様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代)   作:夜風ミシェル

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3.知恵を使えるか否か、それが問題だ

 

 命からがらホグワーツに不時着した僕たちを待っていたのは、スネイプだった。彼は「残念ながら、我輩には貴様らの退学決定権がない」と、本当に、本っ当に悔しそうに言って、マクゴナガルとダンブルドアを呼んだ。

 結果、僕たちは退学を免れた。もちろん、罰則はあるみたいだけど、退学処分に比べたら随分マシだ。

 車でホグワーツに登校した僕たちは、グリフィンドール寮で熱い歓迎を受けた。皆、僕たちの空の旅に興味津々で、ちょっとばかり気分が良かった。あと、妹のジニーがグリフィンドールに入ってくれたから、その嬉しさもあった。

 だが。

 僕の母親は、そんな優しいもんじゃない。

 

 次の日の朝、ママから吠えメールが届いた。

 

「あー⋯⋯開けたくない⋯⋯」

 

 無意識に手紙から後ずさると、ネビルが「開けた方がいいよ。放ってたら──もっと酷いことになる」と告げた。

 僕は震える手で、手紙を開封した。

 瞬間、とんでもない音量でママの声が響き渡った。

 

『車を勝手に運転するなんて、退校処分になっても当たり前です!首を洗って待ってなさい。承知しませんからね。車がなくなっているのを見て、私とお父さんがどんな思いだったか、お前は少しでも考えたんですか!?』

 

 ママの怒号に、テーブルの上の食器類がガタガタと揺れる。大広間にいる生徒たちから見られて、僕は気まずさから目を伏せた。

 ママの吠えメールはまだ続く。

 

『── まったく愛想が尽きました。お父さんは役所で尋問を受けたのですよ!皆お前のせいです!今度ちょっとでも規則を破ってごらんなさい、私がお前をすぐ家に引っ張って帰ります!』

 

 そこまで言って、手紙は燃え上がった。後には、炭化した紙屑が残るのみ。

 隣で本を読んでいたハーマイオニーは、冷めた目で僕を見下ろした。「当然の報いね」とでも言いたげだ。

 ハリーも珍しく浮かない顔をしている。

 

「うん⋯⋯やっぱり止めるべきだった。ロマンに流されちゃ駄目だったな⋯⋯」

「いや、別に君のせいじゃないよ⋯⋯。はぁ、なんで車に乗っちゃったんだろ僕⋯⋯。時間を巻き戻したい⋯⋯ハリー、そういう魔法知らない?」

「⋯⋯そんな魔法知ってたら、話はもっと簡単だっただろうね」

 

 ハリーは項垂れる。僕は、自分の折れた杖を抱きしめた。そんな魔法があっても、僕には使えないもんな。

 ハーマイオニーがすまし顔で言う。

 

「魔法じゃないけど、時間を巻き戻す魔法道具ならあるらしいわよ。確か⋯⋯『逆転時計』って名前だったかしら」

「え、そんな便利なものがあるの!?」

「ま、一介の学生が使えるものではないけれどね。魔法省が厳重に管理しているし」

「なぁんだ⋯⋯。じゃあ意味ないじゃん」

 

 せっかく希望が見えたと思ったのにな。ぬか喜びだったか。

 食欲はとうに失せていた。

 僕たちはのろのろと立ち上がり、ハーマイオニーと共に薬草学の教室へと向かった。

 温室の前では既に何名かの生徒がいて、奥に見える芝生を、ロックハートとスプラウトが横切っていた。

 スプラウトは、腕いっぱいに包帯を抱えていた。昨日、僕たちがボコボコにされた木──暴れ柳に使う包帯だ。余計な仕事を増やしてすみません、先生⋯⋯。

 無表情のスプラウトとは対照的に、ロックハートは満面の笑顔である。

 「やあ、皆さん!」とロックハートは、白い歯を見せつける。

 

「スプラウト先生に、『暴れ柳』の正しい治療法をお見せしていましてね。でも、私のほうが先生より知識があるなんて、誤解されては困りますよ。たまたま私、旅の途中に暴れ柳と出会ったことがあるだけですから」

 

 女子一同が、「あんな危険な木に遭遇して無事だなんて、カッコいい〜!!」と黄色い歓声を上げる。その理論でいくなら、僕だって『カッコいい』男じゃんか。誰もそんなこと言ってくれなかったけど。

 ロックハートの仕草がいちいち癪に障って、僕は眉を顰めた。グリフィンドールの男性陣も同じように、なんだか落ち着かない様子だ。

 ディーンが呟く。

 

「おかしいな⋯⋯。ぶっちゃけロックハートのキャラってハリーとモロ被りしてるけど、なぜかロックハートにだけ嫌悪感を覚えるんだよな⋯⋯」

 

 その言葉に、ディーンの隣にいたシェーマスが吹き出した。「あー、確かに」と言いながら、大きく頷いている。

 それは僕も思ってた。ハリーなら許せるのに、ロックハートだとドン引きしちゃうのはなんでだろ?

 真面目に考え込んでいたら、ハリーがロックハートに呼ばれてどこかに連れて行かれそうになっていた。そのタイミングで、シェーマスが目を見開いた。

 

 

「分かった!ハリーはまだ若いけど、三十路手前の成人男性があのノリだからイタいんだよ!」

 

 

 ──デリカシーの欠片もない発言に、その場が凍りついた。

 女性陣は「黙れよお前」という怒りのこもった視線を投げ、ロックハートは変わらぬ笑顔──と思ったけど、よく見たら唇の端がピクピクしていた。おい⋯⋯結構刺さってんじゃんか。チャーミングスマイルはどこに行ったんですか?

 ロックハートはハリーから離れると、僕たちの方に歩み寄ってくる。

 

「君たち、名前は?」

 

 やばい。

 名前と顔を覚える気だぞこいつ。

 僕たちはサッと目だけで会話すると、それぞれ名乗りを上げた。

 

「ルパート・マルフォイです!」

「デヴォン・ノットです!」

「アルフレッド・フリントです!」

 

 堂々たる偽名に、ロックハートの後ろでハリーが笑いを堪えていた。ここで本名を教えるほど馬鹿じゃないのさ。そして、純血の貴族さまの苗字を借りることで、権力を匂わせる。

 思わぬ家柄の生徒だったからか、ロックハートもタジタジだ。

 

「ああ⋯⋯なるほど⋯⋯。で、では、私はこの辺で⋯⋯」

 

 風のように去っていくロックハート。流石に、貴族を敵に回すわけにはいかなかったのだろう。

 無事に難所を乗り越えられたので、僕たちは安堵のため息をついた。

 

「⋯⋯安心してるところ悪いけど、今日の午後にはロックハート先生の授業があるわよ」

 

 ハーマイオニーは冷静に告げた。

 

 

 

*****

 

 マンドラゴラ──またの名をセクシー大根──と格闘し、変身術の授業も乗り切った僕は、ハリーに泣きついていた。

 

「ハリー!頼む、ウィッグを貸してください!ほら、去年のハロウィンで使ってた赤毛ロングの奴!」

「え、なんで」

「ロックハートの目を誤魔化すためさ!見た目が変われば、あいつも分かんないだろ?」

 

 シェーマスのノンデリ発言で、僕も目を付けられた。杖もぶっ壊れてる今、かなりまずい。

 「カツラ!カツラ!」と騒いでいたら、ディーンとシェーマスも加わってきた。

 

「僕にも変装グッズをくれない?」

「友達を助けると思って!」

 

 ハリーは「うーん⋯⋯」と顎に手をやる。

 

「でも、ウィッグは一つしかないんだよね⋯⋯」

「なら、僕はいらないな」

 

 徐にシェーマスは杖を振った。途端、爆発音が鳴る。

 煙にやられて、僕はゴホゴホ。

 煙っぽいのが晴れると、そこにはチリチリ毛になったシェーマスがいた。ああ、爆発で髪がやられたのか。どんな魔法も爆発に変える才能が、こんなところで生かされるとは。

 でも、まだディーンがいる。

 僕たちは手を突き出すと、そのままじゃんけんした。

 

「ま、負けた⋯⋯」

 

 項垂れるディーン。

 結局、ウィッグは僕が使わせてもらうことになった。ポニーテールにすれば、兄のビルみたいだ。うん、随分雰囲気も変わるね。

 シェーマスが、ディーンの顔を覗き込む。

 

「君の髪の毛も爆発させようか?」

「うん⋯⋯頼むぜ」

 

 こうして、ディーンもモジャモジ頭になった。⋯⋯二人ともモジャモジャ、煤だらけで無限に笑える。

 ふと視線を感じ、僕は左を向いた。そこには、何かの機械──確か、マグルの世界のカメラだったかな?──を持って立っている少年がいた。一年生かな?

 少年はハリーと目が合うと、顔を真っ赤にした。ジニーと同じ反応。なるほど、彼もハリーのファンなんだな。

 

「あ、あのハリー⋯⋯。僕、コリン・クリービーって言います。失礼かもしれませんが、しゃ、写真を撮ってもいいですか?」

「写真だって?うん、もう何枚でも撮りなよ!」

「ほ、ほんとですか!?」

 

 コリンはパァ、と表情を明るくする。そして、すぐさまカメラを構えた。

 

「笑って、ハリー!」

「にっこりー!」

 

 ハリーはご満悦な様子。目立ちたがり屋だもんな、君。⋯⋯でもさ、コリン。ちょっと写真撮りすぎじゃない?なんかもうバシャバシャやかましいんだけど。

 

「⋯⋯ハリー、そろそろいいんじゃない?」

「いいや、まだ足りないよ。後世、この写真はプレミアになるんだから」

 

 笑顔を絶やさず、ハリーは答える。その写真、マスコミに渡せばいくらになるんだろうって考えてしまった僕は、すぐに反省した。流石にね?友達を利用して金儲けは恥ずべき行為だよな。

 

「写真、現像したら教えてよ。この僕がサインも書いてあげる」

「うわぁぁ、嬉しい!」

「──あ、ドラコ!君にもあげるね」

 

 たまたま通りかかったマルフォイは、「いるか!」と怒鳴り返した。

 

 

 

*****

 

 闇の魔術に対する防衛術の教室に入ると、僕はハーマイオニーの隣に座った。三人まとめて覚えられていたら困るからだ。ディーンやシェーマスとはできる限り離れなきゃね。

 ハーマイオニーは人の気配を感じて顔を上げる。

 そして、綺麗な二度見をかました。

 

「⋯⋯え?⋯⋯え?」

「何?」

「あなた⋯⋯ロン、よね?」

 

 怪訝そうに問いかけるハーマイオニー。僕の髪型が普段とだいぶ違うせいで、戸惑っているようだ。

 僕は、ポニーテールの毛先をくるくると弄んだ。

 

「どう?似合ってる?」

「え、ええ⋯⋯。わ、悪くないわね」

 

 ハーマイオニーはふい、と顔を背ける。褒めてくれたら良かったのに。僕はちょっぴり不満に思いながら、前を向いた。すると、斜め右にいるハリーが謎ににやにやしながらこちらを見ていたことに気付いた。

 ハリーが口をぱくぱくさせる。

 

『ど、ん、か、ん』

「⋯⋯?」

 

 聞き返そうとしたあたりで、ロックハート入場。

 彼は教壇に立つと、ぐるりと生徒の顔を見回して首を傾げた。多分、僕やディーン、シェーマスが見当たらなかったからだろう。変装が功を奏したようだ。

 ロックハートは僕たちを探すのを諦めると、教科書の表紙と同じように微笑み、自己紹介を始めた。

 

「どうも、ギルデロイ・ロックハートです。勲三等マーリン勲章、闇の魔術に対する防衛術連盟名誉会員、そして『週刊魔女』五回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。もっとも、私はそんな話をするつもりではありませんがね。バントンの泣き妖怪バンシーをスマイルだけで追い払ったわけじゃありませんしね!」

 

 よく分からないネタだったが、隣のハーマイオニーにはウケたようだ。小さく笑っている。

 ロックハートは突然、ミニテストを始めると言った。

 

「あまり気負わずに!君たちが私の本をどれぐらい読んでいるか、そしてどのぐらい覚えているかをチェックするだけですからね」

 

 そして配られたテスト用紙を見て、僕は白目を剥いた。殆どの問題が、ロックハート自身に関するものだったからだ。

 『ロックハートの好きな色は何?』──知るかっつーの!僕は適当に『スネイプ先生の麗しい髪色』と書いておいた。これを不正解にしたら、スネイプに告げ口してやろう。

 そんな感じでふざけたり、やっぱり面倒になって後半仮眠の時間に充てていると、いつの間にかテストの時間は終わっていた。

 ロックハートは解答用紙を回収すると、ペラペラとめくる。

 

「おやおや、私の好きな色がライラック色だということを殆ど誰も覚えていないようですね」

 

 逆に誰が覚えてるんだよ。⋯⋯あ、ハーマイオニーさんか。

 しかもハーマイオニーは、このクラス唯一の満点獲得者だった。

 

「素晴らしい!グリフィンドールに十点!」

 

 ハーマイオニーは頬を上気させる。完っ全にガチ恋の顔をしていた。

 ロックハートはハーマイオニーをひとしきり褒めると、徐に布の掛かった鳥籠を机に載せた。

 

「さぁ!この教室で君たちは、これまで以上に恐ろしい目に遭うことになるでしょう。ただし、この私がここにいるかぎり、何者も君たちに危害を加えることはありません。落ち着いているよう、それだけはお願いしておきましょう」

 

 ロックハートは、鳥籠の布を取り払った。

 中に閉じ込められていたのは、青色のピクシー妖精だった。とても危険そうには見えない。

 だが、ロックハートはなんの説明もなくピクシーを放った。

 教室は、阿鼻叫喚に包まれる。

 

「うわ、近付くな!」

 

 僕は、ウィッグを引っ張るピクシー妖精から逃げなくてはならなかった。教室中央では、ネビルがピクシーに吊り上げられている。数匹は解放されたのをいいことに、窓ガラスを突き破って逃げていった。

 大半の生徒が机の下に隠れたのを見て、ようやくロックハートが杖を取り出した。

 

「ペスキピクシ・ペステルノミ!」

 

 呪文らしきものを唱えるも、何も起きない。それどころか、ピクシーはロックハートを嘲笑うかのように杖を奪い、窓の外に投げ捨ててしまった。

 無限のように思われた時間が、鐘の音でようやく終わる。

 ディーンは一目散に教室を出た。僕たちもそれに続こうとした瞬間、「そこの三人!ピクシー妖精を籠に戻しておくように」とロックハートから仕事を押し付けられてしまった。

 ロックハートはそのまま自室に引き篭もる。

 

「うわ、あいつマジかよ⋯⋯」

「きっと私たちに、実践経験を積ませようと思ったのよ」

 

 ハーマイオニーは大きく頷くと、手早く縛り術を掛けていく。僕もそれに倣ったが、壊れた杖のせいで魔法は逆噴射。動けなくなってしまった。その隙にピクシー妖精に頬をつねられ、僕は悲鳴を上げた。

 気付いたハリーが「フィニート」で助けてくれた。

 いつの間にか借り物のウィッグはボサボサ、毛も何本か抜き取られていて、散々な見た目だ。

 

「今年は美少女コスできないな⋯⋯」

「やらなくていいですよハリーさん」

 

 ウィッグを見つめて残念そうに呟くハリーに、僕はツッコミを入れた。

 

「ていうか、ほんとにこの杖ヤバい。もう使い物にならないよ」

「テーピングしてるくらいだもんね」

 

 ハリーが僕の杖を見る。折れた部分にはテープをぎちぎちに巻いているのだ。本当は新品を買った方がいいんだろうけど、ママに言えないよな⋯⋯。車で不時着した上、杖を折ったことまで知られたら確実に殺される。

 僕はなんとか、この杖で耐えなければならないのだ。

 授業で使った感じ、魔法が逆噴射する確率はおよそ60%。ほかは暴発や不発ばかり。だったら⋯⋯。

 

「最初から逆向きで魔法を使えば良くないか!?」

「ロン⋯⋯」

 

 賭けに出ようとしたら、ハリーから哀れみの視線が来た。

 

 

 

 




次回投稿 3/8(日)
いつも閲覧、お気に入り、感想等ありがとうございます。その上、評価バーに色がついてました。ありがたい限りです。
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