「あ~……久しぶりの感覚だぁ」
天界にいた筈の
それがまさか、人間に転生した身で再び味わう事になるとは考えもしなかった。長年封印していた敵と再び戦うならともかくとして、現在も正体不明の歪みと遭遇するなんて猶更に。
自身の映る視界には、あの時と同じくただ青白いだけの何もない不気味な空間。ただ浮いているだけと思われるかもしれないが、身体に纏わり付いてる光の粒子によって何処かへ運ばれている。
抵抗は無意味なのを既に理解している為、俺はもう好きにしてくれと殆ど自棄になっている。例え
昔の
だが今の
すると、今も自分に纏わり付いている光の粒子に異変が起きていた。途端に閃光みたく破裂するように輝き、俺の身体を覆っていく。
「………此処は、何処だ……?」
咄嗟に目を閉じていた俺が数秒後に目を開けると、先程とは異なる場所にいる事を理解した。
少々目に悪い青白い空間とは違い、今度は人間界にある青い大空が広がっている。更に足元には覆い尽くす程の広大な雲が広がっていて、その上に俺は立っている。
雲と言うのは大気中に固まって浮かぶ水滴や氷の粒だから、本来は足を付ける事が出来ないどころか、そのまま落下してしまう。にも拘らず、一切飛翔術を使っていない俺がこうして雲の上に立っていられるのは、普通の雲ではないと言う証拠だ。
以前は『魔界』と言う冥界に少々似た世界だったが、今回はそれと全く違う事に少しばかり動揺している。
てっきりまたあそこへ連れて行かれて、再び大魔王バーンと戦うかもしれないと思っていたが、どうやら思惑は外れたようだ。俺としては、奴との再戦は吝かではなかったから、別にそうなっても構わないと思っていた。
それはそうと、この世界は一体なんだ? 自分が知らない未知の異界とは言え、此処は随分と澄み切っている。
「まるで、神だけが許される神聖な場所みたいだな」
――その通りです。
独り言の筈なのに、それに反応したように誰かが頷いた。
咄嗟に周囲を警戒しても誰一人おらず、あるのは青い大空と広大な雲だけ。
さっきの声は一体何だと疑問に思うも、それはすぐに解決した。突如目の前に穢れ無き光が輝き、徐々に弱まりながら光玉となって俺の前に現れる。
「何者だ?」
普通の人間であれば慌てふためくだろうが、様々な異形を見てきた俺や
俺は今も神の姿である為、取り敢えず神として接する事にした。本当なら人間の姿として対面したいが、異形の存在と言うのは人間を度々軽視する事がよくあり、ある程度強く出ておかないといけない。
――お初にお目に掛かります、異界の神よ。私は人間を創造せし神と名乗っておきます。事情がある故、どうかこの姿で対話する事を許して頂きたい。
自身の世界で人間を創造した
まさか自分と似た神と出会う事になるとは予想だにしなかったが、出来れば本当の姿で対面してみたかった。まぁ向こうが言ったように、諸事情で無理だと先手を打たれたので叶わないが。
けれど、それとは別に気になる事があった。
「その言い方から察して、どうやら私の事を知っているようだな。もしや私をこの世界へ連れて来たのは貴殿の仕業か?」
――仰る通りです。
少々非難めいたように問う俺に、創造神は嘘偽りなく肯定した。
「ほう、随分素直ではないか。貴殿が私と同じ神であるならば、もっと対等に話せば良かろう」
――神同士とは言え、我と貴方では力の差が余りにも違い過ぎます。益してや、大魔王バーンに匹敵する力を持つ貴方であれば。
「待て、大魔王バーンだと?」
質問に答えてる創造神が予想外の人物を口にした事に、俺は思わず目を見開いた。
久しぶりに聞いた名を、まさか目の前の神から聞くとは。そうなると此処は大魔王バーンがいる世界と言う事になる。
「確認させてくれ。大魔王バーンとは自らを『魔界の神』だと豪語していた、あの傲岸不遜な魔族の事か?」
――そうです。
再度此方の質問に答えた創造神は、大魔王バーンについて語り始めようとする。
大魔王バーンは
異界の神と呼ばれる俺も、それは絶対あってはならない事だと理解している。三つの世界が成り立っている事で
そんな大変馬鹿げた計画を知った神々は何故今まで放置しているのかと疑問に思うも、一応理由はあるようだ。どうやら神々は三界に住まう者達のやる事に干渉してはいけない誓約があり、例え誓約を破ったところで大魔王バーンには勝てないのだと。
前者はともかくとして、後者に関しては流石に
大魔王バーンの計画に神々すら手出し出来ない状態に陥っている中、予想外の事態が起きた。突如魔界にやってきた異界の神が、あの強大な力を持った奴と互角に戦っているところを目撃したらしい。それは当然、当時の
そこで神々はこう考えた。素性不明な存在であろうと、この世界の誓約に該当せず、バーンを倒せるかもしれない
ずっと聞き役に徹していた俺は、
神々が世界に干渉出来ない代わりとして、ある生物を生みだしたようだ。竜の戦闘力、魔族の魔力、人間の心を併せ持つ究極の生物――『
ならばそれを当てにすれば良いのではないかと思いきや、ここで大きな誤算が生じたとの事だ。頼りにしていた筈の
神々が生み出した筈の
「それで最早
――……返す言葉もありません。
人間ならまだしも、俺の言葉に創造神は敢えて受け入れていた。これまでの話は謂わば、この世界の神々の失態同然な内容であったから。
「一先ず其方の事情は理解した。貴殿らは
――その為に、我等神々は貴方をこの世界へお招きしました。
「成程。だがそれとは別に、神である
――それはご心配無用です。どのような事情があったのかは存じませんが、人間に転生された貴方であれば、問題無く地上へ行けます。
「……そうか」
やはり見抜いていたようだ。今の自分は神の姿でも、それはある意味
だが異端とは言え、今の俺は当時の
「なら結構。無理矢理連れてこられたとは言え、私としても決着を付けたいと思っていたところだから、今回は其方の頼みを引き受けるとしよう」
――感謝します。
「だがその前にこれだけは確認したい。事が終えたら、
――勿論です。それは必ずお約束します。
今のところ嘘か本当か分からないが、取り敢えずは信じておくとしよう。
もし後からになって、実はそんな方法など最初から無いとほざいた瞬間、
「分かった。それで、私はこの後どうすれば良い? 流石に何の準備や情報も無しに、着の身着のまま地上へ送るのは勘弁して欲しいのだが」
――……………。
引き受けた以上は相応の物を寄越せと遠回しに言った瞬間、創造神は少しばかり呆れるように無言となっていた。
神だから問題無いだろうと思ってるのかもしれないが、今の俺は人間として生きている。益してや自分の知らない地上なのだから、生活する為に必要な物ぐらいは提供して欲しい。