魔法少女を護る者 作:歯車
他所から来た魔法少女の傭兵。別段珍しくもない話題。ただそれが男性で、しかもソウルジェムの浄化が行えるとなれば話は別だ。
多くの魔法少女が彼に興味を示している。
「しけてんなあ………」
パチンコ屋で、文字通り人並み外れた動体視力で玉を増やし換金した後、ついてきた隣の台の男を路地裏に誘い込んだ後奪った財布を見ながらため息。
そりゃそうか、金があるならわざわざ稼いだ奴から奪おうなんてしない。
「で、さっきから見ているお前等は?」
「…………魔法少女の身体能力を一般人に振るうのはどうかと」
「大人しく殴られろってか? 生憎、俺にはんな趣味はねえよマゾ女」
「私だってありません。ただ、余計な諍いをさけることは簡単ではないですか?」
「俺が強いから可哀想な目にあっただけのクズに心を砕いてやるとか、イ〜奴だなお前。魔法少女の力は人のため〜とか戯言抜かすタイプだ」
現金を自身の財布に入れ終え他は捨てる。そんな岸を見つめるのは眼鏡をかけた赤毛の女。その後ろに数名の魔法少女。
「……いえ、失礼しました。そうですね、確かに、そもそも彼があなたを恐喝しようとしたことが発端でした」
出来すぎた真似を、と頭を下げる赤毛の女。そこまでされたなら岸も文句はない。
「このたび、調整屋にて『浄化屋』兼傭兵のお話を聞きまして」
「ああ、どっちに用だ?」
「両方」
「え〜、雇うのオレだけじゃねえのかよ」
と、文句を言うのは金髪の魔法少女。
発言からして彼女も傭兵なのだろう。
「申し訳ありませんフェリシアさん。妙な噂に先入観が植え付けられる前に会っておきたかったので」
「まあ金くれんなら良いけどよ〜」
「…………そうなると二重払いか。そういうことなら、傭兵としての初客と言うことで、そちらに関しては金はいらねえ。代わりに宣伝を頼む」
「宣伝、ですか」
「漏れとは言わねえよ。嘘偽りなく伝えるだけで十分だ」
「大した自身ネ」
そう呟くのは青髪の魔法少女。中華系か。こいつもそうだが、そこそこ強いな。
「傭兵が必要とは思えないが………」
「そうでもありません。ここ最近の魔女は強く、数も増加の傾向にあります」
「そりゃあれだけ呼び込んでりゃな」
「「「……………え?」」」
「? 周辺から魔女を独占するために呼び込んでんだろ? まあこの街、魔法少女多いしな」
「…………だからといって、人々を危険にさらす魔女を呼び込んだりしません」
睨みつけるように取り消せと視線で伝える赤毛の女。他の魔法少女もだいたい似たような目だ。
「ああ、じゃああれ、街じゃなく一部の暴走なのか」
「……………その言い方は、まさか」
「? お前まさか魔女がただの偶然で集まってきてると思ってたのか?」
その言葉に顔を見合わせる魔法少女達。
「魔女に人を襲わせているだとぉ!」
「いや、呼んでるだけだが………まあ魔女がいて人がいるなら結果は同じか」
「ふざけやがって! じゃあ、そいつらのせいで父ちゃんと母ちゃんは…………!」
「俺が魔女を呼び寄せる術式を感知したのはここ最近だから、その間ならそうなるな」
「!? そ、そっか………いやでも、魔女を使うなんて!!」
どうにも魔女に対する並々ならぬ恨みがあるようだ。まあ珍しくもないが。
「魔女は全部殺ぉす!」
「フェ、フェリシアちゃん…………」
「大丈夫か、此奴」
魔女前にしたら突撃していきそうな雰囲気だ。
「フェ、フェリシアちゃんは私から誘ったんです」
と、気弱そうな緑髪の女。自然を向ければ俯いた。人に…………というよりは男に慣れていないのだろう。
「改めまして、常磐ななかと申します。武器は刀、魔力特性は水。固有魔法は………」
「固有魔法に関しちゃ聞かねえよ。願いが関係していることが多いからな………魔力特性?」
「魔法少女には魔力の質が大きく分けて5つあります。これは、魔法少女の多い神浜だからこそつけられた名称ですが…………」
「……………ああ」
なんとなく理解した。
魔法少女というのは、魔力の性質を自然物に変換する事が出来る。火、水、木等だ。この魔力性質は互いに干渉しあい、例えば火属性の魔力は水属性に効果が薄く、逆に水属性は火属性の魔力の防御に対して突破しやすい。
火は木に、木は水に、水は火に………その三すくみと光と闇の陰陽が主な属性。二木あたりでも似たような区分けがされていたか。
穢れを浄化する浄化屋を狙い泥沼化して蝙蝠だか鼠だかが喧嘩を売ってきたのだったか。魔法少女から襲ってきてくれたので返り討ちにしたが…………。変身しなきゃならない程度には面倒な場所だったな。
「…………何か?」
「昔を思い出してな。つっても数ヶ月前だが………
「闇、でしょうか………」
「固有武器は黒霧………どんな形にもなる黒い霧を出す。固有魔法は『再現』」
「!!」
ピクリと緑髪の少女が反応した。
周囲に浮かんだ黒い霧というよりは、固有魔法について聞いた結果に見える。
「あ、あの! 私、夏目かこって言います。ま、魔力特性は木! 固有魔法は『再現』です! あ、固有武器は槍です」
「そうか」
きっと似た願いをしたとでも思っているのだろう。
「もしや穢れの浄化も何かの魔法の再現ですか?」
それならかこも覚えられるかもしれない、とかこを見るななか。かこもかこで知りたがっている。
「これは俺の機能だが………まあ『回収』と『変換』だな」
「回収と変換?」
「つまり、穢れを回収し別のエネルギーに変えている、と?」
「そっちはそうする必要があるが、穢れに関しては俺は変換を使わない」
「そうですか…………」
「話がそれてるヨ」
と、青髪の少女。
「ワタシ、
「僕は志伸あきら! 属性は水で、固有魔法は魔女の弱点の看板! 固有武器はグローブ」
銀髪の少女も続く。後にのこったのは傭兵だという少女か。
「あ〜、フェリシアだ。武器はハンマー………属性は…なんだっけ? 固有魔法は忘れさせる。願いは魔女をぶっ殺す!」
「願いは聞いて…………ん、固有魔法が忘却?」
「ぼーきゃく? だから、忘れさせるだって」
「…………………」
魔法少女の固有魔法は願いに影響される。例外はない。岸は
そんな疑問を持っているとかこがこちらを見ている事ち気付く。岸が気付いたことに気付いたのか顔を青くして首を横に振る。
「なんだよ〜」
「いや。便利だな」
例えば魔女に自分がどんな攻撃をしようとしたか忘れさせたりとか、敵が何名いたか忘れさせ不意打ちしたりだとか、やりようは幾らでもある。もっとも…………
「魔女は殺す!!」
フェリシアに連携する気があればだが。
「フェ、フェリシアちゃ──!!」
轟音に集まってきた使い魔達。その一体が隙だらけのかこに襲いかかり、岸が素手で受け止める。
黒霧が使い魔を纏いムシャムシャと音を立て霧に触れた場所が消えていく。
「■■■■■■!!」
ムシャムシャゴリパキゴクン!
「あ、ありがとうございます………」
使い魔が完全に黒い霧に飲まれ、礼を言うかこ。
「どうする?」
ただでさえ撤退を視野に入れるほどに大量にいた使い魔。フェリシアのせいで更に集まっている。幸いフェリシアが暴れまわるせいで狙いの大半は彼女だが。
「見捨てる訳にもいかないだろ!」
と、あきらが飛び出す。
「仕方ないネ」
「いきます!」
美雨とななかも飛び出す。依頼主はななかだ。
岸は2本の剣を作り出すと使い魔達を切り裂いていく。
「フェリシアさん! 一度下がって………!?」
「うおりゃあああああ!!」
ななかの叫びも届かず大きく飛び上がりハンマーを振り下ろそうとするフェリシア。もはや魔女以外見えていないのか、魔女どころかあきらも巻き添えになるだろう。
「チッ」
「きゃあ!?」
岸は2本の剣を槍に変え突撃しながら使い魔を吹っ飛ばしあきらを回収。ボーイッシュな見た目に反してかわいらしい悲鳴を上げるあきら。お姫様抱っこに気付きさらに顔を赤くする中、響く轟音。
亀裂が広がり地面が砕け、美雨もななかもかこもバランスを崩す。
使い魔達はその隙を見逃すはずなく魔法少女達へ襲いかかる。
「チョコマカとぉぉぉぉ!!」
「はぁ…………」
岸がため息をつきながら腕を振るうと無数の黒い鎖が現れフェリシアのハンマーと魔女、使い魔達を拘束する。
「んな!? 何しやがる!」
「それはこっちのセリフだガキが」
「魔女を殺すんだよ! 邪魔、すん、なぁ!!」
力任せにハンマーを振り上げようとして、鎖が巻き付いていた箇所からひび割れ砕けた。
「んな!?」
よくよく見れば魔女や使い魔達の体も鎖に触れている部分がジリジリと黒く染まっている。
「魔女を殺したいなら邪魔はお前だ」
鎖から無数の棘が生える。
茨とかした鎖に全身を貫かれる魔女と使い魔。その身体が黒く染まりボロボロと崩れた。鎖が霧に戻り岸の下に集まる頃には残骸は消えていた。
結界が解け、グリーフシードがカランと落ちる。
「どういうつもりですか、フェリシアさん」
「なんだよ。魔女をぶっ殺そうとしただけだろ。んな事より、ほら、金!」
ん、と手を差し出すフェリシアにななかの眉間に皺が刻まれる。
「傭兵として雇われておきながらあのような勝手な行為をしておいて、金銭を要求できると」
「んだよ! 魔女は倒せたじゃねえか!」
「深月じゃなく
「最初に魔女に攻撃したのオレじゃん!」
「その結果、皆さんを危険に晒したと言っているんです!」
ななかとフェリシアが言い合う。フェリシアは納得いかねえと顔を歪めていた。
「お前等が弱いのが悪いんだろ!!」
「お前一人突っ込んでたら死んでたヨ。あきらに感謝するのが先ネ」
「んだとぉ!?」
「フェ、フェリシアちゃん! 落ち着いて!」
「うるせぇ! なんだよ、かこも此奴等の味方なのか!」
「そ、それは………」
味方することを否定しないかこを見てフェリシアの顔は怒りとは別の感情で歪む。
「そうかよ………お前が誘ったくせに」
「フェリシアちゃん! 私は、ただ一人でいると危ないって………最近、魔女は強くなって………」
「うるせえ! 魔女が強くなろうが知ったことかよ! 仲間なんて邪魔なだけだ、お前も邪魔だ! 絶交だ!!」
「っ! フェリシアちゃん、私は……聞いて!」
「うるせえ!!」
「私は、絶交なんて………」
「──────」
不意に岸は虚空に手を伸ばす。
「フェリシアちゃん!」
フェリシアは踵を返すと走り去る。その姿を見て、誰も気付かなかった。
かこは慌てて追いかけようとしたが、言葉が見つからなかったのか足を止めてしまう。
「身勝手な奴ネ」
「彼女を雇う場合、仲間に攻撃する危険ありと周知しておくべきですね…………
「ん、ああ………じゃ、ソウルジェムだせ」
岸のピアスがソウルジェムへと姿を帰る。ソウルジェムはどの魔法少女も指輪をなっているので、珍しいとななかが感心する。
「黒いですね………」
「そういう色なんだよ………」
そしてななか達が岸に向けたソウルジェムから穢れが消える。
「改めて、こちら今回の報酬となります」
浄化代5000円×4=2万円。傭兵代初回0円+魔女討伐貢献費(時価)5000円=5000円。合計2万5千円。
「それから、こちらはグリーフシードになります」
「…………お前………志伸」
「あ、はい!」
「やる」
ポイとグリーフシードを投げ渡す。
「え、いいの?」
「お前の固有魔法、魔女の弱点看破だったな」
「う、うん」
「魔法少女の大概はクソだと思っているが、そういう願いをした奴はたいていあの白いカスが悪いからな。お前は嫌いじゃない………魔女が孵らないように改造しといた。穢れの許容量超えたから砕けるが仕様だ」
魔法少女はクソって魔法少女の前で言うのか、と半眼で見つめる美雨。
「……………噂では調整も行えるとか。なんでもできるんですね」
「何でもは出来ねえよ。出来ることだけ」
「…………さて」
ななか達と分かれた後、岸はポケットに突っ込んでいた手を抜く。何も握られていないはずの掌に暴れる南京錠が現れる。
「なんだろな、これ…………あぐ」
バキンボキンと金属を引き千切るような音を立て南京錠を噛み砕いていく。食い終えるとペロリと唇を舐めた。
「成る程、感情エネルギーの採取ね………てかかこは絶交『なんて』つってたのに、判断が緩いというか適当というか………まあ一々高いに絶交言わせんのは効率が悪いか」
より多くのエネルギーを集める為には喧嘩してりゃとりあえず票的なのだろう。たとえ一方的な拒絶でも。
「魔女か防ぐ結界の維持のためか? やっぱ救済を求める魔法少女は例外なくクソだな」
母の言う通り救われたいと願う魔法少女は総じて劣等。
さて、どうするか。ほうっておくと奇跡を叶えておいて更なる救済を求めるゴミクズに奇跡を与えられなかった人間が食い物にされる。
「でもなぁ………魔法少女の魔法である以上
岸は魔法少女を護る者。敵対されない限り魔法少女を害することは出来ない。これらは欠片だが、本体はまず無理だ。魔法少女の命の欠片が使われているらしいし。
「……そういやキュゥちゃんもか」
「妹、ねぇ………」
神浜コソコソ噂話
アラもう聞いた?誰から聞いた?
魔法少女の恋人のそのウワサ!
美しい少年に一目惚れした女の子は、魔法少女の契約を使ってその人と愛し合っていた過去を作ったの!
美しい少年は塗り替えられた過去で全てを忘れて、戻った時には何もない。親も妹も死んじゃったー!
少年はその後別の魔法少女に一目惚れされたってもっぱらのウワサ
アオハルー!