アウラを操りたい一般人が好き放題する短編



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遠隔操作アウラ

 

 さて、異世界転生という言葉を、君は知っているだろうか。

 物語の中だけの甘い幻想――そう思っていたはずだった。

 だが今、俺が立っているこの世界は、その常識を軽々と裏切っている。

 

 ここは、葬送のフリーレンの世界。

 雪を宿した森の匂い、古びた石造りの街並み、澄んだ空気。

 テレビの前で胸をときめかせたあの風景が、手を伸ばせば触れられる距離にある。

 

 前世の俺はただの平凡なオタクだった。

 休日はアニメを見て過ごし、フリーレンについては何度も巻き戻して視聴した。

 それが、まさか現実になるなんて。

 

――いや、きっと誰かが叶えてくれたのだろう。

 

 気まぐれな神様だったのだろうか。

 

 そして、胸の奥からつい口をついた願いがある。

 この世界に来て最初に浮かんだこと。

 

 それはー-

 

「遠隔操作アウラがしたい……!!」

 

 

 死の軍勢を築き上げる――

 それこそが、私が大魔族アウラとして恐れられる所以。

 だが、まだ足りない。備えなくてはならない。

 葬送のフリーレンが、この世界のどこかで今も息づいているのだから。

 

「貴様、魔族だな――殺してやる!」

 

 唐突に飛び込んできた怒声が、冬の空気を裂いた。

 

「……あら」

 

 人の気配はとっくに感じ取っていた。だが、その間合いはまだ遠いと踏んでいたはず。

 それなのに、気がつけば男は目の前に立っていた。

 

 鎧に剣、典型的な人間の騎士。

 そして、その身から、感じられる魔力はとても小さかった。

 口元にニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「わざわざ目の前に出てくるなんて、愚かね。でも……ありがとう。仲間にしてあげる」

 

 天秤の儀式を告げる言葉が、静かに空気を震わせた。

 

「――アゼリューゼ」

 

 天秤が淡い光を帯び、相手の魂を量り始める。

 しかし、次の瞬間――

 

「……?」

 

 天秤の皿が、男の側へと傾いていく。

 

「なに……これは……?」

 

 男が口角を上げた。

 

「うまくいったな。ありがとう、アウラ。俺を軍勢に加えようとしてくれて。

そのままアゼリューゼされずに殺されるんじゃないかと、少し不安だったぜ」

「な、何を……なぜ天秤が、あんたの方に……」

「そりゃ俺の方が魔力が上だからな」

「はっ、馬鹿なことを。あんたからは全然魔力は感じられない」

「魔力制限。ずっと訓練してたんだ。だから、この状態でも自然に見えるだろ?」

「嘘でしょ……? 魔力制限してたとして、私の魔力を越えるなんてありえない。私は五百年以上を生きた大魔族だ!」

 

 

「アウラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の前にいるのは――尊厳破壊が性癖の一般人だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と同時に、膨大な魔力が男の体から一気に溢れだした。

 空気が悲鳴をあげ、天秤は一瞬で完全に男の側へと沈む。

 

 

――キュイン

 

 

 光を失う天秤。

 アウラの瞳からも、色が消えていった。

 

「……そんな、ありえない! この私が、ただの人間に負けるなんて!」

「はっはっは! 長かった……やっと、この時がきた!」

 

「あなた、何者なの!」

「さっき名乗ったろ。一般人だって。訓練を頑張ったただの一般人さ」

「信じられない……こんな人間がいるなんて……聞いてない!」

 

「さて――」

 

「くっ!」

 

 支配の鎖が、アウラを縛る。

 指一本動かすだけで、命を奪われる。

 その圧倒的な現実に、アウラは息を呑んだ。

 

「まずは、ちゃんと命令が通るか確認しないとな」

 

 男の声が淡々と響く。

 

「アウラ、一発ギャグをしろ」

 

「ッ!? な、何を言って――!」

「意志が強い者は対抗できる、と原作では聞いてたけど……効いてるよな?」

 

 さらに、男は語気を強めて言った。

 

「アウラ。これは命令だ」

 

「くっ……あ、ありえない! この、私が――!」

 

「やれ」

 

「う、ううッ!!」

 

「中々、抵抗するじゃん。そんなにやりたくない? それとも思い付かない?」

 

「お、前ッ!! 私がそんなことッ!! くっ!!!!」

 

「お前が考える最高のギャグをやれ!!」

 

「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天秤のポーズ!」

 

 

 

 

 

 

 アウラは、顔を真っ赤にしながら、震える腕で天秤の形を作った。手のひらはご丁寧に天に向け秤を表現している。さらに、左足を軸に、右足を上げ、プルプルと震えている。

 

「面白くはないけど、このシュールさはありか」

 

 男は首をかしげながら評価を下す。

 

「うん、二十三点」

 

「こ、こいつ……!!」

 

 アウラの顔がさらに紅潮する。誇り高き大魔族が、人前で一発ギャグをさせられるなんて――屈辱だ。

 だが男は楽しげに続ける。

 

「魔族にも恥じらいって感情あるんだ。最高だなあ」

 

 目の前にいるのは、とんでもない男だ――そして私はその男に敗れたのだ、完全に。絶望が喉元を締めつける。

 

 男は表情を引き締め、声を落とした。

 

「アウラ、これは罰だ」

 

 言葉に冷たさが宿る。

 

「きみは多くの罪なき人間の命を奪った。その罪はどうあがいたって償いきれない」

「いきなり、何を……」

「そんなきみには、たった一つの償う方法がある。そう、社会的な死だ。きみには、奪った命の数だけ人前で一発ギャグをしてもらう」

 

 アウラは身体が震えた。

 

「い、いやああああああああああああああ!!!!!」

 

 男は淡々と続ける。

 

「今日からお前は――断頭台のアウラじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピン芸人のアウラだ」

 

 

 

 

 

 時は過ぎ、グラナト伯爵領郊外。

 フリーレンはアウラと対峙していた。

 アウラは不死の軍勢に命令し、次々とフリーレンを襲わせた。

 しかし、フリーレンは冷静に、圧倒的な速度で解呪の魔法を行使していく。

 次々と塵に還る兵士たち。

 

 そして――

 

「アゼリューゼ」

 

 アウラはついに自身の魔法を使用した。

 断頭台と呼ばれるに至った、最強の魔法を。

 

 天秤を掲げ、ニヤリと微笑む。

 

「私の勝ちよ」

 

 アウラはフリーレンの首を落とそうと、彼女に近づく。

 

 しかし――、持っていた秤はフリーレンの方に傾いていった。

 アウラは足を止め、訝しげに天秤を見つめる。

 

「私は魔力を制限していた。お前は見誤ったんだ、アウラ」

「そんなはずはないわ。だって、あなたの魔力はこの私より弱いはずよ」

「私はずっと魔力制限していた。この状態が自然に見えるほどに」

「ふざけるなっ! 私は500年以上生きた大魔族だ!!」

 

「アウラ」

 

「お前の前にいるのは千年以上生きた魔法使いだ」

 

 天秤は、フリーレンの方へ完全に傾いていた。

 勝負は決した。アウラの魔力はフリーレンの魔力の足元にも及ばなかったのだ。

 

 そして。

 

 フリーレンは一言だけ、アウラへと命令した。

 

 

「アウラ、自害しろ」

 

 

 フリーレンに服従したアウラはそのまま自害するだろう。

 

 それが、本来の流れである。

 しかし、ある男の介入によって、それは起きなかったのだ。

 

 アウラの脳内に、直接別の命令が下される。

 

 

 

 

 

――――――――アウラ、コマネチしろ

 

 

 

 

 

 

「ッ!! コマネチっ!!」

 

 

 

 

 

 おかしな声が聞こえ、フリーレンは振り返る。

 

 

「コマネチっ!」

 

 そこには、がに股となり、機敏に両手を上下にうごかしているアウラがいた。

意味不明な行動をとるアウラに、フリーレンは困惑するほかない。

 

「どういうこと? まさか、自害という言葉を知らない?」

 

「アウラ、自殺しろ」

 

 あらためて、アウラへと命令する。アウラを確実に殺すために。

 

 しかし。

 

「おいしーヤミー感謝感謝またいっぱい食べたいな!!!」

 

「!?」

 

 手を合わせて、独特なリズムで、歌っている。

 

「魔法が暴走している? でも、こんな現象は……」

 

 フリーレンは状況を上手く把握することができないでいた。  

 命令が別の形でとらえられているのか、それともアウラが恐怖のあまり発狂したのか。

 命令で殺すことを一旦諦め、杖をアウラへと向けた。

 

「仕方ない。ゾルトラーク」

 

 今度こそ、アウラの命を刈り取ろうとするが――。

 

「おいしーヤミー反射反射!!!!」

「!? 防御魔法!!」

 

 アウラが無駄に良い発音で叫ぶと同時に、謎の動きで魔法が返ってきた。

 

「何が起きている……この意味の分からない言動は――」

 

 スン。

 

 気がつけばアウラは真顔でフリーレンを見つめていた。

 

「!?」

 

「フリーレン。私がなぜ、いきなりあんなギャグをしたか分かるかしら」

 

 正気に戻っているアウラを警戒する。アゼリューゼでフリーレンは負けていないはず。もし、負けていればフリーレンの首はとっくに切り落とされている。

 

「……」

 

 フリーレンは思案する。アウラの行動の意味を。

 しかし、いくら考えても分かるわけなどなかった。

 

 黙って、考えるフリーレンへとアウラは口を開いた。

 

「なんの意味もないわよ」

 

「……え?」

 

「なによ、その表情は。聞こえなかったかしら?」

 

「そうだね。聞き間違えたかもしれない。もう一度、言ってくれる?」

 

「仕方ないわね」

 

 

 

 

 

 

 

「あんたを好きって言ったのよ」

 

 

 

 

 

「え?」

 

 アウラの唐突な告白にフリーレンは目を丸くする。

 千年生きても、こんな不可解な状況は初めてだ。

 なぜギャグを披露したか聞いただけなのに。

 

 すると――。

 

「な、解呪したはずの死の軍勢が」

 

 どこからか陽気な音楽が流れ、フリーレンが解呪したはずの死の軍勢が勢いよく立ち上がり急に踊り出した。

 死の軍勢は息の合ったフォーメーションダンスをしている。

 

 その中心、アウラはチラチラ死の軍勢の踊りを確認しながら、ワンテンポ遅れてぎこちなく踊っている。

 

「…………」

 

 フリーレンはもう、杖を下ろしていた。

 

 ジャーーンと音が止まり、死の軍勢はキメポーズを披露した。

 それに遅れてアウラも、なぜかピースのポーズをとった。

 

 

「……何をしているの?」

 

 

「さて問題」

 

 アウラは汗だくになりながら言った。

 

「私はさっき本当にアゼリューゼを使ったかしら」

 

「え?」

 

「天秤を掲げて、アゼリューゼと言ったけど、本当にアゼリューゼを使ったと思う?」

 

「ま、まさか」

 

「ご明察。私はアゼリューゼを使っていない」

 

「……なるほど」

 

「見事に騙されてくれたわね」

 

 アウラはニヤリと笑ってフリーレンへと告げる。

 

「私はただフリーレンに一発ギャグを披露し、踊っただけ」

 

「?」

 

「なんのつもりだ。道化を演じて見逃してもらおうとでも?」

「道化? 私はただやりたいことをやっているだけ。魔族だもの」

「ますます意味が分からない」

 

「そう。なら、私のギャグであなたが笑ったら見逃してくれるのかしら」

「?」

「あなたが笑ったら私の勝ち。笑わなかったら私の負けでいいわ」

「本当に何を言って……」

 

 アウラは武器を捨て、おもむろに気をつけの姿勢をとった。

 そして、両腕をT字にひろげ、手のひらを天に掲げた。

 

 

 

 

 

 

「天秤のポーズ」

 

 

 

 

 

 

「……何をしているの?」

 

「笑いなさいよ」

 

「笑えないよ」

 

 その瞬間、アウラの脳内に、男からの『スベったから罰ゲームな』という思念が届いた。

 

――――アウラ、剣を自分の首に当てろ。

 

 

「ありえないっ、この、私が!! 滑るなんて!!」

 

 

 アウラは絶叫し、自らの剣を首筋に当てて、自らの首を振り抜いた――――。

 

 

 

「…………夢でも見ていたのかな」

 

 フリーレンは呟き、疲れ切った足取りでその場を去っていった。

 

 

 

「ここは……?」

 

「俺の家」

 

「え?」

 

 気がつくと、アウラは見知らぬ部屋にいた。

 

 目の前には、あの諸悪の根源である男が、満足そうにお茶を啜っている。

 

「まあまあ、俺の夢は叶ったよ。ありがとう、アウラ。最高のライブだった」

 

「……死んだのかと思ったけど」

 

「俺の魔法だ。フリーレンも騙されていただろう?」

 

「あんたが何者なのか、はこの際どうでもいいけど。まだこんな悪趣味なことを続けるつもり?」

 

「うーん、リーニエたちも死んでしまったしなあ……。生きてたらトリオ漫才もできたんだけど」

 

「じゃあ、解放しなさいよ」

 

 

「嫌だよ。解放したらすぐ殺すじゃん」

「殺せないわよ」

 

「まあまあ、断頭台のアウラだと物騒だし、一発ギャグのアウラ、ピン芸人のアウラとかよばれるまで頑張ろうよ」

 

「殺されたいのかしら」

 

「フリーレンはどうしてもあれがやりたかったんだよ。今後は君の意向も聞きながら尊厳を破壊するよ」

 

「まず尊厳を破壊することをやめてほしいのだけど」

 

「これとかどう? 宴会芸もやってほしくて」

 

 男は机の上に一枚の羊皮紙を広げた。そこには、次の「演目」とおぼしきタイトルが書かれている。

 

『頭の上に乗せた天秤に、箸をつかって豆を乗せる魔族』

 

「……」

 

 アウラは無言で天を仰いだ。

 首を落とされるよりも過酷な、終わらない断頭台が、これからも続くのだ。

 

 

 

 

 

 


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