様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代)   作:夜風ミシェル

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今更ながら、あらすじに加筆しました。
タイトルとあらすじとコメディタグで、初見勢を全力で騙していきたい。


4.清き道は歩めない

 

 選手控え室から出てきたハリーを捕まえた僕は、彼の両腕をぶんぶん振った。

 

「凄かったよハリー!」

「へへへ」

「君は神だ!」

「うむ、苦しゅうないぞ」

 

 ハリーは御満悦である。「脳が糖分を欲している」と言うので、僕はいそいそとチョコレートを差し出した。先週、ホグズミードで購入したものだ。

 

「いやあ、立候補したわけでもないのに高得点を叩き出すとは! もう優勝は決まったな」

「ふ、この僕が優勝しないなんてありえないだろう?」

 

 ハリーは自信満々である。

 

「⋯⋯実は少し心配してたんだよね」

 

 僕は声量を落として言った。

 

「去年、ペティグリューを逃した人がいたでしょ? そいつがまたホグワーツに侵入して、君の命を狙うんじゃないかって。ほら、試合の途中で死んでも不自然じゃないから」

「えぇ? 飛躍しすぎじゃない?」

「いやいや! だってペティグリューを助けるってことはその⋯⋯『例のあの人』の部下ってことだろ?」

 

 僕は自分の肩を抱いた。

 禁じられた森で相対した敵は、無言呪文を使いこなしていた。かなりの格上だ。当然、闇の魔術だって使える。

 

「ワールドカップでも闇の印が打ち上げられたし、なーんか嫌な予感がするんだよね。ひょっとして、君の名前をゴブレットに入れたのも⋯⋯」

「ロン⋯⋯」

 

 ハリーはくすくすと笑った。そして、僕の顎をくいっと持ち上げた。

 

「怖いのかい? 安心しなよロンロン」

「きっしょ」

「僕があらゆるものからプロテゴし、敵をハゲダセアブラするよ」

「それはどういう状態にさせられるんだ」

「つまり、敵をど突き回し奉るということです」

「何言ってんだ?」

 

 こいつ⋯⋯人が真面目な話をしているときに⋯⋯。絶対に葬式とかで笑い出すタイプだろ。

 ハリーをど突きながら寮に戻ると、そこでは既にお祭り騒ぎが始まっていた。

 

「おお素晴らしき我が英雄」

「いけすかないハンサムボーイに勝利しなすった」

 

 恐らくセドリックのことを指しているのだろう。彼は最近、レイブンクローのチョウ・チャンとの関係を囁かれていて、数多の男子生徒を敵に回したのである。

 僕はうんうん頷いた。

 

「セドリックに勝った、その事実が素晴らしいよね」

「お、ロンも同意か」

 

 ディーンが僕の頬をつついた。

 

「去年グリフィンドールを負かしたことはよく覚えてるしね。⋯⋯ま、セドリックがいなくたって、君たちがチョウと付き合えるわけはないんだけど」

「突然刺すじゃん」

 

 ディーンは顔を顰めた。「事実陳列罪で訴えます」と有らぬ罪状を読み上げられてつい笑ってしまった。

 

「いいですよハリー! とってもかっこいい!」

 

 コリンがカメラを構えて写真を撮りまくる。ハリーは「写りのいいやつだけ残してよ?」と言いながらポージングしていた。楽しそうで何より。

 コリンはふと首を傾げた。

 

「そういえば、その卵どうするんですか?」

 

 ハリーの腕には金の卵が抱えられたままだ。

 ハリーは意味深に微笑むと、「これが次の課題のヒントなんだって」と言って卵をぱかっと開けた。

 瞬間、耳を劈く悲鳴のような声が談話室を満たした。

 

「鼓膜が破れあぶ※huまにたtさた」

「ネビルが倒れたぁぁぁぁ!」

「コリンも気絶したぁぁぁ!!」

「あだだだだだだだ」

「うるさい⋯⋯うるさいよぉ⋯⋯」

 

 大量虐殺だった。

 ようやくハリーが卵を閉じる頃には、殆どが瀕死の状態で蹲っていた。斯くいう僕も、まだ音が耳の奥に残っていて気持ち悪い。

 そんな中、アンジェリーナだけは平気そうな顔で佇んでいた。

 

「ね、ねぇ⋯⋯皆には何が聞こえたの?」

 

 聞こえていなかったらしい。そんなことある???

 すると、フレッドが指を鳴らす仕草をした。音が鳴っていたかはちょっと分からない。

 

「あれだ、若者にしか聞こえない音だったんだ。つまりアンジェリーナはババa──」

「殺すぞ」

「HAHAHA冗談ですだから拳を下ろして?」

「分かった、じゃあ顔じゃなくててめぇのタマにしてあげる」

「やめてぇぇぇぇぇ!!!」

 

 フレッドは二回死んだ。

 

 

 

*****

 

「で? 結局卵のヒントは何か分かった?」

 

 魔法史の授業中、こそこそとハリーに声を掛けると彼は当然の顔をして言った。

 

「ああ、うん。だからセドリックとお風呂に入ることにしたよ」

「は?」

 

 意味が分からなかった。接続詞が意味を成していない。

 

「あの卵の謎を解くには、セドリックと一緒に湯船に浸かる必要があるんだ」

「お前⋯⋯そういう気があったんだな⋯⋯」

 

 うちの妹に手を出しておきながらけしからん。

 僕の非難めいた視線に気付いて、ハリーは両手を振った。

 

「冗談ですやん! 真面目に言うと、あの声は特定の状況下でしか聞き取れないんじゃないかと考えてね。だからまずは風呂場で聞いてみる」

「へぇ⋯⋯。じゃ、セドリック必要なくね?」

「ついでに裸で語り合えたらなと。彼がチョウの恋人に相応しいかどうかジャッジしなきゃ」

「君はチョウの何なんだよ」

 

 こんなのに絡まれて大変だな⋯⋯と僕はセドリックにちょっとだけ同情した。

 が、その甲斐あってか二人は無事に卵の謎を解くことができたという。

 髪を湿らせた状態で自室に戻ってきたハリーは、ざっくりと内容を教えてくれた。

 

「一時間以内に自分の大切なものを取り返せ、だってさ。水中人の歌だから、次の会場は湖なんだろうね」

「へぇー⋯⋯大変そう」

 

 ていうか、冬に水に潜らせるって⋯⋯運営はデスゲームでも始めようとしてるのかな?

 ハリーは髪をかきあげる。

 

「水も滴るいい男⋯⋯なーんちゃって」

「あはは」

「乾いた笑いやめてね」

 

 

 

 

 

 第二の課題の前には、ダンスパーティーが開催される。時期はクリスマス。成程ね、聖夜の舞踏会ってところか。

 そして各々パートナーを見つけなければならなかった。

 ハリーはジニーを誘うんだと息巻いている。伝統に従い、代表選手とそのパートナーが、ダンスパーティーで最初に踊るらしい。二人は注目の的になるだろう。

 僕はどうしようかな⋯⋯。

 

「ハーマイオニーだ」

「え?」

「君はハーマイオニーを誘いなさい」

 

 最早命令だった。

 

「なんで勝手にパートナーを決められなきゃならないんだよ」

「え、君には彼女以外の選択肢はないのに?」

「失礼すぎるだろ! 僕だって候補はいるわ!」

「えぇー、誰なの? ぼくわかんなーい」

 

 まるで幼子のように首を傾げるハリー。ぐっ⋯⋯腹立つ。

 具体的な名前を挙げられない僕の肩に、ハリーの手が優しく置かれる。

 

「ね? 早くハーマイオニーを誘いなよ。一生後悔するよ?」

「うぐぐぐぐ」

 

 僕はハリーを睨み付けた。こいつの言う通りにするのはなんだか癪だ。それじゃあまるで、僕にはハーマイオニー以外に誘える人がいないってことを認めるようなものじゃないか!

 僕はぷいっと顔を背けた。

 

 

 

 

 

「ロン、早くハーマイオニーに声を掛けな」

「またその話?」

「早くしないと取られるよ!」

 

 う、うるせぇ⋯⋯。

 こんな感じのやりとりが数日続いていて、僕はうんざりしていた。

 

「取られるって言っても、そもハーマイオニーに誘いなんて来ないだろ」

 

 そう吐き捨てたら、ゴミを見るかのような目を向けられた。

 

「全国のハーマイオニーに謝れ!」

「分裂してんの?」

「うるさい!」

 

 ツッコんだらキレられた。ハリーがイライラしている。珍しい。

 

「ああもう!」

 

 ハリーは面倒くさそうに頭を掻いた。癖毛の黒髪がまとまりを失ったが、ハリーはそれに構わず僕の眉間に杖を突きつけた。

 

「ペトリフィカス・トタルス!」

 

 僕の体は、直立不動の状態で固まる。ハリーは僕に透明マントを被せると、懐から小瓶を取り出した。

 

「ふふふ⋯⋯。こんなこともあろうかとポリジュース薬を用意しておいて良かった」

 

 小瓶の中身は、僕の赤毛と同じ色をしている。物凄く、嫌な予感がした。

 ハリーは手を叩いた。瞬間、見知らぬ屋敷しもべ妖精が隣に現れる。

 

「ああ、ハリー・ポッターがドビーをお呼びになった。ドビーはなんでもするのです」

 

 なんか知らないが、ハリーの信者の方のようだった。⋯⋯今すぐ改宗した方がいいと思う。

 ハリーはにっこり笑った。

 

「ドビー、今から僕はロンに成り代わってパートナーの申し込みをする。その間、ロンを動かしてくれる?」

 

 え、は、待って?

 だが、僕の口から声は出ない。そもそも体が動かせない。

 ハリーは僕の頭を撫でた。

 

「下らない意地を張る君を、助けてあげよう」

 

 やめて。

 くそ、こんなことになるなら『S・P・E・W』の活動にもっと尽力しておけば良かった。そうしたら今頃このドビーとかいうハウスエルフはいなくなっていたのに!

 ハリーは忍びの地図でハーマイオニーの居場所を確認すると、腕を突き上げた。

 

「さあ行こう!」

 

 ああああぁぁぁ⋯⋯。

 

 

 

 

 

 僕そっくりの姿に変身したハリーは、意気揚々と女子トイレに進入した。⋯⋯ちょっと待てぃ、僕の姿でそこに入ってんじゃねぇーよ!!

 透明マントを羽織らされた僕は、同じく姿を消しているドビーによってここまで連れてこられた。なので、歯痒い思いをしながら僕の姿をしたハリーの行動を見つめるしかない。

 

「手を洗っているところ失礼、ハーマイオニー」

「!? ってロン⋯⋯。何よ、ここ女子トイレよ?」

「いや、急ぐ必要があったからさ」

 

 ロン(in ハリー)はカッコつけてウィンクをした。

 ハーマイオニーが一歩、後退る。その間を埋めるようにハリーが一歩進む。

 そして、ハーマイオニーの後頭部に手をやって引き寄せた。

 

「え⋯⋯あの、ロン⋯⋯?」

 

 ハリーの胸板にぶつかり、ハーマイオニーは顔を赤らめた。おずおずと視線を上げるのに合わせて、ハリーはさらに顔を近付ける。やめてください。せめて『ロナルド・ウィーズリー』らしく振る舞ってください。こいつ自我出しすぎだろ!

 

「ハーマイオニー、君の知的な瞳に映るのは僕だけでいい。そうだろ?」

「な、な、何⋯⋯? 心にハリーが宿ってない?」

「君の腕も、足も、全て僕に預けて」

「あなた、ポリジュース薬を飲んだハリー?」

 

 賢いハーマイオニー、正解を引き当ててて草。だが、ハリーはゴリ押しすることに決めたようだ。

 

「クリスマス、一緒に踊ってくれない?」

「え?」

「返事は『YES』だけだよ」

「い⋯⋯いえす⋯⋯」

「ありがとう。最高の夜にすることを誓うよ、姫」

 

 ハリーは微笑んだ。そして、ハーマイオニーの頬に唇を寄せる──。

 瞬間、ドビーがぱちん、と指を鳴らした。

 

 え?

 

 目の前には、ハーマイオニーの顔。僕とハリーの立ち位置が入れ替わったのだ。気付いた瞬間、僕は素早く身を引いた。

 

「あ、あ違うんですこれは⋯⋯」

 

 ワタワタしていると、顔を朱色に染めたハーマイオニーが小さく口を動かした。

 

「違うって⋯⋯何が? 私、あなたのパートナーになったんでしょう」

 

 恥じらいの混じる声色に、僕は唾を飲み込んだ。

 

「誘ってくれたの、嬉しかったのよ?」

「⋯⋯」

 

 僕は声が出せなかった。あれ、ハーマイオニーってこんなにも『女の子』だったっけ⋯⋯。

 その時、廊下に足音が響いた。

 

「ムーディの授業、面白いけどやばくない?」

「それな。私、服従の呪文のせいでブレイクダンスさせられたんだけど」

「キレキレだったよね。めっちゃ笑った。⋯⋯あ、私ちょっとお手洗いに行ってくる」

 

 声の主は、女子トイレに入ってきた。

 目と目が合う。

 

「え」

 

 女子生徒の口が、悲鳴を上げるために大きく開いた。

 

「きゃああああぁぁぁぁぁ!?」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 かくして僕が得たものは。

 

 ダンスパーティーの相手と。

 

 女子トイレに侵入した変態という称号だった。

 

 

 

*****

 

「あの野郎、絶対に許さん」

 

 僕は怒りに震えながらふくろう小屋に向かった。家族に手紙を出すためだ。勿論手紙には、僕が女子トイレに入ったことは書いていない。

 あのあと、ハリーが口止め(「僕に免じて許してほしいな。あ、僕のサインいる?」「ほしいです!」)してくれたお陰で、僕の犯罪行為は無かったものになった。だが、あの女子生徒とその友人からは凄まじい顔で睨まれることになったが。

 手紙を括り付け、小屋を出たところでばったりマルフォイに出くわした。

 

「おやまぁ、裏切り者じゃあないか。流石、血を裏切る者なだけある」

「黙れよマルフォイ」

 

 僕はマルフォイを睨んだ。こいつは、僕が調査を手伝わなくなったことを根に持っているのだった。

 

「それでどうなんだ? 調査は進んだ?」

「教えるわけがないだろう」

 

 マルフォイは顔を背けた。何かを知っているけど僕には秘密にしたいのか。それとも、そもそも教えることがないのか。残念なことに開心術を使えないので、僕にはマルフォイの本意が分からなかった。

 

「おいおい、そっぽ向くなよマルフォイ〜」

「ええい、馴れ馴れしいぞ!」

 

 その時、「貴様ら、そこで何をしている」と野太い声が聞こえた。

 ムーディである。

 ぬらぬらと光沢感を放つ義眼に射抜かれ、マルフォイはじりじりと後ずさった。

 

「あのおいぼれ、やたら僕に絡んでくるんだ。⋯⋯お前、あいつをなんとかしろ」

「え」

「僕は手紙を出してくる!」

 

 言うや否や、マルフォイはふくろう小屋に駆け込んだ。勢いよく閉まる扉。

 ムーディは鼻を鳴らした。

 

「ふん、マルフォイの小僧が。⋯⋯お前はウィーズリーの子だな、えぇ?」

「あ、はい」

 

 僕は背筋を伸ばした。

 

「何故マルフォイと共にいた? あやつの父親は死喰い人だぞ。ルシウスめ、卑しくも言い逃れおって!」

 

 ムーディは歩行補助杖で地面を強く突いた。怖いよ。僕はしどろもどろになりながら、「た、偶々です⋯⋯。ちょっと揶揄ってやろうと思っただけで⋯⋯仲良くはないです」と答えた。

 

「まぁそうか。マルフォイとウィーズリーの軋轢は、今に始まったことではない」

 

 ムーディは幾分か冷静さを取り戻してくれた。

 僕がさりげなく城に戻ろうとすると、ムーディも何故か付いてくる。気まずいよぉ⋯⋯。

 

「お前はポッターと仲がいいんだろう、えぇ?」

「はい」

「どうだ、ポッターの様子は。課題のことで何か悩んでいることはないか」

 

 僕は立ち止まった。まさかムーディの口から、生徒を思いやるような台詞が出るとは思わなかったからだ。そっか、ちゃんと『先生』ではあるんだな⋯⋯。

 ムーディが怪訝そうに僕を睨むので、慌てて口を開いた。

 

「えっと、大丈夫そうですよ。第二の課題が何かも分かってますし。それに、第一の課題では高得点だったじゃないですか」

「そうだな、儂も見たぞ。盾の呪文をいとも容易く使っていた」

 

 ムーディは、「今すぐ闇祓いにスカウトしてもいい」だなんて呟く。ムーディほどの人にそんなことを言われるなんて、やっぱりハリーは凄い。

 

「ポッターの学業成績も見させてもらった。一年時から優秀だったようだな。素行の方も悪くない。グリフィンドール生でありながら、スリザリン生とも親しくしているのだろう?」

「そうですね」

 

 マルフォイを筆頭に、ハリーの交友関係は広い。寮の垣根を越えられるのは、多分ハリーが優秀で、それでいてとんでもない性格だからだと思う。

 

「ポッターは大人だな」

 

 ムーディは遠い目をした。

 

「スリザリンは親や親族が死喰い人だった生徒が少なくない。両親を殺されたポッターからしてみれば、敵にあたる」

「それ、は⋯⋯」

 

 言葉が出てこなかった。

 言われてみれば、そうだ。本来ならハリーは、スリザリンと相容れない存在である。⋯⋯いや、果たしてそうか?

 

 組分けの儀式の際、あの帽子がハリーに提示した寮はスリザリンだ。

 

「ポッターの本音は、どこにあるのだろうな?」

 

 ムーディは何かを考えながら杖を突く。石畳が杖を押し返し、コツコツと軽い音が鳴った。

 

 




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