様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代)   作:夜風ミシェル

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2.問題ばかりの教師陣

 

 この伝統あるホグワーツは、はっきり言ってクソだった。

 気ままに動く階段、邪魔しかしないゴースト、複雑すぎる部屋割り。

 一番の難所は、教師だった。

 

「ク、ククククィリナス・クィレルです。や、闇のま、魔術に対するぼうえ、防衛術を担当ししします。よ、よよろしく」

 

 何言ってんのか分かんねーよ、というのが一年生の総意であった。あとニンニク臭い。しかもこれが若手教員だと言うのだから、これからのホグワーツには明るい未来なんてなさそうだった。

 行く先暗しなホグワーツを照らすためか、マクゴナガルの授業では、マッチ棒を魔法で変身させることを要求された。先生は厳しそうだけど、クィレルと比べたらかなりまともで良かった。

 クィレルとは別ベクトルでヤバいのが、魔法薬学だ。スネイプはスリザリン贔屓で有名で、しかもスリザリンと合同授業だと聞く。

 

「いやぁ、楽しみだね」

「君⋯⋯正気か⋯⋯?」

 

 ハリーはのほほんとしている。

 入学初日から色々と奇想天外な行動を繰り返した彼だったが、勉強は得意な方だということはなんとなく分かってきた。魔法の方もセンスがあり、マクゴナガルの授業では変身術を成功させた二人のうちの一人だ。ちなみに、もう一人はハーマイオニー。

 こういうところだけ見れば、僕の空想の『ハリー・ポッター』像にぴったりなんだけどな⋯⋯とため息を零す。

 

「どうしたのロン、ため息なんかして。この僕が隣にいるっていうのに」

「無駄に髪をかきあげなくていいから」

 

 そういうところが問題だった。こんなノリで、悪名高いスネイプの授業を乗り越えられるんだろうか⋯⋯。

 僕たちは地下牢に向かった。

 そして、スネイプが教壇に立つ。その姿はさながら育ちすぎたコウモリ。他意は、ない。

 スネイプは出席を取り始める。

 ハリーの順番が来たところで、スネイプは視線を上げた。

 

「ハリー・ポッター。我らが新しい⋯⋯スターだね」

 

 えらくねっとりした言い方だ。

 スリザリン生がくすくすと笑う。マルフォイは、笑っていなかった。

 スネイプは、この授業について長文で説明を始めたが、なかなか詩的な表現だ。体言止めを効果的に用いている。前職は詩人だったのだろう。多分、あんまり売れていないと思うけど。売れそうにないもんな、あの顔は。

 

「ポッター!!」

 

 突然の名指しに、余計なことを考えていた僕はビビった。しかし、ハリーは落ち着いた様子だ。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」

「強力な眠り薬、生ける屍の水薬になります」

「⋯⋯ベゾアール石を見つけろと言われたら、どこを探す?」

「山羊のいる場所を探します。その石は、山羊の胃から採れるので」

 

 スネイプの唇がめくれあがった。なんちゅー顔をしてんだ。でも、そうなるくらいスネイプをコテンパンにやっつけたハリーに、僕はスタンディングオベーションをしたくなった。すごいぞハリー!流石我らのスターだ!

 だが、スネイプは悪あがきする。

 

「モンクスフードとウルフスベーンの違いは何だね?」

「⋯⋯」

 

 そこでハリーは口ごもった。ちょ、頑張れハリー。僕には答えなんてさっぱりだけど、君ならいけるだろ!?

 にやけるスネイプ。なんでこんなのが教員やってんだ?

 

「ほう、有名なだけではどうにもならんようだな。分からないのか、ポッター」

「⋯⋯ええ、スネイプ先生。僕が記憶するに、その二つに違いなんてものはありませんから。ですが、魔法薬学のスペシャリストであるスネイプ先生は、違いをご存知なのですよね。だから問題を出したのですよね?いやぁ参りました。素人には皆目見当もつきません」

 

 穏やかに、けれど強かに捲し立てるハリー。スネイプの唇はすっかりひっくり返っていた。変顔でもしてるのか?

 

「⋯⋯二つとも同じ毒物だ」

「つまり、違いは?」

「⋯⋯ない」

「僕の解答は?」

「⋯⋯⋯⋯正解だ、座れ」

 

 ぐぎぎぎぎという効果音が聞こえてきそうなくらいに歯を食いしばるスネイプ。

 兎にも角にも、ハリーのおかげで減点は免れた。やったー!

 ⋯⋯と喜んだのも束の間、おできを治す薬を調合する際、スネイプは理不尽にハリーから減点していった。

 

「あいつ噂通りの奴だな!ハリー、減点なんて気にしなくていいからな」

 

 授業後、僕はハリーの背中を叩いて励ましたが、

 

「ふふん、言い返せたし満足かな」

「⋯⋯?」

 

 なぜかハリーは嬉しそう⋯⋯というか楽しそうに笑い、「それより」と話を切り替える。

 

「今日はハグリッドのところに行かなくちゃ。お誘いがあったしね」

「そういえばそうだった。行こう!」

 

 

 

 

 

 ファングという犬に絡まれながら、僕たちはハグリッドとお茶を楽しむ。

 ロックケーキは本当に硬かった。

 

「がぎぎぎぎぐぐぐげげ」

「ロンの顔が更に悲惨なことに⋯⋯」

「失礼だなハリー。ちょっと自分がイケメンだからってぇ⋯⋯」

「?ありがとう」

 

 何とか食べすすめながら、僕はスネイプのことを愚痴った。その最中、ハリーが机の上に置いてあった新聞を見て声を上げた。

 

「見てよロン。グリンゴッツに強盗だって。しかも、僕が銀行に行った日に」

「おっといかん!」

 

 ハグリッドは新聞を取り上げた。それから強引に話を変えて、僕たちを小屋から追い出してしまった。

 城に戻りながら、ハリーは僕に言う。

 

「僕とハグリッドがグリンゴッツに行ったとき、ハグリッドはダンブルドア先生からの頼みで金庫から小さな包みを回収してたんだ。多分、それが犯人の狙いで⋯⋯ギリギリ盗まれずに済んだんだよ」

「ダンブルドアかぁ⋯⋯。よっぽど重要なんだろうな。何が入ってたんだろう」

「何だと思う?」

「⋯⋯百年もののベゾアール石、とか?」

「あっはー、おもしろーい」

「殺意を覚えた」

 

 

*****

 

 談話室の掲示板前で、生徒が集っている。なんだろうと思って見ると、飛行訓練のお知らせであった。

 

「うわ、またスリザリンと合同か」

「まあまあ、頑張ろうよロン」

 

 入学当時、スリザリンに組み分けされそうになってたハリーがなんか言った。

 そして迎えた当日。

 飛行訓練のことでもちきりな大広間では、ハーマイオニーが本で読んだ知識をネビル・ロングボトムにも聞かせていた。いや、ビビル・ロングボトムか?

 必死に話を聞くネビルの元に、フクロウが舞い降りる。ネビルはぱあっと顔色を明るくして、小包を開けた。

 

「それは?」

「『思い出し玉』だよ。中の煙が赤くなったら何かを忘れてるってことらしいんだけど⋯⋯」

 

 僕は、すっかり赤くなった玉を見た。忘れたことは分かっても、それが何が分からなかったら意味ないんじゃないか?

 またもや必死に思い出そうとするネビルの横を、マルフォイが通り過ぎる。

 そして、さくっと玉を奪い取ってしまった。

 

「ちょ、おい!何するのさ!」

 

 思わず僕が声を荒げると、ハリーもそれに同調した。

 

「うわー、ドラコサイテー。ネビルの玉を鷲掴みぃー」

「は、ハリー!?き、君は何を言ってるんだ」

 

 突然顔を真っ赤にするマルフォイ。どうしたんだ?

 

「あ、ロンにはこの意味が分からないのか。ピュアっピュアだねぇ」

「⋯⋯?」

「対して僕とドラコは⋯⋯笑」

「笑うなっ!ああもう!返せばいいんだろっ」

 

 マルフォイはあたふたしながらガラス玉を押し付け、スリザリンの机に帰っていった。

 

「よく分からないけど、ハリーってすごいんだな。マルフォイがあんなに動揺してる。おったまげー」

「そうだろ、僕ってかなりすごいんだよ」

 

 ハリーは胸を張った。

 

 

 

 

 

 飛行訓練を担当するのは、マダム・フーチという、いかにも体育会系な女教師だった。

 

「右手を箒に突き出して、『上がれ』と言いなさい」

 

 生徒は各々言うが、箒を掴めたのはほんの数人だ。僕も上がらない。

 

「うーん⋯⋯上がれ!」

 

 今度は箒が転がった。

 何度か繰り返して、結局無理そうな生徒は箒を拾うことになった。

 

「ここで授業が終わってしまいますからね。次は、握り方です」

 

 そう言ってフーチは、握り方の指導をしていく。それが終わったら、ようやく実践だ。

 

「笛を吹いたら地面を蹴ってください。少し上昇したら、ゆっくり降りてきなさい。いいですか」

 

 生徒たちの頷きを見て、フーチは笛を咥えた。

 

「一、二──」

 

 その瞬間、ネビルがフライングした。

 

「わああああぁぁぁぁーっ!?」

「ろ、ロングボトムぅぅぅ!」

 

 フーチとネビルは、二重奏を奏でた。

 箒に振り回され、はちゃめちゃな飛行を繰り広げるネビル。それをフーチはあわあわしながら見つめるだけだ。「助けてやれよ!!」と思ったのは僕だけではないはずだ。

 

「箒⋯⋯こわいっ⋯⋯」

「ネビル死んだな。教師、職務怠慢」

「フーチ無能説あるぞこれ」

「黙れ小僧」

 

 好き勝手騒ぐ生徒たちに、フーチは一言。

 僕たちが黙ると同時に、ネビルは地面に落下した。

 

「泣くな、ロングボトム。男の子でしょう」

「うっ、うぇぇぇん⋯⋯。なんで助けてくれなかったんですかぁ⋯⋯」

「男の子でしょう」

 

 その言葉で押し切れると思ってる?

 フーチはようやく動き始めると、ネビルを医務室に連れていった。いろいろツッコミ所しかない。

 教師がいなくなった途端、イキイキし始めたのはマルフォイだ。

 あいつは、ネビルが落としていった『思い出し玉』を拾うと、それを掲げてネビルを馬鹿にし始めた。

 

「見たか、あいつのマヌケ顔!」

 

 ゲラゲラと笑うスリザリン生。

 

「ご覧よ!ロングボトムの婆さんが送った玉だ!」

「待って」

 

 ハリーが一歩、前に出た。

 

「それを返してもらおうか」

「⋯⋯じゃあ、後でロングボトムが取りに戻って来れるように、これを木の上にでも──」

「ドラコ」

 

 ハリーに名前を呼ばれ、マルフォイはしばし逡巡する。

 ニヤニヤするスリザリンの同級生と、ハリーの真顔を見比べて、ため息をついた。

 

「⋯⋯分かったよ」

 

 そして、無造作にハリーに渡した。

 それを受けて、ハリーが発した言葉は。

 

「え?」

 

 まさかの疑問形であった。

 

「『え?』って何だよ!ちゃんと返したんだからいいだろ?」

「いや違うんだ、まさか本当に返してくれるとは思ってなくて⋯⋯」

 

 ハリーは首を傾げながら、「君なら、それをぽいっと投げると思ってた」という、あり得そうな話をした。いや、今までのマルフォイなら確実にそうしていた。

 決まり悪そうにゴニョゴニョするマルフォイ。

 

「僕をなんだと思ってるんだ⋯⋯。ふ、普通やめるだろ。⋯⋯友達に言われたら、さ」

「デレフォイだ⋯⋯」

「ドラコ様がデレたぞ⋯⋯」

「顔色がウィーズリーよ⋯⋯」

「お前らうるさいぞ!黙るフォイ」

 

 スリザリン生に噛み付くマルフォイ。その肩を、ハリーがぽんと叩いた。

 

「⋯⋯返してくれてありがとう」

「なんでちょっと不服そうなんだ」

 

 ハリーは残念そうな顔のまま、肩をすくめた。

 

「いや、ここでかっこいい飛行術を見せつけて、皆からきゃーきゃー言われる作戦が失敗したな、と」

「ハリー⋯⋯君いい性格してるね」

 

 思わず呟いたら、マルフォイが深く頷いた。

 

 

 

 

 

 でもその後、予期せぬことが起こった。

 フーチが戻ってきて授業再開になったんだけど、ハリーは見事に箒を乗りこなしたんだ。まさに天賦の才。

 そして、それをマクゴナガルが見てたんだ。

 先生は興奮を隠さぬままに授業に乱入し、「ポッター、クィディッチをしなさい。というか、しろ」と命令。

 かくしてハリーは、『一年生がクィディッチに参加』という実績を解除したのだった。尚、これはマグゴナガルが色々手を回したとかなんとか。

 マクゴナガルだけはまともだと思ってたけど、やっぱりホグワーツの教師は皆どこかしら狂ってるんだな⋯⋯。

 

 

 




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