魔法少女を護る者 作:歯車
更紗燈矢君。
何か大きな怪我をして病院に来ていた人。院内を肝試ししていた時、灯火ちゃんが出会った人。
隔離病室だったらしいけど、夜更かしして読んでいた本が灯花ちゃんも気になっていた本みたいで、大人よりも頭のいい灯花ちゃんが自分からお父さんに頼んでに入院の間だけ勉強を教える事になった人だ。
私の料理についても健康と味、両方のレベルを上げる手伝いをしてくれた。
優しくて頭も良くて………か、顔もかか、か格好良くて。その、初恋だったと思う。
その人と瓜二つ、なんだけど………。
「病院ねえ。生まれてこの方病院なんざ行ったことねえけど」
「それは健康的ねぇ」
「いや、赤ん坊の頃とか覚えてねぇだけで流石に行ってるだろ………」
「じゃあ物心ついてから」
本当に心当たりがないのか尋ねるが、岸はそういって記憶にないという。じゃあ本当に別人? 実は生き別れた兄弟だったり…………。
「兄弟ねぇ…………みんな死んでるからなぁ」
「え………」
「お前のいう相手に心当たりがないわけじゃねえが、まあ再会は諦めろ」
「そ、それって…………」
つまり、そういうことなのだろうか? あの人はもう………。
「そう、ですか…………」
「あまり落ち込むとソウルジェムが濁るぞ」
「え、あ………!」
その言葉にソウルジェムを見れば確かに穢れが溜まっていた。
「…………あの、本当に浄化できるんですか?」
「いろはちゃん!?」
ソウルジェムとは魔法少女の力の源。それを渡すことを許容しようとしているいろはにももこが慌てる。
「でも、みたまさんにも触らせたし……」
「そうだけど……」
みたまには信用が…………といってしまえば、それはいろはからすれば同じ条件だ。どちらも今日初めてあったのだから。
「俺から魔法少女を攻撃する事は出来ねぇし…………余計な心配だ。そもそも………」
と、3人を見つめる岸。
「お前等程度、制限があるままでも勝てるのに、わざわざ騙し討ちする必要がねえ」
「………………言ってくれるじゃん」
「事実だからな。お前等とは
「制限って?」
「変身」
そういえば、この人ずっと私服だ、といろはが岸を見つめる。じゃあ、変身しないまま魔女や使い魔を倒していたのだろうか?
「まああの程度の魔女ならな」
「あ、あの程度…………その程度の魔女に……」
「いやいや、此奴が強いだけだって! いろはちゃんも頑張ってたじゃん! やちよさんだって認めてたし!」
落ち込むいろはを励ますももこ。魔法少女の名前だろう。
「あ、あの………それじゃあ」
「おう」
いろはがソウルジェムを差し出すと岸もピアスに触れる。シュルリと解けるように崩れソウルジェムへと形を変えた。
「ておい! あんたのソウルジェム、真っ黒じゃねえか! 早く浄化しないとまっ……大変な事に!」
「俺のこれは元々色が黒なんだよ」
「ええ…………それ、大丈夫なのかよ」
ソウルジェムは魔力を使うと黒く濁る。魔力を使わずとも少しずつ濁っていく。穢れが濃くなれば成る程身体に不調をきたし、染まりきった暁には………そんな魔法少女にとって重要な穢れの管理が分かりにくい黒って。
「あ…………」
と、ソウルジェム同士を近付けると確かにいろはのソウルジェムから穢れが消えた。
「い、いろはちゃん。違和感はない?」
「は、はい………」
「どれどれぇ………」
と、みたまがいろはのソウルジェムに触れる。
「…………うん。確かに、完全に浄化されてるわぁ。私の浄化もお願いしようかしら? お代は、調整でどう?」
「やめとけ。以前俺の調整した調整屋は発狂してソウルジェムを濁らせてくたばった」
「ええ!?」
いろはが叫びももこも「まじかよ…」と呟く中、みたまは何か考え込む。ソウルジェムに触れて魔力を調整する際、相手の記憶が見えたりする。それが原因だろうが…………。
「具体的に、どんな記憶をみたと思うのぉ?」
「俺の記憶で発狂するとなると、母親に12357回の拷問受けた時の記憶かな?」
「お前の母親どうなってんだ!?」
「最低最悪のクズだ。
「母親に対してなんて言い草だ…………どんだけ恨んでんだよ」
「恨んでも嫌ってもいない。存在してほしくなかっただけだ」
それって恨んでるし嫌っているのでは?
「お母さんに対してその言い方………トー君と同じ」
「どんな奴だよ」
「まあまあいいじゃない。重要なのは、穢れを浄化した事実。ええ、私の方からも魔法少女達に広めておくわぁ………他に連絡事項はある?」
「浄化1回5000円。後、傭兵の真似事も金次第でしてやる」
「お金取るんですか!?」
「宿代とかいるし」
最悪チョチョイと洗脳すれば簡単だが、データ社会の現在繰り返していればいずれ見つかる。あと単純に岸としては真面目に働いている人間に割りを食わせるのはあまりしたくないのだ。
「…………宿?」
「家無いんだよね、俺」
これまでは浄化屋や傭兵として稼いだ金でネカフェや、収入が良ければホテルに泊まっていた。時折魔法少女の家に泊まったりもする。顔がいいと色々得が出来るのだ。
「後調整も出来るが、そこは客の奪い合いになるからな」
「あら、調整も出来るの。でも傭兵の真似事なんて、先生に怒られないかしらぁ?」
「独学で得た技術を俺がどう使おうが、それこそ俺の自由だろ」
「独学…………そうなのねぇ。なら、私からいうことはないわぁ」
話は終わりだ、と席を断つ岸。と………
「もっきゅう!」
ベタンとその顔に小さな生き物が張り付く。
「………………さっきの」
「あ、こら、キュゥちゃん!」
「もきゅう!」
スリスリ体を寄せてくる動物を剥がす岸。
「あ、あの、その子………」
「別にもう殺す気はねえよ。殺せねえし」
「きゅう〜」
「岸さんにも懐いてるんですね」
パタパタ足を動かし再び岸に張り付こうとするキュゥちゃんなる小動物。岸が胡散臭げに見つめるとテレテレクネクネし始めた。
「あ、そうだ。岸さん、人の記憶を奪う魔女や、環ういって子、知りませんか?」
「知らない」
「そう、ですか………」
聞けば、居たはずなのについ最近まで忘れていた妹らしい。いろはは彼女を治すためにキュゥべえと契約し魔法少女になったのに、だ。
そしてキュゥちゃんに触れた時に思い出した。〝自分は環ういの姉の環いろは〟であると。
そのキュゥちゃんがいろは同様懐いているのなら、と尋ねてみたが結局何もわからなかった。
「まあこいつが手がかりではあるんだろ」
キュゥちゃんをいろはに投げ渡し、岸は今度こそ調整屋を後にした。