様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代)   作:夜風ミシェル

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4.友達と誘いは選んだ方がいい

 

 グリフィンドールのクィディッチキャプテン、オリバー・ウッドは、激しすぎるクィディッチ愛で有名である。

 彼は夜明け前にハリーを叩き起こし、練習に連れ出した。

 

「可哀想なハリー。朝ごはんも食べてないよね」

「持っていってあげましょう!」

 

 僕とハーマイオニーは、朝食のトーストを籠に入れてグラウンドに向かった。

 既に練習は始まっていて、眠そうな顔をしたハリーが、ウッドの話を聞いていた。

 客席には僕たちのほかに、コリンもいた。写真を撮りまくっている。

 あの少年はどうやらハリーのスケジュールを把握しているようで、常にハリーにまとわりついている。その姿はさながらストーカー。いや、ストーカーにしては堂々としすぎているような気もするけど。

 普通なら嫌がるだろうに、ハリーは喜んで写真に写る。サインも欠かさない。

 コリンが撮った写真はホグワーツ内でそこそこ需要があるようで、ハリーのサイン入り写真はそこら中に出回っていた。それを知ったロックハートが「クリービー少年。私の写真もいらないかな?」と声をかけたところ、「ロックハート先生のは、興味ないです」とフラれた話も有名だったりする。

 ふと、ハーマイオニーが声を上げた。

 

「見て、スリザリンよ!」

 

 緑色のローブを着て、箒を手にした数人がグラウンドに入って来ていた。

 ウッドも気が付いたのか、スリザリンチームに走り寄る。

 なんだか嫌な予感がして、僕たちもグラウンドに降りることにした。

 どうやらスリザリンは、スネイプからグラウンド使用許可は得ている、と主張して、グリフィンドールの邪魔をするつもりのようだった。

 しかも、『新しいシーカー』がいるらしい。

 フリントはニヤニヤ笑って、そのシーカーを前に出した。

 

「ドラコ・マルフォイだ」

「⋯⋯え?」

 

 僕は、驚く。マルフォイが、シーカー?⋯⋯なんだろう、ものすごく勝てそうだ。

 ハリーはニコニコしていた。

 

「ドラコがシーカー!?じゃあ、直接対決ってわけだ」

「ああ。君には負けないよ。⋯⋯なんせ僕たちは、ニンバス2001を持っているからね」

 

 スリザリン生は得意げに、自分の箒を突き出す。最新型のニンバスに、グリフィンドールチームにどよめきが起こる。

 僕はその場に崩れ落ちた。

 

「くそっ、金持ちがよぉ⋯⋯。やっぱりこの世って金なんだ」

「そうよ、きっとマルフォイはお金で選ばれたのよ!」

 

 ハーマイオニーの発言に、マルフォイの顔から笑顔が消えた。

 たしなめるようにハリーが言う。

 

「流石にそんなことはないよ。使えないシーカーをチームに入れるなんて、自殺行為だし」

「でも⋯⋯っ!」

「ハーマイオニー、今のは君が悪いよ」

 

 冷静にハリーに諭され、ハーマイオニーは渋々謝罪の言葉を口にした。

 「よしっ!」と言って、ハリーは手を叩く。

 

「どっちがグラウンドを使うかは、公正公平にじゃんけんで決めましょう。フリント先輩、対戦よろしくお願いします」

「ハリーが?キャプテンのウッドじゃなく?」

「まぁまぁ、僕たちの仲じゃないですか」

「⋯⋯まぁ、別に誰でもいいか」

 

 フリントはハリーに好意的な様子。

 ハリーは不敵な笑みを浮かべた。

 

「ちなみになんですけどね。僕、シーカーやってから動体視力がよりレベルアップしたんですよねぇ。つまり、あなたが出す手を見抜いて確実に勝つことができる!」

「かましたれハリー!」

 

 ウッドが大声を出した。フリントは少しだけ怯んだが、キャプテンとしての誇りが、辞退することを許さなかった。

 二人は向き合うと、それぞれ右手を突き出した。

 クィディッチよりも熱い勝負が、今ここで始まる。

 

 

 

 

 

「⋯⋯とか言いながら、僕負けたんだけどね!あはは!」

「何が面白いんだい、ハリー」

 

 あんだけ強気だったのに、ハリーは普通に負けた。

 

「いやー、フリントすごいな。僕より長くクィディッチしてるだけあって、動体視力も高かった」

「お前さん、そんなんで今年のクィディッチ勝てるのか?」

 

 ハグリッドが不安そうに尋ねた。

 ここはハグリッドの小屋。

 練習する場所を奪われたグリフィンドールチームは、その場で解散。暇になった僕たち三人は、そのままハグリッドのところに遊びに来たのだ。

 

「大丈夫だよ。なんてったて、向こうのチームのシーカーはマルフォイ!うちのハリーの足元にも及ばないからね」

「マルフォイ?ドラコ・マルフォイか?」

「そう。ハリーならこてんぱんにできるよね」

 

 僕はハリーの顔を覗き込んだ。ハリーは髪をかきあげて、「誰が相手だろうと、僕には敵わないだろうよ」と自信満々。ハーマイオニーも力強く頷いて、ハリーの背中を叩いた。

 ハグリッドは嘆息した。

 

「お前さんたち、仲良いな。俺にはそういう同級生がいないから羨ましい」

 

 そんな悲しいことを言わないでほしかった。なんて返せばいいんだよ。黙ったままでいると、ハグリッドは不気味な笑みを浮かべながら、「それもこれも全部、トムが俺を追い出したからだ⋯⋯」などとぶつぶつ呟く。他責思考ハグリッドなんて、見たくなかったよ。

 

「ハグリッドがホグワーツ退学したのって、その人のせいなの?」

 

 そう尋ねると、ハグリッドは驚いたような顔をした。

 

「お前さん、退学のことなんで知っちょるんだ」

「フレッドが言ってた」

「ああ⋯⋯。あいつにゃ口を閉じることもできんのか」

 

 ハグリッドはため息をついた。あまり話したくなさそうだったけど、僕たちの興味津々な表情からは逃げることができず、重い口を開いた。

 

「俺が在学中、一人の女子生徒が死体で発見された。そしてトムが、俺を犯人だって指差したんだ」

「えぇっ!?」

「もちろん、俺はやってない!」

 

 ハグリッドは机を強く叩いた。うたた寝をしていたファングが飛び起きて、やかましく吠える。

 短い間柄だけど、ハグリッドは人を殺せるような人じゃないというのは何となく分かる。動物好きに、悪い奴はいないって言うし。多分、冤罪なんだろう。

 ハーマイオニーが躊躇いがちに切り出した。

 

「⋯⋯どうしてあなたが犯人ってことになったの?」

「俺の友達⋯⋯アラゴグが、こ、殺して。そ、その責任が俺に⋯⋯」

 

 アラゴグ⋯⋯?その人はどんだけ凶暴なんだろう。

 僕の脳内では、『アラゴグ』という名札のついた巨漢がナイフを舌でベロベロしている。サイコパスじゃん。

 

「ハグリッド⋯⋯友達は選んだ方がいいよ⋯⋯」

 

 僕は心の底からの善意でそう伝えた。脳内によぎるマルフォイは、必死に追い出す。

 ハグリッドは、つぶらな瞳から涙をぽろぽろと零した。

 

「ち、違うんだ!アラゴグは悪くねぇ!俺がちゃあんと躾けてた。あいつは、そんなことしない!」

「し、躾け?」

 

 なんだ、ハグリッドは何をしてたんだ?てかどういう関係なんだよ!

 頭の中がクエスチョンマークで満たされる。

 

「そんなにやばいアラゴグは、今どうしてるのさ。アズカバン?」

「いいや、あいつは今、禁じられた森におる」

 

 

「え?」

「は?」

 

 

 僕とハーマイオニーの声が重なった。ハリーは、なぜか笑い始める。何わろとんねん!

 脳内のアラゴグは、森の中で真っ裸になった。やばいやばいやばい。サイコパスで野蛮人みたいな生活してるとか、救いようがないじゃんか!

 

「ちょっっっっと待って?アラゴグさんは今、森にいる⋯⋯?野生に放つなんて、何考えてるのよ!」

「いやむしろ、あいつはもっと早く野生に帰すべきだったんだ⋯⋯」

 

 どんだけ野蛮人なんだよぉ⋯⋯。四足歩行でもしていらっしゃる?

 

「その人、もっとしかるべき機関に連れていった方がいいって⋯⋯」

 

 僕がそう伝えると、ハグリッドはこてん、と首を傾げた。

 

「『人』⋯⋯?お前さん、何か勘違いしちょるな?」

 

 ハグリッドはこともなげに言った。

 

「アラゴグは人じゃねぇ。アクロマンチュラだ」

「え、人じゃない⋯⋯?」

 

 何だそれ、と首を傾げた僕に、ハーマイオニーが答えてくれた。

 

「知能が高く、とても危険な魔法生物よ。タランチュラの一種、つまり蜘蛛ね」

「く、蜘蛛ぉ!?」

 

 えぐいて!僕が一番嫌いなものじゃないか!何でそんなもん飼ってんだよ!

 ハグリッドには申し訳ないけど、トムには感謝かも。僕は、顔も知らない青年に手を合わせた。

 

「これがアラゴグだ。どうだ、可愛いだろう?」

 

 ぬっと突き出された写真には、普通の蜘蛛より遥かに大きい怪物が写っていて──。

 

「気絶します。三、二、一⋯⋯スヤァッ」

「あ、死んだ」

 

 

 

*****

 

 廊下で、ばったりマグゴナガルに出会った。彼女はどうやら、僕とハリーを探していたようだ。

 

「ちょうど良いところに。ポッター、ウィーズリー、処罰は今夜になります」

 

 処罰⋯⋯あ、暴れ柳に突っ込んだ罰か。すっかり忘れていた。

 何をするんだろうか。恐る恐る尋ねると、僕はフィルチと一緒にトロフィー磨きをしなくてはならないと言われた。もちろん、魔法は使用禁止。

 

「ま、マジかぁ⋯⋯」

「マジです。そしてポッターは、ロックハート先生のファンレター返信を手伝うように」

 

 とても罰則とは思えない内容である。

 ロックハートと波長の合うハリーは、楽な罰則だと喜んでいた。羨ましい。どうして僕はフィルチなんだ。

 不貞腐れつつも、時間になったらトロフィールームに向かう。既にフィルチは構えていて、僕を見るとふんっと鼻を鳴らした。

 

「お前の仕事は全てのトロフィーを磨き上げること。楽なものだ。昔はな、悪いことをした生徒は吊るされていたんだぞ」

「え⋯⋯?」

「ああ、あの叫び声が懐かしい」

 

 フィルチは恍惚感に浸っている。怖いんですけど。

 トロフィールームには、夥しい数のトロフィーやカップ、像、メダルなどが保管されていた。『魔法薬学優秀賞 アシュリー・ソフィア・グリーングラス』『決闘騎士名誉賞 キース・レオ・テイラー』『ホグワーツ特別功労賞 トム・マールヴォロ・リドル』とか。⋯⋯これ全部を磨くの?あ、左様ですか。左様でいらっしゃる。

 僕は袖を捲って、布を手に取った。

 

 

 

*****

 

 ハロウィンの時期がやってきた。久しぶりの楽しいイベントに、僕はワクワク。思い返せば、暴れ柳で酷い目にあったり、吠えメールで怒鳴られたり、フィルチの元でトロフィーを磨いたりと、大変なことが続いていたからね。

 そんな中、ハリーは首なしニックに絶命日パーティーに誘われたことを話した。

 

「ハロウィンパーティーと同じ日なんだけど、君たちもどうかな?」

「面白そうね!」

 

 ハーマイオニーは俄然乗り気だ。

 二人が行くなら、僕も行こうかな。そんな軽いノリで応じたが、当日、僕は非常に後悔していた。

 まず、寒い。ゴーストの集いだからか、温度が低いのだ。そしてパーティーのBGMも微妙で、例えるならそう、黒板を爪で引っ掻いたような甲高い音が流れっぱなしだ。

 最初は乗り気だったハーマイオニーも、げんなりし始めた。しかも、嘆きのマートルとかいう女子トイレのゴーストがいることに気付いて、慌てて顔を伏せた。

 パーティーだから食事も期待していたのに、テーブルの上にあるのは腐ったような臭いのするシチュー。

 

「⋯⋯ちょっと、壁際で休もうか」

 

 ハリーの提案に乗って、僕たちは避難した。

 僕は鼻を押さえる。

 

「ああ最悪。こんなことなら、人間界のパーティーに出ておけば良かった」

「そもそも私、ハロウィンパーティーに出たことないのよね」

 

 去年、トイレに篭っていたハーマイオニーがうんざりしたように言った。⋯⋯その節は、本当にすみませんでした。

 僕も去年のこの日を思い出す。トロールに出会ったんだよな⋯⋯。あれも中々ない体験だ。

 ⋯⋯そういえば、とふと疑問に思う。

 

「結局、クィレルってどうなったの?しれっと自主退職ってことでいなくなってるけど、本当なの?」

「えっと、クィレル⋯⋯は、⋯⋯うーん⋯⋯」

 

 ハリーは少し口籠もる。ようやく口を開いたかと思えば、蚊の鳴くような声で「⋯⋯死んだよ」と告げた。

 そうか、死んだのか⋯⋯。

 『例のあの人』の仲間だったとはいえ、死んだって聞くと、なんかこう⋯⋯感じるものがあるな。

 

「賢者の石は、みぞの鏡に隠されていたんだ。みぞの鏡は、鏡に映った人の望みを映し出す魔法道具で、ダンブルドアはこれを利用して、『賢者の石を使うことを望まない人間が、石を手に入れることができる』ようにしていたんだ」

「ってことは、クィレルはどう頑張っても石を奪えなかったんだ。⋯⋯あれ、それじゃ僕たちの真夜中の冒険って、本当に意味がなかったんじゃ」

「それは言わないお約束」

 

 ハリーは僕の鼻を摘んだ。それから、思い出すように視線を上に向ける。

 

「クィレルは僕を使って賢者の石を取ろうとしたんだけど、なんとか死守して。ヴォルデモートがブチギレて、そのまま⋯⋯」

「へぇ⋯⋯ってことは、君はあの石を取れたんだ!すごいや」

 

 去年、賢者の石のことを知った時、ハリーの反応は薄かった。不老不死に対して、あまり興味がなかったのだろう。だから、みぞの鏡から石を取れたに違いない。

 そう思ったのだが、ハリーはゆるゆると首を横に振った。

 

「いいや。僕も取れなかったんだよね。『死守』って言い方は違ったか」

「あ、そうなんだ。意外」

「要らないと思ってたけど、やっぱり心惹かれるものがあったんだろうねぇ。⋯⋯やっぱさ、僕のこの若さと美しさを失いたくはないなって思っちゃって!」

 

 突然前髪をふさぁっ⋯⋯と揺らすハリー。「そ、そっかぁ⋯⋯」と相槌を打ったあたりで、僕のお腹がぐぅ、と鳴った。

 

「お腹空いた?そろそろお暇しようか」

「そうね、一応顔を出してニックへの義理は果たしたし。初めてのハロウィンパーティーが楽しみだわ。ねぇ、ロン?」

「あの時はごめんってぇ。許して、ハーマイオニーさん⋯⋯」

 

 絶命日パーティーを後にした僕たちは、大広間に向かった。そこでお腹いっぱい食べて、ハーマイオニーの機嫌が戻った。

 平和なハロウィンは、こうして過ぎていった。

 

 

 




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