うちのサンデーさん、効果抵抗が60%↑なんですけど会心ダメージのサブステどこに落としてるか知りませんか?
「ははっ、ははははは!」
デュラハンが完全に消滅したと同時にニコが高笑いを上げ始める。
「やっと...」
両手を上げ、金庫に駆け寄る。
「やっと...!」
ビリーとアンビーとサンデーが目の前におり、その3人の内のビリーとアンビーがハイタッチだと思って片手をスッと差し出す。
チームの絆を感じる微笑ましい場面だ。
「みーつけた!!」
が、ニコがそんな絆など気にするはずもなく。
2人をスルーして金庫を抱き抱えようとする。
後ろではハイタッチしようとした2人がスルーされて少し落ち込んでいた。そういうところだぞニコ。
ニコが金庫を抱こうとする瞬間、リンが金庫の上にジャンプしてそれを止める。
「水を差すようで悪いんだけど...喜ぶのはまだ早いよ!ニコ...落ち着いて聞いてね...」
リンは興奮状態のニコを冷静にさせるようにゆっくりと話し始める。
「全部あの悪玉ハッカーのせいだよ!私がホロウを脱出するために用意したデータを削除したの」
「それが意味するところは──」
「ここから出られないー!?」
ニコが悲鳴に近い叫び声をあげる。それもそのはず、ニコの脳内はすでにこの依頼が終わって入ってくるお金で豪遊しまくり、遊びまくりのビバ!リゾート!のような妄想をしていたからである。気分は最高潮から最底辺にまで株価でもあり得ないというスピードで下降した。
「はは...あんなに苦労して、やっと元に戻ったと思ったらまさかこれで終わりだなんて」
ニコはその場に倒れ込み、涙を流す。
いくらサンデーがエーテル侵蝕を治してくれるからと言って、空腹や喉の渇きまでは満たせない。ニコの脳裏には“死”という1文字しか写っていなかった。
「くっそ、モニカ様とデートしたこともねぇってのに、悔しいぜ。けど...なかなか悪くない人生だった」
「機械生ではなく人生なんですね...」
サンデー、そういう事は口には出さずに心の中にしまっているのが1番安心安全だ。
「落ち着いて、他の手がないか考えてみる」
アンビーはこのような状況に慣れきっているのか他のメンバーの悲観的な考えを少しでも和らげようとしている。
「あっ、でもそんな悲観的になる必要はないよ、とっておきの切り札があるんだ!ニコの同意が必要なんだけどね」
「同意する!」
あまりにも速い立ち上がりと挙手。少しでも生きて帰ることができる要素があるなら使わない手はないのだ。自分の命が一番大事であるとも言えるが。
「受け入れるの早くない?」
リンは内容も聞かずに同意するニコに対して呆れと困惑が押し寄せてきたが、同意したから無問題と考えて次の話に移る。
「悪玉ハッカーが言ってたの、金庫にはあの『ロゼッタデータ』並みに価値のあるものが入ってるって。それがあれば、ホロウを自由に出入り出来るみたい」
「話を遮ってしまって申し訳ないのですが、ロゼッタデータとは...?」
「そうだね...簡単に言ったら新エリー都の全ての情報がリアルタイムで入ってくるデータ...かな」
「なるほど、ありがとうございます」
リンはニコに向き直り、金庫をポンと手で叩く。
「...それで、もしその話が本当なら、それを使ってホロウから脱出できるはずだよ!ニコがこれを開けることに同意してくれれば...」
「同意する!さっきから言ってるじゃん!」
「え?そんなあっさり?依頼人の方はどうするの?」
リンは先程の同意を冗談だと思っていたため、再度食い気味に同意されたことに困惑を隠せないでいる。
「そうですよ。もしかしたら依頼人に排除されるリスクも存在します」
「生きるか死ぬかの瀬戸際なのよ!排除されるだのなんだの言ってる場合じゃないわよ!第一、あたしがここから出られなかったら誰が金庫を渡すっていうの?開けちゃっていいわ!」
サンデーが心配からリンをフォローするも、ニコは考えを変えるつもりは毛頭ないようだった。
「そこまで言うのならわかった」
リンは金庫をくるっと回転させ、暗証番号を入力して金庫を開けようとする。
それに全員が近づいて見守る。
「暗証番号は知ってるのよね?」
「うん!」
ポチポチポチとリンが暗証番号を入力すると、金庫が重々しく開かれる。
そこには赤くて高級そうな緩衝材と、その真ん中にチップが置かれていた。
リンはそのチップを手に取る。
「でも正直...私も何が保存されてるのかは分からないんだ。強制的にデータを読み取った結果何が起きるかは...」
「待って、質問があるんだけど」
珍しくアンビーが質問をリンに対して行った。
「あなたの本体はホロウの外でしょう?そのまま立ち去ることもできたのに、どうして危険を冒してまで私たちを助けにきたの?他に何か企みでも?」
「アンビー!」
それは流石にリンに対して失礼だという気持ちからニコが制止をかける。
「変な質問だね!」
変な質問と言い切ったリンに対して邪兎屋の面々は顔付きが鋭くなり、場に緊張が走った。
「私はあんたたちのプロキシだよ!」
「連れていくって約束したんだから、絶対に連れ出してみせる!」
「あと...あんまり考えたくないけど...もし私が失敗したら、H.D.Dシステムがインターノットで救援依頼を出してくれることになってる。その時は...「安心して!」
ニコがリンの言葉を遮った。気がつくと、場の緊張感は既に無くなっていた。
「ここを脱出できたら、何があっても店まで助けに行くから!」
リンがそれを聞いてニコリと微笑みながらチップをイアスの体内に入れてデータの取得を始める。
「ふふっ、そんなこと言っても、依頼料はチャラにならないからね!」
その数秒後...
「ンナナーー!」
リンの体が宙に浮いたかと思ったら、白い光が周囲を支配してまるでミラーボールのようにピカピカと光だした。
光が収まって少しすると...そこには何事も無かったようにリンが立っていた。
「リンさん、大丈夫でしたか?」
「滅茶苦茶光ってたけど無事なのか?これ」
「プロキシ先生を信じるしかないわ」
全員が心配していると、急にリンが動き始めた。
「あっ、追いかけるわよ!」
.........
「店長...やったぞ...俺たち...出てきたんだ」
「なんとか脱出できましたね...?」
「一言も喋らずに案内していたけど、出られたわね...」
「ボンプが痙攣してる。店に戻って本体を確認した方がいい」
アンビーの指摘で気づき、ニコはすぐさまイアスを抱える。
「とにかく!約束通り店に急行するわよ!」
4人はリンがいるビデオ屋へと走り出した。
.........
ニコがビデオ屋のスタッフルームをバァン!と開き、4人が一斉に入ってくる。
「リンは無事!?」
ニコは椅子でぐったりしながらうわ言を呟いているリンに駆け寄る。
「まあ、見ての通りさ。さっきから何度も声をかけているんだが...反応はないね」
「くっ!こうなったら医者を呼んだほうが手っ取り早いわ!」
ニコはスマホを取り出して急いで電話番号を打ち始める。
「ニコ、待って。」
「こんな緊急事態に待てるわけないでしょ!?」
「いえ...サンデーに頼んだら医者を呼ばなくてもいいんじゃないかと思って」
ニコは電話番号を打ち込んでいた手を止めた。
そしてリン以外の視線が一斉にサンデーへ向けられる。
「いやいや...まさか。エーテルの侵蝕を治せるとは言っても生身の人間じゃ──「任せてください」...大丈夫そうだな」
「さっすがサンデー!これで診察料分のお金が浮いたわ!」
サンデーは全員の期待を背負って未だにぐったりしているリンの前に座り込み、リンに対して手のひらを向ける。
「...苦よ、去りたまえ」
黄色の『調和』エネルギーがリンを包み、安らぎを与えていく。
乱れていた呼吸は一定のリズムを保ち、青くなっていた顔はみるみる生気のある暖色系に戻り、悶え苦しんでいた様子の表情はいつのまにか昼寝をしている時ほどの優しい表情になっていた。
「これで大丈夫です。じきに目を覚ますでしょう」
「改めてこの目でサンデーさんのやっている事を見ると、どれだけ凄いことをしているのかが理解できるね...」
唯一、サンデーが祝福する様子を見れていなかったアキラが感嘆の声を上げる。
「いや、本当におかしいわよねこれ...人の形をしている上級エーテリアスって言われても信じちゃいそう」
「ワタシはエーテリアスではありません。れっきとした人間ですよ」
「普通の人はヘイローが付いてたり祝福できたりしないと思うんだよな...」
ビリーが「どう見たってサンデーはただの人間じゃない」という意味を込めてツッコミを入れる。
「そうでした。正確には人間ではなくて天環族ですね」
「余計ややこしくなっちゃったじゃねぇか!」
ビリーが頭を抱えた。思考回路が文字通りショート寸前である。
「さて...ニコ、今回の件について調査をお願いしてもいいかな?」
「任せなさい!私個人としても結構気になってるのよ」
ニコは二つ返事でアキラのお願いを聞き入れた。
今回はかなり乗り気である。いつもなら少し駄々をこねていたであろうが、未知の事象が起きすぎたので流石に問い詰めてみるべきだと感じたのだ。
「分かった、じゃあ調査に関しては任せたよ。それはそれとして...」
アキラの雰囲気がビデオ屋の店長から仕事人モードへ切り替わる。
「借金を返してもらおうか」
「うっ!」
「ね、ねぇ、今回は私たちの方も弾代とか武器の修理代とかで結構いっぱいいっぱいで...あなたの方もかなり消耗してるじゃない?おあいこってことで...ダメ?」
ニコはめげずに交渉を行う。
別に相手側に有利でもない交渉なので、最初から結果は決まっていると言っても過言ではない。
「だが断る」
「ケチ〜!いいじゃない少しくらい!うちは今月も赤字で厳しいんだから!」
「これまでのツケを全部返すって言ってなかったかい?」
「ぐぅっ!」
退路は断たれた。
もう攻め手もない。
ニコは詰んでいた。
「払ってやるわよ〜!」
.........
ニコ達は借金を全て返して調査のためにと去っていった。部屋には眠っているリンとアキラとサンデーしかいなくなった。
「随分と静かになりましたね」
「ははは、ニコ達は騒がしいからね...さて、サンデーさん。まずはお疲れ様。早速ビデオの貸し出しの仕事に戻って...と、言いたいところだけど、リンがこんな状態だから今日のところは休業にしよう。サンデーさんは街を散策したいだろうし、六分街を楽しんでおいてくれるかい?夕方までには戻ってきてほしいな」
「わかりました。もし、リンさんの容態が急変したりすればすぐにワタシを呼んでくださいね」
「うん、じゃあ行ってらっしゃい」
「行ってまいります」
サンデーはビデオ屋の営業の看板が閉店になっている事を確認して六分街への街並みへと歩き出した。
.........
「昼時なのに中々人が少ないですね...」
サンデーは六分街のはずれを歩いていた。
すると、サンデーの視界にふと小さな教会が入ってきた。
「入ってみましょうか...?」
サンデーが入っていいのか悩んでいると、近くから何やら声が聞こえてきた。
「ンナナ!(そこのおにいさん!一体どうしたの?)」
足元を見てみると、見知らぬ一般通過ボンプがいた。
というか、言葉が理解できた。
「ン」と「ナ」だけで何故そんなに長い文章になるのか意味が分からなかったが、そういうものだと納得してボンプの問いに答える。
「この教会に入って良いのかが気になっていたのですが、何か知りませんか?」
「ンナンナ〜...(この教会は持ち主がホロウ災害で亡くなっちゃってそのまま残ってるんだ...誰も所持している扱いになってないって聞いたし、良かったらおにいさんが使ってあげて!)」
「なるほど...そう言う事でしたら、ワタシがいただくとしましょう。親切なボンプさん、ありがとうございます」
「ンナナ〜!(どういたしまして!)」
サンデー は きょうかい を てにいれた!
.........
サンデーは教会の中に入る。こじんまりとしているが、最低限の設備は整っており使用する分には不満は無さそうだった。
長年人の手が加えられていなかったのか、随分埃を被っているようだったが、そこは『調和』パワーで綺麗さっぱりの状態に戻した。
「おぉ...懺悔室もあるのですか」
「ここまで揃っているとなると...また人の懺悔を聞き、それを導きたくなりますね」
そうと決まれば後は簡単。インターノットに悩みを聞きますと投稿すれば笑い話になるようなものや、かなり真面目なものまで様々な人が集まるだろう。
そうすればもっとこの地に馴染めそうだと思ったから。
次回「おしゃべり大好き系司祭」