どうせまた削除するだろうと思われるかもしれませんが、お付き合い頂けると幸いです。
魔界。
人間が住む地上と言う名の蓋で太陽は一切照らされず、まるで希望など一切存在していないように思われる暗黒の世界。
魔族と竜族しかおらず、仮に人間がいたとしても忽ちに殺されてしまう。魔界は『強さこそが全て』と言う絶対的な掟がある為、何の力を持たない脆弱な存在が生きる場所に適していない。故に神々は脆弱な存在――人間に平穏で豊かな地上を与え、更には太陽の恩恵を与えている。
余りにも人間だけを優遇している事を知った魔族の一人は、自分達を地下深くに閉じ込めた忌まわしき神々に激しい憎悪と殺意を抱いてしまう。
そして彼は決意した。
世界崩壊の計画を立てる魔族――バーンは長い時間を費やした結果、後に『魔界の神』を異名に持ち、地上に進出する際に魔王軍を結成する大魔王バーンとして君臨し、地上の人間達と壮絶な戦いを繰り広げる事になる。
人間など取るに足らない存在。そう認識している筈の彼は、今の時点で全く想像だにしないだろう。人間を脅威の存在と抱くのは、まだ何千年も遠い先の未来であるから。
バーンが魔界で着々と力を蓄え続けている最中、予期せぬ出来事に遭遇する。
「ふはははははは! 天界に住まう神々は武力を一切持たぬと聞いていたが、案外そうでもなかったようだな!」
「何度も言わせるな。私はその者達と異なる存在だ!」
魔界にある一つの領土で、バーンは見知らぬ男と相対しており、そして死闘を繰り広げながらも口論していた。
全身からあらゆるモノを浄化されてしまいそうな神聖な力を発している端整な顔立ちをした男は、魔族でも竜族でもなく、益してや人間でもない。明らかに神と思わしき存在であり、益してやバーンに匹敵する実力者でもあった。
当の本人は何故か否定しているが、魔族のバーンからすれば関係無い。一切の穢れを持たない神聖な力を持つ危険な存在が魔界にいる以上、何としても始末しなければならないのだ。
互いにあらゆる魔法や技を繰り出してる事で、領土は完全に更地状態となっている。そこに住んでいる魔族達が戦いの余波に巻き込まれないよう避難しても、巻き添えを受けて死んでいる者達も多数いた。
バーンと相対している男との死闘は、もう既にかなりの時間が経つ。だと言うのに、両者は互いに未だ余力を残しており、決め手に欠けている状態でもあった。
(何と恐ろしき男よ。まさか余を相手にここまで戦える存在がいたとは……!)
闘いが膠着状態になるも、バーンは内心目の前の男を心の底から称賛していた。
バーンが知る限り、自分と真っ向から戦える相手は竜族の冥竜王ヴェルザーを筆頭に、もはや指で数えるほどしかいない。尤も、ヴェルザー以外の強敵は殆どバーンによって殺されてしまったが。
しかし、目の前の男は、自身が放つ魔法や技を悉く防ぐだけでなく、逆に全く未知の力を使って反撃していた。その中で一番驚かされたのは、男が片手を前に出して『終末の光』と口にした時だ。その直後に光が放出されたのを見たバーンが防御技を使って対抗しようとするも、まるで通用しないと言わんばかりに自身の片腕が消滅されてしまったのだ。
あらゆる攻撃や魔法を防ぐ事が出来る自慢の防御技が一切効かず、加えて腕が一瞬で消された事に、流石のバーンも思わず恐怖を抱く程であった。当然そんな物は
そんなバーンの心情とは別に、彼と戦っている男は戦いに集中しながらも別の事を考えていた。
(まさか、この私が冥界と異なる世界へ訪れる事になるとはな……!)
今もバーンと互角以上に戦っている男は確かに天界に君臨する神であるが、この世界にいる存在ではなかった。
彼が冥界とは異なる魔界へ来ているのには理由がある。それは当然、自らの意思で来た訳ではない。
天界の第七天で『システム』の調整をしている最中、奇妙な事態が起きていた。突如、何もない筈の空間の周囲が歪み始めたかと思いきや、青白い穴が出現後、『システム』の近くにいた聖書の神を吸い込んだのだ。
聖書の神は抵抗していたが、予想外の不意打ちを受けてしまった為にミカエル達を緊急招集する事が出来ず、天界から姿を消してしまう事となった。
青白い穴に吸い込まれしまった彼が行きついた先は、自身の知る冥界ではない全く異なる世界――『魔界』だと後に知る。
聖書の神が魔界へ来た事を察知したバーンは、神聖且つ強大なオーラの持ち主に非常に興味を抱きながら考えた。もしかすれば、自分の目的を阻む為に天界の神々が送り込んだ刺客かもしれないと。
普段であれば様子を見てから行動に移すのだが、今回ばかりは自ら討って出ようと早急に動いている。これ程の相手は自分でなければ対処出来ないと見抜いた為に。
そして現在、数日戦っても未だに決着が付かないでいた。
(ええい! このままでは埒が明かぬ!)
壮絶な死闘を楽しんでいるバーンであったが、これ以上は計画に支障を来たしてしまうと考え、一気に勝負に出ようと不動の構えを取った。これこそがバーン最大の究極技であり、必勝の奥義である。
(? 何だ、あの構えは。今までとは全く違う……!)
左手を高く掲げ、右手を低く構え、急に動かなくなったバーンを見た聖書の神は瞬時に警戒する。下手に攻め込めば確実にやられると、本能的に感じ取ったのだ。
しかし、彼としても
互いに持てる最強の技を繰り出そうと動き出す瞬間――突如、状況が一変する。上空の空間に罅が入り、青白い穴が出現し、そして何故か聖書の神を吸い込もうとしていく。
「これは、まさか……!」
「貴様、何のつもりだ! この土壇場で逃げる気か!?」
「ち、違う! これは私の意思では……う、うわぁっ!」
青白い穴へ吸い込まれていく聖書の神が逃走を図ると思ったのか、バーンは酷く憤慨しながら叫んだ。
だが、否定する彼の発言も虚しく、穴は凄まじい勢いで対象を吸引後、そして消えた。
先程まであった死闘が急に無音の如く静かになり、今この場にいるのはバーンのみとなっている。
「……………」
自身が認める最大の強敵が突如姿を消した事で無言となるバーンは――
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
魔界全土を揺るがすほどに全身から大魔力を放出し、烈火の如く怒り狂う事になったのは言うまでもなかった。
余りにも後味が悪い結果となってしまった事に、バーンの中で最も苦い記憶として残り続ける事になる。
(結局、あの男は一向に現れなかった……)
あの凄まじい戦いから数千年以上の年月が経ち、大魔王バーンは計画を遂行しようと、部下を連れて地上への進出を決意する。
今のバーンは聖書の神と戦った時の若く精悍な姿と違い、肉体が酷く衰えた老人の姿に成り果てていた。尤も、それは
自身にとって強敵であったあの男との戦いは、今も唯一の心残りとなっている。お互いに最大の技で決めようとする寸前、突如水を差すようにいなくなってしまった為に。
どれだけ長く待ち続けても来る気配が全くなかった為、バーンは不本意ながらも断念し、『地上波滅計画』の準備を進める事にした。その際、魔界で見つけた優秀な片腕となった部下に、今も
「バーン様、地上進出の準備が整いました」
「ついにこの時が来ましたね」
バーンが玉座で少しばかり物思いに耽る中、自身の側近であるミストバーン、一つ目ピエロを肩に乗せているキルバーンが声を掛けた。
「うむ。では、行くとするか」
あの男が現れないのであれば、最早魔界に留まり続ける必要は無いとバーンは決断する。
地上を破壊させた後、自ら天界に攻め入って奴を引き摺り出せば良いだけなのだから。