様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代)   作:夜風ミシェル

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6.このノートに名前を書かれた人間は死ぬ(嘘)

 

 冬休みがやってきた。

 今年も僕とハリーは残留。ハーマイオニーだけ帰省する。

 

「家だと魔法使えないしね」

 

 ハリーはそう言って、火の消えた蝋燭に「インセンディオ」と唱えて火をつけた。

 僕はというと、まだ母親に杖のことを言えてないから帰るわけにはいかなかった。

 もちろん、いつかは言わないといけないんだろう。でもまだ、まだ粘れる⋯⋯!そう思って、ずるずると引き延ばしている。

 折れた杖の扱いももう慣れたものだ。逆向きに魔法を放てば何の問題もない。ハリーからは「器用だね」と褒められた。

 さて。

 僕とハリーの間で、ちょっと流行になっていることがある。

 それは、決闘である。

 決闘クラブに参加して以来、スリルを求めて魔法を撃ち合っているのだ。

 

「お辞儀をするのだウィーズリー」

「それは誰の真似なんだい?」

 

 僕たちは一礼すると、同時に武装解除呪文を放った。

 ハリーは華麗に避け、僕は普通に直撃。

 結果、医務室。

 

「全く!何をやっているのですか!冬休みに仕事を増やすんじゃありません!」

「ひぇっ⋯⋯す、すみません」

 

 休日のまったりティータイムを邪魔されたポンフリーは、鬼のような形相だった。

 二時間後、医務室を出た僕はとことこと歩いて寮に戻る。

 ハリーは暖炉の前の一人掛けソファに座っていて、僕が戻ってきたことには気付いていないようだった。驚かせようと思って、忍び足で背後から近付く。

 ハリーは机の上にノートを広げて、何かを書いていた。

 

「⋯⋯わっ!」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 悲鳴を上げて、ハリーはすぐさまノートを閉じた。黒い裏表紙だ。下には小さく『T・M・リドル』という文字列が書かれている。

 ハリーはその文字を隠すように、本の上に手を置いた。

 

「何さ、そんなに慌てて。⋯⋯エロ本か?」

「んなわけあるかっ!ジニー一筋!」

「この流れで言うのは死刑。⋯⋯じゃあ見せてよー。隠されると余計に気になるんだけど」

 

 ツンツン、とハリーの頬をつつく。ハリーはしばらく悩んでいたが、徐に辺りを確認した。

 

「⋯⋯じゃあ、君にだけ教えてあげる」

 

 ハリーらしからぬ真剣な表情に、僕は無意識のうちに唾を嚥下する。

 この本は一体、何だって言うんだ?

 

「これは死のノート。このノートに名前を書かれた人間は死ぬんだ」

「は???」

「僕はこれを、『Death Note』、そう名付けたよ」

 

 言いながらハリーは、真っ黒な表紙に白いインクで『Death Note』と大きく書いた。めっちゃ嘘っぽいし、安直ぅぅ〜⋯⋯。

 ⋯⋯と、内心小馬鹿にしていたら、本がひとりでに開いた。

 

 表紙に落書きするのはやめてください。

 

「え⋯⋯は?勝手に文字が⋯⋯!?」

「ちょちょちょちょちょ」

 

 これはハリーも予想外だったのか、慌てたように本に書き込む。

 

 君、表紙に書いたものも感知できるの?

 ええ、当然でしょう?僕の体なんですから。もちろん、消すことだって可能です。

 

 ハリーは表紙を上向きにした。白いインクはすっかり消えていた。

 

「僕の厨二病ノートが!」

「あれは消えて良かったと思いますよハリーさん。⋯⋯それで、これは何なのさ」

 

 僕はノートをとんとん、と軽く叩く。そうしている間にも新たな文章が綴られていく。

 

 ところでロン。何か悩みはないんですか?どんな些細なことでも構いませんよ。

 

「こいつなんで僕の名前を⋯⋯!?」

「ああ、それは僕がロンの名前を借りて話してるからだね」

「勝手に借りんな」

 

 これが危ない契約書とかじゃなくて良かった。⋯⋯大丈夫だよね?

 不安になってきた僕に、ハリーは陽気に笑う。

 

「大丈夫。名前は重要じゃないから」

「ふーん。これ何なの?」

「会話ができる魔法道具だよ。えっと⋯⋯夏休み、ダイアゴン横丁の古本屋で買ったんだ」

「いつの間に」

 

 僕は羽ペンを手に取った。会話ができるなんて面白いじゃん。「なんて書こっかなー」と考えていたら、ハリーに羽ペンを奪われた。

 

「残念ながら、これは所有者専用なんだ。代わりに僕が書いてあげるよ」

「そういうもんなんだ。⋯⋯えぇっとじゃあ、『ぺしゃんこ薬について、3フィートの長さでレポートを書いて』」

「それスネイプの課題じゃん⋯⋯」

 

 「まぁいいけど」と呟いて、ハリーは羽ペンを動かす。

 書き終わってから数秒後、夥しい分量の文字列が浮かび上がった。

 

 分かりました、ぺしゃんこ薬についてですね。

 ぺしゃんこ薬は、膨れ薬の解毒剤である。開発者はアシュリー・S・グリーングラスで、縮み薬の調合に失敗した際に、偶然発見された。材料は雛菊の根の代わりに一月草の黒焼きを入れるだけで、縮み薬とほとんど同じである。調合する際に発生しやすい事故として、有害物質の発生が挙げられる。鼠の膵臓と一月草の花弁の成分が結合しやすいからだ。それを避けるためには、まず花弁を熱した上で粗熱を取り、それから膵臓を刻むことが必要不可欠だ。

 この薬はごく稀に、使用者に拒絶反応が見られることがある。現在も原因は特定されていない。飲み合わせが問題だと考えられる。一月草に含まれる魔力が、ある状況下で使用者の体内で暴走するのだろう。その状況というのは

 

「いやこいつ優秀すぎだろ!」

 

 完璧なレポートに、僕は舌を巻いた。なんだこいつ。基礎知識に加えて自分なりの考察まで書いている。天才や。デスノートではなく知恵袋だったのか。

 これ幸いとばかりに、僕はその内容を羊皮紙に書き写していく。

 

「丸写し?流石にやめようよ⋯⋯」

「だって楽じゃん!これからも頼むね」

「落ち着いてよロン」

 

 ハリーは僕の腕を掴んだ。

 

「スネイプはお世辞にも優秀とはいえない君の成績を知っている。それなのに君が、突然こんな素晴らしい文章を書く?怪しまれるに決まってる」

「⋯⋯」

 

 悲しいかな事実。

 僕は途中書きの羊皮紙を破り捨てた。そしてウィンクしてみせる。

 

「じゃあ、次は『魔法薬学が苦手な生徒が一生懸命書いたふうなレポート』を頼めばいいんだ!」

「ロン⋯⋯君、結構カスだね」

 

 ハリーは音を立てて、黒い本を閉じた。

 

 

*****

 

 結局、スネイプの課題は自力でやった。⋯⋯まぁ、脳内にはあのノートが作ってくれたレポートの文章がちらついていたので、ちょっとお借りした部分もあるけれど。

 

「うわ⋯⋯ハリー、これ見て⋯⋯」

 

 僕は、今朝の日刊予言者新聞のとある記事を指差す。そこには僕のパパが、マグルの自動車に魔法をかけたとして、金貨五十ガリオンの罰金を言い渡されたとある。五十ガリオン?なんて大金なんだ⋯⋯。

 

「⋯⋯これ、僕が払うよ」

「いやいや、車はうちの物だし」

「じゃあ、せめて半分くらいは出させてよ」

 

 ハリーは本当に申し訳なさそうだった。ぶっちゃけ、車で事故を起こしたのは僕とハリーだもんね⋯⋯。

 記事の続きには、パパをマグル製品不正使用取締局局長の地位から後任させるべきだと、ルシウス・マルフォイが意見書を提出したとも書いてあった。それを読んだハリーは立ち上がる。

 

「どこ行くんだい?」

「ちょっとふくろう小屋にね。ルシウスさんに手紙を出してみるよ」

「え!?」

 

 どうやらハリーはルシウスに、意見書の取り下げを頼むつもりらしかった。

 ハリーは、「今年のクリスマスには、お互いにプレゼントを渡し合った仲だしね。なんとかなるよ」と大きく頷く。ありがたいけど、なんだか複雑な気分だった。

 とはいえそれは上手くいったらしく、パパはなんとか仕事を続けられることになった。

 

「その代わりに次の夏休みには、マルフォイ邸に来るように言われたんだけどね」

 

 一週間後、ハリーは杖の手入れをしながら淡々と告げた。

 ルシウスとしては、生き残った男の子に取り入りたいのだろう。ネームバリューに加えてハリーは半純血で、家柄も申し分ない。

 僕は申し訳なく思った。ハリーをそんな面倒くさいところに行かせたくはなかった。

 沈み込む僕に気付いて、ハリーは強く僕の背中を叩いた。

 

「心配しないでよ。ドラコもいるんだから、きっと楽しいよ」

「⋯⋯ご、ごめん」

「うーん、申し訳なく思うなら、ジニーと二人っきりで話す許可をしてくれてもいいんだぜ?」

「それとこれとは話が違います」

 

 

*****

 

 ロックハートのせいで荒れ狂ったバレンタインを過ぎると、徐々に寒さも和らぐ季節となった。

 そして二年生は、来年度の選択科目について考え始めなければならなかった。

 「とりあえず楽そうなのがいいなぁ」と零したら、ハーマイオニーには「なんて低い志」と嘆かれた。はいはい、どうせ僕には君ほどの高潔な目標はありませんよー。

 ハリーとも話した結果、魔法生物飼育学と占い学を取ることにした。配布された紙に、希望する科目を書き込んでいると、近くをロックハートが通りかかった。

 

「やぁ、ハリー!⋯⋯例の件なんだけれど。考えを改めてくれたかな?」

「それは⋯⋯すみません、お断りさせていただきます」

 

 ハリーは頭を下げた。⋯⋯例の件?何だろう。

 ロックハートは「考え直したらいつでも私の元に!」と言いながら去っていった。

 僕はハリーの袖を引く。

 

「何の話?」

「あー、実は、ロックハートの小説に名前を使わせてくれないかって打診されてて」

「え!?それって一緒に冒険しようってことだろ?すごくないか」

「ううん、本当に名前だけ貸してくれって言われた。冒険は一人でやるんだとか」

 

 ちょっと理解できなくて、僕は口を閉じて話を咀嚼する。⋯⋯なるほどね、小説はあくまでフィクション。実際の冒険話に手を加えているわけだ。そこでハリーの名前を出したいってことね。

 

「ロックハートの教員契約は元々一年間だけらしくてね、任期満了後は作家業に戻るんだけど。新たなファンを得るために僕のネームバリューに目を付けたっぽい。ま、断ったけど」

 

 ハリーは目立ちたがり屋だ。断るのは意外だな。

 

「どうして断ったのさ」

「え、そりゃ⋯⋯あー⋯⋯なんか、面倒なことになりそうだったから。ほら、ロックハートってお世辞にも真面目な人間とは言い難いでしょ?」

「多分あいつも君には言われたくないだろうけど。ま、それもそうだね」

 

 ハリーの直感が『あいつはやめとけ!』と囁いたようだ。

 

「もったいないことしたわね、ハリー」

 

 選択科目調査票をようやく書き終えたハーマイオニーが口を挟む。君なら速攻で首を縦に振るんだろうな⋯⋯。

 

「そういえば、そろそろ試験勉強を始めないとね」

「うっ⋯⋯いや、まだまだ先だし⋯⋯」

 

 この話、去年もした気がするなと思いながら、僕は目を逸らす。だが、目がガン決まったハーマイオニーからは逃げられない。

 僕とハリーは引き摺られるようにして、図書室へと移動した。

 

 

 

*****

 

 ハーマイオニーだけでなく、学校全体が試験を意識し始めた頃。

 僕は息抜きがてら、中庭で寝転がっていた。青い空。清々しい空気。先週はずっと天気が悪かったから、気分がすっきりする。

 ハリーとハーマイオニーはそれぞれ所用があって、今はいない。だけど、スキャバーズを連れてきたから寂しくはない。

 僕は体を起こすと、芝生の上をちょろちょろと歩き回るスキャバーズを観察した。可愛いな。⋯⋯最近太り気味だけど。

 

「僕より肥えやがって。えいっ」

 

 僕は軽く指を弾く。芸を教え込んでいるので、スキャバーズはその場に倒れ込んだ。

 ふと、芝生の上に影が落ちた。

 

「こほん、ウィーズリー君?少しいいかな?」

 

 顔を上げれば、そこにいたのはロックハート。

 彼は胡散臭い笑みを浮かべて、「相談があるんだ。今から私の自室に来てくれないかな」と誘いの言葉を告げた。

 うーん、面倒くさいっ。断ろう。そう思った僕だったが、「最近、ファンから大量のクッキーを貰ってね」と、ロックハートが有名どころのブランドを挙げたので、光の速さで立ち上がった。貰えるものは何でも貰う。これが僕の流儀だ。

 

 

 

 

 

 お茶の準備をしながら、早速ロックハートは本題に入る。

 

「ハリーのことで話があってね。彼を私の小説に登場させたいのだけど、断られてしまったんですよ」

「あ、その話は聞いてます」

「なるほど、それなら話は早いですね!⋯⋯どうぞ」

 

 ロックハートは僕の前にティーカップを置いた。礼を述べてから口をつける。

 

「彼が協力してくれれば、もっと魅力的な本が書けるはずなんだ。彼は私の次に有名ですからね!HAHAHA⭐︎」

 

 台詞も顔面もうるさかった。いちいちウィンクを飛ばすな。

 目が死んでる僕に構わず、ロックハートはぺらぺら喋る。

 

「そこでぜひ、君の力を借りたいわけだ。なんとか彼を説得してくれませんか?」

「え⋯⋯」

「君はハリーの親友、そうでしょう?」

 

 どうやらこいつは、周りの人間から落とすことにしたようだ。意外と策士。⋯⋯そういえば、レイブンクロー出身だったな。

 僕は若干目を逸らし、何気なく壁を見る。何枚も写真が貼られていて、気取った表情のロックハートが投げキッスしてきた。ああ、悪寒が走る。

 大量のロックハートに囲まれるこの空間に長居できるほど、僕は精神が強くない。さっさと食べて帰ろう。

 

「そうですね、僕からも言っておきます」

 

 テキトーに言葉を返す。真面目な顔を作りつつクッキーに手を伸ばすと、胸ポケットからスキャバーズが飛び出した。なんだ、お前も食べたいのか?

 ロックハートは腕を伸ばし、スキャバーズの頭を撫でた。

 

「ふふ、ネズミさえも私の虜のようですね。こんなふうに飛び出してくるなんて」

 

 多分お前じゃなくて、クッキーに吸い寄せられたんだと思います。そんなツッコミは、紅茶と共に流し込んだ。

 クッキーを咀嚼する僕に、ロックハートは「ハリーとの出会いはまさに運命だったのです!」と語り出す。

 

「そもそも私、彼のご両親と面識がありましたしね!」

「え!?」

 

 驚いた拍子に紅茶を零し、テーブルの上を液体が這う。クッキーに夢中になっていたスキャバーズも、紅茶でびちゃびちゃになってしまった。

 

「あ、あ、あ!すみません!」

「心配ご無用!」

 

 ロックハートはさっと杖を振る。すると、テーブルの上がなぜか泡だらけになってしまった。おい、何が『心配ご無用』だよ!!

 スキャバーズも泡に覆われて見えなくなる。

 

「す、スキャバーズぅぅぅ!!!」

「あー⋯⋯うん、君のペットも綺麗になりますね、はい」

「存在ごと綺麗さっぱりしてどうする」

 

 教育委員会に訴えてやる!そんなことを考えながら、僕は泡をかき回す。だが、泡の量は増えるばかりで、スキャバーズは一向に見つからない。

 

「ロックハート!早く魔法を解いてくれ!」

「え?⋯⋯いやぁ、どうするんでしょうねぇ」

「勘弁してくれよぉ!」

 

 こいつ、やはり無能教師だったか。頼りにならないロックハートに見切りをつけて、ふと脳裏によぎったあの呪文を唱えた。

 

「フィニート!」

 

 

 パリン、とカップが割れる音がした。

 

 

 泡の勢いが止まったテーブルの上に、誰かが座り込んでいた。

 

 少々薄汚れた、割と太ってるおっさんだった。

 

 不思議と見覚えがある──そんなふうに感じた瞬間、封印されし記憶が蘇った。

 

「お、お、お前はぁぁぁ!去年の不審者!!」

 

 去年のクリスマス休暇、僕から杖を奪い何かよからぬ魔法を掛けたおっさんだった。

 僕は頭を押さえる。

 

「思い出した⋯⋯。そうだ、スキャバーズはおっさんだったんだ⋯⋯」

「ロ、ロン⋯⋯す、すまない。けどこれには事情が⋯⋯」

 

 挙動不審のおっさん。

 僕はロックハートの腕を引っ張った。去年は一人だった。けれど、今年は大人が近くにいる!

 

「何とかしてください!先生だろ!」

「いや⋯⋯え?そんなわけ⋯⋯」

 

 なぜかロックハートも挙動不審である。

 彼は信じられないものを見たかのような驚愕の表情で、呟いた。

 

「ピーター・ペティグリュー⋯⋯?」

 

 

 




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