様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代)   作:夜風ミシェル

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改訂前の話を投稿していたため、上げ直しです。


8.無知の幸

 僕たちは問答無用で医務室送りとなった。

 ポンフリーは怒り狂っている。

 

「全くあなたたちは! どうして教師を呼ばなかったんですか!」

「聞いてくださいマダム。ブラックは犯人じゃない! ペティグリューこそが裏切り者──うぐ」

「落ち着きなさい」

 

 口に魔法薬を突っ込まれた。体内の興奮が治まり、心地よい脱力感に襲われる。

 ぼーっとしたまま検温をされていると、ファッジとダンブルドア、スネイプが医務室に入ってきた。

 ファッジは「怪我がなくてよかった。全く! 早くブラックを捕まえねば──」と怒り立つから、僕とハーマイオニーは口々に言い募った。

 

「ペティグリューです! あいつは生きてます」

「シリウスは冤罪なんです!」

 

 スネイプが唇を歪ませる。

 

「成程⋯⋯どうやら錯乱の呪文を掛けられたようだ。可哀想に」

 

 全く感情が伴っていない。

 僕は奥の個室を指差しながら叫んだ。

 

「ルーピン先生も証言してくれます!」

「ルーピン? しかし彼は⋯⋯人狼じゃないか」

 

 ナチュラル差別発言ファッジ。人狼だから信用できないっていうのか!

 ファッジとスネイプが退出すると、ダンブルドアは囁いた。

 

「ロン、儂はお主を信じている」

「校長⋯⋯!」

「じゃが、生徒とリーマスの証言だけではどうにもならん。ピーター本人がいればまだしも、魔法省は己の非を認めん」

 

 これが大人の闇か。

 しかし、ダンブルドアの瞳には光が宿っている。

 

「じゃが、心配するでない。今はそのときではないだけじゃ」

「⋯⋯いつかブラックの冤罪は晴らせる、ということですか」

「ああ。じゃから、今は休みなさい」

 

 ダンブルドアは僕の頭を撫でて、医務室を出た。

 今はそのときではない。含みのあるその言葉が、妙に引っかかる。

 考え込んでいると、ハーマイオニーが「大丈夫?」と首を傾げた。首に掛かる鎖が、僅かに揺れて。

 

「──逆転時計」

「え?」

 

 ハリーが眉を顰めた。それに構わず、僕は言い募る。

 

「ハーマイオニー、逆転時計だ! それで、ペティグリューを捕まえればいい!」

「え? で、でもっ、過去改変は禁忌──」

「これから起こることは未確定だろ?」

 

 僕は時刻を確認した。現在21時。

 

「僕たちにとっての過去は、この瞬間まで。つまり、ペティグリューを捕まえて、その状態で21時を超えたらいい。それから報告すれば、過去改変には該当しない!」

「⋯⋯」

 

 ハーマイオニーは吟味するように黙りこくる。

 対照的に、ハリーは慌て出した。

 

「いやいや、冷静に考えて? 危険すぎる!」

「うるせぇ! 行こう!」

 

 僕はハリーとハーマイオニーの腕を掴んだ。

 ハーマイオニーも意を決して、逆転時計を取り出す。

 

「二回ひっくり返す。それで充分なはずよ」

 

 赤い砂が、落ちる──。

 

 

 

 

 

 

 僕は窓の外を見た。空の端、夕日がかろうじて姿を覗かせている。

 時が戻ったんだ。

 

「よし、早く行かなきゃ──って、ハリー!?」

 

 僕は唖然とした。

 隣にいたはずのハリーがいない。ハーマイオニーもそれに気付くと、顔が真っ青になった。

 

「ど、どうして⋯⋯」

 

 嫌な汗が流れる。僕たちは慌てて医務室を飛び出した。

 僕たちは今ハグリッドのところにいるはず。予想通り、小屋の中には僕たち三人が談話していた。ハリーはちゃんと存在している。

 ハーマイオニーは震える声を紡いだ。

 

「もしかして⋯⋯過去を変えたからハリーが消えた?」

「でも、そしたら既にハリーは消えてるだろ。多分、一度に三人が逆行することはできないんだ」

 

 僕は幾分か安心して、胸を撫で下ろした。逆転時計の機能的な問題で、ハリーだけ弾かれてしまったのだろう。

 兎に角、僕たちにできることはペティグリューを捕獲すること。僕とハーマイオニーは気配を殺して、そのときを待った。

 過去の自分たちが暴れ柳に入り、数分後。

 

「シリウスとピーターはここか⋯⋯」

 

 忍びの地図を片手に、ルーピンが登場した。地図上の名前を追ってここまで来たのだろう。

 

「この後、狼になるわけだけど」

「脱狼薬を飲み忘れたのね」

「何それ?」

 

 訊けば、狼になっても自我を保てる薬だという。すごい。

 それから更に時間が経過して、僕たちが暴れ柳から出てきた。僕は杖を握りしめて、拘束呪文を掛けられたペティグリューを見つめる。

 もうすぐだ。

 

「あ⋯⋯あ゛⋯⋯あ゛あ⋯⋯」

 

 ルーピンが唸り声を上げて、狼に変わる。そして、ペティグリューが逃げる!

 逃げた先は禁じられた森。そして僕たちは、既に退路を予測して待っていた。

 ハーマイオニーが杖を振った。

 

「アクシオ・スキャバーズ!」

 

 鼠となったペティグリューは間一髪でそれを躱す。しかし、僕が放った縛り術で動けなくなった。

 僕は鼠を掴んだ。

 

「逃げられると思ってんの?」

 

 チュウ⋯⋯と鳴くペティグリュー。おっさんのくせに、かわい子ぶってんじゃねぇよ。

 さて、これで任務は完了。あとは逃げないように見張っておけば──

 

 

 

 

「ロン!」

 

 突然ハーマイオニーが叫んで、僕を突き飛ばした。鼻の先を、紅の光線が掠る。方向的に、森の奥から放たれたようだ。

 

「誰!?」

 

 僕は闇に向かって問いかけた。返事のように、再び閃光が飛来する。

 体勢が悪くて、避けられなかった。

 魔法が直撃した瞬間、体が重くなった。

 

「あっ⋯⋯ぐぅ⋯⋯!」

 

 重い。全身に、見えない力がのしかかっている。

 感覚がおかしくなって、スキャバーズを掴んでいるはずの手も痺れてきた。ハーマイオニーも、地面に力なく伏せている。

 雑草を踏み締め、何者かが近付いてくる。そして、スキャバーズを奪っていった。

 

「待⋯⋯って⋯⋯」

 

 碌に声も出せない。僕はなんとか眼球を動かして、去りゆく後ろ姿を目に焼き付けた。

 だが、月明かりだけでは何も分からなかった。

 

 

 

 

 

「おっそーい!」

 

 21時10分。

 ようやく動けるようになって帰ってきた僕たちを待っていたのは、頬を膨らませたハリーだった。彼は「二人ともお腹を下してトイレって、ポンフリーに嘘ついておいたから」とため息をついた。

 

「てか僕だけ置いてかれたんだけど!」

「ああ⋯⋯」

「⋯⋯元気なさそうだね。何かあった?」

 

 僕とハーマイオニーは、第三者のせいでペティグリューを逃したことを話した。途端に険しい表情を見せるハリー。

 

「それは⋯⋯きっとペティグリューの仲間だ」

「じゃあ、死喰い人ってこと?」

「多分ね。⋯⋯何はともあれ、生きてて良かった!」

 

 ハリーは両手を合わせた。でも僕は、素直に喜べなかった。

 殺されずに済んだのは良かったけど、結局ペティグリューは捕まえられなかった。ブラックの冤罪は晴らせない。ハリーとブラックが一緒に住める日は来ない⋯⋯。

 黙りこくる僕を、ハリーは強引にベッドに引っ張った。

 ハリーが掛け布団を持ち上げる。

 

「疲れたでしょ。早く休みなよ」

「ハリー⋯⋯ごめん」

「いいって」

 

 ハリーが僕の頭を撫でた。

 

「おやすみ、ロン」

 

 

 

*****

 

「ルーピン先生、教師を辞めないでください」

 

 ホグワーツの門で、僕はルーピンと向かい合っていた。彼は荷物を馬車に載せながら、「さっきハリーにもそう言われたよ」と微笑んだ。それから、「そう言ってくれるのは嬉しいけどね。保護者が許さないだろう」と淡々と告げた。

 スネイプが生徒の前でルーピンが人狼だということを暴露したせいで、彼はホグワーツにいられなくなったのだ。スネイプ許すまじ。

 

「そもそも、秘密を抱えた人なんて信用できないだろう?」

「そんなことないです!」

 

 意気揚々と否定した僕だったが、ハリーのことを思い出して急速に脳が冷えた。

 

「⋯⋯先生は、学生時代、友達にも人狼のことを自ら明かさなかったんですよね」

「そうだね」

「もしかしたら、彼らなら受け入れてくれるかも。そう考えたことはなかったんですか」

 

 その問いに、ルーピンは目を丸くした。そして、「考えたことがないわけじゃない」と意味もなく指を組む。

 

「露呈したあと、皆に責められたよ。『どうしてもっと早く言わないんだ』ってね」

「そうですね。⋯⋯友達の隠し事って、悲しいですから」

 

 僕の言葉に滲む感情に気付いたのだろう、ルーピンは片眉を吊り上げた。

 

「何か悩みがあるようだね」

「⋯⋯はい」

 

 迷ったが、正直に話すことにした。ハリーが何かを隠しているということを。

 聞き終えたルーピンは、一人頷いた。

 

「少し、私の自語りに付き合ってほしい。私は、自分が人狼であることを隠していた。もし知られたら、彼らがどんな目で私を見るか⋯⋯怖かった。せっかくできた友達を、失いたくなかった」

 

 そこでルーピンは、小さく息を吐いた。

 

「まぁ、結局は気付かれてしまったけれどね。でも、ジェームズたちは『そんなの関係ない。人狼でも、僕たちの友達だ』って言ってくれて⋯⋯。動物もどきを習得してまで、私と一緒にいてくれた」

 

 薬がなければ、人狼は自我を保てず人を襲ってしまう。だから、動物になることでルーピンを一人にしないようにしたのだ。

 素敵な友人ですね、と僕は言った。ルーピンの幸せそうな表情を見れば、それが彼にとってどれほど救いになったのかは容易に想像がついた。

 不意に、「けれどね、こうも思っていたんだ」とルーピンは目を伏せた。

 

「私は彼らに⋯⋯重荷を背負わせてしまったな、と」

「重荷⋯⋯?」

「私が人狼だと知らない方が、本当は良かったのかもしれない」

 

 ルーピンは、微笑む。微かに滲む悲哀に、僕は息を呑んだ。

 

「あのときは脱狼薬なんて手に入らなかったからね、私は満月が近付くと、体と心が不安定になった。それを皆は励ましてくれた」

 

 「彼らの優しさが嬉しかった」とルーピンは続けた。表情は相変わらず暗い。

 

「でも、それって気を遣わせているんだよね」

「⋯⋯」

 

 何と返せばいいのか、暫し逡巡する。けれども言葉は出てこない。確かにその通りかもしれないと、心のどこかで思ってしまったからだ。

 ルーピンが人狼だと知らなければ、彼らは対等な友人関係を保てた。しかし、一度知ってしまえば──ルーピンの苦しみに触れてしまったら、無視できない。『友達』として、ルーピンを元気づけなくては、と思う。それはある種の義務感だ。或いは、哀れみ──。

 

「きっと、知らない方が幸せだった」

 

 儚い笑み。

 友人に気遣いを強制してしまった、とルーピンは零した。あまりにも申し訳なさそうな顔をするものだから、僕の胸も切なく痛んだ。

 

「隠し通せなかったこと、後悔してますか」

「⋯⋯どうだろうね」

 

 ルーピンの答えは曖昧だった。

 でもね、と彼は続ける。

 

「人狼だって知られたからこその楽しい記憶もあって」

 

 ルーピンは胸元に拳を押し付けた。僕はそこに、確かに宿る炎を見た。

 

「月並みな台詞だけれど、幸福だけが人生じゃないから。悲しみも悔いも、全部背負って生きていく」

 

 感嘆の息が漏れた。

 ああ、この人は。

 ちゃんと『大人』なんだなぁ、と思った。

 そうやって胸を張れるルーピンが眩しくて、美しいと思った。

 

「ハリーの隠し事は分からないけれど、きっと何か事情があるんだよ。君を思って隠しているのかもしれない。だから、ちゃんと話をしなさい。友達との時間は有限なんだから」

「⋯⋯僕は友達だと思ってますけど、向こうがどうかは分かりませんよ」

 

 投げやりに言うと、ルーピンは顎を撫でながら僕の名前を呼んだ。

 

「ロン。君はここ数年の間に、額に傷ができたことはある?」

「え?」

 

 突然の質問に面くらった。が、ルーピンは至って真面目である。戸惑いながら答える。

 

「去年、ロックハート⋯⋯じゃなくてペティグリューに襲われたときに、額縁で切りました」

「成程⋯⋯やはり君か⋯⋯」

 

 ルーピンは口元に手をやって、一人頷いた。そして、やや躊躇いがちに説明する。

 

「本当はプライバシー的に言っちゃいけないかもしれないけど⋯⋯。ハリーの怖いものが何か、教えるよ」

「え?」

「試験でまね妖怪を使っただろう? そのとき、ハリーの前に現れたのは──」

 

 ルーピンの目が、僕をしかと捉える。

 

 

「額から血を流し、瓦礫の中で気絶している君の姿だった」

 

 

 ──え?

 困惑する僕に構わず、ルーピンは続けた。

 

「一瞬しか見えなかったから確信は持てていなかったんだけど⋯⋯髪色が似ていたような気がして。額の傷のことを聞いて、やっぱりと思った」

「ちょ、ちょっと待ってください。ハリーの怖いものは、襲われた僕⋯⋯?」

 

 それは、つまり。

 

「ハリーは君のことを、心底大切に思っているってことだよ」

 

 ルーピンの瞳は、陽だまりのように温かかった。

 僕は後退る。今すぐハリーと話したくなった。

 

「あの、お話ありがとうございました! それから、授業もめっちゃ楽しかったです」

「ありがとう。ああそれと、忍びの地図はハリーに返したから。有効活用してくれ」

「はい!──またいつか」

 

 そして僕は走り出した。

 ああ、全く。僕はなんて馬鹿なんだ。

 

 

『額から血を流しているあなたを見て、ハリーは相当動揺してた』

 

『気絶しているあなたよりハリーの方がよっぽど死にそうな顔をしてたわ』

 

 

 去年、聖マンゴ魔法疾患傷害病院でハーマイオニーから聞いた話だ。

 どうして疑ってしまったのだろう。ハリーが僕を大事に思っていることは知っていたのに。そのことを、どうして忘れていたのだろう。

 息が弾む。けれども足は止まらない。

 そうして、まるで導かれるように僕はハリーを見つけた。

 

「いた⋯⋯!」

 

 ハリーは階段を登っていた。僕はその後を追って、ローブの裾を掴んだ。

 

「ハリー!」

「⋯⋯ロン、どうしたの? そんな息を切らして」

「あの黒い本って何なの! 君がベッドの下に隠してるの、知ってるんだからね!」

 

 直球でぶつけることにした。

 きっと大丈夫。

 

 

 だって、君と僕は友達だから。

 

 

「あー⋯⋯見られていたか」

 

 ハリーは気まずそうに頬を掻いた。どう説明したらいいのか、決めかねているようだった。

 

「あれは⋯⋯一昨年の夏休み、ルシウスさんから貰ったんだ。いや、強奪して⋯⋯」

 

 一昨年の夏休みというと、ハリーを車で救出し、僕の家に連れ帰ったのだっけ⋯⋯。一体いつルシウスから貰ったというのだろう。彼と会ったのはダイアゴン横丁で、渡せるような場面はなかった気がするけど⋯⋯。

 僕の疑問に答えるように、ハリーは言った。

 

「ほら、その頃マルフォイ邸って家宅捜査に入られていたでしょ? それでルシウスさんは早急に闇魔道具を手放さなくてはならなかった。──だからあの時、ジニーの持ち物にこっそり忍ばせていたんだ」

「!?」

 

 思わぬ事態に、僕は驚愕した。僕の妹に⋯⋯危険なものを押し付けていた⋯⋯?

 

「あの野郎⋯⋯」

 

 僕は拳を作った。許すまじ。

 だが、まだ話は終わっていない。僕は脳内のルシウスにナメクジを食らわせて怒りを鎮めた。

 

「取り敢えずジニーからその本を回収したはいいものの、僕も困っちゃってね。ドラコの父親だし、通報するのも気が引けて。だからってお咎めなしっていうのも、ね?」

 

 葛藤があったのだろう、ハリーは難しい顔のままだ。

 

「悩んだ結果、ルシウスさんにその本について話すことにした。『今回は見なかったことにしますけど、次はないですよ』って、ちょっと脅しつつ。証拠として僕が本を持っておくことも伝えた」

 

 腑に落ちた。

 ルシウスが挙動不審だったのは、他ならぬハリーに本のことを知られ、あまつさえ脅されていたからだったようだ。なんだよ。自業自得じゃないか。

 

「ロンに嘘をついたのは、その⋯⋯言いにくかったからで。君はマルフォイ家のことを良く思ってないし」

 

 ごめんね、とハリーは頭を下げた。僕に言えば、問答無用でルシウスを逮捕させたがると思ったのだろう。勿論、きっとそうする。

 

「でもさ、君はなんであれが危険な道具だって分かったの? 見た目はただの本じゃん」

「勘だよ。しれっと横流ししてる時点で怪しさを感じたし。で、使ってみたら魔力を吸われてる感覚があったんだよね」

「怪しいと思ってるのに使うなよ」

 

 僕の正論を、ハリーは笑って流す。いつか痛い目に遭いそうで不安だよ。

 これで大体の事情は掴めた。頑張って調査したけど、意味なかったな。最初からハリーに聞いておけば良かった。まぁ、探偵みたいでちょっと楽しかったけど。

 どうせなら、答え合わせでもするか。

 

「T・M・リドルって誰なの?」

「え?」

「本の裏表紙にあった名前なんだけど⋯⋯」

 

 よく覚えてたね、とハリーは乾いた笑いを零した。

 

「その人が喋り相手なんだよね。多分、本を作った張本人なんだろうけど。最初に自己紹介してくれて」

 

 僕はごくりと唾を飲んだ。

 

「──テリー・マイケル・リドル、と」

「え、ごめんなさい、どちら様ですか?」

 

 マジで知らない名前だった。そりゃそうか。T・M・リドルなんて、探せば沢山いるんだろう。

 とはいえちょっとショック。

 

「なんだよ⋯⋯。トム・マールヴォロ・リドルじゃないのかよ⋯⋯」

 

 項垂れると、今度はハリーが「誰それ?」と首を傾げた。

 これで、今までのマルフォイとの会話が全て無駄だったと証明されたわけだが。

 

「⋯⋯まぁいっか」

 

 自然と笑みが零れた。

 ハリーへの疑念はすっかり晴れていた。⋯⋯そもそも、このハリーに疑念を持つこと自体間違っていたのだけど。

 ナルシストで、傲慢で、勝手に僕の妹と付き合っていて、狡猾な面もあるけれど──それでも僕は、君のことが。

 その先を言葉にするのはなんだか気恥ずかしくて、僕は誤魔化すようにハリーに腕を絡めた。

 

 

 

*****

 

 主人を失った暴れ柳、その内部にて。

 ハリー・ポッターは脆い床板の上に立っていた。明後日からは夏休みだというのに、その顔に喜びの感情は映し出されていない。それは決して、叔母一家が彼を快く思っていないことに起因するものではなかった。

 ハリーの背後に、男が現れた。薄い唇を真一文字に結び、恭しく頭を下げる。

 ハリーはちら、と男の顔を見た。それはクリスマス前、ホグズミードで『野良犬』に餌をやっていた人物そのものだった。

 

「無事にペティグリューはホグワーツを出ました」

「そうですか」

「途中、ウィーズリーが捕まえたときはヒヤヒヤしましたが。少しサポートはしておきました」

「ああ⋯⋯逆転時計を使ったからね」

 

 ハリーはため息をついた。

 

「困ったな⋯⋯。まさかロンがT・M・リドルを探っていたなんて。あんなに頭の回る人じゃなかったと思うんだけど」

「勉強ができなくても賢い人間は多々います。逆も然り」

 

 勉学はできたが愚者だった男は、ロンに感心しているようだった。それに対し、ハリーは咎めるような目を向けた。

 

「それは僕の望むものじゃない。ロンには無知で単純な人間でいてもらわなきゃ。察しの良さなんて邪魔なんですよ」

「友人に対する物言いじゃないと思うのですが」

 

 男の言葉に、ハリーは鼻を鳴らした。どうでもいいと言わんばかりに。

 

「知らない方が幸せなのに」

 

 呟いて、徐にハリーは男の顔を下から覗き込んだ。男はたじろぎ、半歩下がる。身長的には男が勝っているが、威圧感はハリーの方に軍杯が上がる。ルシウスをねじ伏せたのも、ハリーの内側から迸る激情からだった。

 

「そう思いますよね?────クィレルせんせ?」

 

 

 

 




アズカバンの囚人編終わり。ロンの活躍が書けたかなと思います。
以下、キャラ紹介。

ハリー⋯嘘つき。
ロン⋯ブチギレ案件。
ハーマイオニー⋯鼠をペットにしている友達の前で、猫の放し飼いは駄目では?
ドラコ⋯家族のためなら、ウィーズリーにも頭を下げるフォイ。
シリウス⋯アズカバン抱かれたい男No.1だったらしい。
リーマス⋯服が弾け飛んだ()
ピーター⋯フレジョが忍びの地図を持っていた時、常に弟の側にいるこの名前に疑問を持たなかったのだろうか?
クルックシャンクス⋯安いもんだ ローブの一枚くらい。

感想、評価、誤差報告等ありがとうございます。次章は七月頃に開始予定です。そろそろ伏線回収パートに入らねば。
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