元神の冒険   作:さすらいの旅人

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六大将軍との戦い②

 敵幹部の弱さに疑問を抱きながらも、俺は大魔王バーン率いる魔王軍を殲滅する為に、奴等が集結していると思われる場所へ向かっていた。

 

 飛翔術で移動している最中、魔王軍の拠点と思わしき塔を発見する。如何にも人間が住むとは思えない造りをしている以外に、その周囲には猛毒と思わしき瘴気が充満している。何の力を持たない人間が立ってるだけで悶え苦しみ、場合によっては死んでしまうだろう。

 

 猛毒の瘴気による影響か、生い茂っていた筈の草木が枯れており、土壌も悍ましく変色し、所々に毒沼も湧き出している始末だった。多分この周辺は自然豊かな場所だったが、瘴気の所為で地獄同然の光景に変貌したと言ったところか。

 

 自分が関知しない異界の地上とは言え、美しい自然が汚されるのを見ると、聖書の神(わたし)としては痛ましい気持ちになる。あの不気味な塔を拠点にしてる魔王軍を始末した後、能力(ちから)を使って元に戻しておく必要がありそうだ。

 

「ん? あれはっ!」

 

 事後処理を考えながら、もう少しで辿り着きそうになるも、突如自分よりも更に上空から炎と吹雪が襲い掛かろうとしていた。咄嗟だったので真横へ移動して躱すも、炎と吹雪が再び放ってくる。

 

 一刻も早く塔へ向かいたいが、先ずは攻撃を仕掛けている奴を始末した方が良いと考え、俺は一旦降下する事にした。

 

 此方が降下するのを見たのか、先程まで放たれていた炎と吹雪が突然止んだ。猛毒の瘴気によって侵されている地上へ着地すると、俺と同じく誰かが降下して地面に激突する。その所為で土煙が飛び交うも、それはあっと言う間に霧散して姿を現す。

 

 目の前には軽装な格好で三節混らしき武器を持った男がいる。目元だけを隠す仮面を付けており、上半身が青色、下半身が赤色で、如何にも人間とは思えない肌をしていた。見るからに悪魔、ではなく魔族だろう。

 

「お前も六大将軍とやらの一人か?」

 

「如何にも。我が名は『氷炎将軍ブレーガン』、見ての通り侵入者を討ち取りに来た」

 

 敵からの問いを律儀に答えてくれる魔族――ブレーガンに、俺は思わず感心した。

 

 もうとっくに仲間が殺されているのを知っている筈であろうに、よくもまぁ会話に乗ってくれるものだ。

 

「其方のお仲間さんが死んだのに、お前は随分冷静なんだな」

 

「確かに思うところはあるが、それは奴等が弱く、貴殿が強かっただけの話だ」

 

 武人気質でありながら弱肉強食の考えも持っており、おまけに相手に対する敬意もあるか。

 

 すると、ブレーガンは手にしている三節混を構えようとする。

 

「加えて私は、強者との戦いに目が無くてな。ベグロムとダブルドーラを簡単に討ち取った貴殿に興味がある。良ければ名を教えてくれないか?」

 

「……リューセー・ヒョウドウ。それが俺の名だ」

 

 流石に異界から来た元神とはバカ正直に答える訳に行かない為、この場は人間の名で通す事にした。別に嘘は吐いていないし、今の人間の姿が本当の自分だから、な。

 

 もし大魔王バーンと直接対決する前に自分の正体を口外してしまえば、奴は絶対に警戒するどころか、『地上破滅計画』を早めてしまう恐れがある。尤も、バーンが今でも聖書の神(わたし)の事を憶えていたらの話だが。

 

 とは言え、聖書の神(わたし)はこれまで通り、兵藤隆誠として活動するつもりだ。神と言う存在はどの世界でも、基本的に余りよろしくない存在だと言う事を自分が一番身に染みているから。

 

「リューセー・ヒョウドウか。その名、(しか)と覚えたぞ」

 

「それはどうも」

 

 武器を持つ武人に合わせようと、俺も武器を使う事にした。収納用異空間より取り出したのは、(聖書の神(わたし)がいる方の)天界へ来た時にミカエル達から賜った聖剣『エクスカリバー』。

 

 エクスカリバーと言っても、コレは天界側が制作したレプリカに過ぎず、本物に比べれば5分の1程度の力しかない。敢えて命名するなら、『エクスカリバー・レプリカ』。因みに本物であるエクスカリバーはゼノヴィアが持っており、彼女を含めたイッセー達も俺がこのレプリカを持っている事を知らない。人間界に戻ったら教える予定だったが、今は異界の地上へ来る破目になって今に至る。

 

 他にも武器はあるが、折角ミカエル達が丹精込めて作った武器なので、試すには丁度良い機会である為に使う事にした。

 

「! 何だ、その武器は……!?」

 

 俺が出した直剣の形状をしたエクスカリバーを見たブレーガンは、途端に警戒する。いや、怯えていると言った方が正しいか。

 

 どうやら魔族にも恐怖は伝わるようだ。聖剣とは魔を滅する力を備わっており、それに該当する者達が恐怖するのは当然と言えよう。

 

「どうした? 急に怖気づいたように見えるが」

 

「……違うな。これは武者震いと言うやつだ!」

 

 ちょっとばかり挑発染みて言う俺に、虚勢を張るように己を鼓舞しようとするブレーガン。

 

「参るぞ、リューセー・ヒョウドウ!」

 

 直後、奴は武器を構えながら此方へ突進してくる。

 

 俺も相手に合わせようと、天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)を発動させ、そのまま突進して高速の一撃を繰り出した。

 

「がっ! ば、バカな……!」

 

「ほう。レプリカと言っていたが、結構使えるじゃないか」

 

 ブレーガンには(天閃(ラピッドリィ)を発動しての)俺のスピードを捉えれなかったみたいで、持っていた三節混ごと身体を斬り裂かれる事となった。同時に聖剣を受けた事で大きなダメージを負い、そのまま倒れて絶命する。

 

 対して俺は攻撃しながら通り過ぎた後、倒した相手に目もくれず、エクスカリバー・レプリカの性能に感心していた。

 

 さっき発動させた天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)は、使い手のスピードを底上げして高速の攻撃を繰り出せる事が出来る能力の一つ。これを含めた計七つの能力があるけど、後に使う機会が訪れたら語るとしよう。

 

 使い手が通常の聖剣使いであるなら5分の1程度の力は余りにも弱いが、俺にとっては丁度良い武器だ。今の聖書の神(わたし)は転生した事で半端な存在になっているから、ある意味お似合いな武器とも言える。案外ミカエル達は、それを分かった上で聖書の神(わたし)にコレを寄越したかもしれない。

 

「悪いけど、俺は行かせて――」

 

「ウォォォォーーーー!!」

 

 倒れているブレーガンに一瞥して去ろうとするが、何やら慟哭めいた雄叫びが周囲に響き、此方に近付いて来た。

 

 現れたのはミノタウロスと思わしき巨漢の獣人モンスター。体格に合う大きな鎧を身に纏い、巨大な戦斧を片手に持っており、如何にもパワー重視と言える戦士タイプ。

 

 ソイツは俺に襲い掛かって来るかと思いきや、既に死亡しているブレーガンの方へ向かっていた。

 

「ブレーガン、まさかお前が敗れるとは……!」

 

 あの様子から見て奴も六大将軍なのだろう。死んだブレーガンとは親しい関係だったのか、奴の死に酷く悲しんで涙を流していた。

 

 魔王軍の中にああ言う仲間思いな奴もいるのかと思っている中、ミノタウロス型のモンスターは途端に此方へ視線を向け、段々と怒りの表情へと変貌していく。

 

「貴様、よくも我が友をやってくれたな! 絶対許さんぞ!」

 

「その台詞を聞くと、何だか俺が悪役になってる感じがするなぁ……」

 

 友の仇を討つと言うのは少年漫画に登場する主人公側の仲間が言う台詞だから、敵側から聞くと少しばかり複雑な気持ちだ。

 

 別に俺は正義目的で大魔王バーンを倒すのでなく、異界の創造神から頼まれて、あの時の決着を付ける為の障害になる魔王軍を倒しているだけに過ぎない。尤も、向こうからすれば知った事ではないが、な。

 

「この『百獣将軍ザングレイ』が貴様を殺す! ブレーガンの仇ぃぃぃ!」

 

 自らザングレイと名乗ったモンスターは、全身全霊を込めたような一撃を繰り出そうと、猛牛の如き突進をしながら戦斧を振り翳していた。

 

 ブレーガン以上の巨漢であるにも拘わらず、予想以上の速さで俺に迫って来る。

 

「ッ! しまった!」

 

「死ねぇぇぇぇ!!」

 

 眼前に迫ってきたザングレイが振り下ろしてくる戦斧に、俺は咄嗟にエクスカリバーで防ごうとするも一足遅かった。

 

「がぁっ!」

 

 防いだ剣ごと叩き折り、身体を斧の刃によって斬り裂かれてしまい、凄まじい勢いで血が噴き出しながら倒れていく。先ほど倒したブレーガンみたいに。

 

 それを見たザングレイは勝利の雄叫びをあげようとする。

 

「ウオォォォォォ!! ブレーガン、お前の仇をガハッ!!」

 

「残念、惜しかったな」

 

 勝ったと思い込んでいたザングレイの背後から、本物の俺(・・・・)は手にしているエクスカリバーで突き刺していた。

 

「き、貴様、何故生きて……!?」

 

「さぁ? 何故だろうな」

 

 敵の質問に答える気が無い俺は敢えて惚ける事にした。

 

 種明かしをすれば、ゼノヴィアやイリナを含めた教会関係者の戦士達なら分かる。さっきザングレイが叩き斬ったのは、エクスカリバーの七つある能力の一つ――『夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)』で作った俺の残像。役目を果たしたソレは、もう既に消えている。

 

 夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)は、相手を幻術で惑わせたり眠っている間に、その夢を支配したりする事が出来ると言う魔法的側面の強い能力。戦闘ではフェイントとして利用する事も出来る。見事に引っ掛かったザングレイのように、な。

 

 更に補足すると、聖書の神(わたし)のオーラも与えた事で、作り出された残像は本物に近いモノとなっている。斬った感触や、身体から噴き出た血液も含めて。故にザングレイは、俺を倒したと誤認した訳である。

 

「む、無念……!」

 

 そして俺に背中から突き刺されたザングレイは、急所を貫かれた他、聖剣によるダメージで息絶えた。

 

 俺が剣を引き抜くと、死体は両膝を地面に付いて倒れていく。

 

 あの弱いガーゴイルやリビングアーマーと違い、少しばかり惜しい奴等だった。武人気質なブレーガンと仲間思いのザングレイは、出来れば違う出会い方をしたかったと思うほどに。

 

 さて、これで残りは三人になったな。

 

 

 

 

 

 

「バカな! ベグロムやダブルドーラだけでなく、ブレーガンとザングレイまでもが敗れただと!?」

 

 場所は隆誠が向かおうとしている塔の最上階。

 

 自身が最も信頼している部下達が次々と討ち取られている報告が再び入り、ガルヴァスは酷く狼狽していた。

 

「な、何たる事だ!」

 

「ガルヴァス様、このままでは……!」

 

 彼だけでなく、『不死将軍デスカール』と『妖魔将軍メネロ』も同様の反応を示している。

 

 既に四人の将軍が討たれ、戦力が表の六大団長以上に戦力を失う結果になってしまった。

 

(不味い、不味いぞ! これがバーン様やハドラーの耳に入れば、間違いなく我々の立場が危うくなる! 一体どうすれば……!)

 

 魔軍司令ハドラーの影武者として活動してるのに、正体不明の人間に次々と部下達がやられたなど、とんでもない失態であった。

 

 相手が予想外の強敵とは言え、ここまで無様な結果を知られたら最後、ガルヴァスが思ってる通り(ただ)では済まされない。場合によっては担当区域を任されたバーンより、処刑命令が下される可能性も充分ある。

 

 故にガルヴァスは焦ると同時に、この状況をどうにか打開しなければと必死に考えているが、全くと言っていいほどに思い付いていない。豪魔軍師と呼ばれている彼は策謀に長け、非常に冷酷で残忍なのだが、不測の事態(イレギュラー)に滅法弱いのだ。

 

 軍師と言うのは綿密に策を練るから、それを急に崩されてしまったら焦ってしまう脆い面もある。今のガルヴァスが正にソレだった。

 

(くそっ! こうなれば私が直接討って出るしかない……!)

 

 状況を打開する為に考えるガルヴァスだが、部下達を倒す正体不明の人間相手に、今更小賢しい策を講じたところで勝てる相手じゃないと悟った。

 

「デスカール、メネロ、今から私と共に――ぬぉッ!」

 

「ぐっ!」

 

「きゃあっ!」

 

 出撃するぞと言おうとするも、突如広間にある壁の一部が爆発した。

 

 ガルヴァスだけでなく、デスカールとメネロもいきなりの事に驚きながら、すぐに爆発した方へと視線を向ける。

 

 壁が壊されたことで外が見えるのだが、何とそこには――。

 

「き、貴様は……!」

 

「どうも。不躾ながら勝手に上がらせてもらうよ、魔王軍の皆さん」

 

 先程まで自身の大事な部下達を討ち取っていた存在――隆誠がいて、ガルヴァスの方へ視線を向けていた。

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