様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代)   作:夜風ミシェル

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6.誰が為に世界は回る

 

 クリスマス休暇が終わる頃、『日刊予言者新聞』ではダンスパーティーの出来事が取り上げられた。

 

「あ、僕とハリーが写り込んでる」

 

 僕は、写真の隅を指差した。踊っているため、見えては隠れを繰り返している。

 

「『生徒たちは学校の垣根を超えて文化的な交流に勤しんだ』⋯⋯って、これ書いたのもリータ・スキーターなの? なんかめっちゃ普通の記事なのに。おっどろきー」

 

 今までのあいつは、いかにもなゴシップ系ジャーナリストだった。それなのに、ここに来てやけに真っ当な記事ばかり書くようになったのだ。まさか善の心に目覚めたわけでもあるまい。

 

「それは僕のお陰だよ」

「あ、そうなんだ⋯⋯⋯⋯ん?」

 

 僕は新聞から顔を上げ、ハリーを二度見した。あまりにも当然のように言うから、一瞬流してしまったが。

 ハリーは事もなげに言う。

 

「ルシウスさんのコネで、リータ・スキーターを脅迫したんだ。学校関係の記事で、変なことを書かないように。実は、リータの秘密を握ってるんだよねぇ」

「へぇ⋯⋯ルシウス、ね⋯⋯」

 

 それはひょっとして、ルシウスも脅して巻き込んだんじゃなかろうか。魔道具の所持は、一生強請れるネタだし。

 ハリーははっきりと明言はしなかったが、いつもより笑みが深い。ので、色々察した。

 ⋯⋯ルシウス、か。

 まさかハリーの方から例の件について触れるとは思わなかったので、内心驚いている。でも、ルシウスの名前を平然と出したってことは、やましいことはないってことなんじゃないかな⋯⋯。

 確かにハリーは何かを隠してる。でも、だからって悪いことを企むような奴だとは思えないんだ。⋯⋯マルフォイに言ったら、「でも証拠はないんだろ?」と返されるんだろうけど。

 ダンスの時、ハリーに握られた手を意味もなく開いては閉じる。そこにまだ、ハリーの感情の残滓があるような気がして。

 

 

 

 

 

 第二の課題は二月二十四日──残り二週間というところにまで迫っていた。

 舞台が水中なので、ハリーは鰓昆布という魔法植物を使うことにしたらしい。

 大広間で夕食を食べながら、ハリーは包装紙に包んだそれをテーブルに載せた。

 

「これを食べると水中呼吸ができて、泳ぎも速くなるんだとか」

「へぇ⋯⋯そんなものどこで手に入れたのさ」

「スネイプ先生にお願いしたよ。『分けてください』って」

 

 マジか。スネイプもよく渡してくれたもんだ。

 

「てか、それ美味しいの?」

「少し齧ってみたら?」

「⋯⋯遠慮させていただく」

 

 流石に昆布そのままを齧るのはちょっと⋯⋯。そう付け加えたら、「じゃ、塩昆布にするか⋯⋯。ついでにタンパク質も欲しいから、肉と炒めて⋯⋯」などと思案するハリー。美味しく調理して食べようとしてる。海藻なんて日常的な食べ物じゃないのに。

 とはいえ、課題クリアの手段が既にあるというのは朗報だ。僕は口元を拭って一息ついた。

 逃亡中のシリウスからも、応援の言葉が届いた。見慣れないモリフクロウが手紙を運んできたのだ。

 

「『P.S. 次のホグズミード行きはいつか教えてくれ』⋯⋯? どうしてそんなこと聞きたいんだ?」

「きっと会いに来てくれるんだよ」

「えぇっ!?」

 

 思わず声が出た。仮にも犯罪者なのに、大丈夫なんだろうか。

 とはいえ、久しぶりに会えるのは嬉しい。贈り物のお礼も直接伝えたいしね。

 そんな感じで気楽に構えていたら、あっという間に課題前日となった。

 今は部屋で駄弁っている。

 

「ついに明日か。⋯⋯大丈夫?」

「問題ないよ」

 

 言いながら、ハリーは最終確認と称して水着の確認をしていた。短パン一丁ではない。ラッシュガードも用意してあった。

 僕はそれを拾い上げた。

 

「意外だな。君のことだから、『この僕の素晴らしい腹筋を見なよ⋯⋯!』とか言って半裸で泳ぐのかと思ってた」

 

 ハリーは口で「チッチッチ」と言いながら人差し指を振る。

 

「このご時世、男の裸でセクハラ云々訴えられる可能性があるからね」

「君はどのご時世を生きてんのさ」

 

 ハリーの言うことは、よく分からなかった。

 

「見なさい! 僕のツルツルな足を!」

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

 突如としてハリーはズボンを下ろした。へ、変態だ!

 しかも足の毛が一本も生えてない。ご丁寧に剃ったらしかった。

 

「触る? 触りたい? 触りたいよね?」

「三段活用やめろ、そして近付くな!」

 

 全力で拒否しているのに、ハリーは執拗に迫ってくる。

 

「おーい、ロン? マクゴナガルが呼んでる⋯⋯ぞ⋯⋯」

 

 そしてタイミング悪くやって来たフレッド。

 下半身露出ハリーと、顔を真っ赤にした僕を見て、何を思ったのか真顔になった。

 

「⋯⋯ごめん」

 

 ガチの謝罪だった。何か、あらぬ誤解をされているような気がする。

 僕は杖を振ってハリーに毛布を巻き付けると、兄に近寄った。

 

「違うから、やましいことは何もないから!⋯⋯それで、マクゴナガルがなんだって?」

「お前をお呼びだ。何をしたのかな、我が弟よ」

 

 何もしていない。むしろ、今はされた側だった。

 

「よし、行ってきます!」

 

 僕はこれ幸いとばかりにハリーから逃げた。マクゴナガルよ、グッドタイミングであらせられました。

 

 

 

*****

 

 水が跳ねる音で、意識が覚醒した。

 

「あ、あれぇ⋯⋯?」

 

 首から下が水に浸かっている状態だ。陸地の方では、生徒が大声で何やら叫んでいる。何これ、どういう状況?

 

「これが第二の課題だったんだよ」

「あハリー」

 

 真横にハリーがいた。彼も髪の毛先までびしょびしょに濡れている。

 ハリーに手を引かれ陸地まで泳ぎながら、僕は思い出す。そうだ、昨日の夜、何故かマクゴナガルに呼び出されて⋯⋯。着いて行ったらダンブルドアやバグマンがいて、『湖で眠ってもらうよ』的なことを言われて⋯⋯。

 そして僕は、ハリーの『大切なもの』に選ばれ、人質になったわけか。

 温かいタオルにくるまると、背後からものすごい勢いで抱きつかれた。

 

「ごふっ!」

「ああロン⋯⋯! 良かった⋯⋯」

 

 ハーマイオニーである。タオル越しでも分かる体の柔らかさとか、泣いているような声で、寒気なんてすっかり飛んでいった。あとすいません⋯⋯こ、呼吸が、で、できないや⋯⋯。

 

「ぐえー⋯⋯」

「きゃあぁぁぁぁ、ローン!」

 

 互いに落ち着いてから、僕は辺りを見回した。

 

「ほかの選手は?」

「僕が一番だったからね。ああでも、水底で全員合流したから、そろそろ上がってくるんじゃない?」

 

 ハリーの言葉通り、選手と人質が続々と上がってきた。クラムとセドリックはパーティーで踊っていたパートナーが人質になっていた。フラーは妹だ。

 

「さきほどーは、あーりがとうございまーした」

「いえいえ」

 

 ハリーはひらひらと手を振る。グリンデローに襲われていたフラーを助けてあげたらしい。

 フラーからの熱いキスを持ち前の運動神経で躱し続けているハリーを観察していたら、くしゃみが出た。ハリーははっとして僕を見る。

 

「寒いよね。早く中に入ろう」

 

 ハリーが急かして僕に右手を差し出す。

 その手を掴んだ瞬間、一気に引っ張り上げられて脳が激しく揺れた。

 視界に映る世界が回る。

 体が思考についていかず、思わず倒れそうになった瞬間、ハリーの左手が僕の腰を支えてくれた。

 顔がぐっと近付いて、そして離れる。

 

「⋯⋯っとと、ごめん! まだ体が怠いか」

「ああ、大丈夫⋯⋯」

 

 ハリーが杖を振って、肩に掛けたタオルを温め直す。僕は「ありがとう」と呟いて、その温もりに頬を近付けた。

 ハリーは何かに気付いたような顔で止まった。

 

「⋯⋯待って、今のムーブすごくイケメンじゃなかった!?」

「その台詞で色々台無しだよ」

 

 

 

 

 

 それぞれの得点は以下の通り。

 ハリーは、人質救出の速さとライバルを助けた道徳的精神から四十七点。

 セドリックは泡頭呪文を使いこなし、二番目に課題クリアということで四十六点。

 クラムは制限時間オーバー、中途半端な変身術だったが人質救出には効果的だったため四十点。

 フラーも制限時間オーバー、途中でグリンデローに襲われ一人では対処できていなかったため三十点。

 結果として、ハリーは未だ一位の座にいるわけだ。カルカロフが真っ当な審査員だったら、ハリーは五十点満点だったに違いない。

 「第三の課題は、六月二十四日の夕暮れ時に行われます」とバグマンの声がした。課題内容は一ヶ月前に知らされるという。

 

「次が最後の試練かぁ⋯⋯」

 

 まだまだお祭り騒ぎは続きそうだった。

 

 

 

*****

 

 シリウスとの再会は、案外早かった。彼は手紙で場所の指定を伝え、ついでに『甘いもの沢山くれ』という情けない要求をかましてきた。

 食料を籠に入れ、僕たち三人は指定された地点に向かう。

 ホグズミードから離れたところで黒い犬は大人しく待っていた。

 

「久しぶり、シリウス」

 

 ハリーが頭を撫でると、犬は一際大きな声で吠えた。そして、「ついて来い」とでも言うように先陣を切って歩き出す。

 かれこれ三十分は歩いただろうか。険しい山道にひぃひぃ泣いて到着したのは洞窟だった。狭い岩の裂け目に体を捩じ込むようにして入ると、涼しい空気を肌に感じた。

 シリウスは人型に戻ると、「スイーツ!」と叫んだ。ハリーが籠からスコーンやフルーツタルトを差し出すと、シリウスは貪るように食べ始めた。

 

「犬の姿だと肉をくれる奴はいるが、甘いものは食べられないからな。久しぶりの甘味に感動する」

 

 シリウスは唇についたクリームを舌で舐めとった。ハーマイオニーが手巾を渡しながら笑う。

 

「でもお肉は食べられてるみたいで安心だわ。野良犬に優しい人がいて良かった」

「ああ、バーテミウス・クラウチ・シニアだ。君たちも知っているだろう?」

「え、クラウチさん?」

 

 意外な名前に驚いた。クラウチは三大魔法学校対抗試合の運営に携わる魔法使いだ。とても忙しいだろうに、犬に餌をやる余裕があるのか?

 ハーマイオニーもまた不思議そうだった。

 

「あの人は、屋敷しもべ妖精を躊躇なくクビにするような人間よ。それなのに、野良犬には優しくする⋯⋯? まるで別人じゃない」

 

 そして思い出したかのように、「屋敷しもべ妖精に給料を! 彼らを解放しろ!」と腕を突き上げた。

 シリウスはドン引きしてた。「ハーマイオニーは一体どうしたんだ。気でも狂ったのか?」とこそこそ尋ねられ、僕は苦笑いするしかなかった。

 

「さぁシリウスも! 今こそ屋敷しもべ妖精の地位向上のため立ち上がるべきよ!」

「え、あー⋯⋯そうだな、うん。私の冤罪が晴れた暁には協力しよう」

 

 面倒くさそうなにおいを感じ取ったのだろう、シリウスは問題を先送りにして逃げた。これは草。

 そして話を変えるシリウス。

 

「クラウチはな⋯⋯。死喰い人の活動が活発だった頃、奴らに対して強硬な態度を取っていた。『疑わしきは罰せよ』がモットーの男で、私がアズカバン送りになったのも彼の力が大きいんだ」

「うわ⋯⋯。あの人が冤罪の原因なのかよ」

 

 それからシリウスは、クラウチについてやたら詳しく語り始めた。息子が死喰い人だったとか、そのせいで魔法大臣になれなかったとか。ハーマイオニーは屋敷しもべ妖精のことを忘れて話に聞き入っていた。

 

「⋯⋯とまぁ、クラウチについて熱く語りすぎたか。いかんせんあいつとは並々ならぬ縁があるからな」

 

 シリウスは咳払いをしてハリーに向き直った。

 

「新聞で読んだ。第一、第二の課題共に高得点だったみたいだな。凄いぞハリー!」

 

 髪をくしゃくしゃとかき混ぜるように撫でられ、ハリーは目を細めながら「ありがとう」と微笑む。

 

「その場で君の優勝を見届けられないのが残念だ。⋯⋯ピーターめ、次会ったときには覚えてろよ」

「激しく同意」

 

 僕とシリウスは熱く握手を交わした。⋯⋯あ待って、なんか臭いかも。

 僕は手を繋いだことを後悔し始めた。だが、シリウスは力強く握り返してくる。あまりにも強すぎて段々手が湿ってきた。これはまずいです。ネチャネチャしてる。

 

「シリウス? あの、手を放して?」

「ん? ああすまない。同志と再会できてつい」

 

 シリウスはぱっと離れた。ハリーが声を出さないように喉の奥でククッと笑っている。

 そうだ、忘れないうちに伝えておこう。

 

「梟ありがとう。ピッグって名付けたんだ」

「そうか。可愛がってくれると嬉しい」

「当たり前じゃん! ⋯⋯ところで、梟を買ったお金ってどこから⋯⋯」

「今日は天気がいいなー。春の訪れを感じるー」

 

 空なんか見えやしないのに、シリウスは天井を見上げる。こいつ⋯⋯ガチの犯罪者になってて笑えない。

 

「銀行で泥棒したんだろ? 白状しな!」

「泥棒とは失礼だな。ちゃんと口座から下ろして買ったわ! クルックシャンクスに協力してもらったんだよ」

「え⋯⋯?」

「やましいことがあるとすれば、縁を切った実家の金を使ったことくらいだ。あ、言い忘れていたがファイアボルトの贈り主は私だ」

「あ、うん知ってるよシリウス。ありがとう」

「ハリーっ! 分かっていたのか⋯⋯!」

 

 感極まって涙を流すシリウス。諸々の購入費用は自分の金じゃなかったのか。⋯⋯ってそんなことより!

 

「シリウスの脱獄と同時期に、グリンゴッツにも泥棒が入ってたって、新聞で読んだんだけど⋯⋯。あれ、シリウスじゃなかったんだ!?」

「そんなわけないだろう。杖もないのに、どうやって侵入するんだ」

 

 それはそうだ。え、てことは偶々別の人が泥棒に入ってたってこと?

 世間は多分、銀行泥棒もシリウスだって思ってる。なんというか、色々と冤罪が重なっていて可哀想だな。

 

「グリンゴッツもガバガバだね」

 

 アズカバンから脱獄した犬を見つめながら、ハリーはのほほんと宣った。

 

 




次回投稿は8/27を予定しています。9/1から新章を開始したいため、投稿ペースが若干上がります。
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