元神の冒険   作:さすらいの旅人

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元神と神の会合

「あ~……久しぶりの感覚だぁ」

 

 天界にいた筈の聖書の神(わたし)こと兵藤隆誠は、今は非常に懐かしい体験をしている。嘗て自分が天界の長として君臨していた大昔の頃、『システム』の調整中に突如時空の歪みが発生し、出現した青白い穴に吸い込まれ、そして強制的に未知の世界へ連行された。

 

 それがまさか、人間に転生した身で再び味わう事になるとは考えもしなかった。長年封印していた敵と再び戦うならともかくとして、現在も正体不明の歪みと遭遇するなんて猶更に。

 

 自身の映る視界には、あの時と同じくただ青白いだけの何もない不気味な空間。ただ浮いているだけと思われるかもしれないが、身体に纏わり付いてる光の粒子によって何処かへ運ばれている。

 

 聖書の神(わたし)能力(ちから)を使えば消し去る事が出来るかもしれないが、それは無意味な結果になるのでやらない。前回に試した事があり、光の粒子はずっと纏わり付いていたのだ。

 

 抵抗は無意味なのを既に理解している為、俺はもう好きにしてくれと殆ど自棄になっている。例え熾天使(セラフ)のミカエルや超越者の魔王サーゼクスがいたとしても、この空間の前では誰がいても無力だから。

 

 昔の聖書の神(わたし)であれば、例え無意味な事でも色々考えていただろう。神としての(無駄な)自尊心(プライド)や天界を導く使命、他にも色々なモノを背負っていた事もあって。

 

 だが今の兵藤隆誠(おれ)は違う。人間界で経験した様々な娯楽の中に、漫画やラノベで読んだファンタジー系の異世界召喚を再び体験しているんじゃないかと考えている。大変不謹慎だと重々承知しているが、それはそれで案外面白そうかもしれない。何事もポジティブに考える余裕が出来た自分を誰か褒めて欲しいが、却って虚しいので胸の内に閉まっておく。

 

 すると、今も自分に纏わり付いている光の粒子に異変が起きていた。途端に閃光みたく破裂するように輝き、俺の身体を覆っていく。

 

「………此処は、何処だ……?」

 

 咄嗟に目を閉じていた俺が数秒後に目を開けると、先程とは異なる場所にいる事を理解した。

 

 少々目に悪い青白い空間とは違い、今度は人間界にある青い大空が広がっている。更に足元には覆い尽くす程の広大な雲が広がっていて、その上に俺は立っている。

 

 雲と言うのは大気中に固まって浮かぶ水滴や氷の粒だから、本来は足を付ける事が出来ないどころか、そのまま落下してしまう。にも拘らず、一切飛翔術を使っていない俺がこうして雲の上に立っていられるのは、普通の雲ではないと言う証拠だ。

 

 以前は『魔界』と言う冥界に少々似た世界だったが、今回はそれと全く違う事に少しばかり動揺している。

 

 てっきりまたあそこへ連れて行かれて、再び大魔王バーンと戦うかもしれないと思っていたが、どうやら思惑は外れたようだ。俺としては、奴との再戦は吝かではなかったから、別にそうなっても構わないと思っていた。

 

 それはそうと、この世界は一体なんだ? 自分が知らない未知の異界とは言え、此処は随分と澄み切っている。

 

「まるで、神だけが許される神聖な場所みたいだな」

 

 ――その通りです。

 

 独り言の筈なのに、それに反応したように誰かが頷いた。

 

 咄嗟に周囲を警戒しても誰一人おらず、あるのは青い大空と広大な雲だけ。

 

 さっきの声は一体何だと疑問に思うも、それはすぐに解決した。突如目の前に穢れ無き光が輝き、徐々に弱まりながら光玉となって俺の前に現れる。

 

「何者だ?」

 

 普通の人間であれば慌てふためくだろうが、様々な異形を見てきた俺や聖書の神(わたし)には、目の前の存在に一切動揺しない。

 

 俺は今も神の姿である為、取り敢えず神として接する事にした。本当なら人間の姿として対面したいが、異形の存在と言うのは人間を度々軽視する事がよくあり、ある程度強く出ておかないといけない。

 

 ――お初にお目に掛かります、異界の神よ。私は人間を創造せし神と名乗っておきます。事情がある故、どうかこの姿で対話する事を許して頂きたい。

 

 自身の世界で人間を創造した聖書の神(わたし)と共通する所がある神、か。

 

 まさか自分と似た神と出会う事になるとは予想だにしなかったが、出来れば本当の姿で対面してみたかった。まぁ向こうが言ったように、諸事情で無理だと先手を打たれたので叶わないが。

 

 けれど、それとは別に気になる事があった。

 

「その言い方から察して、どうやら私の事を知っているようだな。もしや私をこの世界へ連れて来たのは貴殿の仕業か?」

 

 ――仰る通りです。

 

 少々非難めいたように問う俺に、創造神は嘘偽りなく肯定した。

 

「ほう、随分素直ではないか。貴殿が私と同じ神であるならば、もっと対等に話せば良かろう」

 

 ――神同士とは言え、我と貴方では力の差が余りにも違い過ぎます。益してや、大魔王バーンに匹敵する力を持つ貴方であれば。

 

「待て、大魔王バーンだと?」

 

 質問に答えてる創造神が予想外の人物を口にした事に、俺は思わず目を見開いた。

 

 久しぶりに聞いた名を、まさか目の前の神から聞くとは。そうなると此処は大魔王バーンがいる世界と言う事になる。

 

「確認させてくれ。大魔王バーンとは自らを『魔界の神』だと豪語していた、あの傲岸不遜な魔族の事か?」

 

 ――そうです。

 

 再度此方の質問に答えた創造神は、大魔王バーンについて語り始めようとする。

 

 大魔王バーンは聖書の神(わたし)と戦う以前から、とある計画を進めていた。『地上破滅計画』と言う、地上、魔界、天界、この三世界の秩序を乱そうとする恐ろしい計画を。

 

 異界の神と呼ばれる俺も、それは絶対あってはならない事だと理解している。三つの世界が成り立っている事で均衡(バランス)が保たれているところを、突如一つの世界が失えば大いに崩れてしまう。もし地上が消滅してしまえば、天界や魔界とて決して徒では済まない。場合によっては、残り二つの世界すらも崩壊する可能性すらある。バーンのやろうとしていることは、正に『神をも恐れぬ行為』と言えよう。

 

 そんな大変馬鹿げた計画を知った神々は何故今まで放置しているのかと疑問に思うも、一応理由はあるようだ。どうやら神々は三界に住まう者達のやる事に干渉してはいけない誓約があり、例え誓約を破ったところで大魔王バーンには勝てないのだと。

 

 前者はともかくとして、後者に関しては流石に聖書の神(わたし)も呆れざるを得なかった。勝てないのが初めから分かってるなら、対抗する為の手段を考えるか、力を付ける為の修行をすれば良いのだが、残念ながらこの世界の神々は自ら鍛えて強くなるという考えは無いみたいだ。尤も、それは神として共通の事である為、ある意味当然であった。寧ろ、人間に転生した聖書の神(わたし)が『修行する』という発想自体が異端なのだ。

 

 大魔王バーンの計画に神々すら手出し出来ない状態に陥っている中、予想外の事態が起きた。突如魔界にやってきた異界の神が、あの強大な力を持った奴と互角に戦っているところを目撃したらしい。それは当然、当時の聖書の神(わたし)だ。

 

 そこで神々はこう考えた。素性不明な存在であろうと、この世界の誓約に該当せず、バーンを倒せるかもしれない異界の神(わたし)に頼むしかないと。だが、俺が途中で元いる世界へ帰還した事によって、自分を再びこの世界へ呼び寄せるのに、何千年もの時間を費やしてしまう事になったらしい。

 

 ずっと聞き役に徹していた俺は、聖書の神(わたし)を捜す暇があるなら別の方に尽力しろよと内心非常に呆れていたが、一応向こうもそれなりの対抗手段を講じていたようだ。

 

 神々が世界に干渉出来ない代わりとして、ある生物を生みだしたようだ。竜の戦闘力、魔族の魔力、人間の心を併せ持つ究極の生物――『(ドラゴン)の騎士』とやらを。

 

 (ドラゴン)の騎士とは、人間、魔族、竜の三種族の中から世の中の秩序を乱そうとする者が現れた時に粛清し、世界の平和を維持するという大きな使命を神から与えられた戦士。生まれ持った力と魔力に加え、代々の竜の騎士から受け継がれてきた戦いの遺伝子とやら備え持っている事で、戦闘能力が桁外れに高いそうだ。

 

 ならばそれを当てにすれば良いのではないかと思いきや、ここで大きな誤算が生じたとの事だ。頼りにしていた筈の(ドラゴン)の騎士が、何と大魔王バーンの配下になってしまったらしい。

 

 神々が生み出した筈の(ドラゴン)の騎士が、神々から恐れている大魔王バーンに与するなど余りにも皮肉な結果だ。流石の神々も、我が子同然である(ドラゴン)の騎士から牙を向けられる存在に変貌するなど完全に予想外だったかもしれない。

 

「それで最早聖書の神(わたし)に頼るしかないと結論に至った訳か。異界とは言え、随分情けない神々がいたものだ」

 

 ――……返す言葉もありません。

 

 人間ならまだしも、俺の言葉に創造神は敢えて受け入れていた。これまでの話は謂わば、この世界の神々の失態同然な内容であったから。

 

「一先ず其方の事情は理解した。貴殿らは聖書の神(わたし)に大魔王バーンだけでなく、その(ドラゴン)の騎士も対処して欲しいと言う事で良いのか?」

 

 ――その為に、我等神々は貴方をこの世界へお招きしました。

 

「成程。だがそれとは別に、神である聖書の神(わたし)が地上へ足を運んでも大丈夫なのか? 確か神々は地上に干渉出来ないのであろう?」

 

 ――それはご心配無用です。どのような事情があったのかは存じませんが、人間に転生された貴方であれば、問題無く地上へ行けます。

 

「……そうか」

 

 やはり見抜いていたようだ。今の自分は神の姿でも、それはある意味(がわ)みたいなモノで、本当の俺は人間の身体と(こころ)を持った異端の存在。当然、この創造神が見抜けない訳が無かった。

 

 だが異端とは言え、今の俺は当時の聖書の神(わたし)よりも(それなりに)強いと自負している。大切な家族を守る為なら、俺は何だってやる覚悟を持っているのだから。

 

「なら結構。無理矢理連れてこられたとは言え、私としても決着を付けたいと思っていたところだから、今回は其方の頼みを引き受けるとしよう」

 

 ――感謝します。

 

「だがその前にこれだけは確認したい。事が終えたら、聖書の神(わたし)を元の世界へ返してくれるのだろうな?」

 

 ――勿論です。それは必ずお約束します。

 

 今のところ嘘か本当か分からないが、取り敢えずは信じておくとしよう。

 

 もし後からになって、実はそんな方法など最初から無いとほざいた瞬間、聖書の神(わたし)は容赦なく粛清するつもりだ。その後に聖書の神(わたし)なりの方法で次元の狭間の穴を開けて、どうにか帰らせてもらう。

 

「分かった。それで、私はこの後どうすれば良い? 流石に何の準備や情報も無しに、着の身着のまま地上へ送るのは勘弁して欲しいのだが」

 

 ――……………。

 

 引き受けた以上は相応の物を寄越せと遠回しに言った瞬間、創造神は少しばかり呆れるように無言となっていた。

 

 神だから問題無いだろうと思ってるのかもしれないが、今の俺は人間として生きている。益してや自分の知らない地上なのだから、生活する為に必要な物ぐらいは提供して欲しい。

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