映像美、良き....
クリティホロウ、古い地下鉄分岐駅某所。
「あの上級エーテリアスの声はもう聞こえない」
アンビーは警戒態勢を解き、いつもの雰囲気に戻る。
「よ、よかった、走りすぎて足の油圧ロッドが折れるかと思ったぜ!」
ビリーは軽い冗談を言いながらドサっと座り込む。
「たまには運動をしなければ...体の節々が少々痛みます...」
サンデーは日頃から運動をしろ。肩で息をしているし、手を膝につけている。まだ少ししか走ってないが、精神的な疲労も重なっているのであろう。
アンビーがそんな疲れ果てている2人の状況を確認して、リンに提案を持ち掛ける。
「適度な休憩を取ることを提案する。いい?プロキシ先生」
リンはリラックスしているような声色で返事をする。
「ちょうどイアスを調整しなきゃだし、お先に休憩させてもらうね。それに...」
イアスと視覚を共有しているリンはサンデーを下から視つめる。
「色々と聞きたい事もあるからね」
アンビーはそれを聞いて納得したかのような表情になり、軽く頷く。
「ええ。プロキシ先生とビリー、そしてサンデーも休んでおいて。私が周囲を警戒するわ」
そうしてビリーとアンビーから少し離れた位置でリンとサンデーの会話が始まった。
「え〜っと...初めまして!私はパエトーン!良かったら名前を教えて欲しいな」
リンにとっては初めて見る人なので、もしかしたら2人の知り合いかもしれないという線を残しつつ会話を行う。
「パエトーンさんですね。ワタシはサンデー。お気軽にサンデーと呼んでください。所属はなく、ただのしがない旅人です...どうぞよろしくお願いします」
一通り自己紹介をすると、サンデーは握手をするために身をかがめてリンの目の前に手を差し出す。
リンはその手を握り、ぶんぶんと縦に振る。
「どうもありがとう!こっちこそよろしくね。ところで...サンデーさんはビリーかアンビーの知り合いなのかな?」
言動を観察したところ、とりあえず悪い人ではなさそうとリンは考えた。
「いえ...たった数十分前に初めて出会いました。友好的な方で本当に助かっています」
2人の知り合いだという線は消え、完全に知らない人ということになるが何かを起こしたらその時はその時だと思い、今はホロウを脱出するのが先だとリンは判断する。
「そっか...わかった。質問に答えてくれてありがとね!」
初めましての挨拶とちょっとした質疑応答を終え、2人はビリーとアンビーの元へ戻ろうとする。すると...
「gAaaaGyaAaAA!!」
「エーテリアスの声...」
「はやくね?横になろうとしてたところだってのに!」
「すぐに撤退しないと...でもまあ、ビリーが望むならここで永遠に眠るのもいいかもね。来年のスターライトナイトの新作のベルトをあなたの墓前に供えてあげる」
笑えないブラックジョークである。
「そういうこと真顔で言うなよ、本気か冗談か分かんなくなるだろ!」
「少なくともワタシにはかなり本気のように聞こえましたよ」
「笑えねぇ...!」
「あはは...一緒に働くたびに、2人の漫才が聞けて楽しいよ」
アンビーはそれに反応して瞳孔が大きくなる。
「だから、ずっとニコのツケ払いを許してくれたの?」
「えっと...イマイチ素直に喜べねーな...」
「毎回ツケ払いするほどに財政が圧迫されているのは初耳ですね...」
邪兎屋が借金まみれで赤字がない月が無いことは絶対に知って落胆する事になるので、ここで邪兎屋の財政を知ることが出来てある意味サンデーは運が良かったと言える。
「そんなことより、エーテリアスが寄ってくる前に移動しようぜ!」
.........
タッタッタッ...と3人の走っている足音が橋に響く。
一匹の足音が聞こえないが、それはサンデーの腕の中におさまっていた。
「いや〜運んでくれてありがとね!」
「ワタシは後衛でサポートが主ですから...適任だっただけですよ」
そう話していると後ろから3体エーテリアスが走ってきた。
前方には脱線した電車があるため、飛び越えなければならない。
「パエトーンさんを連れて先に向こうに行っておきます!」
「了解!十分に距離を取れよ!」
サンデーとリンは先に電車を飛び越え、ワンテンポ遅れてアンビーとビリーが着地する。それに続いてエーテリアスも電車を越えてこようと登ってきた。
「ガラ空きだぜ!」
エーテリアスが電車を越えようとする瞬間にコアに向かって数発の弾丸を放ち、一体は衝撃で向こう側に落ちるも当たり方が軽かった一体がビリーに向かって斜めに裂く攻撃をしながら降りてくる。
「フッ!」
しっかりと刃の軌道を見てから回避し、その間も顔はエーテリアスの方に向ける。そうすると今度は踏み込んでいるのが確認できたので、横回転しながらのバックジャンプで間合いの外に逃げながら回転中にも狙いを定めて四発もエーテリアスに撃ち込む。
「GuuuoooOOO!!」
一体を撃破したが次の瞬間着地の隙を狙うように次のエーテリアスが攻撃をけしかけてきていた。
それすらも華麗に避けて、逆に振り下ろした信号機を踏みつけて封じ、手間取っている隙に無駄に拳銃を回してカッコつけてからコアを破壊する。
そうしてエーテリアスがよろめいて倒れる寸前にその背後から電車から転落していた3体目のエーテリアスが突然姿を現して奇襲をしかける。
「くっ...やるじゃねえか!」
咄嗟に2丁拳銃で攻撃を防げたが、相手の間合い内に入ってしまったのでどうしようかビリーが悩んでいると、背後から電磁ナタの電力を放出させながらアンビーが突撃してくる。
「はぁっ!」
アンビーは胴体に向けて下から切り上げ、半回転しながら着地する。そして、エーテリアスの肉体が完全に消えるまで確認した後、電磁ナタを収納する。
「ナイスコンビネーション!」
.........
追ってくるエーテリアスも完全におらず、後は脱出するだけだ。
「店長!次はどの方向に行けばいいんだ?」
「全速力で直進!」
「了解、全速力で直進!...待てよ...直進だと!?」
誰がどう見ても直進した先には壁しかない。
全力で当たって砕けてデスルーラしようという事なのだろうか。
これには流石にビリーも不自然だとわかる。
「けどよ、この先は壁だぜ!破れってか?壁をぶち破れってことなのか?今の火力じゃ流石にキツイと思うが...」
「...マップの確認ミスではなくてですか?」
そうビリーとサンデーが騒いでいると、もう1人の声が聞こえた。
「心配しないで、リンの言う通りにすれば大丈夫だから」
(だ、誰...?)
サンデーがそう思うのも無理はないだろう。何せ、先ほどからリンが喋っているボンプの体からその声が聞こえたからである。単純に知らないのもあるが。
「この声は...おお!もう1人のパエトーンだ!」
(もう1人いるんだな。2人で1つの生物...パエトーンはニコイチね。覚えておこう)
「お兄ちゃんったら、急に私のチャンネルで話さないでよ!ビックリしたあ」
リンは心底驚いたという声色で話す。
「悪かったよ。でも、今の君はボンプに意識を宿しているんだ。こんな形でしか連絡できないだろう」
「ビリー、アンビー、それからサンデー、聞こえているかい?とにかく、リンの言った進路については間違っていない」
(あ、この女性の声の方はリンって言うのね。)
「知っての通り、ホロウの中は『秩序』のない混沌、つまり──
それにアンビーが言葉を被せてくる。
──生への道が死に見えたり、死への道が地獄に繋がってたりする」
「それはつまり地獄へ直行するという事では?」
「アンビー、貴重な情報をシェアしてくれてありがとな...」
ビリーは手で顔を押さえている。貴重な常識がよほど心に染み入ったのだろう。絶対に違うが。
「それと、ホロウを出てからの脱出経路も手配してある、僕たちを信じて」
「リンも、そろそろ感覚同期を解除してもいいよ」
そうアキラが言うと、リンはすぐに通信を切る準備に入る。
「それじゃ店で落ち合おう、グッドラック!」
感覚同期を解除しました──
「静かになった...普通のボンプに戻ってる」
「なんで肝心な時に『憑依』を解くんだよ!」
ビリーは納得いってない様子である。
「直進する、衝撃に備えた体勢を」
アンビーはただ端的に、なぜそこまで冷静になれるかわからないほどに事実を言葉にする。
「神に祈っておきましょうか」
「ぶつかるぶつかるぶつかるぅぅ!!」
奇妙な解放感と共に、3人とボンプは壁をすり抜ける。
「エーテルの圧迫感が消えた」
「確かに...体が心なしか軽く感じます」
「やっと...出て来れたんだな、俺たち!よっしゃ!」
ビリーはホロウで終わってしまう可能性もあったが、無事助かったおかげでアドレナリンがドパドパと分泌されて気分が高揚している。知能機械人にアドレナリンがあるかはわからないが。
そうしてホロウから出られた感傷に浸っていると...
プップー!
車のクラクションが聞こえた。そこから人が1人降りてくる。
その人物はピンクの長い髪をツインテールで結び、スタイル抜群ながらも言動がちょっとアレなことで有名な邪兎屋の社長、ニコであった。
「時間も場所も、全部パエトーンの予想通りね...」
ニコは3人を見渡す。
「ほら、2人とも乗って!そしてあんたもね!」
と、サンデーは指を向けられる。
「ニコの親分!」
(親分?そうビリーが言うってことは...ニコが邪兎屋の社長か!)
珍しく頭が冴えているサンデーである。
「来たわね!ナイスタイミング!」
そういうと、青紫の髪にINとデザインされた髪留めをしているパーカーを着用した女性が姿を見せる。
「ニコ、戻ってくるのが早すぎない?まさか、また信号を無視したんじゃないよね?」
(声的にこの女性がリンで確定だな)
「そんなことないわよ、普通の青信号と、R値255の青を通過しただけだから!あっ、それから...来る途中に確認したけど、尾行はされてなかったわよ!」
「アンビー、R値255の青ってなんだ?」
「ワタシも気になります」
こう思うのは当然である。普段なら聞きなれない言葉が出てきたのだから仕方がない。
その質問にアンビーはしっかりと答えを返してくれる。
「ビリー、あなたのジャケットと同じ色」
(赤信号じゃねーか!!)
ニコはどうやら教習所からやり直させる必要がありそうである。
「ニコ、従業員たちにプラスしてもう1人も助けてあげたんだ、そろそろツケを払ってもらえないか?」
「待って!まだ終わってないでしょ?あたしの依頼は『人とモノ、どちらもホロウから出すこと』ほら、半分しか終わってないじゃん!...っていうか今まで普通に接してたけどあんた誰?」
「申し遅れました...サンデーと申します。しがない旅人です。どうぞ宜しくお願いします」
「ふ〜ん...サンデーね。覚えたわ!」
話が脱線しそうになったが、リンが流れを元に戻す。
「安心して、ニコ。今のはただの冗談だって。ちゃーんと覚えてるよ」
「もう、パエトーンは頼りになるって信じてたわ!」
物凄い手のひら返しである。
「撤退前に目撃した状況だと、対象の金庫は危険度の高いエーテリアスの活動範囲内にある。ホワイトスター学会のエーテリアス図鑑での登録名は『デュラハン』。上級エーテリアスよ」
(へー...これからちゃんとデュラハンって呼ぼ...)
「そう、それだ!赤牙組の親玉も運が悪いな。強烈なエーテル物質に侵蝕されて高危険度のエーテリアスになっちまった。俺とアンビーとサンデーで金庫を奪おうとしたけど、あいつ尋常じゃないくらい強くてさ。撤退するのがやっとで回収まで手が回らなかった」
「...ってか親分、あの中には一体何が入ってんだ?ここまで体を張る価値があんのかよ?」
ここまで頑張ってきた者だけが口にすることができる当然の権利をビリーは口走った。
「ワタシもその金庫の中身に興味があります」
「ふふん、さっそく答え合わせをしましょ──『これ』を見て!」
そう言ってニコはポケットから赤い牙の形をしたペンダントを取り出す。
リンはそれをまじまじと見つめ、口を開ける。
「これ...ちょっと変わったペンダントに見えるけど、ほんとはメモリディスクだよね」
ニコはその言葉を聞いて頷く。
「ええ。これは小型のメモリディスク...シルバーヘッドの所有物よ。十四分街から抜け出す前に、あたしがビルの中で拾ったの!」
「事前に調査したところによると...あのクソおやじ、これを肌身離さず持ってたらしいわ。きっと、重要な何かが隠されてるはずよ!金庫の暗証番号と関係があるに違いないわ!」
そう話していると、アンビーが解析した結果を話し始める。
「でも、少し破損してるみたい」
「...本当だ、焦げちまってるぞ!」
「ねね、パエトーン!なんか方法はないの?あんたたちの店にある、あの複雑なコンピュータは使えない?」
アキラが現れ、その疑問に答える。
「H.D.Dのスペックは、ほぼホロウデータの処理に割いている。けど、内部のデータを取り出すくらいでいいなら......リン、僕がインターノットの演算パワーを拝借して復元してみるよ」
そう返事が返ってくると、ニコは嬉しそうに反応する。
「よし、じゃあ約束ね!こっちは何とかしてホロウにある金庫の位置を確認するから。手掛かりがあったらまた連絡するわ!あたしから金庫の回収作業の連絡がくるまでは、他の仕事をしててもいいわよ!」
ニコはこれも忘れちゃいけないという風に付け加える。
「あ、メモリディスクからデータを抽出するのも忘れずにね!」
言い終わるとニコはすぐに車に乗り込む。
「じゃあまたな、サンデー、店長!」
それに続きビリーも車に乗る。
「では、また」
アンビーも車に乗り、場にはサンデーとリンとアキラが残される。
車はブロロロ...とゆっくり出発し、排気ガスが出される。
「じゃあ、サンデーさんもまたね!」
「僕らも、これで失礼するよ」
そうして、リンとアキラもビデオ屋に入ろうとする。
「あの...非常に申し訳ないのですが...」
サンデーは遠慮気味に2人に声をかける。2人はどうしたのかと疑問に思いながらサンデーの方に振り返る。だが、サンデーにとっては死活問題なのだ。
「どこか...泊まれる場所など知りませんか?」
※サンデーはディニー未所持
次回「束の間の休日を心待ちにする司祭」