様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代)   作:夜風ミシェル

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様子のおかしいハリー・ポッターさん(11歳)
1.君との出会い


 

 魔法界で、『生き残った男の子』を知らない者はいない。

 巨悪を打ち倒した英雄。特別な力を持ったヒーロー。

 そして、誰もが彼のファンだった。

 僕──ロン・ウィーズリーも例に漏れず、その一人。しかも生き残った男の子と同い年だ、色々と期待が膨らむのも仕方がない。

 きっと彼は、一目で分かるくらいに特別なオーラを纏っていて、魔法の才能もあって、イケメンで優しく、それでいて謙虚。

 まるで物語の主人公みたいな人に違いない──!

 

 

 

「どうもおはこんばんにちわー、ハリー・ポッターです。生き残った男の子です。崇め奉りなさい。よろしくお願いします」

「なんか違う!」

 

 綺麗にフラグは回収された。

 

 

*****

 

 九月一日。

 僕の、ホグワーツ入学初日である。

 「ほら、友達作ってこいよロニー坊や」という双子の兄と別れ、僕は空いているコンパートメントを探して汽車の中を練り歩いていた。

 

「ここ、空いてる?」

 

 コンパートメントの扉を開けると、そこにはくしゃっとした黒髪の男の子がいた。

 眼鏡の奥、緑の瞳が僕を捉える。

 

「⋯⋯うん」

 

 どこか悲哀の漂う眼差しだった。

 彼は小さく頷くと、僕を手招いた。

 僕は、知らず知らずのうちに息を呑んだ。彼があまりにも大人びていて、そして儚さを纏っていたからだ。

 同性だけど、ちょっぴりドギマギ。そんな僕の心中を知ってか知らずか、少年はにっこり笑った。

 

「どうもおはこんばんにちわー、ハリー・ポッターです。生き残った男の子です。崇め奉りなさい。よろしくお願いします」

 

 ──そしてこの挨拶である。

 ミステリアスな雰囲気、霧散っ!

 

「え、えぇー⋯⋯。ぼ、僕はロナルド・ウィーズリー。ロンって呼んでくれ。⋯⋯で、き、君があの、『ハリー・ポッター』⋯⋯?」

「そうだよ。あ、傷見る?」

 

 何も言っていないのに、勝手に前髪を上げるハリー。そこにはしっかりと、稲妻型の傷跡が刻まれている。

 確かな証拠だ。

 この少年が、ハリー・ポッターに違いない。

 

「わー⋯⋯すごい」

「反応薄いなぁ」

「お、おったまげー!!」

 

 頑張って声を張り上げると、ハリーは首を傾げつつもひとまず満足してくれた。

 なんか傲慢だし第一印象はぶっ壊れたけど──彼こそが、魔法界を救った英雄なのだ。コレジャナイ感がすさまじいけど、確かに『生き残った男の子』なのだ。

 ふーん⋯⋯。

 

「⋯⋯⋯⋯あああああぁぁぁぁぁ!!」

「うわ、どうしたんだロオォォォンッ!」

「うるさいぞ!」

「ええぇぇー⋯⋯」

 

 叫びたくもなるわ!憧れの英雄がこんなだったら!

 僕の中で、理想の『ハリー・ポッター』像が崩れていくのを感じる。

 頭を抱えていると、車内販売のおばさんが扉を開けて声をかけてきた。

 僕の家は貧乏だ。だからお菓子なんて嗜好品を買えるわけがない。持参してきたサンドウィッチで我慢だ。

 ハリーはどうするのだろう。

 

「これ、全部ちょうだい」

「うわー⋯⋯」

 

 ハリーは金にものを言わせて、お菓子を大量に買い込んだ。そして僕に言う。

 

「一緒に食べよ」

「施しか?はい金持ち滅びろ」

「ロン⋯⋯?性格荒んでるね」

 

 誰のせいだと思っているんだ。

 何だ、金持ちには傲慢な奴しかいないのか?許せねぇっ⋯⋯!

 でも、貰った蛙チョコレートは美味しかった。ので許す。

 蛙チョコレートには、偉大な魔法使いのカードが同封されている。それらの説明をハリーにしていると、今度は泣いている男の子が扉を開けた。なんでも、ペットの蛙を探しているらしい。見かけたら教えると言うと、男の子はがっかりしながら帰っていった。

 そして、次々とコンパートメントに人がやって来る。なんだろう、やっぱりハリーが引き寄せているんだろうか。

 一人目は、高飛車な女の子。

 二人目は、マルフォイ家の息子だった。

 ドラコ・マルフォイは僕を蔑むような目で見つめながら、ハリーに握手を求めた。

 

「間違ったのとは付き合わないことだね。僕が教えてあげよう」

「なんだと!」

 

 我慢ならない。やっぱりマルフォイ家には、碌な人間がいないんだ!

 なのに、ハリーはマルフォイの手を握り返した。

 

「よろしく、ドラコ」

「ああ。なんなら、僕らのコンパートメントに来るかい?」

「いや、それはいいよ。僕はロンとの出会いに感謝してるし」

 

 ハリーは僕の肩に手を回した。が、僕はそれを払いのける。

 彼はマルフォイの手を取った。友達だって、少しでも思った僕が馬鹿だった。

 

「そうかそうか、つまり君はそんな奴なんだなっ!」

「そう怒らないで。ロナルド・エーミール・ウィーズリーさん」

「誰だよ」

 

 マルフォイからツッコミが入ったが、ハリーはウィンクしてそれを流す。

 

「よく聞いて、ロン、ドラコ。僕は言わずもがな、あのハリー・ポッターだ。誰もが僕の虜だ。そんな僕を独占しようなんて、百年早いからね」

「「⋯⋯」」

「さぁ、我が友よ!この僕をシェアしたまえ」

「「⋯⋯」」

 

 視線を逸らすと、隣のマルフォイと目が合った。若干引いているように見える。いや、確実に引いている。

 そして僕らの思いは一つになった。

 

 こいつウゼェ。

 

 

*****

 

 ホグワーツ特急を降りると、ハグリッドという大柄な男性に導かれ、僕たち一年生はホグワーツ城に入った。それから、マクゴナガルという厳格そうな教師が、軽く話して部屋を出ていった。

 取り残された一年生は皆、揃って不安そうな顔だ。しかし、ハリーだけはどっしりと構えている。

 僕はこそこそと、ハリーに声をかける。

 

「君は心配じゃないの?」

「組み分けが?大丈夫だよロン⋯⋯⋯⋯うおぇぇぇぇ!」

 

 突如、凄まじい顔になるハリー。その手には、百味ビーンズが握られている。あまり、良くない味に当たったようだ。⋯⋯ってそんなことはどうでもよくて!

 

「何食べてんだよ!そしてしれっとかぼちゃジュースで口直しすな!」

「こういう挑戦は、若いときにしかできないからね⋯⋯うぇぇぇぇ!」

 

 懲りずに百味ビーンズをつまみ、また死にそうになるハリー。やっと諦めたのか、ポケットにお菓子を仕舞った。

 そして今度は、かぼちゃパイの包装を開け始める。その音に、女の子がこちらを向いた。

 

「何やってるのよあなた!今から重大な組み分けだっていうのに、品性の欠片もないわ!」

「そうだそうだ!」

 

 僕はハーマイオニー──先ほど汽車で出会った同級生だ──に賛同し、こくこくと頷く。「ウウェーイ、君たち気が合うねー」と茶化すハリーに、僕たちは同時に拳を振り下ろした。

 なんだか、ハリーを見ていると気が抜けてくる。

 そんなタイミングで、僕たちはマクゴナガルに呼ばれた。

 ついに、組み分けの儀式が始まるのだ。

 

 

*****

 

 組み分けは、どうやら帽子を被るだけであるらしい。

 

「名前を呼ばれた者は、帽子を被りなさい」

 

 そう説明して、マクゴナガルは声高らかに名前を呼んだ。

 

「ハンナ・アボット!」

 

 恐る恐る、といった様子で、金髪の女の子が前に進む。そして組み分け帽子を頭に乗せた。

 

「ハッフルパフ!」

 

 瞬間、ハッフルパフ寮の席から歓声が上がった。ハンナはそれに安堵し、小走りで席に向かった。

 組み分け帽子は次々と生徒を振り分けていく。そしてその最中にも、余ったお菓子を食べ続けるハリー。⋯⋯もうツッコまないからな。

 マクゴナガルが名前を呼ぶ声、帽子が宣言する声、そして先輩たちの歓声に混じって、包装紙を破る音が聞こえる。なかなかシュールだ。もっとも、これはハリーの隣にいるから聞こえるだけで、実際はそんなに大きな音ではないんだろうけど。

 列車で話したハーマイオニー、ネビルはグリフィンドールだ。

 マルフォイは当然スリザリン。

 ワアッと盛り上がるスリザリン寮を横目に、僕はふん、と鼻を鳴らした。

 

「あいつはやっぱりスリザリン⋯⋯いずれ他人に闇の魔術を使ったりするぞ」

「そういう偏見は良くないと思うな」

 

 蛙チョコレートを口に入れる寸前で、そんなふうに否定するハリー。正論言ってるのに、いまいち締まらないなぁ。

 ハリーはマルフォイに手を振ると、チョコを頬張ろうとした。その瞬間、「ハリー・ポッター!」と名前が呼ばれた。

 大広間が一瞬で静まり返る。

 誰もがその名前に驚き、そしてハリーを見つめていた。

 当の本人はというと、

 

「まずいぞロン。蛙チョコレートが食べれない」

 

 能天気すぎる。

 

「そんなのポケットに入れて早く行けよ!」

「でも逃げそうだよ!」

「じゃあポケットから手を放さなきゃいいじゃん!」

 

 というわけで、ハリーはポケットに手を突っ込んだまま組み分け帽子に突進することになった。

 椅子に座り、帽子を被る。

 帽子は、少し思案しているようだった。それに対してハリーは、超高速で首を横に振っている。⋯⋯何を、言われたんだろう。

 それから少しして、帽子の口らしき部分が動いた。

 

「スリザリ──」

 

 

 

「ホワチャアアアアアアッ!!」

 

 

 

 あと「ン」と言えば組み分けが確定する。そんなタイミングで、ハリーはポケットの中の蛙チョコレートを帽子の口に突っ込んだ。

 近年稀に見る珍行動に、大広間が「ザワザワ⋯⋯」とする。⋯⋯誰か、セリフでザワザワ言ってないか?

 生徒たちはこそこそと話すけど、帽子は、話すことができない。

 

「モゴ、もごもごもご!?」

「お願いします、そのチョコあげるんでグリフィンドールに入れてください」

 

 帽子は食べれねぇよ──。誰もがそう思った。

 ハリーと帽子は、無言の応酬を交わす。

 そしてついに、

 

「⋯⋯グリフィンドール」

 

 帽子が諦めた。生徒の七年間を決めるあなたが、そんな感じでいいのか。

 ハリーはひょいっと椅子から降りると、「ポッターを取ったぞ!」と騒がしいグリフィンドールの机に向かった。そして、先輩たちにもみくちゃにされながら、席に座る。

 「僕もあそこに行かねば!」と思いながら、名前を呼ばれるその時を待つ。ウィーズリー家はグリフィンドール出身がほとんどだ。そこから外れるとは思わないけど、やっぱり不安で、いざとなったらお菓子を食べさせようと決意した。⋯⋯いや、そんな贅沢品は持ってなかった。悲しい。

 

「ロナルド・ウィーズリー!」

 

 僕は震えながら、椅子に座った。すると脳内で、帽子が語りかけてくる。

 

『ふぅむ、君がロン・ウィーズリーか』

「僕を知ってるんですか?」

『ああ。兄弟も多いし、既に友人もいるようだからね』

 

 友人⋯⋯ハリーのことだろうか。

 

『ハリー・ポッターには酷い目に遭わされたし、ここで君をグリフィンドール以外の寮に送るのも吝かではないが⋯⋯』

「なんで!?ハリーと僕は関係ないだろ!」

『冗談だよ』

 

 冗談に聞こえない。帽子は何がおかしいのか、からからと笑った。

 

『まぁ、君にはグリフィンドール以外の素質はない。特に勤勉さは限りなくゼロだ。安心したまえ』

「馬鹿にしてる?」

 

 思わず帽子を力強く握ると、帽子が「グリフィンドール!」と高らかに叫んだ。

 フレッドやジョージが拍手しているのが見えて、僕も安心した。

 

『⋯⋯頑張りなさい、ロナルド・ウィーズリー』

「え?」

 

 帽子を外す、その瞬間。

 彼は、そんなことを呟いた。

 聞き返そうと思ったが、次の生徒が呼ばれたため僕の疑問は宙ぶらりんだ。

 でも、そんなことはグリフィンドールの長机に到着したら忘れてしまった。

 兄とハイタッチを交わしてから、僕はハリーの隣に座った。

 ハリーは、満面の笑みを浮かべている。

 

「良かった、ロン!これからよろしくね」

「うん!」

 

 僕は笑顔でそれに応えた。

 傲慢でちょっぴりナルシスト、帽子にチョコレートを咥えさせたとんでもない同級生だけど、同じ寮になれたのはやっぱり嬉しかったから。

 

 

 

 

 




あけましておめでとうございます(激遅)
というわけで、連載始めていきます。前作を読んでくださった方なら分かると思いますが、例に漏れずコメディ寄りで、キャラ崩壊。主に、ハリー。性格改変と思ってください。
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