石が圧倒的に足りないんですがどうしてくれるんです
「デタラメチャーハンさんはどういった用事でこのお店にいらっしゃったのですか?」
なんとか頭を再起動させたサンデーが名前にものすごく違和感を持ちながら言葉を紡ぐ。この状況を飲み込みはしたが、納得はしていない。
「ちょっとしたおでかけよ。これからCMの撮影に行く予定なんだけど、抜け出したくなっちゃったの」
「........それは大丈夫なんですか?その...色々」
「きっと大丈夫よ。心配ないわ!」
サンデーは頭が痛くなってきた。何かに巻き込まれたような気がしてならない。心なしか、胃がキリキリしている。これからホロウ探索でもしようかと思っているのに体調不良が起こりかけて中止にするか迷い始めた。
ホロウに入るならば万全を期して入った方が良いという心構えの下、中止の方に天秤が傾きつつある。
「でも、そろそろイヴがお迎えに来ると思うの」
「お迎え?お迎えってここに来るんですか?」
床にサンデーとアストラ(デタラメチャーハン)の影に加えてもう一つ新たな影が現れる。アストラはそれを確認すると笑顔で振り向いた。
「お嬢様、早く戻ってくれ。他の黒服が必死になって探しているんだ。すぐに戻らないと時間に間に合わなくなってしまう」
「やっぱりイヴは私の期待を裏切らないわね。サンデー、紹介するわ!私のマネージャー兼護衛のイヴリンよ。イヴ、チャーハン友達のサンデーよ」
アストラに続いてサンデーが後ろを振り向くと、そこには女優かと見間違うほどの美貌を持った女性がいた。綺麗な紫の瞳を持ち、金髪を後ろでまとめており、肩口の開いた襟付きの白いシャツを着用している。その上から内側が赤いジャケットを羽織って金と黒のハイヒールを履いていた。
著名人のSPとしてわかりやすい装いではあるものの、道を通る人の目を引くセクシーさと色気がある。
「チャーハン友達というのはよくわからないが、イヴリンだ。アストラお嬢様のマネージャーをやっている」
「ワタシもチャーハン友達が何なのかはわからないのですが、よろしくお願いします」
一度会話をしただけで両者は感じ取った。「あぁ、振り回されたんだな」と。
「いつもお疲れ様です」
「いや、こちらこそすまない」
ガシッと固い握手を交わし、2人は友情を育んだ。苦労人パーティー結成の歴史的瞬間である。
「あら〜仲良さそうでなによりだわ!」
原因が何か言っている。
「それはそうと、早くスタジオに向かおう。黒服達には既にスタジオに戻っておくように伝えてある」
「そういうことなら行きましょうか。また会えるといいわね!」
アストラはイヴリンに連行されながらサンデーにニコニコで手を振り車に乗せられ去っていった。
車が見えなくなると、途端に頭の痛みが消えて胃も元気になっていく。とりあえずトラブルに巻き込まれなくて良かったと一息つき、元気も出てきたためエイファと一言二言話して名前が気に入った『原色』というレコードを購入。ジャケットに写っている人物に強烈な既視感を感じたが、とりあえずビデオ屋に配送されるように手配してホロウへと向かった。
「ここがデッドエンドホロウですか。気分が高揚しますね」
ホロウに入るのにも慣れてきたらしい。今回のサンデーの目的は、『お散歩及び探索』である。どちらかというと前者だが、普通はお散歩目的でホロウに潜る人など存在しない。というか散歩は目的がないのと同義である。
いつも通りホロウの中は廃墟だらけで、エーテリアスの顔ぶれも変わらない。これが天変地異が起こるホロウだったりエーテリアスに何かしら特殊な変化があったらもっと面白いのだが、目的は散歩なので気にしないことにした。
ただ、雨雲が近づいているのは確認できた。
(ホロウの中でも雨は降るのか?だとしたら雨具持ってきといた方が良かったなぁ。失念してた)
ホロウである以上、ただの雨雲にもエーテルが絡んでいる可能性があるという考え方は彼に存在しないので呑気である。
せっかくホロウに来たのに散歩だけじゃ味気ないなと思い、今の自分の課題について考えた。
「やはり、茨グローブ以外の武器が欲しいところです」
茨を使った武器を作る事ができるのはグローブの時点で確認済み。つまり、もうちょっとリーチがある武器を使った方がいい。後衛とはいえ、一応前衛もいける今の身を考慮するとそこそこ重いものでも行けそうだった。
「サポートも出来るように片手は空く武器...片手剣?」
ロマンの案でバトルアックスやコンパウンドボウも上がったが、やはり実用性を考えるのなら片手剣がベターという結論に至った。それに、アンビーという丁度いいお手本もいる。
「調和のエネルギーをこうして...こうでしょうか」
エネルギーの塊をこねこねしていく。一旦作り出すと、ここをこう、あそこはやっぱりこうしようと凝り性が出てきて止まらない。
時間が経ってサンデーの手に握られていたのは片手剣と呼ぶにはあまりにも神々しく、持ち手の近くに茨が絡み付いており祭具や神具のような雰囲気を醸し出していた片手剣だった。心なしか、剣自体が薄く光り輝いている。
「調和のエネルギーの塊ですから光るくらいはしますよ。恐らく...きっと...」
自分に言い聞かせるように虚空に向かって独り言を呟く。完成した事だし、どうやって片手剣で戦えば良いのかは理解しているので早速試し斬りとして辻斬りできそうなエーテリアスを探しに歩く。
何分か歩くと、なぜか妙に圧がある電柱があった。普通のホロウレイダーなら気づかなかっただろうが、電柱の陰からわずかにエーテルを感じる。
「絶対、柱の後ろにいますよね」
サンデーが電柱の陰にいる存在に対してプレッシャーをかけると、ぬるりと緑色の球体が姿を現した。エーテリアスだ。そのエーテリアスはマントを羽織っており、何より宙に浮いていた。弓らしきものも所持している。
「近距離武器なのになぜ相性が悪そうな武器持ちが来るのでしょう...」
ホワイトスター学会に登録されてる名前は『タナトス』
デュラハンの情報を閲覧した時にその名前だけ見かけたのを覚えていた。
だが、タナトスが弓を使ってくれるのは好都合。むしろ練習になると考えてサンデーはやる気がぐんぐん沸いてくる。
「さあ、行きますよ」
腰を落として剣を持つ。低姿勢で駆け出し、手元を見せないように角度をつける。視線はタナトスから逸らさずに観察しながら動いていると、弓を向けているのが目視できた。
ヒュッと風切り音だけを出しながら矢がサンデーの眉間目掛けて飛んでくる。わざわざサンデーが正面から突撃してきたので矢の軌道はわかりやすく、サンデーはそれを容易く弾き落とす。
二度三度それが繰り返されると、タナトスは趣向を変える。忽然とタナトスの姿が消えたかと思えば、サンデーの視界の端にマントが翻ったのが見えた。
「瞬間移動ですかッ!」
サンデーが視界の端へと振り向くと、既にタナトスは矢を発射した後だった。距離と時間的に剣で防ぐ事は難しい。ならばと臨機応変に茨で瞬時に壁を生成して防ぎ、逆に茨をタナトスに直撃させる。
「今のは中々肝が冷えましたよ...初見殺しが過ぎますね」
両者、体勢を立て直してもう一度向き合う。タナトスはまるで抜刀のような姿勢を取ったまま消える。
(どこだ...どこから出てくる?タナトスが瞬間移動出来るのには必ずタネがあるはず。だとすればそれが突破口になる。考えろ...考えろ!)
(考えうるパターンは3つ。『影が出ている』無理だ、今の天気は曇り。確認のしようがない。『風切り音』さっきは矢の音しかなかった。これも違う...じゃあ『エーテル』これか?1番ありうるのはこれだ。分かった。タナトスを見るんじゃない、空間を視るんだ!)
答え合わせの時間だ。
サンデーの視界の右端でマントが翻るのが見えた。
そしてそれに合わせてサンデーは剣を──
タナトスが粒子になって消える。
「やはり読み通りでしたね。最初の瞬間移動はミスリード。わざとマントを印象付けさせ、次の瞬間移動で視線をマントに誘導させて死角から仕留める...素晴らしい作戦でしたが、読みが合っていたのとエーテルの揺らぎしか見ていなかったので対処できました」
そう言ってサンデーは片手剣を仕舞う。すると、背後からもう一つのエーテル反応を検知した。
「もう一体ですか!?」
ポケットに入っているものが飛んでいく勢いで振り返るも間に合いそうになく万事休すかと思われたその時、人の背丈くらいであろう鋏がタナトスを吹き飛ばし、瓦礫を貫いて轟音と共に停止する。3人ほどの足音が聞こえてきた。
「ご無事でしたか?」
「助かりました。ありがとうございます」
現れたのは、執事の服を着たオオカミのシリオン。そして、同じくサメのシリオン。次に、どう見ても浮遊しており人形を操っているメイド。最後に遅れて見たことのある顔がやってきた。
「カリンさん、ホロウの中で再会するとは思っていませんでしたがお会いできて光栄です」
「ごっ、ご無沙汰しておりますサンデーさん」
「
リーダーらしきオオカミのシリオンが丁寧に接してくる。
「あぁ、私としたことが自己紹介をしていませんでしたね。私はライカンと申します」
そう言うと名刺を差し出してくるので、おずおずとサンデーはそれを受け取る。名刺には本名とヴィクトリア家政の名前、そして家事代行サービスと書かれていた。ただの家事代行サービスがホロウに入るのだろうかという疑問が浮かんだが、そういうこともありうるだろうとひとまず結論づけた。
「エレン、よろしく」
ぶっきらぼうに、しかも飴を咥えられながら雑に挨拶される。先程の対応と比べると天と地ほどの差があったが、そういうのを
「アレクサンドリナ・セバスチャンと申します。気軽にリナとお呼び下さい」
足元をじっっくり見てもやはり浮いている。どういう仕掛けなのか非常に好奇心がくすぐられた。だが、世の中には知らない方がいい事がある。これもきっと、その内の一つなのだ。
「皆さんはどうしてここに...いえ、聞くのは野暮というものですね」
「お気遣い感謝致します」
「折角ですから、お供してもよろしいでしょうか?なにぶん1人では心細く...」
「構わないけど、仕事の邪魔はしないでよね」
ヴィクトリア家政からは満場一致でサンデーの同行が認められた。5人で団子になって歩きだす...と、言うより、話したことのあるカリンとサンデーが後ろについて雑談をしながら歩いているという状況である。
「カリンさんはお仕事の方は順調でしょうか?」
「は、はい!ライカンさんやリナさんに頼れるようになって前までよりスムーズにお仕事ができてます!ありがとうございます!」
「礼には及びませんよ。何かお悩みがあれば、またご連絡下さいね」
「カリンが騙されてないか心配だったけど、この前教会までびこu......様子を伺っても特に怪しいところはなかったし頼れる人見つけれたみたいでよかったじゃん」
「サンデー様が心優しき御仁で良かったです」
「うふふ、カリンちゃんが嬉しそうで良かったですわ」
「おいぃ!!道を開けろぉぉ!!取引時間に間に合わねえだろ!」
ブォンブォンと轟音を響かせながら赤牙組のホロウレイダーがバギーで突っ込んでくる。よほど時間ギリギリなのだろうか、音でエーテリアスを引き付けれるレベルでスピードを出している。
「っ!避けましょう!」
「あわわわわわわ!?」
リナが乗っているホロウレイダー目掛けて人形を放つ。
「トマレヤテメエ!」
人形が体当たりをして乗っていたホロウレイダーを弾くも、操縦者がいなくなって制御不能に陥ったバギーは民家に向かって突っ込んでいく。
ドゴオォォォンと辺り一体に爆発音が響き、火の海になる。
「サンデー様!カリン!ご無事ですか!」
「キャロット等は犠牲になりましたが何とか無事です!カリンさんも目立った外傷はありません!」
「はぁ、マジでサイアク。めんどくさくなってきたな〜」
5人は2グループに分断された。ライカン/エレン/リナのグループと、サンデー/カリンのグループ。戦力がだいぶ偏ってしまったが、すぐさまこの場から動かなければ音に反応したエーテリアスの群れに襲われてしまう。
「ライカンさん!ワタシたちもここを離れます!カリンさんは責任を持ってホロウの外に帰します!ルミナススクウェアの映画館で落ち合いましょう!」
「承知致しました!カリンのことをよろしくお願いしますサンデー様!」
「カリンさん、行きましょう。じきにここ一帯はエーテリアスで一杯になります」
「わ、わかりました、急ぎましょう」
両グループは反対方向へと走っていく。既に何体かのエーテリスの影が見えている。燃え盛る炎と共に、事態は確実に動きつつあった。
次回「非日常に巻き込まれる系司祭」