様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代) 作:夜風ミシェル
ロン・ウィーズリーは、ホグワーツ特急でハリー・ポッターと出会う。彼は『生き残った男の子』として魔法界では英雄で、ロンもファンだった。
⋯⋯が、彼はロンの期待を裏切るナルシスト傲慢野郎だった!
「思ってたんと違う!」と思いながらも、友達になる二人。さらに、才女ハーマイオニーとも仲良くなり、賢者の石を巡る戦いを制した。
ホグワーツ二年目。列車に乗れず、暴れ柳に突撃したロンとハリー。ロンの杖は折れて、碌に使えない。
クィレルの代わりに教師となったのは、どことなくハリーとキャラが被るロックハート。
彼の下手くそな魔法がきっかけで、スキャバーズは正体を暴かれることに。だが、ロックハートは忘却術の逆噴射で自爆。ペティグリューはロンに忘却術を掛けて、自身の正体を再び隠した。
秘密を隠しているのは、ペティグリューだけではなかった。
マルフォイ邸にやってきたハリーは、ルシウスにとある日記帳を見せつける。
それがどういうものなのか、何故かハリーは理解していた。
震えるルシウスに、ハリーは、「僕は、ヴォルデモート──」と不敵に微笑んだ。
1.凶悪犯
父の車で暴れ柳に突撃、車は行方不明、母からのお叱り、折れた杖、フィルチと罰則、消された記憶。
僕のホグワーツ二年目は、それはもう散々だった。⋯⋯「最後以外は自業自得だろ」とか言う奴にはシレンシオ。
だが、神は僕を見捨ててはいなかった!
聖マンゴから退院した僕を待っていたのは、金色に輝く当選チケットだった。
ガリオンくじ一等賞。その額なんと700ガリオン!
「この夏は、家族でエジプトに行くぞ!」
パパがそう宣言すると同時に、僕たちは「おー!!」と声を張り上げた。
*****
「はい、笑って!」
雄大なピラミッドを背景に、僕たちはそれぞれ笑顔を作った。『日刊予言者新聞』のカメラマンが、何度か試し撮りを行う。記事になるらしくて、僕は今からわくわくしていた。
「よし、本番いきまーす。三、二──」
「あ!ちょっと待ってください」
僕は慌ててスキャバーズをケージから出した。スキャバーズも画角に収まるように、肩に乗せる。家族写真だし、ちゃんと入れたいよね。
隣にいるジニーはしきりに髪を撫で付けていた。
「もう充分整ってるじゃないか」
「分かってないわねロン。この一枚は重要よ!ハリーも見るかもしれないじゃない」
「でも、ハリーはマグルの家だし。新聞なんて読ませてくれないだろ。⋯⋯あ」
僕はポン、と拳を手のひらに打ち付けた。
ちょうど手紙を送ろうと思っていた。ついでに新聞記事を切り抜いて同封してやればいいんだ。それと、誕生日プレゼントにはスニーコスコープ。怪しいものがいれば、クルクル回って教えてくれる品物だ。⋯⋯あんまり信用はできないけど。
エジプトに滞在するのは、新学期が始まる一週間前まで。ビル──ここの銀行で働いている兄だ──に墓地という墓地を案内してもらう予定だ。
ハリー、きっと驚くだろうなと僕はほくそ笑んだ。
⋯⋯が、イギリスに帰還した僕を待っていたのは、『魔法で伯母を大気圏まで打ち上げた』というハリーのとんでもねぇ話だった。なんじゃそりゃ。僕の方がびっくらポンだぜ。
魔法省勤務のパパからそれを聞いた僕は、夏休み最終日、ハーマイオニーと一緒に『漏れ鍋』に向かうことにした。マグルの世界で魔法を使ったハリーは、勢いのままに家出したのである。そして今は、ここで寝泊まりしている。
ハーマイオニーもこの夏は海外に行っていたらしく、かなり日焼けしていた。
「ハリーはどこかな?」
「見当たらないわね⋯⋯。すみません、トムさん!」
ハーマイオニーは『漏れ鍋』の主に声を掛けた。ハリーの居場所を聞いたところ、どうやら今は外に出ているらしい。学校用品を買いに行ってるのかな。
僕たちも買い物がてら本屋やマダム・マルキンなどを覗いた。しかし、ハリーは見当たらない。途中、あまりにも暑くてアイスクリームを購入。テラスに座って涼をとっていると、見覚えのある後ろ姿が視界に飛び込んできた。
「ハリー!」
「⋯⋯お、久しぶり!」
ハリーは僕たちに気がつくと、小走りで駆け寄る。「ロン、体調はどうなの?」と問われ、僕は手の平をひらひらしてみせる。
「もう大丈夫だって!手紙でも伝えただろ?」
「でもほら、結局記憶は戻らなかったんでしょ?」
「あー⋯⋯まぁ、ね」
僕は曖昧に微笑んだ。
ロックハートによる忘却術は、結局解除できなかった。だからもう断念という形で退院し、いつも通りの生活に戻ったのだ。
「ま、大したことないし。それよりハリー!君の話を聞かせてよ。伯母さんを空高く打ち上げたんだろ?何があったんだ?」
「色々ね。何も知らないくせに馬鹿にしてくる伯母が気に食わなくて」
「で、キレたんだ」
「そう。思い切り杖を振ったら、天井突き破って飛んでっちゃった。あはは!」
やだこの子怖い。
笑うハリーとは対照的に、ハーマイオニーは鋭い目つきだ。
「笑い事じゃないわ。未成年は外での魔法行使を認められていないのよ!退学になってもおかしくなかった」
「勿論分かってたよ。でも、今なら許されるかなと。僕は『ハリー・ポッター』で、いたいけな子どもだし」
自分の価値をよく理解しているハリーは、傲慢に微笑む。無敵の人、ここに誕生。でも実際に無罪放免なわけだし、本当に良かったよ。
しかも彼の元に、態々魔法大臣までやって来たという。おったまげー。流石は我らの英雄。
僕はハリーの肩に手を置いた。
「⋯⋯これからもよろしく、ハリー君」
「え、何?自分の代わりに法を破らせようとしてない?」
「あはははは⋯⋯」
僕は乾いた笑いを漏らした。
それから話は、各々の購入品に移った。
「そうだ、見てくれよ。これ、僕の新しい杖!」
僕は細長い箱を開いて杖を見せた。十四インチ、柳の木。ユニコーンの尻尾の毛が一本入っている。ようやく折れた杖から解放されるのだ。
「良かったわね。⋯⋯というか、もっと早く買い直すべきだったと思うけど」
「自分の過失なのに、あの母上に言えるわけないだろ?『ロックハートに折られたんだと思う』って言ったら、泣きながら買ってくれたよ」
「あなた、嘘ついたのね」
ハーマイオニーはじろり、と僕を睨んだ。下手くそな口笛を吹きながら、僕は視線を下に向けた。
「そうそう、ハリー。信じられるか?ハーマイオニーはおったまげーなレベルの教科書を買ったんだぜ!」
はちきれんばかりの袋を見て、ハリーが少しだけ笑った。ハーマイオニーは澄まし顔で、「あなたたちより取る科目が多いもの。今から楽しみ!」なんて言うから、僕は「うへぇ」と呻き声を上げた。
その後は、ペットが欲しいというハーマイオニーに付き添ってペットショップに移動した。僕も、スキャバーズを診てもらう必要があったから丁度いい。
僕はポケットからスキャバーズを出した。こいつはエジプトから帰って以来、元気がないのだ。多分、あっちの水が合わなかったんだろう。
「よしよし。ちゃんと診てもらおうな」
スキャバーズの背中を撫でていると、ハリーがちらとこちらを見た。
「⋯⋯その鼠、随分と長生きだよね」
「え、あー確かに。でもその分弱々しいよ。指も一本欠けてるし」
ウィーズリー家に来る前は酷い環境にいたのだろう。だから僕は目一杯大事にしたいと思う。
店員と会話していたら、突然何かが頭の上に降ってきた。
「痛っ!な、何!?」
それは褐色の猫だった。明らかにスキャバーズを狙っている。店員が慌てて捕獲したが、その頃には既にスキャバーズは店からの逃走を図っていた。
僕とハリーは慌ててスキャバーズを追いかけた。十分後、ようやく見つけたスキャバーズは可哀想なことに震えていた。
優しく撫でてやりながら店に戻ると、そこにはとろけるような笑顔で腕の中の猫を撫でるハーマイオニーがいた。
すごく、見覚えのある猫だった。というか、このツラは一度見たら忘れない。先程、スキャバーズを食べようとした猫だった。
「ハーマイオニー?まさかとは思うけど、そいつを⋯⋯」
「ええ!この子── クルックシャンクスに決めたの。とっても素敵でしょう?」
僕は、潰れたような顔面を見つめた。どこが素敵って言うんだ?
思わずため息をついた。全く。ハーマイオニーが心底嫌になるよ。スキャバーズがいるってのに、どうして猫なんだ。しかも、お世辞にも可愛いとは言えない顔だし。今もシャーシャー威嚇してきて、めっちゃ凶暴だし。
ぶつくさ言いながら、『漏れ鍋』に戻る。すると、カウンター席にパパが座っていた。
「ハリー!元気かね?」
「はい。アーサーさん、お久しぶりですね」
「そうだね。⋯⋯さ、隣に座りなさい」
僕たちは荷物を抱えたまま椅子に腰を下ろした。
ふと、視線がカウンター上の新聞に吸い寄せられる。一面を飾るのは連日世間を騒がせている脱獄犯、シリウス・ブラックだ。伸びっぱなしの髭と髪、鋭い眼光は、いかにも『凶悪犯』って感じ。
彼はなんと、あのアズカバンから脱走したのである。アズカバンは孤島に存在し、その内部では吸魂鬼という恐ろしい魔法生物が闊歩する。数多の障壁を乗り越えて、ブラックは脱獄したのだ。怖いったらありゃしない。
「まだ捕まらないんですか」
ハリーが問うと、パパは深刻な顔で答える。
「ああ。魔法省一丸となって捜索に当たっているが、尻尾すらも掴めない」
僕はざっと記事を流し読みした。ブラックの脱獄と同時期に、グリンゴッツ魔法銀行に泥棒が入っていたらしく、闇祓いは二つの関連性についても調査しているようだ。被害に遭った金庫は明かされていない。
『情報提供者には謝礼があります』という文言を見て、少しだけ胸が弾んだ。
「捕まえたら、賞金が貰えるのかな?またお金が貰えたらいいな──」
「馬鹿なことを言うな」
パパは眦を決した。「数ヶ月前に犯罪者に襲われたのをもう忘れたのか?」と正論を言うので、僕はしおしお萎れた。ごめんなさい、冗談です。
空気を変えるように、新聞を持ち上げてハリーはブラックの顔をまじまじと見つめた。
「うーん⋯⋯でもこの人よく見たらハンサムだよなぁ」
「あなた何言ってるの?」
「ハーマイオニー、脳内で想像してごらんよ。髪の毛と髭を整えたら⋯⋯⋯⋯いけるな」
「何が??」
ハーマイオニーはハリーの耳を引っ張った。「痛い痛い!」と喚くハリー。自業自得だな。
その時、バーにママとフレッド、ジョージ、それからジニーが入店した。今年首席に選ばれたパーシーもいる。⋯⋯最近パーシーは家でも自慢話、ドヤ顔でウザいんだよな。
「ハリー!」
ジニーは破顔してハリーに駆け寄った。ハリーも嬉しそうに腕を広げ、それを受け止める。
「久しぶり!ちょっと見ない間に随分と可愛くなったね」
「え⋯⋯そ、それほどでも⋯⋯」
ジニーはデレデレし始めた。ここの空気、ゲロ甘。おえっ、と吐く真似をすると、ハーマイオニーが遠慮がちに口を開いた。
「あのね、実は二人、お付き合いを始めて⋯⋯」
「!?」
なんてことだ。僕がホグワーツにいない間に、そこまで進展していたとは。ていうか、僕の許可もなしに勝手に始めてんじゃねーよ!
「おい、ハリー!僕は許さないぞ!」
「何が不満なの?僕は一途な男だけど」
「いーや違うね!君からはロックハートと同じ匂いがする」
ハリーはショックを受けた。
「え⋯⋯僕、あの人と似てる?悲しいな。自分の友達に危害を加えた人と似てるんだ⋯⋯」
「え、いや、そ、そんな重く受け止めないでもろて」
半分くらい冗談だったのに、申し訳なくなってきた。
ハリーは真面目な顔になって、僕の前髪に触れた。突然の至近距離に、僕はたじろぐ。
ハリーの右手は髪を払い、額をなぞった。そこは確か、ロックハートとなんやかんやあって切り傷ができたところだ。傷跡は既に消えている。
それなのにハリーは、そこを丹念に撫でる。そうすれば、痛みも過去もなかったことにできるかのように。
「ハリー⋯⋯?」
あまりにも真剣な顔だったから、思わず名前を呼んだ。少し掠れてしまったが、ちゃんとハリーには聞こえていたようで、「ふふ」と笑われた。
「もう怪我しちゃ駄目だからね。心配だから」
「ハリー⋯⋯」
あまりにも痛切な響きに、単純な僕はうっかり流されそうになった。が、すんでのところで我に返った。
「⋯⋯そうやって優しくすれば、ジニーとの交際を許されると思ってんだろ!騙されないぞ!」
「え、酷くない?」
ハリーは不服そうに呟いた。
次の日。
何故か魔法省が車を手配してくれたので、それに乗って駅に向かう。とっても快適で、僕たちは余裕を持って到着することができた。でも結局離れ難くて、出発時刻ギリギリに僕たちは慌てて列車に飛び乗った。
空いているコンパートメントを探して、最後尾まで進んだ。
「あ、ここ空いてる⋯⋯けど、人がいるね」
「寝ているみたい。申し訳ないけど、無言で相席させてもらいましょう」
僕たちは寝ている男性を起こさないよう、そっとコンパートメントに入った。ライトブラウンの髪の毛は白髪混じりで、とても生徒には見えない。と思ったら、どうやら新しい先生らしかった。ハーマイオニーが彼の鞄を指差し、『R・J・ルーピン教授』と文字が入っているのを視認する。
恐らく彼が、『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生なのだろう。
僕は祈るように手を合わせた。
「生徒に忘却術を掛けるような奴じゃなければいいよ」
「低いハードルで笑う」
「あと、後頭部もまともであってくれ」
「それはそうだね」
合いの手を入れて茶化すハリーだったが、突如真面目な顔を作った。
「さっき、アーサーさんから聞いたんだけど⋯⋯どうもシリウス・ブラックは、僕を狙っているみたいなんだ」
「え!?」
ぎょっとした。
ハリーは、ブラックが寝言で『あいつはホグワーツにいる』と言っていたことなどを話した。
「ブラックが脱獄したのは貴方を狙うためですって?あぁ、ハリー⋯⋯本当に気をつけなきゃ。クィレルのときみたいに、自分で何とかしようだなんて思わないでね」
「はーい」
険しい顔のハーマイオニーに対し、ハリーは呑気だ。なんか不安になってきた。
「ハリー、分かってる?ほんとに危険なんだよ」
「分かってるって。優秀な僕に任せな」
「⋯⋯」
そう言われると言い返せない。ハリーの優秀な成績を知っているからね。特に実技が得意だし。
でもそうか⋯⋯。だから今回、魔法省は車を出してくれたんだ。それだけ警戒しているのだろう。
アズカバンからどうやって脱獄したのか、それはまだ分からない。そもそもこんなのは史上初らしい。
恐怖から口数の少なくなった僕たちを見て、ハリーが話題を変えた。それぞれの夏休みについてだ。
ハーマイオニーはフランス旅行がどれほど素晴らしかったのかを語り、僕も負けじとエジプトの話をした。ハリーはというと、まず自慢げに一枚の紙を見せた。
それは、今年から行けるようになったホグズミード村の許可証だった。
「家出する前に許可証をもぎ取っておいたから、僕も遊べるよ」
「『もぎ取った』んだ⋯⋯あはは⋯⋯」
どうやったのかは、あまり深く聞かないようにしよう。
ハーマイオニーがクスクス笑う。
「今年の夏は、ハリーにとって良かったかもね。だってあの家にいる期間が短かったんだもの」
夏休み、ハリーはマルフォイ邸に一週間ほど滞在。その後叔母の家に戻ったものの、結局は家出した。なるほど、確かに滞在期間は短く済んだな。
「そういや、マルフォイの家はどうだった?何か変な魔法を掛けられなかった?或いは、闇の魔法道具を押し付けられたりとか」
「君はマルフォイ一家のことを何だと思ってるの」
「そりゃあ、ね。⋯⋯何もなかったんだよな?」
念押しのように問いかけると、ハリーの口元が弧を描いた。
「うん、何もなかったよ」