた。

 探索者協会の帝都支部。

 いきなり現れたティノに、テーブルの一つで浮かない表情をしていた女ハンターが目を見開く。

 

 名前はルーダ・ルンベック。『白狼の巣』攻略のためのメンバーを求めて足跡の募集会場にやってきたレベル3のハンター。

 

 

 「な、何? 何なの? あ……昨日、クライと一緒にいた――」

 

 「一緒に来て、ますたぁから依頼」

 

 

 ティノは一方的に話して他のメンバーを探しに行った。




実は私かなりのアトピーで、この前寝てる間にかきむしって血まみれになったんですよ。
久しぶりに皮膚科に行ったらびっくりしました。現代医学ってすごいんですね、なんせ文字通り痒い所に手が届くんですから。

ここ笑う所ですよ。
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